第二編 一章の2 小さな竜と世界の秘密

作者:緋月 薙

一章の2   小さな竜と世界の秘密



(SIDE カリアス)


「――さて。じゃあ通信を始めるよ?」
 一度僕だけ教会に戻り、映光玉を持ってきて。皆に確認をとってから起動させる。
 映光玉から光が放たれ、壁面に――
「あっ! ウィル、ダメっ」
 ――え?
 イリスの声に振り向くと、僕の脇を抜けてウィルが飛んで行き、映光玉へ。ちょうどそのタイミングで通信が始まり。
「みぎゃっ!?」
 驚き『ビクッ!?』と反応するウィル。そして映像には彼方の地に居る、困った偉い人たちが登場し。
『連絡ありがとうございま~す♪ レミリアですっ!』
『親バカ爺バカ、騎士団長マクスウェルだドン!』
 ……わざわざ聖術で光を舞わせる演出まで加え、ポージングを決める、我が国の頂点たる二人。だけど、それが誰かを知らないウィルは――

「みぎゃあっ!」

『『 ……………………は? 』』
 ウィルの抗議の声で出オチを潰された二人。予想外の存在に、見事に目が丸くなっている。……無理もないな、とは思うけれど。
 どうやって話を始めようか。そう考え始めたところで、レミリアが復活した。
『――まさか。幼体の、竜……?』
「みぎゃっ?」
 驚愕を隠せずにいるレミリアに、ウィルは『誰?』と、首を傾げる。
 後ろに見える、まだ固まったままの義父(とう)さんも見て――まぁ、こうなるよねぇ、と苦笑いしながら、ハールートと話した事と、ウィルの事を説明する事にした。

『……本っ当に退屈しないよな、お前等のトコは……』
 義父さん――聖殿騎士団長マクスウェルの、『呆れ』に『疲れ』を足した様な声。
「あ、あはは……。僕としても、色々と複雑な気持ちなんだけどね……」
「そうよね……。騒動は御免だけど、結果だけを見れば大満足なのよね……」
 言いながらアリアちゃんの頭を撫でているフィアナ。僕の隣にはイリスが居て、胸に抱えたウィルを撫でている。僕たちの背後にはハールートも居る。
 フィアナが言う通り、望まぬ騒動ではあったけれど……それが無かったら、ここには僕とフィアナしか居なかったのだから。

『――こほん。気を取り直しまして。……まず、その遺跡にかつて存在したモノ。それはとても気になります。こちらの方でも旧文明の資料を当たってみましょう』
「……ハールートと同等以上の存在の行方が分からないなんて、怖いどころの話じゃないものね。――私も、こちらで文献を当たってみるわ」
「僕も――とりあえず、遺跡から見つかった品々を調べてみるよ。一度調べたものではあるけど、他の文献やハールートの知識と合わせれば、何か分かるかもしれないし」
『――うむ、それなら我も手伝える。協力しよう』
 危険性・緊急性は不明。だけど知ってしまえば、とても放置はできない問題。
 それ故に、むしろ速やかに今後の方針まで決まり――次の話に。
『次は――その子、ウィル君の事ですが』
「……みぎゃ?」
 こちらは、危険性は皆無。だけど……実はハールートの考え事は多分コレで、僕もフィアナも――レミリアや義父さんもツッコミたいであろう問題。

『――この子、何竜なんでしょう?』

「「 ……え? 」」「――み?」
 年少組の二人と一匹が揃って首を傾げ、イリスが代表するように訊いてくる。
「えっと……白竜、じゃないの?」
「――うん。白竜っていうのは、『普通は有り得ない例外』を抜かせば、存在しないんだよ。あとハールートは赤竜だけど――『赤竜の幼体』っていうのも居ない」
「……え? じゃあ、ハールートのちいさいころは、なんだったの……?」
 アリアちゃんが不思議そうに訊いてくるが、そう面倒な話ではなくて。

 ハールートの場合、幼い頃は『火竜』。それが多くの精霊の力を得て、己の属性以外も使える様になり、上位竜の『赤竜』と呼ばれるようになった。
 だから色を冠する竜は上位竜なのだが、その中で『白』と『黒』は、神話の時代から存在しない。――『二匹の例外』を抜かせば。

「えっと……その『例外』って?」
「神の従者とされ、通称『光竜』と呼ばれる『天聖白竜』と、『闇竜』と呼ばれる『地聖黒竜』。この二匹だけが『白』と『黒』を冠する竜だね」
 その二匹にしても神話に出てくるのみで、実在は確認されていない。
「じゃあ……この子は『光竜』かもしれないの?」
 イリスの言葉に、全員の視線がウィルに集まる。
「みぃ…………みぎゃっ?」
 眠いのか欠伸(あくび)していたウィルが、『どうしたの?』と不思議そうな声を上げた。
『――普通は有り得ないのですが、『聖女』であるイリスさんが見つけた以上、『光竜』である可能性も捨て切れません。……ハールートさん、どう思われますか?』
 レミリアの問いに、ハールートは少し考える間を置いて、口を開く。
『現状、ウィルに集まる精霊に属性の(かたよ)りは無い。生まれたばかりの竜は得意属性も未発達な事が多く、そうなると外見以外での判別は、少々難しいのだ』
「ん……ハールートのちいさいころも、そうだった……よね?」
『――う、うむ。そうであったの』
 アリアちゃんの言葉に、ハールートが気まずそうに目を逸らす。――あれ?
「――ねぇアリア? あなたが封印される前のハールートは、どれくらいだったの?」
「えっと……いまのウィルより、ちょっとおっきいくらい……? おこるとちいさな火をはいたりして――かわいかった、よ?」
『ぐ、む、むぅ……』
 己の幼い頃の事を語られ、目に続き、今度は顔ごと逸らす古竜殿。
「どうしたの……? だいじょうぶ。ハールートは、いまもかわいい、よ?」
『…………』
 ――アリアちゃん。その言葉、今はフォローにならないと思うよ?
 気恥ずかしさからか、ついに顔を逸らしたまま伏せてしまったハールート。
 そんな彼に駆け寄り、(なぐさ)める様に撫でるアリアちゃん。
 ……()えて、何も言わない方がいいかな?
 ウィル以外の全員も生温かい視線を向けているから、似た様な感想だろう。

『――ご、ごほん! 話を戻すが。幼竜は色が薄い場合もあると聞くし、水竜や氷竜なんかは白に近い。……そこら辺の普通の竜種なら、あんまり問題はないが――』
 咳払いをして、少々強引に話を戻す養父さん。ここからは、少し真面目な話か。
「――問題は、本当に『光竜』だった場合、だよね?」
『ええ。ウィル君自身に問題は無いのですが……どこで見つかったのかが気になります。お姉様? その売っていたお店の方は、何と?』
「…………東から来たって言ってたわよ? こっちに来るときに掻き集めたって」
 そう答えるフィアナ。だけど彼女も、なぜか気まずそうに目を泳がせ……?
『……そうですか。少々詳しい話を聞きたいですね。その方は今もイグニーズに?』
「…………」
 あからさまに目を逸らし、口籠(くちご)もるフィアナ。それに代わって答えたのは、イリス。

「……あのお店のヒト、『この街じゃ商売上がったりだ』って……お店やめて、街出てっちゃって……」

「本当にどれだけ値切ったの!?」
「ち、違うわよ!? ここだと競合が多くて全然売れなかったって言ってたから、私だけのせいじゃないわよ! ……トドメ刺したのは認めるけど」
 この街に集まる冒険者を狙って、商人たちも多くて集まる。それ故に商品が競合を起こしやすく……確かに、商売人には厳しい街かもしれない。
『……まぁ、お姉様の非道な値切りっぷりに関しては、とりあえず保留して――』
「『非道』!? そこまで言われる程じゃ……!」
『――で。そのお店を畳まれた方は、何処に行かれたのか分からないのですね?』
「う……。それに関しては、イリスちゃんに頼んだんだけど……イリスちゃん?」
 完全にやり込められたフィアナが、イリスに話を振る。
 どうやら僕が映光玉を取りに行っている間に、風の精霊に探してもらうよう、イリスに頼んでいたそうで。
「えっと――わたしたちがこの街にきたときと同じ道だから……聖都のほう? そっちにむかって、今、坂みちをのぼってるところみたい」
『ありがとうございます♪ それでしたら……隣の町で手配すれば、捕捉できそうですね。この件は、こちらで手配しておきます』
「ありがとう、レミリア」
『いえいえ、教皇の方のお仕事ですから♪ それで、ウィル君の方は……あら?』
 名前を出したところで、さっきからウィルの反応が無い事に気付いたらしい。

 そのウィルは――イリスのゴッドハンドにより、眠りの(ふち)に沈められていた。

『あらあら。安心しきった顔で、心地よさそうに♪』
「話しながらも、休まずに撫で続けていたみたいだからね……」
「えっとね? 角のうしろが気持ちいいみたいっ」
 イリスがそう言って撫でると、更に『ふにゃっ』とトロケた寝顔になるウィル。
「――あ。そのじゃくてん、ハールートもだよ?」
『ぐふっ』
 不意に打ち込まれたアリアちゃんによる追撃に、ハールートが呻き声を漏らした。
『――っと。教皇、そろそろ……』
『あら、もうそんな時間ですか……。では、お兄様、お姉様。ウィル君の保護をお任せしてよろしいでしょうか?』
「うん、もちろん。こちらから頼もうと思っていた事だしね」
「ええ。……今さら引き離すなんて、嫌だしね」
「ありがと、レミリアおねえさんっ!」
「んっ、ちっちゃな竜のおせわ、わたしもてつだえる」
『…………』
 実質的に、ウィルがここに居る事を認めるという発言。イリスがお礼を言ったのに続き、アリアちゃんが胸の前で握り拳をつくり、『頑張る』とアピールする。
 ……またも、流れ弾がハールートを(かす)めたけれど。
『――ハールートさん。竜の生態等に関する事でお兄様たちが困ったとき、どうかご助力をお願いいたします』
『…………』
 レミリアの言葉にハールートは無言……だったが。その代わりに、その長大な尻尾の先端だけが『ピコピコ』と動き、返事をしていた。
 今日はハールートの意外な一面を見た気がするけれど……こういう面はアリアちゃんが言う様に、確かに可愛いかもしれない。
『――では、今日は失礼しますね? このくらいの時間までは大抵、執務室にいますので。どうかお気軽にご連絡ください♪』
「ええ、ありがとうレミリア。また連絡するわ」
「またねっ、レミリアおねえさん!」「――また、ね?」
 ハールートの様子に苦笑しながら言うレミリアに、フィアナに続いて見送りの言葉を贈る子供たち。寝ているウィルも参加させようと、抱え上げ直すイリスが微笑ましい。
『じゃあな、カリアス。いろいろ大変だろうが、まぁ頑張れや』
「――あはは。楽しくやってるから大丈夫だよ。そっちも元気でね、義父さん」
『あいよ。……そ、それでだな。お前の娘であり俺の孫でもあるイリスちゃ――』
『――では失礼しますね? それでは~』
『教皇ッ!? また俺まともに話してない……ちょっ!? 待っ――』

 ここで、無情にも映像は途切れた。

「「「「 ………… 」」」」
『……不憫(ふびん)な』
 発する言葉に困る僕たち。ただハールートだけは感情移入できる部分がある様で、心から同情の言葉を(つぶや)いていた。
「――さ、さて! 少し遅くなったけど、お昼食べに行きましょうっ!」
「そ、そうだね! 早く食べに行こう!」
「う、ウィルは何を食べるんだろうっ!?」
「……えっと。ハールートは、なんでもたべたよ?」
『う、うむ! 幼体でも基本、何でも食せる。当然、毒物や固すぎる物は無理だが!』
 無理なテンションで会話をし、何も無かった事にした。約一名以外。
 ……アリアちゃんのマイペースっぷり、相当なモノだと改めて思い知りました。


(SIDE イリス)


「みぃ……」
「 ? どうしたの、ウィル?」
 ウィルが起きてから、みんなでお昼ごはんをたべています。
 わたしたちは、もうほとんどたべ終わったのですが……元気のない声をだしたウィルのお皿をみると、まだ残っていて……。
「あれ? もしかして、お肉たべれないの?」
「みぎゃ……」
 わたしが訊くと、ちっちゃな声をだして『こくん』ってうなずきました。
「あら? でもハールートは『基本的に最初から何でも食べれる』って言ってたわよね? この子は違うのかしら……?」
「んー……どうなんだろ? ――ウィル? ちょっと口開けてみてくれない?」
「みぃ? みぎゃっ」
 言われてウィルが口をあけると――おとうさんは、口の中をのぞきこみます。
「んー……歯並びを見る限り、生態としては雑食で間違い無いね。――肉を食べれないのは、嗜好(しこう)の問題だと思う。……個人的なモノか、種族的なモノかは知らないけど」
 お皿をみたところ――ウィルはたぶん、お肉を一口もたべていません。
 たべて『おいしくない』って言うのは仕方ありませんが……たべないで『イヤ』って言うのは、作ったヒトにも、お肉になった動物さんにも失礼だとおもいます。
「――ウィル? 一口だけでも、たべてみよ? それでどうしてもダメなら、あとは残してもいいから。……ね?」
「…………みぎゃ」
 おそるおそるお肉を一切れ、口に入れました。『もぐもぐ』ってして――ごっくん。
「――どうだった? ……まずい?」
「みぎゃっ」
 ウィルは、首を横にふりました。でも『おいしい!』って感じではないので……『たべれないこともない』っていうふうにみえます。
「うんっ。じゃあ――残りもたべちゃお? ぜんぶたべれたら、わたしの果物、ちょっとわけてあげるからっ。――ね?」
「 ! みぎゃっ♪」
 ウィルはうれしそうな声をだすと、残りのお肉も口にいれはじめました。
 ――このまま、ニガテじゃなくなるといいなっ♪
「……驚いた。イリスちゃん、もうしっかり『お母さん』してるじゃない」
「んっ。おねえちゃん、おかあさんみたいだった……」
 そう言ったフィアナさんとアリアちゃんが、すごくやさしい笑顔をむけてくれます。
 ……えっと。『おかあさん』っていうのは、やっぱりまだわからないけれど。
「ただ……元気におっきくなってほしいなって、思っただけだよ?」
 いっぱいたべたほうが、きっと早くおおきくなれます。
 そんなことを考えていたら、おとうさんが頭をなでてくれました。
「――うん、それでいいんだよ、イリス。じゃあ……そんなエライ『お母さん』と、苦手な物もちゃんと食べられた良い子には、後でオヤツを少し追加しちゃおう」
「わっ♪ ありがと、おとうさんっ!」「みぎゃあっ♪」
 ウィルも、またうれしそうな声をあげます。
 ……ちゃんとウィルの『おかあさん』にもなりたいけれど――やっぱりまだ、おとうさんの『子ども』でいたいとも思います。
「……あはは。やっぱりカリアスの親バカっぷりには勝てないのね――って、あら? どうしたの、アリア?」
「ウィルがお肉、あんまりたべないなら……そのぶんわたし、いっぱいたべる……よ?」
「…………もっと食べたいなら、増やしてあげるから。食べ過ぎには気を付けるのよ?」
「んっ。ありがとう、おかあさん……♪」
 ……実はアリアちゃん、意外とたくさんたべるんです。
 よくたべるだけじゃなくて――よく風の精霊さんといっしょに運動してたりもするみたいです。だからもしかすると……あっという間に、わたしはぬかれちゃうかも……?
「あははっ、沢山食べて大きく――あ。……ごめんフィアナ、少しいい?」
「いいけど……どうしたの?」
 ――なんでしょう? おとうさんがフィアナさんといっしょに、部屋の外に……?
「……アリアちゃん。ちょっと、ウィルをみてて?」
「――ん、わかった……」
 気になるので、わたしもついて行きますっ。
「あ、イリスちゃんも来たのね。――それでカリアス、何の話?」
「……うん。ウィルの話なんだけど……今、ご飯食べたよね?」
「うん、いっぱいたべたよねっ」
 お肉はニガテでしたが、それ以外――お野菜やパンは、いっぱいたべてました。
「食べたからには『出す』んだろうけど……ウィルのトイレ、どうしよう?」
「「 あっ 」」
 そういえば、どこでおトイレしてもらうかも考えていませんでした。
「……そうね。普通のトイレに連れて行くべきか、動物みたいにトイレ用の砂場を作るかの時点で問題よね……」
「その前に動物の赤ちゃんだと……その、刺激与えてあげないと出ないって聞くし。そもそも排泄関係が普通の動物と同じかっていう時点で……」

 そういえば……ハールートさんは、竜は何もたべなくても大丈夫って言ってました。
 たべる物がなければ、精霊さんとの力のやりとりで成長できる。でも子どもの内にちゃんとたべないと、運動や飛ぶことがニガテになることもあるって……。

「――あ。もしかしたらアリアが、小さい頃のハールートの世話で知ってるかも? それと……ご当人は、確実に知っているでしょうけど……」
「……ハールートに『小さい頃はトイレどうしてました?』とか……訊ける?」
 ――やめてあげたほうがいいと思いますっ!
 結局、まずはアリアちゃんに訊こうってことになりま――

 ――パタパタパタパタ
「み! み! み! みっ……!」

 ちっちゃな羽の音と、あわてるウィルの声。それと、それを先導するような風の精霊さんのケハイ。それから、それを追いかける足音は……アリアちゃんでしょうか?
 ウィルはわたしたち――のまえを通りすぎ、廊下を飛んでいきます。そして『ある扉』の前につくと、開けて中にはいり――扉が閉まりました。

 その扉に書かれている字は――『トイレ』。

「「「 ……………… 」」」
 閉まった『扉』をみながら言葉をなくしているところに、アリアちゃんがきました。
「――どうしたの……?」
「え、えっと……アリアちゃん? ウィル、どうしたの……?」
「あわてたかんじで、とんでいった……。たぶん、トイレ……?」
 それを聞いたわたしたちは、トイレの扉のほうに向かいます。
「……カリアス、トイレの場所って教えた?」
「いや、教えてない。――イリスは?」
「わたしも……あ、でも。さっきウィルのまえを、風の精霊さんが飛んでたよ?」
 トイレまえに着いたわたしたちは、扉に耳を近づけます。
『ぅみぃー……♪』
 ……中からは、安心したような、気もちよさそうなウィルの声。
「……用を足してるのは間違い無いわね。精霊に誘導されて来たって事……?」
「それは……手が掛からなくて助かるけど。でも後始末とかは?」
 そんなとき、中でまた精霊さんが動きました。こんどは……?
「――水と……火の精霊さん? あたたかい水を出してるみたい……?」
「温水を? なんで――……まさか『洗ってる』の?」
「――あ。こんどは……火と風の精霊さん?」
「…………乾かしてる、のかな? 小さくても、流石は竜だね……」
「でも……ハールートのときは、こうじゃなかったとおもう……よ?」
 じゃあ、ウィルが特別なのでしょうか?
 と、そんなお話しをしていると、トイレの扉があきました。

「みぃ~♪ ……みぎゃっ?」
 トイレから出てきたウィルは、わたしたちが自分をみていることに気づいて、『なにしてるの?』って、首をかしげました。そのまわりには、ウィルを守るように精霊さんたちが飛んでいます。
「えっと……精霊さん、すがたをみせてくださいっ」
 わたしがそう『お願い』すると――『赤』、『青』、『緑』、『黄色』の光が生まれて――それが、小さなヒトの形になっていきました。
「……精霊の具現化を簡単に。相変わらずトンデモナイわね……」
わたしはただ、精霊さんたちに『お願い』しただけなんだけど……とにかく、いまはお話しを聞くのがさきですっ!
「――ウィルのお世話、してくれてるんですか?」
 精霊さんたちは『任せてっ!』って、やる気まんまんです。
「じゃあ――うちの子を、よろしくお願いしますっ」
 わたしがおじぎをして言うと、『がんばるよっ!』って言って、つよく光ってから、すがたを消しました。
「――食べ物と住処(すみか)以外の手間は、一切かかりそうに無いわね」
「……うん。ウィルも精霊さんも、とってもいい子たち……」
 すこし呆れたみたいに言うフィアナさんに、アリアちゃんがちょっと楽しそうに言いました。
「――さて。心配事も無くなったところで……イリス、午後どうする? 予定だと聖術の勉強と練習だったけど」
 おとうさんのお仕事がないとき、わたしはたまに聖術をおしえてもらっています。
 わたしの資質『精霊の愛娘』とちがって、『聖女』の方は『術』をつかう資格、みたいなものらしくて。だから、ちゃんと使うにはお勉強と練習がひつようだからです。
 ――このまえみたいに、アリアちゃんやおとうさんがケガをしたら……絶対に、どんなケガでも治してみせます……!
 ……だけど今日はウィルが来ました。それに、お天気もいいですし――
「――今日は、ウィルといっしょにお散歩してきたい。……ダメ?」
「うん、いいよ。僕も少し時間あるし、一緒に行くよ。――フィアナとアリアちゃんも、一緒にどう?」
「そういうのも、たまには良いわね♪ アリアも行くわよね?」
「うんっ。……あ。――ちょっと、いきたいところがあるんだけど……いい?」
「アリアちゃん、どこに行きたいの?」

「――うん。ちっちゃなお花、いっぱいとれるところ……ない?」


(SIDE レミリア)


 ウィル君の誕生、それに関するお話をした日の夜。
 誰もが寝静まった頃、私は転送珠を使い『その場所』に転移しました。
『――ほぅ、お主が単身で来るとはのぅ?』
「そんな事を言いながら――私が来る事、予想していましたよね? ハールートさん」

 ここは、イグニーズ遺跡の一区画。我がトリティス教国の守護竜にして――私たちの友人となってくれた、古竜ハールートさんの住処。
 以前来た時に、お兄様たちにはもちろん、おじさまにも気付かれない様に転送珠を隠しておき――今宵はそれを用いて、お話しをするためにやって来ました。
『ふぉっふぉっふぉ! 国の長として、話したい事があるのだろう? それに、我も訊きたい事があるのでな』
 ……やはり最初から、『我々の隠し事』に気付いていたみたいですね。では――まずは軽い所から話し始めましょうか。
「ハールートさんは――ウィル君の種族を何だと思いますか?」
『ほぼ確実に、光竜であろうな』
「――あら? こちらも確信をお持ちでしたか。……根拠を伺っても?」
 状況的なものと、イリスさんに秘められた謎。それらを考えると、高い確率で『光竜』だとは思っていましたが――ハールートさんは、何か確証がある様です。
『――イリスの持つ資質である『精霊の愛娘』と、我ら竜種の『精霊の支配者』。具体的にどう違うか知っておるか?』
「違い――ですか? 支配力・効果範囲ともに『支配者』の方が上、という事は聞いておりますが……」
『確かに、それに間違いは無い。我らは精霊に対する絶対的な命令権を持つからな。だが……それは、精霊に慕われている事と同義ではない』
「――なるほど。『精霊の愛娘』は、精霊に愛される存在。つまり……精霊たちは命令されずとも、イリスさんを慕い集まる。そういう事ですか?」
『うむ。――術の最大火力という面では、イリスは我に勝つ事は出来ぬ。だが、発動速度や精確さという面では――おそらく、イリスは早々に我を抜くであろうな』
 ……なるほど。一長一短、といったところなのですね。そして――これで、なぜ今この話をしたのか、その理由がやっと見えてきました。
『ウィルの能力は『愛娘』のものに近い。恐らく、何らかの『祝福』であろうな』
 神の従者といわれる光竜こと『天聖白竜』。その幼体というのなら、祝福を受けているのはむしろ当然といえます。
「お話しいただき、ありがとうございました。では――今度はそちらの『訊きたい事』の方、お願いいたします」
『――うむ。ウィルの話に関係するのだが――』
 そう言い、尚も訊く事に躊躇を見せたハールートさんでしたが……意を決したらしく。

『――恩人を詮索するのは気が重いのだがな。……イリスとカリアス。特にカリアスは何者なのだ?』

「……やはりその件でしたか。――ですが、イリスちゃんの事はよろしいのですか?」
『イリスの方は――おそらく、特殊な人造生命体であろう? そして、それに魂を吹き込んだのがカリアスである以上……イリスの謎はカリアスに繋がるのではないか?』
 ――さすがは、永い時を生きておられる竜ですね。話が早くて助かります。
「正直に言うと――イリスさんに関しては我々も把握出来ていないのです。……ですから、訊かれても困る所でした。それでお兄様の事ですが――どこに疑問を抱きました?」
『――生まれながらにして知能が高い竜種に、『刷り込み』は有り得ぬ。……あの場には同族たる我や、竜種と共感しやすい様に調整された人造生命体であるアリアも居た。それにも(かか)わらずウィルに――『天聖白竜の幼体』に『親』と認識されたのだぞ?』
 ……それは確かに、疑問を抱くには十分すぎる状況ですね。
 そして同時に――お兄様の素性を知る私にとっては、ウィル君が光竜であるという、更なる根拠の一つにもなりました。
「――では、お話しいたします。……ですが、そのお話をスムーズに進めるためにも、私の方から質問させていただけますか?」
『む……? うむ、よかろう』
 一瞬だけ怪訝(けげん)な表情を見せたハールートさんですが――すぐに納得した様な顔で、承諾いただけました。……おそらく、この時点で展開に予想がついたのでしょう。
「――天の双女神を崇める我々の『トリティス教』は、現在のこの世界において、最もポピュラーな教義となっております。その上で――」
 ここから話す事は、教義に反する『事実』。ですがそれは、ただの確認に過ぎず。

「――この世界の真なる主神は、何を司る神か。ご存知でしょうか?」

 私の問いに、永き時を生きる古竜は、『やはり』という顔をして。
 そして私を見据え――当たり前の事、そういう様子で口を開く。

『我の誕生より前に御隠れになられた――『大地母神』、であろう?』

「……やはり、ご存じでしたか。――ちなみに、現在の『双女神』が主神と崇められる様になった顛末などは?」
『――それは知らぬ。精霊たちは世界に起きた事象を語る事はできるが、人の文化や技術を記憶に留める事はほとんど無いのでな』
 ――という事は旧文明や『空白期』の顛末(てんまつ)は、ご存じないのでしょうね。
 それでしたら……今後の事も考えると、全てを話しておいた方が良いでしょう。

「――では、先に結論から言います。――かつての主神『大地母神メティス』を崇め、その直接の祝福を受けていた旧文明の王家。その末裔が、お兄様です」

『……なるほど。ウィルが『親』と認識したのは――血に宿る主神の力ゆえ、か。ならばお主ら、トリティス教の教皇家は――』
「はい。……メティス様が御隠れになられた後、崩壊した旧文明を立て直そうとした国。その王家が、私の祖先になります」
『……つまり、文明の立て直しに神の名を使い――それを主導した者たちが国の長となった、という事か』
 そう言ったハールートさんに、責める様な気配は無く。むしろ――先を促す様に、穏やかな眼差しを向けてくださいます。
「――はい。……では、これより話す事が、教皇家に伝わる顛末です」
 その話は――歴史に埋もれた、人々の汚点。我々の犯した、大罪の記録。
 それを語る事を、とても気が重く感じました――

      ◆      ◆

『ふむ……なるほど、これでやっと得心が行った。精霊たちの記憶とカリアスたちの話す世界の常識。少々差異があって、どこまで話すべきかで悩む事が多々あったのだ。これで我が悩みも解消される。――礼を言うぞ、教皇レミリアよ』
 …………あら? ――相当な覚悟を以て語ったのですが……当のハールートさんは、責めるどころか、スッキリとした表情で、お礼すら言ってきました。
「あの……? 結構な後ろ暗いお話だったのですが……何も言わないのですか?」
 戸惑いながら訊く私に、ハールートさんが顔に浮かべる表情は――苦笑でした。
『確かに、人の犯した大きな汚点、ではあった。――だが我にとっては、『今更』と思える話であったからな』
 ……考えてもみれば。ハールートさんはアリアさんを人質に、古代の人々によって封印されていたわけで。つまり――過去の人々への印象は、最初から『地の底』。
 それにも拘わらず、我々の友人になってくれたという事は――過去と今を切り分けて考え、『今の我々』を、信用してくれているという事で。
『――最初から、過去をどうこう言う気は無い。……特にそれが、先人たちの罪を背負い、覚悟を持って生きておる者なら、なおさらだ』
「……ありがとうございます、我らが守護竜様。――罪を背負う一族の長として、心からの感謝を……。――お蔭で、少し心が軽くなりました」
『――カリアスたちにも言えぬなら、いつでも来るが良い。聞くだけならば、我にも出来よう』
「はい。ありがとうございます、ハールートさん♪」
 ……本当に、この方が味方になってくれた事は望外の幸運でした。お兄様たちには、心から感謝しなければなりませんね。
『――さて。代わりというわけでもないが……少々、相談に乗ってはくれぬか?』
「……はい? ――ええ、私に出来る事でしたら……」
 気まずそうに言うハールートさんの表情からは、なにか今までとは違う類の深刻さが窺えます。具体的には――深刻さはあっても、緊迫感は無い……?
 と、ここまで考え……もしかしてと、思い当たる事がありました。
 実は今宵、ここに来てハールートさんと正対してから、ずっと気になっていた事がありまして。――なんとなく、触れないでいたのですが。
「……違っていたら、ごめんなさい。――その角に掛かる、花冠のことですか……?」

『…………うむ、昼間の話の流れでな。アリアが作り――『ほら、かわいい』と……』

 ――なんと言えばいいのでしょうか……?
 微笑ましいのですが……当人としては不本意。かと言って慰めに『子供のする事ですから』などと言えば、彼女を軽視していると――ああ、その手がありますか。
「――ハールートさんとしては不本意かもしれませんが……アリアさんはとっても優しい、良い子ですよね♪」
『う、うむ! それに異論などあろうはずも無い!! アリア自らの手で作られし冠、我は心より嬉しく思っておる……!』
 ――よし、上手くやりすごせました……! 爺バカゆえか、少々大げさに感極まっている気もしますが、この調子で――
『――それで、本題なのだが。……我は精霊に命ずる事で、この花冠を半永久的に枯らさぬ事も可能なのだが……』
 ……どうやら先の関門は、序の口だった様です。

『――我はこの花冠を、いつまで身に付けていればいいのだろうか……?』

 ……ハールートさんは、我が国にとって重要な存在。そして私やお兄様たちにとっても、とても大切な友人。それは重々承知の上で、それでも尚。
 ――『めんどくさい』と思ってしまった私を、誰が責められるでしょう……?



   ◆◆◆次回更新は8月9日(金)予定です◆◆◆

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