第四編 二章の2

作者:緋月 薙

二章の2   少年の戦いとオトメの話(2)
(※今回は 幕間の2 変態VS変態 と合わせて2話分の更新になります)



SIDE:イリス


「――おかあさん。からだ大丈夫?」
「ええ、大丈夫。――元々病気とかじゃなくて……いろいろ、あったせいだし」
 そう言ったおかあさんの()っぺたは、なぜだかちょっと、あかくなっています?
「みぎゃ?」「みゅぅ……?」
『ほんとうに?』『ほんとうに大丈夫……?』って訊くウィルとリースを、おかあさんはちょっと困ったみたいに笑いながら、『大丈夫だよ』って撫でてあげています。

 きょうはお買い物です♪
 ほんとうはアリアちゃんやエリルくんの後、わたしとリーゼちゃん、あとウィルとリースもいっしょに術の練習をするはずだったのですが。
 おかあさんが少し具合悪いみたいだったので、きょうはお休みになりました。
 それで、おかあさんを診たリリーさんが――
『少し休んだら、お買い物に行きませんか? ……舞い上がるのは分かりますが、一旦距離を置いて気分転換した方がよろしいのでは?』
 そう言ったので――女の子みんなで、お買い物に行くことになりました♪
 ……だけど、リリーさんに言われたおかあさんは、まっかになって『どこまで察してるの!?』なんて言ってましたが……?
「エリルくん、大丈夫かな……。何のお話してるんだろう……?」
 ――あ。ここにも、ちょっと心配している子がいましたっ。
「……ん、だいじょうぶ。おにいちゃんつよいし――おとうさんが、きずつけることはないとおもうし。だいじょうぶ、だよ?」
 あんまり心配してないみたいなアリアちゃんが、リーゼちゃんに。だけど――
「「 あー…… 」」
 なぜか、おかあさんとリリーさんが『それはどうだろう……?』ってお顔です!?
「フィアナさん、リリーさん!? エリルくんは大丈夫じゃないんですか!?」
「あ、ううん! 『大丈夫』っていうのは保証するわよ? カリアスも、エリル君の事は大切にしてるし。だけど『傷付けることは無い』っていうのは……」
「……そう、ですね。カリアス様は、必要があれば荒療治を厭わない方のようですし。――それに今回のは、それが必要な場面かもしれませんから……」
 二人とも心配はしていないみたいですが、『大変そうだな……』ってお顔です。
「その……結局、エリルくんは何が悪かったんですか?」
「――いえ、何も悪くはないんです。むしろ成長という面では良い事かもしれません。ただ……強いていえば、遺跡で負ったという負傷が原因、ですね」
「みゅっ!?」
「えっ!? あのときのケガは全部治したよ!」
「みぎゃっ!!」
 遺跡でエリルくんは、リースをかばって大ケガをしました。
 とても危険な場面でしたし、ケガも重かったのですが、ちゃんと治ったはずです。
 治癒を手伝ってくれたウィルも『ちゃんとやったよ!』って言ってます。
「――ええ。それは間違いありませんから、大丈夫です。……リースちゃんも、責任を感じる必要はありませんよ?」
「みゅう……」
 ちょっと落ちこんでるリースを、リリーさんが撫でてなぐさめます。
「……という事は――問題は『心の傷』、かしら?」
「――はい。今日の模擬戦、エリル君の防御技術の上達はかなりのものでしたが……反撃の機会があっても踏み込めずにいました。――アリアちゃん、心当たりは?」
「…………ん。ある」
「おそらく――『一歩間違えれば』という状況を後から理解して、それが頭に残ってしまっているのでしょうね」
 それは……どうしたらいいのでしょうか? ――あ。でも心の……『精神』の事なら、もしかしたらリーゼちゃんの『闇聖術』ならもしかして?
「わ、私の能力と『闇聖術』なら、心の傷も治せるかも――」
「止めてください」
 わたしと同じことを考えてたリーゼちゃん。
 だけど、それをリリーさんがまじめな顔でとめました。
「……心の傷は、自身で治すか乗り越えるかしない限り――同じ事が起きれば同じ苦しみを味わいます。特にエリル君が聖殿騎士を目指すのならば、程度の差こそあれ、幾度として直面する事になるはずです。――その度に立ち止まれ、と?」
「それは……」
 言葉が出なくなったリーゼちゃん。そこに、おかあさんが微笑みかけました。
「大丈夫よ、リーゼ。そんな状態の子を、カリアスが放っておくわけがないし――そっちも大丈夫、なのよね?」
「――ええ。エリル君なら心配無いと、断言します。なにせそんな状態でも、迷わず逃げずに戦っていましたから。……ですよね、アリアちゃん?」
「――ん。キケンがいちばんすくないこうどう、とってただけ。……あれはあれで、すごくたたかいにくい」
 アリアちゃんの眼は――次はどう戦おうって考えてるみたいで。
「と、好敵手がこの様に認めている通り、大丈夫だと思います。問題は……当人が自分を認めていない事、だと思うのですが――そこら辺はカリアス様に丸投げしました♪」
「あー……うん、それが最善だと思うわよ? あいつなら多分、これを利用して成長させようとするだろうし。カリアスも、心配してなかったのよね?」
「――ん。おとうさん『心配無い』って。『強くなるための試練』だって」
 リリーさんも、おかあさんも、アリアちゃんも。
 心配していない、というより、おとうさんとエリルくんを信じてるみたいです。
「きっとエリル君は、もう一段強くなります。だから……リーゼちゃん? あなたはエリル君を信じて待って、『お疲れさま』って言ってあげてください」
「……はいっ!」
 眼を見て話すリリーさんに、リーゼちゃんは真っ直ぐにお返事しました。
「また強くなるって、エリルくんスゴイね、リーゼちゃん♪」
「――うん、そうだね」
 それにしても、『もう一段』って、どれくらい強くなるんでしょうか?
 あ、そうだ! たしか、こういうときの事を――

「――エリルくん、大人の階段を上るんだね♪」

「「「「 ――っ!? 」」」」
 ……あれ? みんなが、とってもヘンな顔でわたしをみてます……?
「……い、イリスちゃん? その言葉――どこで知ったのですか……?」
 リリーさんが、頬っぺたをひくひくさせながら訊いてきました。
「今朝、教会のマリカさんたちから、だよ? お話ししてたから『どういう意味ですか?』って訊いたの!」
「……あの子たちは何を考えて――…………待ってイリス。マリカたち、何をしている時に『大人の階段』云々って話してた……?」
 え? 教会のお庭でお話ししていたマリカさんたち。あの時は――

「シーツをいっぱい干してたから、まとめて洗濯したところだったと思うよ?」

「「「 ――あー…… 」」」
「――い、いやああああああああああッ!?」
 ……あれ? リリーさん、アリアちゃん、リーゼちゃんが、おかあさんをみて。
 そのおかあさんは、頭を抱えてうずくまってしまいました?
「えっと……リーゼちゃん? おかあさん、どうしたの?」
「その……こっそり階段を上った事が、思いっきりバレていたから、かな……」
 あんまりわかりませんが……とってもカワイソウ、というのはわかりました。


「そ、それで、今日は服を見に行くって言ってたけど、どういうトコなの?」
 なんとか立ち直ったおかあさんが、リリーさんに訊きました。
「ええ。自警団の女性団員から教えてもらったお店なのですが……店長のキャラは濃いけれど、商品は素晴らしいお店、と」
「大丈夫なの、そのお店……?」
 ……『キャラが濃い』服屋さんの店長って、どういう事でしょうか……?
「とりあえず商品が素晴らしいというのは事実らしいですし、『女性には無害』とは聞いていますので……大丈夫、とは思いますが」
「……『女性には無害』っていう時点で、ある程度パターンは絞られるわね」
 リリーさんとフィアナさんが話している間、アリアちゃんとリーゼさんは……どこか、遠いところをみています?
「えっと……アリアちゃん? パターンって何のこと……?」
「ん。おとこのヒトをつれていって、つめたくされるだけか……ちょっとアブないか?」
「でも……『濃い』って言うことは、後者の危険なパターンっぽいよね……」
 ……ときどき、みんなのお話がわからなくなります。
「少しきな臭い気がするんだけど……今から変更は無理?」
「もう話を通してもらっていますし、何より――」
 困ったふうに言ったリリーさんが、建物の前で足を止めて。
 すると中から女の人が出てきて――ここは、服屋さんみたいです?

「――もう、到着してしまいました」
「いらっしゃいませお客様。ブティック『どっちでもウェルカム♪』にようこそ。私、ミラがご案内させていただきます。――させていただきます」

 中から出てきた女の人が、表情をぜんぜん変えずに言いました。
 ……『させていただきます』を繰り返したのはなぜでしょう?
「――(しょ)(ぱな)からツッコミ所じゃない……」
「お気持ちはわかります。ですがこの店名は、『男女どちらでも気軽に立ち寄れるお店に』という妄想が多分に含まれた願望が由来となっております」
 ……おかあさんがとっても困った感じで言ったことに、お店の人――ミラさん? が、応えました。……このおねえさん、アリアちゃん以上に表情が変わりません。
「――ん。なんかちょっと、おもってた『パターン』とちがった……」
「うん……フィアナさんが疲れそうなお店だよね……」
 おかあさんがタイヘンそう、っていうのは、なんとなくわかります……。
 すでに頭痛そうなおかあさんは、とってもあきらめた感じで。
「……とにかく、お店に入りましょう? ――逃がしてはくれなさそうだし」
 入る前からちょっぴりキケンなニオイがしますが……入ることにしました。


「「「 わぁ……っ! 」」」
 ――わたしはアリアちゃん、リーゼちゃんと、思わず声を出してしまいました。
 明るいお店の中には、とってもキレイな服がいっぱいです……っ!
「これは……評判は嘘ではありませんでしたね」
「本当ね……『店長のキャラが濃い』っていうのも含めて。――これは全部、この店で作られたものなの?」
「はい。一部、素材を裁断するだけの物や、私が作った物もありますが……大半が店長の作品となっております」
 ミラさんが、やっぱり全く表情を変えずに言いました。
 このお店の服のほとんどを一人でなんて、とってもスゴイで……あれ?
『店長』?
「――え? 『店長』って……ミラさんが店長さんじゃないんですか……?」
 なぜか『げっ』って顔をして黙ってしまったおかあさんとリリーさんに代わって、リーゼちゃんが訊きました。
「はい。では、そろそろお呼びします。――おいでませ『店長』」
 ミラさんが、奥に向かって声をかけました。
「……この掴み所の無さ、少しアリアちゃんと似ているかもしれませんね」
「アリアちゃんを、ちょっと愉快な感じに捻くれさせたら、ああなるかも……?」
「…………なんだか、ちょっとイヤ……」
 リリーさん、リーゼちゃん、アリアちゃんがお話ししていると、お店の奥から……。

「はぁ~~~いン♪」
 ……えっと?
 たぶん男の人の声? だと思うのですが、それが聞こえたあと、なんだか『ズン ズン』って音が聞こえてきて。
「はぁ~い♪ 私がぁ、この『どっちでもウェルカム♪』の店長のぉ、スネイクって言うの♪ 気軽に『スーちゃん』って呼んでねん♪」

「みっ!?」「みゅぅっ!?」
 ……一目みて、ウィルとリースが逃げ出しました。
 その『スネイクさん』は……ヒラヒラがいっぱいついた、とってもカワイイ服を着た、とっても大きい人……なの、ですが……。
「え、えっと――ス、スネイクさん……?」
「あら? も~、遠慮しないで『スーちゃん』でいいわよん?」
 ……なぜだかちょっとイヤなので『スネイクさん』で通したいです。
「え、えっと……スネイクさんは、オト――」
「――おねえちゃん、それいじょうはいけない」
『男の人ですよね?』って訊こうとしたら、アリアちゃんに口をふさがれました!?

 えっと……スネイクさんは、とっても大きい人で……たぶんおとうさんより、おじいちゃんより――みたことある誰よりも筋肉がモリモリです……!
 そのせいで着ているヒラヒラのカワイイ服も『……鎧ですか?』って感じです!
 そのせいでウィルとリースは驚いて、わたしたちの後ろに隠れてしまって。
 お顔も……口紅とかのお化粧をとったら、たぶん自警団の副長さんより――

「あらぁ~ん? 歌姫ちゃんはぁ、何を言おうとしたのかしらん?」
「え、えっと……イリスちゃんは『オトメですよね?』って言おうとしたのかと!」
「あらヤダ! もちろん、見ての通りオトメよぉん♪」
「「「「「 ……………… 」」」」」
 ――ミラさんも含めたみんなが、なんだかとっても遠くをみました。
「リーゼおねえちゃん。こっちの『パターン』も、ちゃんといた……」
「――うん、居たね……。予想より、もっとキツかったけど……」
 アリアちゃんとリーゼちゃんは、そんなお話をして。
 おかあさんとリリーさんは――
「……『女性には無害』って、精神的には十分有害じゃない……!」
「そうですね……今度、抗議しておきます。――ちなみにミラさん? あなたが呼ぶまで、あの方が出てこなかった理由は……?」
「はい。――かつては店長が前面に出ていたのですが、それだとお客様が入るどころか、見なかった事にされることが多かっ――」
「……ミラちゃん?」
「――もとい、適材適所。私が広報役となりお客様を誘引。店長には極力、商品の作製に努めていただき、入ったお客様を仕留――心を射止める。これが最善かと」
 ……『仕留める』でも正しい気がするのはなぜでしょう?
 なんだかみんな黙ってしまったので、話を変えようとおもいます……っ!
「え、えっと……あ! ちょっと男の人の服もあるんですね、ミラさんっ」
「はい。店長は『どっちもイケるクチ』――もとい、男女どちらの服も作れるのですが、当然……こほん、なぜか男性客が少ないので、少な目にしてあります」
 変わらず、無表情でお話しするミラさん。それにつづいて店長さんが話します。
「もぅ、失礼しちゃうわよね? ゲイでもバイでも、選ぶ権利はあるのよ? 見境無く襲いかかるワケないじゃない! ねぇ?」
「「「「「 ………… 」」」」」
 ――ミラさんも含めたみんなが、何も言わずに顔をそらしました。
「リーゼおねえちゃん。いま……さらっと、みとめたよね……?」
「――うん。『どっちなんですか?』は、訊かない方が、いいよね……?」
「ミラさん。何があったのかしら……?」
 おかあさんに訊かれたミラさんは、無表情のまま――だけど、視線だけはずっと遠くをみているみたいになって。

「店長が採寸したところ――通報されました」

「「「「「 ――あー…… 」」」」」
 服屋さんとして致命的ですっ……!
 なにも悪いコトしてないのに通報されるのは、さすがにカワイソウ――
「そういえば……かつて男性が詰め所に飛び込んできて――『測られた! マイ・ジュニアのサイズまで測られたぁぁあっ!!』と、泣き叫んだ事があったと聞いた事が……」
「ああ、はい。その一件です」
「同情の余地は無いじゃないッ!?」
「ねぇリーゼちゃん? 『マイ・ジュニア』って何?」
「あ、あははは……な、なんだろうね、アリアちゃん……?」
「……ん、なんだろう……ね?」
 わたしが訊いたら、二人とも、ちょっぴり頬っぺたをあかくしています?
「ちなみに店長は、直接襲う等といった手段は用いません。以前の街ではターゲットをひたすら尾行。隠密・潜伏・潜入能力が鬼の様に上昇し、最終的には『至近距離に潜伏する』といった悪夢のような技術を身につけ相手の精神を――」
「……ミラちゃん?」
「――店長の気配消しの能力は一流です。それにより、お客様のお買い物の邪魔を一切せずに十分なサービスを行う事が可能になっております」
「前科アリアリじゃないッ!!」
 あんまり内容を理解したくないお話でしたっ……!
「――リリーさん。自警団の方で、なんとかする事は出来ないんですか……?」
「そうしたいのは山々ですが……以前の街での話では、マークしておくくらいしか――」
 リリーさんとリーゼちゃんが、深刻な顔でお話ししています。
「みぎゃ……!」「みゅう……っ!」
 ウィルとリースはずっと怖がってて、必ず誰かの背中にかくれています……。
「んもぅっ! それは過去のお話よ? もう反省して、更生したわん♪」
 そう言ってウインクする店長さん。……それが本当ならいいのですが。
「――ちなみに店長。現在の想い人は?」
「今? そうねぇ……この前見かけた、武器屋の方から走ってきて教会に入って行った男の子、とっても可愛かったわねぇ…………じゅるり」
 ……反省、してるのでしょうか?
 それに、武器屋から教会に入っていった男の子って、まさか――
「――リリーさん……? 自警団の方で、なんとかする事は出来ますよね……?」
「は、はい必ずマークを付けます! 何かあった際には自警団の総力を以て……!」
 リーゼちゃんまで、ちょっと怖い感じになってしまいました!?
 ……とにかくエリルくんには『逃げて!』って言いたいです。
「そ、それでミラさん? 話が行っていると思うのですが……例のサンプルなどは、大丈夫なのでしょうね……?」
 やっと気を取り直したリリーさんが、やっと目的のお話をしました。
 ――お店に入ってからここまで、なんでこんなに疲れてるんでしょうか……?
「はい、伺っております。――ご安心ください。店長の様な人種は外見こそアレですが、ある面においては本物の女性よりよっぽど夢見がち――」
「……ミラちゃん?」
「――店長の素晴らしい技術を以て作られております。サンプルとはいえ、サイズさえ合えば自信を持ってお売りできる品々です」
 ……お店の人はともかく。
 お店の服はとってもキレイなので、そっちは期待しても大丈夫みたいです。
「――え? 『例のサンプル』って……何の事?」
 おかあさんが『 ? 』ってお顔をしています♪

 実は……このお店に何をみにきたのか、おかあさんだけは知りません。
 それは、とっても『大事な服』で。
 だから――ちょっと問題があるお店でも、いちばん良い服にしよう、って。

「では皆様、こちらへどうぞ」
 そう言ってミラさんに案内されたお部屋は、お庭がみえるとっても明るいお部屋で。
 そこには、人とおなじくらいのお人形さんがいくつもあって――
「「「 わぁあ……! 」」」
 そのお人形さんたちが着ている服に、わたしとリーゼちゃんとアリアちゃんは、思わずうっとりして声が出てしまいました……!
「わぁ……え? ――もしかして、このドレスって……」
 おかあさんも、その服――真っ白なドレスにみとれて。
 だけど……すぐに気づいたみたいです♪

「――はい。ご婚礼用のドレスです。この店の物が一番美しい、との評判だったもので」

「――っ、あ、ああ……、そういう事、だったの? 皆は知って……?」
 おかあさんは息をのんで……ちょっぴり泣きそうです。
 だけど、こういう涙なら大歓迎、です♪
「うんっ♪ あとね? アクセサリーとかは、遺跡でみつけた魔宝石をつかったら、っていうお話になってるの!」
「……ん。あとで、おとうさんとも、おはなししなくちゃ、だけど」
「教会の人たちも協力してくれるそうですよ? 装飾品の職人さんも、今は選定中ですし――とりあえず今日は、どういう方向のドレスにしようか、っていうお話をと」
 話を聞いたおかあさんは――ついに涙をながして。
 どうしようか、って。なにを言おうかって、すこし迷ったみたいですが。

「――ありがとう、ございます……っ!」

 とっても嬉しそうに泣きながら、そう言ってくれました。
「――そちらの……小さなお客様がた。少々よろしいですか?」
「……みぃ?」「――みゅ……?」
 おかあさんとリリーさんが、いろいろなドレスを見てまわりはじめると。
 ミラさんが、こっそりとウィルとリースに話しかけました。
「……かなり怖がらせてしまった様なので。これはお詫びの品とお思いください」
 そう言って出したのは――スカーフ、でしょうか?
「あなたは……首回りですね。あなたは――尻尾の方が可愛らしいかもしれません」
 そう言いながら、ウィルの首もとと、リースの尻尾にスカーフを巻いてくれました!
「――いかがでしょうか?」
「……み? み? ――みぎゃっ♪」「みゅ? みゅぅ……みゅうっ♪」
 ウィルとリースは、ちょっと『きょとん』ってしながら……自分のスカーフと、鏡にうつる自分をみて。すぐに嬉しそうな声をだしました♪
「――とってもカッコイイね、ウィル♪」
「可愛いね、リース! ――ミラさん、ありがとうございます♪」
「――お喜びいただけた様で、幸いにございます」
 ミラさんの表情は、やっぱり変わっていませんが――ちょっと雰囲気が柔らかくなっている気もします。
 さいしょはちょっと怖かったですが、ミラさんもいい人みたいです!
 ……それで、あと一人。問題のあの人は――

「いや~ん♪ やっぱりウエディングドレスは良いわねぇ~。――やっぱり私も自分用に作ってぇ、街を歩いてみようかしらん!」

「「「「「 やめてください 」」」」」
 ――この人は、とってもキケンな気がしますっ……!


SIDE:カリアス

『『 ――また面倒な事に…… 』』
 精霊のはずのルイーズが、直接的に物理的な影響を与えられる。
 その報告をしたところ、レミリアと養父さんの反応がコレ。
『えっと――ごめんなさい……?』
『……いえ、ルイーズさんが悪いわけではありませんし――一応、どうなっているかの推測は出来るのが、まだ救いですか』
「推測……というと?」
 未知の現象のはずなのに、なぜ推測ができるのだろうか。
 そして――推測が出来るのに、なおも『面倒』な事態とは……?
『簡単な話です。――ルイーズさんが、何の属性の精霊か、という話ですから』
 そういえば……それは疑問に思っていながら、結局わからなかった事。
 精霊は全て、火水風土のいずれかの属性を持つ。というのも誕生時に周囲の属性に染まった魔力を吸収、または属性をもった魔力自体が収束して生まれる、とも言われる。
 ――にも拘わらず、ルイーズの属性はわからなかった。
 これは属性を持たない人間が、その核となっているからだと思われて。
『人間が核になったから、というのもあるのでしょうが……精霊となる際に浴びた魔力が、自然界ではまずありえない【属性を持たない魔力】だったせいでしょうね』
「……ああ、なるほど。属性を持たないせいで、自然現象を伴わない純粋な『力』を操るような精霊になった、という事か……」
 ……純粋な物理現象を操る精霊。それは力の大きさにもよるが――かなり凶悪な存在ではないだろうか?
『……待って。じゃあ私は――何の精霊になるの……?』
 その質問に、僕、レミリア、養父さんが声を揃えて。

『『「 ――精霊(物理) 」』』

『いやああああっ!? なんか脳筋っぽい!?』
 ……気持ちは分からなくもないけれど、事はそれほど単純でもない。
 現にハールートは、かなり深刻な顔で。
『……ふむ。面倒と言うのもよくわかるな。要は……物理的な現象を、非物理的な方法で発生させる。つまり――それは世界の法則を無視している事にも繋がるからのぅ』
『それもあるのですが……人間から精霊への【変異】。【物理現象への干渉】。【世界法則の無視】。これらの能力を持つ存在に――ルイーズさん、心当たりは?』
 そんな反則的な力を持つ存在……?
 それこそ神とか、異世界の存在しか…………まさか?
『――【名も無き魔王】……?』
 思い至ったルイーズが、驚愕に顔を歪めて。
『――はい。……伝承に聞く彼の存在と、能力の傾向が酷似しています。その遺跡、稼働時は大地の力を集め、様々な用途に利用していたのですよね? そこには――当然無害化していたでしょうが、彼の存在の【残滓(ざんし)】も含まれているわけで……』
 ……なるほど。エネルギーとして活用する分には無害でも、それを体の成分としてしまった場合、どんな影響が出るか、という事か。
『もちろん、ルイーズさんが危険な存在だというわけではありません。――というか、その身体になって三千年が経っているのなら、安全は証明されていると言えます。ですが……知れば疑う者が確実に出てくる。それが面倒です……』
 かつて、旧文明を崩壊に追い込んだ『名も無き魔王』。
 それと同系統の力を持つ存在――たしかにルイーズの人柄を知らない人間なら、警戒するのも当然だろう。
「……疑う者が出るどころか、国家単位で狙ってくる可能性も――」

『『『『 それは無い(ね)(ですね)(な)(であろう)』』』』

 何故か、全員揃って否定。――そこまで的外れな話ではないと思うんだけど……?
『……そう思うのも無理は無いとは思うんだが――それだけは無いんだわ』
『そうですね……【ある事実】を知っている国でしたら、たとえ国内でそういう話が出ても、上層部が必ず止めます』
『――うむ。さすがに、そこまで愚かな国ばかりではあるまい』
 養父さん、レミリア、ハールートが口々に。
 そういえばここに居るのは、僕以外の全員が『いろいろ知ってる』面々か。
『……そうですね。ここまでの状況になってしまうと――むしろ言わない方が不都合を生じそうですね。……私が責任を持って話をしようと思いますが――聞きますか?』
 真面目な顔でいうレミリア。養父さんの方に視線を向けると――神妙な顔で頷いた所を見ると――本当に仕方のない状況なのだろう。
「……わかりました。よろしくお願いします」

『――はい。では……この前のお話で、【人造神】が厄災を察知するも、不完全な身体のためにその能力を振るいきれず、厄災を防ぎきれなかった、という話をしたと思いますが……その間の事です。【人造神】だけでは厄災を防ぎきれない、それを理解していた当時の方々は――ならばと、もう一柱の神を造りました』
 ……なるほど。そういう方向か。
 そして何となく――話の流れから、その【もう一柱】がどんな存在かは想像できた。
『――お察しのようですが……その存在は【名も無き魔王】。全ての者が警戒する中、製造された【人造の魔王】は――予想に反して、【人造神】との仲は良好だったそうです。これで大丈夫だと、多くの者が安心しかけた所で、問題が発覚しました。防ぐべき【厄災】。その中心点にして最良の迎撃場所が……リーシアの王都だったのです』
 他国の……それも王都。そこに【名も無き魔王】を入れる必要があるという事態。
 顛末も考えると……なんとなく、リーシアのやらかした事に予想がついた。
『――しかもリーシアは、かつて【名も無き魔王】が出現した際に、最も甚大な被害を被った国なのです。そんな国が……彼の存在を受け入れられないのも、仕方が無いといえば仕方がなかったのでしょう。しかし――だから諦める、というワケにいくはずも無く。結果として……争いが発生しました』
「――不幸としか言えない状況ですね。……【人造神】は、その中で……?」
『その中で――というより、その最中に、というべきでしょうね。……長引く戦いの中で【人造神】が滅び……それでも【人造魔王】はその遺志を継いで――しかも相手の命を奪う事無く戦い。最期はその厄災に身を晒し……その命と引き換えに、不完全といえど厄災を防いだ。……これが空白期に発生した人類最大の汚点、その全てです』

 ……なるほど。リーシアが【人造魔王】を受け入れなかったために戦争となり、それが長引く中で【人造神】が滅び。さらに厄災の対処を妨害し――文明へのトドメと、救おうとした【人造魔王】の滅びにも繋がった――

 つまり――最悪の禁忌を犯した国と、不信のために全てを拒み、事態を最悪な状況にまで悪化させた国。それがかつての『トリティス教国』と『深緑の国リーシア』。

『最初の【魔王】は最悪の厄災の化身でしたが……再誕した【魔王】は、紛れも無く英雄と称されるべき存在でした。よって――話を戻しますが、外交レベルでは問題は無いんです。ですから【マズイ】でも【厄介】でもなく、【面倒】なんです。……外敵より、むしろ味方の民間人の方が面倒だ、なんていう事はよくある話ですから――』
『ま、発覚したのが今のタイミングっていうのは助かったが。まとめて巫女長殿と、しかも直接会って相談出来るのは大きい……ああ、そうだ。――教皇』
『そうですね。話してしまいましょう。――お兄様。巫女長様との会談が、三週間後に決まりました。対応をお願いいたします』
 決まるまでもう少しかかるかと思っていたけれど……思ったより早かったな。
「――承りました。『極秘会談』で、先方が守護竜エルファリア様を伴うのでしたら、会場はここにしようと思います。――よろしいですか、ハールート?」
『……う、うむ』
 少し顔を逸らし、気まずそうに答えるハールート。
 だけど……すみませんハールート。ダメ押しします。

「……先方が数日の滞在を望んだ場合、エルファリア様の寝所はここになると思いますが……大丈夫ですか?」

『ぬおっ!? む、むぅ……仕方、あるまい』
 精霊殿がある大樹海、その守護竜である緑竜エルファリア。
 ハールートとエルファリアは同格の古竜で、しかも雄と雌。古竜の雌雄が、しかも近隣国に揃う事は、極めて珍しい。よって先方は、ハールートとお見合いさせようと考えていて――当のエルファリアも、会ってみたいとは言っているらしい。
 つまりハールートは、早々に外堀を埋められかけているわけで。
 そして――こんな面白い状況を放っておかないのが……ルイーズ。
『ねぇ、ハールート? その間、私はどこか別の所に居ようか?』
『ふおっ!? な、何を言う! 間が持たぬではないか……ッ!!』
『え? だって――「後は若いお二人に」っていうのはお約束でしょ?』
『ぐっ! 我は古竜だぞ!? 「若い二人」というのは――』
『私、はー君が生まれた時に居たんだけど?』
『ぐおおおおおおおッ!
【はー君】言うなぁああああっ!?』
 身悶えする古竜様。……ごめんなさいハールート。滅多に見れない光景という事を差し引いても、とても面白いです。
『この光景が見られるだけで、ルイーズさんを発見できて良かったって思えます♪』
『……いえ、色々と同情できる部分もあるんですが、確かに愉快な――というか古竜に同情って、そもそもどういう状況ですか……』
「――大丈夫だよ養父さん。そのうち慣れるから」
 明らかに異常な状況が日常になるのは、ある意味では怖いけど。
 だけど慣れてしまった身としては、この日常がいつまでも続いてほしいと思える。
『では、そろそろ次のお話に移りましょうか。――エリル君の聖術使用の件ですが、こちらは全く問題ありません。もちろん喜んで許可いたします』
『話を聞く限りでは――かなり有望そうじゃないか。きっちり育てきれよ、カリアス』
「ありがとうございます。――大丈夫だよ、養父さん。たとえ放っておいても、エリルはもう勝手に強くなるから」
 エリルに関しては、もう色々と条件が整っている。
 だから今後も苦労はするだろうけど、エリルはもう心配無いと思っている。
『……んー?』
『む? どうした、ルイーズよ?』
 そんな声が聞こえてきたので見ると――ルイーズが僕たちを見て、首を傾げていた。
『うん。私も、これからエリル君がひねくれるとかは思っていないけど……カリアスはこの前「特別な才能は無い」って言ってたのに、やけに評価が高いな、って』
 ――ああ、なるほど。確かに傍目からは、おかしいと思う……のかな?

 確かにエリルには、特別な才能は無い。
 ……いや、アリアと比べなければ、十分に『剣の素質がある』と言えるくらいの才はあるけれど、当人自身が認めないだろう。
 家柄も……ご両親にも確認したけど、『実は――』と続きそうな特殊事項は無い。
 だからエリルは『平均的にスペック高め』なだけで『特別な才能』は無い。

 と、どうやらルイーズの反応を『面白い』と思ったらしい養父さんが、少し楽しそうな眼を向けてきて。
『――ふむ。その評価は間違いないが……カリアス。お前、実は子供たちの中で一番期待しているの、エリル少年だろう?』
「いや、期待なら子供たち皆に等しくしているよ? ウィルとリースも含めて。だけど確かに……一番『面白い』って思っているのは、確かにエリルだね」
『えっと……それは、なんで?』
 ルイーズにどう説明するかを考えながら、言葉を選び。
「予想外の大化けをするとしたら、エリルだから。――『特別な才能』だけが『才能』じゃないんだよ、ルイーズ」
『……【努力の才能】とか、そういう類の話?』
 努力の才能……確かにそれもあるけれど、もっと直接的な才能の話。
 ――というか、長々と語ると『そもそも才能って何?』という話になってしまうけど。

「『特別な才能が無い』っていう事が、逆に『才能』になる場合もあるんだよ」

『ふえ?』『……ふむ?』
 再び重なったルイーズとハールートの反応に、またも笑いをこらえながら。
 エリルの『才能』について、少し話をする事にした――



   ◆◆◆次回更新は8月18日(金)予定です◆◆◆

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