第四編 序章 教皇たちの憂鬱とフラグ

作者:緋月 薙

序章   教皇たちの憂鬱とフラグ
(※今回は 一章の1 未来への話と秘密の話 と合わせて2話分の更新になります)



SIDE:レミリア

「……さて。そろそろ、お兄様たちとの通信のお時間なのですが――」

 少々の覚悟を要しましたが……逃避したくなる現実を見据えて口にすると、いつも通り隣に立つ方が、私と同じような表情で続きを語ってくださいました。
「……本当に、何を語ってくれるんでしょうねぇ。昨日さらっと話した内容だけで、公表されたら対応決める会議に数日を要しそうな内容でしたし……」
 頭痛そうに言うおじさま――この国の実質的なナンバー2である聖殿騎士団長にして、カリアスお兄様の養父でもあるマクスウェル。
 彼の言葉の通り、この後にお兄様からされる報告は、確実にこの国を――下手をすれば世界を揺るがしかねない内容だと思われます。
 昨日まで、イグニーズ遺跡で新たに発見された区画を調査していたお兄様たち。
 ……どうやらまた結構な出来事があった様で。帰還したお兄様の報告で『とりあえず』と語られた概要で、すでに私たちはお腹いっぱいでした。

 まず――遺跡を構成する壁や床面に、決して少なくない数の特大サイズ魔宝石が埋まっている事の発見。
 魔力を秘めた宝石である魔宝石は、装飾品としても魔道具の素材としても価値が高く、小粒の原石ですら中々の値段になります。
 それが、特大サイズでいくつも。埋蔵量や質、その取扱い方によっては……都市運営どころか国家運営にすら影響が出かねません。
 そして、それらを発見する手段は、現状ではお兄様かリーゼさんの闇聖術のみ。
 つまり言い換えれば――二人で国家運営に影響を与える事が可能、という事。

 ――これだけでもトンデモナイのに……これがまだ『概要』の、手始めの一つに過ぎないんですから……。
 遺跡の重要施設に使用されている、直接攻撃以外のほぼ全ての影響を遮断する『空間隔離』という技術。そして、それすらも破る聖術と闇聖術の融合による『神術』。
 この二つが世に広まってしまった場合……国際情勢が大きく揺らぐ可能性があります。
 ……具体的には、空間隔離の技術が眠るイグニーズの街を狙う国――または組織が現れる可能性は非常に高く。
 さらに防御不可能な『空間消滅』とも言える効果を発揮する神術を使う事が出来るお兄様たちを、なんとか引き込もうと――それが無理なら始末しようと、そう行動する者が国の内外に多数発生するのは、まず避けられないでしょう。
 ――お兄様たちは、ここまでの状況だと認識しているのでしょうか……?
 この第一報を報告したときの、なぜか少しソワソワした様子で、心ここに有らずな様子だったお兄様とお姉様を思い出すと――今さらながら文句を言いたくなります。

 さらに当時からの――事情を知る国々が歴史もろとも隠蔽している時代からの生き証人である、『元・人間の精霊』という存在。
 そして極め付けなのが……ほぼ確定した、イリスさんとリーゼさんの正体。
 空白期と呼ばれる時代に、世界を立て直そうとして計画された『人造神計画』。
 後に『最悪の禁忌』とされる、不完全な状態で生み出された『人造の神』を救うために造られた――神の眷属(けんぞく)、または分霊。おそらくそれが、彼女たちの正体。

「今日の話が終わったら……精霊殿に話を通す必要がありますね」
「事が旧神――『大地母神メティス』の事ですからな。隠しておいてバレた時のリスクが大きすぎます。まずは巫女長あたりにだけ話を通しておき、あちらの方は丸投げしてしまうのが無難かと」
 このトリティス教国の隣国の一つ、大樹海を(よう)する『深緑の国リーシア』。
『大樹の民』という長命種が治めるその国の実質的な中心にして、リーシアの国教である『大地母神教』の聖地が『精霊殿』。
 彼らが(あが)める大地母神の、直接的な関係者。その存在の発見という事実が、万が一でも情報統制無しで広まってしまった場合……最悪、宗教戦争の勃発も有り得ます。
「……そうですね。幸いな事に――人格はともかく、巫女長様を始めとする主流派の面々は話の分かる方々ですし。……人格はともかく」
「……『人格はともかく』を二度言いましたな。やはり巫女長殿は苦手ですか」
 精霊殿の頂点――丁度、リーシアにおける私と同じ立場に居る『巫女長』様。
 ……なんだかんだで優秀な為政者(いせいしゃ)であり、一応は人格者とも呼ばれる方ですが……。
「――あの容姿であの中身。それなのに為政者としての狡猾(こうかつ)さも持って……嫌いではありませんが、確かに苦手というか――そう、面倒な方、ですね……」
「(…………向こうも、全く同じ感想を持っていそうだが)」
「 ? 何か言いましたか、おじさま?」
「いいえ、何も」
 しかしあの方は、確かに苦手ではありますが……信用できる人でもあります。
 おじさまの言ったとおり――彼女や極一部の方にだけ伝え、『そちらの国内の事はお任せします♪』という形にしてしまうのが、両国にとって最善の手法でしょう。
「……とにかく。あちらの『大樹海の守護者』様の事もありますし――イグニーズで秘密会談、という方向で話を進めてみようかと思います」
 大樹海の守護者。リーシア国内ですら秘されており、お会いした事がある私も、無闇に語る事が出来ない存在。――話してみたら、気さくな方なんですけどね。
 その方が、イグニーズの守護竜ハールートさんに興味がおありで。
 会わせてみる方向で話を進めているのですが……『そのまま守護者が出奔(しゅっぽん)したらどうする』と、反対する者が居て面倒だそうで。
 ですが今回の出来事で、ようやく話が進みそうです。

 ……と。懸念事項の一つ、その方向性がまとまったところで。
 段々と近づいてくる通信の時間の方に、意識を戻すしかなくなるわけでして。
「……はぁ。聞かなければいけない内容も頭痛いですし、話さなければいけない内容も気が重いですし――ちょっと私、半日ほど急病で倒れていていいですか?」
「堂々と仮病(けびょう)宣言しないでください! ――そ、そうだ! 話は変わりますが……昨日の通信の際にカリアスたちが妙にソワソワしていましたが、アレはなんでしょうね!?」
 現実逃避していられる時間は少ないと分かってはいますが……改めて言われると、それはそれで気になる話題だったので、強引な話題転換に乗る事にしました。
「……確かにお兄様もお姉様も、何か別の事を気にしている様子でしたね。妙に緊張している様にも見えましたが、かと言って危機が迫っている様子でもなかったですし……」
 改めて思い返すと――本当におかしい状況ですね? 付き合いはそこそこ長いと思っていますが……あの状態は初めて見た気がします。
「――ふむ。()えて言うなら、二人とも『覚悟を決めかねている』という様な印象でしたが……そう危機感がある様にも見えませんでしたしね?」
『覚悟を決めかねている』、ですか。……あ、もしかして?

「あの後、プロポーズでもする事になっていた、とか?」

 なぜか頭に浮かび、『そうだったらいいなー』などという願望も込めて言うと。
「はっはっはっは! それは無いでしょう! ――あの二人はどちらも生粋(きっすい)のヘタレですよ? それが交際飛ばしてプロポーズとか――無い無い!!」
 ……どうやら笑いのツボに入ったらしく、お腹を抱えながら言うおじさま。
「私も、普通は有り得ないと思うのですが――あの二人はとっくにお付き合いしている様なものですし、イリスさんやアリアさんも居ますし、絶対有り得ないとは……」

「いやー、無いでしょう。もしそんな愉快な事になっていたなら私、祝いの席で裸踊りを披露してもいいっスよ?」

 爆笑しながら言うおじさま。あんまりな物言いですが……私にもその評価を否定する言葉は出てきません。出てきませんが――
 ――何故でしょう。今のおじさまの言葉を聞いて、妙に嫌な予感が……?
 そんな妙な感覚に首を(かし)げていると、そろそろ通信が来る予定の時刻です。
「……さて、そろそろ時間ですね」
「ですな。――ところで今回、出オチはどうします?」
「……無しで。初対面の方が――しかも、永き時を生き抜いた『精霊』様がいらっしゃる以上、失礼になり得る行動は(つつし)むべきでしょう」
 その『精霊』様がどういう方かは、まだ聞いていません。
 ですが、文明崩壊の時を超えて存在し続けている存在。決して楽な人生を送ってきたわけではないと、容易に想像できます。間違いなく、敬意を払うべき存在でしょう。
「――そうですね。ならば、最大限の敬意を払うとしましょう」
 おじさまの言葉に『そうですね』と(うなず)きながら、己の衣服や髪に乱れが無い事を確認し、他国の王などに教皇として謁見(えっけん)する際に所持する(しゃく)(じょう)も用意。
 改めて心を引き締め直し、通信が入る事を待ちます。

 ……この後に『事故』が起こる事など、予想も出来ないままに。



   ◆◆◆次回更新は8月4日(金)予定です◆◆◆

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