第四編 四章の2

作者:緋月 薙

四章の2   防衛という名の蹂躙戦と竜の救済(2)



SIDE:イリス


「――リーゼちゃん、アリアちゃん。もうすぐだよ」

 もうすぐ、この街を襲う人たちが動きはじめます。
 わたしたちが居るのは、リーゼちゃんのお部屋です。
 ここから風の精霊術で、街の門の外にいるおとうさんたちと――近づいてくる悪い人たちをみながら、わたしたちが動くタイミングを待っています。
「じゃあ――そろそろ、いこう? リーゼおねえちゃん……あのヒトたち、いる?」
「――うん、居る。……本当に、私たちを狙ってるんだね……」
 おとうさんたちが街の門の外で戦う人たちが主力ですが――すでに何人か、街の中に入っていて。
 その人たちをやっつけるお手伝いが、わたしたちのお仕事です。
 ……わたしたちを捕まえて、人質にしようとしている人たちもいます。
 その人たちは最近、ずっとわたしたちを追いかけて、見張っていて。
 わたしとアリアちゃんとウィルは、きのうからリーゼちゃんの家にお泊りしているので――襲う予定のきょうは、わたしたちを狙う人たちはみんな……お客さんとして、リーゼちゃんのお家のお店にいます。

「――ん。えっと……『いちもうだじん』……?」
「あ、あはははは……と、とにかく、そろそろ準備した方がいいね」
 リーゼちゃんがちょっぴり引くくらい、アリアちゃんは『ヤル気まんまん』です。
 ……悪い人だと分かっているのに、ずっと付いてこられたりジロジロみられても気付いてないフリをしなきゃいけないのは、わたしもとってもモヤモヤしました……。
 とにかくそれも、きょうまでですっ。
「うんっ、じゃあ動こう? ――だけどリース、大丈夫……?」
「みゅぅ……」
 訊くと、いつもはとっても元気なリースは『たぶん……』って応えました。
「……リーゼおねえちゃん。リース、どうしたんだろ……?」
「自分でもわからないみたいで――『なんだかとっても暗くなる』って……」
「みぎゃあ……」
 ウィルもとっても心配そうです。……なんとなく、この前の『日蝕』のときのリーゼちゃんを思い出しましたが――怖いわけでもないらしいので、違うみたいです。
「えっと……リーゼちゃんの『予知』は、出てないんだよね?」
「うん。――あれは危険なときにしか出なくて……自分の意思じゃ使えないから」
 残念そうに言うリーゼちゃんですが、この前おとうさんに話したら――『あれは神様の力だから……人でいるなら、むしろ使えない方が良いんだよ』って言っていました。
 それに、逆に言えば……まだ危険じゃない、っていう事ですっ。
「――じゃあ、行こっ! ……大丈夫だよ、リース。もしなにか怖いことがあったら、わたしたちが絶対まもってあげるから」
「みぎゃあっ!」
 ウィルも『ぼくもっ!』って言って、リースを励まします。
 もちろん、アリアちゃんとリーゼちゃんも、当然って言うみたいに頷いていて。
「……みゅう♪」
 リースが『……ありがと♪』って言ったところで――わたしたちは動き出します。

「――お母さん、行ってくるね!」
「あら。……気をつけてね?」
 お店をとおって外に行くのですが、その前にリーゼちゃんのおかあさんにご挨拶です。
 リーゼちゃんが言うと、リーゼちゃんのおかあさんには『これから何があるか』を話してあるので、とっても真剣な顔で言いました。
「うんっ。大丈夫だよ、リーゼちゃんのおかあさんっ!」
「――ん。……らくしょう?」
 リースと手をつないで飛んでいるウィルも『こくこくっ』って頷いています。
「――はい。行ってらっしゃい」
リーゼちゃんのおかあさんは笑顔で言ってくれたので、わたしたちは外にでる――その前に、ちょっとお店をみまわすと……居ましたっ!
「「「「「 っ。………… 」」」」」
 アヤシイ男のヒトたちが、五人。眼があいそうになると、とってもワザとらしく顔をそらしたり、口笛をふくフリをしたり、寝たフリしたり……。
 ――なんでコレで、バレないと思っているんでしょうか……?

 外に出て――同時に精霊術で、おとうさんたちの方をみると……ちょうどレオナルドさんが声をかけるところでした。――うん、ちょうどいいタイミングですっ!
 わたしたちはお店の横に行って、アリアちゃんは隠しておいた剣を持って。
 そのまま隠れていると――さっきの人たちが、ちょっと慌てて出てきたので。
「「 ――えいっ 」」
 リーゼちゃんは、闇で包んで目隠しして。わたしは精霊術で、足を土で固めて動けないようにして。トドメは――アリアちゃんですっ!
「――はぁっ……!」
「「「「「 っ! ――ごがっ!? 」」」」」
 アリアちゃんが、一瞬で五人を倒しましたっ。
「――じゃあ、あとは自警団の皆さん、お願いしますっ」
「「「「「 おおっ!! 」」」」」
 はしってきた自警団の皆さんに引き渡して――ここでのお仕事はおわりです。
「な、なにが……っ!?」
 倒した人の中の一人が、そんな声を出したとき――上から声が聞こえてきました。

『お疲れ様です。……素晴らしい手際でしたね』
『アリアも凄いね! カッコ良かったよ♪』

 エルファリアさんとルイーズさんが、上空で待ってくれていました。
「り、緑竜!? この町の竜は赤竜だったはずでは!?」
『あなた方の行動は、リーシアに居たときから筒抜けだったのですよ? ……この街に来てからは、筒抜け度合いが数段上がりましたが』
 エルファリアさんの言葉の後半が、なんだかとっても呆れた感じ――しかもなぜか、わたしに向けられている気がします……?
 わたしは……精霊さんやウィルに手伝ってもらって、悪い人たちを見張ったり。遠くとお話ししている内容を、みんなに聞こえるようにしたり……しましたけど。
「――こ、このガキどもが……ッ!」
「いつか絶対とっ捕まえ、なぶり者にしてやる……!!」
 ……自分たちがやろうとしてた事を反省もしないで、そんな事を言う人たち――
「――ねぇ、おじさんたち……?」
 わたしは、なんだか心の中が冷えていくのを自覚しながら――振りかえって、捕まっているおじさんたちをみて。

「――わたしたちを、なめないでくださいね……?」

「「「「「 ひ、ひいいいぃぃぃッ!? 」」」」」
 ……あれ? なぜか悪い人たちだけじゃなくて、自警団のみなさんもお顔がまっさおになっていますけど――まぁ、いいです。
「えっと――じゃぁそろそろ行こっ? 他のところの応援に行かないとっ!」
『――ええ。そうですね』『う、うん、そうだね……!』
 ……なんだか、エルファリアさんとルイーズさんも、お顔がひきつってます?
「――イリスちゃんが本気で怒ると、こうなるんだね……」
「……おねえちゃん、かっこいい……」
 リーゼちゃんもちょっと引いた感じで……アリアちゃんは、ちょっとウットリ……?
『と、とにかく……引っ張りあげるよー』
「あ、はい! お願いしますっ」
 ルイーズさんに応えると、わたしたちの体が浮かびはじめて――エルファリアさんの背中まで運んでくれます。
『……本当に、あなたも規格外ですよね。魔王の力を宿した精霊ですか――』
『あ、あはは。でも本物ほどじゃないし、自分だけじゃ何も出来ないんだけどねー』
 ルイーズさんが、精霊なのに物が持てるって分かって。それを、ランカちゃんとエルファリアさんが色々調べて――使えるようになったのが、この能力です。

 ルイーズさんは他の精霊さんみたいに、術になるような【力】を出すことは出来ないそうです。ですが代わりにあるのが――『【力】の向きを操る力』。
 物を変質させてしまう『魔王の残滓』。それをいっぱい取りこんだことが、この能力になった原因だそうなのですが……。
 石や術が飛んできた場合、『向かってくる力』の向きを変えて相手に返したり。
 術などの『外に広がる力』を変えて、消滅させたり、圧縮して強化したり。
 ……ですが生き物に影響を与えようとした場合、無断でやると無意識に抵抗されるらしくて上手くいかなかったり。
 大きい物に影響を与えようとすると、とっても大変みたいだったり。
 すでにある【力】、それも向きだけしか操れないため、【力】を直接増やすことは出来なかったりと、制限はいっぱいあるみたいです。

『――生き物に直接干渉出来ないのは……体の内圧や心筋に干渉して「お前は既に死んでいる」とか出来なくて、むしろ良かったけどね』
『そのネタは知りませんが……それでも我々の【裁きの吐息】を「――えいっ」で無力化されるのは、ちょっとした悪夢ですよ……?』
 ……そういえばこのお話をレミリアさんが知ったときも――『古代の物理知識を持つルイーズさんにその能力――最良にして最悪です』って、まっさおになっていました。

 ちなみに今は……『重力』?
に干渉して浮かび上がらせている――そうです?
「それでは自警団の皆さん、後はよろしくお願いします!」
 リーゼちゃんが言ってから、エルファリアさんの背中に乗って。
 さあ出発――っていうときに、自警団の人たちの声が聞こえてきました。
「……イリスちゃんが怒ったとこ、初めて見た」「……調子に乗るバカがでないよう、気を付ける必要があるな」「……踏まれたい」
 ……『踏まれたい』って、どういう意味でしょうか?
「とにかく――はやくみんな、やっつけよう?」
『あれ? アリア、なんだか凄くやるき満々だね?』

「……ん。あんなヒトたちがいなくなれば……おかあさんたちは、あんしんして、ずっと『仲良し』してられる……!」

 ……昨夜。エリルくんの訓練がどうなったか気になって。
 精霊さんにお願いして調べてもらったら、精霊さんは――
『え、えっと――フィアナおかあさんとカリアスおとうさんは今【とっても仲良し】中だから……訓練はもう終わってるみたいだねっ! ………………ふわぁ』
 それを聞いたら、アリアちゃんもリーゼちゃんも、お顔があかくなってました。

「――へ? あ、アリアちゃん『ずっと仲良し』って……ッ!?」
「……リーゼおねえちゃん。そういういみじゃ……ないよ?」
 そんなお話をしながら――ハールートさんとも合流して。
 街の中で暴れる悪い人たちを、やっつけて回りました。
『……女子らしい話を「きゃーきゃー」と話しながら蹂躙する様は、敵に少々同情してしまいそうになる程じゃった――』
 ――後にハールートさんは、そんな事を言いました。

      ◆      ◆

「――みゅっ!? みゅうっ! みゅうぅぅ……ッ!!」
 だいたい片づいて――おとうさんたちの様子をみようかなって思っていたところ。
 大人しくしていたリースが、とつぜん騒ぎはじめました……!?
「ど、どうしたのリース!?」
「みゅう! みゅうみゅうみゅぅっ……!!」
 リースは鳴いて――いえ、『泣いて』言っています……!?
「『あの子だ! ずっと「助けて」って言ってたんだっ……!!』って……」
 リースが見つめているのは――街の外。おとうさんたちが居る方です。
「『あの子』って、なにが――……ッ!?」

 わたしたちが見ている先で、地面が盛り上がって――『それ』が、出てきました。

「……くさった、りゅう……?」
『――ドラゴンゾンビ……元になったのは、私と同じ緑竜ですか……!』
 大きい……だけど多分、エルファリアさんよりは少し小さい竜。
 だけどその竜は……骨や肉がみえていて。それなのに動いている――アンデッドで。
『……どこぞに封印でもされていたのを引っ張りだしたか。……どこまでも見下げ果てた者たちよ。――大丈夫か、エルファリア?』
『……ええ。お気遣い、ありがとうございます、ハールート』
「私が感知できないっていう事は――『空間隔離』もかかっているみたいですね」
 わたしたちが話している前で、その『竜』は『黒い光』を放って――おとうさんとフィアナさんが『神術』で防ぎました。
『……負けはせぬだろうが、カリアスたちだけでは厳しかろう。――行くぞ』
 わたしたちに任されたお仕事は――『街中の敵の排除と支援』。
 それと……『非常事態への備え』。
 排除が難しい敵や危険な術を、『裁きの吐息』や『神術』で処理するお仕事。
 あれにたとえ『空間隔離』がかかっていても、私とリーゼちゃんの神術なら――

『――待って? リースちゃんが言っているのが【アレ】なら…………意識が、残ってるの? あんな状態なのに!?』

 ルイーズさんの言葉に――エルファリアさん以外の視線が、リースに集まりました。
 リースはその竜を見ながら、ずっと泣いていて。
「みゅうみゅう、みゅう! みゅう……!!」
「『「痛い」「苦しい」「悲しい」「寂しい」、って!
「助けて」って泣いてるの……!!』って……」
『『『「「 ……ッ!! 」」』』』
 ――あんな状態でも『心』が残っていて。ずっと苦しみ続けている……?
 ……わたしたちの神術は、狙ったモノを消し去る術です。
 ですが消した先は、知りません。
 もし万が一――死ねないのなら。ずっと苦しみ続ける……?
「エルファリアさんっ! あの竜を――せめて『救う』方法、ありませんかっ!?」
 あの子を助けるのは……生きさせるのは、無理です。
 なら、せめて――苦しみからは確実に解き放ってあげたいんです……!
『……アンデッド化している以上、魂まで汚染されています。あれでは普通に倒すだけでは、まともな生命として生まれ変わる事は……。神術で魂もろとも消し去り――消えた後で、その魂が無事に輪廻の輪に乗る事を祈るぐらいしか……』
 エルファリアさんも、悲しそうに言います。だけど……あきらめたくありません!!
「『もしかしたら』でも――『こんな奇跡があったらいいな』とか、そんな話で構いません!! 本当に、何もありませんかッ!?」
「みぎゃあ……」

『……一つだけ。本当に、夢想に等しい事ですが――』

「ッ!? 言ってください!!」
『――上位の竜は死期が近づくと、己の魂と生命力を分割し、己の分身とも言える卵を遺す事ができます。これをもし、外部から促すことが出来れば……』
 話を聞きながら――リーゼちゃんと顔を合わせ、頷きあいます。
「みゅうぅっ……」
 リースも、まるで祈るみたいに、お話をきいていて。
『……魂の汚染されている部分のみを切除、浄化。その後、喪失した正常な生命力を補填(ほてん)させ、定着させる事ができれば――疑似的な転生と言えるかもしれません』
 話を聞いて――考えます。
 わたしだけでは、絶対に無理です。わたしとリーゼちゃんだけでも……多分無理です。

 ――だけど、もしかしたら……?

 ――わたしは、おとうさんたちとお話しするため、転送珠を取り出しました。
「――おとうさんっ! あの竜を……!!」
『うん。あの攻撃は僕たちが防ぐから――お願いできるかな?』
 おとうさんが落ち着いた声で、そう言います。
 ……でも、違うんです。倒すだけじゃダメなんです。だから――

「――あの竜さんを助けたいんです! だから……おとうさん、おかあさん! お願いします、手伝ってください……!!」

『『 ………… 』』
 おとうさんたちが、息を呑んだのが聞こえました。
 ……もしかしたらダメかもって、そう思いましたが――すぐに笑い声が聞こえて。
『いいよ。全力で手伝ってあげるから――思いっきりやってみな、イリス』
『フォローも後始末も引き受けるわよ? だから――心置きなく、全力で行きなさい!』
「 ! ありがとう、おとうさん、おかあさんっ!!」
 ……信じてもらえたのなら、あとは全力でやるだけですっ!
「――あの子を、絶対助けようっ……!!」

      ◆      ◆

 精霊さんに頼んで、みんなでお話しできるようにして。作戦を考えて――

「……ごめんね、エリルくん、アリアちゃん。多分、一番キケンな役だけど――」
「ん? ――ああ、いいよ。……アレを助けたいって言い出したの、リースなんだろ? なら、俺が何もしないわけにはいかないし、な?」
「 ! みゅうっ……♪」「……ありがとう、エリル君」
「……ん。わたしも――このくらいできないと、『おねえちゃんをまもる』とか、いえない。それに――たよってくれて、うれしいよ?」
『――大丈夫。危なくなりそうなら、私が何とかするから――ね?』

 わたしたち――わたしとリーゼちゃん、ウィルとリース、アリアちゃんとエリルくん。そしてルイーズさんが居るのは、あの竜――ドラゴンゾンビの真上。
 ルイーズさんの能力で浮いて、闇聖術と精霊術で隠れています。
 そんなわたしたちに、声が届いてきました。
『――変態的な能力を手に入れたからと、調子に乗るのではないぞ、ルイーズ』
『わかってる。……気安く人の命を抱えられるほど、無責任じゃないつもりだよ。――っていうか【変態的】って何かな【はー君】!?』
『――は、【はー君】呼ぶなと言うておろうが!? ……とにかく、こちらの準備は出来ておる。いつでも行けるぞ』
 ハールートさんは距離をとりながら、竜のまわりを飛んで――注意を逸らしていて。
『ルイーズ? ウチの子たちを預けるんだから――ケガでもさせたら、あの趣味バラすわよ? 作品もろもろ全部』
『い、いやああああああッ!? だ、大丈夫! 誰にもケガさせないから……!!』
『こんな時でも、本当に楽しい方々ですね……♪ ――こちらも、いつでも大丈夫です』
 おかあさんとエルファリアさんは――少し離れた原っぱに。
『こちらも……大丈夫。――ハールート、あなたのタイミングで仕掛けてください』
 おとうさんは――竜の正面。……始まるまでは、一番あぶない場所です。

 そして――始まります。
『では、ゆくぞ……ッ!!』
 その声と共に――ハールートさんが『裁きの吐息』の準備を始めます。
 それに気づいた竜が――『死の吐息』の準備を始め――
 ほぼ同時に放たれた二つの『吐息』は、真ん中でぶつかって押し合います。

『今度は僕の番ッ……!』
 おとうさんは剣を――聖殿騎士の『輝剣』を構えて。
 だけど、そこに宿すのは聖術だけじゃなく、闇聖術も。
 光と闇がまざって……光も出さない、ただの『しろ』が『輝剣』を覆って。そしてそれが大きくなって――おとうさんは、それを放ちました。
 ――神術『裁きの神槍』。
 世界でおとうさんしか使えない、おとうさんの切り札です……!
 全ての防御が意味の無いその術は――『空間隔離』も抜けて、竜の背中を抉って空の彼方に消えていって――

「――わたしたちのばんっ……!!」
「ああ! ルイーズさん!!」
『了解! 気をつけて!!』
 攻撃を受けた竜が『死の吐息』を止め、おとうさんをみて……そのタイミングで。
 ルイーズさんの能力で、アリアちゃんと、少し遅れてエリルくんが飛んで行って――
「――やぁああああッ!!」
 おとうさんが抉った、竜の背中。そこにアリアちゃんが剣を突きたて、さらに火の精霊術の火球を何発も当て、急いで離れて。
「――あったっ! これで……ッ!!」
 大きく抉れた背中の中に――黒い箱のようなものがあって。
 それにエリルくんは――『光る剣』を突きさして――
 ――聖術『聖輝刃』
 おとうさんの得意技で――本当は、聖殿騎士にしか使えない術。
 それが、黒い箱を完全にこわすと――竜の『空間隔離』がきえました!

 リリーさんたちが、捕まえた人たちから、あの竜のことを聞き出して。
『空間隔離』は後づけで、装置を竜の背中に埋めこんだ、っていう話でした。
 ここからは『神術』を使いません。だから――さきに『空間隔離』を剥がしました!

『行きます、フィアナさん』
『ええ、いつでも……!』
 エルファリアさんの精霊術で、竜の下の地面が盛りあがって――高く持ちあがって。
 地面から力を集めることが出来なくなり、さらに陽の光の中に晒された竜に――おかあさんが術を使います。
 聖術と精霊術の融合――聖霊術『浄炎』。
『残滓』の影響を受けたところだけを焼く、浄化の炎。
 わたしも練習中ですが――今はおかあさんしか使えないその術は、光りながら竜をつつんで、力をそいでいきます。

 そして――わたしたちの番です……!!
「ウィル、いくよっ!」「リース、お願いっ!!」
「みぎゃあ……っ!!」「みゅぅぅううッ!!」
 フィアナさんの術で体を浄化され――浮き上がりかけた、残滓に汚された竜の魂。
「掴んだっ! 行くよイリスちゃんっ!」
「うんっ!」
 リーゼちゃんとリースが闇聖術で、汚れた魂を削っていって。わたしとウィルは――魂が消えないように、壊れないように、聖術で支えて――だけど……!
「っ!? 無事な部分が少ない――このままだと……!!」
 これ以上削ってしまうと――力をそそいでも、魂のほうがもちません!
「おかあさん、おとうさんっ! 魂が消えちゃいそうなの!! 何か良い方法は無い!?」
『っ! ――具体的に教えて。今はどうなってるの? 必要なのはどんな術?』

「必要なのは魂を癒す術じゃなくて……『魂を作り直す』、そんな術です……!」

『――っ! フィアナ! イリスの時の儀式、使えない!?』
『えっ!? ……間に合えば有効かもしれないけど、精霊の力を集める時間が――いえ、有る! いけるわ!!』
 おかあさんがそう言って、視線を送ったのは――ハールートさんとエルファリアさん。それに……わたしのときの儀式?
『え? ……そういう事か! ハールート! エルファリア! 合図に合わせて【裁きの吐息】を撃ち込んでください!! 説明は後でします!!』
『ぬ!? う、うむ、わかった! やるぞエルファリア!!』
『は、はい! ――あなた方に委ねます。我が同族を、どうか……!!』
 え……? ――まさか、精霊の力を『裁きの吐息』で撃ちこむ気ですか!?
「か、カリアスさん、フィアナさん! 大丈夫なんですか!?」
 リーゼちゃんが言うとおり、乱暴にもほどがある方法です。わたしとリーゼちゃんで支えられるかどうか――
『――大丈夫かはわからない、だけど……今から試すこの術は、イリスの魂を作った時の術だよ。手順の子細(しさい)全て、僕とフィアナが忘れるはずが無い』
『魂を補填する作業は、全てこっちでやるわ。だから――あなたたちは、自分の役目だけを果たしなさい。――子供のフォローは、親の仕事でしょ?』
 そう言って、凄い速さで術の陣を描きながら……笑顔をみせてくれる、おとうさんとおかあさん。……嬉しくて。ちょっと涙がでて。
 だから……この子は、助けます!
「リーゼちゃん、ウィル、リース。――絶対助けるよ……ッ!!」
「うんっ!」「みッ!!」「みゅう!」
 わたしたちが、改めて心を決めたとき――準備が、終わったみたいで。
『術陣の用意終わったわ! いつでも!!』
『了解! ハールート、エルファリア、用意を!! ――3・2・1・今!!』

 おとうさんの合図で、二本の光の柱が撃ちこまれました!

 一本でも地形を変えるその光は――だけど何も壊さず、ただ光の塊になって、竜の魂を包みこんで――これならいけます……!!
「一気にやるよ、イリスちゃん!」
「まかせてっ、絶対にささえてみせるから!」
 光の塊の中で、リーゼちゃんが掴んだ竜の魂から、汚れた部分が全部消えて。
 消えた部分を――おとうさんたちの術から補って、傷付いた魂を治していきます……!
 二本の光の柱は消えて――代わりに光の渦が……地上にもう一つの太陽がうまれた様に、光輝いて。
 そんな時――声が、聞こえた気がしました。
 ――『もう、苦しまなくていいの?』『これで、終わりなの?』って。

 ……もう苦しまなくていいよ。だけど――まだ、終わらないよ?

 ――『終わらないの?』『まだ、終わらせてくれないの……?』
 返ってきた、そんな悲しそうな声に。わたしも返します。
 ――あなたは、また始めるんだよ。
 大丈夫。こんどは、優しいヒトが、いっぱい居るから。
 そう伝えると――微笑んだような気配が伝わってきて。
 だからわたしも――笑顔で、伝えます。

 ――やすらかに、眠って? そして――またね?

 それと同時に。光の渦から、真上に光の柱が生まれて。
 それが消えたとき。そこには……ガラスのように透明な卵が。
 そして――その中に、まるで微笑む様に輝くそれは……。

『新しいイノチ』だって、すぐに分かりました――



   ◆◆◆次回更新は9月1日(金)予定です◆◆◆

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