第二編 幕間の1 紳士、幼女の保護者(古竜)と邂逅す

作者:緋月 薙

幕外1   紳士、幼女の保護者(古竜)と邂逅す
(※今回は 序章 『キレイなセカイ』の裏側で と合わせて2話分の更新になります)



 こんにちは、エドです。
 イグニーズ自警団に誘われ、イリスちゃんの親衛隊に所属しています。
 小っちゃい子が大好きです。
 ――え? 口調が以前と違う?
 ……大目に見てください、仕方が無いのです。なにせ――

『――して、お主は何者で、何の目的で来たのだ?』

 ……小っちゃい子の保護者やってる古竜様に、至近距離から睨まれております。
 少々のキャラ崩壊くらい、勘弁していただきたく……!

 そもそも、なんでこんな事態に陥ったのかというと――

     ◆     ◆

 ここは、イグニーズ自警団詰所。
同時に、イリスちゃん(非公式)親衛隊『幼き女神の守護者(ガーディアン
オブ リトルゴッデス
)
』の本部でもあり――つまり、小っちゃい子好きの巣窟である。
 ……俺が言うのもなんだが、この街は大丈夫なのだろうか?
 それはともかく――この地は今、揺れていた。
 ……三日前には、封印から目覚めた古竜殿の暴走により、地震で実際に揺れたが――そういう意味ではなく。

女神様(イリスちゃん)に、妹ができただと……!?」
「――うむ。よって現在、親衛隊員の中に混乱が広がっていてな……」

 今は騒動が落ち着いていないため、イリスちゃん共々人前には出てきていないが……警備等で教会に行った自警団の面々が邂逅(かいこう)、会話、鑑賞(!?)してきたという。

 話によると、遺跡内で古代の術により封印されていた所を、カリアス殿たちが助け出し。身寄りが居ないその少女――アリアちゃんを、フィアナ殿が養女にしたらしい。
 同じ場所で暮らし、親しい仲であるカリアス殿とフィアナ殿。その養女同士という事で、ほぼ家族として暮らす事になった様子。
 その後、同じく封印されていた古竜殿と親しい仲だった事が判明。
 遭遇時に負った命に関わる怪我をイリスちゃんが治した事もあり、すっかり仲の良い姉妹として、睦まじい触れ合い(意味深)が見られると聞く。

「そして、その容姿の方も――真紅の髪と瞳が印象的で、少々表情に(とぼ)しくはあるが……むしろそれもご褒美(ほうび)と思えるほど、とても可愛らしい姿で、な」
「それは……ここの隊員が黙っていられるはずはない、か」

 俺に現状の説明をしている自警団副長レオナルドも……そのアリアちゃんの容姿か、またはその子と女神様(イリスちゃん)の『触れ合いシーン』でも思い出しているのか、少々頬が紅い。

 由々しき事態を改めていうが――自警団員は尽く、重度の小っちゃい子好き。

 そこに、可愛らしい子が追加。しかも小っちゃい子の象徴ともいえる『妹』という属性持ち。更にその子の『姉』は女神様で、物理的な接触シーンもあるとなれば……。
 ――まぁ俺も、団員をどうこう言えない小っちゃい子好きなわけだが。

「まぁ俺も、ぜひ見に行きたいがな。それこそ教会に潜入してでも!」

 状況が落ちつけば、その子も人前に出てくるだろう。……それは分かっているのだが、やはり『妹』な可愛い小っちゃい子を早く見たいと思うのは、この趣味を持つ者の宿命の様なモノ。……まぁ、『教会に潜入してでも』というのは冗談だが――

「そうか、では任せよう。――潜入よろしく」
「…………あ?」

 今、何かオカシイ発言を聞いた気がするのだが……?

「教会に潜入し、女神様たちの日常を調査してきてほしい」
「……自警団という組織は、いつから裏稼業に手を染め始めたのだ?」

 犯罪捜査などでの潜入任務なら分かるが……むしろ今回、犯罪者はこっち側。

「…………先ほど、『混乱が広がっている』と言っただろう?」
「は? まぁ、聞いたが……」
「女神様から妹姫様へ、乗り換えようかと悩んでいる輩が出てきてな……」
「…………なんだと?」

 レオナルドは、机の引き出しをゴソゴソと――

「――すでに、アリアたんグッズがこれだけ誕生している」
「………………うわあ」

 ――『本当にソレ全部、引き出しの中に入ってたん?』、そう訊きたくなる量と……一目で並々ならぬ情念が込められていると分かる、丁寧(ていねい)な作りのグッズの数々。

「団員たちが一晩でやってくれました」
「……昨日、妙に人が少なかったのはソレが原因か」

 俺と同様に事情を知らない団員しか居らず、揃って首を傾げていたのだが……よもや業務完全無視で小っちゃい子のグッズ作っているなど、予想外にも程がある。
 簡単な物では『愛しの妹姫さま♪』と書かれた扇から、手の込んだ物では簡略化されたデザインの紅い髪の少女のヌイグルミ、同様の絵が刺繍(ししゅう)された衣服などがあった。
 ……『一晩で』というのが、本当に可能なのかと疑うレベル。

 筋骨隆々の野郎共が、目を血走らせながら集団で編み物・縫い物・刺繍などをしている光景を想像すると……一つの立派な地獄絵図だと思われる。

 俺が精巧に描かれた似顔絵を見ながら『なるほど、実に可愛らしい……』などと思っていると、レオナルドが話を続ける。

「このままでは、女神様(イリスちゃん)派と妹姫(アリアちゃん)派で分裂してしまう可能性がある。よってお前には――教会に潜入し、イリスちゃんとアリアちゃんの日常をレポートしてほしい」
「――む? ……ああ、そういう事か。つまり『女神様』や『妹姫』単独ではなく、姉妹を崇拝の対象とする事で、分離・離別を防ぐのが目的か」

 国教であるトリティス教も『双女神』を崇める。それをヒントにしたのだろう。
 ……『小っちゃい子好き』は日陰者。ゆえに団結が求められる状況で、人員が減る事に利は一切無い。それを防ぎ――同時に戸口を拡げる事で、新たな同志が参入しやすくなることも狙っているのだろう。

「うむ、話が早くて助かる。それで――やってくれるな?」

 ――確かに、良い手段には思う。だが……少々気になる点が。

「……もし仮に俺が引き受け――失敗した場合。当然、庇って貰えるんだろうな? 自警団の副長殿」

 気になるのは『なんで俺に依頼するのか』という事で。
 自警団は現在、教会の警備を担当している。ならば仕事の合間に潜入する事は容易のはず。そして潜入が見つかったとしても、上手く誤魔化せる可能性もある。
 それなのに、リスクの高い俺に任せる理由。それは――

「――はっはっは! 何を言っている? 俺たちは仲間ではないか」
「そうだな、仲間だな。――で? 庇って貰えるんだな?」
「…………」
「…………」
 と、少々沈黙が続いてから――

「…………仲間ではないか!」
「確実に切り捨てる気だったな!?」

 つまり――失敗した際に、自分達とは無関係を装う事が可能な人選。早い話が、面倒な事になったらトカゲの尻尾の様に切り捨てられる存在を選んだわけだ。

「……仕方が無い。では先に報酬の話をするが――」
「受けないからな? 切り捨てられるのが分かっていて受けるバカは――ん、それは?」

 レオナルドがまたも引き出しから取り出したのは――黒い金属製の小箱、だろうか?
 両手の平に乗るか? 程度の大きさで――奇妙なのは、前面に筒状の部品が取り付けてあり、その筒の中にはガラスが嵌め込まれているのが見える。

「これは遺跡から発掘された『カメラ』という魔道具に、軍用の『望遠鏡』を接続したものだ。――『カメラ』を用いているため、おそらく世界でもココにしかない。よって授ける事は出来んが……任務中は好きに使って構わん」
「『望遠鏡』というのは――たしか遠くを見るための筒だったか。ではこの筒状の部分が『望遠鏡』として……『カメラ』とは?」

 貴重な品だとは理解したが、報酬がただの『貸出し』ということで、少しシラケながら訊くと――レオナルドは妙に自信ありげな不敵な笑みを浮かべ。

「これを通して見た光景を、一瞬で精密な写し絵として記録できる道具だ」
「ほぅ、そうなのか………………ちょっと待て。つまりコレは――一瞬の光景を、精巧かつ精密に記録できるという事か!? たとえば――『風の悪戯(いたずら)』などの産物も!?」
「くっくっく――真っ先にソレを例に挙げるのはどうかとも思うが、そういう事だ」

 つまり――小っちゃい子が魅せる一瞬の輝きを克明に記録でき、ついでに軍事面でも利用できるという素敵アイテム……!

「しかし……これは、あのニンジャにでも使わせた方が効果は高いのでは?」

 諜報員として一流の能力を持つ『ニンジャ』。彼は高度な潜伏能力に加え、地中を自由に移動するという能力まで持っていたが――先日その力の悪用が判明。制裁が下された。

「……ヤツ、か。ヤツは――」

 言葉を濁したレオナルドは、突如として顔を青くさせ、軽く身震いしながら――

「――ヤツの悪行が団長の耳に入り、団長預かりとなった。どうなったかは……」

 ……歴戦の猛者(もさ)をここまで震え上がらせる『団長』とは――会った事はまだ無いが、一体どんな人物なのだろうか? そして、ニンジャの命運は……?

「――その様な理由で、残された適任者は少ない。報酬として任務中に得た記録絵は、こちらの報告に必要な分以外は、貴様の懐に入れて構わん。――さて、どうする?」


「では、成功を祈る。――音声記録装置の設置も忘れるなよ?」
 俺は『望遠カメラ』と、周囲の音声を収集・記録し、後で繰り返し聞く事も可能な魔道具『レコーダー』を持ち、任務へと向かう。
「ああ。我ら小っちゃい子好きの団結のためにも、しくじるわけにはいかんからな」
「――そういえばその『小っちゃい子好き』という表現についてだが。以前あの『ニンジャ』の話では、東の大陸の者が良い呼称を使っていてな――」

 そうして。その『呼称』と、それに込められた熱き意志を胸に刻み。
 決意も新たに、決死の覚悟で任務の地へと向かう俺だった――

「行ってきま~っす! 早くイリスたんに会いたいのぁ~ん♪」

 何か俺の口から、自然と言葉が漏れ出た様な気もするが――些細な事だ。
 自警団詰め所を出た所で、駆け込んできた団員とすれ違い――俺は教会へとむかった。

     ◆     ◆

「――副長、朗報です!」
「――ほぅ? 朗報とは何だ?」
「はい! イリスちゃんが今日から歌姫の仕事を再開するそうです! 準備のために、早くも集会所に向かったとの報告がありました!!」
「あっ。………………そうか。貸し出したカメラ一機は無駄になりそうだが、予備はまだある。撮影準備を整えて現場に向かうぞ!」
「はい!」

     ◆     ◆

 ……といった流れで潜入する事になり。
『レコーダー』を設置しに、女神様(イリスちゃん)一家がよく入るとの情報があった、裏庭の外れにある小屋に入ると――この洞窟に転移してしまい。
 ……転移を抜けると、目の前に真紅の巨竜様がおられた、というわけで。

『――様子から察するに、意図してここを訪れたわけではないのはわかる。……が。それはつまり、許可を得ずに転送陣のある小屋に踏み込んだ、という事になる』
「…………」

 ――マズイ。目的はともかく、無許可で侵入したことはバレている……ッ!

『ただの盗人か……? それとも――よもやイリスやアリアに害を成そうとしたわけではあるまいな……?』

 言葉と共に、高まる怒気と――殺気。俺を押しつぶす様な威圧感が襲い掛かる。
 巨竜の言葉と、その絶大な脅威を前に、俺は――
「ふざけるなッ! 我ら『親衛隊』が小っちゃい子に害を成すハズが無い! 愚弄するのもいい加減にするがいいッ!!」

 とりあえず、キレてみました。

 己の不法行為は自覚しているが――それでも『イリスちゃんたちに危害を加えるつもりだったのでは』という疑惑は、極めて心外。それゆえの行動だったのだが――

『…………【親衛隊】?』
「あっ」

 妙に『きょとん』とした顔になった古竜様。怒気は急速にしぼんでいったが……代わりに怪訝そうな表情で虚空に視線を向け、まるで誰かと話をしているような様子で――

『――ふむ。心酔した信者の様なもの、といえば聞こえは良いが……要するに幼女趣味の集団か。確かに害を成すものではなさそうだが、良き存在でもない事は確かの様だな。しかも――よもやその様な団体が、自警団を母体として生じようとは、な』
「な、なぜそれをッ!?」

 眼前の巨竜が口にした事実は、我らの極秘事項。団員および、厳選された関係者以外は知り得ない情報。
『精霊たちに訊いたまでだ。本来、人間の文化には興味を示さない精霊たちだが、【精霊の愛娘】たるイリスに関する事は別だ。イリスと、我が気にかける様に命じたアリアに関わる事であれば、得られぬ情報など無い』

 精霊たちも、イリスちゃんとアリアちゃんを気にかけている。という事は……!

「ま、まさか、精霊たちも我らの同志!?」
『…………結果的にはそう間違っておらぬが、全力で不服の意を唱えておるぞ?』

 そういう古竜様自身も、ものすごく嫌そうな顔で告げてきた。

「どこが不服と?」
『【どこが】だと? 決まっている。我らは保護者にして守護者。幼子に邪な眼を向ける幼女趣味共と、一緒にされたくないのは当然であろう?』
「っ! ……古竜殿。言いたい事はわからないでもありませぬが、撤回をお願いする!」
『む?』

 またも怪訝な表情で見下ろす古竜殿を、俺は真っ直ぐに睨みつける……!

「我らは日陰者――それに間違いは無い。だが我らの望みは、健やかな暮らしを『見守り続ける』こと!
『邪な眼』……? ふざけるな! 神々しさへの崇拝と歓喜の念こそあれ、疚しい気持ちなど一切無いッ!!」
『ぬ……? それでお主らに何の得がある?』
「貴方は根本の所がわかっておられない! そもそも――」
 俺は、己の覚悟を示すために。その『真理』を口にする。

「『幼女好き』が得する世界など、有って良いハズがない……!!」

『………………それは(もっと)もではあるが』
「我らが得るのは心の充足のみ。しかしその『精神の充実』をこそ至上とし、我らは純粋な眼差しを以て崇拝を捧ぐ!」

 言葉を紡ぎながら思い出すのは、先のレオナルドとの会話。
 東の国に伝わる『幼女好き』を表す言葉と、それに宿る意味の話。

「情熱という名の『炎』を内に閉じ込める事で、それは更に熱く燃えたぎる。それはまるで……『炉』。その灼熱の情念を以てすれば、我らはあらゆる物を創造できる!」

 告げながら、俺は常に所持している至宝を、眼前に展開。
 それは、イリスたん応援グッズ。
 親衛隊の制服たるピンク色の上着などを始めとし、姿絵入り扇、ヌイグルミ、応援旗、横断幕など。ついでにサンプルとして受け取った、アリアちゃんヌイグルミも。
 この量をコンパクトに収めて常備するのは容易ではないが――どこぞの副長もやっていた様に、情熱は時に物理法則をも超える。やってやれない事はない!

「『炉の理』を魂に刻み、正しく生きる! 故に我ら――『
炉理魂(ロリコン)紳士(しんし) 』!!」

 決まった……!
 俺は己の主張を終え、古竜を見上げると。その巨竜は刮目して――
『………………』

 ……刮目(かつもく)、してはいるが――見ているのは俺ではなかった。
 その業火を形にした様な真紅の瞳が凝視するのは……グッズの数々?

「……守護竜殿?」
『――はっ!? ……ふ、ふん、いかに信念を語ろうと、お主等がアリアたちの害となる可能性が有る以上、易々と認めるわけには……い、いかぬ!』

 ……何故か妙に揺らぐ古竜殿の言葉。そしてその長大な尻尾は、妙にそわそわと?

「……イリスたんの刺繍入り上着、及び絵入りの扇」
『…………』
 ――やはり、コレではない。
「……特製イリスたんヌイグルミ」
『…………(ぴくんっ)』
 ――尻尾に僅かな反応。興味はあるが、コレでもない。ならばやはり――
「……アリアちゃんヌイグルミ」

『…………(びったん! びったん!)』
 洞窟が揺れる勢いで、尻尾が激しく反応。

「…………」
『………………』
「…………要りますか?」
『くれるのかッ!? ――む、い、いやしかし! そう簡単に認めるわけには……』
「大きさ、ポーズ、服装など。リクエストに(こた)える事も可能だと思いますが?」
『……み、認めるわけにはいかぬが――仮にも母体となっておるのが自警団である以上、お主等以外からの危害を受ける危険性は大きく減るであろう! ど、毒を以て毒を制すのも、立派な策略にして守護の手段であると考える……ッ!』

 俺と目線を合わせる様に顔を下げて言う古竜殿。その鼻面にヌイグルミを置く。
 ……その迫力溢れる紅の相貌が、あからさまに『でれっ』となった。

「――イリスたんヌイグルミの方も、差し上げられますが?」
『…………いや、そちらはやめておこう。万が一、億が一にも、我がクンクン、スリスリしている所を見られようものなら――カリアスたちの反応が恐ろしい』

 ……アリアちゃんヌイグルミには『クンクン、スリスリ』するのだろうか……?

 ……とにかく。こうして俺は古竜殿との繋がりを得、非公式ながらも保護者から活動を認めてもらう事に成功したのだった。

『――ときに。大きさは、等身大は可能であろうか?』
「……この道に於いて、我らに不可能は御座いません」

 代償として。竜という大いなる存在への憧憬(どうけい)は、木っ端微塵(こっぱみじん)に吹き飛んだが――



   ◆◆◆次回更新は8月2日(火)予定です◆◆◆

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