第二編 四章の1 厄災の日と――希望と願い

作者:緋月 薙

四章の1   厄災の日と――希望と願い



(SIDE カリアス)


「――と、そんなわけで。『魔王』は勇者たちに討伐されたんだけど、その『残滓(ざんし)』が魔物を発生させるんだ。その『残滓』は『光』や、それに宿る神々の力に弱いんだけど……太陽と月の力が干渉し合う『日蝕(にっしょく)』の最中は、神々の力が極端に弱まるんだ。……聖術がほとんど使えなくなる上に、魔物が一気に増加してしまうんだよ」

『日蝕』の第一報が入ったのが、昨日。
 あれから関係各所に連絡を入れたり、自警団の所で意見を訊かれたりと、忙しなく走り回っていたため、イリス達に説明をしていなかった。
 それで。今日はリーゼちゃんの家のお店でイリスが『歌姫』の仕事があったため、鑑賞させてもらってから説明をした、というわけで。

 ……まぁ、偉そうに話してはみたけど、僕も経験したことは無い。
 大方の説明を終わらせて周りを見ると――真剣に聞いている子供だちと、それを見守るフィアナ。それと……何かを考えている様子のリリーさん。
「リリーさん、どうかしたんですか?」
「――え? ああ、いいえ。……ただ、国や宗教が違えば、伝承も少し変わってくるものなのですね、と」
 そう言って、いつもと同じ様にニッコリと笑うリリーさん。
 そういえばフィアナから聞いたけれど、リリーさんは『大樹の民』なんだっけ?
「何か違うんですか?」
「『魔王討伐』あたりが、国によって異なる様です。この国では『勇者が倒した』の様ですが、私の故郷では『一柱の神が刺し違えて倒した』となっていますね」
「――『大樹の民』の信仰というと……『大地母神教(グレートマザー)』、だったかしら? 自然崇拝ってことくらいしか知らないけれど」
 そういえば、名前だけは聞いた事がある。
 少し興味はあるけれど……伝承がどうで、何が正しくて何が間違っていようと、今やらなければいけない事に変わりは無い。
「え、えっと……それで、おとうさん。この街、どうなっちゃうの……?」
「……正確に『何が起こるか』は分からないんだけれど――」

 記録によると、以前に日蝕が起きたのは、二百年近く前。
 ハールートによると、その頃の遺跡は封印されていたため、大きな異変は無かったらしい。……だけど今は、限定的とはいえ稼働中。
 一時期の暴走気味な設備拡張こそ止まっているものの、遺跡内の現状維持などのために、広範囲から大地の力を吸い上げているらしい。
 そのため、大地の力が結晶化した宝石や、解体されて貴重な素材となる魔物等は、この遺跡から尽きる事はない。果ては大地の流れに乗って、遠隔地の地下に埋まっていた死者の遺品や遺跡の宝物などが流れ着く事もあるらしい。

「――それらが冒険者を呼んで、この街を発展させる要因となったんだけど……問題は『残滓』も吸い上げて、内部で魔物が発生するって所なんだよ」
「……現状でも結構な数の魔物を生んでいるのに、『祝福』の途絶えた状態の大地から力を吸い上げると……吸収される『残滓』は、膨大な量になるでしょうね」
 僕に続いて説明したフィアナ。その言葉が終わったところで、結論を口にする。

「――だから、発生が予想されるのは……遺跡内での魔物の増殖と、強化・狂暴化。それによる遺跡外への氾濫(はんらん)。……放置すれば、この街が魔物の大群に襲われると思う」

 イリス、エリル、リーゼちゃんが、顔を青くして息を呑む。……アリアだけはいつもの無表情で、僕に訊いてきた。
「……それで、おにいさんたち、どうするの……?」
「――冒険者の人たちと一緒に、遺跡前で迎撃、かな。この街には腕利(うでき)きがたくさん居るし、何よりハールートが居る。余程の事が無い限り、なんとかなるよ」
 不幸中の幸いと言えるのが、遺跡からの出口が一カ所しか無い、という事。これはハールートが精霊を使って調べた事だから、間違い無い。
 だから、遺跡前で迎撃。こちらにはハールートという最大火力が控えている以上、負けは無い。最悪、入口を吹き飛ばしてしまえばいいのだから。
「……自警団は、使わないのですか?」
「副団長と相談したのですが……街中にも多少、魔物が出現する可能性があります。よって、一部は僕たちと同行、他の方々には街の守りに回ってもらう予定です」
 リリーさんからの質問にも、打ち合わせ済みの内容で回答。
 遺跡の『大地の力を吸い上げる』という性質上、周囲の危険度は逆に下がる。
 だから街中での大量発生は考えられないが、街全域の見回りが必要になる以上、集団による組織的な行動が不可欠になる。
 ――そういえば、まだ自警団の団長さんとは会った事が無いな……。
 女性だとは聞いているけど、いつも『別任務で外出中』と言われ、会った事が無い。
「カリアス兄ちゃん! 人手が必要なら俺も――」
「――悪いけど。エリルとアリアには、教会に待機していてもらうよ」
 エリルの言葉を最後まで言わせず、それに被せて言い切る。
 ショックを受けた様子のエリル。そして不服そうな顔をしたアリアが口を開き。
「……どうして? わたしたちも、すこしはたたかえる、よ?」
「うん、それは知ってる。力不足だ、なんて言う気はないよ」
 実際、この子たちは『少しは戦える』どころではない。
 たとえば……保護者として『二つ名持ちの冒険者』だったらしいリリーさんが一緒なら、街の巡回に参加させれば、十分に活躍できるだろう。……でも。

「……例の『覚悟』の件。答え、まだもらってないんだけれど?」

「うっ」「…………」
 言葉を詰まらせるエリルとアリアに、続けて言う。
「――今回は実戦なんだ。たとえ相手が格下でも、一瞬の迷いや躊躇(ためら)いが原因でアッサリ殺される可能性も、十分にあるんだよ?」
「「 ………… 」」
 命の()()りになると、実力の有無と同程度に、覚悟の有無も重要になってくる。
 だから……躊躇いを持ちかねない者を、前に出したくはない。
 ――それにエリルとアリアには……『保険』として、頼みたい事もあるしね。
「それから――イリス?」
「は、はいっ」
 自分も無関係ではないため、緊張した面もちで聞いていたイリス。
 そんな愛娘を安心させる様に、意識して優しい口調で言う。
「――日蝕中は聖術が使えないから、治癒術はイリスの精霊治癒しか使えないんだ。……もし怪我人が運ばれてきたら、治療をお願いしたいんだ。――頼めるかな?」
「 ! うんっ、がんばる……!」
 力いっぱい、やる気を込めた返事をしてくれるイリス。
「もし何か不測の事態が発生したとき、教会が緊急避難場所になる場合もある。当日は自警団の人も来る予定だけど――エリルとアリアは、その人たちと一緒に教会をお願い」
「……うん、わかった」「んっ……!」
 不満を口にしていたエリルとアリアも、それぞれ真剣に頷いてくれる。それを嬉しく思っ――たところで、いつもイリスと一緒の息子(?)が居ない事に気付いた。
「……あれ、ウィルは?」
「リーゼちゃんのおヒザの上で、お眠(ねむ)だよ?」
「――ああ、なるほど」
 テーブルで死角になっていて見えなかったけど、椅子に座っているリーゼちゃんの膝の上で、心地良さそうに眠っていた。
「イリスちゃんが歌うときに預かったら……ちょうど歌い終わったくらいで眠っちゃいまして。……竜を膝枕する事になるなんて、ちょっと前には信じられませんでした」
 言いながら、微笑みを浮かべてウィルを優しく撫でるリーゼちゃん――
 ――あれ……?
「 ? どうしたの、おとうさん?」
「――え? あ、いや、なんでもない……と、思う。それよりリーゼちゃん、何か顔色が悪い気がするけど……大丈夫かい?」
 首を傾げる僕に、皆が怪訝(けげん)そうな顔を向けてきたので、慌てて誤魔化し――さっきから少し気になっていた事を指摘してみた。
「言われてみれば……本当ね。リーゼちゃん、具合でも悪いの?」
「あ、いえ……大丈夫です、フィアナさん。ちょっと昨夜は夢見が悪くて、寝不足気味なだけですから」
「――無理はすんなよ、リーゼ?」
「……うんっ。ありがと、エリルくん」
 思惑通りに注意は逸れ、リーゼちゃんも大丈夫らしく、安堵の息を吐いたところで。
「……さて。僕はそろそろ行かないと。フィアナ、イリスたちをお願いね?」
「ええ。――この後は、自警団の詰め所だったかしら? 私も後で行くわ」
「了解。なら、また後で。――じゃあ、行ってきます」
 そう言って、皆の見送りの声を背後に、店の外に出た。

 ……実はさっき、ウィルを撫でるリーゼちゃんが……ものすごくイリスに似て見えてしまって。それも――格好や仕草が、ではなく、『姿』そのものが。
 ――顔立ちも背も髪の色も似ていないし……さすがに気のせいだよな、うん。

 さて。今日この後の話し合いの内容は……街の人たちにどう伝えるか。それと遺跡封鎖の告知方法など、だった。
 日蝕の最中、遺跡の中はきっと地獄の様相を(てい)するだろう。
 冒険者たちは、遺跡内で野営して数日に渡って探索を行う事も珍しくない。
 だから最低でも、十日前には告知する必要がある。それは同時に、住人への説明も、それまでには済ませる必要があるという事で――時間的な猶予(ゆうよ)はあまり無い。
 ――まぁ冒険者たちへの告知は、遺跡の入口で行えばいいから、楽ではあるけど。
 遺跡に入るには、入口での入場料の支払いと名簿への記入が必須になっている。
 だからそこで告知をすれば漏れはないし、中に取り残されている冒険者のチェックも容易。……ありえない程の長期間出てこない人たちは……諦めるしかないのだけれど。
 ――フォルカスさんに『こちらは大丈夫です』なんて、言わない方がよかったかな?
 聖都と連絡を取った際、フォルカスさんは『予定を繰り上げて、戻りましょうか?』と言ってくれた。
 だけどせっかくご家族の所に居るのに、災害時に呼び戻すというのは気が引けたのと――戦力的には十分なので、本当に『大丈夫』だと思ったため、断っていた。
 ――戦闘より、こういう雑務の方が戦力不足とは……。ま、とにかく今は急ごうか。
 そう思って、やや速度を上げて近道となっている路地裏に足を踏み込――
「うわぁッ!?」
「 ! ――ッと、すみません! 怪我はありませんか!?」
 角を曲がった所で、話し込んでいた四人組にぶつかりかけ、ギリギリで回避。一人が驚いて尻餅をついたため、慌てて謝罪する。
「い、いえ。こちらも道を(ふさ)いでいて、すみません。……それで、少しお訊きしたいのですが――ここは、どこでしょう?」
「――はい? ……ああ。えっと、教会前の通りから、東の路地に少し入った所です。この先に進めば、中央通りの自警団詰め所の近くに出ます。――ご案内しましょうか?」
「いえ、それには及びません! ……この街に来て日が浅いため、お恥ずかしながら道に迷ってしまいまして。――では、我々はこれで」
 一人がそう言うと、全員が荷物をまとめ、そそくさと去って行った。
 ――なんだったんだ、今の人たちは……?
 不審ではあったけれど、物盗りの類には見えなかった。
 おそらくは冒険者。それも……まるでつい先刻までどこかを探索していた様な、汚れだらけでくたびれた風貌(ふうぼう)だった。
 ――ここら辺、何かあったっけ?
 この近辺には普通の民家があるだけ。()えて言うなら……ほぼ廃墟となっている古い屋敷があるくらいだけれど、パッと見た所、異常は感じられない。
 ――まぁ、いいか。……っと、ちょっと急いだ方がいいな。
 何かあったら報告しようと記憶に留めておき、僕はその場を後にして自警団の詰め所に向かった――

     ◆     ◆

 そして、『日蝕』発生当日。
 街には外出禁止令が出され。住人のほとんどは、しっかりと戸締りをした家屋の中で、災厄の時が過ぎるのを待つ事になる。
 そして、自警団の巡回も滞りなく行われているという連絡も入り、そろそろ僕たちも移動しようかという頃――イリスとアリアが声をかけてきた。

「――え? リーゼちゃんの様子がおかしい……?」
「うん……。ちょっと前から、具合わるそうだったんだけど……」
 リーゼちゃんと親しいフィアナは――僕と同様に最近は忙しくて会っていなかったため、気付いていなかったらしい。
 僕とフィアナは頷き合い、イリスの案内でリーゼちゃんに会いに行くことにした。

「あっ、カリアス兄ちゃん、フィアナ姉ちゃん……」
 そこに居たのは、顔を青くしてうずくまっているリーゼちゃんと、それを心配そうに見守っているエリル。その後ろにはリリーさんも。
 本来は外出禁止のところだけれど……昨夜、リーゼちゃんのお母さんから相談を受けたリリーさん。今日、様子を見に行ったらこの状況だったため、皆と一緒の方が落ちつきそうだからと、エリルも居て避難所でもあるこの場所に連れて来たらしい。
「――大丈夫? ……どうしたの、リーゼちゃん?」
 フィアナはリーゼちゃんの隣にしゃがみ、安心させるように背中を撫でながら訊く。
「……怖い、んです」
「――『怖い』?」
 絞り出すように紡がれた言葉は、それが本心である事を証明するように震え、力無い。
「……最初は、大した事なかったんです。夢は夢だし……この『嫌な予感』も、きっと不安なだけなんだって、そう思っていたんです……」
 思わず問い返した僕に、顔を上げて答えたリーゼちゃんの表情に浮かぶのは――恐怖と、自分でも不可解なゆえの戸惑い。
 他の子供たちとリリーさんも、どうしていいか分からずに戸惑っている様子で。

 普通ならば……気のせいだと、ただ災厄が訪れるのが怖くて不安なだけなのだと、そう言って慰めるだけで十分だろう。
 ……だけど、横目で様子を(うかが)ったフィアナの表情は真剣。それは僕も同じで――

「――エリル、アリア。……何も無いなら、それに越したことは無いんだけれど――もし何かあったら、イリスとリーゼちゃんを頼む。――いいね?」
「 ! わ、わかった……!」「……ん、まかせて」
 力を込めて頷くエリルと、いつもの無表情――だけど力の()もった瞳で頷くアリア。
「……リリーさん。この子たちを、よろしくお願いいたします」
 隣ではフィアナが、リリーさんに頭を下げて頼んでいた。
「はい、望むところです♪ ……確かに(うけたまわ)りました。そちらも、お気をつけて」
 応えたリリーさんの声は、最初こそ穏やかだったけれど――後半は、かつて『腕利きの冒険者』だった事を納得させるほど、静かで――それでいて力強い気迫に満ちていた。
「――ありがとうございます。じゃあ……そろそろ行こうか、フィアナ」
「ええ。……行ってくるわね。――また後で」
 見送りの言葉と視線を背中に受け――振り返らずに外に出る。

「――フィアナ。リーゼちゃんの、あの状態……似たのを見た事あるよね?」
「……ええ。レミリアが――初めて『託宣』を受けたとき、よね?」
 かつてのレミリアも、さっきのリーゼちゃんと同じ様に、訳も分からず怯え続けた。
 ……『何かが起こる事』が分かっていながら『なぜ分かるのか』が分からずに戸惑い、起こる『何か』を正確に掴みきれず、ただ恐怖していた。
 ――たしかあの時は……嵐が来て、地滑りで村が一つ消えたんだっけ。
「……それにしても。なんでカリアスまで、あの子の時と同じだと思ったの?」
「なんとなく、としか言えないんだけど……最近なぜかリーゼちゃんが、イリスやレミリアと重なって見える事があって――」
 外見は全く、似ているとは思わない。それなのに雰囲気や気配が似て――いや、酷いときはイリスと『同一』にすら感じたことがある。
「…………まさか、リーゼちゃんも『聖女』だと?」
「いや、それは無いと思うんだけど……」
 リーゼちゃんには祝福が『ほとんど』無い。それは――フォルカスさんが知っていたので、間違い無い。
『聖女』ならば、例外無く強い祝福を受けて生まれてくる。――だから聖女ではない。
 祝福が『ほとんど』無いが、(わず)かには有るため、一切の祝福を受けずに生まれる『人工生命体』でもないはず。……ならば、僕は何を『同一』だと感じたのだろう?
「――そういえば。フィアナこそ、なんでレミリアを連想したんだい?」
「…………それ、なんだけれど」
 言い淀んだフィアナの表情を窺うと――思案と……戸惑い?
「……少し気になる事があるの。――この一件が終わったら、相談させてもらうわ」
「――わかった。じゃ、こっちもしっかり片付けないと、ね?」
 最後、少しだけ(ふざ)けて言ってみると、小さく笑って『そうね』と応えるフィアナ。

 ――リーゼちゃんが、何を不安に思っているかは分からないけれど。……この先に、何が待っているかは分からないけれど。
 僕は、僕に出来る事を確実にこなしていく。
 それが、不安の種を一つ一つ潰していく事に、繋がると信じて。

『日蝕』の発生する時刻は、もう間近に迫っていた――


(SIDE イリス)


「太陽が……」「みぃ……」

 ――たしか、太陽が欠けはじめて、30分くらいでまっ暗になって、その状態が10分くらい。そこからまた30分くらいで元にもどる……だっけ?

 わたしが抱っこしているウィルも、不安そうにしています。
 ためしに、かんたんな聖術をつかってみると……日蝕ははじまったばかりなのに、効果がかなりよわくなっていました。
 ……おわるまで、あと一時間ちょっと。――それが、とても長くかんじます。
「 ! 今の音は……」「みっ!?」
 とおく――遺跡のほうから、爆発の音がきこえてきました。
 ――おとうさんたち、戦ってるんだ……!
 それに、だんだんと暗くなってきた空をみあげると、ときどき大きな影がとおります。
 ――あれは……ハールートさん、だよね。
 あわてず、ゆっくりと街のうえを回り、見守ってくれている大きな影は、『心配することはないんだ』って、教えてくれているようです。
 ――あのハールートさんをみれば、リーゼちゃんもちょっと安心できるかな?
 そうおもって、リーゼちゃんのほうへ振りかえると……リーゼちゃんの顔色は、もっとわるくなっていました。
「リーゼちゃんっ!?」
「……イリスちゃん……怖いよぅ……っ! 何なの、これ……!?」
 そういって、頭をかかえて震えるリーゼちゃん。それは……ただの『不安』じゃなくて、ほんとうに『怖いモノがみえている』みたいで。
「みぎゃあ……み?」
 心配そうに頭をなでるウィルを、不安をまぎらわせるようにだきしめるリーゼちゃん。
「……少し、話してくださいませんか? 何かそんなに怖いんです……?」
 リリーさんが、ゆっくりとした声でリーゼちゃんに話しかけました。すると――

「――土の中……地面の下から、怖いのがいっぱい跳んでくるって……!」

「……つちのなか……? ……おねえちゃん」
 リーゼちゃんの言葉をきいたアリアちゃんが、わたしのほうをみます。
 だからわたしは、土の精霊さんに調べてもらって――
「……ううん。土の精霊さんは、『特に何も無い』っていってるよ……?」
「『跳んでくる』って……ここに?」
 エリルくんのしつもんには――リーゼちゃんは首をよこに振って。
「……ここじゃ、ない。……どこかの……壊れかけた家……?」
 えっと――『どこかの壊れかけた家に、怖いのがいっぱい跳んでくる』……?
 リーゼちゃんには、何がみえているのでしょうか?
「……リーゼちゃん? その家は、どこにあるか分かりますか?」
「……多分、向こう……!」
 リリーさんにこたえて、リーゼちゃんが指したほうは……たしか、自警団のヒトたちがいる場所のほう……?
「――『託宣』ではありませんね。『予知』系……? あの方角で『壊れかけた家』…………ッ!? これは、もしかして……」
 リリーさんはちいさな声でなにかいってから、すこし考えはじめて。
「――エリル君、アリアちゃん。……少しの間、この場をお願いできますか?」
「え……?」「……いいけど……どうして?」
「……私は、少しだけこの場を離れます。可能な限り早く戻りますし、外には警護の方もいらっしゃいますが……もし何かあったら、私が戻るまで――お願いします」
 そういってリリーさんは頭をさげて、エリルくんたちにお願いしました。
「 ! ――わ、わかった!」
「……ん。……リリーおねえさんも、きをつけて……ね?」
「はい、ありがとうございます♪ ――イリスちゃん?」
「はいっ」
「精霊術の防壁で、教会の建物全体を覆えますか? 可能なら、害意の無い人は出入りできるようになれば最良なのですが――」
「えっと……うんっ、できます……!」
 よゆうは無いけど……風の精霊さんにおねがいすれば、なんとかなりそうです!
「さすがですね♪ では――もし本当に『怖いのがいっぱい』来たら、それで教会と、ここに逃げて来る人たちを守ってあげてください」
「うんっ……!」
 誰かをキズつけるのはキライです。
 でも、治癒や守りなら、なにもためらいません。――全力をつくします……!
「――可能な限り急ぎますので、そちらも気を付けて。それでは……!」
 そういって、リリーさんは教会をでていきました。
「……早く、もどってきてくれるといいね」
「…………っ」
 リーゼちゃんは、こたえるよゆうも無いみたいです。だけど――
 ――リリーさんが行っちゃったことは、怖いっておもってない……?
 リリーさんがいなくなって、なにかが起きたときのキケンは増えました。
 それなのにリーゼちゃんの怖がりかたは、そんなにヒドくなっていません。
 それならリーゼちゃんは……『自分に起きるコト』じゃなくて、『起こるコト全体』を怖がってる、っていうことでしょうか?
 それなら――セカイに起きるコト、それ自体の先をみている、ということで。

 ――それってレミリアおねえさんの『神託』みたいで……神さまのちから?

「っ!? ……近づいてきてる……っ!」
 そういって、からだをまるめて震えるリーゼちゃん。
「みぎゃあ……っ」
 リーゼちゃんの腕の中のウィルが、なぐさめるように顔をこすりつけますが……リーゼちゃんの震えはおさまりません。
 ……リーゼちゃんの『ちから』がなんだとしても、このままはかわいそうです。
 どうにかしてあげられないでしょうか……?
「何が怖いんだ?」
「エリル……君?」
 そんなリーゼちゃんに近よって、せなかに手をおいたのは、エリルくんでした。
「……その『怖いの』が来たら――この中の誰かが死ぬと、思ってるのか?」
「っ!? そ、そんなコト、思ってない!」
 ちょっと涙をうかべていうリーゼちゃんに、エリルくんはまっすぐむかって。
「……それが来たら、イリスが術で守ってくれる。その隙間から入ってきたら、俺とアリアが守る。それが強い相手なら――上を飛んでるハールートさんが、きっと倒してくれる。少し待てばリリーさんも、カリアス兄ちゃんたちだって来てくれる。怪我をしたら、イリスが治してくれる。……リーゼの周りの人間は、みんな強いんだぞ?」
 そういって、じぶんもちょっとは不安なはずなのに、わらってみせるエリルくん。
 それから、まじめな顔にもどって、ことばをつづけます。
「――だから。『それ』が来ても、リーゼの周りの誰も、居なくなったりしない」
「――っ」

「……リーゼの居場所は変わらない。無くならない。――何が怖いんだ?」

 最後にそういって、やさしい眼をむけるエリルくんは――おとうさんみたいで、とってもたのもしく思えます。
「…………ありがとう、エリル君。――もう、大丈夫だから」
 そういって、笑ってみせるリーゼちゃん。その笑顔は、まだちょっとひきつっているし、顔いろもわるいけど――その眼には、つよい光がみえました。
「みぎゃあっ♪」
「……ウィルも、ありがとう。もう大丈夫だから……。それと――エリル君? さっきの……カリアスさんみたいだったよ?」
「へっ!? そ、そうか……?」
 おどろいたみたいで、あわてているエリルくん。わたしとアリアちゃんもうなずくと、照れくさそうな顔になりました。
「……ふふっ♪ やっぱり師弟って似る――ッ!?」
 いいかけたリーゼちゃんが、いきなり『その方角』をみて。あおい顔で――
「…………来た……っ!」

 そのことばの、すぐ後。外から爆発の音がきこえてきました。

「 ッ! 何だ!?」
 駆けだしたエリルくんに続いて、わたしたちは二階の窓にむかいます。
 窓からそとをみると――すこし離れたばしょから、火があがっていました。
「 !? イリスっ!」
「うんっ……!」
 エリルくんにいわれて、精霊さんにお願いして、火のところをみせてもらうと――

 燃えている家のとなり。屋根も壊れたボロボロの家の床に、へんな模様があって。
 その模様が光るたびに、黒いへんな生き物……魔物があらわれて――

「ッ! 転移してきてるの!? か、風の精霊さんっ……!!」
 その『模様』から、あふれるように魔物がでてくるのをみて、リリーさんにいわれたとおり、風の精霊さんにお願いして風の壁をつくります……!
「……本当に、来るなんて……」
 わたしのとなりには、よわよわしくいうリーゼちゃんと、火をにらむようにみているアリアちゃん。

「い、イリスちゃん!? 何が起こっているか、そこからわかるかい!?」
 下から、声がかけられました。
 それには教会をまもってくれている、自警団のヒトが三人。
「――街の中にヘンな模様があって、そこから魔物がいっぱい! ――あッ!?」
 燃えている家の近くの家から、ヒトが逃げでてきて――
「ヒトが魔物に追いかけられてます……! この風の壁、ヒトは通れるから――たすけてあげてください……!!」
「ッ!? わかった! ここに逃げ込ませるから、術の維持を! だけどイリスちゃんも無理しないで……!」
「ありがとうございます! ――気をつけてくださいっ!」
 そういって、走っていく自警団のヒトたちをみおくりました――

 いま、ちょっと試してみましたが……やっぱり転送珠はつかえませんでした。
 これは、日蝕のせいで『天の祝福』がきえているせいで。
 ハールートさんの家に跳ぶ転移陣は、日蝕のまえに消しましたが……もし消していなかったとしても、つかえなかったはずです。
 それは転送珠も転移陣も、聖術の『光』のちからをつかっているからで。

 ――それなのに、なんであの『模様』は転移できるんだろう……!?
 風の精霊さんにお願いして、もういちど、遠くをみます。
 魔物から逃げてるヒトたちは、まだ追いつかれてはいません。……たぶん、さっきの自警団のヒトたちが間にあうとおもいますが……。
「――イリス。魔物、たくさん来そうか?」
「……うん。全部の魔物が追っかけてるわけじゃないけど……さっきのヒトたちだけじゃ、ムリだとおもう。たたかいながら逃げてくるとおもうけど……」
 ――あの数がいっきに風の壁にきたら……全部ふせげるかな……?
「……おにいちゃん」
「……だな」
 アリアちゃんとエリルくんは、顔をみあわせて、うなずいて。
「――俺たち入口で『通せんぼ』してくるから……イリスとリーゼはここに居ろ」
「エリル君!?」
 リーゼちゃんが悲鳴のような声をだしました。わたしもおどろいてアリアちゃんをみると……まっすぐな眼で、わたしをみていました。
「……わたしたち、おにいさんにもリリーおねえさんにも、たのまれてるから」
「――大丈夫。俺たちだけじゃなくて、自警団の人たちと一緒に戦う事になるだろうし」
「だけど……!」
 心配をするリーゼちゃんに、エリルくんたちは真剣な眼でいいます。
「――ここで行かないと、もう二度と『剣を教えてくれ』なんて……『強くなりたい』なんて、言えなくなると思うんだ」
「……わたし、つよくなりたい。……剣も、こころも。だから……いくね?」
 そういう二人をみて……『とめられない』っておもいました。
 だから、わたしも――こころを決めることにしました。
「それなら、わたしもいくよ……!」
「おねえちゃん……?」
 アリアちゃんが、心配そうな顔をむけてきます。でも――もう決めました!
「このまえ、いったよね?
『つぎはゼッタイ、どんなケガでも、ちゃんと治す』って。近くにいないと、治せないよ?」
「――ん、でも……」
 それでもアリアちゃんは、わたしをとめたいって、おもっているみたいで。
 ――さっきまでは、わたしが『とめたい』っておもってたのに、ね?
 そうおもうと、ちょっと可笑しくて。だけど、なぜかうれしくて。だからわたしは笑って、心から信じてるコトをいいます。

「だいじょうぶだよ? だって――アリアちゃんが、守ってくれるんだよね? ……それなら、わたしは全力でささえるから……!」

「っ! ……ん……♪」
 アリアちゃんはこまったような……でも、うれしそうな笑顔をみせてくれました。
 エリルくんは……『やれやれ……』っていう顔です。
「いこう、アリアちゃん、エリルくん。時間が無いよっ! ……リーゼちゃん、いってくるから――ウィルをお願い。ゼッタイ、みんなで無事にかえってくるから……!」
「う、うん……」
「じゃあ、行ってくるな、リーゼ」「……リーゼおねえちゃん。いってきます……」
「みぎゃあっ……」
「うん、だいじょうぶだから……イイ子で待っててねウィル?」
「みぃ……」
 わたしは、心配そうなウィルの頭をなでてから、アリアちゃんたちを追いかけて――教会のそとにでました。

「……たいよう、くろい……」
 空をみあげたアリアちゃんが、つぶやきました。
 そのことばどおり、太陽はほとんどが影でおおわれていて。影にかくされていない縁の部分は、金色に光っていますが……それは黒い太陽をかざる金の輪っかみたいで、よけいに影の黒がハッキリとしてみえます。
 たぶん、いまが一番くらいとき。……『日蝕』がおわるまで、あと30分……!

 ――戦いの音が、近づいてきます。
 獣のほえる声、ヒトのさけぶ声、足音。そして――逃げてくるヒトたちの姿と、それを追う黒い魔物たちの姿が……!
「はやくっ! 教会にはいってくださいっ……!」
「 ! 歌姫ちゃん!? 助かった……!!」
「おっちゃん、まだだ! 早く中に逃げ込んで!!」
 風の壁の中にはいったことで、安心してしまい座りこもうとしたヒトを、エリルくんが立たせて建物の中にいかせます。
 そのヒトに続いて、逃げてきたヒトは――八人。
 こっちに逃げてきたヒトは、みんな無事だったみたいです! ケガをしているヒトもいましたが、大ケガではなかったので、治すのは後にさせてもらいますっ。
「自警団のおっちゃんたちも早く!」
「くっ……わかってらぁ! ――おい! 次を弾いたら一気に逃げ込むぞ!!」
「「 おおッ! 」」
 そして自警団のヒトたちも風の壁の中にはいると――追いかけてきた黒いイヌの魔物がなん匹か、風の壁に巻きこまれ、空たかくに飛ばされていきました。
 ……あ! 一人、腕からいっぱい血をながしていますっ!
 慌てて駆けよって――『全精治癒』で治しました。
「おおッ!? 話には聞いてたが……すごいもんだな。――ありがとう、イリスちゃん!」
「え、えっと……どういたしまして……」
 ――お礼をいわれるのは……うれしいけど、ちょっとはずかしいです……。
 自警団のヒトたちは疲れたのか、ちょっとボーっとしているみたいです。すこしお顔が赤いみたいで、具合がわるいのかもしれません。
 だけど――心配しているじかんは、あまり無いようです。
「……おじさん。……まだ、あんしんできない。――きそうだよ?」
 アリアちゃんの声で、風の壁のそとをみると――さっきはイヌの魔物だけだったのに、いろんな魔物があつまっています。中には、ドロドロな水のかたまりみたいなのや……生きているはずがないのに動いてる、腐った動物や――骨のヒトもいます。……みているだけで、キモチワルイです……!
「ちっ! 魔犬どもばかりか、ゾンビどもまで律儀に追いかけてきやがって! ――おい、武器屋んトコのエリル。お前も戦力に数えていいのか!?」
「俺もアリアも、カリアス兄ちゃんに鍛えてもらってる。足手まといにはならない!」
「ほぅ? だが無茶はすんじゃねぇぞ。お前の親父さんには世話になってんだ」
「おっちゃんこそ、イイカッコしようとして張り切り過ぎんなよっ!」
 そんなお話しをしながら、エリルくんの自警団のヒトは、魔物たちのほうへ剣をむけます。ほかの二人とアリアちゃんも、油断なく魔物をみていて。

 ――魔物たちが、いっせいに動きだしました。

 多くが風の壁で巻きあげられたりバラバラになったりしますが……ドロドロの魔物や動く死体などが、後から後からすすんできて――ついに、その後ろにいた魔物たちが、壁の中に入ってきました。
「――イリスちゃんの所に通すんじゃねぇぞ!」
「「 おおッ! 」」
「え、えっと……ケガは全部、わたしが治してみせます! がんばってください……!!」

「「「 うおっしゃああああッ!! 」」」

 ……じ、自警団のヒトたちは、すごいヤル気です!
 たった三人だけですが、競いあうように、スゴイ勢いでたおしています。
 エリルくんとアリアちゃんは、二人でいっしょに魔物とたたかっていて。
 エリルくんが魔物のこうげきを弾いて、そのすきにアリアちゃんがたおしてます。
「おおぅ! エリルもアリアちゃんも、中々やるじゃねぇか! ゾンビ共やタフなヤツはこっちで引き受ける。イヌ共は任せたぞ!」
「わかったっ……!」「ん……!」
 みんな、すごくつよくて、わたしが心配するひつようはなかったみたいで――あれ?
 ――いま、アリアちゃんの足元、なにか……?
「――ッ!? アリアちゃん足元ッ!!」
 足元の土がもりあがって――黒い手になって、アリアちゃんをおそいました!
「っ!? ――いまの、なに……?」
 アリアちゃんは避けられましたが――いまのはキケンです……!
 土の精霊さんにお願い――しましたが、みつけられません!
「――それなら……!」
 土の精霊さんにお願いして、今度は足元の土を、硬くかためてもらいました。
 これで、多分だいじょうぶだとおもうけど……。

「だめッ! エリル君、足元――影の中!!」

「――えっ? くッ!?」
 こんどはエリルくんを狙った黒い手は――また避けられたからか、姿をあらわして。
「 ! このッ!」
 出てきたのはヒトのカタチをした影。その『影』はエリルくんの剣を避け――でもその後ろには、アリアちゃんが詰めていて。
「……にがさない。――おにいちゃんっ」
 あしを斬り裂いたアリアちゃん。たおれる『影』にエリルくんが――
「これでッ――」
 剣を振りおろすと、まっぷたつになって消えていきました。
「『影に潜む者(シャドウストーカー)』が混ざっていたか!? ――よくやった!」
 ……影の魔物、でした。日蝕のせいで暗い太陽の光でも、うすい影はできています。そのなかにかくれていたみたいです。

「――って、リーゼちゃん!?」「……リーゼおねえちゃん……?」

 いつのまにか教会のとびらの前に、ウィルをかかえたリーゼちゃんが立っていました。
「イリスちゃん、話は後! ――おじさん、まだ居ます! 右の魔犬の死体の影っ!!」
「 ! ――こいつかッ!?」
 自警団のおじさんが影に剣を突きさすと――『影』はもがくように暴れたあと、消えていきました。
「――リーゼ、なんで……?」
「……わからないよ! ……でも、私にも手伝える事があるの! だから――お願い、手伝わせて……!!」
 エリルくんに、そうお願いするリーゼちゃん。
 そのリーゼちゃんの腕からウィルが抜けだして、わたしの方に飛んできます。
「みぎゃあっ!」
「ウィルまで、なんで……?」
「みぃ、みぎゃぁっ!」
 わたしに飛びついて、いっしょうけんめいに伝えているのは……『ぼくも、いっしょにたたかいたい』、でしょうか?
「……そっか。――そうだよね。守られるだけなんて……イヤなんだよね?」
「みぎゃあ……!」
 ……じぶんだけ安全なところで守られているなんて、イヤだった。
 それは――おとうさんたちがたたかっているとき、わたしも思っていたことだから。
「――あなたは、わたしが守るから。だから……いっしょに行こ?」

 わたしは……みんなで、たたかっていきたい。――そう、おもいました。
 守られるだけはイヤだから。――みんなも、そう思っているって、しってるから。
 ……もちろん、だれにもケガなんてしてほしくない。
 だから――みんなで強くなりたい。
 みんなで、みんなを守って。そうすれば――きっと、もっとたくさんのヒトを守れる。

 ――だから。わたしも、たたかおう。

「みぎゃっ! みぃっ……!」
「――ウィル……?」
 わたしの心に応えるように鳴くと――空に浮かび、力をこめるように丸くなりました。すると――ウィルのからだが、少しずつ光りだして。

「みぎゃあ――――ッ!!」

 空にむかって高い声で鳴くと、光はいっきにつよくなって――
 光の玉につつまれているウィル。みんな――自警団のヒトたちもおどろいていて。
 でも――わたしは、おどろいた以上に……なぜかうれしくて。
「……それが、あなたの力、なんだね……?」
「みぎゃっ♪」
 ……みじかく応えるウィルを抱きよせると――まるで、なにかに導かれるように……だれかに教えてもらったように。わたしにできるコトがわかって――

「おいエリル、アリアちゃん! 来るぞッ!!」
 わたしのジャマをするつもり、でしょうか? 風の壁のむこうに魔物がたくさんあつまって、いっせいに入る準備をしているみたいです。
「――エリル君、アリアちゃん、自警団の皆さん! 絶対にイリスちゃんの邪魔をさせないで……ッ!」
「っ、お、おう!」「――だいじょうぶ。おねえちゃんには、ぜったいにふれさせない」
「てめぇら、何だか知らんが勝負所だ! イリスちゃんは絶対に守り抜く!!」
「「 元よりそのつもり! うおっしゃあああッ!!
」」
 わたしを守るために、みんなが魔物に向きあいます。
 それならば。わたしは――みんなを信じて、わたしにできる事を……!

「――お待たせいたしました。……よく、頑張りましたね」

「「「「「 えっ……? 」」」」」
 とつぜん聞こえてきた声は――リリーさんの声。
 それは大きな声じゃなかったのに、ふしぎとハッキリ聞こえて。わたしたちも、自警団のヒトも、聞こえてきた方……魔物のいる方をみると。
 魔物のからだが、ズレました。
 風の壁のまえにいた魔物、すべてのカラダがズレて別れ――バラバラになって。
 その向こうには――両手に長い剣をもった、リリーさんがいました。
「「 リリーさんっ! 」」「「「 団長ッ!! 」」」
 揃ってなまえを呼んだ、エリルくんとリーゼちゃん。それと……え?
 ――あれ? いま自警団のヒト、ヘンなコトをいった気が……?
「もうこの場においては誰一人、毛ほどの傷も負わせません。ですから――存分にどうぞ、イリスちゃん?」
 笑顔でそういってくれるリリーさん。
 ほかのみんなも――ビックリして固まってたけど、元にもどると、わたしに笑顔をむけてくれます。
「……ウィル。あなたの力を借りるね?」
「みぎゃあっ!」
 心の中で、みんなに『ありがとう』っていいながら。
 ウィルを腕に抱いたまま、わたしは目を閉じ――どうじに、まわりを『視』ます。
 わたしたちのまわりには、たくさんの精霊さんたち。
 ウィルに呼ばれてあつまり――光をうけて力をふやしています。
 だけど精霊さんたちは――たたかうことが、好きではなくて。
 ……『こわいよ』って。『不安だよ』って。『傷つけたりしたくないよ』って。
 怖がりな子、泣き虫な子、そして――優しい子が、いっぱいいます。

 だからわたしは――お願いします。
 ――『守りたい』って。『強くなりたい』って。『一緒にたたかってください』って。
 怖いモノを減らすために。泣く子を減らすために。そして――優しい子を守るために。

 閉じたまぶたの向こうに、たくさんの光がうまれたのが、わかりました。
『お願い』に応えてくれた子たち。みんなが、わたしに『声』をかけてくれます。
 ――『がんばるよ』って。『がんばろう』って。――『いっしょに守ろう』って。

「みぎゃあ……っ」
 ウィルの声に、わたしは閉じていた目を開くと、周りにはたくさんの光が――精霊さんたちが舞っていました。
「――きれい……」
 そういうリーゼちゃんのことばが聞こえて。
 うれしくて、おれいの代わりに『にこっ』ってしてみせると、精霊さんたちもよろこんだみたいに、わたしたちの周りを飛びまわります。
 ――みんな、ありがと。……いっしょに行こ?
 魔物のいるところは……わかります。
 精霊さんたちを――『大地の意思』を拒むモノ。光を――『天の祝福』を恨むモノ。
『生命を憎むモノ』――闇より暗いその意思を、わたしたちは見逃しません。

「――行くよ、みんな……っ!!」

 わたしのことばに、想いに応えて。
 光はいっせいにたかく飛び、目標をめざして空をはしり――



   ◆◆◆次回更新は8月26日(金)予定です◆◆◆

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