第四編 幕間の4 キレイに心を折る五つの方法。

作者:緋月 薙

幕間の4   キレイに心を折る五つの方法。
(※今回は 終章 生まれるイノチとキレイなセカイ と合わせて2話分の更新になります)



(SIDE:アナザーズ)


 エドです。お気楽な変態集団たる親衛隊に所属しています。
 幼い少女(可愛ければ少年も可)を女神と(あが)める我々ですが――最近、それとは別枠で、絶対的な忠誠を誓う女王様が誕生しました。
 ――永久名誉幼女、ランカ・ユグドリウス様。
 永き時を幼女の姿のまま生き、(ののし)る姿が実に美しい彼女を――親愛と敬意、そして被虐(ひぎゃく)嗜好(しこう)を込めて『女王様』と呼ぶ事にした我々。
 こうして我々の性癖――もとい活動は、新たなるステージへ……と、行く前に。
 イグニーズの街は現在、少し厄介な事態になっています。

「――いよいよ、戦いは明日に迫った! 皆、そんな装備で大丈夫か!?」
「「「「「 大丈夫だ、問題無いッ!! 」」」」」

 ――ただの確認のはずなのに、不吉な遣り取りの気がするのは何故だろう……?
 ……とにかく。明日、この街に『大地母神教・過激派』の面々が襲撃を掛けて来る。
 奴らの狙いは遺跡と、幼い聖竜たち。そして――我々が『女神』と崇めるリーゼちゃんとイリスちゃん。
 遺跡の中で人間から精霊(っぽい何か)になったルイーズ嬢の存在を知り『再現できれば失われた【大地母神】を造り出す事もできるのではないか』という企みらしい。
 そのために……我らが崇める存在を実験台にしようとする奴らを、我々は決して許しはしない。

 ……ちなみに、何故分かっているのかと言うと。
 我等が『女王様』たるランカ様は、大地母神教の中心地『深緑の国リーシア』の精霊殿、その巫女長。
 その彼女が、同じくリーシアの守護竜エルファリア様と共に、奴等の計画を掴み。それを潰すため、この街に協力を求めて来た、というわけで。
 さらに……先行部隊が既にこの街に潜入しており。そいつ等と本隊との通信を傍受しているため――計画の詳細どころか人員の数、更にはランカ様を経由してリーシアの記録を調べる事で、メンバーの素性等も完全に調べ上げられていた。
 ……調査要員が『どこまで調べられるんだろう♪』とノリノリに悪ノリしまくった結果らしいのだが――それが今回の作戦に大いに役立つ事になったわけで。

「――さて。我等が敬愛する女王様・女神様方のお蔭で、奴等の計画を丸裸にする事が出来た。――来ると分かっているテロ行為など、恐れるに足らん!!」
「「「「「 おおおッ!! 」」」」」
 レオナルドの言葉に、皆が賛同の声を上げる。
 奴等はこの街に無差別な破壊を撒き散らし――さらにあろう事か、我等が女神様たちを害そうとしている。
 ……そんな奴等に情けを掛けようとする者など――この場に居るはずもない。
「故に! 大罪を犯さんとする愚かなる者など、一人残らず抹殺――」
 明日、我等はその怒りを、神敵たる『大地母神教・過激派』に叩き付け……るのだが。

「――抹殺、出来ればよいのだが……知っての通り、それは出来ない」

 ……レオナルドがトーンダウンして言う通り、皆殺しは不可。というか――可能な限り生け捕りが望ましい、という事になっている。
「我等はテロを未然に防ぐ。そのため――証拠は押さえているとはいえ、我々が先制攻撃を仕掛けるという形になる。これで皆殺しにしてしまえば……たとえ正当性はこちらにあろうと、騒ぎ立てる者が出てくる。そして何より我等が女王ランカ様は『他国に頼んで自国民を殺させた』等と、政敵に騒がれる可能性が高い」
 たとえ単なる言い掛かりだろうと、隙があればトコトン足を引っ張りに行く。そんな生臭い政治の世界は、どこの国でも同じらしく。
 だから、極力殺せない。しかし――それでは我等の怒りは収まらない。よって……!

「よって我等は殺さず――代わりに、奴等の心を完全に打ち砕く!!」

「「「「「 殺す! 殺すッ! 心を殺~すッ!! 」」」」」
 こちらには大地母神教の頂点たる巫女長ランカ様がおられる時点で、奴等に明るい未来が無い事はほぼ確定している。
 よって防衛・防犯という意味では捕らえるだけで十分なのだが……テロなどという愚かにして外道の極みな行為を行おうとした者たちは、再犯はおろか――二度と反抗する気力も出せない程、完全に心を折ってみせる……!
 その為に……調査要員が過剰なまでに調べ上げた、奴等の個人情報が役に立つ。
「奴等にはカリアス殿やハールート殿、さらに上の聖殿の方々、極め付けはお優しい女神様たちもブチ切れており……その上で『処罰は死なない範囲で任せます』とのお達しがあった! ――意味はわかるな!?」
「「「「「 廃人までなら大丈夫……ッ!! 」」」」」
 無差別殺傷を計画していた奴等を、庇う者は居ない。更には――この国の頂点たる教皇と聖殿騎士団長は、イリスちゃんたちの身内。……私情の面でも許されようはずはない。

 つまり――怒りで暴走する変態自警団たちに、最早ストッパーは存在しないわけで。

「罪人には処罰を! 愚か者には屈辱を!!」
「「「「「意地は折るモノ! プライドは踏み潰すモノ!! 」」」」」
「我等の神に仇なす『自称・信徒』な外道共に、己の愚かさを分からせてやれ! 奴等に希望は一欠片とて残さない!!」
「「「「「 おおおおおおおおおおッ!! 」」」」」
 レオナルドの音頭により、親衛隊員の結束とテンションは最高潮にまで高まった。
 ……勇ましい発言にも聞こえるが――我等が崇める神が『幼女』という事を考えてしまうと、少々台無しになる気がしなくもない。
「――さて。ここで団長とランカ様と最後の打ち合わせをして、明日に備えるつもりなのだが……団長たちが来ないな。――エドよ、すまんが様子を見に行ってくれないか?」
「ん? ああ、心得た」
 レオナルドに頼まれ、団長たるリリー嬢と、女王にして精霊殿の巫女長たるランカ様が打ち合わせしているという部屋へと向かう。

 ――ん? 声が……女性三人分?
 その部屋の前に着くと、部屋の扉は半分開いていて。中からは三者の声が。
 ――リリー嬢とランカ様、それとこの声は……ルイーズ嬢か?
 自ら『精霊っぽい何か』と話す通り、物理的な束縛の無いルイーズ嬢は、その気になれば何処に現れてもおかしくない。
 さらには持ち前の『人たらし』的な能力で親衛隊の面々とも馴染み、リリー嬢とはすっかり友人に、ランカ様とも気安く話せる中になっている以上、居る事に不思議は無いが。
 どうやら……話し合いが白熱し、時間を忘れている様子。


『だからさ――ランカちゃん? 高望みしなければ、もういくらでも選べるじゃん。彼氏作る気なら、自分からも動かないと……』
 若干、うんざりしている様子が(うかが)える、ルイーズ嬢の声。
 ……余談だが、ルイーズ嬢は我らが女王様を『ランカちゃん』と呼ぶ。
 話によると、かのトリティス教の教皇の事も『レミリアちゃん』と呼ぶらしい。
 ――二大宗教の頂点を『○○ちゃん』と呼ぶとか……。
「し、しかし……そういうのは男性の方から来て欲しいのじゃ。恥ずかしいのじゃ……」
「なんでそんな所だけ乙女なんですか!? ……叔母上、そんなだから『鋼鉄の処女(アイアン・メイデン)』とか言われるんですよ? ……きっかけと現状の関係はともあれ、出会いは生まれたのです。あとは叔母上から距離を詰めないと、いつまで経っても『女王様と下僕』ですよ?」
 ――『鋼鉄の処女』……たしか拷問器具の名だったか。……良くも悪くも男っ気が無い事と、敵には容赦しない苛烈な性格。その両方からとった二つ名か。
「しかし……皆は妾の『罵る姿』を崇めているようなのじゃ。――つまり幼女の姿で罵る者ならば、妾でなくとも良いのではないか……?」
「……叔母上。『罵る姿が様になる幼女』なる存在、そうは居ないと思いますが……?」
『それに、容姿も武器の一つでしょうに。昔のエラい人は言いました。【貧乳はステータスだ】と。ランカちゃん固有の武器が気に入られているなら、それでいいじゃん』
「……『貧乳はステータス』と言うのなら、リリーの爆乳は大看板なのじゃ」
「――話を逸らそうと私に飛び火させるの、止めていただけません? あと『巨』は諦めてますが……『爆』は止めていただきたいのですが?」
「――ソレハソレハ、すまなかったのじゃ(爆)」
「……謝罪がぞんざいな上に、何故か少々『イラッ』としたのですが?」
 ……女性同士の恋愛談義、の様だ。
 ランカ様は、こう……色々と拗らせ気味な感じだが。
 とにかく――この手の話をいつまでも聞いているのは失礼だろう。
 皆も待っている事だし、そろそろ声を掛ける事にした。
「――すみません団長、ランカ様。お話し合いは終わっていますか?」
「っ、と。――もうこんな時間でしたか。遅れてすみません、今向かいます」
 そう応えたリリー嬢が、部屋から出てくる――その前に、ルイーズ嬢が現れて。
『ねーねー、エドさん? エドさんも、ランカちゃんを【女王様】って崇めてるよね? それって――罵る幼女が他にも居れば、その子でもいいの?』
 この問いは……もしかしなくても、先ほどの会話の続きだろう。
 ――それならば特に取り繕う必要も無く、事実を告げれば事足りる。
「いえ。『美しく罵るランカ様』だからこそ崇めており、代わりは居ません。それは皆も同じのはずで……現に元から『幼女専門被虐趣味』だった者もいるのですが、その者もランカ様を『唯一』『至上』と崇め、いつか罵られたいと日々祈っています」
 俺が躊躇(ためら)いもなく答えると――それを聞いたランカ様は。
「う、うむ、そうか。……ありがとうなのじゃ」
 少し頬を染め、安心したような表情で、そう言った。
 ――ランカ様の罵る姿は至上だが……こういう幼女(外見は)らしい表情と仕草も似合っていて、なかなかに愛らしいと思う。
『――ランカちゃんが喜んでるから良いけど……友人として、あまり喜んじゃいけないセリフだった気がするのは気のせい……?』
「……この建物の中では、常識とか気にするだけ無駄です。実害が無いならスルーを推奨します。……じゃないと疲れ果てます」
 そんな会話が聞こえてきたが……今更な話なので、それこそスルー。
 話を変えるためにも、少し真面目な話をしようと思う。
「ところで団長。今日はこれから、何を話すおつもりで? 明日の作戦に関しては既に決まっていますし、何の打ち合わせを……?」
 明日の作戦については、もう可能な限りの準備はした。細かい打ち合わせも完了している。この状態でリリー嬢とランカ様は何を話し合っていて――何を我々に話すつもりなのだろうか?
「――まぁ、皆さんと話す事は打ち合わせではなく……一足早い公表、ですね」
「公表、ですか……?」
 見当も付かず困惑する俺に、リリー嬢は苦笑いをして……口を開いた。

「――最近判明した、イリスちゃんとリーゼさんの素性。それを、皆さんには先に公表しておこうかな、と」

      ◆      ◆

「それでは自警団の皆さん、後はよろしくお願いします!」
 我々にそう言い、緑竜エルファリアに乗って去って行くイリスちゃんたち。

 自警団と親衛隊、その他の有志冒険者も含む防衛戦力は、レオナルド率いる約半数が街門の外で、カリアス殿たちと共に敵の本隊を迎撃に。
 残る半数はリリー嬢を司令塔とし、街中に潜むテロ要員たちへの対処。俺もここに含まれる。
 俺の班は――敵が最初に行動を起こす場所、女神様がた(イリスちゃんたち)の拉致を企てる面々への対処のため、リーゼちゃんのご実家たる食事処の前に潜んでいたのだが――

「……イリスちゃんが怒ったとこ、初めて見た」
「……調子に乗るバカがでないよう、気を付ける必要があるな」
「……踏まれたい」
 惚れ惚れする手際で男五人を制圧。
 そして己の所業を省みずに罵詈(ばり)雑言(ぞうごん)を並べる男たちを――静かな、それでいて凄絶(せいぜつ)な怒りの籠った一言で黙らせたイリスちゃん。
 最近、被虐嗜好に目覚めた者たちは、頬を赤らめながらそんな事を言い、飛び去って行く女神様たちを見送った。

 さて、この男たち。イリスちゃんの怒りに触れて震えあがっているが……このまま大人しくしているのなら楽ではあるのだが――
「――くっ! この私がこんな所で捕まってたまるか……ッ!」
「「「「「 何ッ!? くっ! 貴様、待て―― 」」」」」
 全員を縛り上げていたのだが、内一人が密かに縄を切断。隠し持っていた煙幕玉を使い逃げ出した……!
「くっ、奴は何処に行った!?」
「東方向! おそらくは公園を抜け、別グループと合流を図ると思われる……!」
 班員の報告を受け、俺は――ニヤリと、我ながらいやらしい笑みが浮かぶ。

「――そうか。予定どおりだな」
「「「「「 そうだなっ! 」」」」」

 俺の言葉に、班員が揃って賛同した。その一方で、捕らえられたままの地面に転がっているテロリストの残り四人は、話が理解できていようはずもなく。
「「「「 ……へ? 」」」」
 揃って『悪~い笑顔』を浮かべる俺たちを見て、男たちは呆然とした顔で声を漏らす。
「――貴様らの素性、全部調べさせてもらったんだが……お前ら五人の中だと、アイツだけは妙にプライド高そうでな」
 そう簡単には、大人しくしてくれないだろうと思った。だから――罠を張った。
「……大人しくしてもらうために――今からヤツのプライドを砕く。大人しくしていれば良かったと、反抗する気など起きない様にな……!」
「「「「 ――ッ!? 」」」」
 戦慄(せんりつ)の表情を浮かべる四人の前で、通信珠を取り出す。
 そこから聞こえる音声は――逃げ出した男の懐に密かに仕込んだ、音声送信専用の通信珠からのもので――もちろん密かに追跡している者は居るが、こちらの方がクリアな音声をお届けできる。

『――はぁはぁ……こ、ここまで来れば大丈夫か……?』
 警戒しながらも、微かに安堵が混ざる男の声。
 しかし――当然、安堵にはまだ早い。むしろ、ここからが本番。
『っ!? ぐ、ぐおっ! は、腹が急に……っ!? た、確か公園にトイレが……っ!』

「くっくっく……丁度良いタイミングだな」
「き、貴様等まさか……!?」
 腹痛に苦しみだした音声を聞いて『にやり』と笑う俺たちに、囚われの男の一人が――己の腹部を気にしながら、戦慄と怒りの表情を向けてきた。
 先ほど男たちが飲食していた店の店主――リーゼちゃんのご両親は、愛娘たちを害そうとする男たちに大層ご立腹。我々の協力要請にしっかり応えてくれた。
「――ああ、安心しろ。薬を仕込んだのはヤツのモノだけだ。それも毒ではなく、とてもお通じが良くなるだけのお薬だ。……走ればさらに効果が上がるらしいがな?」
「「「「 ッ!! 」」」」
 いくら凶悪犯討伐のためとはいえ。飲食店経営者の倫理として『【毒】の混入は承服できません。せめて【薬】で』との事だったが……効果は下手な毒より凶悪だと思う。

『――あ、あった! トイレ――なっ!? す、全て使用中だと……ッ!?』
 その公園の中に、トイレは一カ所にしかない。そして――走ってきたヤツには最早、公園外のトイレを探す余裕は無いはず……!
『ぐ、ぐおおおおッ!? た、頼む! 誰か早く出てくれ……!!』
 苦悶しながら祈るような声と共に、必死に扉を叩く音が聞こえる。
 そして――『ガチャッ』という鍵が開く音と、第三者の足音。
『ッ! た、助かった……!!』
 ……どうやら、空いた個室に飛び込めたらしい。
 今この瞬間、ヤツは恐らく天国に到達したかの様な気分だろう。しかし――甘い。

『……へ? べ、便器じゃない!? ただの椅子だと!? あ、あ、あああああ……ッ!!』

 ――キレイに心を折る方法、その一:腹痛狂想曲・天国から地獄。

 絶望に打ちひしがれた声が出た所で――俺は通信珠の音声を切った。
「――ちなみに。個室から出ようとしたら使用待ちの列が出来ている、というダメ押しが待っている。プライドが高いヤツの心は耐えられるかな? くっくっく……」
「「「「 き、貴様! それでも人間か!? 」」」」
「外道には外道で返すのが我等の流儀!! ――さぁ、愚かな真似を企てた者共よ。抵抗するならそれでも良し。貴様等の心もバッキバキに砕くのみ……!!」
「「「「「 ひっ!? す、すみませんでした! ――だからトイレ行かせてください!! 」」」」」
 ……下剤は飲ませていないはずだが、危機感からか便意に見舞われたらしい。
 そんな男たちを一瞥してから――不測の事態にも対応できる様に連行要員を少し多めに残し、俺たちは次の現場へと向かった。


「――そっちに行ったぞ!」
「包囲に加わる! 任せろ!!」
 逃げる男たちを追いかける別の班に、援軍として参加。
 ちなみに、俺たちは声を掛け合って動いている様に見せかけて――実際は、司令塔たるリリー嬢の指示により動いている。
 精霊術による俯瞰視点で監視、通信珠で連絡を取っているため、テロリスト共が逃げられるはずは無く。
 声を上げているのは、むしろ我々の存在を相手に教え、ある場所に追い込むため。
 そこは――以前の日蝕の際、魔物が湧いた廃屋敷があった場所。
 今は更地になっていて――そこに、なぜか『土砂の山』がある。

「――っ!? 追い込まれた、か。……同志たちよ、覚悟を決めよう。我等の命尽きるまで、戦い抜いてやろうぞ……!!」
「「「「 おおお……ッ!! 」」」」
 この男たちは、役所の制圧を狙っていた者たち。追い込まれたにも(かか)わらず、リーダーの指揮の下で戦意を衰えさせない事からも、かなりの練度だと分かる。
 しかし――もう詰んでいる。

「――なかなか勇敢な事で。しかし……いつまでもつかな?」
「はっ、戯言(ざれごと)を! 我等は死の瞬間まで戦い続ける……!!」
 そう言う男の後ろで――『土砂の山』が、音も無く動き始め。
「それは結構な事で。――後ろを見ろ」
「……は? 後ろが何だと――……へ?」
 リーダーの背後……振り返った顔の間近に、巨大な赤き竜の顔があった。
 それはもちろん、土の精霊術で土砂の山に擬態していたハールート殿で。
「………………コンニチハ」
 リーダー、顔を強張らせたまま、なぜか甲高い声でご挨拶。
 配下の男たちも、表情を凍りつかせたまま見守る中――赤竜ハールートが口を開く。

『――オレサマ、オマエ、マルカジリ』

「ぴ、ピャアアアアアアァァァァァ……(がくっ)」
「「「「 り、リーダーッ!? 」」」」
 間近で、牙を見せつけられながら言われたリーダーは……奇声を上げながら、恐怖のあまり意識を手放した。

 ――キレイに心を折る方法、その二:振り返れば古竜(ヤツ)が居る(無音で直近)。

 古竜への恐怖と、信じていたリーダーの脱落により、残りの男たちはアッサリ投降。
 そんな男たちを縛り上げながら――ハールート殿に訊く。
「ハールート殿、さっきのセリフは何ですか……?」
『む? ……いや、ルイーズから「こういう時の様式美だ」と教えられたのだが――』
 ――そういうもの、なのだろうか……?
 古代の文化に詳しくはないため、ツッコミを入れる事も出来ず――街外の戦いの援軍に行くハールート殿を見送ってから、俺たちも次の現場に向かった。


 次に向かった場所は――もう追い込みが済んでいた。
「「「「「 …………ッ! 」」」」」
 袋小路に追い詰められている者たちは……各々の武器を構え、反抗的な目つきで我々を睨みつけており――反省の色はおろか、諦めている様子も全く無い。
「――お疲れ様、だ。あいつらが……テロ実行予定だった者たちか」
「ああ。直接、民衆に手を下そうとしていた者たちだ」
 事前情報を知らなければ、どれだけの被害が出ていたか分からない。こういう奴等こそ、キッチリと心を折っておきたいのだが――その執行者は、空から来た。

『――ねぇエルファリア? 実際ハールートとは今、どんな感じなの?』
『そうですねぇ……多分、ある程度の好意は持っていただけていると思うのですが、あまり進展は無いです。ご存じの通り恥ずかしがり屋なので――そこも可愛いのですが♪』
「――ん、ハールートのそういうトコ、ほんとうにかわいい……」
「あ、わかります! エリル君も時々する……照れて、ちょっと()ねるみたいな顔、凄く可愛いと思っちゃうんです――あ、エルファリアさん、次はあそこみたいです!」
『ええと――あそこですね? はい、上空につけますので、イリスちゃんとリーゼちゃん、よろしくお願いしますね?』
「うんっ!」「はいっ!」

「「「「「 コイバナの片手間で攻撃すんなあああああああッ!? 」」」」」
 なぜかハッキリと聞こえた、女子らしい恋話。
 そのついでと言わんばかりに、上空の緑竜に乗るイリスちゃんとリーゼちゃんが放った、土の精霊術と闇聖術が――男たちを襲った。
 放たれた土の塊は――襲いくる途中で形を蛇の様に変え、男たちに巻きつき拘束。
 男たちを包む『闇』は――闇聖術が司る『死』と『安息』の力を宿し、男たちに纏わりつき。

『そういえば――フィアナとカリアス、二人っきりのときはどんな感じなの?』
「えっと……おかあさん、とってもカワイイかんじになって――」
 ……術を放った面々と、それを乗せた緑竜は――その成果を確認する事無く、コイバナしながら飛び去っていった。

 実は……アレにもそれなりの意味があって。
 戦力的には圧倒的な、女神様たちを含むカリアス殿ご一行。
 だけど彼等は油断せず『もし自分たちが負けるなら、どんな状況か』を考え抜き。
 その中の一つが――『命乞いをされて躊躇った隙に捕らえられ、人質にされる』。
 その対策として、女神様たちは出来るだけ敵と向き合わず――命乞いをされても関係無い、非殺傷攻撃での援護射撃を行う、という事になった。
 ……当然、片手間に攻撃された方が相手の精神ダメージが大きい、というのもあるが。

 そんなわけで――闇聖術の『闇』が解けた後。
「――な、なんともない……? き、貴様等、今の術は何だ!? 我々に何をした!?」
 抵抗も出来ずに受けたはずなのに、土で拘束されてはいるが、傷一つ負っていない男たち。その事に安堵しながらも、不安を抱いて訊いてくるテロリストの男。
「……ふむ、ではこう言おう。――お前たちは、既に死んでいる……!」
「な、何だって!? ……は、ハッタリだ! 現に俺たちは傷一つ無くピンピン――」
 俺の言葉を否定しようと、頭を振って気を取り直しながら言いかけた男だが――どうやらそのせいで、異常に気付いた様子。
 それは――頭から、髪の毛がパラパラと落ち続けている事で。
「……ま、まさか。まさかまさかまさか!? 死んでいるのは俺たち自身ではなく――」

「その通りだ。――お前たちは、既に死んでいる……頭の毛根が!!」

「「「「「 い、いやああああああああああああッ!?
」」」」」
 男たちの絶叫と共に――心にヒビが入る音を、確かに聞いた気がした。

 ――キレイに心を折る方法、その三:一夜でハゲ山。

 ……恐ろしきは闇聖術。今回リーゼちゃんが使った術は――人体には影響を与えず、その毛根のみを永遠の眠りに就かせるという、永久脱毛(髪の毛も含む)の術。
 頭皮の露出を恐れる全人類にとって、ある意味で最恐とも言える術……!!
 しかし、この術には効果が無い相手も居る。それは――
「くっくっく、それで終わりか! 確かに恐ろしい術だが――俺には効かん!!」
 そう言う男の頭は――見事なツルツル。……そう、元々の全ハゲには効果が無い。
 だから――そんな者のために、トドメもきっちり用意してある。
 未だ土の精霊術で拘束されている男たちの前に進み出て――『その言葉』を口にする。

「――おいでませ魔王様。オンステージ……!」
『『『『『 オッケー♪ 』』』』』

 俺の声に応え、即座に時空の穴が開き。中から応じる声が聞こえてきて。
 そのほんの数秒後には、魔王様とその眷属たちが、この世界に降り立った。
 ……なんだか召喚する度に、奴等のレスポンスが早くなっている気がする。

 それはともかく――魔王様とその配下は、未だ身動きが取れない男たちを取り囲み。
「な、何を! 何ををををおおおおおおおおおッ!?」
「「「「 ひぃぃぃいいいいいッ!? 」」」」
 男としての危機に、絶叫する男たち。彼等を無視して、魔王様たちは『メキョッ』っていう妙な効果音が付きそうな程に、筋肉を強調するポージングを。
 そしてそのまま、男たちの周りと回り始め――

「「「「「 か~ご~め、か~ご~め~♪ か~ごのな~かでホ~モ~は~♪ 」」」」」
「「「「「 いやあああああああああああああああああッ!? 」」」」」

 ――キレイに心を折る方法、その四:D・P・GM(ダンサブル・ポージング・ゴリマッチョ)。

 ちなみに、魔王様たちには『まだ手を出さないでください』と頼んである。
 よってこの攻撃は、視覚効果と音響効果で精神を圧迫させているだけ。
 ……いや、十二分に凶悪な攻撃なのは分かっているが。
「――ところでエドさん。この攻撃、いつまで続くんです……?」
「……魔王様たちが満足するまで、じゃないか?」
 俺たちが対処すべき場所はここで最後だから、少々時間くっても問題は無いのだが――


 心行くまでダンシングなさった魔王様ご一行が、満足して帰った後。
 捕らえた者たち(魔王様たちの精神攻撃で、ほとんど歩く屍状態)を連れて合流用の転送珠を使い、街壁の外に転移すると――まるで太陽が地上に生まれたかの様な純白の裂光が、眼に飛び込んできた。

「――これは……何が起きている!?」
 質問というより、思わず出てしまった声に応えてくれたのは――リリー嬢。
「ご苦労様です、エドさん。現状ですが……既に勝敗は決しています――」
 そうして教えて貰えたのは――『大地母神教・過激派』の面々が、最後の手段としてドラゴンゾンビをけし掛けて来た事。
 問題無く勝てそうではあったが――その苦しみ続ける堕ちた竜を救おうという事になり、ご一行が全力を以て戦闘を行い……たった今、その儀式は終わったのでは、との事。
 さらに、視線を街の入口たる街門に向けると――そこには憔悴(しょうすい)しきった様子で呆然としている男たちと、彼等を睥睨するランカ様の姿が。
「あれは――ああ、言ったのですか。イリスちゃんとリーゼちゃんの正体を」
「……ええ、聖殿の方からも許可を得ましたので」
 それは――イリスちゃんとリーゼちゃんが、旧神の力を分け与えられて誕生した、大地母神の分身、または化身ともいうべき存在である、という事。
 つまり奴等は仮にも『大地母神教』でありながら、崇めるべき存在へ、明確に牙を向けたという事で。
 自分たちの外道な行いを、自己正当化できる唯一の口実だった『信仰』を……自らの手で完膚なきまでに踏みにじっていたわけで。

 ――キレイに心を折る方法、その五:自分が害そうとしていた者が、崇める神の化身。

 こいつらには、もう明るい未来は欠片も無い。
「ところで――エドさん? あなたが連行している、その者たちは……?」
 ……今の話も聞こえていなかったらしく、只々中空を見つめている男たち。
「魔王様による精神への攻撃が、どうやらオーバーキルだった様子で……」
「――理解しました。しかし……今の会話が聞こえなかったのは、彼等にとって幸いだったかもしれませんね……」

      ◆      ◆

 ――その後、擬似転生を成功させたイリスちゃんたちが、その卵を精霊たちに預け、やっと事態は収拾。
 戻ってきたカリアス殿ご一行と少し話をして、帰還する彼等、彼女等を見送った後。

「――さて。……お主等の処断について、なのじゃ」

「「「「「 ……っ! 」」」」」
 先ほどまで、明るい笑顔をカリアス殿たちに見せていたランカ様が――一転して、冷酷な死神の様な無表情で、襲撃者たちを見据える。
 その視線と雰囲気に、『ビクッ』と震える罪人たち。
「――トリティス教の教皇とも話した結果、お主等は我が精霊殿で引き取り、我が国の法で裁ける事となった」
「「「「「 ――ッ! 」」」」」
 ランカ様の言葉で、罪人たちの顔に微かな希望の光が灯ったが――長くは続かず。
 その幼き姿の巫女長は――その肩書に相応しい威圧感を放ち、さらに冷え切った視線を向けて言葉を続ける。

「……愚か者が。希望などあると思っておるのか? 我が国で裁くため、貴様等の所業を国内に告知する。――行おうとした所業も、どんな存在に刃を向けたかも、じゃ」

「「「「「 ……ッ!? 」」」」」
 非道なテロを起こそうとし、更には神を実際に害そうとした。
 つまり――神敵である事が国内に……それどころか恐らく、世界にも広まるだろう。
 という事は……精霊殿で裁くというのは、この罪人たちのためではなく。大地母神教に自浄作用がある事を知らしめ、他の信徒の名誉を守るためか。
「み、巫女長様……我が身は諦めます! しかし――俺の家族は……!」
 項垂(うなだ)れた罪人たちの中の一人が、決死の表情で訴える。しかしその言葉にも、ランカ様は表情を一切動かすことは無く。
「罪を犯したのはお主等じゃ。その家族にまで罪を問う事はせぬ。しかし――」
「っ!?」
「――当然、大罪人の家族を守る義理も無い。お主は非道なテロリストにして神敵。お主の身内に他の者がどういう仕打ちをするかは、(わらわ)の知った事ではないのじゃ」
「「「「「 !? そ、そんな……!! 」」」」」

「愚か者共が! 全てはお主等の行いが招いた結果であろうがッ!!」

 リリー嬢やレオナルドすらも一瞬震える程の、凄まじい怒気が込められた一喝。
 それを直接受けた罪人たちは完全に居竦み……やがて、その表情は後悔と絶望に沈んでいった。
「――もうお主等に言うべき事は無い。己が愚かさを――残りの人生と冥府の底でも悔やみ続けるがよい」
 最後にそう言い指を鳴らすと――数名の女性が、突如として現れた。
 恐らく転移で現れたと思われる彼女等は、全員が『大樹の民』の特徴たる長い耳で――ランカ様と同じ系統の『着物』と呼ばれる衣服を纏っていた。
 彼女たちが――おそらく精霊殿の防衛戦力、『戦巫女』と呼ばれる存在か。
「――連れて行くのじゃ」
「「「「「 はっ! 」」」」」
 戦巫女たちは罪人たちを囲むと――即座に転移を行い、罪人たちと共に姿を消した。

「「「「「 ………… 」」」」」
 親しみを持っていたランカ様の、巫女長としての苛烈な面を目の当たりにした我々親衛隊員は、何を言うべきか、何をするべきかが分からず――しばらく無言の時が流れ。
 そんな中、最初に口を開いたのは――当のランカ様だった。
「――リリーよ。少し協力してほしいのじゃ」
「……はい? 何を、でしょうか?」
 その口調は、先ほどまでの緊張感のあるものではなく。
 それどころかランカ様は……何処かバツが悪そうな、少々気まずげな様子で?

「――確かこの国の……我が国との国境近く。大樹海の傍に、移民を募集している開拓村があったじゃろ? それを教皇の女狐と交渉して、可能な限り抑えたい」

「――はい? ……ああ、そういう事ですか! 慈悲深い巫女長さまですね♪」
 嬉しそうに、微笑ましそうに言うリリー嬢。
 ――つまり、罪人たちの身内を保護する場所を確保したい、そういう事なのだろう。
「……ふんっ! 身内が罪人というだけの罪無き者まで迫害する事に、正義は無いのじゃ。 国民が外道に落ちるのを防ぐため――それだけなのじゃっ!」
「――はいはい。わかっておりますよ、叔母上♪」
「そ、その顔は絶対にわかってないのじゃ!? ――お、お主等も何とか言っ……む?」
 ランカ様がこちらに視線を向けた様だが――生憎(あいにく)、我々は見ていない。
 それは何故かと言うと……我々親衛隊一同は、揃って跪いているからで――

「「「「「 ――感服いたしました! 一生ついていきます、ランカ様……ッ!! 」」」」」

「ふえええええええっ!? な、なんかまた忠誠度や信仰度が上がっておるのじゃ! こ、これは妾の『彼氏作ってイチャラブ計画♪』が、また遠ざかったんじゃなかろうな!?」
 そんな慌てふためくランカ様の声を聞きながら。
 ……気まずい空気が完全に無くなった事でも、事態が落ち着いた事でもなく。

 このアホな空気が戻ってきた事に、心からの安堵を覚えていた――

 しかし――『女神様』と崇め続けていた存在が、マジな女神で。
 別枠で忠誠を誓う『女王様』は、大地母神の巫女長様。
 我々の活動が、ある意味で本気な『信仰』と言っても過言ではない状況になってしまったのだが――我々は今後、何処に向かうのだろうか……?

      ◆      ◆

 そして――襲撃のあった日から、数日後。
 自警団と親衛隊、全員に召集がかかり――集まったところで。

「――この街が『副都』になるそうです」

「「「「「 …………はい? 」」」」」
 唐突に告げられた言葉に――『意味が理解出来ない』というより、『……何言ってはる?』といった意味合いが強い声を漏らす俺たち。
「――その反応も無理はないと思いますが――カリアス様たちと共に教皇から聞いた話なので、事実です。正式な公表は、カリアス様たちのご婚礼の際になるそうですが」
「……また賑やかなご婚礼の儀になりそうですな。おそらく当人たちの意思に反して」
 レオナルドが言うとおり、どう足掻いても婚礼の儀は大騒ぎになるだろう。
 副都となるという発表なら、説得力を持たせるために相応の身分の者が訪れるはず。
 さらに、それに相応しい格を持たせるため、護衛としての聖殿騎士団も――あ。
 ……なぜこの話を、公表前に我々にするのか、少し疑問だったのだが――分かった気がする。それは、我々の行く末にも関連する話で――

「――団長。この街が副都となるのならば、治安維持組織は国営となると思うのですが……自警団はどうなるのでしょうか?」

「「「「「 ……あっ! 」」」」」
 正直、普段は何も考えずに幼女見守り――もとい親衛隊活動に没頭していたが。
 自警団はあくまで……街が自衛のために独自で組織しているものに過ぎない。
 しかしこの街が副都――つまり『国の第二首都』となるのならば、国の内外への体裁のためにも『新しい都市』の治安維持は、国主導で行われるはず。
 そうなると――元からあった『自警団』は、どうなるのだろうか……?
 皆の視線が集まる中――リリー嬢が、やや気が重そうに話し始めた。
「……まさにその話をする目的で、本日は集まっていただきました」

 そうして語られた内容は――まず、新しい治安維持組織。
 ――まず『聖殿騎士団』に相当する『聖騎士団』と、その下部組織『守護騎士団』。
 主に主要施設で警護・防衛を担当する『近衛兵団』と、その下部組織で都市の警邏(けいら)等を行う『守備兵団』。
 組織名はまだ『仮称』らしいが、組織形態としてはほぼ確定しているらしい。

「――そして、その人員ですが……実力と実績から、我々『イグニーズ自警団』及び『親衛隊』が、そのまま組み込まれる事になりました」

「「「「「 …………はい? 」」」」」
 全員が――『頭、大丈夫ですか……?』という意味合いの『はい?』で応えた。
「その反応は良く理解できます……。ですが――マクスウェル殿が『あいつ等なら大丈夫!』と猛プッシュした上、叔母上が『面白くなりそうなのじゃ♪』と賛同しまして……」
 ……聖殿騎士団長たるマクスウェル氏は、かつてこの街に来た際に――その身分を勘違いした俺たち(主に俺)によって、一日とはいえ親衛隊員としての活動をした事がある。
 ――変態集団に染まったというか、半ば洗脳したも同然だったと思うのだが……まだ解けていないのだろうか?
「実際に我々は、日蝕時の混乱や先の過激派の襲撃を、人的被害ゼロで抑えたという実績があります。……『実態はともかく』、記録上は『副都を守る人員として不足はない』という評価も、まぁ妥当ではあるのです……」
 ……その事を言われた際、おそらくツッコミ入れっぱなしだったと思われるリリー嬢は、『実態はともかく』をとっても強調していいました。
「『副都化計画』の公表後、全員に試験・面談を行い――希望しない者と極めて資質に欠ける者以外は、各自の適性によって各騎士団・各兵団に割り振られる事になると思います。――何か質問はありますか?」
 それはつまり――我々でも実力と適性次第では、聖殿騎士相当の『聖騎士』や、重要施設(おそらく教会も……!)を守護する近衛兵になれるという事。
 そして何より――

「「「「「 我 々 の
変 態 行 為 が
、 国 の 公 認
に !? 」」」」」

「自重しなさいッ!! ……いいですか? 『組み込まれる』事が決まっただけで、『中核になる』と言われたわけではありません。――新たな枠組みの中でどういう役割を担う事になるのかは、今後次第。どの道、新たな人員が大勢来るのです。各自、節度を以て――」

「「「「「 全員、こちら側に染めてしまえばいいんですね!? 」」」」」

「だから少しは自重しなさいとッ!?」
 そう叱責するリリー嬢だが……その美貌に浮かぶ表情には『やっぱりこうなった』という、諦めの色が見られた。
 ――普段はリリー嬢の独裁政権だが……こういう話になると、この変態集団が止まるはずが無い。
「……新しく来た者には、まずさりげなく『女神様(イリスちゃん)のステージ』を見せるべきだな」
「そこから少しずつ女神様たちの素晴らしさを話し『趣味:女神様鑑賞』に持っていければ、もう勝ったも同然……!」
「そうなりやすい土壌を作っておく事も重要では? 東の大陸の文化に、いろいろソッチ方面に都合が良いものがあると、以前聞いた事が――」
「その話、後で詳しく。――ルイーズ嬢や魔王様にも、そちら方面の相談は出来るかと。……異文化の根付かせ方、という意味でも」
 と、そんな風に話しがガンガン進んでいく中で。頭を抱えてプルプルと震えていたリリー嬢は……(つい)に耐え切れなくなった様子で――

「――叔母上も上手く(そそのか)し――もとい巻き込んでしまうと、面白いかもしれません」

「「「「「 流石です、団長! 」」」」」
 とってもイイ笑顔で言うリリー嬢。どうやら『もう、いいや!』と開き直った模様。
 その提案により、ランカ様をも巻き込む計画の発動が決定しました。

 ……国に組み込まれる事になったため、先日までの『我々は今後、何処に向かうのだろうか?』という不安は、不安足り得なくなったが。しかし、新たな問題として。
 ――その『新しい都市』は、どんな魔境になるのだろうか……?
 ヤバイ文化が混ざりあった、混沌とした都市にならない事を祈りたいが……。

 ――それはそれで、中々に楽しそうだと思えてしまう辺り、実にタチが悪いと思った。

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