第一編 四章の1  兆候

作者:緋月 薙

四章の1  兆候
(※今回は『幕間の2 シノブモノ』と合わせて2話分の更新になります)



 (SIDE カリアス)


 アリアちゃんを発見した翌日。
朝食後に時間を見計らい、僕たちは執務室に集まった。メンバーは昨日の関係者である、僕とフィアナ、イリスとアリアちゃん。

「――さて。じゃあそろそろ『映光(えいこう)(ぎょく)』を使うよ?」
「……そうね。何言われるか分からないから、正直気が重いけど。報告と――『ソレ』の事もあるし、ね?」

 言葉通り、やや憂鬱そうな口調と表情で言うフィアナ。……気が重い理由は――

「……おかあさん、どうしたの……?」

 フィアナに掴まり、眠そうな瞳で首を傾げるアリアちゃん。完全に(なつ)いているというか……傍から見ても『安心して甘えられる存在を喜んでいる』、そんな様子がわかる。
つまり、下手な血縁者よりも親子らしく見え……それを、これから連絡をとる人物が見逃すはずが無い。
――まぁ、気が重くなるのも無理はない。

 とはいえ。流石に、昨日の報告をしないわけにはいかない。
教皇の『神託』により予言された、このイグニーズの街に襲い掛かるであろう厄災。
それを防ぐ鍵であると言われるイリスが、『精霊の愛娘』という希少能力を持っていた事。
そして、その能力の覚醒により発見、救助された――遺跡に封印されていた人造生命体(ホムンクルス)である、アリアちゃんの存在。
 それとオマケに――今は机の上に置いてある、聖殿から送られてきた物についても訊く必要があった。

 昨日。アリアちゃんを連れて教会に戻ると、入口で出迎えてくれたフォルカスさん。
やはりアリアちゃんの存在に驚くフォルカスさんに事情を説明すると、教会で――とりあえず『僕たち』が保護者として預かる事を、無事に理解してもらえた。
 その後で『留守中に届いた』と渡されたのが、小さな箱と――その中に入っていた、小さな透き通る水色の球体が二つ。
聖術の使用を補助する『光石』に似ているけれど……強い聖術の力を感じるため、なんらかの特殊な術を宿した道具なのだろう。
説明書などが付属していなかった事から、遠回しに『連絡をください』と言っているのがわかったため、ある意味で丁度良かった。

「――じゃあ、起動するよ?」

 僕の言葉に全員が(アリアちゃんは首を傾げていたが)応えたのを確認し、映光玉を起動。
反応した球体が光を放ち始め、執務室の壁に、彼方の光景を投射する。
そうして現れたのは、『女神の化身』と称えられる、女教皇レミリア――

『――呼ばれて飛び出た団長だドン……!!』

「「「「 ……………… 」」」」

 ――レミリア、などではなく。
なぜかいつもの白銀の鎧姿ではなく、ピッチリとしたアンダーウェア姿で、胸の筋肉を強調する様に構えた、我が養父にして聖殿騎士団長マクスウェル。
そして、身に付けているアンダーウェアの前面には、『パパだよぉ!』という文字。

『………………』
「「「「 …………………… 」」」」

 しばらく、だれも身動きすらしない静寂の時間が流れ――

『…………いや、教皇。コレ、思った以上にキツイっすわ……』
『うふふっ♪ きっとその内、それがクセになりますよ?』

 そんな何とも言えない会話と共に、映像内に入って来たのが――女教皇レミリア。

「…………レミリア、あんたは……」

 そんな戦慄(せんりつ)と呆れを同時に宿した声を上げるフィアナと、やっぱり『?』と、首を傾げているアリアちゃん。
それに構わず、映像内の遣り取りは進む。

『――では、お疲れ様でしたマクスウェル殿。通常業務に戻ってください』
『……は? ――ちょっ!? これでは私は、単にダダ滑りに来ただけに――!?』
『はいはい、部下の方々がお待ちですよ? ――皆さ~ん? 連行お願いしま~す』
『ちょ、マジでッ!? ――てめぇコラ放せ! は~な~せええええぇぇ――…………』

 そんな言葉と共に、配下の聖殿騎士、僕の先輩で序列四位と五位の屈強な男たちに、結構な勢いで連れて行かれた様子の、我が養父。
その姿を笑顔で見送っていたレミリアは、やがてマイペースにこちらを向き。

『――お元気でしたか? お兄様、お姉様、イリスちゃんと――あら?』

 ……先ほどの一幕は無かったことの様に、笑顔を向けるレミリアの視線が――おそらく、面識のない一人を見つけたところで止まった。

「……おかあさん……このひと、だぁれ……?」

 レミリアと初対面のアリアちゃんが、フィアナに訊く。……そして、そんな光景を見逃すレミリアではなかった。

『あら?』
「……きた」
『あらあらあらあらあら♪』
「れ、レミリア……?」

 その『女教皇』は、満面の笑みでありながら、どこか黒いモノを感じさせる顔で――

『――お兄様、お姉様。ご成婚及びご出産、おめでとうございます♪』

「――だから、産まれた子供がこんなに大きいわけないだろうが……」
『ですが約一名、お顔が真っ赤な方がいらっしゃいますけど♪』
「……え?」
「わ。フィアナさん、まっか……」
「……おかあさん……?」
「レミリア……! 分かってて人をおちょくるのは止めなさいと……!!」
『だって楽しいんですもの♪』
「……はぁ。――アリアちゃん? この人一応、全部の教会で一番偉い人。
 ……で、本当はここから先は秘密なんだけど、僕達の幼馴染みで、フィアナの妹」
「……おかあさんの、いもうと……?」
「 ! アリア、ちょっとこっちへ!!」

 いつもの様に、あっと言う間に姉妹喧嘩――というよりはじゃれ合いに突入したフィアナとレミリアだったが……
何かアリアちゃんに仕込む気か? ……もしかして。

「……うん。……そういえば、いいの?」

 フィアナに『何か』を仕込まれたらしいアリアちゃんは、レミリアの映像の前で、ペコリとお辞儀をしてから――

「――えと……アリアです。……よろしくおねがいします、レミリアおばさん……」

『ぐッ……!? ――ね、姉さま! 子供を使っての精神攻撃は、あまりに非道かと!』
「貴女に言われたくないわよ!」

 距離も身分も越えた姉妹喧嘩を始める二人を見て、ある意味当然の質問がくる。

「……ねぇ、おにいさん? このひと、ほんとうにエライひと、なの……?」
「あんまり知ってほしくないけど……人にはね、裏と表の顔を持つ人がいるんだよ?」
『お兄様、アリアちゃん……聞こえていますよ……?』
「これは失礼致しましたレミリア『様』。……そろそろ真面目な話をしようかと」

 こちらに飛び火しない限りは見ていて楽しいのだが……、いつまでも遊んでいるわけにはいかない。
だから『様』付けで呼び、向こうもそれに応える。

『……わかりました。――聖殿騎士カリアス。また、何かあったみたいですね?』
「……この二面性、本当に尊敬するわ……」
「こちらの事情は込み入っていますので、後で話します。まずはそちらの方をお聞かせ願いたい。
 ……昨日、そちらからの荷物が届いたのですが。これは?」
『そちらの教会からの寄付金、収益金が群を抜いていますので、その褒賞(ほうしょう)に、と。あなた方に有用な物を送ったつもりです。小さな珠が二つ、入っていませんでしたか?』
「入っていました。――これは?」
『それは『転送珠(てんそうじゅ)』。二つで対になっていて、片方を持って念じる事で、もう片方のある場所に転移できます。無限に使えるというわけにはいきませんが……複数回の使用には耐えられますし、距離はほぼ無制限。一度に三~四人で転移する事も可能です。――祝福を持たず、有名になり『別の危険』も増えた歌姫様には、丁度良いかと思いまして』

 いかにも『教皇らしい』慈愛に満ちた笑顔で、そう言ってくれるレミリア。
まさに昨日そういう出来事があった以上、本当に嬉しい心配りで。

「なるほど……確かに、この子にはとてもありがたい代物ですね。……感謝いたします。ありがとうございました」
「えと、ありがとうございました、レミリア様!」
『いえ、歌姫様のお陰で、多くの恵まれない者へ、多少ながらも救いの手を差し伸べる事が出来ました。これはその返礼とお考え下さい。――さて、聖殿騎士カリアス。そちらの事情というものを教えていただけますか? ……恐らくそちらのアリアさんに関する事だとは思いますが。――それと、こちら側には私一人しかいません。語れぬ話も『無かった事』に出来ますゆえ、安心して下さい』
「了解しました。実は……」

 僕は、イリスの能力『精霊の愛娘』と、それにより発見されたアリアちゃん。そして彼女にかけられていた封印の話をした。

『――なるほど。……やはり、その残された封印の正体が気になりますね。ちなみにフィアナさん。アリアさんの保有魔力量は?』
「通常の人間と同等。もしくは少し上程度ですが……誤差の範囲です」
『なるほど……。ならばやはり、ホムンクルスを封印していたというより、ホムンクルスを作ってまで、何かを封印していたと、考えるべきでしょうね』
「――やはり、そうですか」
『……しかし、封印の崩壊が進んでいた以上、放置しておいても今この瞬間に崩壊していた可能性も捨てきれません。そうなった場合。『封印の氷』はただの氷となり、アリアさんの凍死は(まぬが)れなかったでしょう。――おそらく、彼女もなんらかの『鍵』です。その生命を第一に考えたのは、状況的にも人道的にも、悪い判断では無いと思います』
「ありがとうございます」
『ただやはり、緊急を要する可能性があります。……五日――いえ、三日ほど()(こた)えて下さい。本日より三日後に、聖殿騎士数名を含めた先遣隊と調査団を派遣。その翌日に、団長マクスウェル率いる本隊を向かわせます』

 養父さん――聖殿騎士団長マクスウェルが率いる、聖殿騎士の本隊。
それはつまり、国内における最大戦力を向かわせる、という事。
……どうやらレミリアも僕と同様、今回の出来事に尋常でなく不吉な予感を覚えているらしい。

「わかりました」
『――では聖殿騎士カリアス。長距離転送陣の準備をお願いします。私は急ぎ、派遣団の編成に入りますので』
「――了解しました。お願い致します」
『では、今はこれで。……そうそう』

 再び、『レミリア』の纏う雰囲気が変わる。

『今回の一件が終われば、こちらは少し余裕が出来そうなんです。――お姉様も、イリスちゃんも、アリアちゃんも。今度は気楽に、楽しくお話ししましょうね?』
「ふふっ、そうね。からかい無しにしてくれるなら、大歓迎よ?」
「うん! ありがと、レミリアお姉さん!」
「……うん♪ ……ありがと、レミリアおばさん……」
『ぅぐッ!? …………姉さま? 再教育、お願い致しますわね……?』
「――あ、あはははは……考えとく」
『と、とにかく! 今日はこれで。――では、また』

 その言葉を最後に、通信は途絶えた。



「……フィアナ」
「何、カリアス?」
「……『アレ』、君の予想以上にキツイから。ちゃんとアリアちゃんに、正しい礼儀を教えておいてね?」
「……そうね」

 と、そんな話をしていると、『コンコン』と、扉がノックされた。

「――はい、どうぞ」
 応えると、入って来たのは――フォルカスさん。

「失礼します。――エリル君とリーゼさんがいらっしゃいました」
「はいっ、今いきます! ――あ、そうだ! わたしのお友達、アリアちゃんにも紹介してあげるね?」
「……? おともだち……」
「うんっ! じゃあ、ちょっと呼んでくるね?」

 そう言って部屋を出て、リーゼちゃんを迎えに行くイリス。
 しかし、残されたアリアちゃんは――何かを考えている様子で。

「――どうしたの、アリア?」
 問いかけるフィアナに、上の空で応えるアリアちゃんは――
「――おともだち……? ……わたしの、おともだちは……」

 それは、失われた者を悲しむ様子ではなく。
 まるで――大切な何かを取り戻そうと、思い出しさえすれば取り戻せると、なぜかそう確信している様に見えた――



 (SIDE イリス)


「――え、ま、待ってイリスちゃん。どうしたの?」
「別に俺たち逃げないからさ、そんな急ぐなって」
「――え? あ、ごめんなさいっ」

 アリアちゃんを、リーゼちゃんやエリルくんにはやく紹介したくて、ちょっと急ぎすぎてしまいました。
ちょっと驚いたのと、わたしが無理に引っぱったせいで、リーゼちゃんは少し息をきらしています。
エリルくんは――おとうさんと訓練してるからか、男の子だからか、ぜんぜん平気そうです。

「――で? 何で急いでたんだ?」

 ……そういえば、理由もいってませんでした。

「あのね? わたしに『いもうと』ができたのっ!」
「は?」「……え?」

 わたしの言葉に、『なに言ってるの?』っていう顔をしたエリルくん。
リーゼちゃんは――すこし頬があかくなっています。なんででしょう……?
とにかく、わたしははやく会ってほしくて、その後もちょっぴり急ぎ足で、さっきの部屋にもどりました。

「ただいま! アリアちゃん、お友達つれてきたよ――わっ」
「……おねえちゃんっ」

 わたしの方に走ってきてたアリアちゃんが転びそうになったので、慌てて支えますっ!
昨日は上手く歩けなかったアリアちゃんですが、今日はもう大丈夫みたいです。
おとうさんとフィアナさんはおどろいて『潜在的な運動神経、実はとんでもないんじゃ……?』って言ってましたが……
まだ、走るのはちょっと危ないみたいです。

「気をつけなきゃダメだよ、アリアちゃん?」
「……ごめんなさい」

 アリアちゃんは、あんまり表情が変わりませんが……それでも、ちょっと『しゅん』ってしているのがわかります。
そんな『いもうと』の頭をなでてあげると、くすぐったそうに目を細めるのがカワイイですっ♪

「……イリスちゃん? その子は……」

 ――いけない、はやくご紹介しなくちゃっ!

「――この子は、昨日からフィアナさんの『養女』になって、わたしの『いもうと』になったアリアちゃんです。どうか、お友達になってあげてくださいっ」
「……おねがいします……?」

 わたしが二人に紹介すると、アリアちゃんも、となりで『ぺこっ』ってお辞儀しました。
……ちょっと不思議そうなお顔でしたが、きっと大丈夫ですっ!

「えっと……アリアちゃんっていうんだよね? 私はリーゼっていいます。――これから、仲良くしてくれると嬉しいなっ」
 すこしとまどっていたリーゼちゃんでしたが、すぐにニッコリわらって、アリアちゃんに話しかけてくれました。
「……! ……ん、よろしく……」
 そうお返事したアリアちゃんは、やっぱりわかりにくいけれど――やっぱり嬉しそうにみえました。
「うんっ♪ よろしくね? …………ところでフィアナさん……?」

 アリアちゃんの手を取って『よろしく』って言ったリーゼちゃんは、なぜかフィアナさんを連れて、部屋の隅っこに行きました。
……ないしょのお話しでしょうか?
……ちょっと聞きたいな、って思ったら、精霊さんが聞かせてくれました。

『――おたくの養女(むすめ)さん、とっても可愛いのですが……大丈夫、ですよね……?』
『……多分、今の所はアリア、恋愛感情って理解できてないと思うわ。――それにエリル君にしたって、イリスちゃんのときに揺るがなかったんだから、大丈夫だと――』

 ……やっぱり、何が『大丈夫』なのかは分かりません。

「お前、アリアっていうんだって? 俺はエリル! イリスの妹なら、俺にとっても妹みたいなもんだ。よろしくな、アリアっ!」

 今度は、エリルくんがアリアちゃんに話しかけてくれました。
アリアちゃんは、ちょっと『きょとん』としてから、うっすらと笑って――

「……ん、よろしく――エリル、おにいちゃん……」
「ッ、お、おう。……よろしく」

 そうこたえたエリルくんのお顔は、なんだかちょっと紅くなっていて。

「「 ――し、しまった『妹属性』ッ!? 」」

 ……フィアナさんとリーゼちゃんが、まるで『ぜつぼう』したかのような声をだしました。……『妹属性』って、なんでしょう?

「おとうさん、フォルカスさん。――『妹属性』って、なぁに?」
「……んー、僕もハッキリはわからない、かな?」

 おとうさんも、首をかしげています。
たぶんわたしと同じで、言葉のいみはわかっても、なんでソレがこういう使い方されるのかが、わからないんだとおもいます。

「――そうですねぇ……要するに、アリアさんはとても可愛い、そういう事ですよ」

 困ったふうに言うフォルカスさんは、分かっているようですが……そのお答えは、ちょっと誤魔化されてる感じがします。
――でも、言っていることはわかりますっ!

「――うんっ! アリアちゃんはカワイイよね♪」

 わたしの『いもうと』がほめられて嬉しかったので言うと――おとうさんは、笑いながら頭をなでてくれました。
 なでてもらいながら周りをみると――みんな、楽しそうに笑ってくれています。
 だからわたしは――これからも、楽しくなりそうだなって、おもいました。


 ――それなのに。『ソレ』が起きたのは、そんなときでした。


「――え……?」
 まず、耳ではなく、『こころ』にきこえたのは――『パリンッ』っていう、お皿がわれたみたいな『おと』。
 つづいて、きこえてきた――ううん、感じとれたのは……地面のしたからあふれてくる……くらい、こわい心……!
「――あ、あ、あ……!」
「……イリス? ――イリスッ!?」

 地面のした、それは渦をまいて――それがすこしあふれだして――ッ!?

「――ッ!? みんな、ふせてッ!!」
「「「「「 ――ッ!? 」」」」」

 そのしゅんかん、この街ぜんぶを、はげしい揺れがおそいました――



   ◆◆◆次回更新は6月19日(金)予定です◆◆◆

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