第二編 終章 それぞれの『覚悟』

作者:緋月 薙

終章   それぞれの『覚悟』



(SIDE イリス)


 魔物といっしょに砕かれた氷が、太陽の光できらきら光りながら降ってきます。
 それは――太陽の女神さまが『おつかれさまでした』って、言ってくれてるみたいで。

「お疲れ様、カリアス。――派手にやったわね?」
「君に言われたくないよ? ――お疲れ様、フィアナ。リリーさんもお疲れ様でした」
「ありがとうございます♪ お二人も、お疲れ様でした」
 戦いが終わって、『おつかれさま』を言いあっている、おとうさんたち。
 たくさんの『きらきら』は、おとうさんたちの周りにも降っていて。
 それを『キレイだな』っておもいながら……ちょっと、遠いところみたいに感じてしまいました。

 さっきの戦い、もちろんリリーさんもスゴイとおもいましたが……やっぱり、わたしがおもいだすのは、おとうさんとフィアナさんで。
 使った術も、すごかったです。
 おとうさんの『聖輝刃』は、わたしは剣を使えないので、しかたがありませんが……フィアナさんの『氷柩』も、今のわたしには使えません。
 わたしは精霊さんたちにお願いすれば、ほとんどの術を使えます。
 だけど……さっきのフィアナさんみたいに、『範囲を細かくちょうせいして、魔物だけを凍らせる』には、しっかり想像して、ていねいにお願いしないといけません。
 もし今のわたしが使おうとしたら……多分、おとうさんも巻き込んじゃいます。

 だけど――ほんとうに『すごい』っておもったのは、術じゃなくて。
 おとうさんもフィアナさんも、話しもしないで、おたがいが何をするかを、わかってるみたいでした。
 命のキケンがあるところで、心配も迷いもしないで、おたがいを信じあって――それが『当然』っていうかんじで。
 ……それが、力や術が『つよい』っていうこと以上に、とってもステキで――すごく、うらやましいっておもいました。
「……ねぇアリアちゃん?」
「――おねえちゃん……?」
 わたしは、いつのまにかアリアちゃんの手をにぎって……自然に言葉がでました。
「……いつか、おとうさんとフィアナさんみたいに、なりたいね」
「――ん……っ!」
 アリアちゃんは――にぎった手を『ぎゅっ』ってして、そう応えてくれました。
「みぎゃあっ!」
「――うんっ! ウィルも、いっしょに頑張ろ?」
『ぼくも!』っていってくれたウィルの頭をなでると、うれしそうに体をこすりつけて、甘えてきてくれました。


 リリーさんと自警団のヒトたちは『やる事があるから』って、教会に逃げて来ていたヒトたちといっしょに、自警団の本部にむかいました。
 少しの間おとうさんとフィアナさんは、むずかしい顔でナイショ話をしていましたが――わたしたちのところに来て、おはなしをはじめました。
「――さて、と。……イリス、アリア、エリルと――リーゼちゃんも。みんな、お疲れ様でした。――もしかして、とは思っていたけど……本当に君たちを戦わせる事になってしまった事、謝らせてもらう。――本当に、ごめん」
「そ、そんな! 兄ちゃんたちのせいじゃないよ!」
 頭をさげて謝るおとうさんに、エリルくんが慌てていいました。
 エリルくんだけじゃなくて――だれも『おとうさんたちのせいだ』なんて、おもっていないハズです。
「――ありがとう。だけど、こういう形で君たちを戦わせるのは不本意だったんだよ。でも……だからこそ、ちゃんと覚悟を決めて戦ってくれた君たちを、僕は誇りに思う。――本当に皆、よく頑張ったね」
 おとうさんはうれしそうに、そういってくれて。
 ……ちょっとテレくさくて、何もいえないでいると……そんなわたしたちを、フィアナさんが楽しそうにみていました。
「それで――ちょっと予定外だったけれど、良い機会だから訊かせてほしいんだ。……今回、何を思って戦ったのかな?」
 おとうさんは、まじめな顔で、そういいました。
 そのことばに――さいしょに答えたのは、エリルくん。
「――戦うのは怖いよ。……人を傷つける事になるかもしれないっていうのも……多分これからも、きっと何度も悩むと思う」
 ちょっと悔しそうに、そういうエリルくん。――ですが、眼はまっすぐに、おとうさんをみていて。
「――だけど。戦うことから逃げたら後悔する。守りたいものを守れなかったら……それこそ、死ぬほど後悔すると思う」
 エリルくんは、一度ことばをとめて――深呼吸をしてから、口をひらきました。

「――だから俺は強くなりたい……ううん。強くなるよ、絶対」

 おとうさんは、なにもいわずに聞いていましたが……どこか優しい顔に――うれしそうな顔にみえました。
「――うん、わかった。じゃあ次は――アリア。君は、どう思った?」
 訊かれたアリアちゃんは――やっぱりいつも通り、あんまり表情はかわりません。
 だけど、一度わたしのほうをみてから――まっすぐ、おとうさんにいいました。
「……わたしも、おにいちゃんとおんなじ。……まもりたいとき、ちからがないのは……ぜったいに、イヤ」
 そういったアリアちゃんは……フィアナさんのほうをみて、ことばを続けます。

「だから……おかあさん、ごめんなさい。――わたしは……しんぱいさせても、たたかいます。……つよく、なりたいです」

「――っ、……うん、頑張りなさい? 私も協力するから、ね?」
「……うん。ありがと、おかあさん……」
 ちょっと、泣くのをガマンしているような顔で言うフィアナさんに、抱きついて甘えながら言うアリアちゃん。
 それを、優しい顔でみていたおとうさんは――こんどは、わたしのほうを見て。
「――それでイリスは……どう思っている?」
「……わたしは――」
 わたしの答えは――もう、決まっています。
『たたかおう』って決めたときに、おもったこと。それを――まっすぐに伝えたいって、おもいます。
「――守られているだけなんて、イヤ。……守ってくれるヒトがケガをして――それを見ているだけなんて、もっとイヤだから――」
 わたしは――アリアちゃんを見て、ウィルを見て――もういちどおとうさんに向きなおって、言葉を続けます。
「――守ってくれるヒトがいるのなら、わたしはそのヒトのケガを治してあげたい。それで――わたしも、だいじなヒトを守りたい」
「みぎゃあ……」
 わたしは――腕のなかのウィルを抱きしめてから、続きを言う覚悟を決めます。
 ――痛いのはキライです。だから……だれかをキズつけるのもイヤです。
 だけど……だいじなヒトがキズつくのは、もっとイヤです。
 そんなときに何もできないのは――ぜったいにイヤです……!

「――だから……くるしくても、後悔してもかまいません。つよくなりたいです……!」

 ちからいっぱい、わたしがそう言うと……おとうさんは何も言わなくて。
 わたしが『どうしたんだろう?』っておもっていると――ゆっくり近づいてきて、頭をなでてくれました。
「――うん、よくできました。……三人とも、十分に合格だよ」
「「「 っ……! 」」」
 顔をみあわせてよろこぶわたしたちに、おとうさんは続けました。
「……本当はね? 『ちゃんと考える』って言ってくれた時点で、ほとんど合格だったんだよ。――悩んだ末に出した答えなら、僕は絶対に否定はしなかった」
 イタズラっぽい笑顔でいったおとうさん。だけど、ここからまじめな顔になって。
「今回、悩んだ事を忘れないで。……もしそれを忘れてしまったのなら――たとえ力を手に入れても、君たちが望む自分には――絶対になれない」
 わたしたち一人一人の眼をみて言う、おとうさん。
 ――わたしは、くるしくても悩んでも、つよくなるって決めました。
 だから……こんかい悩んだことも、ぜったいに忘れません。

「――出来る限りの事はする。何でも協力する。……ゆっくりでもいいから、君たちは君たちのままで、強くなってほしい。――いいかな?」

「「「 はいっ! 」」」
 わたしたちは、ちからいっぱい応えを返しました。
「うん、いい返事だね。……じゃあ、もう今日は難しい話は終わり。――疲れたよね? 中で何か甘い物でも食べて、休憩しない?」
「うんっ!」「みぎゃっ♪」
 たしか――この前、歌のお礼にってもらった、ドライフルーツがいっぱい入ったお菓子があったはずです。――とってもおいしそうだったので、リーゼちゃんとエリルくんにも、食べていってほしいです♪
「……あれ? リーゼ、どうしたんだ?」
 エリルくんの声で、リーゼちゃんの方をみると――なにかを考えているみたいで。
「えっと……ごめんなさい。お母さんが心配していると思うので、私は帰ります」
「――ああ、そっか。じゃあ、俺が送ってくよ」
「え? いいの、エリル君……?」
「日蝕は終わったけど――魔物が出たばっかりだし、一人で帰らせるわけにはいかないだろっ! ……そんなわけで――甘い物、今度もらえると嬉しいよ」
 エリルくんとリーゼちゃんは、帰るみたいです。……ざんねんですが、たしかに心配しているとおもうので、しかたがありません。
 だけど……リーゼちゃんの様子がおかしいっておもうのは、気のせいでしょうか?
「うん、わかった。――エリル、リーゼちゃん。気を付けて帰ってね」
「気を付けてね。――それから……リーゼちゃん?」
「はい……?」
「明日――ちょっと訊きたい事があるの。お昼過ぎから、ちょっといいかしら?」
「はい、わかりました。……では、また明日に。――イリスちゃん、アリアちゃん。ウィル君も――また明日、ね?」
「うんっ、気をつけてね!」「……ん。また、ね?」「みぎゃあっ」
 そういって、わたしたちはエリルくんとリーゼちゃんと別れて、教会に入――ろうとしたときでした。

 ――とつぜん『ゾクッ』と、イヤな予感がはしりました――

「――ッ!?」
 後ろ――リーゼちゃんたちの方だ、っておもって。慌てて振りかえると――
「ぅわあッ!?」
 エリルくんが、声をあげて――
「「「 っ! 」」」
 おとうさん、フィアナさん、アリアちゃんも、それを聞いて振りかえると――

「――――あ、あはは。ちょっと足ひねっちゃった……」

 ……転んだエリルくんが、ごまかすように笑っていました。――あれ?
「えっと……エリル、大丈夫なのかい?」
「う、うん、大丈夫、大丈夫! ――あ! り、リーゼも笑うなよぉ!」
 ……本当に、なんでもないみたいです。
 リーゼちゃんはこちらに背中をむけているので、顔はみえませんが……どうやら、笑うのをガマンしているらしいです。
「と、とにかく大丈夫だから! じゃあ、明日な!!」
 そう言って、リーゼちゃんの手をひいて、走っていきました。

 ――さっきの『イヤな予感』、なんだったんだろう……?

(SIDE カリアス)

 イリスも、アリアも、ウィルも。やっぱり疲れていたらしく、お菓子を食べ終わると、すぐに眠そうにしはじめた。
 だから、そのまま寝かしつけて――僕とフィアナは、こっそりとココに来ていた。

『――イリスちゃんのお友達が、ですか?』
「……はい。確証は全くありませんが――何らかの特殊資質を持っていると思います。――ハールート、何か気がつきませんでしたか?」
『――リーゼが、か。……いや、特に気付いた事は無いな』

 ここは――遺跡の一角にある、ハールートの住処。
 日蝕による魔物の大量発生、その終息を確認したと連絡が入ったため、再び転移陣を繋いでやってきた。
 そして――イリスたちが居ない事を幸いに、リーゼちゃんに関する報告を入れている、というわけで。
 ――流石にイリスの前で『リーゼちゃんには何かがある』っていう話は……ね。

『……『予知』に類する能力と、魔物を察知する能力、ですか。それなのに『祝福』はほとんど無く、精霊術の資質も無い、と……』
「ええ。――どうやら当人も戸惑っていた様子でしたから……おそらく、本人も知らない何かがあるのでは、と」
「――明日そこら辺を聞きに、リーゼちゃんの親御さんに会うつもり。……だけど、もし何かあったとしても――」
『分かっていますよ、お姉様。――親子の仲を引き裂く様な真似はしないと、ここに誓いましょう。……その子、とっても良い子なんですよね?』
『――うむ。それは我も保証しよう。アリアも、ずいぶん懐いておるしの。……それに、此度の騒動で人的被害が出なかったのは、どうやらリーゼのお蔭らしくての』
「……それは初耳です。どういう事ですか?」
 自警団の人との話では、それらしい話は聞いていない。
『――出現場所を焼いた者どもと話したのだがな。あの場所に魔物共が湧く前に、団長のリリーが配置場所を変更を指示したらしいのだ。それが功を奏し、魔物の分断・誘導と、早期の出現場所の破壊に繋がった、というらしいのだが――』
「――なるほど。そのタイミングでリリーさんが得られる情報源なら、確実にリーゼちゃんですね。それにしても――自警団の人に、お知り合いがいるのですか?」
『…………うむ。以前、偶然に出くわしたことがあってな。――少々意気投合し、親しくなった者がおる』
 ハールートと自警団の繋がりは、ちょっと意外だった。……それはともかく。
 もしその情報が無くて、街中に湧いた魔物の誘導が行われていなかったら……最悪、無秩序に破壊を振りまき、家屋への浸入・殺戮(さつりく)が頻発した可能性もある。

 ちなみに。今回、魔物が街中に湧いた理由は判明しでいる。
 日蝕発生の告知が出される前。遺跡を探索していた冒険者グループが、街の中と遺跡中層を結ぶ特殊転移陣を、偶然に発見。
 ……証言内容と人物像を聞いた限り――僕が以前、路地で遭遇した人たちの様なんだけれど……とにかくその人等は、探索場所へのショートカットと遺跡の入場料を節約するために、その転移陣で遺跡に通っていた。
 結構な儲けも出していたらしく、その情報を独占するために、他の同業者や遺跡関係者との接触を最低限に控えていたため、日蝕の発生を知らなかったらしい。
 そして――運悪く、三日ほど遺跡内で過ごし、そろそろ遺跡から出るか――というときに日蝕が発生。大量発生から逃げるために転移陣を使用したところ、魔物たちまで転移してきた――という状況らしい。
 ……自業自得とも不運とも言える、微妙な顛末だった。

『――とりあえず、一度その子に会ってみたいですね。……まさかとは思っていますが、少しだけ思う所がありますので』
「――レミリア。私もちょっと思う所があるんだけれど……確かそっちに、古代刻印術の研究記録があったわよね? 今度、見せてくれないかしら?」
『刻印術……ああ、確かありましたね。――わかりました、手配しておきます。という事は……リーゼさんには何かが封印されている、と?』
「――イリスちゃんと同じ『聖女』か、近い力を持っているかも、そう考えているわ」
 フィアナの言葉を意外に思いつつも……僕自身、どこか納得もしていた。
 最近、妙に印象がイリスと重なる事と――ウィルが妙に懐いている事もある。
 ――まぁとりあえず、明日リーゼちゃんの親御さんに話を聞いてから、かな。
 それなら今は――僕の訊きたい事を訊いても大丈夫だろう。
「――教皇。少々お訊きしたい事があるのですが……近くに養父(ちち)はいますか?」
『……? いえ、マクスウェル殿でしたら、今は自身の執務室に居るかと思いますが……どのようなご質問ですか?』
 怪訝な表情を浮かべたレミリア。
 それもそのはず。レミリアを『教皇』と呼ぶ事で、重要な話である事を示しながら――養父(とう)さんを『団長』ではなく『養父(ちち)』と呼んだため、質問を予想できないのだろう。

「では、お訊きします。――私の出自に関して、何かご存じではありませんか?」

『『「 ……………… 」』』
 レミリアはもちろん……ハールートとフィアナまで、少し困った様な顔をした。
 ハールートは……レミリアから、何か聞いたのだろうか? だけど――
「……フィアナまで、何か知ってるの?」
「――あ、ううん、違うの! ただ、その……私も疑問に思っていた点もあったし。それに以前、さりげなくおじさまに訊いたら――『ちょっと、な』って誤魔化されたから、何かあるんだろうなって、思ってはいたの」
「……ちなみに、その『疑問に思っていた点』って?」
「分かりやすいのだと……カリアスが使う『解呪』。防ぐなり潰すなりはともかく……精霊術を聖術で『消す』なんて、本来は『困難』じゃなくて『不可能』なのよ?」
「……そうなの?」
 以前試したら出来たので、そのまま使っていた、僕の得意技。……使っている人、居ないなーとは思っていたけれど――
『『 ……(こくり)』』
 呆れた様な表情を浮かべて、無言で首を縦に振るレミリアとハールート。
 ――全く疑問にすら思っていなかった自分って……?
『聖殿騎士――こほん。そんなお兄様が疑問を持ったのは、何故なんです?』
 僕の事を『聖殿騎士カリアス』ではなく『お兄様』と呼んだのは……とりあえず『幼馴染が個人的に相談を受けた』という事にした方が、誤魔化しやすいという判断か。
 という事は――暗に『聞かない方が良い話もありますよ』という事だろう。
 ならば僕は、変わらず教皇に対する口調で話し、全て聞く覚悟がある事を示そう。
「今さら、といえば今さらなのですが……イリスとウィルの存在、ですね」

 一応、本当に疑問には思っていた。
 レミリアの『神託』による予言に導かれ――イリスに出会った。
『神託』に示されたのがイリスであり――そのイリスが彼女らしい行動を取る事が重要であるならば……イリスに魂を注ぎ、育てる者も指名されていたと考えるべきだろう。
 そして――なぜ、それが僕なのだろう、と。

「――しかも、そのイリスは『精霊の愛娘』にして『聖女』。更に――天聖白竜の仔に、僕とイリスが『親』と認識された。……ここまで来ると、さすがに――」
「――待った。カリアスも……ウィルが光竜だって、前から確信してたの?」
 ……そういえば、言っていなかったか。
 僕は服の左の袖をまくり――この前、フィアナの剣が貫通した場所を見せる。
「この前の怪我。僕の治癒術だと、ある程度の傷痕は残るはずだったんだけど――」
「…………痕跡すら無いわね。――そういえばあの時、ウィルが舐めて……」
 そう。聖術で治療中に、ウィルが触れてきた。……それくらいしか心当たりが無い。
「おそらくウィルは周囲の聖術――いや『祝福の力』なら、無意識にでも増幅させるんじゃないかな? ……たぶん、この前言ってたリーゼちゃんの家の店で子守り歌が暴走した件も、ウィルの影響だとすれば納得できるし」
「――なるほど。イリスちゃんの――聖女の祝福を、ウィルが増幅させたのね……」
 精霊の愛娘が操る精霊の力、聖女の祝福、そして――天聖白竜の力。
 それらが合わされば……無警戒ならハールートすら眠ってもおかしくない。
『……それだけ揃えば、さすがに気付きますよね。……わかりました。ですが――』
 少し、躊躇いを見せるレミリア。だけど、すぐに口を開く。
『――『全てを話す』とは言えません。その理由は、おそらく途中で察していただけると思いますが――それでよろしいですか?』
「……わかりました。お願いします」
 多分、それが『教皇として』の精一杯なのだろう。それならば、無理を言う気は無い。

『では――あなたの疑問点、その結論と思われるものから言います。あなたは――旧神の力を宿すと言われる、旧文明の王家――その生き残りです』

「…………はい?」
 僕の疑問点――神託やイリス関連への疑問の答えだとすれば……納得はできる。
 ……でも。いきなり言われても――自分の事だとは認識しづらい。
 そんな僕に、レミリアは苦笑を浮かべながら続ける。
『――そんな反応になる気持ちも、理解できます。……ですが事実です。恐らく――私やフィアナさんが近しい間柄として育ったのも、当時の大人たちの思惑ゆえ、でしょうね。……少々複雑ではありますが、私は感謝する事にしています』
 僕とフィアナ、そしてレミリアが、幼馴染として育った事。
 これが偶然ではなく、作為的なものであったとして……。
「――何?」
 なんとなく、フィアナを見てみた。……すると、あっさりと言葉が出てきて。
「――そうですね。僕も、感謝する事にします」
「――っ!?」
 隣でフィアナの顔が赤くなる。それを見るレミリアは、笑みと共に言葉を続けて。
『そう言っていただけると、私も嬉しく思います♪ ……ですが。当然、そんな良い話ばかりではありません』
「……はい。わかります」
 僕に、欠片でも旧神の力があるのなら。
 そして……神託の予言にイリスが関わる理由が、旧神の力を由来とするのなら――

『――聖殿騎士カリアス。そしてイリスさんと……フィアナさんも。あなた方は……神々すらも絡む事象に、巻き込まれる恐れがあります』

「……現状で、その『事象』とやらの見当は?」
 そのフィアナの問いに――レミリアは首を横に振る。
『――現状では、何らかの前兆と思われる事象は確認されておりません。……ただ、様々な欠片(ピース)が集まりつつある。そんな気はしています』
 現状で――イリスの周りに集まっている、特異な存在。
 僕とフィアナ、ハールートとアリア。そして、もしかしたらエリルと――
「――まさか、リーゼちゃんもその『欠片』だと……?」
『その可能性があると、私は思っています。現に――イリスちゃんが居た遺跡と、イグニーズ遺跡の建造年代が、ほぼ一致している事が判明していますから』
 ……思った以上に、事態が大きくなるかもしれない。
 しかも――その中心となるのが、このイグニーズの街になる可能性もある。
 ――僕に、何ができるんだろう……?
 そう考えて……フと浮かんだのは――やっぱり愛娘と、その仲間たちで。
『これから、一層大変になるかもしれませんが――』

「――構いませんよ、そんな事」

『……はい?』
 エリル、イリス、アリアは……『覚悟』を求められて、こう答えた。
 ――例え迷っても、心配をかけても、苦しんでも、後悔しても。守りたいもののために戦いたい。あの子たちがそう答えたのなら……僕も、逃げるわけにはいかない。
「――僕が守りたいものが、この街には多くあります。それなら……例え何が起ころうと、僕がする事に変わりはありません」

 聖殿騎士として。それ以上に――イリスの家族として。この街に暮らす者として。
 僕は全力を尽くして、この街を守りたい。
 それが――例え神に文句を言われようと、変えるつもりのない僕の願い。

 そう告げた僕に向けられた――教皇、古竜、そして――幼馴染の瞳は。
 少し呆れた様でありながら……とても、優しい眼差しだった。



   ◆◆◆次回更新は未定です◆◆◆

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