第三編 終章 過去と未来

作者:緋月 薙

終章 過去と未来



(SIDE:カリアス)

『――なるほど。ようやく事情がわかった。他の者ならばともかく……お主が好きこのんでアリアを封じるなど、あり得ぬからの』
『――怒らないの……?』
 ハールートの住処に転移をしてきて――ルイーズが、ハールートに謝り。
 謝った後に、アリアから補足での事情説明があったとはいえ、あっさりと受け入れたハールート。
 ルイーズは『怒っていた』と聞いていただけに、少し意外に思っている様で。
『……怒ったわ。怒り狂い――大失態を犯しかけた所を、カリアスたちに止めてもらえたのだ。もう一度、同じ事をやらかすわけにはいかぬだろう。――それにのぅ?』
 そう言って、一度溜め息を吐いた後に、少し意地が悪い顔をして。

『……お主、なぜそんな体になったのだ?』

『う……』
 痛い所を突かれた様に、言葉を詰まらせるルイーズ。
「……どういう、こと?」
『我らが封じられ、この施設は放棄された以上、撤退命令が出ていたのだろう? それなのに、なぜ一人だけ暴発に巻き込まれる?』
 そこまで言われて、何となく分かってきた。
「……施設の暴走を止めて――アリアとハールートを戻そうとした、のかな?」
『…………』
 僕の言葉に目を逸らしている所を見ると、アタリかな。
『――ふん、無茶しおって。……下っ端のくせに』
『し、下っ端じゃないもん! あのエロ所長を蹴飛ばしたら、昇進できなくなっただけだもん!』
「……旧文明時代も、いろいろ大変だったのね」
「うちのお店にも――たまに来ますよ、そういう人……」
「――リーゼ。ちょっと誰がそういう客か教えてくれ。直ちに自警団の人に……」
「あ、大丈夫。イリスちゃんが来るようになってから、捕縛率がかなり上がってるから」
 ……この街にもやっぱりいろいろあるらしい。
『――相変わらずの無鉄砲ぶりだな。……お主も逃げれば良かったものを』
 そう言って顔を背けたハールートは、どこか照れ臭そうで。
 それを見ていた僕たちは、その真意を察して、皆が笑顔を向けた……一人以外。

『……ふふふふふ。図体(ずうたい)だけじゃなくて、態度も随分大きくなったねぇ【はー君】?』

『ぐおっ!? お、お主、その呼び名は……!』
「「「「「 ……『はー君』? 」」」」」
「……ん。ハールート、うまれたばかりのころ、そうよばれてた、らしいよ?」
 なるほど。……『お前の過去は知っているぞ』という宣言、か。
『ピーピーって小鳥みたいに鳴いて、可愛かったよ? 火を吹く練習してたけど、向かい風の突風のせいで顔に戻ってきて、大慌てで――』

『ぐおおおおおおおおッ!? すまぬ! 謝るからやめろぉぉおおおおおおッ!!』

 ……古竜の敗北宣言。のた打ち回る古竜とか、どれ程の人が見た事あるのだろう?
「ねえアリアちゃん? もしかして――昔からこんな感じ?」
「ん。……じつはハールート、ルイおねえさん、ちょっとニガテ」
「ハールートさんにも、ニガテなものってあるんだね……」
 ぜぇぜぇと息を切らせているハールートと、勝ち誇っているルイーズを見ながら、少女三人がコソコソと話していた。
「……みゅぅ?」「みぎゃ……?」
 と。実はここに来てから、再び眠ってしまっていたリースとウィル。
 エリルとイリスが抱っこしていた二匹が、先ほどの騒ぎで起きてしまったらしい。
「――起きちゃったか。おはよう、リース」
「みゅ? みゅうっ♪」
「ウィルも、おはよっ。疲れてるなら、まだ寝てていいよ?」
「み♪ みぎゃっ!」
 エリルに撫でられて嬉しそうなリースと、イリスに甘えて抱きつくウィル。
『…………ふむ。時間も丁度良いし、我は少し飛んで来よう。――ウィルとリースも来ぬか? もちろんカリアスたちも――ついでに、ルイーズも良いぞ? ……この時代の世界を見る、良い機会ではあるだろう』
『――え?』
 ウィルとリースが目を覚ましたのを見て、突然そう言ったハールート。それを一番驚いたのは、ルイーズで。
 ……ついでの様に言ったけれど、むしろついでなのは僕たちだろう。
「みぎゃあっ! みぎゃっ♪」「みゅうっ! みゅうう♪」
「リースたちは、行きたいって言ってます。――ルイーズさんも、どうですか?」
 リーゼが、そうダメ押しすると。
『――うん。もちろん行かせてもらうよ! ……落ちないでよ、ハールート?』
『本当に来るのか。……仕方あるまい』
 そんな遣り取りを聞いて、僕たちは笑みを交わし合った。
「ハールート。僕はレミリアに連絡を入れなければならないので、今回は遠慮します」
「――私も、レミリアと話す事があるし……見送らせてもらうわ」
『む? そうか、わかった』
 そう言ったハールートへ、次々に乗っていく子供たちとルイーズ……だけど、
「――おかあさん。がんばって……ね?」
「……いいから、楽しんでらっしゃい?」
 真っ向から言ってきたアリアだけじゃなく、エリルとリーゼも、こちらを見てニコニコしている。――まぁ宣言しちゃったんだし、覚えていれば分かるよね……。
『――あっ! ……その、カリアス、フィアナ! ちょっと訊きたいんだけど……!』
 今の遣り取りの理由を知らないルイーズが、少し慌てた様子で声を上げた。
 ……いつの間にか僕まで呼び捨てになっているけど……自然に受け入れられるのは、彼女の人柄が理由か。
「――何かしら?」

『……その、もう三千年経っているなら――居住区には何も残ってなかったよね!?』

「…………床の上には、何も無かったわよ?」
『……あれ? 何、その反応……?』
 なんだか、微妙な反応をするフィアナ。それに――ハールートの上では、アリアが全力で顔を逸らしている……?
「あ、そっか! ルイおねえさん、あのアリアちゃんとちっちゃいハールートの絵をかいたヒトなんだよね? とっても上手だったよ♪」
『――え? なんでイリスちゃんが、アレを知って? …………待って。アレをしまったのって……それに「床の上には無かった」……?』
 ルイーズの白い肌が、さらに蒼白になっていく。
 それを見ていたフィアナが、まるで『あーあ、気付いちゃった……』といった顔に?
『……フィアナ、見た……?』
「…………とっくりと」
『…………で、それらは――今、何処に……?』
「……今頃、自警団の方々が搬出を始めているかもしれないわね……古代の資料の一種として」
『ホワッ!? ちょ、それでどうするつもりなの!?』
「……たしか『暗号の類が無いとも言えませんから……一語一句に至るまで、検分する事になるかと』って言っていたわね……」
『ぎ、ぎゃあああああああッ!? ちょ、ちょっと待って!! 私が行って説明すれば……!』

「――本の細かい解説をさせられる事になるだけだと思うんだけど……行く?」

『…………アレはアカンとです……古代の『腐』の遺産なのです……』
 絶望感を漂わせハールートの背に両手両膝をつくルイーズ。……気のせいか、ただでさえ幻影の様に透けているルイーズが、更に薄くなった様な気がした。
「――ルイーズさん、どうしたんだ?」
「……ん。おにいちゃんは、しらないほうがいいセカイ」
「……みぎゃ?」 「みゅ。みゅう?」
 エリルとアリアの会話の横では、ウィルとリースが『大丈夫?』って訊いてる様で。
『……ルイーズよ。行くのは止めておくか?』
 さすがのハールートも、素直に心配している様子だけど……ルイーズは起き上がり。
『――ううん、行く。……この時代の景色、初めてみるんだけど……どんな感じ?』
「とってもキレイだよっ! この時間の夕やけも、夜の星空も♪」
 何度も乗せてもらっているイリスが答え。それにルイーズは一瞬、少し自嘲気味にも見える苦笑を見せて。

『(……そっか。神様なんて居なくても、世界はキレイなんだね)』

 ……小さく。イリスにも聞こえるかどうかという程の小さな声を――なんで今、僕は聞き取れたんだろうか……?
 だから――だろうか。思わず、こんな言葉を口にしていた。
「――る、ルイーズ! 詳しい話は、明日聞く事になると思うんだけど……先に一つだけ教えてほしい!」
『 ? なに?』
「――この遺跡は……君が居た施設は、何だったんだ?」
 僕の質問に、ルイーズは少し考えてから――
『何が造られていたかは――知らない。だけど下層で何かが造られていたのは確か。……一度あのエロ所長がエラそうに口にしたんだけど――』
 ……きっと、この言葉を聞き逃してはならない。そんな予感と共に、言葉を待ち――

『――【世界の救い手を、救うために】って言っていたよ』


      ◆      ◆

 イリスたちを乗せたハールートが飛び去るのを見送り。
 レミリアに映光玉で連絡をとり、大まかな報告だけをして、詳しくは明日また連絡する旨と――ルイーズが最後に告げた言葉だけを伝え、早々に通信を終わらせた。

 ――さて。ここからが勝負。
 僕と同じ様に……やや落ち着きなく視線を彷徨(さまよ)わせているフィアナを見ながら、どう口火を切ろうか思案する。

 夕日は――まだ沈んでいない。
 空には悠々と旋回する、竜の姿。……戻ってくるまでには、まだ時間はある。

 ……とはいえ。このまま躊躇(ためら)っていれば、あっと言う間に時間は過ぎていきそうで。
 フィアナに、伝えたい言葉は決まっている。覚悟も出来ていると思う。
 ――でも……何から言おう?
 そんな事を考えて動けない時点で、覚悟なんて出来ていないんじゃないだろうか……?
 そんな、自己嫌悪に発展しそうな思考を展開していると。
「――うん。……ねえ、カリアス?」
「な、なんだい?」
 ……どういう会話が始まるか分かっているのに。そんな白々しい言葉を……しかも噛み気味に口にしてしまうという失態。
 だけど、そんな事は気にせずに――フィアナが口を開く。

「――あなたが好きです」

 ……直球にも程がある――だけど、フィアナらしい言葉。
 それを嬉しいと思うと同時に……先に言われた事を悔しいとも思ってしまうのは、僕とフィアナの、今までの付き合い方のせいか。
 そんな僕の心情を分かっているのか、フィアナは楽しそうに笑って。
「……最初はね? あんたの事は、気に食わなかったのよ?」
 その言葉に……子供の頃を思い出す。
 それもレミリアと会う前の、本当に幼かった頃を。
「――うん。確かに小さい頃は……フィアナ、いつも不機嫌だった気がする」
「……だって。あんたはいつもニコニコヘラヘラしてるのに、私はあんたに勝てなかった。負けも少なかったけど――勝てた事も少なくて。それが悔しくて、憎らしかった」
 ニコニコはともかく……そんなにヘラヘラしていただろうか?
 だけど――当時はとにかくフィアナが突っかかってきて。僕は負けたくないからって、こっそり勉強したり、特訓したり――
「……だけど。あんたは、ヘラヘラしているだけじゃなかった。部屋の灯りは遅くまで点いていて。皆が帰った後の広場に、あんたはよく一人で戻ってきてた。私は、そんなあんたを――『バカじゃないの?』って思っていたわよ?」
 予想と期待が外れて、ガクッときた。
「は、はい? この話の流れで……『バカじゃないの』?」
「だって。本気で努力を隠してカッコつけてるのよ? 必死でニコニコしちゃって――だけど私は、その裏側を知ってるのよ? その表側も、私は憎らしいと思っていたのよ? 『バカじゃないの?』以外に、どんな感想を持てって言うのよ?」
 言われた事を、振りかえって見る。
 ……うん。『バカじゃないの?』って思われても、おかしくないかもしれない。
 同時に――『幼馴染』っていう関係性の怖さを再確認。
「――でもね? 考えてみれば、やってる事は私も同じなのよね。それで気付いたの。『こいつも、私と同じくらい負けず嫌いなんだ』って。それが、なんだか嬉しかった」
 そういえばフィアナは……いつも対等である事に拘っていたっけ。
 聖殿騎士になったばかりの頃、心を折られかけて落ち込んだ時も――
「そんなカリアスが――外面だけしか知らずに寄って来た子に持って行かれるのは、絶対に嫌だって思い始めたの。あんたの事を――良い所も無様な所も、一番知っているのは私だし――これからもそうじゃなきゃ嫌だって」
 少し頬を染めて、だけど全く(ひる)まずに告げてくるフィアナ。
 照れくささからか、僕の方が少し気圧されながら。
「じ、じゃあ、僕の事は、その辺りから……?」

「――さぁ? どうなのかしら?」

 ……サラッと首を傾げられ、またもガクッときた。
「まぁ重症化したのは、たしかにその後くらいからじゃない? ――だけどなんで張り合ってたのに共闘方面の相棒になってるのよ? 観察していただけのはずなのになんで一挙一動でドキドキする様になってるのよ? 憎らしいとか思ってたはずなのに何時の間にあんたの一言で一喜一憂する様になってるのよ!? わけがわかんない!!」
「ちょ、フィアナ!?」
 逆ギレというか開き直りというか――とにかくヒートアップし始めたフィアナ。
 だけど――不意に落ち着いて、穏やかな眼差しを、向けて来て。
「……今さら、いつから好きになったかなんて分からないわよ。――それだけ長い時間、私はあんたを見てきたんだから。そして……これからも、ずっと見ていきたいって、思っているの。だから――」
 覚悟を決める様に――心の迷いを消す様に。フィアナは一度、(うつむ)いてから。

「――お願いします。これからも……並んで共に、生きて行かせてください」

 言葉と共に向けられたのは――挑む様な、真っ直ぐな眼差し。
 僕が一番好きな、フィアナの眼。……自覚してしまうと――もう、無理だった。
「っ! カリ、アス……?」
 躊躇いとか迷いとか――そういう事を気にする前に、僕はフィアナを抱きしめていて。
 驚き――恥じらう様なフィアナの声も気にせず、言葉を紡ぐ。
「……子供の頃。事ある毎に、僕に突っかかって来る女の子がいて、さ?」
 そう言うと、腕の中のフィアナが、小さく身動ぎをした。それを、少しおかしく思いながら――言葉を続ける。
「負けたら悔しがって。引き分けなら……もっと悔しがって。勝ったら喜んで――だけど勝ち誇るでもなく『次は?』って言うんだよ」
 気恥ずかしそうに、だけど何も言わずに、頭を微かに動かすフィアナ。
 さっきまでの彼女が、少し楽しげに語っていた理由を、何となく実感しながら。
「……変わった子だって思った。面白い子だって思った。――楽しいって、思い始めた。だから僕は――この子に、弱い所は見せたくないって思った。……弱い所を見せたら、この子は突っかかって来なくなるんじゃないかって、そう思ってしまったから」
 フィアナが――僕の方を見ようと、顔を動かしたのが分かった。
 文句を言われるより前に、頭を撫でて――『分かっている』と伝え。
「……今思うと、ここら辺の考え方を拗らせた結果が――聖殿騎士になったばかりの頃に心を折られかけた、あれに続くんだろうね……。まぁ結局その子自身に、もの凄く乱暴な形で性根を叩き直されるんだけどね?」
 少し茶化す様に言うと――今度は逆方向、逸らす方向に顔を動かすフィアナ。
 そんな反応を楽しく――愛しく想い。抱きしめる腕の力を、少し強める。
「……実は、本当につい最近まで自覚してなかったんだけど。でも……自覚して思い起こせば、フィアナの事は全部思い出せた。僕は本当に子供の頃から――フィアナの真っ直ぐに僕を見る眼が――好きだった」
 強引に、顔を上げるフィアナ。驚いた様な眼が、こちらに向けられる。
 僕は――その翡翠色の瞳を見つめ。

「――本当に、何時から何だろうね? ずっと君が好きだったよ、フィアナ」

「カリアス……! ………っ、……っ!!」
 フィアナは嬉しそうに瞳を潤ませ――だけど、一瞬で真っ赤になって。顔を隠す様に、僕の胸元に顔を埋めた。
 そんな彼女の頭に、手を置いて。軽く撫でながら――もう一つ、しなければいけない話を、する事に決める。
「……ねぇ、フィアナ? ――お願いがあるんだよ」
「え……?」
『お願い』という形は意外だったのか、怪訝(けげん)そうな表情が浮かぶ。
「――フィアナが何で、イリスに即答しなかったのかは、分かっているつもりだよ」
「…………うん」
 イリスに『おかあさんって呼んでいいの?』と訊かれたフィアナが、『少し待って』と答えた理由。
 それは――きっと子供たちや周囲の環境を理由にしないで、ちゃんと気持ちを確かめ合いたかったからだと思う。
「だけど――やっぱりイリスも、僕たちの人生の一部だから。――だからお願いするよ」
 そう言って、フィアナと目が合うのを待って。そして――告げる。

「フィアナ。――イリスの『おかあさん』に、なってください」

 僕が言い切った後。フィアナは少し、無言で僕の顔を見つめてから。
「……あーあ」
 これ見よがしな、深い溜め息を吐いた。
 そんな行動と、わざとらしい疲れた表情に反して、僕から離れようとはしておらず。
「えっと……フィアナ? どうしたの……?」
「いいえ? 単に、去年まで思い描いていた理想の未来と、かなり違う結果になりそうだなーなんて思っちゃっただけよ?」
「……ああ。まぁ確かに」
 去年の時点では、イリスの事もアリアの事も、予想なんて出来るはずがない。
 だけど……去年に描けていたであろう未来より、今思い描く未来の方が楽しそうだ、なんて思ってしまってもいるのだけれど。
「――カリアス? あんたには、私の未来を変えちゃった責任、取ってもらうわよ?」
「少し理不尽な気もするけど……善処するよ。――で、何をすれば?」
 そう訊ねると――少し頬を染めながら、にっこり笑って。

「カリアスも、アリアの『おとうさん』になって。それなら受けてあげるわよ?」

 フィアナの挑む様な視線に、僕も真っ向から視線を合わせ。やがて――
「「 ――ぷっ! あはははははははははッ!!」
 同時に吹き出し、笑い合う。
 抱き合ったままなのに、こんな遣り取りをしている事が、おかしくて。
 だけど同時に――これが僕たちだって、すごくしっくりときて。

「これからもよろしく。――フィアナ『おかあさん』?」
「ええ、こちらこそ。――カリアス『おとうさん』?」

 そう言って笑顔を交わし――見つめ合い、その距離が縮まり――

 竜の舞う、日没直後の空。
 星の光が瞬き始め、夜が目覚める空の下で。

 僕とフィアナは、新しい未来を紡ぎ始める――


(SIDE:レミリア)

「……おじさま。どこからツッコミましょう?」
「サラッと言っただけで、十二分な破壊力でしたからねぇ……」
 お兄様たちの、遺跡探索の報告。
 今日はイリスちゃんたちや……思わぬ『お客人』の疲労を考え、簡単な概要の報告だけで済ませて、残りは明日、という話でしたが。
「……明日、何を聞かされるんでしょう……?」

 遺跡内の壁面および床面に埋まった、特大サイズの魔宝石。
 存在するだけで聖域を発生させる、イリスさんたち。
 例の『門』のチェックで、全員が特級二名を含む第三級以上だった事。
 空間隔離の破り方。
 聖術と闇聖術を合成して発動させる『神術』。
 元・人間の精霊。
 そして――『世界の救い手を、救うために』。
「本来なら『魔宝石』が大量に埋まっている事を発見しただけで、十分な功績なんですけどねぇ……」
「一攫千金と言える額になりそうですものね。……それが前振り程度だなんて」
 ――いえ、直接的な金銭収入という意味では、前振りどころではありませんが。
 それでも……表に出すとマズイ話という意味では、他に比べれば数段落ちます。
「……まぁ、一番の問題――というか重大案件は、イリスとリーゼの正体がほぼ確定、っていう点ですかね?」
「まさに……それですね。――これで、お兄様たちに言わないという選択肢は、ほぼ無くなりましたね」

 門のチェックの時点で、完全に問題が確定していました。
 施設または研究の関係者を見つけるチェックで……お姉様が、教皇家の者が引っかかった事。これはたとえ何級であろうと、ある一つの事実が明らかになってしまいます。
「……では、教皇。やはり、旧王家と教皇家が共同で当たった計画というと――」
「――はい。空白期と呼ばれる時代に行われた『人造神計画』。両家が共同であたった計画は、それだけのはずです」

 かつて――勇者たちと共に『名も無き魔王』と戦い、相討ちとなったとされる神。
 ……主神であったとされる『大地母神メティス』を再生させようという――至高の神聖にして最悪の禁忌ともいえる計画。
 しかし――その人造女神は、『自壊』という最期を遂げ。
 そうなった経緯とその計画自体が、人類最大の大罪とされ――『空白期』として歴史もろとも封印された禁忌となっています。

「そこで『世界の救い手を、救うために』か。……人造女神を救うための計画。それが――イグニーズ遺跡で行われていた計画だと」
「……リーゼさんはそこで造られた存在。旧神が用いた闇聖術を自在に操り、聖域すら発生させる。――確たる証拠はありませんが、状況が揃い過ぎていますね」
「イリスの方は――門のチェックの『特級二名』、リーゼと同等の力を持ち、同じ様に聖竜に慕われる……」
「さらに言うなら、お兄様たちがイリスさんを見つけた際に一緒に見つけた手紙の一節。『我らは目的の為に禁忌を犯し、しかし達成の前に、その目的は意味を失った』――状況が、当てはまり過ぎていますね」

 つまり――イリスさんとリーゼさんは、神の眷属か――神自身の分霊の可能性が高い。

「(……あの街の変態共の評価、ドンピシャじゃないか)」
「 ? 何か言いました?」
「――いえ、何も」
「……はぁ。根回しが済むまで徹底的に情報封鎖、ですね。お兄様たちに、何を何処まで説明しましょう……?」
「一応、最後の手段として――フィアナちゃんを教皇家に復帰させ、その婿としてカリアス、その子としてイリスたちを抱え込み、教皇の遠戚として国ぐるみで守る、という手段がいつでもイケそうな気はしますがね?」
「それはお姉様たちが望まない限り、本当に最後の手段ですね。――お兄様とお姉様……そして何よりイリスちゃんたちには、自由に生きてほしいと思います」
「――そうですな。人として生きる神というのも、たまには居ても良い気がしますし」

 ――祈りましょう。……願いましょう。……努めましょう。
 人として生きる神々が、人の世にとらわれずに生きられる事を。

 私は、神に祈り、願う立場の教皇だけれど。
『神』が自由に生きられる事を、心から祈る事にしました――



   ◆◆◆次回更新は未定です◆◆◆

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