第四編 一章の2

作者:緋月 薙

一章の2   未来への話と秘密の話(2)



SIDE:カリアス


『――未婚の女性っていうだけで、相手が他国の宗主でも口説いてくる方もいますよ?』
『うっわー……やっぱり教皇も大変なんだね、レミリアちゃん』
『ええ。いつの時代にも、タチの悪い権力者っていうのは居ますので……』

『「「 ………… 」」』
 僕、フィアナ、ハールートは、少し頬を引きつらせながら、その会話をただ見ていた。
『――教皇。そしてルイーズ殿。……なんぼなんでも馴染むの早過ぎでしょう!?』
『『 え? そう(ですか)? 』』
 思わず、といった様子の養父さんの言葉に、まるで『普通でしょ?』とでも言う様な反応だけど……あきらかに普通ではない。
 ルイーズの土下座から始まった、今日の会談。
 気を取り直し、僕たちが遺跡に入ってからの詳細を報告した後、レミリアがルイーズに『かつての遺跡での暮らし』について聞いた――ところまでは普通だった。
 そこから娯楽の話、人間関係の話と脱線し……先程まで『タチの悪い権力者あるある』で盛り上がっていた。……外野はほとんど放置状態で。
『普通三十分も話せば、たいてい仲良くなれない?』
「――普通じゃないから。そんな人間、滅多に居ないわよルイーズ?」
『……その無節操な【人たらし】、相変わらずだな、ルイーズよ』
 フィアナとハールートが、呆れ気味の疲れ気味な様子で返す。
 社交辞令も混ぜてにこやかに、ならば僕もある程度は出来るけど……最初に土下座かました相手と雑談で盛り上がれるくらい、なんて無茶にも程がある。
『日々、お腹の中が真っ黒な狸ジジイたちとお話ししている身としては、こういう真っ直ぐに本音で話してくださる方とのお話しは、とても楽しいんですよ?』
『……言ってる事には大いに賛同しますが、一応もう少し言葉を選んでください』
 なるほど。ルイーズの真っ直ぐさが『人たらし』の要因らしい。
『ですが……さすがに、そろそろ本題に戻らないといけませんね。では――ルイーズさん。遺跡内の門の形をした転移装置。そこで言われたとされる【管理権限】について、教えていただけませんか?』

 遺跡内の未調査区域にあった『門』。実際には転移装置だったそれには、触れた存在を識別する機能があった。
【○級管理権限】という形で判定されるその機能で僕、フィアナ、イリス、アリア、エリル、リーゼ(と、ウィルとリース)全員で触れた際の判定は――『特級二人、二級一人、三級三人』と、全員が三級以上、しかも特級含むという予想外の結果だった。

『……【特級】の存在は、私も知らなかった。だけど――確か一級が、各部門の責任者以上、国家上層部の方々も入っていたと思う。二級が、研究員や職員などの直接的な関係者。三級が……一級に登録されている人の血縁者。四級が二級の血縁者と、非正規職員……だったと思う。ちなみに、私は二級』
 一級に、国家の上層部の者が含まれる。それなら、その上の【特級】とは……?
『それならば……アリアさんは二級。旧王家の末裔のお兄様と、教皇家のお姉様は三級で確定、ですね。エリル君も……おそらく三級でしょう』
 イグニーズ出身の自警団員の中に、四級保有者が何人も居た。
 つまり、研究員の末裔がイグニーズに多く居るという事は、放棄された遺跡から脱出した者がイグニーズの街に住んだ、または街を作ったと考えられる。
 ならば――その中にいた上位の研究者、その子孫がエリル。そう考えるのが自然か。
『そうなると……リーゼさんとイリスさんが【特級】となりますが――ルイーズさん。何か心当たりはありませんか?』
『心当たりは……あるには、ある。あるけれど――』
 躊躇(ためら)う様な仕草で、一度言葉を切ったルイーズはレミリアを見据えて。

『――【トリティス教の教皇】様。……この場で、どこまで言っていいのでしょう?』

「「 ……え? 」」
 その言葉に、僕とフィアナは戸惑いの声を漏らし。
『……やはり、そういうお話なのですね』
 レミリアは、観念したとでも言うように溜息を吐き、言葉を続ける。
『――わかりました。まずは私が知っている、今回の件に関係していると思われる話をさせていただきます。……それでよろしいでしょうか?』
 その言葉は、ルイーズに向いて話された。だけど……意識は僕とフィアナに向けられているのが、なんとなく分かった。
 ――つまり……『知らない方が良い話』という事、かな。
 フィアナの方に視線を送ると――同じくこちらを見るフィアナと眼が合い。
「……(こくり)」
 小さく頷くフィアナに、僕も頷きを返し。『何も言わない』事で、続きを促す。
『……では、お話しします。教皇家に伝わる【歴史の空白期】と呼ばれる期間の記録において、旧王家と教皇家が共同で行った事業は、たった一つだけです』
 旧文明の崩壊後で、世界的に記録が失われているとされる【空白期】。
 その【無いはずの記録】があるという事は――【無かった事にしたい記録】という事。

『その事業とは――【人造神計画】。名の通り……失われた神を、人の手で造りあげ、蘇らせようという計画でした』

「「 なっ……!? 」」
 予想以上の内容に、思わず声が漏れた。
 それを見たレミリアは一瞬だけ顔を曇らせながらも……話を続ける。
『――そして計画は実行され、女神の力を持つ人造生命体が誕生しました。……しかし、それは不完全な存在だったそうです。女神の力に……人が造った体が耐えられない。結果、限定的な力しか振るえず、寿命も極めて短い――そんな存在だったそうです』
 ……『女神の再誕』。
 それだけを聞けば、神聖な儀式、奇跡の御業と称する事もできるだろう。
 だけど実際に誕生したのは……力を振るう事も出来ず短命の……不完全な神。
 それは――下手な失敗より遙かに重い、神への冒涜ではないだろうか……?
『――それゆえに、自身の力で災厄が近づいている事が分かっても、防ぎきる事が出来ませんでした。自身の力に耐える事が出来ず……自壊。災厄の被害を減じる事こそ出来ましたが……そのダメージは、滅び掛けの旧文明への止めとなったそうです』
 レミリアが語った……人造神の顛末。
 それを聞いたフィアナは、唖然とした顔で――その言葉を口にする。
「――勝手に神を造って、使い捨てにしたの……?」
『…………結果的に、そう言われても仕方がない所業ですね。――ゆえに、後に【最悪の禁忌】とされ……この件に関する全ては、歴史諸共に封印される事となったそうです』
 語ったレミリアも、それを聞いた僕たちも。一様に重い雰囲気の中、沈黙していた。
 ――確かに、知らない方が良い話、だね。
 僕もフィアナも熱心な信徒というわけではないけれど……聖術使いとして、祝福をくださる神々への感謝の念は持っている。
 レミリアは教皇として、その過去の知識と、教国の……トリティス教徒の長としての責任、その両方を背負っている。――それは、どれだけ重たいのだろうか……?
 だけど……せめてもの救いがある事が、今回判明したのだろう。それは――
「じゃあ……ルイーズが言っていた『世界の救い手を、救うために』というのは……」
『――うん。多分、自壊する人造の神を救おうとする計画、だったんじゃないかな』
 僕の言葉に応えたルイーズの話は……この件を知る者には救いだろう。
 なにせ、人造神を助けようと手は打っていた、つまりは意図して使い捨てようとしたわけではなかった、という事なのだから。
 結果と罪は変わらないけれど……それでも僕たちの祖先が、最も尊き存在を平気で使い捨てる様な為政者ではなかった事に、軽い安堵を覚えた。
「……え? 待って、じゃあ【特級】って、まさか――」
 そして、先に思い至ったのはフィアナ。それに少し遅れて……僕も気づく。
 管理権限は王家ですら一級なのに、特級はその上。
 当時、王よりも遙かに上の身分の存在が居た。
 そして……この遺跡では、その存在を救うための研究をしていた。

『――うん。だから【特級】は……神、もしくはその因子を強く持つ者、だと思う』

 それはつまり……イリスとリーゼが、最低でも『神の眷属』。
 ――下手をすれば『再誕した神』である可能性すらもある……?
『あと……別グループが別の場所で活動している、という話も聞いた事があるよ。詳しい場所は知らないけど――何処かの山の中腹っていう話。……心当たりは?』
『……イリスさんが居た遺跡、イグニーズ遺跡と同時期に造られた物の様なのです。そして――お兄様、お姉様。イリスさんと一緒に見つけたという手紙、覚えていますか?』
 ……忘れるわけが無い。そして、言われた事で手紙の中の一文に思い至った。
「『我らは目的の為に禁忌を犯し、しかし達成の前に、その目的は意味を失った』、だったよね。……確かに、状況が一致しているね」
『つまりは――イリスかリーゼのどちらかが、人造の神である可能性もある……という事であろうか?』
 ハールートの言葉。僕も同じ事を考えたのだけれど……否定したのは、フィアナ。
「――ううん。多分、違うと思う。……疑問には思っていたのよ。アリアもリーゼも生きていたのに、なんでイリスだけ、魂を造る必要があったのか、って……」
 フィアナが言うとおり、発見時にイリスには正式な魂が入っておらず、儀式を行って魂を入れなければ生存させる事ができなかった。
 アリアの生誕時の事は聞いていないけれど……少なくともリーゼの時は、そんな儀式は必要無かったはず。
 じゃあ、なんでイリスは魂が無かった……いや、後から入れる事になっていたのか。
 そして本来なら、何の魂を入れるはずだったのか――
『――そういう事、ですか。つまりお姉様は……イリスさんが、神の魂を入れる器として造られたのではないか――そう言っているのですね?』
「ええ。――神の力を単身で用いるのは不可能。ならば二つに分けてしまえ。……そういうコンセプトだったのではないかしら?」
 つまり……『どちらか』ではなく『両方』が、分かたれた神の半身。
 イリスには神の器として、神々や精霊との高い親和性を。
 ……リーゼには、それを補佐する人格と、大地を司る力。
 そういう事なら、遺跡で見せた能力も納得でき……え?
「――待った。それなら、その二人と二体の聖竜が力を合わせる状況って……?」
 神の力を分け与えられた、眷属どころか『半神』ともいうべき存在。
 その二人が力を合わせ、それを天と地の聖竜が補助するという状況は――
『……実質的に、主神の力を行使しておるのと変わらぬだろうな』
『話に聞く【神術】などは――まさに『神の裁き』、でしょうね……』
 ……遠い眼で言う、ハールートとレミリア。養父さんとルイーズ、それにフィアナと――多分僕も、頬を若干引きつらせ。
『……その面々が揃っているなら、イグニーズに主神が居るも同然か。――これ、国外どころか聖殿内でも迂闊に出来ない話じゃねーか……』
 養父さんが言うとおり、この事が公になれば――害そうとする者も、祭り上げようとする者も、無数に出てくるだろう。
 さらに、もしも国外――それも『大地母神教』を国教とする『深緑の国リーシア』に知られた場合、絶対に黙ってはいないだろう。
 ――あれ? そういえば、なんで……?

「そんな事より――自壊した神の力を持つなら、イリスとリーゼは大丈夫なの……?」
 僕が、思いついた疑問を口にするより早く、フィアナが心配事をルイーズに。
『あ、あはは……神様の存在を「そんな事」扱い……気持ちは分かる気もするけど。――だけど、ごめん。「多分、大丈夫だと思う」としか言えない、かな』
 イリスが居た遺跡には、無法者に持ち去られない様な仕掛けが施されていたり。リーゼには素性が分からない様に封印を施されていたりと、かなりの配慮が見受けられる。
 だけど……当時の直接的な関係者以外に、それを保証する事はできない。
『はぁ……。あのクソ所長だったら全部知ってたんだろうけど……』
「クソ所長……? ああ、そういえばアンタ、『エロ所長を蹴飛ばしたら昇進できなくなった』って言ってたっけ。その人?」
『……ああ、あの者か。――下心満載の眼でアリアに「十年後が楽しみだ」などとほざいておったな。……今の我なら引き裂いてやったものを』
『お、お話を聞く限り、相当に問題アリな人だったのですね……。ですが、その方にご家族などがいれば、伝承されている可能性も……?』
 ……ハールートが語ったエピソードで、僕も軽い殺意を抱くも、レミリアが言うとおり伝承が残っていれば、かなり助かるのだけれど――
『あ、無理。親兄弟までは知らないけど、アイツいつも「婚活失敗した」ってカリカリしてたし――何より、施設内で死んだし』
『……それは、確実な話なのですか?』
『うん。……いくらエリートでスケベ根性隠しても、あの粘っこくイヤミったらしい性格だと、普通の女性は逃げるよ』
『いえ、その方の婚活事情ではなく。……施設内で死亡、の話です』
 その『所長』の人物評にハールートも『うんうん』と頷いているから、よっぽどの人だったんだと察しつつ。その安否情報は、確かに気になるところ。
『――あのクソ所長、一度避難したらしいんだけど……施設に一人で残った私を襲おうと思って戻る途中、揺れで階段から落ちて死んだらしいよ? …………ざまぁ』
「……本当なら救い様のない人だけど――なんで君が、それを知ってるんだい?」
 (くら)い瞳で言ったルイーズに軽く引きながらも訊いてみた。
 ルイーズは施設から出る事ができなかったのに、その末路をどうやって知ったのか。
『本人から聞いた。……未練がましくアンデッドになってまで追いかけてきてねー……自業自得なのに恨み言を延々……』
「わぁ……死んでも治らないバカって――え? ……カリアス、研究員のアンデッドって、心当たり無い?」
 フィアナに言われて考え……もしかしてと、思う事があった。
 だから僕は、後で見せようと持ってきていた『腕輪』を取り出し。
「――ルイーズ。これに見覚えは無いかな……?」
『ん? ……これ、空間隔離の発生装置? だけど腕輪型って、試作品しか出来てないって聞いたよ。持っていたのはエロ所長と、警備部門の魔物使いくらいのはず?』
「「 ………… 」」
 ――その魔物使いの方も、心当たりあります。
 思わずフィアナと視線で会話してから、白状する事にした。

「……その所長、『闇の落とし子』になってたんで、僕がさっくり殺りました」

『へ?』『む?』
 ルイーズとハールートが、少し間の抜けた声を漏らした。
 僕が出した『腕輪』は、門を越えた場所で倒した『闇の落とし子』が持っていた物。
「あと、その魔物使いも……私たちが処理したのが、多分そうだと思う」
 フィアナも、若干気まずそうに告白。
 援軍でやってきた蛇型と植物型の『闇の落とし子』は、連携が仕込まれていた様だったし、その後に遅れて人型のが来たため……多分、そうだと思う。
 話を聞いたルイーズとハールートは、顔を見合わせ――昏い笑みを浮かべ……?

『『 …………ざまぁ 』』

 ……ハールートまでもが言う時点で、本当に余程の人だったらしい。
『と、とにかく……そちらの方面からの情報は得られないという事ならば――協力者を作ろうと思うのですが、どうでしょうか?』
 レミリアも軽く引きながら、だけど気を取り直す様に、真面目な顔で言い出した。
「協力者?」
『ええ。ですが……これはどちらかと言うと、提案ではなく許可の要請なんです。――知られて面倒な事になる前に、国のトップに伝えて協力を仰ごう、という話ですから』
 ……若干、聞き捨てならない言葉が混ざった。
 つまりこれは、派手な国際問題になる前に根回ししよう、という話で。
 知られて一番面倒な国、そしてそのトップというと――
「……深緑の国リーシア。かの精霊殿の巫女長、ですか?」
『はい。その通りです』
『っ!? だ、大丈夫なの……?』
『――現在、かの国との関係は良好です。その反応も分かりますが――大丈夫ですよ』
 肯定の言葉を聞いて、なぜかルイーズが大きな反応を示し。そんな彼女に、レミリアは困った様な顔で応えた。――だから僕は、ある確信をして、口を開く。

「……レミリア。やっぱりさっきの『空白期』の話に、言ってない事があるんだね?」

 なにせ――やっぱりどう考えてもおかしい。
 リーシアの国教は『大地母神教』。
 なのに……崇める存在を冒涜(ぼうとく)した国と、なんで良好な関係を築けるのだろう?
 リーシアは過去の一件を知らない――という事も考えたけれど、こうして協力を仰ぐ時点で、その可能性は無い。
 過去の自国の汚点を語ったレミリアが、言えない理由のある事。そして先ほどのルイーズの反応から考えると、一番ありそうなのは――
「――当時、リーシアも何かやらかしていた、のかな?」
「……そうね。他国の醜聞だから話せない、という事だったのかしら?」
 僕とフィアナが推測を語ると――どうやら正解だったらしく、映像の向こうのレミリアと養父さんが、深々と溜め息を吐いた。
『はぁ……まぁ気付くよな、お前たちなら』
『――ルイーズさん。私が何を話さなかったか、その部分の事もご存じですか?』
『……【もう一柱】の事と、それに関するゴタゴタ、だよね? ――どういう結果になったかは知らなかったんだけど……さっきの話で、大体の想像は出来たし』
 ――【もう一柱】……?
 その言葉も気になるけれど。どうやら話を聞く限り――別件ではなく、先の話の中での出来事らしい。……だけど、これ以上は分かりそうにないか。
『――その辺のお話も、巫女長様なら語っていただけそうな気もしますが……。いずれにしろ、今はこれ以上お話しできません。気になるのでしたら、直接訊いてください』
「…………え? 待ってレミリア。『直接訊いて』って――まさか」

『はいっ! 都合が良いので、イグニーズで極秘首脳会談を行うと思います♪』

『「「 うわぁ…… 」」』
 ルイーズは、二人目の国家首脳と会う事に、少し顔を蒼くして。
 僕とフィアナは……諸々の厄介事が予想され、頭が痛くて。
『また面倒事を押し付けている自覚はあるが……その街だといろいろ都合が良いのも事実なんだわ。――悪いな』
 ……確かに『極秘首脳会談』なら、聖殿も精霊殿も無理。重要都市も何処に誰の目があるか分からないために避けたいが、小さな街だと非常時の防衛力が不安。
 その点、イグニーズだと――外交・国防の面では重要拠点ではない。そして何より――強大な防衛戦力にして、ある意味どんな人間よりも公平な守護者、古竜ハールートの存在。更に、巫女長の姪にあたる人物が、この街に居る。
 ……『今回の騒動の中心地』という事を抜かしてもこれだけ利点があれば、確かに変更する理由は無いだろう。
『それと――ハールートさん? ついでと言うか……少々お訊きしたいのですが』
『む? 我が知る事ならば答えるが――何だ?』
『竜種の繁殖について教えていただきたいんです。――同格の雌雄でないと子を生す事は出来ないと聞いたのですが……本当でしょうか?』
 なぜか、全く関係の無い事を訊きだしたレミリア。だけど興味もあるし……ウィルとリースの事もあるから、黙って聞いている事にする。
 ……隣のフィアナの顔が少し紅くなっている事には、気付いていない振り。
 多分、通信を始める前の会話を思い出したから、だと思うし。
『なぜ今その話を……まぁ良かろう。「同格の雌雄でないと子を生せない」というのは、正しくはあるが、間違いでもあるな』
『――あら? それはどういう?』
『うむ。まず雌雄で子を生す通常の繁殖の場合、確かに同格でないと子が形成されない。魔力量に差があると、弱い方の形質が飲み込まれてしまうかららしい』
 ……なるほど。高い魔力を持つ種族ならではの問題、か。
『――ん? 待ってハールート。「雌雄で子を生す通常の繁殖」って……通常じゃない繁殖もあるって事!? まさか、雄同士で……?』
『……何故そうなる? そしてその期待に満ち満ちた瞳は何だ? ――上位竜以上の竜種は、己の魂を分割し、単身で卵を造り出せる。……生命と魔力の多くを失うため、死期が近づいた者しかやらぬが。よって通常の繁殖が理想ではあるが……格が上がる程に同格の相手を見つける事が困難になるからな』
『――そういう事でしたか。それで……同格であれば、属性は異なっても大丈夫とか?』
『うむ。我も精霊たちから聞いた話だが――例えば火竜と水竜でも可能だと聞いたな。しかし――レミリアよ、何故この問いを?』
 それは、僕も気になる所。『ついで』と言っていながら、ハールートの言葉を聞くレミリアの表情は真剣に見えた。それは――その後ろの養父さんも同様。
『ええ、それなりの理由はあるのですが……ところでハールートさんも、お相手がいれば良いと思っているんですか?』
『ふぉっふぉっふぉ! 我は古竜である事に加え、この地を守ると決めたため、遠くまで相手を探しに行く気は無い。――この近隣国で古竜の雌など、居るはずが無――』
 と、ハールートが言い切る前に、レミリアが平然と口を開き。

『――居ますよ?』

『居るのかっ!?』『「「 居るの!? 」」』
 画面のこちら側の四人、全員が驚きの声を上げた。
 ――近隣国で、古竜……?
 最低でも、一般的には知られていない。そうでなければ、ハールートの時にあそこまで騒動になったりしない。だけど……そんな存在が、完全に知られずに済むだろうか?
 そんな時――どうやらフィアナが、何かを思い出したらしく。
「――まさか。『大樹海の守護者』……?」
 その言葉で……ある『噂』を思い出した。
 大樹海で迷った旅人を助けるという、巨大な影の話。『魔物の群れから助けてもらった』『空腹で倒れたら、果物をくれた』などの話を聞くが、実体が確認された事は無い。
 よってその存在を『森の隠者』、『大樹海の守護者』等と呼ぶらしいが――

『はい、大正解です♪ 少々事情があり存在を秘匿されていますが……大樹海の守護者の正体は――【緑竜エルファリア】様といいます』

「緑竜……? という事は、元は風竜か樹竜――ああ、そういう『事情』ね」
 風竜はそのまま、風の属性。そして樹竜は土の属性。大樹海に住まうというのなら、おそらくは樹竜が成長した緑竜なのだろう。
 大樹海があるリーシアの国教は『大地母神教』。そこに、土属性の竜が居る理由――
『……お察しの通り、精霊殿の方々からは崇拝の対象となっております。ご当人も「穏やかに暮らしたい」との事で、存在を隠されている、というわけです』
『なるほどねぇ……竜にもいろいろあるんだね――あれ? 今度、その国の人が来るんだよね? それで、さっき話してたのは竜種の繁殖……もしかして?』
 ルイーズの言葉に、僕とフィアナも『それ』に気付き。

『はい。巫女長様から「見合いの席を設けてはどうか」、と♪」

『ふおっ!? ……そ、それは緑竜殿の意思なのか?』
『お見合いについてどうかは存じませんが、ハールートさんの件が知られた時点で、興味はお持ちだったそうですよ? お会いしてみたい、と』
 つまり――今度の極秘首脳会談で面会させよう、という思惑なのだろう。
『それで、ハールートさん。――どうします?』
『うぐっ……!』
 声を詰まらせたハールートは、その狼狽っぷりを表す様に、あちこちへ視線を彷徨わせ――そして観念した様に顔を伏せ、だけど視線は逸らしながら。
『――【見合い】云々はともかく……会ってみたくは、ある』
『はい♪ ではその様に伝え、調整に入ろうと思います』
 とっても楽しそうに言うレミリアと、顔を逸らし地に伏せるハールート。
 それは――とっても分かりやすい、勝者と敗者の構図だった。
『わぁ……ハールートの小っちゃい頃を思い出すよ。こういう所は今も可愛いね!』
「ハールートって、意外に女性に弱いわよね……。もちろん女好きって意味じゃなくて、そのままの意味で」
「こういう場合の強弱って、他者との交流経験がものを言うからね……。ずっと封印されていたハールートだと、狡猾な女性は少し荷が重いんじゃないかな? ――養父さん? 相手の緑竜様って、どんな性格の方?」
『老け込んでいるという印象は無いが、穏やかな方だぞ? 気さくな性格だから、ハールート殿を一方的にやり込める様な事はしないと――ああ、でも交渉能力は高いからな……。やんわりと、いつの間にか尻に敷く、というのは十分に想像できるか……』
 その言葉に、全員が温かい視線をハールートに向けると――それに気付いたらしく、ふて寝する様に体を丸めてしまうハールートだった。
『――さて。とりあえず、こちらが今日お話ししたい事は以上なのですが……そちらから何かありますか?』
 その言葉を聞いて――僕はフィアナの方を向いて。
「――フィアナ」
「っ、……うん」
 呼びかけると――少し頬を染め、頷いてくれるフィアナ。
 それに気付いたレミリアが『あら?』といった顔をしたけれど――気にせず話す。
「――養父さん。レミリア。話さなければいけない事があるんだ」
『……む?』 『まさか……?』
 分かっていない様子の養父さんと、話す内容に見当がついた様子のレミリア。
 ……ちらっと様子を窺うと、期待の眼差しを向けてきているルイーズと……顔を背けていたはずのハールートまで、片目をこちらに向けている。
 それらの視線を受け止め――一度、フィアナと頷き合ってから、告げる。

「フィアナと、結婚します。――どうか、その許可をいただきたく」
「――カリアスと、共に生きていく事を誓います。どうか、よろしくお願い致します」

 言葉と共に頭を下げ、返答を待つ。
 反対されるとは、思っていない。だけどそれでも――時間がやけに長く感じた。
 その長い時を、僕たちは待っ――いくら何でも、長過ぎないだろうか……?

『あ、あの……レミリアちゃんと、マクスウェルさん? どうしたんです……?』

 さすがにオカシイと思い始めたところで、ルイーズの戸惑った声が聞こえてきた。
 僕とフィアナは、少し躊躇いながらも顔を上げ、映像の二人を見ると――
『『 ………… 』』
 養父さんは、何故か顔色が真っ青になっていて。
 レミリアは……頬を引きつらせて、遠くを見ていた。
 その様子に、フィアナの顔が心配そうな……不安そうな顔になっていき。
「もしかして……反対、なの……?」
『――はっ!? い、いいえ、大丈夫です! 心から祝福いたします、お姉様!!』
 どうやら正気に戻ったらしいレミリアが、慌てて祝福の言葉を告げた。
「僕も正直、反対されるとは思ってなかったんだけど……さっきの反応は、何?」
『……油断して、愚かな約束を口にした者が居まして。――おじさま、そろそろ正気に戻ってください。とてもおめでたい事なのに、不安がられていますよ?』
『っ!? ――う、ああ。……すまなかった。俺も、心から祝福させてもらおう。婚約の許可など今さらだという感もあるが――喜んで許可しよう。おめでとう……!』
 これで、僕とフィアナは婚約者同士。
 もちろん嬉しいんだけど……やはり気になる、先ほどの反応。
「――ありがとう、養父さん。……ところで、さっきの反応は何だったの?」
『……まぁ、お前たちはいつか絶対こうなるだろうとは思っていたから、そっちの驚きは一切無かったんだが――意外なタイミングだったから、な……』
 なるほど。さすがは『父親』というべきか、こうなる未来は予想済みだったらしい。
 ならば別の驚きがあれば……そちらに気を取られる事も、あるのかもしれない。
『…………ところでカリアス。結婚するとなれば――規模の大小はともかく、祝いの席は設ける、のだろうな……?』
「え? ――うん。イリスたちやハールートも居るから、聖都だと大事になりそうだから……多分、こっちでやる事になるんじゃないかな? ――フィアナのドレス姿、儀式の時だけで終わりにしちゃうの、勿体ないし」
「ふえっ!? ……う、うん。わたしもドレス着て、みんなにちゃんと挨拶したい……」
 顔を紅くして言うフィアナ。……また、少し幼い感じに可愛くなってるし。
『う、うわぁ……フィアナがデレるとこうなるんだぁ……可愛い……』
『……た、確かに予想外に可愛らしいですが……【デレる】とは?』
『あ、そうか。えっと……専門用語で【主に異性に、ベタ惚れでデレデレになっている状態】の事、かな?』
『なんの専門分野の用語なのか、少し気になりますが――納得しました』
「う、うるさいわねっ! 別にいいでしょうっ!?」
『『 ええ(うん)! とっても可愛いので、こちらには全く問題ありません♪ 』』
「~~~~~~~ッ!!」
 ……フィアナが恐れていた通り、ルイーズとレミリアが揃ってからかい始めた。
 あの状態のフィアナを少しイジメたくなる気持ちは……わかる、かもしれないけど。
「……こほん。――それで、養父さん? その祝いの席が、どうしたの?」
『あ、ああ。その祝いの席の事だが――』
 そこまで言って、覚悟を決めようとする様に間を置き。真面目な顔で口を開き。

『――俺の裸踊りは必要か?』

「「 ……なにトチ狂った事を言ってるの? 」」
 僕だけでなく、ついさっきまでアタフタしていたフィアナも、思わず蔑んだ眼で答えた。……夫婦としての門出を穢されたくないし。
『だ、だよなぁ!? はっはっは、そりゃそうだ! 教皇のならともかく、俺じゃなぁ!』
『っ!? なんでそこで私が出てくるんですか!?』
「――いや、レミリアも別の意味でマズイでしょうに。ある意味で養父さん以上に」
「……そうね。おじさまがやれば本人が捕まるだけだけれど――レミリアがやったら主催者も捕まるわね。……立場を抜きで考えても」
 というか――公の場で裸踊りなど、誰であろうと通報沙汰になるのは当然で。
「そもそも、何で裸踊りなんて言い出したのさ?」
『……いや。「プロポーズなんて事になっていたら、祝いの席で裸踊り披露してやる」なんて事を言ってしまってな……』
 ――なんでそんな会話になっていたかは理解出来ないけれど……さっきのレミリアと養父さんの反応の理由は、わかった。
『んー? つまり罰ゲームみたいな感じで、場を盛り上げる事をする、っていう事? ならば丁度良いのを知ってるよ?』
『『 ――ッ!? 』』
 ルイーズの言葉に、向こうの二人が『余計な事を!?』といった顔をしたけれど。
『まず、細い棒状のお菓子を用意します。固い方が良いので、焼き菓子がベスト』
『お菓子を使うのですか? それなら公序良俗の面では問題なさそうですね』
 なぜかレミリアが、安堵した様子で言う。
 ……養父さんの自爆なんだから、レミリアは罰ゲームやる必要無いと思うんだけど――でも聖殿騎士団長がトチ狂った事をすれば、国家的な不祥事か……。
『――で、その焼き菓子の両端を、男女が咥えます』
『……なんだか、不穏な気配がしてきたんだが?』 
『男女って――まさか私もやる事が前提になっています……?』
 ……ルイーズは、全て理解していて巻き込もうとしている気がする。

『――で、手を使わずに両端から食べて行って、先に顔を逸らした方が負け♪』

 問題は――その『全て』が、どこまで含まれているか、という事。
『ちょっと待てぇい!』『待ってくださいっ……!!』
『うん? どうしたの?』
 必死で止める養父さんとレミリアに、ルイーズはわざとらしく首を傾げ。
『わ、私がやる事を前提にしてません!? 問題があるとは思わないんですか!?』
 抗議の声を上げるレミリア。しかしルイーズは平然とした様子で。

『――問題? どこに?』

『何処にって――……ッ!? まさか気付いて――いえ、何処で気付きました!?』
 ――あ、あれ? なんだかおかしな事に……?
『あ、大丈夫。失言をしたわけじゃないよ♪ 最初に画面に映った時に何となく「もしかして?」って。それで確信は――空白期の記録、教皇家の人しか知らないんだよね?』
『え? …………あっ! ――連携ミス、というわけですか……っ』
 珍しく――レミリアが真っ赤になって蹲る。そして養父さんは、いつの間にか画面から消えていた。……あの養父さんが逃げた?
『――す、すみません。とりあえず今日はここまでにしておきます。例の会談等は話が進み次第、連絡いたします、では……!』
 その言葉と共に、映光玉の光が消え――通信は終わった。

 ――あのレミリアを、一方的にやり込めた……?
 ニコニコと楽しそうに笑っているルイーズを見て――最初の、土下座したときの殊勝な態度は何処にいったのだろう、等と思いつつも、軽く戦慄を覚えた。
「だけど……フィアナ。どういう事だったんだろう――……フィアナ?」
 意見を聞こうとフィアナの方を見ると、驚愕の表情で、思考に没頭していた。
「――まさか、そういう事なの……? 確かにそう考えると、色々腑に落ちるけど……」
「……ルイーズ。どういう事なのか、話せる?」
『んー……無断で話すのはマナー違反だと思うから、やめておく。……だけど、少し気になる事があるんだけど――』
 苦笑しながら僕に答えたルイーズは、少しだけ真面目な表情になり。

『――罰ゲーム、どうなったんだろう?』

「「 今、それどころじゃないよね!? 」」
 揃って声を上げる、僕とフィアナ。……なんだか、とても疲れた。
 面倒な事になりそうだと察知したから、最初から話に加わっていなかったハールート。
 そんな彼を……とても賢明な竜だと、改めて思った。



   ◆◆◆次回更新は8月8日(火)予定です◆◆◆

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