第三編 幕間の2 新入隊員(?)と親衛隊の日常

作者:緋月 薙

幕間の2  新入隊員(?)と親衛隊の日常
(※今回は 3章の1 『特別』と『普通』 と合わせて2話分の更新になります)


(SIDE:アナザーズ)

「――最近、性犯罪者予備軍が増えていると聞きましたが?」
「うむ、既に手は打ってある。『未遂』で捕らえた者がある程度溜まり次第、更正を促すための講演会を開く手筈が整っている」
「……そんなの効果があるんですか? で、講師は誰が?」
「ロドリゲス・ブートキャンプを卒業したイキの良い両刀――もとい博愛主義者と、その光景を目の当たりにしていた見学者だ」
「「「「「 ……うっわぁ 」」」」」
「あとは適当に放流すれば……この街で不埒(ふらち)な事をすればどうなるか、勝手に広めてくれるだろう。これでかなりの抑止効果が期待できる」

 ――こんばんは。変態紳士たち担当のエドです。
 珍しく比較的まともな話し合いをしている、自警団を主体とする親衛隊。
 どうやら彼らは……最凶最悪の両刀魔王を、とことん利用する方針みたいです。

「――と。朝礼はこのくらいだな。あと連絡事項として……本日、新人が来る予定だ。名を『マックス』という、ガタイの良い男だそうだ」
「副長殿! その男は自警団、親衛隊、どちらの新人でしょうか?」
「――両方の、だな。自警団の寮に住まう事になるそうだ。もし大荷物を持ってきた大男が訪ねてきたら、先輩として手伝ってやってほしい」
「うーっす」「了解しましたー」「わかりました、副長殿」
 新人を手伝えという話に、それぞれの言葉で返事をする我ら。
「――あと……夕刻に、団長がいらっしゃる。それに会わせてもう一度会合を開くため、忘れずに集合するように」

「「「「「 イエス・サーッ!! 」」」」」

 団長ことリリー嬢関連になると、皆の返事が軍隊調になる我ら。
 ……先の両刀魔王の一件で、さらに恐怖政治の度合いが強まった気がする。
「――といったところで、朝の会合を終了とする。解散っ!」
 と、レオナルドの言葉で各自散っていく親衛隊員たち。
 ――さて、俺はどうするかだが……ふむ。今日はイリスたんのステージも無いし、良い機会だ。応援パフォーマンスの振り付けでも考えておくか。


「――ふむ、振り付けはコレでいいだろう。だが……場所と時間によって会場が薄暗い場合もある。欲を言えば、もう少し目立つ手段が欲しいが――」
 ……と。自警団の詰所に併設(へいせつ)されている訓練場で、キレを重視した応援の舞いの考案に集中していると。気が付けば、時刻は昼を大きく回っていた。
「……もうこんな時間か。夕刻の会合まで、中途半端な時間が残ったな――ん?」
 ふと、詰所の入口に目をやると。
 受付の前に荷物を抱えた男が一人、困った様子で佇んでいた。
 受付担当の者は、どうやら少し席を外しているらしい。
 ――もしや、朝の会合で話していた新人だろうか?
 それならば、手助けをするべきだろう。そう思い、男に話しかける事にした。
「――自警団の者に、何か用だろうか?」
「ん? おお。私はマクスウェルという。自警団の団長か副長に用があるのだが――貴殿は、自警団の者ではないのか?」
 俺の服装と言動で、自警団の者ではないと察したらしい男が、訝しげに訊いてきた。
「確かに自警団の者ではないが、関係者ではある。それで団長と副長だが……あいにくどちらも外出している。団長は夕刻に、副長はもうそろそろ戻ってくるはずだが――」
 言いながら、男を観察する。
 歳は――30代中盤から40前半くらい、だろうか?
 恵まれた体格と立ち居振る舞いから、相当な戦闘力と……それだけではなく、一定以上の礼儀作法も身につけている事が見て取れる。
 しかし武器は身につけておらず、服装も一般庶民の普段着な様子。
 ――どこかの屋敷で、衛兵か何かをやっていたのだろうか?
 身分が高い者の下で働いていたが、何かの事情で辞めた者、そう考えると納得できる。
 そして――来る予定の新人の名は『マックス』で、この男は『マクスウェル』。
「もしかして――今日来るという話の『マックス』か……?」
「む? たしかに愛称として、そう呼ぶ者も居るが――」
 ……どちらとも取れる返事。ならばもう、直球で行こう。

「では、はっきりと訊くが……『親衛隊』か?」

 ……言ってから『自警団に入る予定の者か?』と訊けば良かったと気付いたが――まぁ、どっちにしろ変わらないだろう。
「む? ――まぁ、その様なものではあるが」
 やや煮え切らない返事ではあるが、間違いは無いだろう。
「なるほど、やはりそういう事だったか。――歓迎しよう」
「ん? ――あ、ああ。ありがとう……?」
 若干、押しに弱い性格なのだろうか?

 きっとかつてはお偉いさんに仕えていたが、追求されたか何かで『ちっちゃい子好き』がバレて解雇。そこを団長がスカウトしたとか、そこら辺だろう。

「はっはっは! そういう事なら、奥に案内しよう。そこで副長たちを待つが良い」
 言いながら案内するのは、自警団の応接室……ではなく。
 やや見えにくい場所にある扉から入る、親衛隊用のスペース。
「な、こ、これは――ッ!?」
 入るなり、驚愕の声を上げるマックス。
 それはそうだろう。極めてまともな自警団の受付を入った所が『コレ』なのだから。

 その中は――当然、自重しない『好み一色』の世界。
 壁一面にイリスたん応援グッズが貼られ、棚にはアリアたんやリーゼたんグッズも、所狭しと置いてある。

「な、何を考えてこんな有様に……?」
 こちらに背を向けているため、そういうマックスの表情は見えないが――小刻みに震える背中が見える。どうやら震える程の感動だった様子。

「ふっ、決まっているだろう? ――これは、我々が守るべき者の象徴だッ……!」

「……む?」
 マックスの震えが止まった。
 その事に疑問を抱きつつ、構わずに話す事にする。
「――我らが愛する者(幼女)たち。その中において今、もっとも輝いているのが彼女だ。ゆえに彼女を象徴として崇める事で、全て(の幼女)を守る決意の証となす。何かおかしな事だろうか? やましい事だろうか?」
「…………いや、おかしな事ではない。形態はともかく、むしろ誇るべき事なのだろう」
 ――うむ。やはりこのマックスも、幼女好きを正しく理解する者であった様だ。
「しかし……よく出来ているな? この街では、こういう物が簡単に手に入るのか?」
「いや、手に入るのはここだけだ。――それらは皆、隊員が溢れんばかりの愛を注ぎ込んで創り上げた物だからな」
 すると、なぜかピタリと動きを止めるマックス。
「……なに? すると――この、中央にやたらと厳重に保管してある精巧な人形も、お前らが造ったのか? この、下着が見えるギリギリの人形も……!」
「――ああ、いや。それは違う。それは押収物の中にあった……禁制品だ」
「……何?」

 マックスが目を付けたのは、部屋の中央に設置された台座。
 そしてその上に載る透明な箱と――その中の、女神さまのご神体(イリスたんフィギュア)

 それは――昨日、例の冒険者たちから押収した一品。
 それがなぜ、この様な扱いになったかと言うと。
「それは先日、捕らえた犯罪者たちから押収した物品なのだが……禁忌の品なのだ」
「む? ――少々服装がキワどくはあるが……禁忌というほどの物には思えないが?」

「……キワどいどころの騒ぎではない。その人形の服は――全て着脱可能だ!」

「の、のわぁんどぅわっとぅええええええええええッ!?」
 一瞬で目を血走らせ、掴み掛ってくるマックス。
 ――この男、ここまで幼女が好きか。なんて見所のある奴だ……!
「……彼女は我等の崇拝の対象。ゆえに――その御姿をイカガワシイ用途に用いようとした人形など、手を出して良い代物ではない。よって誰も手を出さない様にと、相互監視の意味も込めてここに置いている。……悔しいが、脱がさなければ、良い出来だしな」
「……そんな危険物だと言うのなら、とっとと処分してしまうべきではないか?」
 マックスから返ってきたのは、そんなもっともな意見。だが――
「――当然、そんな意見も出た。だが……この人形の顔を、よく見てほしい」
「む?」
 二人で、その人形をじっくりと眺める。――舐める様に、じっくりと……!
 清楚にして無垢。無邪気さと同時に……聖女としての慈愛も感じさせる微笑み。
 ……見れば見る程、実によく作り込まれている。素晴らしい出来だと、心から思う。
 そしてそれを心行くまで堪能した後――おもむろにマックスに問う。

「――壊せるか?」

「うっ……!」
「この輝く様な魅力的な表情を浮かべたイリスたんフィギュアを、お前は折れるか? 砕けるか? 焼き尽くせるか……ッ!?」
 問い詰める俺に、男は戦慄の表情を浮かべ、脂汗を流し――ついには膝を地面につき。
「…………無理だ。むしろ――躊躇(ちゅうちょ)なくソレが出来る者を、私は許さない」
 ――ほぅ? 俺が予想した以上の返答がくるとは……!
 やはりこの男、なかなか立派な炉理魂(ロリコン)の資質を持っている様だ。
「そうだろう? これがいっそエロ顔とかしていたなら、どんなに出来が良かろうと『こんなん僕の女神さまじゃないよ! うわぁあああんっ!』とか言いながら破壊できるのだが……聖女もかくやというこの表情では、な……」
「……ああ。教皇よりも聖女らしい表情だからな」
 ――なかなか良い例えをしてくれる。ならば、この人形の別用途も教えるか。
「ときに――マックスは『サイキック』と呼ばれるモノは知っているか?」
「『サイキック』? ――ああ、聖術や精霊術とも全く違う、個人が持つ特殊能力の事だろう? 正式に確認された事例は無いため、眉唾物もいいところだと思っているが」
 ……この男、見るからに武闘派な外見に反して、意外に博識な様子。
「それだけ知っていれば十分だ。その『サイキック』には物を透かして見る事が出来る『透視』や、手も術も使わずに物を動かす『念動』等があるのだが――我等はこの人形を、それらの練習に用いる事にしたのだ。……まぁ『身に付いたらラッキー』程度だがな」
「……どういう事だ?」
「簡単な事だ。――この人形に、手を触れる事は許されない。ならば――手を触れずに裸体を拝める手段があれば、問題は無いではないか!」
「……ほう?」
 そう短く声を出したマックスは、完全に冷え切った眼をこちらに向けてきた。

 それはまるで――『可愛い孫娘に痴漢を働いた男を、どう処刑してやるか』と考えている爺バカさんの様な眼で。

 ――そこまでサイキックを信じられないか。眉唾物という扱いだし、仕方ないが。
 確かに、親衛隊員の誰も、まだ使える様にはなっていない。
 サイキックの『透視』では全ての衣服も透かして見えるというし、『念動』ではあらゆる物を手を使わずに自在に操るという。
 俺はまだ衣服一枚しか透かして見えず、『最終防衛ライン:おぱんちゅ』を突破出来ていない。念動の方も、ペンを浮かせる事は出来ても『イリスたん、だいちゅき♪』と書くには至っていないため、修得出来ているとは言えない。
 だから、サイキックの実在を疑う気持ちはよく分かるのだが――
「……貴様ら、実はただの変た――」

「――あ。エド殿、良い所に! 少し我々の話を聞いて欲しいのですが……」

 と、マックスが何かを言いかけた所で。扉が開き、三人の男が入って来た。
 彼等は確か……比較的最近に入隊した者たちだったと思う。
「む? それはいいのだが……このマックスも一緒でいいのか?」
「――ああ、朝の会合で話していた新人の方ですか。……むしろ、そちらの方のためにもなるかもしれないので、我々は構いません」
「は? 『新人』? いや私は――」
「そういう事ならば、俺は構わない。――で、なんだ?」
 途中でマックスが何か言いかけていた様だが、図らずも遮る形になってしまったか。
 隊員三名の方は気付かなかったらしく、構わず話を続ける様子で。
「――我々は、親衛隊を抜けるかどうかで悩んでいます」
「『親衛隊』? ここは自警団では――」
「ふむ、それを強制的に止める気は無いが――何故だ?」
 予期せず飛んで来ちゃったマジ相談に、努めて冷静に返す。
 ……またもマックスが何かを言いかけていたが、相変わらず押しが弱いらしく、会話の流れに押されてタイミングを逃したらしい。――後で聞けばいいか。
「何故って、それは……なぁ?」
「――うん、ちょっと……ねぇ?」
「いくらなんでも……」
 男たちはもごもごと言い合った後、揃って口を開いた。

「「「 この親衛隊、いくらなんでも変態すぎませんか!? 」」」

 ――まったくもって、その通りですね。
 その意見に、内心では即座に同意しながらも……努めて冷静な対応を心掛ける。
「――その意見は分からないでもないが。……まずは話を聞かせてもらおう」
 言いながら、ちらりとマックスの様子を窺うと。
「…………」
 どうやら話を聞いてから判断する事にしたらしく、静観の構え。
「我々は確かに、小っちゃい子が好きです。ですがそれは、遠くから微笑ましく見ているだけで十分だったんです」
「小さな子の安全を守りたいと。そしてあわよくば、その笑顔を少しでも向けてもらえれば十二分だと、そう思って入隊しました!」
「そうです! 我々はイリスちゃんを初めとする幼い女の子の日常を、ニコニコほっこり見られれば十分なんです。それなのに――」

「「「 はぁはぁモッコリで見ている連中と同一視されるのは耐えられません! 」」」

 ――無駄に上手い事言いおってからに。
 揃って言った三人に、心の中で軽度の称賛を贈りながら。俺の頭は別の事を考える。
 ――今さら俺に、どないせいっちゅうねんッ!?
 正直言って、俺に言われたところでどうにもならない。
 とはいえ……何とか対応したいところではある。
『去る者は追わず』の方針は確かにある。だが……ただでさえ社会的に少数派で、しかも全裸突撃などの影響で名声値はマイナス(社会死寸前)の状況。
 ここで人員が減るのは、なんとか阻止したい。

「――お前たちの言い分は、もっともだと思う。だが敢えて言おう。『お前たちの様な者こ
そ、この集団に居るべきだ』と……!!」

「「「 な、なんだってぇぇぇえええっ!? 」」」
 こいつら、ノリの良さも中々。ますます脱退させたくなくなった。
 ――ここは、なんとしても言い包める必要があるな。
「まず……変態集団とお前たち、両方の共通認識から確かめよう。――『幼女は守るべき存在である』。これに異論は無いな?」
「無論です。我々はそのために入ったのですから」
 戸惑いながらも、一人がそう答えた。それに俺は頷いてから――堂々と言葉を紡ぐ。

「よろしい。それならば……訊こう。――変態の、何がいけないと言うのだ?」

「なッ!? いけないに決まっているだろうが! イカガワシイ眼で幼女を見るなど!!」
「常識が無い人間の集団なんて、危険極まりない……っ!!」
「そうです! まだ実害は出ていませんが、もし暴走する者が出たら――」
 つくづくもっともな意見で――だからこそ、こちらの思い通りの反応。
「……ふむ。では問おう。我々が暴走した場合にどんなペナルティが待つかは知っているな? その上で――我々の中から変態を暴走させる者が、出ると思うか?」
「「「 ――そ、それは……っ!? 」」」
 言葉に詰まる男たち。
 ……我々から犯罪者など、出ようはずが無い。

 この街で性犯罪に走った場合はどうなるか、一番間近で見ているのだから……!

 ……『うほっ。男だらけの性的な土木工事』により精神汚染を受け、全く新しい自分を強制開花させられてしまうわけで。
 そんな状況でもヤらかす様な剛の者は、もうとっくにヤらかしているだろう。
「……我々炉理魂(ロリコン)紳士たちによる親衛隊『幼き神々の守護者(ガーディアン オブ リトルゴッズ)』は、自警団を中核としている事に加え、非公式とはいえ守護竜殿にも認められている事もあり、規律が厳しい――」
「――ホワッ!?」
 ……なぜかマックスが驚愕の声を上げたが……まぁ後にするか。
「規律を破ろうものなら(男として)死あるのみ。そんな集団に属している者たちは、言わば『制御された変態』。――改めて問おう。『制御された変態』は、危険か?」
「――そ、それは……」
 ……引き続き『世間体の悪さ』という重大事項からは意図的に目を逸らし、続ける。

「確かに、一般的には『変態』は危険だ。しかし、そんな者たちでも『制御された変態』となれば、社会奉仕に役立つ立派な存在となる事が出来る!!」

「「「「 !! 」」」」
 男たち三人とマックス。計四人が揃って、目から(うろこ)が落ちた様な顔をしている。
「我々が変態であり続ける事で、一般の変態も参加しやすくなる。そうして――立派な『制御された変態』となる。これは治安の維持と……もちろん、幼女の安全にも繋がる」
「「「「 …………っ! 」」」」
 四人がキラキラした眼を向けてきている。……若干の良心の呵責(かしゃく)は、無視して続ける。
「それに、先ほど『常識の無い人間の集団は危険』と言っていたが……例の日蝕の際、常識人ばかりの集団だった場合――あの秘匿(ひとく)技術は使えたと思うか? あんな強力極まりない反面、使うと確実に全裸乱舞を強制される術を……!!」
「ッ!? お、思いません……」
 言っておきながら……あの術に関しては、編み出した人間が一番頭オカシイと思う。

「常識が無い事が、時に人を守るための武器ともなり得る。故に我等は――『制御された変態』であり続けなければならない! 他ならぬ幼女たちのためにもッ!!」

「「「「 お、おおおッ!! 」」」」
 四人が揃って、驚嘆の声を上げる。
 ――いや冷静に考えると。それしか手段が無いわけじゃないんだから、『利用価値』はあっても『必要性』は一切無かったりするんだが……。
「……それに。お前たちだって、小っちゃい子のおぱんちゅが偶然見えちゃったりしたら、喜んじゃったりするんだろう?」
「は? ……う、ええ、まあ……」
 真面目な口調から一転、少しからかう様に訊くと――少々戸惑いながらも、気恥ずかしげに一人が応えた。

「『制御された変態』が正しくあり続けるには、お前たちの様な『理性を重視する軽度の変態』は必要だと思う。――我々と共に、『正しい変態』であり続けてくれないか?」

「「「 ! は、はいッ!! この力、正しく変態の為に使う事を誓います!! 」」」
 意志の込められた、力強い言葉が返ってきた。
 ――だけどお前ら。己が何に誓いを立てたか、少し冷静に考えてみ?
 という内心でのツッコミは言わず。とりあえず言質は取り、説得は完了。
 ちなみに今回の俺の発言、身も蓋も無く要約すると、以下の様になる。

 人に迷惑掛けないなら変態だっていいじゃん。利用価値だってあるんだし!
 お前らも軽度とはいえ変態なんだろ? だったら一緒に楽しもうぜ?

 ――これ説得とは言わずに、洗脳とか詐欺などと言うのではなかろうか……?
 とはいえ、最良の結果を出せたのは事実。あとは――マックスの方か。
「それで……マックスよ。先ほどから何度か、何かを言いかけていなかったか?」
「――む。……いや、いい。『守るべき者のために、正しく変態であり続ける』か。この様な生き様があるとは、今まで考えもしなかった。……俺も、まだまだ甘いな」
 マックスの一人称が『私』から『俺』になった。おそらく、こちらが素なのだろう。
 そして……この男も立派に洗脳され切っていた。
 ――やった俺が言うのもなんだが……大丈夫かコイツら?
「さて――副長たちが来るまで、是非とも貴殿らの活動を体験してみたくなった。なにかやる事はないだろうか?」
「親衛隊の活動か? 今は特に……ああ、そうだ。イリスたんを応援するためのパフォーマンスを作ってみたんだが、身に着けてみるか? ――お前たちも一緒に」
「「「「 ――是非に!! 」」」」
 ……良いのかなーとは思いつつ、こう言われると気分は良いわけで。
「よし、では教えよう! ――あ。しかし……」
「 ? 何か問題でもあるのだろうか?」
 教導を始めようとして、教える『舞い』に、問題点が残されている事を思いだした。
「――『舞い』の振り付けは完成しているのだ。だが……会場が薄暗い場合がある事も考えると、もう少し目立つ手段が欲しいと思っていた。例えば、手か足が光るとか――」
「……ふむ。ならば――教会で購入できる光石を砕いて粉末にした物と、ある薬品を混ぜ合わせれば、少しの魔力を流すだけで、少しの時間だが発光させる事ができるはずだ」
「――ッ!? 素晴らしい、早速試してみよう!!」
「それならば……手軽さを考慮すれば『光る短い棒』という形にして、両手に持って踊る、という形式はどうでしょうか? 集団で揃って踊るのなら、結構なインパクトかと」
「――ッ!? 実に良いな! よし、ではそれで行こう!! ……しかし、ならばその芸に名前を付けた方が、伝授はしやすいかもしれないな。ならば――」
 俺は少し考えた後、その画期的な芸に付ける名前を口にした。

「雄々しく、多くの者が舞う芸。略して『雄多(オタ)芸』と名付けよう!!」

      ◆      ◆

 その後、俺たちは『オタ芸』の修得と改善に時間を費やし。
 副長が帰還し、親衛隊のほとんどの者が集まったところで、全員への伝授を開始。
 団長たるリリー嬢が来るまで、オタ芸を磨けるだけ磨こうと、修練に励む事にした!

「 ハイッ! ハイッ! ハイハイハイッ!!

「「「「「 ハイッ! ハイッ! ハイハイハイッ!!
」」」」」

「 イリスッ! イリスッ! フゥッ、フゥッ、フゥッ、フゥッ! 」
「「「「「 イリスッ! イリスッ! フゥッ、フゥッ、フゥッ、フゥッ! 」」」」」

「遅くなりました! ――イリスさんの応援用の踊りですか? 随分変わった――は?」
 リリー嬢の声と共に――何かが床に落ちた音が、訓練場内に響く。
 しかし多くの者は、修練に集中していて気付かず、舞いを続けている。
「……団長? 何か問題でも……?」
 事態に気付いた者の中で、一番近い場所にいた俺が、リリー嬢に話しかけると。
 団長たる彼女は、信じられないモノを目の当たりにした表情で、一点を見つめ。
 ……その先に居るのは――マックス?
「 イリスッ! イリスッ! フゥッ、フゥッ、フゥッ、フゥッ! 」
 実に良い表情でキレ味鋭く舞う新入隊員のマックスに、何か問題でも――

「――な、何をやっているのですか、マクスウェル様……?」

 その後、リリー嬢から『マックス』こと『聖殿騎士団長マクスウェル』の事を聞き。
 ……随分とヤバイ綱渡りをしていた事を思い知り、卒倒寸前になる俺だった。

 なお、本日入隊するはずだった本来の『マックス』は、急病で後日入隊という事になっていた。
 ……『マクスウェル殿』と出会った際に受付が居なかったのは、その連絡を受け、いろいろと手続きしていたから、だったそうな。



   ◆◆◆次回更新は2月14日(火)予定です◆◆◆

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