第四編 幕間の3 拗らせし者たち――

作者:緋月 薙

幕間の3   拗らせし者たち――
(※今回は 四章の1 防衛という名の蹂躙戦と竜の救済 と合わせて2話分の更新になります)



(SIDE:アナザーズ)


「ところで――叔母上? 叔母上に近づいてきた幼女趣味の男性と、お付き合いしたことはあるのですか?」
「……は? いやいやいや! いろいろな意味で危ないじゃろッ!? 幼女にホイホイどころかガッツリ寄ってくる男など――」

「あなたに選り好みしている余裕など、有ると思っているのですかッ!!」

「なんかヒドイ事言われたのじゃ!?」
「――いいですか叔母上? 幼女趣味者以外にも性癖的に危険極まりない男性など、腐る程に居ます。むしろそういう者こそ表に出さないため、より危険という見方もあります」
「お主、(わらわ)の抗議を完全にスルー……ま、まぁいいのじゃ。――ふむ。見えぬ危険よりは、見えている危険の方がまだマシ、という事じゃな? その考えは、確かに無かったのじゃ。……しかし幼女趣味者が問題だという事に変わりは無いのじゃ」
「――では問います。幼女趣味者の、何が問題なのですか?」
「なッ!? 決まっておるのじゃ! 成人よりも幼い子供を好むなど――」

「――叔母上の容姿が幼いのは事実ではないですか。つまり、叔母上の容姿自体が問題で犯罪的だと? …………ある意味その通りではありますが」

「またもヒドイ事言われたのじゃッ!?」
「――いいですか、叔母上? あなたに言い寄って来た者は……幼女の容姿ならば誰でも良いという、見境の無い者ばかりだったのですか?」
「お主、またもスルー……しかし――む、むぅ。確かに、それを確認はしておらんかったのじゃ……」
「――その方々は……本当に、叔母上が幼女な外見だから惹かれたのですか? もしかしたら、たまたま惹かれた女性が幼女の外見だっただけ、という事はありませんか?」
「――もしや妾は、とてつもなく愚かな事をしていたかもしれない、と……?」
「仮に本当に『幼女の外見』に惹かれたのだとしても……叔母上だけを想ってくださる方ならば、問題無いではありませんか! どうせ叔母上は永久幼女なのですから!!」
「妾は……妾はなんと愚かな事を……ん? 今お主、『永久幼女』などと――」

「幼女趣味でもいいじゃないですか! だって人間ですもの……!!」

「っ! そ、そうじゃな! 確かに、もっと人間性を見る様にすべきだったのじゃ……!!」

「(……ふぅ、何とか押し切れましたか)」
「リリーさん、何を企んでいるのかしら……?」
「――いえ。この機会に、千年モノの売れ残りが片づいたらいいな、と」
「……ああ、なるほど。『あの人たち』なら、色々な意味でピッタリよね……」
「……み?」「……みゅぅ?」
「ねぇねぇリーゼちゃん、アリアちゃん。……どういう事?」
「――ん。おねえちゃんは……まだ、しらなくていいと、おもうよ……?」
「本当なら、アリアちゃんも知らなくて良い事だと思うんだけど――」



 こんな会話が事前にあったと、リリー嬢から聞いたのは――一連のドタバタが終わった後だった。

      ◆      ◆

 こんにちは、エドです。
 最近話題がホモホモしくて脳ミソが腐りそうなので、そろそろフレッシュな幼女ネタがほしいと、切に思う今日この頃。
 ノーモア・ゴリゴリ! カモン・幼女……!!


「――む? 妙に慌ただしい……何かあったか?」
 今日は所用で遅くなり、昼過ぎに自警団の詰所に着くと。
 団員――というか親衛隊員が総出で、様々な女神さま関連グッズを転移陣に運び込んでいた。

「早く運べ! 過度に危険なモノは、転移陣で『門』殿の方へ!!」
「このイリスたん、アリアたんヌイグルミは!?」
「もちろん隠せ――待て。一つ二つくらいはあった方が親近感が……?」
「ならば、こっちのご禁制品、フルキャストオフ仕様フィギュアは?」

「「「「「 ヤベェから隠すに決まってんだろうがッ!!」」」」」

 ……察するに、監査でも入るのだろうか?
 とにかく事情を訊こうと、指示を出している副長のレオナルドに声をかける。
「何があった? どうやら危険物を運び出している様だが……?」
「――エドか。実は団長から連絡があってな。女神様ご一行と共に……団長のご親戚の方が、ここに視察に来るらしい。故に、度を超した危険物を運び出している」
 ――なるほど、それなら確かに……と、納得しかけ、尚も疑問が。
「……それならば、奥の親衛隊の部門に入れなければ良いだけなのでは?」
 親衛隊の活動の産物は、主に自警団詰所内の隠し通路から入った、親衛隊の専用区画に存在している。だから、そこを見せなければ良いだけでは――

「――お前は……団長のご親戚が『まともな人間』だと思えるのか?」

「…………すまん。素で探知能力持っていてもおかしくないな」
 隠された怪しい場所を即座に探知、嬉々として突入して暴く様な性格だったとしても、全くおかしいとも意外とも思えない。
「さらに言うと――そのご親戚は女性で、婿探しの真っ最中らしいのだ……!!」
「……婿探し? ふむ、それが何だと言うのだ?」
 やや興奮気味に言うレオナルドに、特に感じる事も無く返す。
 なにせ婿探しという事から、最低でも成人はしているはず。
 団長のご親戚ならばお美しい方の可能性が高いが、我々(ロリコン)の好みには――

「愚か者がッ! 貴様は団長の血を忘れたのか!? そしてその『婿探し中』をロリコン紳士(われわれ)に話す理由を考えろ……!!」

「――は? …………はっ!? そういう事か!!」
 団長は半分、長命種である『大樹の民』の血を引いている。故に実年齢は36歳だが、外見はどう見ても20歳前にしか見えない若さを保っている。
 つまり、そのご親戚が大樹の民なら。成人していても幼めな容姿のまま、という可能性は大いにある……!!
 そして――『婿探し中』である事をロリコン紳士の集いたる我々に伝えた意味。
 それはつまり……我々『の』、そして我々『が』対象になり得るという事……!?
「――俺も手伝おう! 気合いを入れてもてなすぞ……!!」

「「「「「 っしゃあああッ! 合法幼女、ゲットするぜぇぇぇえええッ!! 」」」」」

      ◆      ◆

『――理解いたしました。それで先ほどより、皆さま慌ただしく駆け回っていたのですね。……女神さま方のグッズを大量に抱えながら』
「――うむ、そういう事だ。騒がしくして悪かったな、『門』よ」

 欲望こそが我らの原動力。
 期待と妄想でテンションが跳ね上がった我々は、あの膨大な量のグッズの片づけを、わずか数分で終わらせ、さらに掃除、そして茶菓子の用意まで済ませて落ち着いた所で。
 こうして、グッズの避難、臨時保管場所として使わせてもらっている場所の主に、事情の説明と謝罪に来たわけで。

 そんなわけで現在、俺が居るのは――かつて『未踏領域』と呼ばれていた、遺跡の隠し通路の先。機密部署を守る門番たる、意思ある『門』の前。
『いえ。皆さまも――女神さま方もお元気そうで、何よりです。……しかし【大樹の民】の女性、ですか』
「む? 以前、会った事があるのか?」
『――いいえ。この遺跡が稼働していた当時、大樹の民が暮らす【リーシア】とは敵対関係と言える状況でした。よって、実際の方々とお会いした事はありません』
 ……当時の世界情勢は、全く知られていない情報。
 時間があれば話を聞きたいが……それより、少し気になる事が。
「――『実際の方々』? 実際じゃない者たちは見た事があると……?」
『はい。施設稼働時、男性所員の間で、大樹の民の女性が主題の創作物語が流行っておりました。それらの本は……恐らく、秘匿(ひとく)書庫に一部現存しているかと』
 秘匿書庫というと、例のルイーズ嬢が書いた本が見つかった場所と、同じ様なものだろう。ああいう隠し部屋なら、他にあってもおかしく……ん?
 ――隠し書庫に保管。そして男性所員に流行っていた、女性が主題の本……?
「……『門』よ。その書物は、どの様な内容のものだ?」

『大樹の民の女性騎士や巫女が、触手や大きな人型の魔物に捕まり「くっ、殺せ」と言うも、魔物たちはその手を蠢かせ――』

「封印ッ! その書庫は厳重に封印し、良いと言うまで絶対に開けるな……!!」
 万が一にも団長やそのご親戚の方に見つかったら、本気でマズイ……!
『…………了解いたしました』
「――何故お前、微妙に残念そうに……?」
『気のせいです。――その書物、秘匿書庫ごと消滅させる事も可能ですが?』
 ――そんな、けしからん書物は……危険だ。うん。だから――

「……こ、古代の文献でもあるのだ。レオナルドや他の隊員と共にじっくり検分した後、処分方法を話し合って決めようと思う……!!」

『……流石です、我が友エドよ。その時が来るまで厳重に保管しておきましょう』
 なぜか満足そうに言う『門』。
 ……コイツの性格、我々と接する事で染まってしまったのかと思っていたが――元から結構アレな性格だったんじゃなかろうか……?


 そんな会話の後に、転移陣で自警団詰所に戻ると――静かな緊張感に包まれていた。
「――戻ったかエド。間もなくいらっしゃるそうだ」
 どうやら、良いタイミングで戻って来られたらしい。
 教えてくれたレオナルドに頷き、無言で了解と感謝の意を示し。改めて気を引き締めたところで――その声が、聞こえてきた。
「こんにちはっ! どなたかいらっしゃいますか?」

「「「「「 はぁ~い♪ 今行っきま~すッ!! 」」」」」

 聞こえてきた女神さま(イリスちゃん)の声に、全員がテンション・アゲアゲのご機嫌声で応えた。
 しかし全員で迎えに行くのも不自然なので、レオナルドに任せ――待つこと少々。
 ついに女神さま御一行が、その姿を現した……!
「こんにちはっ! きょうは、新しいお友達といっしょに来たんです♪」
 女神さまは愛らしい笑顔でそう言うと、入口の横に移動。後ろに隠れていた少女が前に出てきて――

「――初めまして、皆さま。私は、こちらのリリーさんの親戚にあたる者で、ランカと申します。……どうか、よろしくお願いいたします」

 楚々とした仕草と共にそう言ったのは――長く艶やかな黒髪の、大人しそうな美少女。
 歳は10歳前後だろうか。イリスちゃん以上、リーゼちゃん未満に見える。
 だが――その綺麗な黒髪からは『大樹の民』の特徴たる尖った耳。さらに、その落ち着いた雰囲気と立ち振る舞いからは、『大人びている』どころではない気品を感じる。
 だから――それこそ俺たちより年上でもおかしくはない。おかしくはないのだが――

 ぶっちゃけ実年齢など(そんなもの)どうでも良いと思える程に、外見が我々の好みド真ん中……!!

「――ランカ……さん、ですね? 歓迎いたします。ご滞在の間、何かお困りの事がございましたら、どうか気安くお声を掛けてください」
 そう言って『ランカたん』と握手をするレオナルド。
 それを我々は、穏やかな笑みで見守って――いる様に、傍目には映るだろう。
 ……全員が必死に抑えているが故、たとえカリアス殿であろうとも気付かないであろうという自信はある。しかし――同じ想いを抱く者には、『ソレ』がハッキリと見えた。

 我々から情念の炎が吹き上がり、この空間に『ぐぉんぐぉん』と渦巻いている……!

 具体的には――『てめぇら、抜け駆けしたら殺すぞゴルァ?』そんな想いが、今にも音として聞こえてきそうな程に渦巻いている。
「――とても頼もしく思います。よろしくお願いしますね……♪」
 照れ臭いのか――恥じらいの表情で言うランカたん。
 その愛らしい姿を、我々は微笑ましいものを見る表情で見守り――その実、内心では『うっひょぉおっ!』という歓喜の声を上げ悶えながら、表に出すまいと必死に戦う。
 この可愛らしさは、それこそ女神さま方に匹敵すると思われ――……む?
 フと、女神さま方に視線を向けると……何やら、少し様子がおかしい。

 イリスちゃんと幼竜二匹は……不思議なモノを見たかの様な、キョトンとした顔で。
 アリアちゃんとエリル少年は、有り得ないモノを見た様な、ぽかーんとした顔で。
 残りのリーゼちゃん、フィアナ嬢、リリー嬢は……ただ引きつった笑みを浮かべ。

 ――この反応は……何だろうか? まるで、二重人格の人間を見た様な……?
「え、えっと……ランカちゃん? どうし――」
「あ、あーっと!! イリス、その話は後で、ね? えっと……リリーさん、ランカ。私たちはお暇しようと思うんだけど……(ボロを出さない内に)」
 ランカたんに何かを訊こうとしたイリスちゃんを、フィアナ嬢が慌てて止めた……?
 そして、まるで逃げる様に帰ろうと――あ、しまった。
「……え、ええ、そうですね。叔母上――ごほん、ランカさんの案内は引き受けますので、後ほど教会で――」
「――すみません、少々よろしいでしょうか?」
 リリー嬢の言葉を遮り、フィアナ嬢に話しかける。
「あら? なにかしら?」
「――ええ。実は……遺跡での一件以降、皆さんを気に掛けている者がおりまして。よろしければ、少しご足労いただけませんか?」
「「「「 ……はい? 」」」」」
 御一行はそろって首を傾げているが――隊員の皆は、リリー嬢に至るまで、納得して笑みを浮かべていた。

      ◆      ◆

「――じゃあね『門』さんっ! こんどまた、遊びにきます♪」
『はい。楽しみにしております。気をつけてお帰りください』
「心配してくれていたのに、今まで顔を出さずにすみませんでした。――あなたが気に掛けていた事、カリアスにも伝えておきます」
『――私は、心配する事くらいしか出来ない、ここに在るだけの【門】です。……どうかお気になさらず。ですが……遊びに来てくださるのでしたら、いつでも歓迎いたします』
「みぎゃっ!」「みゅうっ♪」
 最後に幼竜たちも『門』へ挨拶をして。
 それを微笑ましそうに眺めてから――イリスちゃん御一行はこちらに一礼をして、転送珠を使って帰って行った。
『――我が友エドよ。感謝いたします』
「礼には及ばん。――ずっと気にしていたのだろう? お前には世話になっているし、これからも世話になる予定なのだ。これくらいは当然だろう」
 そう言って皆に視線を向けると。事情を知らないランカたん以外の全員が『うんうん』と頷いていた。

 この『門』、イリスちゃんとリーゼちゃんを『女神』と崇めていながら……先の一件の際、説明不足の状態で御一行を奥に転移させてしまった事を、実はかなり気にしていて。
 だから可能ならば、もう一度会わせて話をさせてやりたいと思っていた。

 どうやらイリスちゃんたちはあまり『門』と接していなかったため、ここまでハッキリとした『意思』があるとは思っていなかった様子で。
 話を聞いて少し驚いた後、心配を掛けた事を謝って――『また遊びにきます』と約束して、帰って行った。
 ……女神と(あが)める存在がまた遊びに来てくれるというのは――まぁ確かに嬉しいだろうし、正直羨ましいとも思うが。
『――あなた方にとっては当然であろうと、私にとっては感謝し、感動すべき出来事です。……現在、この感動を表す言葉が不足しております。データベースより検索開始――』
 と、『門』が言葉選びのために黙ったところで、ランカたんが話しかけてきた。
「……ふふっ。この『門』も、大切な友人なのじゃ――なのですね♪」
「 ? ――まぁ、そんなご大層なモノかは知りませんか……気の良い友だとは」
 そう言うと、周りの面々からも『――何気にイイ性格しているしな?』『相談にのってくれたりするし――』等と、賛同する声が口々に。
 それらを聞いて、さらに笑みを深めるランカたん――なのだが……?

 さっきのセリフの時もだが――どうもその笑みが、『大人しい美少女』のランカたんに、似合っていない気がするのだが……?
 それでいて、『ランカ』という少女との違和感は感じない――何故なのだろうか?

『……語彙(ごい)検索が完了いたしました――』
 俺が考え事をしている間に、『門』の言葉選びが完了したらしい。
 俺たちはランカたんと共に、無言を以て『門』の言葉を待つと――

『――【小っちゃい子やっぱ最高!】【イリスたんとリーゼたんマジ女神】【デュフフ、また遊びに来るそうでゴザル!】【くんかくんか、はぁはぁ!】――』

「「「「「 どわぁぁあああああッ!? 何を言っているッ!! 」」」」」
 感動のあまりの錯乱か、選択した言葉は『よりにもよって!』なセリフのオンパレード。
 ……いや、ある意味で感動がストレートに伝わってくるけれども!
「――今のはなんなのじゃ……?」
「あ、あー……そ、その――感情が飽和状態になって、軽い錯乱を起こしているのではないでしょうか!?」
 頬を引きつらせているランカたんに、リリー嬢がフォローを入れてくれている様子。
 なんだか少し口調が変わっていた様にも思えたが――とにかく今は、誤魔化す事が先……!!
「そのー……ら、ランカたん! この『門』には古代からの記憶が蓄積されています。おそらく、その古の時代に聞いた言葉・語彙を用いたのではないかと……!」
「あ、あー……なるほど、そういう……ん? 今私を『ランカたん』と……?」
「き、気のせいではないでしょうかっ!? それより叔母う――ごほんっ、ランカさん! そろそろ『例の件』のお話をしたいので詰所に戻りましょう、そうしましょうっ!!」
「 は? ちょ、待っ――」
 リリー嬢、ついに実力行使。強引にランカたんを引っ張って転移陣に入り――二人の姿は消えた。
 ――あちらにはレオナルドも残っているし、きっと何とか誤魔化してくれるだろう。
『……申し訳ございませんでした。興奮のあまり、つい自重を忘れてしまい』
「錯乱したのではなく、アレがお前の本心か……ま、まぁいい。多分なんとかなったからな。――次は気を付けてくれ」
 ……最後に俺も失言したため、あまり強くは言えないのだが。
『以後は必ず気を付けます。それでは――感謝と謝罪の意を込めまして、秘蔵の書物をお渡ししたいと思うのですが……受け取っていただけますか?』
「……ほぅ、秘蔵の書物とな?」
 旧文明時代から、機密区画の門番をしていた者が、『秘蔵』という書物。
 それだけでも計り知れない価値がありそうなのだが……それに加え、『門』が謝意を込めた贈り物として渡してくる以上、我々が興味の無い物のはずは無い。
「くれると言うのなら、ありがたく貰うが……ちなみに、どんな書物なのだ?」
 そんな俺の問いに応えた声は、なぜか得意気に聞こえて――

『――大樹の民の幼女と、その義理の兄の恋愛模様を描いた、大人向けの絵物語です』

「「「「「 大好物です! ごっつぁんです……ッ!!」」」」」
 俺たちは揃って最敬礼の上、全力で感謝の意を告げた。
『喜んでいただける様で、私も嬉しく思います』
「それはもちろん大喜びだが……何故そんな物を持っている……?」
 こいつは極めて人間くさいが、あくまで『門』。
 買いに行く事など出来ようはずも無いのだが……。
『この研究所が稼働していた時代に、親しくしていた男性所員が居まして。その者が転属となる際に、記念にと頂いたものです』
「……なるほど。幼女ものだったのは偶々か」

『――いえ。約二千冊の蔵書の中から、私の好みで選ばせてもらいました』

「「「「「 お前やっぱり、元から幼女好きだったな!?」」」」」
 ……こいつの性格を変に染めてしまったかと罪悪感を覚えていたが――なんて事は無い。染まったのではなく、本性が出てきただけだったらしい。
「……しかし、良いのか? そうなるとその書物は――思い出の品だろうに」
 それどころか――敢えて言わなかったが、その親しかった者が生きている可能性はほぼ無い以上、確実に『形見』ともいえる物だろう。
 ――『形見のエロ本(しかも幼女モノ)』という存在をどう思うかは別の話だが。
『それは大丈夫です。――原本は確保していますから』
「「「「「 ……は? 」」」」」
『書物程度でしたら、解析した上で複製を作る事が可能です。原本は劣化防止処理の上で保管してあり――お渡しするのは、複製品となります』
「……なんで『門』に、そんな機能が備わって?」
『その友人が、後付けで追加してくださりました』
「……その友人、中々に業の深い存在だったのではないか?」
 機能を追加したのが公認だったのか無断だったのかは知らないが……趣味に活用していたのは容易に想像できる。
 そしてもし無断だった場合――ここから居なくなったのは『転属』ではなく『左遷』だったのでは……?
『――当然、それ専用の機能があるわけではないため、複製を可能にするためには解析にじっくり時間を掛け、内容を記憶に焼き付ける必要があります。ですが、お渡しする物に関しては既に済んでおり――いつでも、紙さえあればいくらでも可能です』
「……お前。好みで選んだエロ本をじっくり解析して、記憶に焼き付けているのか」
 分析・解析能力を持つ魔道具に人格があった場合……とりあえず、知人女性を近づけたくはないと思う程度には問題だという事が、よく分かった。
 ……『お礼をする』という名目の下で明らかになった『門』の本性に、流石の我等変態集団も、やや引き気味。――というかコイツ、下手をすると俺たちより業が深い。
 そんなわけで、俺たちがやや戸惑っていると――『門(悪魔)』の声が。

『では――要りませんか?』

「「「「「 ありがたく頂戴いたしますッ!! 」」」」」
 ……よくよく考えてみれば、業が深かろうがなんだろうが、同系統の同志に過ぎない。
 ――今さら躊躇う理由など、一切無い……!
『かしこまりました。――出力部数は……現状では最大で三十部可能ですが?』
「「「「「 MAXでお願いします!! 」」」」」
 一度踏み込んだ以上、もはや我々に躊躇いもブレーキも存在しない……!
『――かしこまりました。では作業を開始します。……出力口は、あちらの転移陣の近くの壁際――今、光り始めた場所になります』
 言われてそちらを見ると――我々が設置した転移陣の近くの壁が光っており、我々が見ている前で一部が扉の様に開き――中には机の引き出し程度の空間があった。
『複製プログラム起動――正常に稼働中――…………完了しました。一部ずつ出力いたします』
「「「「「 おおっ……!! 」」」」」
 壁に開いた空間の中に、書物が出現した。
「あ、あれに見えるは古代より伝わる伝説のエロ本(幼女モノ)! 皆の者、行くぞ!!」
「「「「「 おおおッ!! 」」」」」
 もはや頭のどっかの部品が無くなったかの様な妙なテンションで、我々は突撃――

 と、その時。転移陣が突如として光を放ち始め――
「――すみません皆さん。少々お話があるので、集まって――あら?」
「……これはなんでしょうか?」

「「「「「 あっ 」」」」」

 転移陣から出現した――リリー嬢とランカたんは。すぐ近くに出現していた書物を見つけ、手に取り。
 そのまま、パラパラと見分を開始し――

「「 ………………あらあら 」」

「「「「「 ひぃいいいッ!? 」」」」」
 妙に無表情で二人が呟いた途端、激烈な寒気が俺たちを襲った。
 しかし、そんなガチな命の危機が迫っているにも(かか)わらず――壁からは尚も、順調にエロ本が排出中。そしてそれを冷めた眼で見るリリー嬢とランカたん。
「お、おい『門』ッ!? 出力を止めろ……!!」
『――止まりません、止まりません。あと六部、完了まで私でも止められません……!』
 心なしか『門』の声も震えて聞こえる。
 そうこうしている内に――全三十部の出力が終わり。
 遺跡内の『門』前の広場に、まるで時間すら凍てついた様な沈黙が訪れた。

「…………さて。皆さん、少々よろしいでしょうか……?」

「「「「「 ――はい 」」」」」
 リリー嬢の言葉に……我々は特に打ち合わせも無く、揃って正座。
 ……なまじ美しい顔であればあるほど、完全な無表情になると怖さが増すわけで。
「さて皆さん――これはどういう事でしょうか……?」
「……『門』さんが先ほどのお礼という事で、記録にある書物を複製してくださるという事で、お願いしました。――内容はランダムで、門さんも何が出るかは――」

 ――言った途端、俺たちの間を無数の風の刃が取り抜け、床に深い斬痕を刻んだ。

「「「「「 ひっ……! 」」」」」
「嘘はいけないと思いますよ? ……一度だけ見逃します」
「――お、お礼という部分はそのままですが――な、内容に関して、その概要は前もって聞いておりました……!!」
 土下座と共に、素直に白状。――この期に及んで、逃げれるなどとは思えん……!

『――その言葉に、嘘偽りは御座いません。皆さまに勧めたのは私であり……その書物の題材が【大樹の民】であるのは、単に「当時流行していたから」です。――現に私の記録野に存在する四七一冊の内、七割が【大樹の民モノ】です』

「「「「「 あんたそんなに持ってたの!? 」」」」」
 フォローしてくれた『門』への感謝の前に、そんな驚愕の言葉が口から出た。
『――はい。その中より、皆さまが最も好みそうな本を――』
「ッ!? ちょっ! 止まれ!!」
『…………あ』
 今、『門』が口を滑らした事は――要するに『皆さん幼女モノがお好きです』。
 俺たちは――顔を青くして。リリー嬢は頭が痛そうに。
 沈黙を保っているランカたんに視線が集まり。

「――はぁ。……リリーよ。知っておったのじゃな?」

 溜め息と共に、隣りのリリー嬢へと話しかけるランカたん――あれ、口調が……?
「……はい。申し訳ございません『叔母上』。――彼等は性癖こそ問題大アリですが、人格的には悪くない人物ばかりなので……上手く誰かとくっつけばと、思っていました」
 諦めた様に応えるリリー嬢――それはともかく『叔母上』……?
 俺たちが『ぽかーん』とした顔で成り行きを見守っていると。ランカ……たん(?)は、『仕方がない』という様な溜め息を吐き。
「――猫を被っておったのは、妾も同じ。……一方的に責めるわけにはいかぬのじゃ」
 そう言った後、吹っ切る様に浮かべた笑みは――悪戯っぽいもので。

「改めて――妾の名はランカ・ユグドリウス。そこに居るリリーの叔母にして、深緑の国リーシアの精霊殿、その巫女長を務めておるのじゃ!」

「「「「「 ――は? …………はあああああッ!? 」」」」」
 全員が、驚愕の声を上げた。
 そんな俺たちを見るランカ……さんの表情は、実に楽しそうなもので。
 猫を被っていた『大人しい美少女』のものより親しみやすく……こちらこそが本性なのだと、素直に信じられた。
「まぁ、そんなわけなのじゃ♪ ――猫を被っておったのはお互い様、よってお互い水に流し、仲良くしてもらえると嬉しいのじゃ!」
 言って、気持ちよく笑うランカさん。その姿は、先ほどの姿よりも遥かに好感がもてる。
 よって――我々は顔を見合わせてから、頷き合い。

「「「「「 はっ! よろしくお願いします! 」」」」」

 我々は声を合せ――改めて歓迎の意を表す。
 そんな俺たちを、ランカさんは嬉しそうに眺め――その後、雰囲気を一変させ。
「……しかし。不埒な事をしおったら――容赦はせぬのじゃ。……わかっておるな?」

「「「「「 ――い、イエス・マム……!! 」」」」」

 その殺気の放ち方は……流石はリリー嬢の叔母。
 自警団と親衛隊、その両方にて恐怖政治を振るう女傑のものと同系統にして――さらに研ぎ澄まされており、背筋が凍る程の恐怖を感じた――のだが……?
 ――何だ? この妙な昂揚感は……?
 周りを見ると――どうやら俺だけではないらしく、恐怖に染まった表情でありながら、なぜか頬が紅い者がちらほらと。
 これは、まさか……?


 そんな遣り取りの後。
 どうやらこの街に、少々厄介な事態が迫ってきていると聞き。
 その話をしに、自警団詰所に戻ったところ――招かれざる客が待ち構えていた。

「いや~ん、ダーリン帰ってきたぁん♪」

「げぇっ!? スネイク……!!」
 言わずと知れたマッチョなオカマ。ブティック『どっちでもウェルカム♪』の店長、スネイク……!!
 今更ながらに思うのだが……店名の『どっちでもウェルカム』。女性ならお客様として歓迎し――男なら別の意図で大歓迎、そういう意味ではなかろうか……?
 このマッシブでアグレッシブな元・男性、かの魔王さまとの邂逅の後、この街に貢献するためにと制作活動に没頭していたため、当分出てこないと思っていたのだが……!
「あのねぇん? 私に合うサイズの下着があんまり売ってないから、自作しちゃおうって思ったのん♪ 試作品が出来たからぁ、見てぇん♪」
 そう言った脅威のオカマ、一瞬で服をキャスト・オフ。そうした現れた下着姿。
 その下着は――うん、まぁ、スタイルの良い女性が着ければ実に美しいだろう。そう『女性』なら。繰り返すが――『女性』なら!
「ほぉら見てぇん! 間近で見てぇん♪」
 明らかに、下着より筋肉を見せつけるポージングで迫りくるアグレッシブ筋肉中年オカマ――属性盛り過ぎではなかろうか?
 ジリジリ迫りくる筋肉の壁(with女性下着)に、俺もジリジリと後ずさるも――早々に逃げ場が無くなり。

「ほぉら、ダーリン観念して――……ん? ――ヒィィイイイイッ!?」

 ……迫り来ていたスネイクが、大慌てで距離をとり――顔を青くして震え始めた。
 その視線の先には……ランカさん?
「――だ、ダーリン……? その女はまさか……!!」
 もの凄く怯えた様子で言うスネイクに、ランカさんは首を傾げてから――何かを思い出したらしく、その顔が徐々に不機嫌な表情に変わって……?
「――お主、あの時の変質者か。そんな姿になってまで、まだ迷惑行為を続けておるのか……?」
 ランカさんに睨み付けられ、さらに顔を青くするスネイク。
 何故こんな状態に……と考えた所で、このスネイクが恐れる人物像を思い出した。
 ――黒髪で、小柄の少女……まさか?
「叔母上、まさか――あの者の『アレ』を『クラッシュ』したのは……?」

「――うむ。数年前、妾がお忍びで街を歩いておった時……突如、後ろから抱きついてきおった酔っ払いがコイツなのじゃ。しかも我が胸部に手を当てて――『しまった国を間違えた。これは【パイオツ帝国】ではなく【スットン共和国】だ!』などと……!!」

「「「「「 うっわー、最低…… 」」」」」
 男でもドン引きするセクハラ発言。これはブチキレられても文句はいえない。
「よ、酔っ払ってたんだから仕方無いじゃないっ! それにアンタは、そんな私の――!!」
「酔っていようと、やってはならぬ事に変わりは無いのじゃ! ……いくら妾がお忍び中であったとはいえ――巫女長たる妾にあれだけの事をした以上、その気になれば普通に抹殺もできたのじゃぞ?」
 ……確かに、国の実質的な頂点たる存在の胸を揉んだ上で侮辱など……むしろ真っ当に捕縛されていれば、命が無かった可能性も。
「何があったかは理解しましたが……どうやって『クラッシュ』したんですか? そうそう簡単に潰せるものでもない――と、思いたい代物なのですが?」
 ランカさんは華奢で、そんなに筋力がある様には思えない。
 それなのに『クラッシュ』する術があるのなら……男として、警戒すべき技術として知っておきたい。
「――うむ。妾の専門は闇聖術じゃが、一応は聖術も使えるのじゃ。しかし、術として放出する事は出来なくてな? だから――身の内に蓄え、強化する術を極めたのじゃ」
 言いながらランカさんは、その右手に光を宿し――光は徐々に光量を増し。その微かに赤みを帯びた白光は、直視すれば目を痛めそうな程までになって。

「名を――『閃光指』。我が右手で握り潰せぬものなど無い……!」

 光って唸って。握り潰して爆裂させる『光の指』。
 なぜだか知らないが――ああ、そりゃ砕けるわと、とっても納得できた。
「さぁ――スネイクと言ったか? 貴様は懲りずに、妾の友に手を出そうというのか?」
「――あ、いや、ち、違うのよ!? た、偶々なのよ!!」

「偶々だろうが関係無い……! この◆◆な●●●めが!! 今度は貴様の○○○に××××で△△△から爆裂させ、貴様を自分の□□□□□にしてやろうか? ああん?」

「――ひ、ひぃぃぃぃいいいいいいいいッ!!」
 怒涛の言葉責めを受けたスネイクは、悲鳴をあげて逃げて行った――下着姿で。
 それを見送ったランカ『様』は、手に宿した光を消し、我々に振り返り。
「かつての妾の不始末で、迷惑をかけたのじゃ。すまぬ……む? ――どうしたのじゃ? 皆、そんなに眼を輝かせて……?」
 不思議そうに首を傾げるランカ様の御姿は、先ほど罵っていた姿とは別人の様に幼げで愛らしく。故に我々は、声を揃え――

「「「「「 ありがとうございました! 尊敬いたしますランカ様……!! 」」」」」

「なぜにっ!? 妾は今『粗品』を砕いた話をしてから罵倒しただけなのじゃが!?」
 ……『粗品』て。
 しかし。ランカ様は『だけ』と言っているが、その『だけ』で我々は十分……!
 幼く可愛らしい容姿でありながら、毅然とした態度で罵る御姿。我等はその姿に魅入られた。――つまり、早い話が。

 我々は、小っちゃい子が罵る姿に至上の美を見出した……!

 己が罵られるか否かに拘わらず、幼女が罵る姿にこそ美を見出し、それを眺める事に快感を覚えるという、新たなる境地……!!
 我々を新たなるステージへと押し上げてくださったランカ様に、我々は躊躇することなく忠誠を誓うと決めた。

「……叔母上。また信者が増えましたね」
「妾が欲しいのは信者でも下僕でもないのじゃ……。普通の彼氏なのじゃあああッ!!」


幼い子供たちを見守る親衛隊『幼き神々の守護者(ガーディアン
オブ リトルゴッズ
)
』、本日の活動結果。

 ・幼女の罵る姿に美と快楽を見出すという、新しい境地に到達。
 ・崇める神々とは別枠として、忠誠の対象に『絶対女王』たるランカ様が就任。
 ・都市伝説『爆走する美しき下着のマッチョ』が発生。対応を求められる可能性大。


 ちなみに、後にリリー嬢から聞いた話によると。
 ランカ様に彼氏が出来ない理由は、その特異な容姿と苛烈な性格もあるが――何故か変な性癖を発生させ、信者や下僕となる者が多い事も、理由になっているそうな。

 ――こういうのも『人生を狂わせる小悪魔』というのだろうか……?



   ◆◆◆次回更新は8月29日(火)予定です◆◆◆

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