第二編 幕間の2 団長降臨 ――彼女の本性――

作者:緋月 薙

幕外2   団長降臨 ――彼女の本性――
(※今回は 三章の1 ある日の草原にて と合わせて2話分の更新になります)


(SIDEアナザーズ)


 俺の名はエド。
 イリスちゃん親衛隊『幼き女神の守護者(ガーディアン
オブ リトルゴッデス
)
』――改め、イリスちゃんを始めとする幼女を守護する、ロリコン(=炉理魂)紳士たちの新たな親衛隊『幼き神々の守護者(ガーディアン オブ リトルゴッズ)』の幹部の一人。
 この前、思いがけずに古竜殿と知己(ちき)を得る事が出来たため、その功績で昇進。今では活動方針に口を出せる立場になる事ができた。
 これに満足する事なく、今後もロリコン道に精進する所存……!

「――以上が、十日後までの女神様(イリスちゃん)たちの活動予定だ。警備および鑑賞は、いつものシフト通りに。各自、節度のある行動を心掛ける様に」
「「「「「 おうっ! 」」」」」
 十日ごとに行われる定期会合。副長レオナルドの声に、親衛隊員が揃って声を返す。ほとんどが男性ではあるが……徐々に女性隊員も増えて来ている。
 話によると――女性は主に、噂の『自警団団長』が素質のありそうな者をスカウトしてきていると聞く。……何の『素質』かは、()えて訊くまい。
 ――そういえば、未だに会った事が無いな。元・凄腕冒険者で『八つ裂き姫』の二つ名を持っていた、30代の女性、という事までは聞いているが……?
『団長』を知っている自警団員の隊員に訊いても『――ああ、うん。その内分かる。分かってしまうさ……』と、遠い目で誤魔化すのみ。
「シフト変更の希望がある者は――」
 レオナルドの話が定型の注意事項になったため、そんな余計な事を考えていると――

『――すみません。現在ここは特殊な会議中で――あ、あなたはッ!?』

 ……ん? 誰かが来たのか?
 入り口を守る男性隊員(非自警団員。27歳独身の冒険者。『アリアちゃんに虫ケラを見るような眼で踏みにじられたい』と熱く語る紳士)の、何か驚いた声が聞こえてきた。
『こ、ここは関係者以外立ち入り禁止で――え? そ、そりゃ関係者に間違いはありませんが! ……隊の事もご存じ!? ――副長に?』
 幼女専門被虐趣味という性癖の面でも冒険者な男の、妙に動揺した声。
 俺を含む数人は『 ? 』といった表情だが……残り、主に自警団にも所属している面々は『まさか……?』といった、何かを恐れるような表情に。
 理由が分からず、自警団組を訝しんでいると――入口の扉が開き。

「こんにちは♪ 失礼しますね?」

 笑顔で現れたのは――見知った人物。
 この辺りでは珍しい若草色の長い髪を、三つ編みで束ね。穏やかそうな笑みを浮かべる整った顔に、男なら誰もが目を見張る抜群のスタイル。
 仕事のパートナーが女神様(イリスちゃん)であるため(我々にとっては)目立たないが、十分以上に騒ぎになるレベルの容姿を誇る女性。それは――

「「「「「 だ、団長……ッ! 」」」」」
「「「「「 リリーさ――………………は? 」」」」」

 言葉が、割れた。
 俺たちが『リリーさん!?』と叫ぶより早く、自警団組が――『団長』と……?
「…………待たれよレオナルド殿。それはどういう意味だ……?」
 ――確か自警団団長という存在は……猛者(もさ)たるレオナルドをして『怒りを買った者は楽に死ねるか分からない』と言わしめる、恐怖の代名詞たる剛の者だったはず……?

「……どういうも何も、この方こそが自警団団長にして、親衛隊長だ」
「改めまして、自警団団長のリリーと申します。よろしくお願いしますね♪」

「「「「「 嘘だあああああああああああああああああッ!! 」」」」」
 女神様の隣で穏やかな笑みを浮かべて演奏する姿と、自警団団長の『血塗れの猛者』のイメージが結びつけられない者たちの絶叫。そんな光景を、自警団の面々は生温かい視線で見ており。一部の女性隊員は、恍惚(こうこつ)とした視線をリリー嬢に送っている。
 ……俺としては、この穏やかかつ楚々とした女性が『猛者』である事より、この変態集団の長という方が信じられな――
 そんな時、女性隊員たちがリリー嬢の前に進み出てきた。

「隊長――いえお姉さま! あなた様の『本当に、ただの一般観衆で満足ですか? あなたの足は、一歩を踏み出したがっているのではありませんか?』の言葉で、常識の枠を超えてここに至ることが出来ました。本当にありがとうございました……!」
「――あなた方はあの時の……。うふふっ、同志は大歓迎です♪ ――美しいもの、愛らしいものは世界の至宝。共にヒッソリこっそりジックリたっぷり見守りましょう?」
「「「「「 はい、お姉さま! 」」」」」

 ――あ、しっかり同類だわコレ。
 しかも妙なカリスマ性と、問題アリな内面を隠し通せる能力も保有。
 女性隊員の面々には、踏み越えてはいけない一歩というものもあるのだと、声を大にして言いたい。……『お前が言うな』と言われるのはわかっているが。
「しかし……リリー殿。少々お訊きしてもよろしいか?」
「はい? 何でしょうか?」
「自警団団長殿の年齢は、30過ぎだと聞いていたのですが――」

 そう言った直後――まるで空気が重量を持ったような、激烈な威圧感に支配された。

「……あら? 女性の年齢をペラペラ喋ったのは、誰かしら?」
「「「「「 ……ッ!? 」」」」」
 恐慌の一歩手前なこの空間において、唯一穏やかな笑みを浮かべているのは――当然、威圧感の発生源たるリリー嬢。
 ――こ、この女性、笑顔でブチキレられるタイプの人間か……ッ!
「す、すみませんでした! 団長が冒険者を辞めた経緯を話す際、必要でしたので!!」
 レオナルド、必死の弁明。その直後……威圧感は、まるで嘘の様に消え去り。
「ああ、そういう事でしたか。ですが……あまり褒められた行為ではありませんよ?」
「――はっ! 以後は気をつけます……!!」
『めっ!』といった感じで言うリリー嬢に、油汗を流しながら敬礼するレオナルド。
 図らずも自警団員が恐れる猛者っぷりを証明したリリー嬢は、尚も笑顔で続ける。
「私は長命種の血を引いているので、老化が遅いんです。そのせいですね」
「……その髪色で長命種の血――という事は、大樹の民ですか」
 大樹海に住み、土と樹の精霊の祝福を宿すとされる大樹の民。人の数倍を生きるという彼らの『血を引いている』という事は、ハーフか何かなのだろう。
 見た目は20に届くかどうかという歳に見えるのも、これで一応は納得できた。
「――ところで団長。本日はどの様なご用件で?」
 場を仕切り直す様に問うレオナルド。同調するように、隊員たちも(うなず)いている。
「――ああ、そうでした。少々相談したい事があったのと……協力要請ですね♪」
「相談はともかく……協力要請、ですか?」
「ええ。実は、イリスちゃん……女神様からの情報なのですが――」

『ガタガタガタッ!』と、大勢が一斉に動揺した音が鳴り響いた。

 ――そうか! この女性『秘密裏』なのに『直接的』に、女神様自身から情報を集められるのか……ッ!!
 それは確かに、この『親衛隊』の隊長として相応しい。その情報力は、絶大なるアドバンテージを我々にもたらすだろう!
 ……誰に対する何のアドバンテージかは、深く考えない方向で。
「――実はカリアス様の提案で、温泉施設を造る事になりそうなんです」
「……ほぅ? 温泉施設、ですか」
「ええ。守護竜殿が街の方々との友好の証という意味も込め、全面協力する様ですね」
 その話を聞いて――先日、偶然にも協力体制を築く事に成功した、古竜殿を思う。
 ――確かに、その程度なら楽にこなすだろう。そして……主な目的も把握した。
 ……おそらくご家族、特に妹姫様が喜ぶように、だろうと思われる。
「――街役場でも好反応で、早々に建築が決定されそうなのですが……問題が、どの様なコンセプトの温泉施設にするかという点で、意見が割れた様です」
 ……なるほど。この街は冒険者の街。その治安維持担当であり、同時に元冒険者が多数在籍する自警団からの意見は、相当な効力を持つだろう。

「現状、有力な意見は二つ。片方は通常の大衆浴場。もう片方は水着着用で入る、どちらかというと娯楽施設の傾向が強い施設です」

――この街は冒険者が集まる街。よって冒険者を主な客層と捉えるなら、通常の浴場の方が良いだろう。
 だが、人々との友好の証という守護竜殿の(表向きの)意思を()むなら、娯楽施設の方も捨てがたい。
 ……とはいえ。ここの親衛隊員はほぼ全員が冒険者か自警団員。相応の武力が必要となり――多くが程度の差こそあれ、脳筋の傾向を持つ者たち。
「……疲れを癒す目的なら、普通の公衆浴場の方がいいよな?」
「――だな。水着で遊ぶという事なら、暑くなってから湖行けばいいだろ」
「だなぁ。男女別の方が『ノゾキ』の楽しみが――んグフゥッ!?」
 不埒(ふらち)な発言の直後、複数の打撃音が重なった一つの重低音。直後に一人が崩れ落ちた。
 ……とにかく。ここはほぼ全員が働き盛りで独身。よって娯楽施設より、実用的な施設という方向でまとまりそう――

「――女神様の水着姿が一年中」

「「「「「 ……………… 」」」」」
 リリー嬢の短い呟きで、全員が会話を止めた。――さらに言葉は続く。
「そして私は――もし女神様たちと水着を買いに行く事になった場合、この水着を(すす)めようと思っております」
 俺たちの前に提示されたのは――極めてシンプルな、ワンピースの水着が二着。デザインは同じで片方は紺色、片方は白。両方とも、胸あたりに白い布が縫いつけてある。
 ――あの布には……名前を書くのか? しかし『ねん』『くみ』とは……?
「これは東の大陸から伝わってきた『スク水』という物です。この水着こそ、イリスちゃんやアリアちゃんに相応(ふさわ)しいと、私は考えます」
「これが……ですか? 女神様たちにでしたら、もっと可愛らしい水着の方が――」
 静かな熱意と共に語られた言葉に、レオナルドが異を唱える。
 俺も可愛らしい水着の方が似合うと思うし、あわよくばツーピースの――

「仮に可愛らしいビキニを着ていただけたとして。合法的に見続ける事ができます?」

「「「「「 ……………… 」」」」」
 想像してみて――無理だと判断。
 可愛らしい水着を着た女神様など、目立たないはずがない。
 それを集団で凝視する猛者共。……一般人や保護者の方々に、バレないわけがない。
『護衛』と言い切る事も考えたが……背に(かば)うべき要警護者を全員で凝視する時点で、いろいろとアウトなのは確実。
 おそらく――水着の可愛らしさと、継続凝視可能時間は反比例する……!
「この水着でしたら適度に民衆に紛れるため、それを凝視していても、ある程度までバレにくいでしょう。そして……利点はまだあります」
「っ! まだ利点があるのですか!?」

「それは――女神様の成長途上な御身体、そのラインを全て観察できる事です……!」

「「「「「 な、なんだってええええええええええええッ!? 」」」」」
 驚愕の声を上げてから、再び『スク水』を見る。
「――な、なるほど! 飾り布が無い、つまりは体型を隠す要素が無い……!」
「その通りです。……女神様は、これから徐々に成長していきます。その過程を――この水着ならば我々はつぶさに観測・記録する事ができるのです……!」
「「「「「 う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!! 」」」」」
 感激の涙まで流しながら、歓声を上げる。……何かがオカシイ気もするが。
「では我々の提案は、総意で水着着用の娯楽施設型、という事でよろしいですね?」
「「「「「 おおッ!! 」」」」」
 ――文句は一切無い。全員が肯定の叫びを上げる。
「露出面では不足を感じる方も居ると思います。しかしそれは想像で補いましょう!」
「「「「「 おおッ! ただの影からだろうと全裸すら想像してみせる!! 」」」」」
 全員が感激の叫びと鼻血で応えた。
「では建築が始まったら全員で参加。十日での完成計画を、一夜で頑張ってください!」

「「「「「 うお――――――おぅ…………? 」」」」」

 再び叫びで応え――ようとして、何か妙な事を言われた事に気付いた。
「……団長、お待ちを。…………一夜で作れと?」
 我々を代表し、またもレオナルドがリリー嬢に話しかけた。
「ええ。――女神様の水着姿、一日でも早く見たくはないですか?」
「そ、それは当然、見たいに決まっています! しかし、物理的に――」

「何を情けない事を言っているのですか!」

「「「「「 ――ッ!? 」」」」」
 並み居る猛者を即座に黙らせる程の、裂帛(れっぱく)の気合いを込められた声が響いた。
「あなた方は、何があろうと女神様たちを慕うと、決めたのではないのですか!?」
「「「「「 っ! その想いに偽りはありません!! 」」」」」
 信仰を問われた我らは、即座に声を返す。
「たとえ世間に後ろ指を指されようと! ちっちゃい子たちを愛し見守り続けると、決めたのではないのですかッ!?」
「「「「「 ちっちゃい子の為なら命も懸ける! それが我らのロリコン道!! 」」」」」
 ――ちっちゃい子たちのためなら、この命すらも惜しむまい……!
「そうです! あなた方は天も神をも恐れず、小さく幼き女神たちを慕う者!」
「「「「「 その通りだあああああああああああッ!!」」」」」

「そんなあなた方が! 物理法則という名の天が作った法則を恐れるのですか!?」

「「「「「 否ッ! 我らは天すらも恐れず! 神にすら屈さず!! 」」」」」
 女神様たちのためなら、我らに不可能は無い。それこそが我らの絶対正義。
 ――同時に何故か、やはり何かがオカシイ気もするが。
「ならば動きなさい! 来るべき時の為に、万全なる準備を!!」
「「「「「 イエス・マム!! 」」」」」
 そうして、俺たちは動き出した。
 来るべき建築(たたかい)に備え――

「消耗品の類はケチるな!
必要ならば神薬もつぎ込む!」
「予定の四倍の人数が各自三倍速で動けば、当初の十二倍の速度で仕上がるな!」
「なんだ余裕じゃねーか! 一部屋分のグッズを服の下に隠し持つのに比べたら楽!」
「だな! 今回は人間辞める必要は無い!」

 ……フと思う。俺たちは、どこに進もうとしているのだろう、と。
 そして……何をオカシイと思っていたのか、だが。
 リリー嬢は、我々を利用しているだけで、別にオカシくはなく――

 ――一番オカシイのは、我々の頭ではないだろうか?



   ◆◆◆次回更新は8月19日(金)予定です◆◆◆

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