第三編 二章の2

作者:緋月 薙

二章の2



(SIDE:イリス)

「イリスちゃん、クッキー焼くの上手だよね」
「ありがとリーゼちゃん! わたしのクッキー、ウィルが好きって言ってくれるから、よく作るんだ♪ ――でもキレイなケーキとか……オシャレなのは、リーゼちゃんには全然かなわないよ?」
「ありがと♪ 私はお店のお手伝いしてるから、ね?」

 おとうさんたちは、ハールートさんの所でレミリアさんとお話し中です。
 わたしはさっきまでリーゼちゃんと、おやつに食べるお菓子をつくってました!
 アリアちゃんとリースとウィルも、はじめはいっしょだったんですが……お料理につかう果物とかを見て、ウィルとリースがヨダレを流していて。
 ……まるで『おあずけ』してるみたいでカワイソウになったので、アリアちゃんにお願いして、中庭で遊んでいてもらうことにしました。

 わたしたちはお菓子をのせたお盆をもって、その中庭に向かっています。
 できたお菓子は、みんなで中庭で食べようって思ったんです。
「リース、喜んでくれるかな?」
「大丈夫だよっ! 果物好きみたいだったから。リーゼちゃんが作ったジャム、とっても美味しいよ? あと――それ。エリルくんも、きっと喜んでくれると思うな♪」
「あ。えっと……ありがと、イリスちゃん」
 お盆のはじっこにのってる包みは、リーゼちゃんが作ったエリルくんのお菓子です。
『お礼がしたいから』って、とっても丁寧に作ってました。
「――え、えっと……リースたち、どこかな?」
 恥ずかしそうにしていたリーゼちゃんが、ちょっとごまかすみたいに言いました。
「えっと……おやつがくるの知ってるから、お昼寝してることはないと思うけど――あ、いたよリーゼちゃん!」
 あそこの木のちかくで、ボールで遊んでるみたいです。
「――ウィル、リース、いくよ? ……えいっ」
「みっ……!」「みゅっ!」
 アリアちゃんがボールをなげると、それを追いかけていくウィルとリース。
 だいたい同じくらいの早さだけど、ちょっとだけ、リースの方が早いのかな?
「みゅうっ♪」
「みっ!? みー……っ!」
 リースが先にボールに追いついたんですが、ウィルはリースが抱えてるボールに飛びつきましたっ!
「みゅっ!? みゅ~っ♪」
「ウィル、リース。ケンカはだめ……だよ?」
「みっ♪」「みゅうっ!」
 アリアちゃんの注意にも『だいじょうぶ!』って言ってるので、やっぱりじゃれあってるだけみたいです。
「こうやって見てると……将来ハールートさんみたいになるの、信じられないよね」
「ちょこちょこ走ったり飛んだり、とってもカワイイもんね♪」
 走るのはリースが速いみたいですが、飛ぶのはウィルの方が速いみたいです。
 元気に遊ぶ二匹はとってもカワイイので、いつまででも見ていられますが――今はこの、できたてのお菓子が先ですっ!
 わたしたちは平らなところを見つけて、そこに敷物を敷いて。その上に、お菓子をのせてきたお盆をおいてから――『子どもたち』を呼びます♪
「リース~! おやつ持ってきたよぉ!」
「ウィル~! それとアリアちゃ~ん! いっしょに食べよぉ♪」
 リーゼちゃんといっしょに呼ぶと、ウィルとリースの動きがピタッて止まって。
「みぎゃあっ!」 「みゅうぅっ♪」
 ウィルは飛んで、わたしのところに。リースは走って、リーゼちゃんのところに。
 まっしぐらにやってきて、飛びついてきました♪
「リース。アリアちゃんとウィル君に遊んでもらってたんだね。楽しかった?」
「みゅうっ♪」
「ウィルも、いっぱい遊んだんだね♪ さ、おやつだから、手を洗お?」
「みぎゃ♪」
 ウィルとリースからすこしだけ遅れて、アリアちゃんもきました。
「――おねえちゃん」
「アリアちゃん、ウィルたちのお世話してくれて、ありがとね♪ ――あっ!」
 ちょこちょこって駆け足できたアリアちゃんを見ると――顔がちょっと汚れてます!
 アリアちゃんは気にしてないけど……わたしは持ってたハンカチを、精霊さんにお願いして濡らしてもらって。
「もうっ! お顔がよごれてるよ? アリアちゃんカワイイんだから、もっと気をつけないともったいないよっ!」
「――むぅ。……おねえちゃん。ちょっと、はずかしい……」
 ……ちょっとだけ文句言って、すこしあかくなって恥ずかしそうだけど――おとなしく拭かれてるアリアちゃん、カワイイです♪

「――あはは。アリアちゃん、イリスは可愛い妹の面倒を見たいんだから――諦めて、付き合ってあげてくれると嬉しいな」
「あらあら。みんな、本当に仲が良いんだから♪」
 ――後ろから、そんな声がきこえてきましたっ!
 おとうさんとフィアナさんが戻ってきたんだって思って、振りかえると――

「うふふっ、こんにちはイリスさん、アリアさん♪」
「あー……こんにちは、だ」

 そこにいたのは、映像ではきのうも会ったけど、ほんとに会うのは久しぶりの――
「レミリアさんと、おじいちゃんっ!?」
 レミリアさんは『イタズラ成功っ!』っていう顔で笑ってて、おじいちゃんは、なんだか恥ずかしそうに横を向いています。
 ふたりとも、映像のときの法衣?
や鎧じゃなくて、目立たないふつうの格好です。
 さっき声をかけてきたおとうさんとフィアナさんは……ふたりの後ろで、ちょっと困ったみたいな笑顔です。
「……レミリアおねえさんと――マクスウェルさん。いつ、きたの……?」
 びっくりして、目をぱちぱちしながらアリアちゃんが訊くと。
「つい先程ですよ? ――実はこの前来たときに、転送珠をハールートさんに預かってもらっていたので、それを使いました♪」
「まさか、ハールートが協力してるなんてね……」
「……考えてみればハールート、レミリアが愚痴を言う相手にうってつけだよね」
 楽しそうなレミリアさんは、フィアナさんとおとうさんが少し疲れたみたいに言うのを気にせず、リーゼちゃんの方を向いて。
「直接お会いするのは初めてですね。――初めましてリーゼさん♪ フィアナお姉様の妹、レミリアと申します。――よろしくお願いしますね?」
「え、えっと……?」
「――リーゼちゃん。昨日の通信で分かったと思うけど……この子、二面性の使い分けには定評があるから、気にしないで大丈夫。――息抜きに付き合ってあげて?」
 迷ってたリーゼちゃんでしたが、フィアナさんに言われて、決めたみたいです。
「――はいっ。フィアナさんには、とってもお世話になっています。こちらこそ、よろしくお願いします、レミリアさんっ」
「――ありがとうございます。それと……ウィル君、リースちゃん?」
「み?」 「みゅ?」
 レミリアさんはリーゼちゃんに嬉しそうな笑顔をむけてから、こんどはウィルとリースを手まねきで呼んで。
「きゃあっ♪ 映像でも可愛いと思ってましたけど、実物はもっと可愛いですねっ!」
「みぎゃっ!?」 「みゅうッ!?」
 近くにきたウィルたちを、ガッチリつかまえて抱きしめました!?
「ちょっ、レミリア!? ウィルとリースがジタバタしてる!!」
「は、離しなさいレミリア! 絞めてる絞めてる……!!」
「――はい? はッ!? ごめんなさいっ!!」
 レミリアさんがあわてて離すと、ウィルとリースは逃げだして。
「みぃ……」 「みゅう……」
 ちょっと離れたところで『びっくりした……』って言ってます。
「その……ごめんなさい。ちょっと熱くなってしまって……。もう絶対に痛くしないので、少し撫でさせてもらえませんか……?」
「「 ………… 」」
 ウィルとリースは顔を見あわせて、ちょっとかんがえてるみたいです。
 だけど、すぐに近づいてきて――
「みっ」 「みゅう」
「あ、ありがとうございますっ! ……今後とも、よろしくお願いしますね?」
「みぎゃっ♪」 「みゅっ♪」
 嬉しそうにお返事したウィルとリースを見て、ちょっとハラハラしてたおとうさんたちやリーゼちゃんも、優しい笑顔になっています。
 ――あれ? アリアちゃんはどこに……あ、いましたっ。
「……マクスウェルさん。わたしも『おじいちゃん』って、よんでいい……?」
「――む、あ、ああ。喜んで。……逆に、こちらは何と呼ぶべきか……」
 いつもの無表情で訊くアリアちゃんに、おじいちゃんは少し困っているみたいです。
「『アリア』で、いい。……たぶんほんとうに『義祖父ちゃん』になるとおもうし」
「――まぁ。多分、そうなるだろうな」
「……それに。そうなったほうが、そっちもつごうが、いいんだよね……?」
「ッ!? ……それに気付いているのか。本当に末恐ろしいな。――だけど安心してほしい。あの二人の意に反する事を強制する事は無い。……それだけは誓おう」
「……ん、わかった。――そういうひとが『おじいちゃん』で、うれしい。……よろしく、おねがいします」
「……うむ。よろしく頼む、アリア」
 おとうさんたちには聞こえないくらいの声で、お話ししていて。意味もちょっとわからないトコがあったけど――仲良しになったみたいで良かったですっ♪
「おじいちゃんっ! わたしのことも『イリス』でいいよ?」
「む? わ、わかった……イリス」
 ちょっと慣れていないってかんじがしますが、『イリス』って呼んでくれました!
「ふふっ♪ さっき、イリスちゃんと一緒にお菓子を作ったんですが、レミリアさんたちも一緒にどうですか?」
「(ま、孫娘たちの手作りだと……!?)う、うむ。ありがたくいただ――」
「――あ、おじさま? 少しお願いしたい事があるんです」
「…………はい?」
 おじいちゃんがお返事しおわる前に、レミリアさんがそう言って――
 ――そして、いきなりどこかから大きな箱を出しましたッ!?
「こちらの荷物を、自警団の詰め所に届けてほしいんです♪」
「はい!? ――っていうか今、何処から出しました!?」
「――はい。この指輪は教皇家の秘宝で『エターナル・プリズン』っていうんです」
「……『永遠の牢獄(ろうごく)』――ずいぶん物騒な名前ね?」
 フィアナさんが、少し頬をひくひくさせて言うと、レミリアさんは笑顔で。
「捕らえた凶悪犯から、買ったばかりの氷菓子まで。何でも、いくらでも、何時までも。空間圧縮して保存できる、とっても便利な倉庫ですね♪」
「なんでそんなもん持ち出して!?」
 おじいちゃんがあげた叫びに、レミリアさんはニッコリ笑って。

「このドッキリのためです♪」

「「「 あんた何やってんの!? 」」」
 おとうさん、フィアナさん、おじいちゃんが叫んでも、レミリアさんは笑顔です。
「――とにかく。例の遺跡探索用の支援物資なので、早く届けるに越した事はないんです。お願いできませんか、騎士団長殿?」
「ここで役職名!? ――くっ、ぬ…………はっ! 私は自警団詰め所の場所を知らないので、行きたくても行けませんね、はっはっは――」

「あ。抱えながらでも見れる様に、箱のココに地図を書いておきました」

「余計な気遣い、ありがとうございます! 行ってきます……ッ!!」
 ……おじいちゃんは、荷物を抱えて走っていってしまいました。
「――レミリアおねえさん。あんまりおじいちゃん、いじめちゃダメ、だよ?」
「……たまに申し訳ないな、とは思うんですが――反応が楽しいので、つい♪」
「『つい』で聖殿騎士団長をいびるんじゃないわよ!」
「……いや。アレで養父さん、悪い気はしてないっぽいんだよね。――以前、お酒飲んだとき『堅っ苦しい仕事より千倍楽しい』とか言ってたし」
「マクスウェルさんって――イジメられて(よろこ)ぶタイプの人なんですか?」
「それより上司としては、お酒での失言が多いっぽいのが気になります……」
 ……ちょっと、わたしにはわからないお話になってきました。
「み! みぎゃ……?」
「みゅう……!」
「――あ、おやつだったよね! ……えっと、とりあえず、おやつにしよっ!」
 ウィルとリースが、ヨダレを流して『お菓子まだ?』って言っていますっ!
「わ、ごめんねウィル君、リース! ――練習も兼ねていっぱい作ったので、カリアスさんもフィアナさんも、レミリアさんも。良かったらどうぞ♪」
「うん、ありがとうリーゼちゃん。――イリスも頑張ったね? いただくよ」
「あら、さすがリーゼちゃん。結構本格的なのも作ったのね♪」
「ありがとうございます♪ では私は、お茶を淹れますね?」
 ――きょうのおやつは、とっても楽しくなりそうです♪

「――わぁ、レミリアさんが淹れたお茶、とっても美味しいです!」
「ありがとうございます、リーゼさん♪ お茶は趣味なんです。香草茶のブレンドも試しているんですが……レシピ、お渡ししましょうか?」
「はい、ぜひ! ――あ。リース、こっちは昨日の果物を使ってあるよ?」
「 ! みゅうっ♪ ……みゅ?」
「……おねえちゃんのパンケーキに、リーゼおねえちゃんのジャム……さいこう」
 みんなが喜んでくれて、とっても嬉しいです♪
「――ん? ウィル、どうしたんだい……ああ、コレも欲しいのかな? はい」
「みぎゃっ♪」
「――あ。ウィル、こんなところにもクリームついてるよっ」
「み? みー……みぎゃっ♪」
 おとうさんといっしょに、ウィルのお世話をしていると――
「みゅー……」
 リースが、ウィルをジーっと見てました。
「どうしたの、リース?」
「みゅう。みゅうっ」
「――え? 『【おとうさん】いいな。ほしいな』……?」
「みっ!? みぎゃあっ!」
 リースの言葉をきいたウィルが『おとうさんはあげないよっ!』って言って、おとうさんにしがみつきました。
 ――と、そんなとき。中庭の入口のほうから足音がして。

「あー! 今日のおやつ豪華でいいな――って、教皇様!?」

 きょうはお家のお手伝いで遅れるって言ってた、エリルくんが来ましたっ。
「今はお忍びで、ただの『レミリア』としてお邪魔しております。――直接お会いするのは初めてですね。こんにちは♪」
「……は、はあ。こんにちは……あ! って事は、あれは本当に団長だったの!?」
 びっくりした状態から落ちつきそうだったエリルくんが、またびっくりしました。
「エリル? どこかで養父さんを見たの?」

「……う、うん。大きな箱を抱えて、泣きそうな顔で自警団詰め所の方へ走って――」

「「「「「 ……………… 」」」」」
 みんなそろって、ちょっと遠い目をしました。
「……さすがに、ちょっとやりすぎたかもしれませんね。――イリスさん、少し追加で作っていただく事は、出来ますか……?」
「えっと――うん! おじいちゃんの分だよね? 全部は無理だけど、焼くだけになってるのもあるから、すぐに出来るよ♪」
「ありがとうございます。――この指輪を使えば、出来立てのまま保管できますので」
「本当に教皇家の秘宝を――『永遠の牢獄』を、焼菓子の保管に使うのね……」
 ……フィアナさんが言うとおり『それでいいの……?』っていう気はしますが。だけど作りたてを食べてもらえるなら、わたしは嬉しいです!
「――あ。えっと……エリル君、ちょっといいかな? ――これ」
「ん? なんだリーゼ……って。これ、クッキー?」
「……うん。エリル君のために作ったの。エリル君には、いっぱい助けてもらったから。感謝の――私の気持ち。……受け取って、くれるかな……?」
 リーゼちゃんは、ちょっと恥ずかしそうに。だけどまっすぐエリルくんを見て。
 リーゼちゃんが作ったエリルくん用のクッキーは、他のより少し甘さひかえめで。
 だけど一個だけ、とっても丁寧に作っていたハートのクッキーだけは、ちょっと甘めに作っていたのを知っています♪
「へっ!? た、助けてもらったのは俺だぞ!? で、でも……うん。……ありがと」
 もらったエリルくんも、お顔がまっかです。
 そんな二人を、みんなが笑顔で見ていて――あれ?
「みゅー……」
「――え? な、なんだリース?」
「り、リース……? 何してるの……?」
 なぜかエリルくんのまわりを飛んで、じーっと見ているリース。
「……みゅ!」
 そして『うん!』ってうなずいて――エリルくんの頭の上に乗っかって?
「みゅう、みゅっ!」
「っ!? り、リース、何言ってるの!?」
「……え、リーゼ? ――リースは何て言ったんだ?」
「へっ!? その……えっと……っ!?」
 わたしは、リーゼちゃん程はっきりとわかるわけじゃないけど……。
 でも、だいたいの内容はわかります。
 続いてリースは、エリルくんの頭から飛びたって、リーゼちゃんに抱きついて。
「――みゅっ、みゅうみゅうっ♪」
「……なんだろう。言ってる事はわからないのに、この先が大変な気がしてきた……」
「ご、ごめんなさい、エリル君……っ!」
 リーゼちゃんは、まっかになってあわてていますっ。
「(……イリスちゃん。リースは何て言ったの?)」
 フィアナさんが、ちっちゃな声で訊いてきました。――いつの間にか、アリアちゃんとレミリアさん、おとうさんも聞きにきてますっ!?
「(え、えっと……最初が『【おとうさん】って、みとめてあげるっ!』で、次が――『でも、おかあさんの一番はわたしだもんっ』かなぁ……?)」
 さっき『おとうさん』がほしいって言っていたので、そのせいでしょうか?
「……生後二日にして、他人の感情を察することが出来るんですね」
「っていうか、早くもこっちの意味で『女の子らしく』なってるのね……」
 レミリアさんとフィアナさんは『すごいモノを見た!』ってお顔ですが……わたしとおとうさんは『
? 』って、首をかしげました。
「――みぎゃっ?」
 なにも気にせずお菓子を食べていたウィルが『――食べないの?』って言ってきて。
「……食べようか」
「う、うんっ」
 ……わからないことは、とりあえず置いておいて。
 おとうさんとウィルといっしょに、お菓子をおいしく食べることにしましたっ。

      ◆      ◆

「――で。そろそろ本来の用事を済ませたらどうなのかしら、レミリア?」
 おやつを食べおわって、みんなお茶をのみながら、のんびりお話ししていると、フィアナさんが言いました。
「本来の用事……ああ、ウィル君とリースちゃんと遊ぶ事ですね♪」
 とってもいい笑顔で言いましたっ! ……だけどフィアナさんは冷たい眼です?
「……違うわよね?」
「冗談ですよ、お姉様♪ ――リーゼさん。実は、あなたに用事がありまして」
 レミリアさんは、リーゼちゃんにご用事があるみたいです。
「私に……ですか?」
「はい。まずは――こちらが闇聖術の文献と、その要点をまとめた資料になります」
 そう言ってレミリアさんが出したのは――古くてとっても厚い本を五冊と、普通の本くらい(?)の厚さの紙のたばでした。
「……この厚さを要約して、ここまで薄く出来るのかい……?」
「ええ♪ 理論やら神への感謝やら資質への考察云々の面倒な事を省いて、術の種類や簡単な考察だけを抜き出したら、これくらいに」
「『神への感謝』も面倒な事って――それでいいの、教皇サマ?」
「関係無い事にまで感謝するのは、何か違うと思うだけですよ?」
 フィアナさんにニッコリ笑って応えたレミリアさんは――紙のたばをリーゼちゃんに、古い本を、おとうさんとフィアナさんの方にすすめて。
「とにかく――お約束していた資料です。やはり教本はありませんでしたが……聖術との相似点(そうじてん)が多々ありますので、お兄様なら修得も指導も可能かと」
「――わかった、やってみる。ありがとうレミリア」
「ありがとうございます、レミリアさん!」
「はい、どういたしまして♪ ――あと、リーゼさん。……封印を、完全に解いてしまいませんか?」
 にっこり笑って『どういたしまして』って言ったレミリアさんですが。すぐにマジメな顔になって、リーゼちゃんに言いました。
「封印を……ですか?」
「はい。昨日のお話と――何より地聖黒竜のリースちゃんが慕っている時点で、封じられているモノに危険が無い事は明白です。ならば闇聖術の速やかな修得のためにも、解いてしまった方が良いのでは、と」
 リーゼちゃんの封印、足首の模様はもう『ほとんど』消えかけています。
 だけど――これ以上は、わたしの『治癒術』では消えなくて。たぶん、べつの『封印を解く術』じゃないと、ダメなんだと思います。
「あの……レミリアさん? 解いても危険が無いなら――そもそもなんで、私に封印なんてされていたんでしょうか……?」
 そう訊かれたレミリアさんは、言うかどうか、ちょっと迷ったようすでしたが。
「……利用価値の問題、でしょうね。あなた自身に危険は無くとも、それを利用されてしまえば分からない。――封印を(ほどこ)す事で、もし捜す者が居ても探知されない様にしたのでしょう。現に、遺跡から出た事を、精霊たちですら察知できなかったのですから」
「なっ、それじゃ封印を解いたら、リーゼは狙われる――!?」
「いえ、その心配はありません♪ あなたの価値を知っている者はほとんど居ませんし……一番それを求めそうな所には、既に根回し済みですので」
 あわてて声をだしたエリルくんに笑顔をむけてから、レミリアさんが言いました。
 だからわたしも、たいせつなお友達のためにできることを言いますっ。
「もしなにかあっても、わたしや精霊さんがいるから大丈夫だよっ」
 言いながら、精霊さんたちに『出てきてください』ってお願いしました。
 すると、あか、あお、みどり、きいろに光る、ちっちゃなヒトがあらわれて。
 『リースのお母さんは、オレたちが守るぞ!』
 『イリスちゃんのお友達なら、ぜったい守るの!』
 『ウィル君のためにもなるなら、頑張るもんっ』
 『リーゼちゃんの周り~なんだか気持ちいいの~。居心地いいの~』
 精霊さんたちは、みんなにも聞こえるように言ってくれました♪
「――僕とフィアナ、それにハールートも。何かあったら絶対に助けるよ?」
「……正直『万が一への備え』にしては、過剰戦力にも程があるわよ? だから――心配の必要は一切無いわ」
 おとうさんとフィアナさんも、そう言ってくれて。
「……何かがあったとしても。あなたがあなたである限り、私も含めた皆があなたを守ります。――さあ、どうしますか?」
 レミリアさんがそう言うと。リーゼちゃんは立ちあがって――

「みんな、ありがとうございます……! よろしく、お願いします――」

 ちょっぴり目に涙をためて。みんなにお辞儀しました。
「はい♪ では早速……少しこちらに来て、座っていただけますか?」
「……はい」
 立ちあがったレミリアさんと、その近くに座ったリーゼちゃん。わたしたちは邪魔にならないように、ちょっとだけ離れます。
 レミリアさんは、リーゼちゃんの頭に手をのせて――
「では、いきます。――『【聖女】の名の下に、私は求める、縛鎖よりの解放を。天神の御力、浄化の光よ。戒め破る鍵と成れ』――」
 レミリアさんの言葉とともに、リーゼちゃんの足首に光があつまって。
 それが、こんどは全身にひろがっていって――
「――『封じられし者よ、その真なる力を今、此処に――【聖鍵】』……」
 術が完成すると――光がつよくなって。

 そんな中、『パリンッ』っていう、なにかが割れたような音がして。
 リーゼちゃんを包んでいた光が、まるで卵の殻がわれるみたいに――はがれるみたいにくだけて落ちていきました。

「――お疲れさまです、リーゼさん。無事に終わりました。……何か変わった事はありませんか?」
「はい? ……えっと、特には――あれ? あっ……!」
「ど、どうしたの……?」
 おどろいたようすのリーゼちゃんに訊くと……ちょっと、なにかをかんがえてから――さっき姿をみせてもらった精霊さんの方を見て。
「さっきは励ましてくれて、ありがとうございました……ゆっくり休んで、ね?」
 精霊さんに、優しい笑顔でそう言うと――
『どういたしましてぇ……。じゃあ寝るのー……』
『何だかとっても気持ちいいー……おやすみぃ……』
 そう言って、精霊さんたちは眠って――姿を消していきました。
「具現化した精霊を、沈静化したの……?」
「……この程度なら『術』を使うまでもないのですか。凄まじいですね……」
 フィアナさんとレミリアさんが、おどろいています。
 だけど――わたしは、なぜか嬉しくなって。
「わぁっ! これがリーゼちゃんの力なの!?」
「う、うん。そうみたい……? 魔物だけじゃなくて『生命』や『力』がある場所がわかるのと――『力の塊』? みたいなのに干渉できる……のかな?」
 精霊さんは、セカイの『意志』や『力』があつまって生まれるって聞きました。
 だから『力の塊』の『生命』に声をかけ、ねむってもらったみたいです。
 ……あれ? ということは――?
「――もしかして……リーゼちゃん、ふつうの精霊術はぜんぶ消せる……?」
「えっと……消せるかはわからないけど、干渉は出来る、かな……?」
「うっわ、反則だろそれ! 凄いなリーゼ……!」
「リーゼおねえちゃん、すごい……」
「みゅうっ、みゅうっ!」
 精霊術をつかってたたかうのが得意なアリアちゃんと、それの相手をしているエリルくんは、わたし以上に凄さがわかるみたいで、とってもおどろいていて。
 リースは『おかあさん、すごいっ!』ってよろこんでます。
 おとうさんたちは――

「……イリスと組むと、とんでもない事になるよね?」
「そうね……。相手の術を無効化してから、ウィルの力で増幅した術が叩き込まれるのよね? ……二人の力の効果範囲次第では、一軍を殲滅できるんじゃない?」
「ちょっと、念には念を入れて情報操作した方が良いですね……。――聖都に出向していただいているフォルカスさんに、もう少し協力してもらっていいですか?」

 ……おとなのヒトたちには『凄い』どころの話ではないみたいです……?
「ウィル。……おとなって、たいへんみたいだね?」
「み? ……みぎゃっ」
 ウィルも『……そうだね』って言ってくれました。
 ――えっと……がんばってください!
 わたしは心の中で、おとうさん、フィアナさん、レミリアさんを応援しました。
「――あ。その……リーゼさん? 可能でしたら、ちょっとその力でお願いしたい事があるのですが、よろしいでしょうか……?」
「はい? 私が出来る事でしたら、協力させてもらいます。――なんですか?」
 レミリアさんが、なにかお願いするみたいです。なにを言うんだろう?

「……そろそろ時間がマズイのに、おじさまが戻って来ないのですが――何処に居るか、分かりませんか……?」

「「「「「 …………あっ
」」」」」
 ――みんな、おじいちゃんのことを少し忘れてたことに気づきました。

 その後――おじいちゃんは自警団のみなさんのところにいました。
 あわてて帰ってきたおじいちゃんは『自警団員と意気投合して、話し込んでしまった』『あれはあれで楽しかった』って言っていました。……だけど。

『あんまりお話しできなかったし、歌もきいてもらえなくて、ちょっと残念』

 ……ついそう言ってしまったら、すっごくショックを受けてしまったみたいで。
 泣きながら、レミリアさんに引きずられて帰っていきました……。

「――おじいちゃんに、かわいそうなことしちゃったかな……?」
「……気にしなくていいよ、イリス。アレは養父さんの自爆だから」



   ◆◆◆次回更新は2月10日(金)予定です◆◆◆

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