第二編 序章 『キレイなセカイ』の裏側で

作者:緋月 薙

序章   『キレイなセカイ』の裏側で
(※今回は 『幕間の1 紳士、幼女の保護者(古竜)と邂逅す』 と合わせて2話分の更新になります)



(SIDE レミリア)


「……これは、本当に『そういう事』、なのかもしれませんね……」

 私は『ある書物』に目を通しながら、思わずそんな言葉を漏らしました。

 お兄様――聖殿騎士カリアスと、古竜ハールートの邂逅(かいこう)。その後、私とハールートさんとの会談から二週間。兄様たちは、平穏な日々を送っているようです。
 ……まぁ、こちらは何も無い、という訳ではないのですが。

 先日からフォルカス氏を聖都にお呼びし、諸々の根回しをお願いしています。
 フォルカス氏は教皇家とも付き合いがあり、身分こそ助祭でお兄様より下の立場ですが……顔の広さと人生経験からくる立ち回りの上手さは、国内屈指の有力者です。
 事のあらましを聞いた時点で、うるさい方々が発生する事は予測できていました。
 よって、それらを抑え――さらに世論操作も行っていただくために、一ヶ月ほど滞在していただく事になっています。

 ……やはりというか、国の内外から抗議の声が上がりました。
 周辺国からは、『古竜を用いて、我が国に侵攻するつもりか』と。
 天災に等しい脅威が、自国の上空を飛ぶかもしれない。それを恐れての事でしょう。

 ですが――『本当に、古竜を人間が御せるとお思いですか?』、逆にそう訊いたところ、皆様とっても静かになっていただけました♪

 こういう手段が通用する程度に、竜種の脅威は知れ渡っているわけで。
 ――アリアちゃんに頼んで『ちょっと、ブレス吐いて?』と言ってもらえば、『ふぉっふぉっふぉ、ちと張り切るか♪』と、気軽にヤってくれそうな気もしますが……。
 まさか古竜があんな親しみやすいとは、面識の無い者には想像もできないでしょう。
 そして国内からは、強大な古竜を懐に抱える事を危険視する声が。
 ある意味でご尤もな意見なので、こちらはフォルカスさんにお任せしています。
 強権を発動させると後々の火種になりかねませんが、あの方なら徐々に認識を変えていく形で、上手くやってくださると思います。
 落ち着いた頃に、お兄様たちと一緒に聖都へお呼びするのも良いかもしれませんね♪

 ――と。そんな風に事後処理にも終わりの目処が付いた所で。今はあの一件で表出した、もう一つの『気になる事』に関して調べているわけでして。
 と。そんな脱線した思考を再び書物に向けようとしたとき、扉をノックする音が。

「失礼します。教皇、例の崩壊した遺跡の調査結果が出ました」

 そう言って現れたのは、カリアス兄様の養父でもある、聖殿騎士団長マクスウェル。
 脳筋――もとい武闘派の印象が強い彼ですが、その実デスクワークも優秀で、私の護衛も兼ねた秘書的な任も担ってくれています。

「イリスさんが居た遺跡、ですね? 内部の調査は出来たのですか?」
「いえ。内部は崩落だけでなく、なんらかの薬品と思われる物で完全に溶解していたとの事です。……偶然ではなく、隠滅用の仕掛けでしょう」
「……やはり、そうですか。では、他に何か解った事は?」
「はい。入口部分や仕掛けられた罠の構造、周辺の地質などから、建造されたのは約三千年と少々の昔だと思われるそうです。そしてこれは――」
「……イグニーズ遺跡とほぼ一致、ということですね?」
「はい。――予想していたのですか?」
「例の『託宣』の事もありますから、そんな展開もあるだろう、と」

 旧文明が栄えたのは、およそ四千年前から。その五百年後――今から三千五百年前に、突如現れた脅威により、急速に衰退していったとされます。

 その『脅威』の名は――『名も無き魔王』。

 異界より現れたと伝わる『破壊神』とも呼ばれる存在。神の力を授かった者たちの働きにより滅びるも、その存在の『残滓』は、今もなお世界に残り続けています。
 その『残滓(ざんし)』は生物の『負の想念』により活性化され、その者の魂を侵し、存在自体を変質させる。そうして誕生するようになったのが、『魔物』という存在。
 魔王による被害と、魔物への対処が後手に回った事により、旧文明は崩壊。そこから約千年間が『空白期』と呼ばれ、歴史的な記録が極めて少ない時代となります。

 ……ですが。一部の国家、その上層部には『空白期』の歴史が伝わっていて。
 それによれば――天の双女神の力を宿す光、および聖術による魔物への対処法が確立し、後継となる文明が発展し始めたのが、約三千二百年前。
 そして――その後継文明の崩壊に至る事象が発生したのが……約三千年前(・・・・・)

「今、例の遺跡から姉様が回収した『仕様書』を読んでいたのですが……ホムンクルスの製造方法・作成過程が、事細かに記載されていました。それこそ――造ろうと思うのなら、実物を調べる必要も無い程度には」
「……あの子に手を出されない様に、との意図ですかね」

 おそらく、その通りでしょう。本人を調べる必要が無い様に、明かせる事は全て明かす。……そのせいで絶対に世には出せず、焼却決定の危険物になっていますが。

「――ですが。これ程に徹底していながら、製作目的だけは一切記載されていません」
「……つまり、それだけは知られてはいけない事、という事ですか」
「ええ。『ホムンクルスである』という事実より、この製作目的を知られる方が、イリスさんにとっては危険である。そう判断されたのでしょう」

 言い換えれば、人造生命製造技術より秘匿すべき、極秘事項。

 ――そして私は、この様な手法で秘匿(ひとく)されてきた秘密に、心当たりがあります。
 イリスさんが造られたのが、後継文明の崩壊前後なのだとしたら……文明崩壊に際して生じた、当時の人類の『最悪の汚点』。それに関わっている可能性が高く――

「……近い内に、ハールート殿とお話しをしたいですね。イグニーズ遺跡が稼働していた時代の話を、少し詳しく知りたいところです」

 いろいろ、話しておきたい事があります。……今はまだ、あまり周りの方々に伝えてほしくはないお話も、少々。
 ――まぁ、既に察していただいて、黙っていてくれている様な気配があるのですが。

「では連絡を取って、また会談を申し込み――」

 そんな時。机の片隅に設置してある『映光玉』が、澄んだ音と共に輝き始め。

「これは――イグニーズからの通信? ……実に丁度良いですね、教皇」

 あまりの良いタイミングに、驚きより、むしろ呆れを含んだ苦笑と共に言ってくる。

「――ええ、本当にその通りですね、『おじさま』?」

 彼を『おじさま』と呼ぶのは、『お仕事は一旦お休み』の合図で。
 ――さて、お出迎え準備です♪ 向こうは兄様たちと、居たとしてもハールートさん。気心の知れた人たちばかりなので、少々ハメを外しても問題はありません。

「さぁ、通信が始まります。おじさま、『決めポーズ』の準備を……!」
「――はぁ、仕方ありませんねぇ」

 と言いつつおじさまが上着を脱ぐと、下には『ジジ馬鹿一代 マゴ命!』と書かれたシャツを着ていました。
 ――さすがです、おじさま。……まさか常時着ているのでしょうか?
 この前は『出オチ狙って冷視線を浴びるのはキッツイ』などと言っていましたが、もうクセになったのでしょうか?
 そんな私たちの前で、映光玉の光が広がりきり、通信が始まるタイミングで――

「連絡ありがとうございま~す♪ レミリアですっ!」
「親バカ爺バカ、騎士団長マクスウェルだドン!」

 ポージングと共に聖術で光を舞わす演出も完璧。そんな私たちに、先方は――

『みぎゃぁっ!』

「「 ……………………は? 」」

 映し出された予想外の存在に、思わず私もおじさまも、間抜けな声が零れ出ました。
 その存在は――純白の鱗に、アップで映る大きな瞳は、どこか気高さを覚える金色。
 後ろに向かって生える二本の角に、パタパタと動く、まだ小さな羽。
 全体的に丸みを帯びた姿は、おそらくまだ幼い個体である様で。
 その後ろで親しい方々が苦笑いしているのが見え、ようやく私も硬直が解け――

「――まさか。幼体の、竜……?」

『みぎゃっ?』

 私の言葉に、愛らしく首を傾げる幼竜。私は――この可愛らしい白い竜との出会いが、また新しい騒動の始まりであると、なぜか確信していました。



   ◆◆◆次回更新は8月2日(火)予定です◆◆◆

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