第四編 幕間の1 混ぜるな危険

作者:緋月 薙

幕間の1   混ぜるな危険
(※今回は 二章の1 少年の戦いとオトメの話 と合わせて2話分の更新になります)



(SIDE:アナザーズ)


 こんにちは、変態集団たる親衛隊所属のエドです。
 ……最近『親衛』っていう言葉の意味に疑問を持ち始めました。
 その事を他の団員に言ったら『……今更?』って言われたが。――そりゃそうだ。

 あの、幼女趣味者を世界もろとも滅ぼそうとした、最悪の存在。
 我等ロリコンの天敵ともいえる『酒の魔王』とでも呼ぶべき存在が降臨した、翌日。

 本日これから親衛隊詰め所にて、ちょっとした講演会が開かれる。
 よってこの場には多くの親衛隊員と、当然の事ながら団長のリリー嬢。そして――
「――はい、そんなわけで。本日の『古代風書物(健全・不健全込み)制作講座』その講師をしていただく、自称『精霊っぽい何か』のルイーズさんです」
『ど、ど~も~! 元・人間のルイーズです!!』

「「「「「 ――いろいろ待って? 」」」」」

 リリー嬢の紹介と、ややヤケっぽい感じのルイーズ嬢の自己紹介。
 それを聞いた親衛隊員が一斉に、どこまでも我が道を爆走しそうな女性二名へ『待った』をかけた。
「あら、どうなさいました?」
「い、いやその……そのお方はどなたですか――っていうか何者ですか!?」
 すっ呆けた様子で訊き返すリリー嬢に、副長のレオナルドが動揺も露わに問い詰める。

 それもそのはず。俺とリリー嬢以外のここに居る面々は、ルイーズ嬢とは初対面。
 そして――突如として出現したルイーズ嬢は、半透明で……一目ではゴーストの類としか思えない姿なのだから。

「はい♪ この方はイグニーズ遺跡の……例の『門』の奥でカリアス様たちが遭遇した方で――思わぬ事故により『精霊っぽい何か』になった、当時の生き証人ですね♪」
 期待どおりの反応を貰って満足したらしいリリー嬢が、楽しそうに説明した。
「…………遺跡から出た後に『あの奥に精霊が封じられていた』という話は聞きましたが……この方ですか。――いつの間に知り合っていたんですか?」
「実は昨日の宴の前に、エドさんとハールートさんの所に『例の新作』を納品に行ったのですが……その時に出会いまして。そのまま意気投合を♪」
『い、いやー……ハールートがアリアのグッズで買収されてるとか、予想外にも程があったけど――まぁ悪い人たちじゃなさそうだし、ハールートをイジる材料も増えたし……リリーさんとも趣味が合いそうだし。楽しくなりそうかなーって♪』
 ……黙っていれば、それこそ『精霊』の様な雰囲気の美しい女性なのなのだが。
 その愛嬌のある笑顔により、親しみやすさと同時に、残念さも獲得している様子。
「……エド。ルイーズ殿が今『ハールートをイジる』とか言ってなかったか……?」
「聞き間違いではないぞ? どうやらハールート殿が生まれた時からの付き合いらしくてな……。精神的には、ハールート殿の天敵といえるのではないか?」
 我々幼女趣味者を黙認、法に反さない限りの庇護の代わりに、ハールート殿にはアリアちゃんグッズの新作を奉納させてもらっている。
 その事実を知ったルイーズ嬢が……言葉のみで古竜に泣きを入れさせる様を、俺は間近で目撃している。
「うっわぁ……古竜を泣かすとか、どんだけレベル高い加虐趣味だよ……?」
 俺が目撃した事を話すと、畏怖と共にドン引きする面々。
 ……失敗したか――と思ったが、リリー嬢はニコニコ笑みを崩さず。
「ルイーズさんは、ハールートさんとアリアちゃんとは旧知の間柄であると共に――先日遺跡内で見つけた書物の作者でもあります♪」

「「「「「 っしゃあああッ!! よろしくお願いします、先生ッ!! 」」」」」

『な、なんでそんな反応にッ!?』
 我々親衛隊にはハードな変態が多く所属しているとはいえ、上位者に統率されて形成される『組織』。よって上位者への礼儀と集団行動は、きっちりこの身に沁み込んでいる。
 我々が揃って上位者への礼をすると、思わずドン引きした様子のルイーズ嬢。
 それに応えるのは、レオナルド。
「はっ! 我々は、ルイーズ先生が書いた書物の表現方法に大変な感銘を受けました!! ゆえにその先生から直々にご教授いただける事、光栄の極みと思う次第であります!!」
『え、えーっと……? 女性隊員の人たちはともかく……ここに居る大半は男性隊員だけど――私が描いたの、半分以上がBLだよ? いいの?』
 少々戸惑った様子で言うルイーズ嬢。
 確かに――健全な男にとっては、やや抵抗がある内容の本が多かった。
 だが、そんな事は関係無く。我々はまたも声を揃え――

「「「「「 内容よりも、その表現方法と描写力に惚れ込みました! 」」」」」
「「「「「 あれはあれで素晴らしいです! 」」」」」
「「「「 むしろ大好物です!! 」」」」
「「「「「 あの本を読んで目覚めました……!! 」」」」」

 ……声は揃わず、意見が割れた。――ちなみに俺は、最初のやつ。
 二番目は守備範囲が広いだけと解釈できるが、三番目と四番目に所属する野郎は……当初の我々の目的からすると、少しアカン気がする。
 しかしルイーズ嬢は、まさにその『アカン野郎共』を見て眼を光らせ、ニヤリと笑い。
『……見所があるどころか、いろいろ素質がある人も何人か居るね。――いいでしょう。気合を入れて布教――じゃなかった、鍛えてあげよう』
 ……少々ヤバイ相手に頼んでしまった様な気もし始めたが――もう後戻りは出来ない。
 それよりも、少し気になっていた事を訊く事にした。
「ところでルイーズ殿。あの書物の表現方法は、古代では一般的だったのだろうか?」
『うん? 「あの表現方法」ってマンガの事? んー……一般的ではないね。聞いた話だと【異界からの旅人】が伝えた手法って話だから』
 ……なんだか物々しい名称が出てきた。そしてこの話はリリー嬢も初耳だったらしく。
「『異界からの旅人』……ですか? それは――まさかあの『刀の魔王』の様な?」
『【刀の魔王】? ごめん、むしろそっちを知らない』
「……さすがのアレも、古代には生きていませんか。そうですね――説明するより、実際に呼んでみましょうか。幸い、供物になりそうな物もありますし」
 ……世界を渡り歩く規格外の存在を『アレ』呼ばわり。まぁ、人間と認めたくないのは分かるし、古代から生きていてもおかしくないという気は俺もするが。
 そして――呼ぶ際の『供物』というのは、間違いなくルイーズ嬢が描いた……その、男同士が『くんずほぐれつ』な本(マンガ?)だろう。ならば――
「――団長。そういう事ならば、簡単に呼び出せます。呼びましょうか?」
「……はい? え、ええ。可能なのでしたら、お願いします」
 リリー嬢の許可を得て、俺が『刀の魔王』の召喚を行う事になった。
 以前リリー嬢が我々の前で初めて召喚を行った際は、長い詠唱を必要としていた。
 しかし数度の邂逅(かいこう)を経て、どうやら目を付けられてしまったらしい今ならば、そんな長い手順は必要無い。
「――ルイーズ殿。この本を二冊ほど供物にするが、よろしいか?」
『はい? ――う、うん。いいけど……?』
 何が起こるか分かっていないルイーズ嬢から、一応の許可を得。
 俺は召喚するに十分な空間を確保し、その中央に供物たつ本を配置。
 少し離れてから、『パン、パン』と、手を二度ほど打ち合わせてから――

「 ホ モ
ホ モ し い 物
、 見 ぃ つ け
た !! 」

 リリー嬢とルイーズ嬢を含む数人が盛大にコケるのが見えたが、気にせず目の前の空間を注視していると――突如、空間に黒い穴が発生した。
「本当に、これだけで呼べてしまうのですね……」
「……我々、がっつり目を付けられているみたいですから」
 それこそ『その手の話題』を出せば、呼んでもいないのに三回に一回は勝手に来てしまうくらいには。
 そんな戦慄と諦めの混ざった会話をしている内に。
 その空間の穴から『ブロロロロ……』という奇怪な獣の鳴き声が聞こえ始め。
 そして、姿無き馬が引く馬車――魔王の愛車『真なる撃墜王(ハイエース)』が姿を現し。
 そして停車した『真なる撃墜王』より、『両刀魔王ロドリゲス』が姿を現した。

「――やぁエド君! ホモホモしい物は何処だい…………おや?」

 ――最悪の『両刀魔王』に、個人的に名前を覚えられとりました。
 ……とりあえず、その危険極まりない現実からは目を逸らし。
 魔王が怪訝そうに視線を送る先には――『真なる撃墜王』を間近で観察するルイーズ嬢の姿が。
「……なんだか珍しい人種が居るね? キミは誰だい?」
『あ。どうも……えっと、魔王サマ? 私はルイーズっていって――精霊っぽい何かだと思っておいて。それで、訊きたい事があるんだけど、いいかな?』
 ルイーズ嬢は俺とリリー嬢が遭遇した際、初対面の相手にやや警戒していた様子だったが……何故かこの魔王にはソレが無い。
 もしかして――好奇心が恐怖や警戒心を上回るタイプか……?
「ふむ、なんだい?」

『これって【自動車】だよね? ならば――【盆と暮れの祭典】【お台場】【BLなら二日目】。これらの言葉に心当たりは……?』

「……ある。地元ではまさに明日から『祭典』だねぇ。――キミは本当に何者だい?」
 魔王の眼に、一瞬とはいえ警戒の色が宿った。――何が起こっている……?
 しかし、そんな緊迫しかかった空気を、当のルイーズ嬢が吹き飛ばす。
『あ、警戒しなくて大丈夫。――私たちの時代に来てマンガを伝えた【異界からの旅人さん】が言ってた事らしいんだよ。【自動車】は、その人が乗ってきたヤツのレプリカが研究されてた。その【旅人さん】の名前は――【クラハシ】だったかな?』
「――たぶん、同郷の人だねぇ。一応、同じ家名の人は知ってるよ。まさか同じ人ではないと思うけど。……その人はどうしたんだい?」
『東の大陸に渡ったって話。当時はこの大陸、いろいろ余裕が無かった時代だし』
 と。そんな人外二人の会話に、さらに参加したのは――レオナルドとリリー嬢。

「……まて。我々に『フィギュア』の製法を教えた『東の大陸からの商人』も、『クラハシ』と名乗っていたぞ……?」
「……待ちなさいレオナルド。――イリスちゃんたちにウィル君の卵を売ったのも、その商人という疑いがあるのですが……?」

「「「「「 ……………… 」」」」」
 思わぬ妙な事実の発覚に、全員が言葉を無くす。
 ――歴史の裏に、暗躍している変な者が居るのでは……?
 そんな薄ら寒い空気を変えてくれたのは……意外にも魔王だった。
「――ふ、ふむぅん。ちょっと気になるから、こちらでも調べておくよぉ。……それで、僕を呼んだのは何故だい?」
『――あ。私の時代にマンガを伝えた人と関わりがあるか、訊こうと思ったんだけど……もう分かっちゃったんだよ。――あ。折角だから、あの本見ていく?』
「……興味はあるねぇ。ぜひとも見せてもらいたいかなぁ」
 そう言った魔王は、供物としていたルイーズ嬢が書いた『ホモホモしい書物』を手に。

 ――なぜだろうか。この瞬間……寒気と共に、未来への凄絶な不安を覚えた。

「……ふむふむ。中々のクオリティだねぇ。僕たちの世界にこのまま持ってきても、十分通用すると思うよぉ?」
『本当!? いやー、本場の人に言われると嬉しいよ!』
 ……『本場』な世界って、どういう世界なんだろうか?
 いや、おそらく同じ世界から『フィギュア』も伝わっているのだから、ソッチ系ばっかりな世界というわけではないのだろうが。
 ……おそらく、当事者たち以外ほぼ全員が同じ事を考えているらしく、先ほどとは別の感じの薄ら寒さを覚え、遠い眼をしている。しかし魔王には、そんなの関係無く。
「だけどぉ――僕はもっと『がっつり』したのが好みだなぁ」
 ――『がっつり』って、なんの事だろうか?
 いや、分かるけども。考えたくないだけだけれども……!
 我々のそんな想いは――魔王ばかりか、ルイーズ嬢にも通じず。
『――そちらの性癖は分かったよ。それについて私はどうこう言う気は無いし、認められて然るべきものだと思うけど……私の美意識的には合わないかな』

((((( 『然るべき』なのッ!? )))))

 皆の心の声が、ハッキリと聞こえた気がした。
 ……や、普通の同性愛者とかは、確かに認められて然るべきとは思うが……。
 奴の『博愛主義者』という名の『見境の無い肉食者』っぷりは流石に……ッ!
「ふむぅん……ならば、ここら辺はキミの好みに合いそうかなぁ? 僕の知り合いが描いたモノだけど――見るかい?」
『是非とも……!!』
 嬉嬉として受け取り、読み始めるルイーズ嬢。そして――
『――素晴らしい……! 魔王さん! この作者の【シラカワ先生】っていう人に会う事はできない!?』
「……むぅん。忙しい人ではあるけれど……キミの本を見せれば、向こうも会いたいって言うかもねぇ。少し交渉してみるよぉ」
『ありがとう!! じゃあ私は――こっちで、この分野の布教を頑張るよ……!!』
「むふぅん♪ そうしてくれると、僕もいろいろヤりやすくなるから助かるよぉ!」
 そう言い合い、がっしりと握手をする人外二人。
 その握手が終わると、両刀魔王は愛車『真なる撃墜王』に乗り込み。
「じゃあ、また来るねぇ♪」
『うん、またね!』
 笑顔で言って手を振るルイーズ嬢と……『もう来なくていいです』、そんな言葉を必死で飲み込む面々に見送られ、空間の穴の中に消えて行った――
「「「「「 ……………… 」」」」」
 全員が……それこそリリー嬢すらも、会わせてはいけない二人を会わせてしまったのではないか、そんな想いに捕らわれ、言葉が出ない中――ルイーズ嬢が。

『――さて。始めようか?』

「「「「「 なにをッ!? 」」」」」
 空気に呑まれていた皆が、思わず一斉に声を上げた。
『え? マンガの描き方を教えるって話じゃなかったっけ?』
「――あ、ああ。その事ですか。てっきり、いきなり布教活動を始めるのかと……」
 どうやらリリー嬢も、がっつり布教を始められるのではと思ってしまったらしい。
『ああ、なるほど。そういう心配か。――その気持ちも分かるけど……皆の幼女趣味と私のBL嗜好、そう変わらないよ?』
「……はい? それはどういう意味ですか、ルイーズ殿?」
 意外な事をサラリと言われ、思わず問い返すと。ルイーズ嬢はまるで、教え子に諭すように語る。
『――うん。まず訊くけど……皆は小っちゃい子を見て癒されるのが良いんだよね? 虐めて泣かせたいとかは、思っていないよね?』

「「「「「 それはもちろんで―― 」」」」」 「…………」

 ……約一名、全力で目を逸らした。
「――すまないルイーズ殿。ちょっと待っていてほしい」
『はいよー』
「――ち、ちがう! ちょ、ちょっとだけ可愛い子は泣かせてみたいなっていうか泣き顔も可愛いだろうなって――ちょっと、ちょっとだけだからギャアアアアアッ!!」
 言っている事は分からないでもないが――我らは『親衛隊』たる『ロリコン紳士』。
『親衛』や『紳士』の言葉が少々迷子しているが……それでも泣かせるのはアウト。
 制裁を下し、次に魔王さま御一行が来た時のお土産を確保したところで。
「――すまなかったルイーズ殿。人数減った事は気にせず、話を続けてほしい」
『りょうかーい。――ここに居る人たちの多くは……やっぱりほのぼの癒されたいんだよね? それよりむしろ、小っちゃい子に虐められたい、なんて人は居ないよね?』

「「「「「 そうですね、『ほとんど』は!! 」」」」」 「「「「
………… 」」」」

 ……約四名、全力で目を逸らした。
『アリアちゃんに虫ケラを見るような眼で踏みにじられたい』と公言する幼女専門被虐趣味者は、一人だけだったはずなのだが……増えていた事が衝撃。
「――すまないルイーズ殿。ちょっと待っていてほしい」
『あいよー』

 対応を相談した結果――害が無いなら黙認という、今まで通りの方針を再確認した。

「――すまなかったルイーズ殿。話を進めてほしい」
『……これ以上余計な話をすると、また変な性癖暴きそうだから、本題に行くよー。私はね? 見ていて癒される、キレイな世界を描きたいんだよ』
 ……なるほど。まず『小さな子を見て癒される』という所から入る我々と、確かに共通項はあるようだ。
『たとえるならば――草食動物が水辺で仲睦まじく寄り添う様な。小動物たちが無邪気に戯れる様な……そんな世界こそが私の描きたい世界……!!』
 その言葉に、リリー嬢が称賛するような表情で口を開く。
「……なるほど。確かにルイーズさんの絵は繊細なタッチで――色事よりも美しさを重視しているのは見て取れました」
「しかし、それならば何故、あの両刀魔王が望む世界は拒んだのでしょう?」
 リリー嬢に続いて訊いたレオナルドに――ルイーズ嬢はゲンナリとした顔になって。

『奴らが求めているのは、いわば肉食獣の食事シーンじゃない……! 私は別に、弱肉強食の脅威を感じたいわけじゃないんだよ……!!』

「「「「「 あー…… 」」」」」
 その言葉に、奴らが犯罪者を『回収』する時の光景を思いだし……心から納得。
 もちろん、その『大自然の脅威』を見たいという者も居るだろうが……それでも、アレを見て『癒される』という人間は、流石に居ないだろう。
 しかし、肉食獣という事ならば……。
「『癒し』ならば――『肉食獣が小動物を慈しむ光景』なども、癒されるのでは?」
 俺がそう言うと、ルイーズ嬢はニヤリと笑い。

『エド君、今良い事言った! まさにそれだよ……!!』

 俺を『ビシッ!』と指さし、ルイーズ嬢は演説を続ける。
『――皆さん。少し脳内に思い描いてください。木陰で、精悍な面構えの肉食獣が――本来は捕食すべき小動物を慈しみ、共に眠る光景を……』
 そう言われ――妄想力に定評のある我々は、苦もなくその光景を想像する。
 ――うむ、普通に癒される。小動物同士の触れ合いとは、また違った良さが――

『――そこで肉食獣をカリアスに、小動物をエリル君に置き換えてください』

「「「「「 ……………… 」」」」」」
 その一言で、癒しの空間が一気に『耽美の世界』に変貌を遂げた。
 しかし、それなのに男性隊員からは――
「……やべえ。俺、嫌悪感が湧かねぇ……」
「俺も『アリかも……?』とか思っちまったよ……」
 そんな声が口々に上がり始める……!
 ――このやり口は……先に好ましい光景を想像させて置き換えさせる事で、先入観の排除とイメージアップを同時に行うという、高度な手法……!?
 そう気がついたが――しかし一度『アリかも?』と思ってしまった以上、俺も既に術中にハマっている。

『――あなた方も、懐いてくる小動物を少女に置き換えたり、戯れる少女の相手を自分に置き換えたり、そんな妄想はするのでしょう? それと何が違うというのです?』

 なぜか、ルイーズ嬢の口調が変わっている。
 その口調は、元の『黙っていれば神秘的』な容姿も相まって、福音を説く聖女――

 ――はっ!? これは既に、立派な布教活動ではないか!?

 それに気付き、戦慄と共に周囲の隊員たちを見ると。
 多くが戸惑いつつも、嫌悪感を抱いている者は居ない様に思える。
 ……見事なまでに、術中にハマっていた。
『――あなた方の宗派を変えろ、等と言う気はありません。ただ……視野を広く持ち、先入観を捨てて受け入れてほしい。――私が求めるのは、それだけです……』
 聖女の如き慈悲深い眼差しで語る、ルイーズ嬢。
 その空気に呑まれ――皆はただ、黙って聞いていた。

 ――きれいな話に聞こえるだろ? これ、BLの布教活動なんだぜ?

 そんな言葉が浮かぶが……もはや取り返しがつかない状況になっている。
 すでに『宗派』とか言っている時点で、布教活動な事を隠していないが……誰も疑問を抱いていないのだから。
「……幼女より少年を優先させるのは無理だが……受け入れるだけならアリ、か……?」
「――可愛い少年なら、アリな気がしてきました……」
「カリアス殿とエリル少年か…………じゅるり」
 隊員たちがそんな事を話し合う中――ふと、ルイーズ嬢の顔を見ると。

 ――『計算通り』と言わんばかりの、エグい笑みを浮かべていた。

 この女、いつから狙っていた……っ!?
「……見事な手腕ですね、ルイーズさん」
『ありがと、リリーさん♪』
 さすがのリリー嬢も頬を引きつらせながら言うと、満面の笑みで返すルイーズ嬢。
「ちなみに、ですが……カリアス様がエリル君に剣を指導する――そんな状況、あなた敵にはどう思いますか?」
『え? もちろん――腐った脳ミソ的に大好物だけど?』
「…………そうですか」
 そんな会話をし――頭が痛そうな顔をするリリー嬢。
 ……この団長、傍若無人で好き勝手やっている印象も強いが――実は相当な苦労人なのではないかと、最近思い始めた。

 とにかく――今日は強烈な意識改革を引き起こされた者が多く、収拾がつきそうもないため、本日の活動はここまでとなった。


幼女たちを守る親衛隊『幼き神々の守護者(ガーディアン
オブ リトルゴッズ
)
』、本日の活動結果。

 ・相談役にルイーズ嬢が就任。
 ・隊員たちの守備範囲(性癖的な意味で)が広がった。
 ・守護対象にエリル少年も追加。今後も順次追加予定。


 ――果たして、俺たちは何処に向かっているのだろう……?
 今日一日を振り返り、そんな疑問と不安を抱いたが――今更な気がする上、精神衛生上よろしくなさそうなので保留。
 ――しかし。あのルイーズ嬢の相談役就任は、本当に大丈夫なのだろうか……?
 有能なのは分かるが、嬉々としてホモホモしい書物を布教する様は……あれ?

 そういえば……ルイーズ嬢は実体の無い『精霊っぽい何か』なのに、なぜか普通に書物を『持って』いなかっただろうか……?

 ――まぁ、色々な意味でオカシイ存在だし、気にするだけ無駄か。



   ◆◆◆次回更新は8月15日(火)予定です◆◆◆

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