第三編 四章の2

作者:緋月 薙

四章の2



(SIDE:イリス)

 わたしとウィルは、いそいでエリルくんとリースのところに……!
 ――(ほこり)が邪魔です! 風の精霊さん……っ!
 『うん! イリスちゃん、頑張って!』
 埃をふき飛ばしてもらいました!
 わたしを応援してくれる精霊さんに、ありがとうって言ってから、エリルくんとリースのところに!
「イリスちゃん、こっち!」
「みゅうっ! みゅうぅう!!」 
 リーゼちゃんが先についていて――リースは無事みたいです!
「エリルくん! 大丈夫!?」
「……う、な、なんとか……」
 そう言うエリルくんを見ると――頭から血がでているのと、大きな石が当たったみたいで左のヒザが……!
「ウィルっ! いっしょにやるよ!」
「みっ! ――みぎゃあッ!!」
 わたしに応えて、ウィルが力をだし、光につつまれます。
 頭もそうですが……足をちゃんと治さないと、歩けなくなるかもしれません。
 だから、全力で治しにいきます……!
「……みゅうっ。みゅうぅっ」
「――ん? リース、心配してくれてるのか? ……大丈夫! 死んでさえいなければ、イリスや兄ちゃんが治してくれるんだからさ。なっ?」
「で、でもエリル君! さっきのは一歩間違えていたら……!!」
 リースに笑って言うエリルくんに、リーゼちゃんが言いました。
 ……リーゼちゃんが言うとおりです。
 エリルくんの足にあたった大きな石。これがもし、頭やお腹にあたっていたら……たぶん、無理でした。……ほんとうに、ギリギリだったと思います。
 だけど――エリルくんは笑って言いました。
「だけど俺は、『守るため』って言って、聖殿騎士を目指してるんだし。それに――」
「……みゅ?」
 リースの頭をなでながら――つづけて。

「――リーゼの子供を見捨てるなんて、出来るわけないだろ?」

「エリル君……!」 「みゅう……っ!」
 そう言ったエリルくんの顔は……まるで、おとうさんみたいで。
「わたしたちも、負けてられないね、ウィルっ……!」
「みぎゃっ!」
 ……状態をもとに戻すのが、ちょっとタイヘンですが――ウィルといっしょなら!
「――これで終わりっ。治ったよ! だけど……しばらく動かないほうがいいと思う」
「ありがとな、イリス。だけど――」
 エリルくんが見ているのは、おとうさんたちが戦っているところです。

 アリアちゃんが動きまわって、魔物の気をそらせて。
 おとうさんとフィアナさんが魔物の攻撃を防ぎながら、反撃をねらっていますが……。
「俺が動けないと、兄ちゃんたちが思いっきり戦えないだろ……!」
 ……確かに、わたしとリーゼちゃんも、この状態のエリルくんを放ってはおけません。
 と、そんなときでした。
「……みゅう。みゅうぅぅ……!」
「リース。――リースも、怒ってるんだよね……?」
「みゅう!」
 リーゼちゃんとリースが、魔物を――特に、植物の魔物をにらんでいます。
 それに――なんだかコワイ気配が……?
「――そうだよね。……うん、じゃあ一緒に行こう? ……絶対に許さない」
「みゅうぅ……ッ!!」
 そう言ったリーゼちゃんたちの前には、なにか黒いカタマリが……!
 ――アレは……制御できていません!? このままだとキケンですッ!!

「――だ、ダメだよリーゼちゃん! リース!!」
「みぎゃっ! みぎゃあ!!」

 これは……わたしが、おとうさんを傷つけられて暴れたときと同じかんじです!
「――イリス、ちゃん……?」
「……みゅう?」
 わたしがリーゼちゃんに、ウィルがリースに抱きついてとめました。
 わたしは――大切なお友だちに、後悔してほしくないから……ゆっくりお話しします。
「……怒っちゃだめなんて言わないよ? だけど――なんのために怒るの……?」
「え……? もちろん、エリル君が傷つけられて――」
 まだ少しぼーっとしたようすで、リーゼちゃんがこたえました。
「うん。そうだね。――大切なヒトが傷つけられたら、許せないよね? だから、守りたいよね? ……だけど。そのヒトは、なにを望んでいるの……?」
「……自分が傷付いても、リースを守ってくれて――私の子供だからって――」
「うん。……自分より、リーゼちゃんとリースを守りたかったんだよね?」
 そう言って、エリルくんを見ると――
「……(こくん)」
 ちょっと頬をあかくして、うなずきました。
「だから……リーゼちゃんとリースは、エリルくんのために戦いたいんだよね? ――暴れたいからじゃ、ないよね……?」
「――あ……」 「みゅぅ……」
 わかってくれたみたいです。だからわたしは、最後にリーゼちゃんを抱きしめて。

「怒っちゃダメなんて言わないよ。……だけど、なんのために怒っているのか――なにが一番大切か、忘れちゃダメだよ……!」

 あのときのわたしに、今のわたしが言いたいことです。
 ――ただ、助けたかった。守りたかった。
 それなのに……それを忘れて暴れて、よけいに傷つけた。
 あんな想い、リーゼちゃんたちにはしてほしくないです……!
「――ごめんね、イリスちゃん。もう大丈夫だから……ありがとう。ウィル君も」
「みゅうっ……」
「うんっ! 元にもどってくれて、よかったよ♪」
「みぎゃ♪」
 いつもの優しい顔で言ってくれるリーゼちゃんと、すなおに『ごめんなさい』って言っているリース。
 これで、もう大丈夫みたいです♪
 そして――おちついたリーゼちゃんは、エリルくんのほうを見て。

「それで……エリル君。――エリル君は、何をしたい? 私は、それを叶えます」

 そう言ったリーゼちゃんは、まるで『教皇』のレミリアさんみたいで。
「――リーゼ? …………うん。兄ちゃんたちを助けたい。誰も、傷付いてほしくない」
 エリルくんは、少しおどろいたみたいだけど……まっ直ぐにリーゼちゃんを見て、そう言いました。
「……うん、わかった。――リース、一緒に行こう?」
「みゅうっ……!」
 さっきと同じ言葉だけど……今はコワイ感じがしません。
 だから――こんどはわたしたちも……!
「リーゼちゃん、わたしとウィルも手伝うよ! ――ね、ウィル?」
「みぎゃっ!」
 元気に『もちろん』って言ってくれたので、ウィルの頭をなでてあげます♪
「――うん。ありがとうイリスちゃん、ウィル君♪ じゃあ、行こう?」
 そう言って、リーゼちゃんが伸ばした手をにぎって。
「――ウィル、リース。おねがいね?」
「みっ!」 「みゅっ!」
 わたしがすること、できることは、もう心に浮かんでいます。
 ――わたしは、わたしに出来ることを。

 そうして――周り全てが、闇に包まれました。


(SIDE:カリアス)

 正直言って、かなり困った事態だった。
 後ろを守る必要があるため、あまり動き回る事が出来ず、攪乱(かくらん)しきれない。
 アリアがその役目を担ってくれているけれど……二体両方の隙を作るには至っていない。――この二体、そういう役目で人工的に作られたのかな……?
 もしかしたら……周囲の『残滓(ざんし)』を吸い上げて、侵入者撃退用の魔物を作っているのかもしれない。それならば、この未踏領域にも魔物が少なかった理由も説明がつく。
 相手の攻撃は全て防いでいるし、多少の怪我ならすぐ治せる。疲労も魔力消費も、闇聖術でかなり軽減できる。
 だから負ける気は無いけれど……同時に、勝ち筋が見通せない。
 そして、そんな時だった。

 ――周囲全てが、闇に包まれた。

「「「 何っ!? 」」」
 慌てて、魔物たちから距離を取る。相手の攻撃かと思ったんだけど……?
「……向こうは、こちらが見えていない?」

 それは――ただ暗くなっただけではなかった。
 まるで、月も星も無い夜空の中心に居るような、地面すら見えない漆黒の闇。
 しかし、それでいながら自分や仲間、そして敵の姿もハッキリと見える。
 しかし魔物たちには、その一切が見えない様で。
 そして――声が聞こえ始めた。

『 原初の無――大地の闇
  原初の有――天空の光
  天地の始まりと共に分かたれし、対なるものよ
  天の神、地の神の威光を以て
  その力、ここに具現せん          』

 その声と共に、闇の中に光が生まれ。
 その光が強くなると共に――周囲の闇は消えるどころか、より際立ち深さを増す。
「……おねえちゃんと、リーゼおねえちゃん……?」
「これは――術の詠唱? だけどこんな術、私も知らないわよ……?」
 アリアとフィアナが戸惑いの声を上げ。
 僕もただ驚愕と共に――生じる現象と、厳かに詠い上げる少女たち、そして黒白の光を(まと)う二匹の幼竜を、ただ見つめる。

『 紡がれし言の葉と共に、舞い降りろ天の白光
  紡がれし意思と共に、立ち昇れ大地の闇黒
  対なる神の力を以て
  全ての罪過をここに滅す         』

 光と闇は柱となって、周囲全てを二極の力に染め上げる。
 やがて光と闇は、一点へと集束を始め。
 そして――詠唱は締めくくられる。

『 全ての力よ、原初へ環れ――神技【終焉】 』

 その言葉と共に、音もなく光と闇は消え去り。
 魔物の――『空間隔離』で守られていたはずの『闇の落とし子』は、一欠片も残さず消え去っていた。
「――おねえちゃんたち、すごい……!」
 素直に称賛の声を上げるアリア。だけど僕とフィアナは、未だ呆気にとられていて。
「――ねぇフィアナ。今の術、何……?」
「……知らないわよ。推測は出来るけど」
 そう言ったフィアナに視線を向け、無言で先を促すと。
「聖術と闇聖術の合成――多分、古代に『神術』と呼ばれていた系統の……それも、奥義かそれに近い術じゃないかしら?」
「……そういえば、最後に『神技』って言っていたっけ。――そのまま『神の技』? だけど、なんで『空間隔離』を貫通出来たんだろう?」
「……空間の光と闇、両極の力を混ぜ合わせたんじゃないかしら? そして、周囲もろとも巻き込んで消滅させた。――例え隔離されていても、存在はしていたわけだし」
「空間もろとも消した、って事……?」
「……(こくり)」
 その場に居た僕たちは無事だから――多分、望んだ対象以外には無害なのだろう。
 しかし。狙われたら回避も防御も不可能な――文字通りの『神の術』か。
「リーゼ、イリス!?」
 そんなエリルの声に我に返ると――イリスとリーゼ、ウィルとリースが、地面に倒れ込んでいた。
 僕とフィアナ、アリアも慌てて駆け寄ると――
「……フィアナ。リーゼの様子は?」
「……多分、そっちのイリスと同じじゃないかしら?」
「……ん。たぶん、ウィルとリースもおんなじ」
 僕とフィアナ、アリアは、揃って深い……安堵の息を吐いた。
 二人と二匹は――とても気持ち良さそうに、眠っていたから。
「……まぁ、あれだけの大技を使ったら、そりゃ力尽きるわよね……」
「ん。わたしが、はじめてなおしてもらったときと、いっしょ」
「むしろ……あんな事やっておいて、ただ眠っているだけで済んでいる方が凄いんじゃないかな?」
 そう言って、僕たちは笑みを交わし合い。
 そんな僕たちを見て――心配していた様子のエリルも、安堵の息を吐いていた。
「……さて、エリル?」
「――う。……はい」
 僕がエリルに声を掛けると――怒られると予想していたのか、俯いてしまうエリル。
「……さっきの事について、何か言いたい事はある?」
 そう訊くと、少し躊躇(ためら)った様子を見せて――だけど、すぐに真っ直ぐな眼になって。
「心配かけた事、無茶をした事は、反省しています。――だけど、後悔はしていないよ。もしもう一度同じ事があったとしても、俺は同じ事をしたいと思う……!」
 少し怯えた様子を見せながらも、そう言い切ったエリル。
 そんな困った弟分を、僕は全力で叱る……事なんて、出来るはずもなくて。
「――それでいいよ。……いや、良くはないんだけど――よく頑張ったね、エリル」
「え? ……兄ちゃん?」
 横を見ると――フィアナも苦笑いしているけれど。
「あの状況だったら多分、僕も同じ事をしていたと思う。――そうである自分でありたいっていう所も一緒。……だから、僕は何も言えないよ」
「兄ちゃん……」
 お互い、苦笑いを交わし合う僕とエリル、だったんだけど。
 さっきまで笑っていたフィアナが――突如、笑みを消して。

「……でも、周りで見ている方としては心臓に悪いんだから――少しは自重しなさい」

「「 はい…… 」」
 揃って頭を下げた僕とエリルを、アリアが楽しそうに見ていた――

 ――と、その時。再び転移門が光を放ち始め――

「……音は消えたけど――光は消えてないから、もしかしてとは思っていたけどさ?」
「そうね……なんと言うか、凄く無粋(ぶすい)よね」
 現れたのは最初と同じ、人型の巨大な泥――元人間と思われる、『闇の落とし子』。
 しかもご丁寧に、ちゃんと『空間隔離』も完備。
 だけど――対処法はもう分かったから怖くはない。というかむしろ、ただひたすらに邪魔くさかった。
「――カリアス。あんたがサクッとやっちゃう?」
「……ん、それなら、わたしがおとり、やるよ?」
 そう言うフィアナもアリアも――その様子に苦笑いしているエリルも、最早怖がっている気配は一切無い。
「――うん。それでもいいんだけど……ねぇ、フィアナ? 僕は闇聖術が使えて、フィアナは聖術が使えるよね?」
「ええ、そうね――ああ、なるほど。……そうね、やってみましょうか」
 ……さすがと言うか、みなまで言わずに察してくれて――乗ってくれる、僕の相棒。
「えっと、おかあさん……?」
「アリア。私たちだけで十分だから、寝ている子たちとエリル君を、頼んだわね?」
「――ん。わかった」
 アリアの返事を聞いてから、僕のすぐ隣にやってくるフィアナ。
「 ? なに笑っているの?」
「――いや。ただ……僕の相棒は、やっぱりフィアナ以外に居ないなって……改めてそう思っただけだよ」
「なっ……!?」
 瞬時に頬を紅くしたフィアナを、今さらながらに愛しく想いながら。
「こ、こんな時に何を言ってるのよ! ……遺跡から出たら、覚えておきなさい」
「――そうだね。遺跡から出たら、だね。だから――」

「「 とっとと倒そうか(しましょう)? 」」

 言葉が重なって、僕たちは笑みを交わし合い――共に、敵に向きあう。
「狙うのは――消滅と浄化。フィアナの術に合わせるから、詠唱もそっちからお願い」
「了解。――ただし出力はアレと同じは無理だから、範囲を絞るわ。対象をギリギリ覆える程度で。それなら多分、中級術くらいの消費で済むはずよ」
「わかった、それで行こう」
 僕たちが試みるのは――イリスたちが使った術と同系統の術の創作。
 ひたすら邪魔なこの魔物は動きも遅く、練習台には最適だと思う。
 僕たちは手を重ね、お互いの術の威力を同じにする様に調節し――
「――じゃあ、行くわよ? ――『始まりの白光、創生の力』」
「――『終わりの闇黒、葬送の力』」
 フィアナは、聖術の光を作り。僕は、闇聖術の闇を展開する。
「――『我、天神の力を此処に降ろし、裁きを与える力と成す』」
「――『我、地神の力を呼び起こし、滅びを与える力と成す』」
 フィアナの詠唱に、僕は対となる言葉の詠唱を重ねる。
 イリスたちの時とは違い――光と闇の球が周囲を舞い、それぞれをより際立たせ。
「――『天地の力、此処に集いて神意を示せ』」
「――『黒白の力、此処に集いて神威を成せ』」
 無数の光と闇の粒子が『闇の落とし子』を包み込み――僕たちは声を合せ、詠唱を結ぶ。

「「 ――『さあ、神の裁定を此処に――【神裁】』 」」

 最後の詠唱と共に、光と闇が殺到し、渦となって敵を飲み込み――光と闇が共に一度ずつ瞬いた後、周囲に溶ける様にして何も残さずに消え去った――
「……うん。聖術をベースにすると、消滅っていうよりは上塗りっていう形になるね」
「そうみたいね。……じゃあイリスたちの術、主導権はリーゼにあったのかしら?」
 そんな考察をしていると、アリアの称賛の眼差しと――エリルの呆れた様な眼が。
「……兄ちゃんたち、あんな事をやらかしておいて――なんでそんな冷静なの?」
「ん? まぁ、失敗するなんて思ってなかったからだけど?」
「そうよね♪」
 少し嬉しそうに言ったフィアナは――
 術が終わっても重ねたままの手に、少しだけ力を込めてくれた。



   ◆◆◆次回更新は2月24日(金)予定です◆◆◆

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