第三編 四章の3

作者:緋月 薙

四章の3
(※今回は 幕間の4 新入隊員(?)と親衛隊の日常 と合わせて2話分の更新になります)


(SIDE:カリアス)

「――多分、危険は無いと思うんだけど……一応、エリルとアリアはここで待っていてくれないかな? 何かあったら、これでハールートの所に戻って」
 例の、人の姿をした存在が居るという部屋。その入り口に寝ている子たちを降ろし、エリルとアリアに言った。

 一度転送珠で戻るか、イリスたちが目を覚ますのを待とうかとも思ったけれど。
 音も赤い光の点滅も消えたとはいえ、ここで休むのは無いと思ったし……早くやる事を終わらせて、しっかり休ませてあげたいと思った。
 幸い、エリルも歩くだけなら大丈夫という事で、奥に進む事にして。
 僕がイリスを、フィアナがリーゼを背負い。リースをエリル、ウィルをアリアが抱いて運んできた。
 ……最初は、イリスよりリーゼの方が大きいから、僕が背負おうとしていたんだけれど……エリルが微妙な顔をしていたんで、フィアナと交代してもらった。

「――ん。だけど……たいしょ、できそうだったら、やっちゃってもいいんだよね?」
「……やる気まんまんね、アリア。――頼もしいけど、無理はしないようにね?」
「……ん♪」
 フィアナが頭を撫でながら言い聞かせると、素直にうなずくアリア。
「兄ちゃん、俺も――」
「君はダメ。足の事もあるし、リーゼたちも頼みたいから」
「……う。――わかったよ」
 あえて『イリスたち』ではなく『リーゼたち』と言ってみた。――効果は絶大。
 そして、部屋に入る前に……念のため、もう一度中を確認する。
 ……確かに、中に何かの反応がある。魔物の類ではなく――やはり、意思ある何か。
 入り口だけには『空間隔離』が掛かっているけれど、進入だけなら問題無し。
 中の空気などは、フィアナが確認済み。
「――じゃあフィアナ、行こうか」
「ええ」
 二人で、部屋に踏み込む。
 聖術で作った小さな灯火が暗闇を照らすと――『ソレ』が、こちらに気付いた。

『――人……ですか? 生きた人、ですか……?』

 そう声をかけてきたのは――女性の姿をしていた。
 背丈は、フィアナと同じくらい。長い黒髪に白い肌、細身の体型。
 佇んでいるだけで(はかな)げな印象を与える……多分20歳くらいの、整った容姿の女性。
 しかし――人間ではないのは一目瞭然。その姿は、微かに透けていた。

「……幽体? 残留思念……?」
『どう……なんでしょうか? 気付いたら、この姿になっていたもので……』
 フィアナの漏らした言葉に、自嘲気味な笑みと共に言う『女性』。
『私の名は【ルイーズ】と申します。――すみません、何も出来ないこの身ですが……どうか、どうか頼みを聞いていただけないでしょうか……?』
 そう語りかけてくる『ルイーズ』に、僕とフィアナは顔を見合わせ――少し考えてから……頷き、応える。
「……この部屋の外に連れが居るため、出来ない事は断ります。すぐに応じられるかもわかりません。――それで良いのなら」
 悪い存在ではないだろうと、そう応じると。ルイーズは苦笑いと共に。

『あなた方に頼む事しか、私には出来ません。――この施設に、幼い女の子と竜が封印されています。どうか……どうか、助けていただけないでしょうか……?』

 そう懇願してきたルイーズを前に、僕とフィアナは驚愕と共に顔を見合わせる。
「――カリアス。まさかこの『人』……?」
「……可能性、無くはないね。――あなたは、この施設で働いていた方ですか?」
『――は? ……はい。何とか施設の暴走を止めようとしたのですが――精霊力の暴発に巻き込まれて……』
 何があったかは、後で訊くとして。
 それよりも――確かめたい、『会わせたい』と思った。
「あなたは、この部屋から出られますか?」
『……いえ。入口の空間隔離を、この体では越える事が出来ない様で――』
「じゃあ、少しだけ待っていてもらえるかしら?」
『はい? ――ええ。いいですけど……?』
 ルイーズが言い終わる前に、急かす様に言うフィアナと、その事に怪訝(けげん)そうな顔をするルイーズ。
「では、すみませんが……少しだけお待ちください」
 首を傾げているルイーズから離れ、部屋の外に出ると。
「ごめん、ちょっと皆で中に入りたいんだ。また手伝ってもらえるかな?」
「 ? ん、わかった」
「うん、わかったけど……何か良い事でもあった?」
 意外にエリルが鋭い事を言ってきたけれど……まだハッキリとはしないため、今は伏せておく。
「……もしかしたら、良い事があるかも、って所ね。――じゃあアリア、行くわよ」
「 ? うん」
 僕がイリスを抱き上げる横で、リーゼを抱き上げなから、気がはやるのを(こら)えながら言うフィアナ。その様子に――アリアが少し首を傾げていた。
 そして、皆で再び部屋に入ると。

『どうしたんですか――……え? アリア……?』
「――ルイ、おねえさん……?」

 ――アタリ、だったのかな?
 二人は、どちらも『信じられない』といった顔で向き合っていて。
『アリア……? ――良かった、助かったんだね……?』
「――ルイおねえさん……? ……もう、あえないって、おもってたんだ、よ……!」
 二人とも、涙を流して。
 お互いに手を伸ばして……触れ合う事ができなくて、もどかしそうにしながらも。
 再び出会えた事の喜びを――心からの笑みと涙を以て、分かち合っていた。

「……兄ちゃん。あの人って――アリアが言っていた『おねえさん』……?」
「そう、みたいだね。……『ルイーズ』っていうそうだよ?」
「………よかったわね、アリア」
 邪魔にならない様に、僕たちは少し離れた所で、二人を見守っている事にした。
 少しして――二人の涙が落ち着いた所で、ルイーズが切り出した。
『……アリア? あなたに、謝らなければいけないの』
「…………ん。なあに……?」

『――あなたを封印したのは、私です』

「「 ッ!? 」」
「…………」
 僕たちが……いや、僕とエリルが驚く中。――アリアは、ただ無言でルイーズを見据え、その言葉を聞いていた。
『……謝って済むとも思わないけれど。それでも、謝らせてください。――ごめん、なさい……』
 真っ直ぐな謝罪の言葉に。アリアは――一切動揺せず、ただ柔らかく微笑んで。

「……ん。……もしかしたら、そうかもしれないって、おもってた。 ――それでも、あいたかったんだ、よ?」

『――ッ!? ……アリア。本当にごめんなさい……!!』
 そう言って、再び泣くルイーズを見ながら。
「フィアナ、予想していたの?」
「……ええ。アリアが、その『おねえさん』は地質学の人って言っていたから。――ハールートは火山を封印していたんだし、何か関係しているだろうって」
「……なるほど、ね」
 だけど、あの様子を見ると……したくて封印したわけではなさそう、かな?
「……おねえさん。なんで――わたしとハールート、ふういんしたの……?」
『……火山が噴火寸前になったの。ハールートはまだ小さいから……あなたを介して力を引き出すしか方法が――あっ!? ハールートは!? それに火山はどうなって――』
「――ん、だいじょうぶ。ハールートも、げんき。……でも、ちゃんとハールートにも、あやまって……ね?」
『――うん、それはもちろん。……そういえばハールートがアリアに付いてきてないっていうことは……もう親離れ出来たの? ぴーぴー泣いてない?』
 ……うん? ルイーズ……どれくらい時間が経ったか、分かっていないのかな?
 ――二人とも落ち着いたみたいだし、そろそろ僕たちも話しに入ろうか。
「……ルイーズさん。この施設が稼働を停止してから――多分、三千年経ってるわよ?」
『…………へ?』
 フィアナの言葉に、ルイーズは(ほう)けた顔になって。
「本当です。そのハールートも、今では立派な古竜になっていますよ?」
『…………ほえ?』
 さらに間の抜けた顔になっていくルイーズに……アリアがトドメを刺す。
「……ハールート、おこってたから。――ちゃんとあやまって……ね?」
『…………はひ……』
 怒っていた古竜に謝る、という行為を想像したらしいルイーズは……先程までとは違う涙を流した。
 ――覚悟はしていても……怖いものは怖いよねぇ。
 それにしても。このルイーズの印象、だいぶ変わってきた気がするけれど……?
『――はっ!? 三千年経っているっていう事は……私、彼氏いない歴三千二十年!?』
「「「 ショックを受けるとこ、ソコ!? 」」」
 ……前言撤回。――当初の儚げな印象など、粉みじんに吹き飛んでいた……。
「――さて。そろそろこちらも自己紹介と……状況も説明した方が良いかしら?」
「それなら……おねえちゃんたちにも、おきてもらったほうが、いいかも……?」

      ◆      ◆

『では……改めてお礼を。――アリアとハールートを救ってくれて、ありがとうございました……!』
 自己紹介と、何があったか。そして、どうしてここに来たのかを話した後。
 ルイーズは、改めて僕たちに頭を下げた。
「えっと……うんっ! それと――よろしくね、ルイおねえさん♪」
「みぎゃっ♪」
『えっと……イリスとウィル君、だったよね? うん、よろしくね?』

 少し悩んだけれど――イリスたちにも『おねえさん』に会わせてあげるべきだと思い、聖術を使って起きてもらった。
 イリスとリーゼは、アリアと『おねえさん』の再会を素直に祝福して。
 ウィルとリースは、新しい友達が増えた事を喜んでいた。

 それで――今、リーゼとリースはと言うと。
「……リーゼ。俺、一人で歩けるんだけど……?」
「だめだよ、エリル君! ちゃんと動けなくなったらイヤでしょう? 最低でも今日と明日は、付き添うからね?」
「みゅ! みゅうっ!」
 エリルに寄り添っているリーゼと、どうやら監視役のつもりか、エリルの肩に乗っているリース。
 エリルは恥ずかしそう……というよりは、照れくさそうといった様子で。
 ……付き添いはただの口実かと思ったけれど、闇聖術の『治癒力促進』をこっそりと使っている事から、本気で心配もしているらしい。
「……というかリース。お前、俺の事を避けてなかったっけ?」
「――みゅ?」
 避けていたというか――距離感が分からなくて戸惑っていた、そんな様子だった。
 だけど、今のリースには迷いなんて無い様で。
「みゅ♪ ――みゅっ!」
 楽しそうな声を出すと、エリルの頬を一舐めして。そこから、エリルの頭の上に乗って、満足そうな声をだした。
 ――リーゼが少し照れているみたいだから……正式な『おとうさん認定』かな?
 エリルたちも上手くいった様で、何より。

『ウィル君もリースちゃんも可愛いね! 小さいハールートを思い出すよ。――会いたいな……』
「みぎゃあ……」
 しんみりした声を出すルイーズに、ウィルが慰めるような声をかける。
 調査のため、ココか自警団が拠点にしていた場所に、転移陣が設置される事になると思うけれど……当然、ハールートは通れない。
 ルイーズがここを出れないなら……せめて、声を聞かせてあげるくらいしか――
「ああ、その事なんだけど――ルイーズ、ちょっと良いかしら?」
『え? なに?』
 フィアナがルイーズを壁際に呼ぶ。
 ――どうでもいいけど、なんだかフィアナ、妙に気安い感じになってるな……?
 アリアの『母』と『姉』という接点から、だろうか?
「ちょっと、壁に両手を付けてみてほしいの」
『え? ――こう?』
「そうそう。それで――一歩前へ」
『え? ……あっ』
 何の抵抗も無い様子で、手が肘まで壁に埋まる。――え? もしかして……?
「……そのまま、壁を抜けられない?」
『え、えーっと……?』
 そのまま、スタスタと歩いていき――壁に消えるルイーズ。
「――アリアの手がすり抜けたから、出来ないはずは無いと思っていたのよね……」
 なぜか、この部屋に掛かっている空間隔離は、入口のみ。
 だから精霊の様に物理的な束縛が無い存在なら、壁は無いも同然なわけで。
「元・人間だから、そこら辺を失念していたのかな……? ――それにしてもフィアナ? なんだか妙に気安い感じになってるけど……どうしたの?」
 フィアナは本来、初対面の相手には少しの間、余所行きの対応をする。
 なんというか――早々に素が出てきたルイーズの親しみやすさ故かもしれないけれど、それにしたって、もう少し余所行きの時間が続くかと思っていたんだけど。
「――ああ、それね。……いろいろ知っちゃってるのを思い出したから、かしら。……敬意を払ったところで、絶対に後で台無しになるんだもの……」
「……え?」
 フィアナの言葉に首を傾げると――アリアも、顔を逸らしているのが見えた。
『……た、ただいま』
 疑問に思っていたところで、ルイーズが戻ってきた。
「はい、お帰りなさい。――どうだった?」
『う、うん。空間隔離が掛かっている所以外、壁も床もスルーだったよ。……どうなっちゃったんだろう、私の体……?』
 ……その疑問は、僕も思っていたもので。
 まともな生命体ではない。だけど体内に『残滓(ざんし)』が無いため、魔物としてのアンデッドではない。かといって、ただの残留思念と言うには感情が豊か過ぎる。
「あ、あのね、ルイおねえさんっ! たぶん、わかるよ……?」
 そう言ったのは、イリス。……当然、それにルイーズは食いつき。
『ほ、本当!? 教えてイリスちゃん……!』
「わ、ちょ、ちょっと待ってくださいっ! ――精霊さんっ……!」
 と、イリスの呼び掛けに応えて、いつもの四色の精霊が姿を現し。
 『『『『 なぁに~? 』』』』
 イリスは、この光景に『きょとん』としているルイーズを見て。
「えっと……ルイおねえさんって、精霊さんたちと『同じ』、だよね?」
『「「 ……へ? 」」』
 声を漏らしたのは、僕とフィアナとルイーズ。
 だけど精霊たちは、そんな僕たちに構わず。
 『ちょっと違う気もするけどぉ、大体そうだよ~』
 『元・人間だからかな? 何の精霊かはわからないけど……』
 『うんっ。精霊って言っちゃっていいと思うよっ』
 『俺たちの仲間だなっ』
 そう言って、楽しそうにルイーズの周りを飛び回る精霊たち。
「――何か心当たりはない?」
『……やっぱり人だった時の最後に、精霊力の爆発に巻き込まれた事、かな……?』
 人が精霊になる……多分、初めて確認された事例だと思う。
 ――これも、レミリアに報告事案かな?
 だけど、今はとりあえず……。
「ルイーズが精霊っていう事は――転送珠で移動出来るのかな?」
 『うんっ! 出来るよー』
 緑の――風の精霊がお墨付きをくれた。
「――なら、戻ろうか。……まだルイーズを普通の人に見せるのはマズイかもしれないから……ハールートの所だね」
「そうだけど……カリアス? リリーさんに連絡、した?」
「……あ」

 慌ててリリーさんに連絡をした所……やはり、もの凄く心配していた様で。
 連絡が遅くなった事を平謝りした後――事情があってハールートの所に戻る事を告げて、遺跡を後にした。
 ――明日いろいろ説明しなきゃいけないのが、少し憂鬱ではあるけれど。



   ◆◆◆次回更新は2月28日(火)予定です◆◆◆

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