第二編 幕間の3 水着にかかわるエキストラ

作者:緋月 薙

幕間の3   水着に関わるエキストラ
(※今回は 『三章の2 水着にまつわるエトセトラ』 と合わせて2話分の更新になります)


(SIDEアナザーズ)


 エドです。
 無茶した反動で全身が地獄の筋肉痛に襲われ、昨日まで身動きとれませんでした。

 温泉施設の建築、本来は術の支援込みで十日を予定してあったものを、一夜で完成させたはいいが――副作用が大きい薬品やら反動が大きい支援術も多用したため、参加したほぼ全員が数日間、行動不能に(おちい)った。
 ――自警団員の九割近くが身動き一つ取れないという状況は、地味にこの街の危機だったのではないだろうか……?
 自警団員の九割が幼女好き親衛隊員という現状から考えると、今更な気もするが。

「――さて。今日この後、いよいよ『赤竜温泉郷』のプレオープンとなりました」
 自警団長にして親衛隊長であるリリー嬢が、俺たちに向かい話している。

『赤竜温泉郷』。例の温泉施設に名前を付ける際、簡単かつ短く、守護竜ハールートとイグニーズの街の両方を意味する言葉を入れたいと、頭を(ひね)った結果らしい。

「それにあたって――先に言っておかなければならない事があります。まず、女神様に『スクミズ』を着ていただく計画は失敗しました。……申し訳ございません」
 そう言って、深々と頭を下げるリリー嬢。
 確かに残念ではあるが……しかし、誰も責める様子は無く。
「――いえ、結局は女神様ご本人の嗜好次第という面が強かった上、そもそも団長以外に計画を実行出来る者が居なかった以上、責める者はおりますまい。……ところで、女神様はどの様な水着を……?」
 レオナルドの言葉でも分かる様に、『女神様の水着姿が見れる!』この事実の前に、スクミズであるか否かなど誤差に過ぎない。
「購入した水着は――後ほどのお楽しみに、という事にしておきましょうか♪ どのみち女神様でしたら、露出過多な水着以外ならば何でも――」
 と、ここまで語ってから、……フと思案顔になるリリー嬢。
 俺も――いや、場のほぼ全員が『ソレ』を脳裏に思い描く。
 ……つまり。『露出過多な水着姿の女神様』を。

「――訂正します。露出過多な水着姿も、それはそれで……!」
「「「「「 そうですねッ!! 」」」」」

 俺も含む多くの者が鼻血を流しながら、リリー嬢の言葉に力強く同意。
「――こほん。……それはともかく。その水着選びの際に判明した事がありまして。それを伝えておかなければ、と」
「水着選びの際に分かった事、ですか……?」
 全員が聞く体勢に入っている事を確認した後、言葉が続けられる。

「こちらの方面でも、精霊たちが女神様たちを守っています。彼らの目を()(くぐ)る事は事実上不可能なため……不埒(ふらち)な真似をすれば、『死』もあり得ます」

「は……? いくら『愛娘』に対して精霊たちが過保護気味だとしても、独断で殺害までは行わないはず! 女神様は、ご自身と御尊父を襲った者すら治療するお優しい方。いくらなんでも『死』は大げさかと――」
 動揺しながらのレオナルドの言葉に、皆が頷く。
 女神様が保有する資質――『精霊の愛娘』。
 精霊たちに(した)われ……術を用いなくても、精霊たちは自発的に『愛娘』を守る。
 とはいえ、守るべき『愛娘』の意に反する事を自発的に行う事は無いはず。
 優しい女神様が殺害を願う事は、まず無い。だから流石に『死』は――

「不埒者が見つかれば、カリアス様とフィアナ様、もしくはハールート殿に直通だと思いますが……生き延びる自信、あります?」

「「「「「 無理です 」」」」」
 守護竜殿と渡り合った、聖殿騎士と上級精霊術師のペア。
 そして、一撃で地形を変える力を持つ古竜たる、守護竜ハールート殿。
 ……親バカ、爺バカと知れ渡っている彼らの怒りを買って、無事に逃げ延びられる者など……国中を探したところで、居たとしても極少数の化け物たちだけだろう。
 と。そんな事を考えていると、壇上のリリー嬢と目が合った。
「確か貴方は――ハールート殿と協力体制を結んだ、エドさんでしたね。貴方でも無理ですか?」
 問われ、少し思考をまとめる時間を置いてから――答える。
「俺が結んだ協力体制は、我々が『妹姫様たちの害にならない事』が前提条件です。仮にそれを破ったのなら……例外無く『ぱっくんちょ』かと」
 ……ついでだから、先日の体験も話そう。
「先日、約束の『等身大アリアちゃんヌイグルミ』を奉納したのですが……スカートの中まで作り込まれている事に気付いたハールート殿から、誤解が解けるまでガチの殺気を浴びせられ――アレは本気で死ぬかと」
「……というかハールート殿も、スカートの中をしっかり確認したのですね」
「それは言わない方向で。もしくは偶然の産物か、純粋な品質確認の結果だと思っておいた方が、精神衛生上ベターかと」
 実際、エロ目線では見ていないはず。……多少の好奇心はあったっぽいが。

「――というわけで。水着姿の鑑賞は、規律を守って適度にお願いします。……じゃないと死にます」

「「「「「 イエス・マム!! 」」」」」
 ドン引きしていた全員が、敬礼と共にマジ顔で応えた――


 その後、細かいミーティングを済ませ。女性陣と、くじ引きに外れ血涙を流しながら通常警備の任に就く者たちと別れ、男性用の更衣室に入る。
「「「「「 ………… 」」」」」
 黙々と着替える始める我ら。
 嗜好(しこう)こそアレだが、親衛隊の大半が自警団員。戦闘力と同時に規律も求められる以上、女神様や幼い子が絡まないならば、言動は極めてまとも――
「――あ。水着忘れた。仕方ない、パンツのまんまでいいか」
「おいバカ止めろ。透ける。危険ブツが透けるだろうが」
「――ちっ、仕方ねぇな。女性水着なら持ってるから、それの下を貸してやる。水玉、ストライプ、赤Tバックとあるが、どれにする?」
「じゃぁ赤Tバックで」
「あいよ。――ほれ」
 ……前言撤回。素でヤバイ。――この街、本当に大丈夫だろうか?
 と、その時。更衣室の入り口が開き。

「あ、レオナルドさん。自警団の方々も」

 女神様の御尊父たるカリアス殿が。
「おお、カリアス殿。――貴殿のお陰で、良い施設が出来上がった」
「いえ、僕はただ提案しただけです。実際に作業をしたのはハールートやイリスたちですし――何より自警団の方々の尽力で、ここまで早く完成したと聞いています。……本当に、どうやってここまで早く建造を……?」
 レオナルドとカリアス殿の会話。そのカリアス殿の疑問に答えるなら――

『欲望』と『情熱』と『根性』の産物です。

 端的に言えばこうなる。あと追加するなら『信仰』と『愛』だろうか?
「はっはっは。守護竜殿がお力を振るうのならばと、我らも応じるために秘匿(ひとく)技術(ぎじゅつ)を使わせてもらった。……有事の際にも用いる技法のため、詳しく語る事は出来ないのだ」
「――なるほど。いずれにしろ、尽力(じんりょく)をありがとうございました。早く入れるようになって、イリスたちも喜んでいましたよ」
((((( ! ~~~♪)))))
『女神様が喜んでいた』。その言葉を聞いて、我々のテンションは跳ね上がった。
 しかし我らの信仰を気付かれない様、全員が必死に表情を抑える。
 ――頑張れ我らの表情筋!
「それは良かった。……それで、今日は歌姫様方も来て?」
「ええ。先に来ているはずです。昨日から楽しみにしていましたよ♪ ……あ、そうだ。少しお訊きしたいのですが――」
 嬉しそうにはしゃぐ女神様を想像し、我々は己の仕事を誇らしく思っていると。

「皆さん、ちっちゃい子は好きですか?」

 ――精神への致命的な威力を持つ広範囲攻撃が放り込まれた。
((((( …………ッ!? )))))
 胸を槍が貫通した様な幻痛を受けながら、全員が必死に表情を抑える……!
 ――頑張れ我らの表情筋! マジで頑張れ……ッ!!
「…………それは如何様(いかよう)な意味だろうか? 察するにイリスちゃんの事だとは思うが――この街では、あの子を好意的に思っていない者は少数だと思うが?」
((((( !? さすが副長……ッ!)))))
 至近距離で直撃を受けながらも、耐えきって言葉を返したレオナルド。彼に向かい、親衛隊員全員が賞賛と尊敬の念を送る。
 ……よく見ると、冷汗と思われるモノをダクダク流しているが。
「あはは。そう言っていただけると、養父として嬉しいです。――実は以前、幼い子を好む性癖の者も居ると忠告をいただいたもので。そういう者にはどう対処すべきなのかなと、特に子供好きな方が居れば、良い対策などを聞けるかと思ったんです」

 ――すみません。その警戒対象は我々です。

 どうやら『子供好き』に、子供を守る手段を訊きたかっただけらしい。
 我々を疑っていない純粋な眼差しが、我らのヨゴレた心にズキズキと……!
「――な、なるほど。そういう事か。……しかしだなカリアス殿。そういう性癖を持つ者は外見ではわからん。そして歪んだ嗜好を持っていても、行動さえ起こさなければ罪人ではない。……結局、通常の暴漢や罪人への警戒・対処と同じ事しかできんだろう」
「……確かにそうですね。――すみません。いきなり指摘された事と……ここでは薄着になるという事で、少々慌てて冷静さを失っていた様です。どうやって早期発見して殲滅(せんめつ)するか、まで考えていたくらいですから」
「…………はっはっは、ご冗談を」

((((( 絶対に本気だったあああああああああッ!! )))))

 着替えるために服を脱ぎながら、最後は冗談めかして言ったカリアス殿。
 しかし、その笑顔の背後から漂う殺気が、本気の殺意を示していた。
 ――ああ、うん。……コレは勝てん。
 先ほどの激烈な殺意と、揺るぎない威圧感。それと――穏やかな表情と容姿にそぐわず、細身な体躯は無駄なく鍛え上げられ、俊敏な肉食獣を思わせる。
((((( 勝てない。ならばせめて……!)))))
 現状、あらゆる面で負けている。それを認めた上で――鍛えようの無い一点の勝負に、己の『男』としてのプライドを賭ける。
 ――そう。『男の象徴(プライド)』の勝負に……!
 そんな勝手な対抗心を抱いた我らは、カリアス殿の脱衣をそれとなく、それでいて全力で注視。そして『ソレ』は姿を現し――

「「「「「 ――なッ、なんだとおおおおおおおおおッ!?」」」」」

 隊員の約半数が、冷静さを維持することに失敗。叫び声と共に崩れ落ちた。
「――は? な、どうしたんですか!?」
 叫びと崩れ落ちた男たちに驚いた絶対的勝者が、慌てた声を上げる。
「い、いや。その者たちの事は気にするな。少しショッキングな事実を目の当たりにして、冷静さを保てなかっただけだ……」
「は、はぁ……? 一体、何があったんですか?」
「う、うむ……カリアス殿は義娘(むすめ)さんだけでなく、ムスコさんもご立派だな!」
「……はい?」
 と。レオナルドが何とか有耶無耶にしようと試みていると。

「――カリアス兄ちゃん、何やってるんだ? 急がないとリーゼたち待ってるぞ?」

 そう声を掛けてきたのは、カリアス殿の弟子――というよりは弟分的な立ち位置にして、女神様の友人であるエリル少年。
 どうやら我らが精神的打撃を受けている間に来ていたらしく、既に着替え始めていた。
 ……このタイミングで、十代前半の少年が登場すると、どうなるかというと。
((((( 我が自尊心のためにも、ここで手堅く一勝を……! )))))
 ……劣等感を味わうと、精神を安定させるために己より下の存在を探す……そんな者も、一定数は存在するわけで。
 そんな者たちが、奇しくも丁度、最後の一枚を脱いだ少年に視線を向け。

「「「「「 ――そ、その歳で!? ……う、うわああああああんっ!! 」」」」」

 ……ダメ押しの敗北を喫し、浴場の方へ駆け去った。――何も身に着けないままに。
「ってオイ! 全裸のままでドコに行く気だ!?」
 男湯の中で留まって居てくれればいいが……あの勢いでは水着着用の混浴区画に全裸突撃してもおかしくない。
 急いで水着を穿いた俺と数名は、状況が理解出来ていないカリアス殿とエリル少年を置き去りに、暴走した男たちを追いかけた。

「アレは、どうなっている……?」
 やはり暴走男たちは混浴区画まで飛び出していたが、その場所はすぐに分かった。
 その一角だけが、何故か濃い(もや)に包まれており、その中から男たちの声が。
「な、なんだこれは!? 何も見えん!」
「なんでこんなに湯気が濃い!?」
 当人たちも、何が起きているか分からないらしい。
 皆が戸惑いながら成り行きを見守っている中――どこからともなく、声が。

 『コドモの教育に悪いモノは、全部隠すの~』
 『見せられないヨっ!』

 ――この声は……まさか精霊の声か!?
 しかし精霊の声など、高位の術者でもなければ聞こえるはずが無いのだが……?

 『【紳士】も付かない変態さんは、ご退場ねがうの~』
 『ワイセツ物は排除するの~』
 『粗末なモノは、茹で上げて吹き飛ばしちゃえ~』
 『すちーむ・さいくろん~』

「ちょ! 湯気が段々熱く……!?」
「こ、これ湯気っていうか蒸気!? 茹だる! 茹だるぅぅうううううッ!!」
 そんな叫びを最後に、突如巻き起こった旋風に靄ごと巻き上げられ、彼方へと飛ばされていった。…………おそらく、死んではいまい。多分。
「これは――おそらく『警告』と『見せしめ』、といったところか」
「……多分、そうだろうな」
 追いついてきていたレオナルドの言葉に、肯定の言葉を返す。
 おそらく――我らにわざわざ声を届けたのも、女神様を慕う精霊たちの仕業。
 我々に『不埒な真似をしたら、こうなる』と見せつけ、行動を牽制する狙いか。
「……気を付けよう。モラルと理性の落とし物」
「「「「「 そうですね! 」」」」」
 と。意見が一致したところで――ついにメインイベントへと目を向ける。
 そこには……もちろん、色鮮やかな水着を纏った、女神様ご一行が……!

 まず、我ら親衛隊の長にして、自警団長のリリー嬢。
 緑色をメインとした水着は『大樹の民』の血を引く彼女に、実によく似合っていた。
 清楚で穏やかな(表向きの)印象を際立たせながら、抜群のスタイルと――(外見的な)若さにそぐわない艶めいた所作が、(普通の性癖の)男の眼を魅了してやまない。
「なんつーか……『童貞殺し』って感じだな」
「だな。つーか『大樹の民の血』恐るべし。あの妙な色気って、絶対に年の甲――」
「おいバカ止めろッ!」

 直後――一陣の風が吹き抜け、足元の石畳みを斬り裂いた。

 不用意な言葉への警告は……やや遅かったらしい。
「…………オ美シイ女性ガ隊長デ、俺タチハトテモ幸運ダナッ!」
「「「「「 ソウダネッ!! 」」」」」
 全員が引きつった笑みで、バレバレの一芝居。追撃は来なかった事から察するに『今回は許してあげます』といったところか。
 ……気を取り直して、鑑賞に戻ろう。

 次は――妹姫様(アリアちゃん)の養母たる、フィアナ嬢。
 青系の色でまとめられた水着を(まと)った姿は、清楚さと凛々しさを見る者に感じさせ――『水の精霊の化身』、そんな印象すら与える。
 いっそ気高さすら感じさせる美しさに、一般的な男性の大多数は目を奪われるだろう。

 ――さて。ここからが、お待ちかねの低年齢組……!

 女神様のご友人にして、食事処の看板娘のリーゼ嬢。
 その(つや)やかな黒髪と対比となる様な白の水着姿は、(けが)れなき新雪に住まうという雪の妖精もかくやという、決して侵してはならない清らかさを感じさせる。それでいながら――女性として育ち始めたばかりの、新緑のような美しさも感じられる。
 我々の様な者(ロリコン紳士)たちにとっては、正に好みド真ん中。
 女神様を『天の女神』とするならば、彼女はまるで、目覚めたての『大地の女神』――
「――うん? 今さら再認識したんだが……リーゼ嬢も、相当なものではないか……?」
「何を今さら。そんな事は看板娘をやってる時点で――む? …………確かに、何か妙に惹き付けられる様なものが……?」
 フと、女神様と同列に並べていた己に気付き、レオナルドに意見を求めた所、レオナルドも同意見らしい。二人並んで目を凝らし、揃って首を傾げる。
 ――あの子、あんなに可愛かっただろうか……?

 しかし。野郎二人が頬を赤らめながら少女を凝視している図は、一歩間違えれば立派な通報事案。バレない内に、次の鑑賞対象に視線を移す。

 お次は――一部では『竜の巫女』と呼ばれ始めてもいる、妹姫様(アリアちゃん)
 飾り気の少ない黄色の水着は、年齢相応の体型もあって『色気』の方は皆無に近い。
 だが、陽光に照らされ炎の様な煌めきを見せる髪、それに彩られる幼いながらも整った顔立ちと、しなやかな肢体に綺麗な姿勢。
『小さな戦乙女』とでも例えるべき、気高く健康的な美しさを持つ少女に、過度に飾らないシンプルな水着は実に良く似合っていた。
 やや表情に(とぼ)しいが――それでも時おり見せる微かな笑みは、可憐に成長した将来の姿を幻視してしまう程、大人びた美しさを(ただよ)わせる。
「……健やかに美しく成長してほしい様な、このままで居てほしい様な――」
「――エドよ。それは我らにとって禁忌(タブー)と言うべき思考だ。……我らはただ、あるがままに幼き女神たちを見守り愛でる。それだけの存在であるべきだ」
「……そうだな。すまなかった、レオナルド殿」
 ロリコン紳士の道は、かくも奥深く、悩ましい。――だが、それ故に尊い……!

 そして最後に――我らにとっての至高の存在、女神様(イリスたん)
 この街の誰もが愛する『歌姫』であり、全精霊に愛される『精霊の愛娘』にして『聖女』という、容姿と内面、名実共に『女神の化身』と呼ぶに相応しい少女……!
 その女神様が纏うのは――少女らしい、淡い桃色の水着。
 露出度こそ低いが――胸元と腰回りの飾り布を始め、控えめながらもセンスの良い模様や装飾が、元から素晴らしい素材である女神様の御身体を、更に可憐に飾り立てている。
 眩しい笑顔ではしゃぐ幼き女神。飾り布が舞うたびに湯気の合間に水飛沫(みずしぶき)が上がり、陽光を反射して幻想的に煌めく。
 まだ幼い体つきながらも、確かな将来性を感じさせる御姿はもう――
「生きてて良かった……っ!」
「――ああ、まったくもって……! しかしエドよ、鼻息が荒いぞ?」
「それは失敬、レオナルド殿。しかし忠告は鼻血を止めてから行うべきでは?」
「「 はっはっはっはっは――……は? 」」

 イイ笑顔で笑い合っていると……いつの間にか、俺たちの周りに風が渦巻いていた。

 ……気のせいだろうか。今、偶々飛んで来た木の葉が風に巻き込まれ、一瞬で原型を失った様に見えたのは……?
「「 ………… 」」
 俺たちが黙り込んでいると、何処からともなく――『いい加減にしないと……わかるよね?』――なんて言葉が、聞こえてきた気がした。


 俺とレオナルドが男湯区画に戻ってくると――親衛隊員が全員集合していた。
 皆がやや疲れた様子で『お前もか』といった顔をしている事から――全員揃って精霊たちに追放されたか。

 要するに――自警団員を主軸とする親衛隊員の全員が……少女の水着姿でハァハァし、精霊に怒られて追放された。

 ――俺が言えた事ではないが……この街は本当に大丈夫なのだろうか?
『大丈夫じゃないです』。そんな言葉が聞こえてきそうな事を考えていると――また誰かが混浴区画から男湯区画に入ってくる気配。
「……あれ、自警団の皆さん。こんな所でどうしたんですか?」
 入ってきたのは、カリアス殿と――エリル少年。
 ……まさか『貴方の娘さんたちを見てハァハァしていたら精霊に怒られたので』等と言えるはずも無い。
「我々は男所帯だからな。こちらの方が居心地が良いのだ。街の喧騒(けんそう)とは別種の賑わいに、少々疲れてな。――ところで、カリアス殿とエリルは何故?」
 上手く誤魔化しながら、相手に質問を返すレオナルド。
 訊き返された二人は……どちらも少し疲れた様な顔で、顔を見合わせる。
((((( ――まさか、この二人も幼女に『ハァハァ』してて追放されたのか!? )))))
 我々と似た様子で登場した二人を見て、思わずそんな事を考えた俺たちだが――
「気疲れというか……ある意味『嬉しい悲鳴』とでも言うか……。――とにかく、少し頭を冷やした方がいいと思いまして……」
 何だか煮え切らないカリアス殿の言葉に、エリル少年も『うんうん』と頷き。
 イマイチ理解出来ず、我々が『
? 』と首を傾げていると――やはり疲れた様子で、エリル少年が話し始めた。
「……リーゼの奴、自分がどれだけ男の眼を集めてるか、全く自覚が無いんだもんな……。元からリーゼを狙ってる奴は少なくないってのに、今日は水着に加えて……その、見栄を張ってるのか、わざわざ胸に詰め物入れて盛ったりしてるんだぞ!?」
「――リーゼちゃんも? ……フィアナも、ちょっと盛ってたっぽい。只でさえ目立つ容姿なのに、そんな事すればどれだけ不埒な視線を集めるか……。並大抵の暴漢くらいなら楽に倒せるから大丈夫って、ソレとコレとは別だろうに……!」
 ……疲れと苛立ちを混ぜた愚痴(?)を言いあった二人は、大きな溜め息を吐いて。

「「 ――心配するこっちの身にもなれと。……本当に鈍いんだよな…… 」」

(((((アンタらが言うの!? )))))
 カリアス殿はフィアナ嬢に、エリル少年はリーゼ嬢に想いを寄せられていながら、驚異的な鈍感さを発揮して全スルーしている事は、既に知れわたっている。
 その状況で今の発言。どうやら……『己が鈍い』という自覚は一切無いらしい。
 話を聞いていた全員がツッコむべきか否かで悩み、妙な沈黙が生じた――そんな中。
「――よ、よく盛っているとか気付いたな? 流石は幼馴染といったところか……?」
 なんとか場の空気を変えようと、またもレオナルドが口を開いた――が、カリアス殿とエリル少年は顔を見合わせ、当然の事を語る様に。

「「 長年ずっと見てるんですから、気付かないはずがないじゃないですか 」」

「「「「「 ………… 」」」」」
 全員が、言葉を失くした。……というか今のは、ノロケではないのだろうか?
 誰がどう見ても、彼女たちのアピールはカリアス殿とエリル少年に向いているのだが、それに気付いている様子は一切無く。
 そのため問題はこの二人にあるのかと思いきや……どうもフィアナ嬢とリーゼ嬢側も『ド鈍い』と分類される人種の様子。

「…………(とっとと付き合っちゃえばいいのに)」

 誰かが(つぶや)いた言葉が、小声なのに妙にハッキリと聞こえたが……『この二人には聞こえていないだろう』。なぜかそう確信できた。
 ハッキリ言って面倒くさい事この上ない恋愛模様。正直、絶対に関わりたくない。
 故に。我々は傍観者として……『その他大勢(エキストラ)』の立場から見守る事に決めた。
「――あの、皆さん? その『孫を見守る祖父母』の様な眼は、なんでしょうか……?」

「「「「「 いえ、なんでもありません。――頑張ってください 」」」」」

「「 ……はい? 」」




   ◆◆◆次回更新は8月23日(火)予定です◆◆◆

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