第二編 三章の2 水着にまつわるエトセトラ

作者:緋月 薙

三章の2   水着にまつわるエトセトラ
(※今回は 『幕間の3 水着にかかわるエキストラ』 と合わせて2話分の更新になります)


(SIDE イリス)


「――ありがとうございましたっ」
 そういっておじぎをすると、お店のなかが拍手の音でいっぱいになりました……!

 きょうはリーゼちゃんの家のお店で、歌のおしごとです。
 わたしが立っている舞台のよこには、『護衛』ということで、フィアナさんとアリアちゃん。いっしょにリーゼちゃんとウィルもいます。
 予定していたさいごの曲を歌いおわって、ご挨拶――したところだったのですが。

「「「「「 アンコール! アンコールッ!! 」」」」」
 お客さんみんなが、『アンコール』っていってくれてます♪
 こういうときは、いつもお客さんのリクエストをきくか、わたしやリリーさんが歌ってみたい曲を、その場できめることにしています。
「えっと――リリーさん、どうしよう?」
「そうですね……イリスちゃん、歌いたい曲はありませんか?」
 ――歌いたい曲……そうだっ、ウィルがよろこびそうな曲がいいな。
 なにがいいかなって考えながら、ウィルをさがしてみると――
「みぃ……」
 フィアナさんに預かってもらっているウィルは、ちょっと眠そうに、あたまをフラフラさせていました。フィアナさんも苦笑いしています。
 羊さんと追いかけっこして疲れたところに、おいしいお昼ごはんを食べて、お腹いっぱいになったからでしょうか?
 ――うん、このまま寝かせてあげよう……そうだっ!
「リリーさんっ、子守り唄でもいいかな?」
「はい? 子守り唄……ああ、そういう事ですか。――ええ、私は構いませんよ?」
 にっこり笑って、そういってくれるリリーさん。いつも、たいていのお願いは聞いてくれる、やさしいお姉さんです♪
「じゃあ――ウィル、おいで?」
「――みぃ? みぎゃあ……」
 やっぱりフラフラと飛んできたウィルを受けとめ、抱っこします。
 それを見ていたリリーさんが、微笑みながら――やさしい曲を奏ではじめて。
 それを聞きながら――わたしも、歌いはじめます。
 ……この子がゆっくりねむれるようにって、祈りながら――

  お眠りなさい (いと)し子よ
  世界に満ちる 祝福と
  我が腕の中 安らかに

  生命(いのち)(はぐく)む 土の精
  あなたを守り 慈しむ
  涼けし流れ 水の精
  心を鎮め 癒すもの
  明るく燃ゆる 炎の精
  温もり与え 包むもの
  耳をくすぐる 風の精
  囁き眠りに 誘うもの

  あなたは世界に 見守られ
  優しさ受けて 育ちゆく
  多くの愛に 包まれて
  おやすみなさい 愛しい子――

 ……歌いおわり、リリーさんの曲もおわると。腕のなかのウィルは、気持ちよさそうに眠っていました。…………それは、いいのですが――
「……あ、あれ? みんな、どうしたの……?」

 お店のなかのヒトたち、そのほとんどが、テーブルに伏せていました……。

 目をつぶって歌っていたので、気づかなかったのですが――みんな、眠ってる……?
「……おねえちゃんのうた、すごくキレイだった。……でも――」
「――凄いわね。下手な『睡眠』の術より効果高いわよコレ……」
 なにが起きたのでしょうか……? ちょっと精霊さんにきいてみます……!

 『きもちよく寝れるように、がんばったのー』
 『……ちょっとやりすぎちゃった?』
 『なんか、光の術もかかってた気がするぞー』

 精霊さんたちも、ちょっと予想していなかったみたいです。
 ――『光』っていうことは……いつのまにか、聖術もかかっちゃった……?
 さいしょに『ゆっくり眠って』って祈って、そのあと歌で『祝福』ってことばを使ったからでしょうか……?
「……えーっと精霊さんたちだけじゃなくって、聖術でも『ゆっくり眠って』っていう祝福?
が、かかっちゃったみたい……」
「……お客さんだけじゃなくて、お母さんたちまで寝ちゃってる……。――とりあえず、起こさないとダメ……だよね?」
 あたまが痛そうに言うリーゼちゃん。起きているお店のヒトは……うん、リーゼちゃんだけみたいです。――このあと、ちょっと大変そうです……。
 リリーさんもお店を見まわしてから、ちょっと頬がひきつった笑顔で。
「今度から子守り唄を歌うときは、場所と状況を考える必要がありますね……」
 ――すくなくとも、お昼に子守り唄は止めたいと思いますっ!
 リーゼちゃんがお店のヒトをがんばって起こそうとしているのをみながら、、あらためて強く思いました……。


「――そんなわけで、イリスちゃんたちの可愛い水着を買いましょう!」
「えっと……リリーさん? なにが『そんなわけで』なの……?」

 リーゼちゃんの家のお店をでると、リリーさんがいいました。
 いつものニッコリ笑顔のリリーさんですが……なにかちょっとオカシイです?
「以前聞きましたが……水着で入る温泉施設を作っているんですよね?」
「ええ。でも温泉自体はもう出てるけれど、建物は今日から作業に入るわけだし、『施設』としてのオープンは二十日後の予定よ?」
 フィアナさんがいうとおり、いそいで買うひつようは無いと思います。
「――ですけれど、オープンが近づくと駆け込み需要が発生すると思います。そうなった場合、可愛い水着は売り切れる可能性があるかと」
「……言われてみれば、そうかもしれないわね。大人用はともかく、子供サイズは数も種類も少ないみたいだし……」
 たしかに、こんかいの『温泉をつくる』っていう話は、急にきまったことです。ですからお話が広まったら、あわてて水着を買うヒトがいっぱいいそうです。
「――それに……高い確率で、予定はかなり早まると思いますよ?」
 いつもどおりの笑顔でいうリリーさんですが、なんだか、とっても自信ありそうです。
「……まぁオープンがいつになるにしても、確かに今の内に買っておいた方がいいわね」
「うん、そうだねっ! アリアちゃんにはカワイイ水着を着てほしいもん♪」
「おねえちゃん……」
 つかれたみたいな声を出すアリアちゃんですが、頬がちょっと赤いので、喜んではくれているんだと思います♪
「私も新調するつもりなのですが、フィアナ様はどうしますか?」
「私も新調するつもりなのだけれど……リリーさん? 前々から訊こうと思っていたんだけれど、なんで私とカリアスには『様』付けで呼ぶの?」
 リリーさんはたいてい、こどもは『ちゃん』、おとなには『さん』付けです。
 でもなぜか、おとうさんとフィアナさんにだけは『様』って付けて呼んでいます。
「イリスちゃんは私にとって、尊敬もしている大切なパートナーです。その保護者であるお二人には、崇は――こほん、敬意を込めて『様』をつけるのが、私の主義です」
「な、なるほど……。でも、歳もあまり変わらないんだし――」

「――え? 私、36ですよ?」

「「「 ……………………え? 」」」
 わたしも、フィアナさんも、アリアちゃんも、みんなが同じ反応をしました。
 ……リリーさんは、おとうさんやフィアナさんと同じくらい、17さいくらいかなって思っていました。それが――倍以上……?
「私、南の樹海に住む『大樹の民』の血を引いていまして。だから老化が遅いんです」
「『大樹の民』――って、長命種の!? 初めて会ったわ……」

 えっと『大樹の民』っていうと……。たしか、この国の南にあるっていう『大樹海』に住んでいて……何百年も生きるっていわれているヒトたちです。
 でもたしか、あんまり『大樹海』からでなくて、耳がながくとがってるって……?

「――私は『大樹の民』のハーフなので、耳は普通なんですよ、イリスちゃん?」
「……え? あ、ごめんなさいっ!」
 つい、リリーさんの耳をじっとみてしまっていました……。
「大樹の民って、樹海から滅多に出ないって聞くけれど……?」
「ええ。ですが、別に外との接触を()っているわけではありませんし。私は父が外部の人間だったのと――お恥ずかしながら、冒険者に憧れて飛び出しまして」
「冒険者だったの!?」
 苦笑いしながらはなしたリリーさんに、フィアナさんが驚いた声をだしました。
 アリアちゃんもビックリして、目をぱちぱちしています。
「ええ。そこそこ名は売れていたんですよ? ――で。それを辞めて、この街に腰を据えて、今に至るわけですね」
 わたしも、ちょっとビックリです。……でも、考えてみると。リリーさんは演奏で、とっても上手に風の精霊術をつかっています。だから、おかしくないのかも……?
「……リリーおねえさん? なんで、ぼうけんしゃ、やめちゃったの……?」
 くびをかしげて、アリアちゃんが訊くと。リリーさんはなぜかちょっと頬を赤くして。
「――いつの間にか『○○姫』といった感じの異名が付けられていたのですが――」
「しかも二つ名持ちとか……」
 驚いた声をだすフィアナさんをみて、すこし気まずそうなかおをして。

「……でも、30過ぎて『姫』呼ばわりって、イタイじゃないですか?」

「そこ!? そこが問題なの!? っていうかソレで冒険者辞めたの!?」
「……ではフィアナ様は、40近づいても『姫』って呼ばれたいんですか?」
「………………勘弁してほしいわね、わりと心から。でもリリーさんの外見なら――」
 リリーさんはフィアナさんに『ニッコリ』と、いつも以上の笑顔でいいました。

「それに自分が『姫』って呼ばれるより、可愛いお姫様を愛でる方が好きなんです♪」

「……全力で同意したいところだけど――この子たちに変なコトしたら、私もカリアスも本気で怒るわよ?」
「それは勿論(もちろん)、心得ております。『ノータッチ』は基本ですから♪」
 えっと……『変なコト』?
『ノータッチ』?
「――私の事はこれくらいにして、とにかく水着を買いに行きましょう♪」
「……アリアとイリスちゃんに関しては、警戒させてもらうからね?」
 なんでフィアナさんが警戒しているか分かりませんが……リリーさんがいう『可愛いお姫様』に、わたしとアリアちゃんが入っている、というということでしょうか?

 でも……たぶん、それならフィアナさんも含まれていますよね?
 フィアナさんはリリーさんを警戒しているみたいですが、リリーさんはフィアナさんのコトも、大好きだとおもいます。今も、とっても楽しそうですし。
『可愛いお姫様』が『好きな年下の子』という意味なら、フィアナさんも、ですよね?


 リーゼちゃんはお店がタイヘンなのでムリでしたが、みんなで水着を買いにきました。眠っちゃっているウィルは、『おかあさん』のわたしが抱っこしていますっ。
「んー、ここら辺が無難なんだけれど……ちょっと冒険するのもアリかしら?」
「――そういう事でしたら、コレ等はいかがですか、フィアナ様?」
「え? どれどれ………………何の冗談かしら?」
「いえ、『冒険』という事でしたから――」
「思いきり遭難してるじゃないッ!? 公衆の場でこんなの着れるわけがないでしょ!!」
「でしたら、これの上に普通の水着を着ておいて、カリアス様の前でだけ――などは?」
「………………。ッ! で、出来るわけないでしょうッ!?」
「でも今、少し考えましたよね?」
「~~~~っ!! だ、だったら! リリーさんにはコレなんてどうかしら!?」
「……あら、思ったより普通――え? なんだか生地が……?」
「要所以外は透ける仕様みたいね♪」
「…………むしろそのヒモ水着より、公序良俗に反しそうなのですが?」
 その……と、とっても『オトナ』な水着をすすめあっています……っ!
「おかあさんたち、たのしそう……」
「リリーさんの性格、ちょっとレミリアおねえさんと似てるからかなぁ?」
 でも、なんだかヘンなほうに、お話しがすすんでるような……?
「そ、それでしたら、こちらはいかがでしょう?」
「うっ! でも、さっきのよりはマシ……? な、ならばリリーさんにはコレで!」
「…………確かに、先ほどのよりはマシですが――」
 ふたりが持っている水着は、『……うわぁ』っていうかんじのものです。
 ――さいしょのがスゴ過ぎたから、ちょっとマヒしてるのかな……?
 そのあと数回、ふたりが押しつけあって。
「――これくらいなら、妥協の範囲かしら……?」
「私の方も、ここくらいなら許容範囲かもしれませんね……」
 ……でも、フィアナさんのは下の布の角度がすごくて。リリーさんのは角度はふつうですが、高さがない気が……? どっちも、下着より布がちいさいのはおんなじです。
 これは……買ってから、明日あたりにとっても後悔するパターンだとおもいます。
「……ねぇ、おかあさん……?」
「――ん? どうしたの、アリア?」
 いつのまにか、アリアちゃんがふたりに近づいていて、話しかけました。
「……わたしも、そのどっちかみたいな、水着にしたほうがいいの……?」
「え? ……だ、だめよアリア!? あなたにこういうのは早すぎるわ!」
「そ、そうです! アリアちゃんたちは、もっと大人しいものが……!」

「……え? でも、おかあさんたち、ソレがいいんだよね……?」

「「 ……………… 」」
 アリアちゃんにいわれたフィアナさんたちが、持っていた水着を、あらためてジックリと見て――あ。かおがまっかになりました。
「……違うのにするわ。――お互い、ちょっと冷静になりましょう?」
「そうですね。……『痴女』扱いなんて、『姫』よりもっと勘弁してほしいですし」
 そういって、また水着をさがしだすフィアナさんたち。もう大丈夫そう、ですが――
「……おねえちゃん。わたしたちも、水着さがそ……?」
 いつもと同じようすでいってくるアリアちゃん。……どこまで、ねらってやっているのでしょうか……?
「では――イリスちゃんとアリアちゃんに、こちらはいかがでしょうか?」
「「 ――え? 」」
 そういって、リリーさんがすすめてくれた水着は……じみなワンピースの水着で。
「あら、無難な感じだけれど――このデザインは初めて見た。なんていう水着なの?」

「最近、東の大陸から伝わってきたという、『スクミズ』と呼ばれるものですね」

 紺色と白があって。胸のところにぬい付けてある布には、なまえを書くみたいです。
 別にヘンなところはないのに――なんでしょう、このイヤな予感は……?
 ……ちょっと、精霊さんに訊いてみることにしますっ。

 『ダメ。やめて?』『それは絶対だめ。紳士たちの罠……!』
 『似合ったらむしろキケンっ』『露出が少なければいいってもんじゃないのよ?』
 『……知らなくていい文化』『これだから東の大陸のヒトたちは……!』

 ――おもった以上にほんきで『やめて』といわれましたっ!?
「……? どうしたの、おねえちゃん……? これに、する?」
「――な、なんとなくだけど……やめよ?」
 いくらリリーさんがオススメしてくれたものでも……いつもノンビリな精霊さんまでもが全力で『やめて』っていう水着を、着るゆうきはありません……!

 そのあと、わたしたちは無事に水着を買えたのですが……。
 なぜかリリーさんだけが、ちょっと残念そうな顔をしていました。

     ◆     ◆

「――どうやって、工期をこんなに縮めたんでしょうね……?」
「さぁ……? 私もだけど、カリアスも驚いていたわよ?
『一夜明けたら建物が出来てた』って。自警団の人たちが関わっているらしいけれど……」
「……聖殿騎士と上級精霊術士が驚く作業速度って、何なんでしょう……?」
 フィアナさんとリーゼちゃんの声は、驚いたというより、呆れているみたいです。

 わたしたちは、できたばかりの温泉施設『赤竜温泉郷』の更衣室にいます。
 リリーさんがいってた通り、温泉に入れるようになるのは、とても早くなりました。
 20日かかるっていわれていたのが、たった6日です! それも、建物だけなら、たった一晩でできていたって、おとうさんがビックリしてました。
 ――お家のおしごとを、夜のうちに妖精さんがやってくれた、っていう物語はしってるけど……これも妖精さんとか、精霊さんがやったのかな?
 リリーさんは何かしってそうですが、今はいません。あとから来るっていってました。
 ――ちょっと気になるので、精霊さんに訊いてみますっ。

 『妖精でも精霊でもなくて、紳士の仕業(しわざ)』『アレと一緒にしないで……?』
 『教育に悪いのは、私たちで隠そう?』『むしろ排除しよ?』
 『ガンバロ……!』 『『『『『
おーッ!! 』』』』』

 ――『スクミズ』のときにつづき、また精霊さんたちが真剣になっています……!
 なにがあったのか、とっても気になりますが……しらない方が、いい気もします。
「みぎゃ……?」
 いっしょに精霊さんの声をきいていたらしいウィルが『どうするの……?』って心配そうに訊いてきましたが……。
「せ、精霊さんたちに、まかせよ?」
 ――きかなかった事にしました……っ!
「……おねえちゃん。はやくきがえて、おふろ入りにいこ……?」
「――あ。うん、そうだね」
 そういってきたアリアちゃんは、もう服をぜんぶ脱いでいて。だからわたしも、いそいで服を脱ぎながら――アリアちゃんをみます。
 ……よくいっしょにお風呂にはいるので、みるのは初めてではありませんが――
「――やっぱりまだ、お腹のキズのこってるね……」
「……ん。でも、しばらくすればきえるって。……おねえちゃんの、おかげ」
 ハールートさんの事件のときに、アリアちゃんがうけたキズ。
 わたしがつかった聖術で、ケガはなおったのですが……ちょっと痕がのこってます。

 アリアちゃんには、ケガをしてほしくありません。
 だけど……アリアちゃんは、わたしを守るために戦いたいって、いってくれていて。
 ……それなら。きっと、いわなくちゃいけないのは『ケガしないで』じゃなくて。
「――つぎはゼッタイ、どんなケガでも、ちゃんと治すからっ……!」
 そういうと、アリアちゃんは『きょとん』っていう顔をしてから、うれしそうにほほえんでくれて。
「……ありがと、おねえちゃん……♪ ――じゃあ、わたしは……ぜったい、おねえちゃんにケガさせないように、つよくなるね……?」
「――ありがと、アリアちゃん」
 あたまを撫でてあげると、ちょっと頬を紅くして、くすぐったそうにするアリアちゃん。とってもカワイイです♪
「――なぜでしょうフィアナさん? ちょっとドキドキしたんですが……?」
「……私的には、将来的にも変な男に騙される危険性は少なそうで、ある意味安心だけれど――やっぱりちょっと複雑な気はするわね……」
 フィアナさんとリーゼちゃんが、なぜか頬を紅くしてわたしたちをみていました。
 アリアちゃんといっしょに首をかしげていると、もうひとつ、声がきこえました。

「――眼福でございました。至福の時を、本当にありがとうございます……」

 ……いつから居たんでしょうか? リリーさんが口と鼻を手でおさえて、なみだを流しています。大丈夫、でしょうか……?
「……おかあさん。リリーおねえさん、どうしたの……?」
「知らなくてもいいわ、アリア。それより……早く水着、着ちゃいなさい?」
 そういえば、わたしもアリアちゃんもハダカのままでした。早く着がえなくっちゃって、水着をもったところで、気がつきました。
 ――あれ? ウィル、どこにいったんだろう?
 足もとにいたはずのウィルが、いつのまにかいなくなっていました。
 どこにいったんだろうって探すと……いました。リーゼちゃんの後ろの棚にのぼって、カゴをいじっていて――あっ。
「みぎゃっ!?」
 カゴが棚からおちて、そこにはリーゼちゃんが――
「きゃっ!?」
 そこには、背中を気にしながら着がえる、リーゼちゃんがいて。
 カゴはおもくないから、ケガはないけど。おどろいて、服がいっきにおちてしまって。
「あっ!?」
 リーゼちゃんがあわてて隠しましたが……わたしたちは見てしまいました。
「――リーゼちゃん、それって『祝福補助』の……?」
「………………っ」
 フィアナさんにいわれたリーゼちゃんの顔が、まっさおになりました。

 リーゼちゃんの背中にあったのは、キズでもアザでもなくて……模様。
『月』と『太陽』の絵がかかれたその模様は、わたしもしっています。
『天の祝福』がたりないヒトのための、『祝福補助』の模様。

 祝福がたりないのは、わたしとアリアちゃんみたいな『造られしイノチ(ホムンクルス)』以外だと、外の光がはいらないところで生まれた子や、悪いヒトたちの子に多いそうです。
 だから祝福がたりないと、聖術がきかないだけじゃなくて、他のヒトたちからイジメられることも少なくないそうです。
 リーゼちゃんが、それをかくしてたっていうことは……そういうこと、でしょうか。
 だけど、わたしたちには関係ありません。
 リーゼちゃんがイイ子なのはしってますし、何よりわたしたちは――
「……リーゼおねえちゃん。……これ、みて?」
「っ、…………え? これ――『祝福の首飾り』……あれ? そういえばこれ、前はイリスちゃんが付けてた、よね?」
 リーゼちゃんに近づいたアリアちゃんがみせたのは、いつもつけている首かざり。そのかたちは、リーゼちゃんの背中の模様とおんなじ。
「……これ、おねえちゃんからもらって、いまはわたしの。……わたし、『天の祝福』がないから。――リーゼおねえちゃんのと、おそろいだね……♪」
「アリアちゃん……」
 ほほえむアリアちゃんに、リーゼちゃんはびっくりした顔をむけます。
「――イリスちゃんもね、最初は必要だったから付けていたのよ?」
「ッ! イリスちゃんも!?」
「うんっ。――あ。でも、じつは必要じゃなかったから、アリアちゃんにあげたの」
「この子たちも――いろいろあるのよ。だから少なくとも私たちは、今さらそんなの見せられたって、何とも思わないわよ?」
「え、えっと……?」
 そうフィアナさんにいわれて、わたしとアリアちゃんのほうをみるリーゼちゃん。
 わたしとアリアちゃんが『大丈夫だよ』ってうなずくと、安心したみたいで。
「あ、ありがとうございます……!」
 目にちょっとだけ涙をためてお礼をいうリーゼちゃんの頭を、フィアナさんがやさしくなでていました。
「――やっぱり、何か嫌な事があったのかしら?」
「……はい。私、生まれつき祝福が少ないらしくて。……以前、これ見られてからイジメられた事があって……」
「――なるほど。……もしかして、それを助けたのがエリル君なのかしら?」
「ッ! …………はぃ」
 いわれたリーゼちゃんは、すぐに真っ赤になってうつむいてしまいました。
「あー……その状況は、好きになってもおかしくないわねぇ?」
「ううぅ……!」
 いじわるな顔でにやにや笑いをするフィアナさんに、頬を紅くして、くやしそうな顔をするリーゼちゃん。――うん、もうだいじょうぶそうだね♪
 それなら……リーゼちゃんがだいじょうぶそうなら、やることがあります。
「――ウィル?」
「みッ!? ……みぎゃぁ」
 ……目だたないように、後ろにいたのはわかってますっ。
「ウィル? ……イタズラして迷惑かけちゃったなら、『ゴメンナサイ』は?」
「みぃ……」
 悪いコトをしちゃったっていうのは、わかってたみたいです。ウィルは元気のない声で返事をしてから、リーゼちゃんのまえに飛んでいって――
「――みぎゃあ……」
 頭をさげて、『ごめんなさい……』ってしました。
「――うん、わざとじゃないってわかってるから、大丈夫だよ? ちゃんと『ごめんなさい』できて、エライね♪」
「み? ――みぎゃっ♪ ……みぎゃ?」
 なでられて『え?』って顔をしたウィル。怒られるって、おもってたみたいです。
 ほめられて、うれしそうな声をあげたウィルですが……何かに気づいたみたいで、『あれ?』って声をだします。みてるのは――リーゼちゃんのあしもと?

 ウィルの視線を追いかけると――それは、リーゼちゃんの左足くび。
 そこにあるのは、足くびを周っている……二本の鎖?
みたいなアザでした。

「……あれ? リーゼちゃん、その足のは……アザ?」
「え? ……うん。私が赤ちゃんの頃に、固い(ひも)が絡まっちゃってケガをしたんだって。そのときの(あと)らしいんだけど……」
 そういうリーゼちゃんは、ちょっと困ったような笑顔でしたが、背中の模様とはちがって、あんまり気にしてはいないみたいです。……だけど。

 いままで気づかなかったのですが……いちど気づくと、なぜかすごく気になって。
 なんだか……すごく、『なおした方がいいモノ』っていう気がします。

「……リーゼちゃん。ちょっと――なおしてみて、いいかな……?」
「――え? ええっと……治してもらえるなら嬉しいけど――」
 わたしは脱いだ服から、月の聖術をつかうための『月光石』をとりだします。
 つかうのは――『月光の祝聖』。それと、精霊術の『全精治癒』。どっちか片方でも、大ケガもなおせるハズの術、なのですが……。
「――きかない……ううん、なおしきれない……?」
 リーゼちゃんのアザは、ちょっと薄くなったみたいですが、なおっていません。
「えっと……ありがと、イリスちゃん。この痕、時間が経っているせいで治しにくいって、お母さんも言ってたから……」
 なおせなかったのは残念です。――でも。なおせなかった理由は、ほんとうに『時間がたってたから』だけでしょうか……?
「……おかあさん? どうしたの……?」
「――え? ……ううん、なんでもないわよ? ――さ、早く着替えちゃいましょ?」
 ……そうでしたっ!
 わたしたちは、いそいで水着を着て――
「……あ。……えっと、いま、きがついたんだけど……」
 そのとちゅうで、アリアちゃんがいいました。

「……ウィル、おとこのこなのに……なんでふつうに、こっちにいるの?」

「「「 ……あ 」」」
「み、みぎゃあ……?」
 みんなの視線があつまったウィルは……とぼけるみたいに眼をそらしました――

「あのアザ……刻印? それに『祝福』が少ないって――まさか、ね……?」

      ◆      ◆

 温泉であそんだあと。
 エリルくんやリーゼちゃんともわかれて、もう教会はすぐそこです。
 みんなでお話ししながら、入ぐちにむかって歩いています。
「温泉、たのしかったね!」
「……うん、たのしかった……♪」
 教会にもおふろはありますが、あんなに広くはありません。みんなで一緒にはいるのは、とってもたのしかったですし――
「おとうさん、また一緒にはいろうね♪」
「……あははは。近い内に、また連れて行ってあげるね?」
 ――おとうさんは、なぜか教会のおふろだと一緒にはいってくれないので、きょうは一緒に入れてうれしかったです!
「……ハールートも、いっしょに入れればいいんだけど……」
「あ、あはは……ハールートは、ちょっと無理じゃないかしら……?」
 たしかにハールートさんはおっきいので、一緒にはいろうとしたら……あれ?
 ――もしかして、できるかも? ……あとで訊いてみよっと。
 そう考えながら歩いていると――教会から職員のおねえさんが、あわてたようすで出てきました。
「 ! カリアス様、良い所に! 実は先ほど、聖都のフォルカス様から緊急連絡がありまして……!!」
 ――緊急連絡……?
 そのようすをみると……いい話じゃない、ということはわかります。

「――あと半月ほどで、日蝕が発生するそうです。魔物の大量発生が予想されるため、それによる侵攻に備えるように、との事です……!」



   ◆◆◆次回更新は8月23日(火)予定です◆◆◆

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