第三編 一章の1 闇の少女と黒の竜

作者:緋月 薙

一章の1   闇の少女と黒の竜
(※今回は 序章 教皇と闇使いの少女 と合わせて2話分の更新になります)



SIDE:カリアス

「――あれ、エリル? どうしたんだい?」
「あら、どうしたの?」
 僕とフィアナが教会の敷地を出ると。(へい)に寄り掛かり、エリルが待っていた。
「兄ちゃん、フィアナ姉ちゃん――リーゼの家に、行くんだよな……?」
「うん、そうだけど――」

 ――昨日の日蝕(にっしょく)時の活躍で明らかになった、リーゼちゃんの特異性。
 リーゼちゃんの性格はよく知っているし、別に罪を犯したわけではない――それどころか昨日の事を考えると、彼女がこの街を救ったと言っても過言ではないと思う。
 だから出生の秘密を暴く様な事は、正直に言うとしたくはない。
 だけど……リーゼちゃんは自分に秘められた『何か』を把握しておらず、己の能力に(おび)えている様子だった。
 リーゼちゃんに秘められた、その全くの未知である『何か』。
 その正体を少しでも知らないと『万が一』が起きた際に対処出来ないし……何より、当人の精神的な負担を(やわ)らげる事も出来ない。

「――昨日の事で、リーゼちゃんのご両親と話さないといけない事があるから、ね」
 そう答えると、何か思い詰めた様な表情になったエリル。
 言葉を探している様な……言うか言うまいか悩んでいる様な仕草をしてから――
「――本当に最悪の場合だと。リーゼをどうするつもりなんだ……?」
「……『最悪の場合』? エリル君、それは――」
 エリルの言葉を聞いて問い返そうとしたフィアナが、言葉を止めた。
 ……エリルが僕たちを見る眼は――不安そうでありながらも、覚悟を決めた者の眼。
 ならば――僕たちも、真剣に返すべきだろう。
「『最悪の場合』なんて事が……悲しい事が起きない様にするために、話を聞きにいくんだよ。――悪いようには、絶対にしない。それだけは誓うよ、エリル」
「……っ、ありがとう、兄ちゃん」
 そう言うと少し……少しだけ、落ち付いた様子のエリル。
「――今度は僕が()くけど……エリル、何があった?」
 話の内容から察するに……おそらく、リーゼちゃんに関する『何か』があった。
 ――昨日、僕たちと別れた後……? もしくは――
 日蝕が終わって帰ろうとしたとき。エリルが不自然に転んだ事があった。……当人は『大丈夫』って言っていたけれど――あのとき、何かがあった……?
「…………ごめん。リーゼが居ない所では、話したくない。――兄ちゃん、姉ちゃん。リーゼの母ちゃんたちと話しに行くなら……俺も参加させてほしい!」
 そう言ってきたエリルに、僕とフィアナは顔を見合わせ。
 お互い、軽視すべき話ではないという認識を確認し合い……頷いたのは、ほぼ同時。
「――わかった。でも、リーゼちゃんとご両親の許可が得られたらって事になるけど……それでいいね?」
「っ! ……うん、ありがとう」
「お礼を言われる程の事でもないわよ。……エリル君がこんな話をするっていう事は――リーゼちゃんも、かなり思い詰めているのよね……?」
「…………うん。昨日の――『直後』よりは、マシになったはずだけど」
 ――その『直後』と『マシになったはず』な事を知っているという事は……リーゼちゃんを支えたのは、エリルなのかな?
「――それなら早く話しに行って、今後の事を考えないとね。……大丈夫。絶対に、悲しませる様な状況にはさせないから。――よく頑張ったね、エリル」
「ッ……! ――うん。ありがとう兄ちゃん……!」
僕が頭を撫でながら言うと。やっと安心してくれたのか、瞳が(うる)みだし……慌てて泣かない様に目に力を入れるエリル。――余程、気を張っていたらしい。
「――でもカリアス? エリル君が来るのは、ある意味で都合が良いんじゃない?」
「うん、まぁそうだね。……二度話す手間が省けるっていうだけだけれど」
「……え?」
 僕とフィアナの会話を聞いて、疑問の声を漏らすエリル。
 そして――その疑問に答える前に。教会の方から、足音と声が聞こえてきた。
「おとうさん、おまたせ――あれ、エリルくん……?」
「……ん、おにいちゃん……?」「……みぎゃ?」
 予定外のエリルが居て、狙った様に揃って首を傾げるイリスとアリアとウィル。
 事情を聞いていないから、その反応は当然ではあるのだけど……登場だけで一気に場の空気を弛緩(しかん)させたのは、流石と言うか何と言うか。
「――え、えーっと……なんで、イリスたちも……?」
「話の流れ次第では、この子たちの事も話した方がいいかなって。――もしそうなった場合は、君にも後で話すつもりだったから……確かに、手間は省けたかな」
 変わらず、頭に疑問符を浮かべている子供たちに、僕とフィアナは苦笑を交わし合い。

「――さて、行こうか。色々分からない事が、少しでも早く分かるように、ね?」

      ◆      ◆

「――そう、でしたか。そんな事が……。昨日帰ってきてから様子がおかしいのは分かっていましたが……何も、話してくれなかったので――」
 そう語ったのは、リーゼちゃんのお母さん。
 普段は食事処の女将(おかみ)を務めているだけあって、明るく気丈(きじょう)な女性だけれど――そう言葉を漏らした表情は……悲しそうなものだった。

 リーゼちゃんの家のお店に着いた僕たちは、イリスとアリア、ウィルには外で待っていてもらって、話し合いに(のぞ)んだ。
 出迎えてくれたのは、リーゼちゃんと、そのご両親。
 お母さんの方はお店で度々お会いする、茶色の髪の40歳くらいの女性。
 お父さんの方は、料理長として厨房にいるため滅多に会わないが――どちらかというと『職人さん』といった雰囲気の、体格の良く寡黙な印象の40代中盤と思われる男性。
 どちらも――昨日から様子がおかしいと思っていたらしく、自分たちの娘を気遣っている様子が見て取れた。
 エリルが参加を申し出ると、やはり怪訝な顔をしたけれど……リーゼちゃんの懇願(こんがん)で了承したのも、少しでも精神的に楽になるならと思ってだろう。
 そして当のリーゼちゃんはというと。表情は思ったより暗くはない。だけど顔色は悪く――多分、昨夜は眠れなかったのだろう。少し疲れている様子だった。

 そして昨日の出来事――主にリーゼちゃんの事を中心に、ご両親に話したところ、その反応が、先の女将さんの言葉。
「……ごめんなさい、お母さん。でも……私は何なのか分からなくて、怖くて……!」
「――リーゼ、お前は何も悪くない。……俺たちにも分からない事が多いが――それでも、話すべき事を先延ばしにしていたのは事実だからな……」
 自分から話せなかった事を謝るリーゼちゃんに、慰めるように――(なだ)める様に語る親父さん。その表情には……後悔の色が(にじ)んでいた。
「本日は、別に素性を追求するため等ではありません。何しろリーゼさんは問題を起こしたわけではなく、むしろ街を救ったと言えるのですから」
 ご両親――親父さんと女将さんだけでなく、当のリーゼちゃん本人も、実感が湧いていない様な顔をしている。――無理も無いかもしれないけれど。
「――君は、それだけの働きをしたんだよ、リーゼちゃん? ……ですので我々は、あなた方の意思を無視した強制的な措置を()る事は、絶対にありません。――まず、その点だけはご安心ください」
「――お気遣い、ありがとうございます」
 そう言い、頭を下げる親父さん。女将さんも、少し安堵した表情を浮かべている。
 だけど……ここからが本題。少し間を置いてから、今度はフィアナが話し出す。
「――ですが。リーゼさんが持つ未知の能力は、特異に過ぎます。そして何より……本人が、それを持て余している様に見受けられます」
 皆の視線がリーゼちゃんに集まり――当人は、不安そうな顔で頷いた。
「……能力の正体が分からないと、当人の負担が軽くなる事は無いと思います。そのためにも――何か知っている事があれば、教えていただきたい、と」
 フィアナの言葉に、女将さんと親父さんは顔を見合わせ、少し考えている様子。
 その間に僕は、となりのエリルを見てから――
「――エリル。追加で話す事が、あるんだよね? ……話してくれないかな?」
「っ、……リーゼ、いいか?」
 一度『ビクッ』と反応し、躊躇う様子を見せたエリル。
 だけどすぐに覚悟を決めたらしく――リーゼちゃんに真っ直ぐな視線を向ける。
「――うん。……お願い、エリルくん」
「……わかった、じゃあ話すよ――」

 リーゼちゃんからの、信頼の眼差しを受け。
 エリルが語り出した内容は――僕とフィアナの予想を、少し超えていた。

      ◆      ◆

「――闇を、操る能力……?」
 エリルが話した――急襲してきた影の魔物を、リーゼちゃんが闇を操って倒したという話を聞き、フィアナが呟きながら考え込む。これは――心当たりがあるのかな?
 その事も気になるけれど……それより先に、僕には言わなければならない事がある。
「――リーゼちゃん?」
「は、はいっ!」
 僕に呼ばれ、怯えたように反応するリーゼちゃんに向き直り、口を開く。

「エリルを助けてくれて、ありがとうございました」

「――え? カリアスさん……?」
「兄ちゃん……?」
 予想外だったらしく、キョトンとした顔をするリーゼちゃんとエリル。 
 だけど僕にとっては……ある意味、リーゼちゃんの秘密云々より重要な事。
「――そんな上位種が、あんなタイミングで襲撃してくるなんて想像もしていなかった。……君が居なかったら、エリルは大変な事になっていたよ。だから……ありがとう」
「カリアスさん……」
「――エリル。……完全に、油断してた。君を命の危機に(さら)してしまった事、この場で謝らせてほしい。……本当に、ごめん」
「それは……! ――うん。だけど……何も出来なかったのは俺もだよ。もう同じ失敗はしたくないし、もっと強くなりたいから――これからも、よろしくお願いします!」
 続いて謝罪した僕の言葉を受け入れて、今後もよろしくと言ってくれたエリル。
 その事を嬉しく思い――だけど、感慨に耽るのは後回し。
 今は、話をリーゼちゃんの事に戻す。改めて、リーゼちゃんのご両親に向き直り。
「――話を逸らしてしまい、申し訳ありませんでした。……しかしこの様な理由で、リーゼさんは僕にとっても恩人です。決して悪いようには致しません。――何かご存じの事がありましたら、どうか教えていただけませんか?」
 ご両親は、顔を見合わせて――頷き合い、女将さんが話し始めた。
「――わかりました。お話し、させていただきます。……その前に、リーゼ?」
「……お母さん?」
「あなたがどんな存在でも、誰が何て言おうと、私たちの娘よ……? ――それだけは、忘れないで」
 そういう女将さんの言葉に、隣の親父さんも頷く。
「……ありがとう、お母さん、お父さん。――はい。絶対に忘れません。……もう、見失いません……!」
 目に涙を浮かべ、そう言った母子の姿を……とてもよく似た親子だなと、思った。

「――リーゼは、私が産んだ子ではありません。……私たちがこの街に来た日、迷い込んだ路地裏の廃屋敷(・・・・・・・)で見つけた子です」

 女将さんの言葉に、リーゼちゃんの様子を(うかが)うと……ただ真っ直ぐな目を、自分の母親に向けていた。
「……そうでしたか。ちなみに――何処(どこ)の廃屋敷ですか?」
「教会前の通りから、中央通りに抜ける路地の途中です。当時の自警団に報告はしたのですが、素性はわかりませんでした。手掛かりになりそうなものは――これだけです」
 そう言い女将さんが取り出した物は――手の平サイズで円形の物体。
「……メダリオン、ですか?」
 おそらく銀製と思われるそれは、材質的にはそう高価ではないと思う。
 だけど、おそらく大樹がモチーフと思われる紋章が精緻(せいち)に彫り込まれており、華美でない事が、むしろ気高さにすら感じられる品だった。
「この紋章は――」
「フィアナ、知ってるの?」
「……ううん。ただ、似た物は知っているわ」
 メダリオンの紋章に、何か思う所があるらしいフィアナ。再び、何か考える仕草をしてから――ご両親に向かって口を開く。
「……少しお訊きします。リーゼさんの足首のアザは、いつ?」
「――はい? 足首のアザは、見つけた時から、です。……以前リーゼに訊かれた時は、誤魔化してしまいましたが」
「お母さん……」
 女将さんの言葉に、リーゼちゃんが苦笑いを浮かべる。……だけどフィアナは、笑いもせずに何かを考えたままで。
「……リーゼちゃん。その足のアザ、今はどうなってる?」
「――え? そういえばイリスちゃんに治癒術をかけてもらったお蔭か、だいぶ薄くなりました。――あの、それが何か……?」
 怪訝(けげん)そうに訊くリーゼちゃんに、フィアナは直ぐには答えず。少し考えてから――

「……現状、私の推測でしかありませんが、結論から言います。リーゼさんは、おそらく遺跡に封印されていた存在だと思います」

「「 なっ……!? 」」
 驚いた声を上げたのは――リーゼちゃんのご両親のみ。
「……あら? エリル君もリーゼちゃんも、驚かないのね?」
「――うん。だって……『路地裏の廃屋敷』って、昨日の『アレ』の所だろ?」
「……私も、それを聞いた時に覚悟はしていました。それに何より――」
 事情が分からず戸惑っているご両親を見て、エリルを見て――小さく笑ってから。リーゼちゃんは、綺麗な笑顔で告げた。

「――もう見失わないって決めましたから。帰れる場所があって、『私は私だ』って認めてくれる人がいるなら……もう、どんな自分でも怖くありません」

「リーゼ……!」
 感極まった様に、目を潤ませる女将さん。
 自分の事も言われていると気付き、エリルも少し照れくさそうな顔に。
 それを見て、少し困った様な笑みを浮かべてから、リーゼちゃんが続ける。
「――それに。アリアちゃんと同じ境遇という事なら……そう悪くはない気もしますし」
 そう、少し冗談めかして言われた言葉を聞いて――良いタイミングかな、と思い。
「その事なんだけど……すみません。少し、こちらからも話す事があるので――うちの子たちを呼んでいいですか?」
「「「「 ……はい? 」」」」
 リーゼちゃん一家の三人とエリルが、揃って首を傾げた――

SIDE:イリス

「えっと――イリスちゃん? 教会の偉い人とお話しするって言ってたけど……イリスちゃんはその人、知ってるの?」
「うん! たまにお話ししてるけど、とっても良いヒトだよ♪」
「……教会の偉い人と、『たまに』って言えるくらいお話ししてるの……?」

 おとうさんに呼ばれて、リーゼちゃんの家でお話ししたあと。
 フィアナさんが、リーゼちゃんのおとうさんとおかあさんに『足のアザを、親しくしている教会上層部の者に見せてみようと思います』って。
 だけど『機密に関わるかもしれないので、とりあえずは当事者だけで』っていうことで、リーゼちゃんのおかあさんたちは来ていません。
 エリルくんは、その場にいたっていう理由と――

「――兄ちゃん? その『偉い人』と一緒に居る、俺を会わせたい人って……?」
「うん。僕の養父で、師匠でもある人だよ。僕の教え子って、紹介しておきたくて」
「へぇ――……兄ちゃん、待った。兄ちゃんの師匠って確か……あれ? その人と一緒に居る、教会の偉い人って、まさか……?」
 おとうさんとお話ししていたエリルくんの顔が、あおくなっていきます。
「…………リーゼ。がんばれ」
「エリルくん、なんでそんな投げやりに!?」
「だ、大丈夫よリーゼちゃん? 確かに仕事中は『偉い人』なんだけど……普段はどっちかと言うと『困った人』だから!」
「……ん。ハールートとも、おともだち。おもしろいヒト、だよ?」
「あとね、とってもキレイなヒトだよっ♪」
 とても不安そうなリーゼちゃんに、わたしたちが言うと――困った顔になって。

「えっと……キレイな人だけど面白い人で、困った人だけど偉い人……?」
 
 ほんとうに、そのまんまな気がしますっ!
「……それはともかく。――リーゼが元に戻って、良かったよ」
 わたしたちを見ていたエリルくんが、安心した様に言いました。
 するとリーゼちゃんは、ちょっとお顔が赤くなって。
「……うん。ありがと、エリルくん。――お母さんも、お父さんも……エリルくんも、私は私だって認めてくれて。――それにアリアちゃんや……イリスちゃんとも同じ境遇なら、怖い事なんて何もないからっ♪」
 そう言ってニッコリ笑うリーゼちゃんは、とってもキレイでした――

 リーゼちゃんのお家で、わたしたちを呼んだおとうさんは、リーゼちゃんのおとうさんとおかあさんに、わたしとアリアちゃんの事を話しました。
 遺跡に封印されていた『造られし者』であること。
 世間にはヒミツにしているけど、教会のエライ人にはちゃんと認められていること。

 リーゼちゃんはたぶん、わたしと似た存在。だけど――『心配ない』って。
『何かあっても、教会と僕たちが守ります』
 そう、おとうさんが言うと。リーゼちゃんのおとうさんとおかあさんは『ありがとうございます』って――温かいなみだを流して、言いました。

「――だけど。イリスとリーゼちゃんが似た存在なら、いろいろ納得できたよ」
「そうね。それは私も思ったわ」
 ナットクしたように言うおとうさんと、面白そうに言うフィアナさん。
「え? なんの事?」 「え? なんの事です?」
 リーゼちゃんも、おなじタイミングで『なんの事?』って訊きました。
 すると、みんながクスクス笑って。
「同じ仕草で同じ事言ってると……本当に似てるんだな、リーゼとイリスって」
 エリルくんが言いました。だけど……あんまり、じぶんでは分からなくて。
「「 そうなの? ――あ 」」
 またリーゼちゃんと重なりましたっ!
 こんどはみんな、声をだして笑いだして。
「あははっ。今のは流石に偶然だと思うけど。でも雰囲気とか、本当に似てるよ?」
「多分、今が本来の状態だと思うわよ? 封印の影響で、今まで本来の気配や雰囲気も抑えられていたのね」
「えっと……そうなんですか?」
 おとうさんやフィアナさんが言うみたいに、たしかにリーゼちゃんの雰囲気は、ちょっと変わった気がします。――わたしと似てるかは、分かりませんが。

 フィアナさんのお話だと――リーゼちゃんの足首のアザは、封印だったらしくて。
 それをわたしが治そうとしたことで、封印が解けはじめている――らしいです。

「……リーゼおねえちゃん。ウィルのそれも……そのせいだとおもう、よ?」
「え? ――あ、そういえば……ウィルくんが懐いてくれる様になったのも、温泉に行った後からだった気が……?」
 ウィルはいま、リーゼちゃんに抱っこしてもらって、気もちよさそうに寝ています。
 眠っているウィルの頭を、そっとなでると。
「みぃ……みぎゃぁ……♪」
 うん。とっても安心して眠っています♪
「……ウィル、わたしやおかあさんにも、なついてくれる。でも――だっこでねむってくれるの、おねえちゃんとおにいさん、それとリーゼおねえちゃんだけ、だよ?」
「そうなんだ……?」
 アリアちゃんに教えてもらって、うれしそうに、とっても優しい目をウィルにむけるリーゼちゃん――だったのですが。
「……み? み? みぎゃっ?」
「あ、あれ? ウィルくん、どうしたの?」
 とつぜんウィルが目をさまして、まわりをキョロキョロしだしました。
「ウィル、どうしたの――って……あれ?」
「――あれ? 何、これ……?」
 ウィルから少しおくれて、わたしも『それ』に気がつきました。
 そして……リーゼちゃんもおなじみたいで。
「――二人とも、どうしたの?」
「え、えっと……何だか、呼ばれてるみたいな――」
 フィアナさんに訊かれて、リーゼちゃんが自信なさそうに言いました。
 でも――わたしは、この感覚を知っています……!

「これ――ウィルを見つけたときとおなじだよっ……!」

 この、なんだか『行かなきゃダメ』って感じるフシギな感覚は、間違いありません!
「え? まさか――また封印された何かが……?」
「リーゼも、そうなのか……?」
「何かは分からないけど……『行かなきゃダメ』っていう感じが――イリスちゃん、あっちから……だよね?」
「――うん。おんなじ方だと思う。……ウィルも?」
「みぎゃあっ!」
 リーゼちゃんもウィルも、わたしとおなじ方向に呼ばれてるみたいです。
「……もしウィルと同じパターンだったら、放っておけないね。――イリス、リーゼちゃん。案内を頼めるかな?」
「みぎゃあッ!」
「っと、ごめんごめん。忘れてたわけじゃないよ。じゃあ――ウィルも頼めるかな?」
「みぎゃっ!」
「あ、ちょっと待って! 仮にウィルの時と同じなら、誰かが転送珠を持って教会に居た方がいいわ」
 ――言われてみれば……ウィルが封印されていた石の剣は、とっても重そうでした。
 二つ一組で、片方のある場所に転移できる転送珠がつかえるなら、とっても便利です!
「――そうだね。それにハールートにも話を通しておいた方が良いだろうし、レミリアに連絡する準備もしておいた方が良いか……。なら、僕が教会に行くよ。あと……エリル。悪いんだけどハールートの所に行って、事情を話しておいてくれない?」
「うん。わかった」
「じゃあフィアナ、そっちはお願い」
「ええ、わかったわ。――イリスちゃん、リーゼちゃん、ウィル。案内お願いね?」
「「 はいっ 」」
「みぎゃっ!」
 フィアナさんに元気にお返事して、わたしたちは歩きだしました――

      ◆      ◆

「――イリスちゃん、ウィルくん。あの建物から……だよね?」
「みぎゃっ!」
「うん、そうだと思う――んだけど……?」
 あそこに『なにか』があるのは、間違いないと思います。
 ですが――なんで、あそこにあるのでしょう……?

「え、あの建物って……自警団の詰め所!?」

 フィアナさんも、おどろいた声をだしました。
 わたしたちが『呼ばれた』のは、自警団のみなさんがいる所で。
「――少し意外だけど……拾得物か何かかしら? リリーさんなら、何か知ってるかもしれないわね。とにかく行ってみましょう?」
「みぎゃっ!」
「わっ、いま行くから、まってウィル!」
 ウィルがわたしの服をひっぱって、『はやく行こっ!』って言ってます!
 せかされるままに、わたしたちは自警団のたてものに入っていきました。

「すみませ~ん」
「はい、どうしました――って、イリスちゃん!? アリアちゃんとリーゼちゃんも……お、お揃いで、何が――」
 たてものに入って声をかけると、入り口にいた男のヒトが、わたしたちを見て慌てていました。――どうしたんだろう?
「…………突然すみません。少しお訊きしたい事があるんですが、団長のリリーさんはいらっしゃいますか?」
「へ? あ、はい。団長でしたら、奥で押収品を――」
 わたしたちを隠すみたいに、前にでてお話しをするフィアナさん――でしたが。
「みぎゃあッ!」
「あっ、まってウィル!」
 ウィルが、おくに飛んでいってしまいました! わたしも追いかけます……っ!
「おねえちゃん、まって」
「イリスちゃんっ!」
 アリアちゃんとリーゼちゃんも、いっしょに来てくれました!

「みぎゃあ!!」
 ウィルを追いかけて、おくの大きな部屋に入りますっ!
「――え? イリスちゃん……?」
 部屋には、とつぜん入ってきたわたしに驚くリリーさんと、自警団のみなさん。
 そして、その部屋のおく。
 そこには、ウィルのときとおなじ、台座にささった石の剣。
 それと――それにむかって、大きなハンマーを振りあげている男のヒト!?
 ――あれは止めないといけませんッ!
 わたしはあわてて、大きな声で叫びました!

「らめぇぇええっ! そんなおっきいの(で叩いたら)、こわれちゃうよぉぉっ!!」

「「「「「 ――はぅッ!? 」」」」」
 ……あれ? ハンマーのヒトだけじゃなくて、部屋のなかのほとんどのヒトが、しゃがみ込んでしまいました……?
「い、イリスちゃん……? 今の発言はいろいろ問題が――」
 リーゼちゃんも、ちょっとお顔をあかくしてあわてています。なんででしょう……?
 ――あ! よく見ると、鼻から血がでているヒトがあちこちにいますっ!?
 頭でもうったのでしょうか? タイヘンです!

「み、みなさん……頭だいじょうぶですか!?」

「「「「「 ぐはッ!? 」」」」」
 しゃがみ込んでいたヒトたちが、こんどはお胸を押さえて倒れてしまいましたっ!?
「――ふ、ふふふふ。さすがはイリスちゃんです。天然モノの精神攻撃を二連発……危うく私も昇天しかかりました――」
 リリーさんが、ちょっとヨロヨロしながら歩いてきました。
「え、えっと、だいじょうぶなんですか……?」
「ええ……。ちょっと心が痛いだけですから、大丈夫ですよ?」
 なんでかわからないけど……ちょっとだけ引きつった笑顔で、リリーさん。

「――え? 心がオカシイんですか?」

「イリスちゃん!? もう止めてあげて!」
 まわりから『ごふっ』って音がきこえてきた中で、リーゼちゃんがいいました。
「あ、あれ……? みなさん、どうして……?」
「――うん。イリスちゃんは、まだ分からなくていい事だから、ね?」
「あ、フィアナさん」
 あとから来たフィアナさんも……ちょっと引きつった笑顔です?
「イリスちゃんのせいじゃないし……物理的には大丈夫だから、気にしなくて大丈夫よ」
「……ちょっと発言がアレだったけど――イリスちゃんは悪くないから、ね?」
 フィアナさんとリーゼちゃんが、そう言ってくれます。
「……たぶん、まだしらないほうがいいコト、だとおもう、よ……?」
 アリアちゃんもそう言っているので、そういうモノ……なのでしょうか?
「……待った。何気にかなりムッツリなリーゼちゃんはともかく――アリア? まさか意味、分かってないわよね……?」
「…………たぶんまだ、しらないほうがいいコトって、おもっただけだよ……?」
「本当ね? 分かっていないのね?」
「…………?」
 うしろでリーゼちゃんが『かなりムッツリ!?』ってショックをうけていますが……気づかずにお話しをする、フィアナさんとアリアちゃん。
 いつもの無表情で首をかしげてるアリアちゃんですが……ハッキリとこたえていない気がするのは、気のせいでしょうか?
「あ、あの……? ところで皆さん、何のご用でいらしたのでしょう……?」
 まだちょっとフラフラしているリリーさんが、おそるおそる訊いてきました。
 ……ごめんなさい。ここに来た理由、ちょっとだけわすれてました。
「みぎゃっ、みぎゃあっ!」
 ウィルが石の剣のうえで、『これっ、わすれないでっ!』って言ってます。
「……本当にあったのね。――リリーさん。自警団の皆さんの事は、あとでじっくりお話させてもらうとして……アレ、なんでここにあるのかしら?」
「団員の件は程々にしていただけると助かりますが……あの石のオブジェ、ですか? あれは日蝕の時に問題を起こした冒険者が、遺跡で発見したものです。――発掘行為自体は問題無いのですが……手段が違法だった事と、結果的に街を危険に晒したペナルティとして押収したものです。……あれが何か、知っているのですか?」
「という事は……例の屋敷の転移陣、その先の場所にあった物……?」
 日蝕のとき、魔物がたくさん湧いたお屋敷は――リーゼちゃんが見つかった場所だってききました。ということは……もしかして、リーゼちゃんとも関係があるかも……?
「……それ聞いて、余計に見過ごせなくなったわ。――リリーさん。申し訳ないんだけど、コレを教会でお買い上げって事にしてくれないかしら?」
「は、はい? ……通常は無理ですが――教会でしたら信用できますし、事情をお話しいただければ、可能だと思います」
「――ごめんなさい、今ここで説明するのは無理ね。……事情も話すし――リリーさんには、別のお話しもあったから丁度良いわ。少し付いて来てもらえないかしら?」
 フィアナさんがそう言うと、リリーさんはマジメな顔で、フィアナさんを見て。
「かなり真剣な話の様ですね……わかりました。――レオナルド?」
「――は。あの石剣の確認と記録は終わっています。団長の立会いの下という事でしたら、事後報告という事にして、持ち出しも可能です」
「――ご苦労さまです。……という事で、少しお付き合いいたしま――あら、どうしました? そんな驚いた顔をなさって……?」
 リリーさんは、教会にもたまに来るレオナルドさん(さっきまで、ほかのヒトといっしょに倒れてました!)とお話しすると、マジメなお顔をフィアナさんに――むけたのですが。……フィアナさんは、ちょっとビックリした顔で。
「――そうしていると本当に団長なのね。……さっきまでの醜態がウソみたい」
「――あれは不覚の極みと思っているので、蒸し返さないでいただけますか……?」
……そう言って、ちょっと泣きそうな顔になってしまいました。



   ◆◆◆次回更新は1月31日(火)予定です◆◆◆

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