第三編 幕間の1 親衛隊、魔王に○を売る ――そして覚醒へ

作者:緋月 薙

幕間の1  親衛隊、魔王に○を売る ――そして覚醒へ
(※今回は 幕間の1 親衛隊、魔王に○を売る ――そして覚醒へ と合わせて2話分の更新になります)



(SIDE:アナザーズ)

「我々はぁ! 幼ぉ女が大好きだあああああっ!!」
「「「「「 大好きだああああッ!! 」」」」」

「幼ぉ女の安全、我らが守ぉる!!」
「「「「「 我らが守ぉぉる!! 」」」」」

「幼ぉ女に危険をもたらす奴は!!」
「「「「「 殺! 殺! 殺! さぁぁっつ!! 」」」」」

「月に代わってぇ――オシオキよっ♪」
「「「「「 ひゃっは――!! 」」」」」

 こんにちは。出鼻から頭オカシイ方々と、彼ら担当のエドです。
 ――え? 私が今、どこにいるのかって? それはもちろん……。

 全員で叫んでいる親衛隊員の中ですが、何か?

 今、団長たるリリー嬢は不在のため、副長であるレオナルドが音頭(おんど)を取っていた。
 俺が参加した当初は、もう少しだけまともだったと思うのだが……。
 昨日の日蝕での戦い、特に主戦場となった屋敷での激戦(炎や雷を(まと)っての全裸乱舞)を乗り越えた者たちは、テンションの上がりっぷりが酷い。
 ――あの術、精神方面への後遺症があるんじゃなかろうな……?

 さて。昨日は日蝕で、しかも市街戦もあった。だから本来なら、親衛隊の大多数を占める自警団員は、治安維持の観点からもこんな所にいる余裕は無い。
 それでも――さすがに全員ではないが、多くが集まった理由。
 それが今、目の前に居る。
「「「「 ………… 」」」」
 我々の前には、拘束された四人の男が。彼らを一瞥し――レオナルドが口を開いた。
「さて。皆も知っていると思うが――昨日の日蝕において、街中に魔物が大量出現した原因。それがこの男たちだ」
 その言葉で、男たちを(にら)む者たちの眼が、更に鋭くなった。

 この者たち――四人の冒険者は、街中から遺跡の未踏領域に繋がる転移陣を発見。それを使って違法に探索し、かなりの稼ぎを出していた様なのだが……そのせいで日蝕の発生を知らず、遺跡内で凶悪化した魔物の大群と遭遇。
 慌てて逃げ帰ったは良いが……転移陣を封鎖しなかったため、彼等を追って来た魔物も大量に転移してきてしまった、というのが昨日のあらまし。

「我等が『女神』と(たた)える御方(非公認)の一柱、リーゼたんの預言により対処する事が出来たが……それが無くば、大変な事態に陥っていたのは明白!」
 リリー嬢の指示で、魔物の群れの多くを分断して誘導する事に成功。そうしている内に我々が『主神』と称える(非公認)イリスたんが、その御力でほとんどの魔物を一掃。
 その間に我等が出現元を破壊し――残った魔物が教会に集まったところを、急ぎ帰還したカリアス殿とフィアナ殿、急行したリリー嬢が掃討した事で終息となった。
 多くの者が迎撃に出ており、手薄になっていたところの襲撃。
 これがもし、魔物が誘導されること無く街中で暴れ回っていた場合……!

「――幼き女神さま方が、ケガしちゃっていたかもしれんだろうが……ッ!!」
「「「「「 幼女に危険をもたらすヤツは! 殺! 殺! 殺! さぁぁぁっつ!! 」」」」」

「「「「 ひぃぃぃッ!? すみませんでしたあああああッ!! 」」」」
 (ふく)れ上がった殺気に男たちは恐怖し、涙目で反省の言葉を口にする。
 ――(うるわ)しい幼き女神たちがケガをしてしまう可能性があった。ついでに、街も壊されてしまった可能性もある。そうなると、女神さま方が悲しんでしまっただろう……!
「――魔物がもし幼女好きの変態共だったらどうなっていたと思うんだ!?」
「そうだ! 魔物がもし幼女を襲ったらと思うと――も、もう! ぼ、僕はもう……!!」
「そんな変態共を街中に野放しにしようなんざ――何を考えているんだ!!」
 隊員たちも、口々に非難の声を上げる。
 なぜかその光景に、ブーメランが勢いよく飛び交う光景を幻視したが――そんなのは誰も気付かない、気にしない。

「――気持ちはわかりますが……一旦、落ち付いてください」

 大声でもないのに何故かよく通る声が、ヒートアップしていた男たちを鎮めた。
 その声の主は――言わずもがな、自警団団長のリリー嬢。
 彼女の登場に、男たちは『助かった』という様な安堵の息を吐いたが……彼等以外、ここにいる親衛隊員は皆、真の執行者が登場しただけだと認識している。
「役場より許可を得て――正式に、彼等の処遇は我々に任されました。これで、彼等を救う権限を持つ者はおりません。……そう、処刑を急ぐ必要は無いかと」
「「「「「 イエス・マム!! 」」」」」
 絶対者の言葉に、我々は良く訓練された兵隊の様に応える。
 そんな我々にニッコリと満足そうな笑みを向けたリリー嬢は、冒険者たちの方を向き。
「――さて。あなたたちが拠点としていた小屋から、目ぼしい物を押収してきました。ペナルティとして、遺跡で見つけた物は没収させていただきますが、他の私物に関しては態度次第で返却も考えています。そしてそれは、あなたがたの処遇も同様です。――協力、していただけますね……?」
「「「「 ――い、イエス・マム……!! 」」」」
 美しい――にも(かか)わらず妙に恐怖心を煽る笑顔を向けられ、男達も『絶対に逆らってはいけない存在』というのを理解したらしく、我々と同様の返事で応えた。


 そこから行われたのは、リリー嬢とレオナルドによる聴取。
 その未踏領域を見つけた経緯や、その中の様子など。
 奥にあったという巨大な門とそれに刻まれた紋章の話で、リリー嬢が少し険しい表情をする事はあったが、概ね順調かつ真っ当に事は進み。

「さて――後は押収物の確認ですが。さきほど聞いた話より少ない様なのですが……残りはどうなさいました?」
「ひっ!? も、もう売り払っただけです……! 帰還する度に、売れそうな物はとっとと売っていました! ここに残っているのは、売れなかった物や私物だけです……!!」
 この怯えっぷりから、嘘ではあるまい。
 ……やはりステキな笑顔があると、物事は順調に進む様だ(婉曲表現)。
「ふむ、確かに売り辛そうな物ばかりですね。――このサイズの宝石となると、下手な店では値が付けられないでしょうし、逆にこの像はガラクタ……あら?」
「どうしました、団長?」
「――いえ。……すみません。この石の剣は、例の門の前にあったという物ですか?」
「あ、ああ、そうだが……その像が何か?」
 それは、台座に刺さった剣をモチーフにしたと思われる石像。……ただ出来は悪く、どう見ても『剣の形をした石』といった有様の代物。
 ――リリー嬢は、このガラクタの何が気になったのだろうか?
「……いえ、まあ後でいいでしょう。――あと、ここら辺は私物ですか。……あら? この包みは何でしょう?」
「「「「 ――なっ!? そ、それは……っ!! 」」」」
 箱の中に入っていた、妙に厳重に梱包された包み。それをリリー嬢が手にした途端、男たちが騒ぎ出した。
「……何かしら後ろ暗い物の様ですね。すみませんが、見逃す事はできません」
「「「「 ああっ……!? 」」」」
 男たちが顔を青くし、親衛隊員は固唾を呑んで見守る中。その包みから現れた物は。
「これは――イリスちゃんの人形、ですか?」
 それは――歌姫にして聖女、精霊にすら慕われる麗しき女神、イリスたんを模した人形。
 しかも精巧にできたその様式は――我らが作る『フィギュア』と呼ばれる物。
 ……それを、この男たちは持っていた。それが意味する事は――

「「「「「 なんだ、同志か! 」」」」」

 場の空気が、一気にフレンドリーなものに変わった。
「はっはっは! そうならそうと、早く言えば良いものを!」
「……い、いや。さすがに少々、恥ずかしくてな」
 隊員の一人が親しげに肩を叩きながら言うと、その男は気まずげに答えた。
 ――まぁ確かに、ちっちゃい子が好きなどと、普通は大っぴらに言える事ではない。
 しかし、それが許されるのがこの空間。
 許されざる咎人であろうと、女神さまは優しく許容する(非認可)。
 我等が讃える女神さま(非公認)の慈悲の下に、我等は結束を固めているのだから。
「まぁ、世間体は悪いわなぁ。しかしこの場においては話が別だ! 女神の信者だと胸を張るがいい!」
「そうだそうだ! 今更、世間体が何だって言うんだ? 俺たちは全裸突撃を多用し過ぎたせいで、社会的にはすでに瀕死もいいとこなんだぞ?」

「「「「「 はっはっは! 違いない!! 」」」」」

 そう言って愉快そうに笑う隊員たち。
 ……いや、それは笑っちゃいけない気がする――というかシャレにならない事態だという事を、誰か指摘してくれないだろうか? ……いるはず無いのは、理解しているが。
「――しかし、よく出来ているな。我々が作る物と比べても遜色の無い程だ」
「……え、ええ。皆さんが作ったと思われる物を参考に、試行錯誤をして作り上げた物です。――その、そろそろ返していただけないかと……」
 隊員の一人が、その聖なる人形を持ちながら言うと、また別の一人がやや青い顔でそう言ってきた。――なんだか、妙に慌てている気が……?
 その様子が気になったので、その人形を先の隊員から受け取り、良く見てみると――
「……ん? これだけ出来が良いのに、繋ぎ目の接着が妙に甘くないか……?」
「――ッ!? そ、それは……!」
 指摘すると、更に慌てだす男たち。――まさか、これは……!?
 ソレに思い至った俺は、繋ぎ目の亀裂を拡げる方向に力を入れると――

 麗しき女神が纏う衣服が、(ことごと)く剥がれ落ちた。

「「「「「 ――なッ!? フル・キャストオフ仕様だとぉぉぉおおおッ!? 」」」」」
 しかも衣服の中まで細かく作り込まれているソレは、明らかに『そういう用途』の物。
 つまり――それは『聖なる人形』ではなく『性なる人形』だった。
「貴様ら……よりにもよって女神さまのイカガワシイ人形を作るなど、恥を知れッ!!」
「う、うるさい! 幼女好きな時点で恥もクソも無いだろうが! 貴様らがよく『恥』を語れるな!?」
 ……ある意味ごもっともな意見が飛んで来たが――ソレはソレ、コレはコレ。誰も今更、気にしたりなどはせず。
「いくら自ら作った物であろうと、我等の女神を模した像を穢した罪……例え神が(ゆる)そうと、我等は決して赦しはしない……!!」
「「「「「 殺! 殺! 殺! さぁぁっつ!! 」」」」」
 ……都合の悪い事は右から左へ受け流し、我等はただ『ちっちゃい子が大好き♪』という信仰にのみ生きている者。そして社会的には死にかけている者。
 皆が怒りを宿し、男たちを囲う。そしてその包囲が狭まり、怒りが解き放――

「 お 待
ち な さ い ッ !! 」

「「「「「 ――ッ!? 」」」」」
 ――一喝。ただの一喝で怒りに満たされた場を鎮めたリリー嬢、もとい団長。
 皆が気圧され黙る中、彼女は冷静に語り出す。
「怒りは分かりますが――さすがに無秩序な暴力としてそれを示すのは、自警団の長として許容する事は出来ません。我等の怒り、そして彼等の罪過は、明確な罰として晴らし、償わせるのが正しいあり方でしょう……」
 その言葉に、怒りを押し殺しつつも従う姿勢の親衛隊員たち。しかし、男たちは――
「くっ! そんな綺麗事を言った所で、どうせテメェ等が刑を決めるなら同じじゃねぇか! 私刑とどう違うっていうんだよ!?」
 そう言う男を筆頭に、開き直った怒りの目を団長に向ける。
 だが……リリー嬢は気にせず、口を開き。

「それが嫌なら、教会のカリアス様か守護竜様に引き渡しますが?」

「「「「 ――粛々と刑を受けさせていただきます……ッ!! 」」」」
 強大な力を持った、親バカ・爺バカな保護者。
 その存在がある以上……男たちは最初から詰んでいたわけで。
「――はい、ご理解いただけた様で何よりです♪」
 悪魔の様に美しい笑顔を見せたリリー嬢は、すぐに真顔に戻り、刑を告げ始める。
「あなた方は、この街に災禍を運んで来ました。――対処を間違えていれば、多くの者が犠牲になっていた可能性が高かった――」
「「「「 ――っ 」」」」
 先の人形の件は無くとも、彼等が犯した罪は客観的な視点でも明らか。
 告げられた罪状に、男たちは観念した様に項垂れる――が、リリー嬢の言葉は続き。
「――しかし、それはあくまで過失。しかも幸いな事に対処が成功したため、人・物共に損害は軽微で済んでいます。……よって、大きな刑罰を科する事は出来ません」
「「「「「 く――ッ!! 」」」」」
 今度は親衛隊員が、口惜しげな声を。そして――リリー嬢が、刑罰を告げる。

「――よって今回は……『次は無い』。その事を心に刻み込んでいただくのみとします」

「「「「「 …………は? 」」」」」
 その言葉に、全員が疑問の声を漏らすが――やはりリリー嬢は気にせず。
「聞こえていますね、ニンジャさん?」
 誰も居ない方向に向かって告げたかと思うと――突如、人影が湧いて出た……!?
「――はっ、ここに」
「「「「「 なッ!? お前は――!! 」」」」」
 現れたのは――かつて優秀な諜報員にして、女神さまを影ながら守るという名誉ある任務を託されておきながら……あろう事か女神さまの『おぱんちゅ』を覗き見るという大罪をやらかした男。その名は『ニンジャ』。
――皆にボッコされた後、処分は団長に託されたと後に聞いていたが……?
「……『彼等』を呼び、あなたが受けた刑と同じものを与えます。――用意を」
 リリー嬢が告げると、ニンジャは一瞬『ビクッ』と大きく震えたが、すぐ感情を消し。
「――御意に。直ちに『生贄』を用意して参ります」
「「「「「 生贄っ!? 」」」」」
 皆の驚きの声を無視して、ニンジャは再び姿を消し。
 少しの後、今度は入口から現れたかと思えば――背後に男を三人も連れていた。
 その男たちは人相が悪く、身分を示す様に手枷・足枷、猿ぐつわを付けており。
「だ、団長……? この男たちは確か――」
 その男たちに見覚えがあったらしいレオナルドが口にすると、それに頷いてから――

「この者たちは、婦女暴行未遂で捕らえた者です。彼等を用いて――『魔王』と取引をします」

「「「「「 ――なッ!? 」」」」」
 リリー嬢が告げた『魔王』という言葉。
 それで浮かぶのは――旧文明を滅ぼし、今も世界に爪痕を残す――
「だ、団長! まさかその『魔王』というのは、『名も無き魔王』の事ですか!?」
 さすがのレオナルドも冷静でいられず、慌てて問い詰め――

「――そんなわけないじゃないですか?」

 さらっと答えたリリー嬢に、レオナルドは『きょとん』とした顔になるが。
「――では……どこのどちらの魔王さまであらせられますか?」
 その問いに、リリー嬢は表情も無く答え。
「……異界より渡り来る『刀の魔王』。姿無き馬が引く『真なる撃墜王』なる馬車を駆り、あらゆる場所に現れ、眷属と共に罪人を攫い、貪り喰らう者――」
「「「 ッッ!? 」」」
 連れてこられた犯罪者たち三名が、その言葉を聞いて暴れ出す。
 しかし、その拘束は緩まず――彼等は逃れる術は無い。
「――さあ、召喚を始めます。皆さんは『生贄』から離れてください」
「「「 ッ!? ッ! ッッ!! 」」」
 罪人たちが『生贄』という言葉を聞いて更に暴れるが――逃れるには至らず。
 そうこうしている内に――床には陣が描かれ、聞いた事も無い言語での詠唱が始まり。
 それに伴い、空間に闇が――いや、遥か彼方(かなた)の虚空に続く、漆黒の穴が出現。
 それが徐々に大きくなると共に――中からまるで、獣の咆哮の様な低い音が響き始め。
 そんな中――罪人たち以外で、様子がおかしい者が居る事に気付いた。
「……ん? おい、ニンジャ。……おいニンジャ!! どうした!?」
 虚空からの重低音が聞こえてあたりから、身体をガクガクと震わせているニンジャ。その瞳は――前を向いていながらも、何も映していない様子。
「……俺は先の罪により……彼等と、同行させられていた……」
「『同行』? ……っ!? つ、つまり魔王と共に行動し――魔王と眷属が罪人を貪り喰らう様を見ていたというのか……!?」
 俺は……恐ろしい考えに至り。違う事を祈りながら問うと――
「――ああ、その通りだ……奴らは多くの世界を渡り……罪人を集め、貪り喰らっていた……!! 喰われた者たちの声が、今も耳から離れない……ッ!!」
「「「「「 …………ッ!! 」」」」」
 ニンジャの言葉に、全員が顔色を青くする。
「くっ……、俺たちが女神さまを眺めてハァハァしている間、お前はそんな血みどろな場所に居たのか……!?」

「――いや、血はあまり……ほとんど、流れた事は無い」

「……へ? だ、だが、罪人が生きたまま、貪り喰われるのだろう……?」
 と、俺が戸惑いがちに、そんな事を訊いた時。
 ついに虚空の穴からソレが――『刀の魔王』が乗るという、姿無き馬が引く馬車、『真なる撃墜王』の姿が見えた。

 四つの車輪で走るソレは、確かに馬車の様に見えた。
 不思議な光沢をもつ金属で作られた、車輪のついた四角に近い形の箱。しかし――その咆哮は聞こえるにも拘わらず、それを引く馬の姿が見えない。
 前面下部の二カ所から魔道具と思われる光を発するその乗り物は――まるでソレが目であり、己が意志を持って動いているかの様にも見え。
 鋼鉄の箱が『ブオオオン』や、『ブロロロロ』という様な咆哮をあげて迫りくる様は……なるほど『魔王の愛車』と言われて納得する程の威圧感を覚える。

「――奴らが喰らう罪人は……各世界の者たちが捧げた、主に性犯罪者。……奴らは俺の目の前で貪り喰らい――ッ!!」
 どう考えても凄惨極まりない、血みどろな地獄絵図にしか思えないが……?
「それで、なぜ血が流れない……? 罪人を目の前で喰らったのだろう? 性犯罪者というからには、ほとんど男だろうが――……ん?」
 ……何かが、引っかかった。

 ――罪人を、喰らう。性犯罪者の男を、喰らう。……男を、喰らう……?

 ある事に思い至り、別方向の意味で戦慄(せんりつ)を覚え始めた時。
 ついに『真なる撃墜王』は間近に迫り――虚空の穴から出てくる手前で『キキーッ』という咆哮――というより音を出して止まり。
 そこから降りて来たのは……相当に体格が良いという事以外は、我々と同じ『人間』に見える男たち。
 彼らは皆、上下一体となっている奇妙な揃いの服を着て、やたらとニコニコしていた。

「――やあ、リリーくん! いつもありがとう!!」
「いえいえ、こちらこそ犯罪者の回収・更生を行ってくださるロドリゲス様には、大変感謝しております。今後とも是非、よろしくお願いいたします」
 リリー嬢とフレンドリーに挨拶を交わす、ロドリゲスというらしい男。
 彼が『刀の魔王』らしいが――『刀』はおろか、武器らしい物は持っていない。
 そして――リリー嬢が言った『犯罪者の回収・更生』。……(むさぼ)り喰らうはずなのに。
 周囲の親衛隊員の多くは首を傾げているが――数名、俺と同じケツ論……もとい結論に至ったらしく、顔を青くしている。
「さて――リリーくん? 今回は、あそこの四人組かい?」
「いえ、彼等は以前のニンジャさんと同じく、見学だけです。今回はそこの三人ですね」
「ほほぅ? 彼等ねぇ……」
「「「 ――ッ!? 」」」
 三人の罪人を舐める様な視線で眺める『魔王・ロドリゲス』と、その眷属たち。
「……おいニンジャ。その喰われた奴らは……どうなった?」
「最初は泣き叫び暴れるのだが……段々と抵抗が無くなり――『事』が終わった後には、完全に奴らの仲間と同じ存在になっていた。……一人の例外も無く」
 覚悟して訊いたにも拘わらず――『イヤな事を聞いちまった!』という激烈な後悔が。
 そんな俺たちの前で、じっくりと獲物を眺め終わった魔王様ご一行は、揃って『うむ』と満足げに頷くと、揃って口を開く。

「「「「「 ウホッ! いい男……! 」」」」」

「「「 ッ!? ッッ!?!? ――――ッッ!?!? 」」」
 罪人たち、暴れる。
 そりゃーそうだろう。……ここまでくれば、もう誤解の余地は無い。

 つまりリリー嬢は――魔王に犯罪者の男を売って、協力体制を築いているわけで。

「……彼等はあらゆる世界を周り、始末に困った犯罪者を回収して回り――貪り喰らい、挙句に同好の志に染め上げ、眷属として仲間を増やす。……その愛車『真なる(ハイ・)撃墜王(エース)』は移動手段にして『処置室』であり……それを知る世界では、攫っていろいろイタす事を『ハイ・エースする』『ハイ・エースされる』などと呼称して恐れている……」
「…………ちなみに、彼等の戦闘能力は?」
「――未知数。俺が見た限りでは……身の丈が俺たちの三倍はある巨人を、指一本で行動不能にして引き摺り込んでいたぞ……」
「「「「「 人型なら巨人もイケるの!? 」」」」」
 戦慄と共にそんな会話をしていた俺たちの前で、『刀の魔王』……いや、おそらくは――

『両刀の魔王・ロドリゲス』一行は、罪人たちを抱えてお持ち帰り。

 そして、冒険者四人組に笑顔を向けて。
「――さぁ見学者のキミたちも、一緒にイこうじゃないかぁ?」
「「「「 ひぃぃぃっ!? 」」」」
「――あらあら、怯えなくても大丈夫ですよ? あなた方と同じ体験をしたニンジャさんは、いろいろ無事で帰還しているのですから♪」
 怯える四人に、リリー嬢はニッコリ笑って告げた。
 その様を見ているニンジャは、ガタガタと激しく震えているが。
 ――このニンジャ、肉体的には無事でも……精神的には無事と言えるだろうか?
「はっはっは、リリーくんに言い含められているからね。君たちが望まない限り、イタす事はないよ? とはいえ……ふむ。一応は他の人たちにも訊いておこうかな?」
 そう言ったロドリゲスと眷属たちは、四人組だけじゃなく、我々親衛隊員も見まわしてから――揃って口を開いた。

「「「「「 やらないか? 」」」」」

「「「「「 ヤりませんッ!! 」」」」」
 迅速かつ全力で拒絶。しかし魔王は気にした様子も無く。
「はっはっは。気が変わったら呼んでくれれば、どこの世界からでも迎えに来るからね? さて、では行こうかぁ?」
 そう言ったロドリゲスに続いて眷属たちと――もはや死刑囚の様な絶望感に満ち満ちた表情の四人組が『真なる撃墜王(ハイ・エース)』の中に消えた。
 そして扉が閉まり、発進――するのかと思いきや、『なぜか』車体が激しく揺れ始め。
 ――数十分後。揺れが収まったところで、やっと彼等は去って行き。『姿無き馬』の咆哮が聞こえなくなったあたりで、虚空の穴は狭まっていき、やがて消滅した。
「「「「「 ……………… 」」」」」
 まるで、大蛇が獲物を丸呑みする所を目撃してしまった様な……激烈な戦慄と後味の悪さが、俺たちの心に重たく残った――
「……あいつら、余計な大冒険なんてするからこんな事になるんだ――」
 そう言うのは、『アリアたんに虫ケラを見る眼で罵られたい』と熱く語る冒険者。
「……いや、性癖的に大冒険中のお前が言うなと」
 俺が『幼女専門被虐趣味』という大冒険な性癖持ちにツッコミを入れると、周囲の者も揃って呆れた様子で頷く。
 しかしそうした事で、いつもの空気が戻ってき始めたところで、リリー嬢が。
「――さて。ではお仕事に戻りましょうか♪」
 悪魔の所業を成した団長殿は、天使の様な笑顔でそう言った。
「……まぁ、それもそうですな。やらねばならない事は多いですし」
「そうですね♪ ですがその前に――そこのあなた、少し協力してくださいませんか?」
「――俺ッスか?」
 リリー嬢に指名されたのは――親衛隊で随一の巨体と腕力を誇る男。
「ええ。――あなたのそのハンマーで、あの石像を思いっきり叩いてほしいんです」
「……アレをッスか? いいッスが――壊れてもいいんスか?」
「――ええ。壊れたのなら、それで構いません。……なぜか少々違和感を感じていまして、その正体がわかれば、と」
 そう言って石像を見つめるリリー嬢は、『壊れない』と確信している様にも見え。
「……そういう事ならば。じゃあ、行くッスよ――」
 と、男がそう言って、ハンマーを振り上げた時だった。

「みぎゃあ!!」
 突然、そんな鳴き声と共に扉が開かれ。そして現れたのは、小さな白竜と――

「――え? イリスちゃん……?」
 さすがのリリー嬢も、女神様が突撃してくるのは予想外だったらしく、驚きの顔で停止している。
 そう。突然乱入してきたのは――我らが主神と称える(繰り返すが非公認)至高の存在である、イリスたん……!
 あまりの出来事に、皆が停止している中で、女神様は周囲を見まわしてから、ハンマーを振り上げている男を見つけ、慌てた様子で口を開き――

「らめぇぇええっ! そんなおっきいの、こわれちゃうよぉぉっ!!」

 その絶叫に――我等の脳内は、瞬時にピンク色に染まった。
「「「「「 ――はぅッ!? 」」」」」
 ――野郎共は、ほぼ全員が前屈みに(うずくま)った。
 いや、いくら『紳士たれ』なんて言っていても。ちっちゃい子好きのロリコンが、そんな発言に耐えられるわけ……ないよね?
 しかも今日は少し前に、違法品とはいえ『イリスたんフィギュア、フル・キャストオフ仕様』をバッチリ見ているわけで――
 数名が鼻血まで出しているのが見えるが……彼等を責められる者がどこに居よう?
「い、イリスちゃん……? 今の発言はいろいろ問題が――」
 いつの間にか現れていた、最近人気急上昇中の女神、リーゼたんが慌てた様に言っているのを聞きながら。我等は脳内で、必死に自己弁護に努め――そんなとき。

「み、みなさん……頭だいじょうぶですか!?」

「「「「「 ぐはッ!? 」」」」」
 第二の爆弾が落とされた。
 例え脳内だけであろうと、自己正当化すら許さない、女神の裁き――!!
 ――ふ、ふふふふふ……頭を、心配されちゃったゼ……。
 流石のリリー嬢も大打撃を免れなかったらしく、フラフラしながら女神様たちと話しをしているが――それを聞いている余裕は無い。
 女神が放った言葉の矢が、俺の心臓に突き刺さり、(さいな)む。
 だけど……なんだろう? 痛みと同時に、なぜか妙な昂揚感までもを覚える。
 ――俺は、頭がおかしいのはもう諦めたが……心までおかしくなったのだろうか?
 いや、それはないだろう。我々は紳士である事を心に刻み、清く正しく――

「――え? 心がオカシイんですか?」

「「「「「 ごふっ 」」」」」
 再び振り下ろされた、女神の裁断。
 純粋なる精神攻撃――完全な非物理攻撃であったにも拘わらず、女神が振るった言葉の刃は、我等に血反吐を吐いて悶え苦しませた。
 しかし心を抉られる激痛に耐えながらも、俺の心には――先ほど以上の昂揚が!
 ――あと少し。あと少しで、この昂揚の正体が掴める気がする……!!
 その『あと少し』を求めて……俺はイリスたんではなく、おそらく保護者として一緒にきたのであろう、フィアナ嬢に視線を向けると――

「…………(汚物を見る様な眼)」

 ――はふんっ♪
 俺、無事に昇天。

 薄れゆく意識の中で、俺が考えていた事は。
 ――とりあえず……あとで、幼女専門被虐趣味のアイツと、握手しよう。
 そう考えたのを最期に、俺の意識は闇に沈んで行った――



   ◆◆◆次回更新は2月3日(金)予定です◆◆◆

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