第二編 三章の1 ある日の草原にて

作者:緋月 薙

三章の1   ある日の草原にて
(※今回は 幕外2 団長降臨 ――彼女の本性―― と合わせて2話分の更新になります)


(SIDE カリアス)


 ある初夏の朝――ここは、イグニーズの街壁の外。
 この辺りから街の囲む山々の(ふもと)までは、広く牧草地となっていて。
 初夏と呼べる季節の今は青々とした草木が茂り、それを放牧された羊や牛たちが食むという、のどかな風景が見られる。

「……みぎゃ?」「めぇ?」
 少し離れた所で、ウィルが仔羊と顔を合わせていた。……お互いに『このイキモノ、なんだろう?』といった様子かな?
「――めぇっ!」
「みぎゃ!?」
 仔羊が、ウィルに頭突き。仔羊の方が少し大きいし、相手は格下と思ったのだろうか。
「――みぎゃぁあッ!」
「めッ!? めぇぇぇええッ!!」
 そこそこ痛かったらしいウィルが怒って、まだ小さい牙を剥き出して追いかける。
 やはり肉食(もできる雑食)と草食の差か、慌てて仔羊は逃げだして。
「――みぎゃぁっ♪ …………み?」
 勝ち誇るウィル……だけど仔羊が逃げた方から『どどどど――』と音が聞こえ始め。

 親羊があらわれた。

「ンメェェエエッ!!」「めぇえっ!」
「みぎゃああッ!?」
 慌てて走って逃げるウィル。……飛べばいいのに。もしくは僕の方に逃げてくるか。
「う、ウィル! 飛んでにげてっ!」
「っ!? み、みぃ! ――みぎゃあ……♪」
 見ていたイリスが、慌ててウィルに助言。
 ウィルは『あなた天才ですか!?』という顔をしてから空に逃げ――自分を追いかけた羊親子にむけて『にっこり』といった顔を向けて。
「め、メェッ!?」「め、めぇぇ……!」
「――みぎゃぁあッ!!」
「「 め、めぇええええええッ!? 」」
 上空から追いかけるウィルに、羊親子は大慌てで逃げ出した。
「――みっ! ……………………み?」
 今度こそ勝った! と思ったらしいウィルだが、再び『ズドドドド――』と音が――

 () (とう) の 如 き 羊 の 群 れ が 現 れ た 。

「「「「「 ンメェエエエエエエエエエッ……!!」」」」」
「みぃぎゃああああああああああああッ!?」
 慌てて飛んで逃げるウィル。……低空飛行のままで。
 ――高く飛べばいいのに。
 ……本当にマズそうだったら助ける準備だけをして、僕は傍観している事にする。
「う、ウィルっ! もっと飛んでぇっ!」
「み、みぎゃあッ……!」
 イリスに言われ、小さな羽を必死に羽ばたかせ。
 ……高度はそのまま、ちょっと速度が上がった。
「「「「「 メェエエエエエッ!! 」」」」」
「みぎゃあああああっ!?」
「そ、そうじゃなくてっ! そっちじゃなくてっ……!!」
 高度ではなく速度を上げても、引き続き追われるウィル。イリスも『上に』と言えばいいのに、慌ててしまって言葉が出ないらしい。
「みっ!? みぎゃあっ……!」
「――え? こ、こっちでもないよ!? こないでえええええッ!!」
 ……『そっち』じゃないと言われて『こっち(イリスの方)』に来たウィルに、イリスも慌てて逃げ出す事態に発展。――そろそろ、助けないとマズイかな?

 ――そう思って動き出したとき。突如、草原に大きな影が生まれた。

「「「「「 ――メ? …………メェエエエエエエエッ!?
」」」」」
 影に気付いて見上げた羊たちが、驚愕の声と共に散り散りになって逃げ出した。
 そして上空から舞い降りてきたのは――巨大な真紅の竜。その背中には二つの人影。
 ハールートと、その背中に乗るフィアナとアリア。

 実は、今日は別にピクニック等に来たわけではなく、ある『作業』をしに来ていて。
 僕は、ここで放牧を行っている酪農家の方と打ち合わせ。
 それが済んで、『その作業』を実行するハールートをイリスに呼んでもらい。
 イリスと共に作業補佐のフィアナと……折角だからと一緒に来る事になった、アリアとウィル。――ちょっと『家族でお散歩』気分なのは、否定できないかな……?

『ふぉっふぉっふぉ。危ないところだったのぅ? イリス、ウィル』
「――おねえちゃん、ウィル……だいじょうぶ……?」
「ハールートさん! アリアちゃん!」「みぎゃっ! みぎゃあ♪」
 着地したハールートと、その背中から綺麗に飛び降りたアリアが声をかけると、眼を輝かせて駆け寄っていく。――もっと早く助けに動いた方がよかったかな……?
 アリアに続いて飛び降りてきたフィアナは、非難の表情を向けてきていて。
「……カリアス、なんで助けに行かなかったの?」
「あ、あはは。助けに行く準備はしてたんだけどね? ……あんまり深刻な状況じゃなかったし、端から見てると面白かったから、つい――」
「みぎゃあっ!?」
 僕の言い訳に、ウィルが『ヒドイよッ!?』といった声をだしたので、慰めるために抱き上げ、頭を撫でてあげる。
「うん、ごめんね? ……だけど今度から、危ない時は高く飛べばいいと思うよ?」
「…………みぎゃ!?」
 ちょっと考えてから『そういえば!?』と声をあげるウィル。
 ――うん。このちょっと残念なところも、ウィルの可愛いところだよね。
「……おにいさん。……あんまりウィルをいじめちゃ、だめ」
「いじめるつもりは無かったんだけど……ごめんね、気を付けるよ。――ウィルとイリスを助けに来てくれて、ありがとうね?」
「…………ん」
 アリアに謝罪と感謝を告げて、頭を撫でると、くすぐったそうにしながらも、嫌がっている様子はない。
 この前の一件から『子供扱いし過ぎるのを止める』という意味も込めて、呼び方を『アリア』に変えたんだけど……こういう時は、やっぱり子供扱いしちゃうわけで。
 ――こういう時なら、嫌がられない内は、いいかな?
「……おにいさん」
「――あ。ごめん、嫌だった?」
「……ううん。……おねえちゃんたち、たすけようっていったの、おかあさんもだから。……おかあさんも、なでてあげて……?」
「「 ……え? 」」
 予想外の発言に、思わず顔を見合わせ――だけどなぜか、お互いすぐに視線を逸らす、僕とフィアナ。
「あー……いや、ほら。フィアナはそういうの、嫌だろうし……ね?」
「……それなら、だいじょうぶ。――ね、おかあさん……?」
「――へっ!? あ、え、え~と……?」
 言われたフィアナの様子は……確かに、戸惑ってはいても嫌がってはいない様で。

「……おかあさんに『なでなで』を所望します」

「しょ、『所望します』って……」
 ……この子は表情の変化に乏しいから、どんなに内容がアレでも、至って真面目に聞こえるというか――早い話、非常に断りにくいわけで。
「あの……? 本気、なのかしら……?」
 ――フィアナの方も、嫌ではなさそうだし。アリアも引きそうにないし。ならば仕方ないだろう、うん……!
 ……心の中で、なぜか自分自身が不自然に思うほど力強く言い訳をしてから。
「え、っと。……フィアナ。イリスとウィルを助けてくれて、ありがとう」
「――ど、どういたしまして……」
 頬を紅く染めてうつむき、大人しく撫でられるフィアナ。……手から伝わる温もりと、サラサラの髪の感触が心地よくて、なかなか止めづらく――あ。
「……あれ? フィアナ、髪型を変えたのかい?」
 今頃気付いたけれど、右耳の近くに小さな三つ編みが出来ていて。
 近くで『……おねえちゃん、ちょっとあっち、いこう……?』『うむ、その方が良いかもしれぬな……教育上』『――え? おとうさんたちは?』なんて会話が聞こえた気もするけれど――今は後回し。
「っ! ……え、ええ。今朝少し……。どう、かしら?」
「うん、似合ってる。綺麗だよ、フィアナ」
 三つ編みを留めているリボンも、フィアナの綺麗な髪に映えて可愛いらしい。
 それに耳元がスッキリして、フィアナの整った顔立ちがはっきり――って……。

 ――今、僕は何を言った……?

 なんだか、ごく自然に『綺麗だ』とか言ってしまった気が……?
 ――ま、まぁ、フィアナならこの程度の褒め言葉、言われ慣れてるだろうし!
 実際、数々の浮き名を流している聖殿騎士の同僚が、美辞麗句を並べて口説いている場面に遭遇した事もあるけど……フィアナは見事なまでの無反応で受け流していた。
 だから『そう? ありがと』か、『何バカな事言ってるの?』で終わり。
 ……それはそれで複雑な気分だ、などと思いながら様子を窺うと。
「ッ!? ~~~~ッ!!」
 驚愕の表情で見上げてきていて……眼が合うと、耳まで真っ赤にして俯くフィアナ。
 ――なんでこんな真っ赤になって……?
 こういう姿を見てしまうと、こちらも頬が熱くなるわけで……!
 しかも、恥ずかしげに上目遣いで様子を窺う視線が、また合ってしまい。
 ……速まる鼓動の音に後押しされる様に。僕はフィアナの頭を撫でていた手を、フィアナの耳、そして頬に向かって動かし――

「――みぎゃ?」

 顔の高さまで飛んできたウィルが、『なにしてるの?』と首を傾げていた。
「「 ッ!? ――――ッ!! 」」
 至近距離から声が聞こえて驚き――それ以外の理由もあるけど――戦闘時と同等かそれ以上の速度でバックステップ。慌てて距離を取る僕たち。
「っ、あ、あーっと……イリスたちはどこに行ったんだい?」
「 ? みぎゃっ」
 慌てて誤魔化す僕に『
? 』といった顔をしながら、ウィルが示す方向。
 そこには、こちらに背を向けるハールートの巨体と――その向こうから声が。

「アリアちゃんっ! ここらへんのお花も、花冠につかえそうだよ?」
「……うん。これで、ハールートのかたほうのツノにも、冠つけれる……♪」
『…………ソレハソレハ、トテモ光栄ニ思ウ。アリガトウありあヨ……』

 ――いけない。ハールートの声が、生気の全く無い棒読みになっている。……早く助けに行ってあげた方がいいだろう。
「――あー、えっと、フィアナ……?」
「な、なにかしら……?」
 声をかけたはいいけれど、何て言えばいいのだろうか。
 ……謝るのは、何か嫌だ。『無かった事にしよう』は……もっと嫌だ。
 目の前の、少し警戒気味なフィアナに告げる言葉は――ああ、そうか。そういえば最初はそもそも、お礼の代わりの『なでなで』だったんだっけ。……それなら。
「――いつも感謝しているよ。ありがとう、フィアナ。……これからもよろしく」
「……! ――仕方ないわね。……これからも、フォローは任せなさい?」
 少し驚いた顔をしてから……言葉とは裏腹に、優しい笑みで言ってくれる。
 お互いに笑い合ってから――ハールートに声をかける。
「お待たせしました、ハールート。こちらはいつでも大丈夫ですよ!」
『 ! おお、待っておったぞ……! すまぬなぁアリアよ。仕事を始めねばならぬゆえ、花冠はまた、次の機会に――』
「……わたしは、おしごとないから。……ウィルといっしょに、かわいいの、つくってるね……?」
『…………ゴ厚意、染ミ入ル程ニ、アリガタク……!』
 ハールートの瞳から、光が消えた。
 ……例えば『ウィルの分を先に作ってあげてくれない?』とか言えば、この場は凌げるかもしれないけど……所詮、先送りにしかならないわけで。
 それに――本当に嫌なら、いくらアリア相手でも断る。実際、ハールートは『花冠』を喜んではいるみたいで。……ただ、羞恥心やプライドとの葛藤が激しいらしい。
 ――まぁ、文字通りの『嬉しい悲鳴』ってとこなのかな?
『悲鳴』に含まれる絶望感が、尋常ではなさそうだけれど。
「……おにいさん」
「――ん? なんだい?」
 と。『爺バカの悲哀』について考えていると、アリアがいつの間にか近づいてきていて。
 僕の問い掛けに、アリアは一度フィアナの方へ視線を送ってから。

「……ぐっじょぶ?」

「…………なんの事かな?」
 いつも通りの眠たそうな無表情で、首を傾げながら言ってきたアリア。
 イヤな汗を流しながら咄嗟(とっさ)にとぼけると、何も答えずウィルの方へ駆けて行く。
 ――本当に、この子は何を考えて……何処から何処までを狙ってやってるんだ……?
 軽く戦慄(せんりつ)しながら、小さな少女を目で追っていると――
「……ウィル。ああいうとき、ちかくにいったり、はなしかけちゃダメ……だよ?」
「みぎゃっ?」
 ――本当に何処まで狙って……!?
「おとうさん、どうしたの? お仕事するんだよね――って、え?」
 怪訝(けげん)な様子で首を傾げるイリスに――思わず、その頭に手を置いて撫でる。
「――えっと、なんで撫でるの……?」
「……うん、イリスは癒されるなーって思って、ね?」
「 ? 」
 さらに首を傾げるイリス。――うん。ぜひ君は、そのままの君でいてください。
「――こほん。では始めますか、ハールート」
『……状況的に、少々釈然とせぬ部分はあるが――引き受けた任は全うしよう』
「完成したらアリアも喜ぶんだから。頑張りましょう、ハールート?」
 イリスに(いや)された僕と、アリアに少々追い詰められている自分という差に、少し不機嫌かつテンション低めなハールート。
 苦笑しながら励ますフィアナに続き――イリスも声をかける。

「――がんばって、りっぱな温泉つくろうね、ハールートさん!」

 ……と、そんなわけで。イグニーズの街の傍に、これから温泉を作る事になっている。
 キッカケは数日前。いつものハールートの住処での訓練の後の、何気ない会話。
 例の『覚悟』の件は保留にして、エリルとアリアには基礎訓練を行っているのだけれど……夏が近づくにつれて、日増しに暑くなってきていて。
 汗をかいた二人に、『ちゃんと汗の始末をする事』と言った後に、フと思いつき――
『そういえば、ここら辺って火山帯ですよね? どこかに温泉って湧いてないですか?』
『――む? 火山活動は完全に止めていたから湧いてはおらぬが……作れるぞ?』

 そんな、ハールートと気軽な会話で始まり。この件を街の方々に話したところ、満場一致でトントン拍子に話が進んでしまった、という経緯。
 映光玉で聖都に居るレミリアと、出張中のフォルカスさんにも話して許可を取ってあるので、問題は無い……というか、『楽しみにしてます!』との声までもらっている。
 とはいえ、ハールートが行う大規模な作業になるため街中には作れず、それなら街を訪れる旅人なども入れるようにと、街外の街道沿いに作る事になって。
 旅人からは普通に入浴料をとり、イグニーズの住人と冒険者は半額以下。他に街の宿の利用や店で買い物をした場合に割引される、というシステムになる予定。

『――では、始めるとするか。我は湯の流れを作ればよいのだな?』
「ええ。湯船は私とイリスちゃんが作るし、細かい設備は他の人たちが後から――って、話なのよね、カリアス?」
「うん、そうなってる。お昼過ぎから来る予定だね」
 ハールートには温泉を湧かせてもらい、さらに温泉から溢れたお湯や排水が流れ落ちる経路も作ってもらう事に。地下水脈を操作する以上、引き上げたお湯の始末も考えないと、周辺環境にどんな影響が出るかわからないし。
 休憩所や脱衣所などの建物や、お湯を管理する細かい設備、浴場の仕上げ作業などは、後から職人さんが建ててくれる。
「了解。――じゃ、さっさと終わらせちゃいましょうか、イリスちゃん?」
「うん! じゃあ、土の精霊さんにあつまってもらうねっ」
 イリスはそう言い、目を閉じて祈る様に胸の前で手を組むと――イリスの前に広がる草地が浅く、だけど広範囲で陥没する。
「――うん、いいわよイリスちゃん。…………あとは任せて」
 集まった大勢の土の精霊を、フィアナが引き継いで細かい作業をする。
 イリスが精霊たちへ細かく『お願い』できるなら、一人でも出来るのだろう。
 だけど細かい操作などはフィアナの方が上だし、何よりイリスはちゃんとした温泉施設を見た事が無いため、実作業はフィアナに任せる事になった。
 そうして、事前に決めておいた範囲を整地した後、浴槽用の穴を三つ作るフィアナ。ある程度の間隔をおいて作られたその穴は、二つは同じ広さで、一つはかなり広い。
『――む、三つ? 男女別なら四つ必要ではないのか?』

「――ああ、一番大きいのは混浴です」

『な、なんだと……? アリアの肌を男の眼に晒すのか……!?』
 ……真っ先にアリアだけの心配をするハールート。――気持ちは分かるけれど。
「あ、言っていませんでしたが、基本は水着着用です。二つは隔離して男女別にするので水着は自由ですが、一番大きい浴槽は水着着用の混浴にする予定です」
 全て水着着用の混浴でいいんじゃないか、という意見もあったのだけれど……『異性の眼を気にせずに体を洗いたい』『湯は裸で()かるものだ!』『裸の付き合いに、布など不要!』『壁の向こうでは裸の男と男が。そう考えるだけで……はぁはぁ』などという――少々おかしな意見もあったけど、男女別の部分が必要という意見が多く、こうなった。

 あと『水着』に関しては、このイグニーズでは暑い日に湖で水浴びをする習慣があるため、今でも普通に売っている。
 水棲の魔物の皮等を加工して作られるモノで、伸縮性も高くて透けず、色も多様。
 この国の首都である聖都メティスは海に近いため、素材の確保も容易。さらに海水浴の習慣もあるため、毎年新作の水着が作られ、それらは冒険者や商人によって各地に広められている。
 つまり――冒険者と商人が集まり、水浴びの習慣があるイグニーズでは、聖都で売られる物と同等の質・種類の水着が手に入るわけで。

『――それならば、許容範囲……かも、しれぬ……か?』
「……それでもギリギリですか。水着を纏っての海水浴や水浴びは一般的な文化なのですから。それを今のうちから気にしていたら――」
『そうは言うが、幼い娘こそを好む者もおるであろう? そして――カリアスよ、お主はイリスの水着姿を、堂々と人前に晒せるのか?』
「イリスを、ですか? それはもちろん、普通に――」
 ――少し、想像してみる。
 イリスには、もちろんワンピースの――淡い色合いの水着が似合いそうかな?
 飾り布の付いた可憐な水着を纏い、子供らしくはしゃぐイリス……うん、すごく可愛らしいだろう。そして――

 …………それを、有象無象の野郎共が眺める……?

「――ッ! 何、この殺気!? カリアス!?」「お、おとうさん! なにか怖いよ!?」
 作業をしていたフィアナは振り返り、イリスは恐怖を含んだ視線を向けてきた。
「――え? ああ、ゴメン。なんでもないよ?」
「そ、そう? ……何かあったら言うのよ?」「え、えっと……ほんとに、大丈夫?」
 尚も心配そうな顔をする二人に、改めて『大丈夫だよ』と言い、話を終わらせる。
『――なかなか良い殺気であったぞ、カリアスよ?』
「…………数日の内に女性陣が水着を買いに行くそうなのですが……その際に、フィアナに『くれぐれも……!』と、頼んでおきます」
 ――露出の多い水着は、絶対に許さない……!

 この後、フィアナが整地と地上部分のおおまかな水路を完成させた後、ハールートが地下から温泉を引き上げ、更に排水を地下水脈に流す経路も作り。
 イリスが精霊に『お願い』して、温泉の温度や効能を調整し、作業は完了。
 お昼からはイリスの『歌姫』としての仕事があるので、僕以外はハールートに乗って教会に戻っていき。
 僕は後からやってきた職人の方々に作業を引き継いでから、教会へと戻った。

 予定では、建物や設備の完成まで十日。そこから内装や細かい確認、従業員の打ち合わせ等が行われ、オープンは今日から二十日後を目標にしている。
 ……だけど。その予定が大幅に変わる事を、この時は全く予想もしていなかった。



   ◆◆◆次回更新は8月19日(金)予定です◆◆◆

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