第四編 幕間の2 変態VS変態

作者:緋月 薙

幕間の2   変態VS変態
(※今回は 二章の2 少年の戦いとオトメの話(2) と合わせて2話分の更新になります)



(SIDE:アナザーズ)


 エドです。
 最初はイリスたんの親衛隊だったハズが、最近は『可愛ければ少年もOK』という事になっている変態集団に所属しております。
 あ、でも大丈夫です。我々は『見る専門』、手は出しません。無害な変態です。

 ある日。自警団団長たるリリー嬢に、とある相談をしようと……自警団詰め所の中、親衛隊の会合を行う部屋に入ると。
「失礼します。団長、少々ご相談が……おや? なにやら深刻そうな顔ですが――何かトラブルでも?」
 中に居たのは自警団団長たるリリー嬢と、親衛隊の女性隊員の……確か非自警団員、表の顔としては教会職員のマリカ嬢だったか。
 その二人が、やや危機感すら宿した表情で思案している様子だった。
「ああ、エドさん。……ええ。少々厄介な――そう、危険人物を見つけまして」
「厄介な危険人物――ただの凶悪犯などでしたら、もう確保に動いているはずですし……それなら、今にも犯罪を犯しそうな者、という意味ですか……?」

 今にも罪を犯しそうな――それこそ犯罪者予備軍とも言うべき存在となると……真っ先に思い浮かぶのは、他ならぬ我々自身だったりする。
 我々よりも厄介そうな、危険人物……?
 
 我々には協力者として、最悪の抑止力にして執行者たる『刀の魔王』が居る。
 にも拘わらず『厄介』というのは、どんな凶悪犯なのだろう……?
「……実はですね。彼女に教えていただいた衣料品店の店長なんです。フィアナ様のドレスをオーダーしてはどうかと行ってみたところ……実に有害な店長でした」
「――冷静に考えれば、確かに危険極まりない人ですよね……。商品のクオリティと普段接している人たちのせいで、感覚が麻痺していました……」
 深刻そうな顔で言うリリー嬢と……女性隊員は、その危険人物をスルーしていた事に自己嫌悪しているのか、頭を抱えながら。
 しかし、『普段接している人たちのせいで』という事は――
「つまり、その危険人物は『かなりの変態』という事でしょうか? それならいつも通り、危険な変態は『刀の魔王さま』に――」

「「 止めてください、想像もしたくない……ッ!!」」

 ……まるで己の命を懸けるかの如き勢いで、全力否定してきた。
 しかし――『想像もしたくない』とは、どういうことだろうか……?
 現状でもあの魔王の下で行われている事など、想像もしたくないが……それ以上?
「その危険人物とは……どんな者なのですか?」
 そう訊くと、二人は顔を見合わせてから、揃って窓の外に視線を向け、遠い眼で――

「「 ――たとえるなら、制御の効かない魔王(隠密型)、でしょうか……? 」」

「ヤバ過ぎるだろうがあああああああッ!?」
 思った以上に……それも最悪に近いレベルでヤバかった。
「なんでそんなんスルー出来ていた!?」
「だって魔王さま意外に良い人だし、それで感覚が麻痺しちゃってたんですよ! 魔王さまも今回のアレも、直接的には女性に無害ですし……!!」
 開き直り気味に返してくる、女性隊員のマリカ嬢。
 ……魔王が良い人かどうかはともかく、罪を犯していない者に無理強いはせず、『あの手の行動』以外は意外に常識的なのは事実。
 ――それで制御が効くからこそ、あの脅威も受け入れられているというのに……ッ!
「……それで、その者の戦闘能力は? まさかそっちも魔王クラス……?」
「いえ、私の目が確かなら――直接戦闘力は大した事なさそうですね」
 ……ふむ。それならば最悪、力押しで押さえる事は可能か。
 まだ犯行には及んでいないという事なら、事を起こしたら即座に対応で――

「――しかし隠密特化型で、事が起きれば補足できるか分かりません。そして……現時点で、どうやらエリル君をターゲッティングしています……」

「 み んな 集 ま れ ぇ! ヤ ッ バ イ ぞお お お ッ !! 」
 その情報を聞いて、躊躇(ちゅうちょ)なく全員コーリング。
 すると即座に、建物のあちこちから近付いてくる足音が聞こえてきた。
「……そういえばエドさん。入ってきた際、相談が――と言っていませんでした?」
「――ああ。実はハールート殿から持ちかけられた話なのですが……切実ではありますが深刻ではないので、後回しで良いかと」
「ハールートさんからの、ですか? どの様な……?」
 ハールート殿から持ちかけられた話。
 それは――ある意味で俺も身に覚えがある悩み故、切実なのは分かるのだが……。

「近日、お見合い相手が滞在するそうで――アリアちゃんグッズを何処に隠そうか、と」

「「 いかがわしい本を隠す青少年みたいですね!?」」
 リリー嬢と女性隊員のマリカ嬢が、同時に声を上げた。
 ……男には、何かを必死に隠さなければならない時があるんです。
 その相談を聞いたとき、俺も同じ反応しましたけど。

      ◆      ◆

「――出てきました。アレです」
「……でしょうねぇ。一発で分かりましたよ、ええ」
 ここは――問題のブティック『どっちでもウェルカム♪』、その近くの路地の入口。
 ここで俺たちは、リリー嬢の『風の結界』で音と気配を遮断して身を潜め、問題の人物が出てくるのを待っていた。
 ……容姿は聞いていなかったのに、出てきた瞬間『ソレ』と分かった。
「――では手筈(てはず)通り、私とエドさんは店内に入り、関係者に事情を聞いてきます。レオナルドは追跡班の指揮をお願いします」

 先の会話の後、親衛隊の皆で話し合った。
 この危険人物が普通(主に性癖的な意味で)ならば、早々に『魔王さまの活動の見学』をさせれば、十分な抑止効果は見込める。だが……コイツは最初から『そっち系』である以上、それはただのご褒美にしかならない可能性が高い。
 かと言って、この街ではまだ犯罪行為を確認できていない以上、警戒以上の行動を取る事が出来ず――犯行を待たなくては拘束する事も出来ない。
 だが、それで仮にエリル少年が毒牙に掛かってしまった場合……彼を身内と認識しているカリアス殿ご一行が、どんな行動を起こすかが分からない。

 つまり――後手に回れば、詰む。

 よって早々に行動を開始。ターゲットの監視をすると共に、不在の間に店員に接触、事情聴取と共になんとか協力を取り付けよう、という計画。
「――追跡・監視はお任せください。何かあれば『コレ』で即座に連絡いたします」
 レオナルド率いる追跡班が所持しているのは――先日、遺跡の未踏領域で発見した『通信玉』。
 効果範囲はあまり広くなく、密閉空間では使えないが……離れた場所に居る者、それも複数と同時に会話が出来るという、こういう状況では極めて有効な魔道具。

「――では、行くぞ皆の者!」
「「「「「 おおおおッ!! 」」」」」
「エリル少年の貞操は、我々が守るッ!!」
「「「「「 我々が守ぉるッ!! 」」」」」
「よぉし! では、各自散開。レッツ・ストーキング!!」
「「「「「 レッツ・ストーキンッ!! 」」」」」

 ……そんなレオナルドの号令の下。追跡班の者たちは、各々が尾行しやすい位置へと移動して行った。
「……私の結界内なら声は漏れないとはいえ、彼等は潜む気があるのでしょうか……?」
「潜めるかどうかは微妙ですが……ストーキングなら大丈夫じゃないでしょうか?」
 ……彼等の『尾行』は何だか不安だが、彼等の『ストーキング』に不安は無い。そんな安定の変態たちを見送ってから――俺とリリー嬢はブティックに入る事にした。

「いらっしゃいま――おや、先日いらっしゃったリリー様ですか。……どうもお連れ様も、お買い物に来たという雰囲気ではないようですが……ご用件は?」
 店内に入ると――無表情な若い女性が出迎え(?)てくれた。
 この女性が、リリー嬢が話していた、店員のミラ嬢だろう。
 しかしその女性店員は、こちらの様子を見て――一瞬、無表情のまま剣呑な気配を発した。……どうやらこのミラ嬢も、只者ではなさそうだ。
「――こんにちは、ミラさん。今日は――自警団の団長として、こちらの店長のスネイクさんに関するお話を伺いに来ました」
 どうやらリリー嬢も気付いた様子で――腹の探り合いは無意味と判断したらしい。
 隠す事無く告げたリリー嬢に、ミラ嬢は変わらぬ無表情な――それでいて、全てを見通すような瞳を向け、口を開き――

「わかりました、お話ししましょう。――店長の弱点は、右の乳首です」

「「 そんな情報は知りたくありませんッ!! 」」
 無表情のままトンデモ情報をぶっ込んできたミラ嬢に、思わず揃ってツッコむ。
「――知りたい情報は、コレではありませんでしたか」
「当たり前ですよね!? むしろ何故そんな情報を求めていると思ったんですか!」
「……いえ。何の話を求めているか分からなかったので、とりあえず当たり触りの無い話でもしておこうかと」
「今の話が『当たり障りの無い話』なんですか!?」
「常日頃から、店長が自分で吹聴している事ですから」
「なんの意図があって!?」
「あの人の頭の中を理解するなど不可能です。……ぶっちゃけ、したくもありません」
「……それに関しては同意します」
 リリー嬢がツッコミに回って戻れないという、珍しい状況。ミラ嬢、恐るべし。
「と、とにかく――状況を説明いたしますと――」
 どうやら、何が問題になっているかを説明する模様。
 そちらはリリー嬢に任せ、こちらは『通信玉』を使い、追跡班の遣り取りを聞く事にしよう。

『――先ほど肌着売り場でモメていた理由が判明。店主が「その胸囲に合うAカップブラなどあるわけないでしょう!?」と言った所「品揃えが悪いのねぇ……」と返されたため、との事。……ヤツは下着も女性物を着用している模様』
『知りたくも無い情報を、ご苦労。――現在ヤツは公園の……トイレに入るのか? ……なんの躊躇も無く女子トイレに入ったぞ?』
『……もう、とっとと捕縛しちゃっていいんじゃね?』

 ……追跡班にも、かなりの精神負荷が掛かっている様子。
 こちらの方は――そろそろ説明が終わりそうか。通信玉を止めよう。……これ以上は聞きたくないし。
「――なるほど。店長に行動を起こさせないようにしたい、と」
「ええ。別に『捕縛するのを手伝え』というわけではありません。むしろ、そうならないため、ですね。彼が――……彼? ……スネイクさんが仮に、エリル君に危害を加えた場合、最悪この店が物理的に消滅してもおかしくありませんから……」
「確かに、この店が無くなるのは嫌ですね。わかりました、協力しましょう。……あと、アレは既に物理的に『男』ではありません。『性別:スネイク』とご理解ください」
「そ、それはそれは……その手の改造手術を御受けに?」
 ――『改造手術』て。
 しかし……そのリリー嬢の質問に、ミラ嬢は何故か俺の方をチラッと見てから。

「……以前、奴と私は隣国で冒険者をしており……その時は、まだまともでした。妻子持ちで、妻とは死別しております」

「「 妻子持ちだったの!? 」」
 冒険者だったのも意外だが、それ以上に妻子持ちというのは……。本当に、なんでああなったのだろうか……?
「――数年前。隣国において少々困難な任務をやり遂げた奴は……調子に乗って酒場で泥酔。拠点に戻る途中で、とある人物に絡んでしまい、そして反撃を受け――」
 そこまで言ったミラ嬢は、掌を上に向けた手を、下方から顔の前まで上げていき――

「――『グシャッ』っと」

「ふおぅっ!?」
 その手を『グッ』と握り込みながら、ミラ嬢。
 何が起こったかを理解してしまった俺の一部を、激しい幻痛が襲った。
「な、なるほど。それ以降……ああなった、という事ですか?」
「ええ。そして更にその件の影響として――奴は黒髪の女性を苦手としています。さらに小柄となると、今でも恐怖の対象のようです」
 ……なるほど。隣国の、黒髪で小柄な女性に『グシャッ』ってやられたのか――ん? 黒髪で小柄な女性……?
「――え? ……待ってください。この前来た際は黒髪の少女――リーゼさんも一緒でしたが、そんな素振りを見た記憶は……」
「そうですね。たしかに素振りは見せてはいませんでしたが――やはり『ボール・クラッシュ』の女性を思い出した様で。妙な素振りの記憶も無いと同時に、あの少女と話していた記憶も……それどころか、近寄った記憶も無いと思うのですが?」
 変わらぬ無表情で告げられ、少々記憶を思い返している様子のリリー嬢。
「――言われてみれば。それならば、最悪の事態は避けられたも同然です……!」
 リリー嬢の言う『最悪の事態』――つまりはエリル少年が危害を加えられる事で、カリアス殿ご一行の逆鱗に触れる事。
 しかし奴はリーゼちゃんが苦手というのなら、話は簡単になる。
 奴に『その少年のお相手は、アンタが苦手なリーゼちゃんだ』と教えればいい。
 この情報は、作戦行動中の皆と共有すべきだろう。俺は通信玉を起動させ――
「――こちらエド。スネイク氏の弱点について、有力な情報を手に入れた」
『素晴らしい。その弱点とやら、どうか教えてほしい』
 応答の声は、レオナルドか。しかし他にも複数の息遣いが聞こえるため、通信玉を持つほぼ全員が傾聴している。それを確認してから、俺は報告する。

「奴の弱点は……黒髪の女性。しかも小柄な少女なら、もはや恐怖の対象なのだそうだ。――あと右の乳首」

『『『『『 最後の情報だけは要らなかったなぁ!? 』』』』』
 ……知りたくなかった情報も共有させたかったんです。苦しみは分かち合おう。
「とにかく、こちらは対策に目処がついたのだが――奴の状況は?」
『女子トイレから出てこない。先ほど念のため、女性隊員を呼んで様子を見に行ってもらった。もうすぐわかると――』
 ――と、そのとき。レオナルドからの音声に、女性の声が混ざってきた。
『副長、大変です! 奴がいません!! トイレの個室には、代わりにコレが……!!』
『何っ!? こ、これは――ッ!!』
 ……緊急事態が発生した模様。奴の姿が消え、その個室には何が……!?

『消えた個室に残されていた物は、下着を含む衣服! 総員警戒、奴は全裸! 繰り返す。奴は全裸……!!』

『『『『「 警戒するモノが違うだろうがッ!? 」』』』』
 ……いや冷静に考えると、マッチョなオカマが全裸で昼間の街中を徘徊しているとか、確かに尋常じゃない恐怖だが!
「――話は聞いていました。レオナルド、全員を集合させてください! 姿を見失ったのなら、相手が隠密型である以上、分散していては各個撃破される危険があります!!」
『っ! 全員聞いていたな!? 公園中央に集合! 急げ!!』
『『『『『 はっ! (ただ)ちに!! 』』』』』
 緊急事態ゆえに割り込んで会話に加わったリリー嬢の指示を受け、レオナルドたちは即座に動いたようだ。今のところ、被害は出ていない様子。
「さすがに……正面からレオナルドたちを全滅させられる腕があるとは思えません。これで向こうは大丈夫だと思いますが――」
「問題が、奴が何を思って姿を消し、何処に行ったかですが……む?」
 リリー嬢とそう話している最中に、ふと視界に『ソレ』が入った。
「…………ミラ嬢。少し質問をいいだろうか?」
「はい、なんでしょう?」
 激烈にイヤな予感を覚えつつ、ミラ嬢に訊く。その無表情から、彼女が『ソレ』に気付いているかどうかは判断出来ない。

「……入口横に、あんな大きな箱、最初からあっただろうか?」

「「 ――ッ!? 」」
 リリー嬢と、ミラ嬢も確かに一瞬驚いた顔を見せた事から、気付いていなかった模様。
 その箱は、パッと見は単色でありながら、よく見れば濃淡があり――不思議と周囲の建物に溶け込み、馴染むような塗装が施されている。……都市迷彩という物か。
 そして、かなりの大きさで――具体的には、かなりガタイの良い大男も、しゃがめばスッポリ隠れられそうなサイズ……!
「そんなっ! いつから在ったと言うのです……!?」
 見た目に反して百戦錬磨の女傑たるリリー嬢にすら気付かれず、そこに在った箱。
 それは、注目が集まったのを察したらしく――
『いや~ん! 見つかっちゃったぁん♪』
 そんな声と共に、『箱』から脚が生えた。……マッチョな生足が。
 そして――脳裏に蘇るレオナルドの報告『総員警戒、奴は全裸!』の言葉。
「き、貴様! よもや、その中は……ッ!?」
 戦慄と共に口にするも――無情にもその箱は、その『中身』により持ち上げられ。

「はぁ~い♪ スネイクちゃんよん♪」

 中から姿を現した存在は――化粧も筋肉もブ厚い、巨躯の大男。
 そしてその装いは……幸い、全裸ではなかったが。
「――……エドから全員に通達。件の店内にて目標を発見。繰り返す。目標を発見」
『な、なんだとッ!? 一体どうやって……そちらは大丈夫なのか!?』
 ……大丈夫か否かなら、大丈夫ではない。主に精神的に。
 よって俺は、その苦しみを分かち合うために、その情報を伝える。

「対象は全裸に(あら)ず。――奴は裸エプロン。繰り返す。奴は裸エプロン……!!」

『『『『『 そんな情報は要らねぇよッ!! 』』』』』
 そんな隊員たちの叫びを、少し心地良く聞きながら、前方に視線を戻す。
「うっふ~ん♪ どう? 男の頃からロマンだと思ってたの! 似合う?」
「………………」
 ――『男のロマン』という意見は分かるが、それを……貴様が着るな。
 ……目の前の男(?)が身につけているのは、ヒラヒラのエプロン一枚のみ。
 現物を見てしまうと……吐き気がするどころか、むしろ心が凍り付いていく。
「…………スネイクさん。どこからお話を聞いていたかは知りませんが――」
「もぅ! 聞いていたわよん? 残念だけど……あの子は諦めるわ。――エリル君。私の事は忘れて、幸せになるのよ……?」
 涙を流し、虚空に向かって手を振るスネイク氏。
 美談風に言っているが……当然、感動しているのは当人のみ。
「それにしても――ミラちゃんヒドイわ! 人の弱点をペラペラ話しちゃうなんて!!」
 一瞬で泣きやんだスネイク氏が、今度はミラ嬢に抗議。
 それに対するミラ嬢は、変わらぬ無表情のままで。

「……父親がこんなのになった娘の気持ちを解さない方も、中々にヒドイのでは?」

「「 父娘だったの!? 」」
 衝撃の事実に、リリー嬢と共に思わず叫ぶ。
「……前日までまともな父親だったのに、ある朝突然ああなっていて――『新しい自分に生まれ変わったの! これからは、私もオ・ト・メ♪』とかやられてみてください。……感情も凍りつくというものです」
「「 …………心中、お察しいたします 」」
 あまりに残酷な話に、もはやそれ以外に言うべき言葉が見つからなかった。
「んもぅ、ヒドイわ! ねぇんエドさん? そう思わないん……?」
「…………何用でしょうか?」
 身体をクネらせ、ジリジリとにじり寄ってくる、厚化粧のモンスター。
 ――マズイ。今度は俺が標的になっているだと……!?
「うふっ♪ 『何用』って……もちろん『ナニ用』よん? い・か・が?」
 蛇に睨まれた蛙の如く、身動き取れない俺に――さらに迫りくるモンスター。
 ――や、やばい! 喰われる……!?
 いろいろな意味での危機に、脂汗が吹き出した――その時だった。

『――はぁっはっは! ちょぉっと待ってみようかぁ!!』

 どこからともなく、そんな声が響いたかと思うと――突如として空間に穴が開き。
 その中から出てきたのは――上下一体となっている服を着た、(つぶ)らな瞳のマッチョメン。言わずと知れた『両刀魔王ロドリゲス』様が、ご降臨あそばされた……!!
「はっはっは! エド君は僕が先に目を付けていた――む?」
「…………あらあらぁん?」
 聞き捨てならない言葉と共に登場した魔王さまは――しかしスネイク氏と顔を合わせた瞬間、揃って動きを止めた。
 ――気のせいだろうか。二人の目が合った瞬間、その背後で派手な雷鳴が轟いたように見えたのは……?
「……これは。まさか、想像したくも無い展開になるのでしょうか……?」
 流石のリリー嬢すら、怯えを宿した瞳で成り行きを見守る。
 ――俺もゴリゴリマッチョ同士のアレな展開など、絶対に見たくなど……!
 固唾を呑んで見守る我々の前で――二名のゴリゴリは、揃って俺の方を向き。

「――エド君。キミは……こんな『元・男の成れの果て』がいいのかい!?」
「……あらぁん。エドさんはぁ、こんな男臭いゴリラより、オトメの方がいいわよね?」

「「「 …………は? 」」」
 俺としては――『どちらが良いか』と訊かれれば、迷わずに『どちらも勘弁してください』と、命乞いと共に即答するが。
 ――いや、それよりも。つまりこの二人は……?
「……すみません、少々お聞かせ願いたいのですが。お二人は、お互いの事をどの様にお思いになったのでしょうか……?」
 リリー嬢のその問いに、二体のゴリゴリは――頭に青筋を浮かべ、だけど顔だけは笑みを作って。

「「 絶対に相容れない、最悪の存在かねぇ(かしらん)……? 」」

 ――この二名、壮絶な同族嫌悪を発生させていやがる……!!
 これは……ある意味、都合の良い状況ではなかろうか?
 最悪の脅威たちが競合しており、その内の片方とはある程度の協力関係が既にある状況。
 これを上手く活用すれば――俺の貞操は守られる……!!
 しかし、一歩間違えると即座に喰われる(どういう意味かは訊かないでお願いします)危険があるが――これが恐らく、最善の手法……!!
「……私に『そっちの気』は無いため、そっちの意味で『どちらが良い』等と言う事はありませんが――『人として』でしたら、協力関係にある魔王さまかと」
「――ふむぅん♪」「――な……っ」
 明暗くっきり分かれたゴリゴリ共。……だが、どちらに対しても全く感情が湧かない。
 ――これが続くと、ミラ嬢の様になるのだろうか?
 それはともかく――続けよう。今度はスネイクに向けて話す。
「自警団と協力関係にある以上……非社会的な危険人物も、ノンケをそっちに引き摺り込もうとする者も、私にとっては忌み嫌うべき存在です」
「そ、そんな……!」
 崩れ落ちるスネイクを横目に、今度は魔王さまに向かい。
「一方で魔王さまには治安維持にも貢献していただいており――ある意味で、私は確かに尊敬すらしております。……いつもありがとうございます」
「はっはっは! いいんだよエド君、僕たちの仲じゃないかぁ♪」
 ……どんな仲だ。確かに尊敬はしているが……尊敬しているのは、主にその『図太い神経』と『超ポジティブシンキング』だ……!!
 頭の中でそんな事を考えながら、顔だけは毅然とした表情を必死にキープ。
 すると――崩れ落ちていたスネイクが、ピクリと反応し。
「……ふふ。うふふふふ……。つまり――私がそのゴリマッチョよりこの街に貢献するようになれば、貴方の愛を取り戻せるのね……?」
 ――まかり間違っても『愛』などありません。『取り戻す』もクソも、俺が愛を向ける対象は幼女です。
「うふふふふ……いいでしょう、そこのゴリゴリ魔王。私は必ずこの街に貢献し――彼の愛をアナタから取り返すわ……!」
「ふむぅ~ん、良い度胸だねぇ。いいだろう、キミの挑戦を受けようじゃないかぁ!」
「あら、アナタも良い度胸ねぇん♪ ――必ず後悔させてあげるわ。……そうとなったら、遊んではいられないわ。まずは私の名前を世界に轟かせるの……! そのためにはまず、今受けているオーダーをぶっちぎりの最高傑作に仕立てるわ……待っててダーリン!」
「ふむぅ。それなら僕の方も――更生を引き受けてる子たちの調教……もとい再教育を頑張ろうかなぁ! はっはっは、こうしてはいられないねぇ……!」
 ……そんな事を言いながら――スネイク氏は店の奥に、魔王さまは時空の彼方に去って行った。

 ――危機は去った。それなのに……俺の人生の先に暗雲しか見えないのはなぜ……?

 何故か目から汗がダクダクと流れる中――ミラ嬢が、俺の肩に手を置いて。
「――ゴリマッチョ二体を手玉に取るエドさん、マジぱねぇッス」
 そう言うミラ嬢の表情は変わらないが――なぜか何処か遠くまで見通している様なその瞳に、微かな憐憫が混ざっている様に見えた。
 そしてリリー嬢はというと――

「……エドさん。私は貴方を少し尊敬いたします。今回は、本当にありがとうございました。そして――ご愁傷さまです」

「……ありがとうございます。だけど最後の『ご愁傷さま』は余分です……」
 尊敬の言葉は素直に嬉しいが……痛ましそうな表情で言われると、悲しみの方が遥かに強くなります。


幼い子供たちを見守る親衛隊『幼き神々の守護者(ガーディアン
オブ リトルゴッズ
)
』、本日の活動結果。

 ・タチの悪い危険人物な男(?)を更生。
 ・ブティック『どっちでもウェルカム♪』の商品品質が更に向上。
 ・魔王さまが治安維持活動に、より積極的になった。


 ちなみに。ノンケにも(かか)わらず、最悪のゴリゴリ二名を手玉に取る俺は――
 これ以降、『スイッチヒッター』という二つ名が付けられる事となった。



   ◆◆◆次回更新は8月18日(金)予定です◆◆◆

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