第四編 終章 生まれるイノチとキレイなセカイ

作者:緋月 薙

終章   生まれるイノチとキレイなセカイ
(※今回は 幕間の4 キレイに心を折る五つの方法。 と合わせて2話分の更新になります)



SIDE:カリアス


 地上から立ち上がった光の柱。
 それは先の二本の裁きの吐息よりも目映く、神々しく……天と地を繋ぎ。
 その光が落ち着いたとき。その光の中心だった場所――ドラゴンゾンビが居たその場所には、神秘的な光を宿す『透明な卵』があった――

「これは――成功、したの……?」
 フィアナが『卵』を見ながら、半ば呆然とした様子で口にした。
『――生命としては安定しているので、間違いなく成功かと。ただ私には……魂の定着が、あまり進んでいないように感じられます』
「ふぇっ!? それ、大丈夫なんですかっ!?」
 エルファリアの言葉に、イリスが慌てた声を出すが――エルファリアは落ち着いた様子で、少し困った様な笑みを返す。
『生命としては、問題ありません。ただ……ほとんど魂を新生させる形になったので、その消耗のため、再誕までにかなりの時間を要するかな、と……』
「……みゅ?」「……み?」
『……えっと。頑張って生まれ変わったから疲れているので、卵から出てくるのにとっても時間が掛かってしまいそう、という事です。ですから――大丈夫ですよ?』
「みゅ♪」「みぎゃ♪」
 あんまり話の内容が分からず、不安そうに訊き返したウィルとリース。
 だけどエルファリアに分かりやすく説明し直してもらい、安心した様子。
 ……ちょっと和んだところで――さて、これからどうしよう……?
 心情的な面でも、保管場所等の現実的な問題の面でも、早く(かえ)ってほしいけれど。
「――魂の消耗を癒やす方法って、あるのかしら?」
『やはり精霊が多い場所の方が、回復は早くなりますね。ハールートの住処や、大樹海にある私の住処などは、育成にも良い場所かと』
「あっ! 精霊さんが多いほうが回復が早いんだったら――もっといい場所がないか、精霊さんに訊いてみるねっ!」
 早く孵ってほしいと思っているのは、みんな同じらしく。
 期待の視線が集まる中、『精霊の愛娘』が呼びかける――

「精霊さ~ん! ちょっと出てきてくださ~い!!」
 『『『『 なぁ~に~? 』』』』

 ……相変わらず、呼ぶ方にも呼ばれる方にも、緊張感など一切無いけれど。
 姿を見せた精霊は……多分いつも来てくれる子たち。火水土風、それぞれ一人ずつ。
「精霊さんっ。この子がはやく孵れるように、精霊さんがいっぱい居るところでお休みさせたいんです。どこか良いところ、知りませんか?」
 イリスが訊くと、精霊たちは『卵』の周りを飛び回って。
 『きらきら、きれい……私たちに、似た感じ……?』
 『ねぇねぇ~? この子なら【あそこ】に連れていっても、いいんじゃない~?』
 『あ、いいねっ! ボクたちのお城で預かろうよ!』
 『あそこなら人間はこれないから、安全だしなっ!』
 ……なんだか聞き捨てならない単語が?
 竜なのに『私たちに、似た感じ』っていうのもだけど、とりあえず――
「――ちょっと良いかな? 君たちの『お城』……?」
 『うん! この大陸中の子が遊びに来るトコっ!』
 『精霊たちしか知らない、秘密の遊び場だぞっ!』
 『ゆっくりしたいからぁ、竜の方々にもナイショなの~』
 精霊の支配者たる竜にも知らせていない、精霊の城……?
「そんな所に、勝手に連れて行っていいの? あなたたちが怒られたり、しない?」
「……そうだね。なんなら、他の精霊たちの許可を得てからでも、いいんだよ?」
 思った以上に、精霊たちにとって重要な場所らしい。
 だからフィアナと共に言ったのだけれど……精霊たちは、笑みを深め。

 『私たちを心配してくれてありがとう。フィアナお母さん。カリアスお父さん』
 『でも大丈夫だぞ! 俺たちに文句言える奴なんて、ほとんど居ないんだ!』
 『わたしたち~、大精霊~』

「「「「「 大精霊だったの!? 」」」」」
 いつも気軽に出てきたり……フィアナに怒られて(おび)えたり、僕とフィアナを『お父さん』『お母さん』と呼ぶこの子たちが、まさか『大精霊』とは……。
「……ハールートも、きづかなかった……の?」
『う、うむ……妙に自我が強い上、いくら【精霊の愛娘】のためとはいえ、やたら好き勝手しておるとは思っておったが……』
「……大精霊に『親』って認識されてる兄ちゃんたちって――」
 『とにかく~、この子は、わたしたちが預かっていいの~?』
 相変わらず緊張感は無いけれど……この子たちなら、信用はできるかもしれない。
 だから僕たちは、みんなで視線を交わしあって――前に出たのは、イリス、エルファリア、リースとウィル。
「――うんっ! 精霊さん、どうかその子を、よろしくお願いします」
『感謝いたします。――我が同族を、どうかよろしくお願い致します……』
『みゅっ! みゅうっ……!』『みっ!』
 精霊たちにお願いするイリスとエルファリアと。
『卵』に『また会おうねっ……!』『またねっ!』って言っているらしい、幼竜たち。
 それを聞き届けた精霊たちは、『卵』と共に浮かびあがり。
 『じゃあ、何かあったらイリスちゃんにお知らせするねっ!』
 『様子が知りたかったら、私たちを呼んで、ね?』
 『『 じゃあね~ 』』
 そう言って……最後まで緊張感無く去っていく精霊――いや、大精霊たち。
「最後に全部持って行かれた気もするけど……終わった、わね?」
 疑問符付きで言うフィアナに苦笑しながら、僕は言葉を返し。
「――うん、お疲れ様。皆も、お疲れ様でした! さぁ、帰りましょう!」
 とにかく――これで面倒事は終わり。
 しばらく大変な事は無いだろうし、家族で少しのんびりしたいと、心から思っ――

 ――振り返ると、大変な事になっていた。

 街の門には人々が殺到し――それを自警団の方々が、必死に止めてくれている状態。
 せめてもの救いは、人々の表情が好意的で、歓声すらあげてくれている事だけど……無秩序に解放されたら、大惨事になりそうではある。
『……あ、あはは。あれだけ派手な事すれば、そりゃあ目立つよねぇ……』
 乾いた笑いと共に言うルイーズ。
 ……確かに、裁きの吐息だけでも十二分に目立つのに――それを計三発と、最後の転生の光柱。……むしろ人が集まらない方がオカシイ。

 歓声の中、イグニーズの入口、その門に近づくと。
 その手前に、巫女長さまとリリーさん。さらに、自警団の方々に拘束されている襲撃者の面々が、憔悴(しょうすい)しきった顔で呆然としていた。
「お疲れさまなのじゃ! ずいぶん派手にやったのぅ♪」 
「……本当に、お疲れ様です。結構な騒ぎになっていますが――とりあえず今日は、皆さんの手を煩わせる事は無い様にしますので、ごゆっくりお休みください……」
 楽しそうに言う巫女長さまと、気の毒そうに言うリリーさん。
 だけど、それより気になるのは――愕然とした様子で僕たちを見る、襲撃者たちで。
「あの……ところでソイツら、どうしたんです?」
「……うむ。教皇の女狐――もといレミリアと話しておっての。近い内に――例の空白期の過ち関係を、ほぼ全て公表する方向で話が進んでおるのじゃ」
「――それを受け、今ここで話していまして――ついでに、ほぼ確定したイリスちゃんとリーゼちゃんの正体まで」
 ――ああ、なるほど。
 こいつらは、自分達が崇拝する大地母神、その分霊たる存在であるイリスとリーゼに――弁解も誤解の余地も無い程に敵対した。
 それをおそらく……懇切丁寧に説明されたのだろう。
 ……自国の宗主に無断での侵略行為。さらに無差別殺傷を企て、巫女長家の墓を暴いた事や、ドラゴンゾンビなんていう国難レベルで危険な代物を持ちだしていた事なども合わせれば――まぁ、こいつらに未来は無い、かな?
 自業自得だし……計画の阻止が間に合わなければ、どれ程の血が流れていたか想像もつかない。だから同情する気など一切無い。
 それは他の面々も同じらしく――その中には、イリスとリーゼも含まれていて。
 その事が余計、襲撃者たちを絶望させている様だった。

「――さて。後で教皇レミリアと話す必要はあるが――お疲れ様なのじゃ! ここは(わらわ)とリリー、自警団の面々に任せ、お主等はのんびり休むがよいのじゃ♪」
「……皆さま。街のために尽力していただき、ありがとうございました――」
 巫女長さまとリリーさんの言葉。そして――街の人々からの歓声を浴びて。
 いろいろと大変だった今回の一件も無事に終わったと、心から安堵した――

      ◆      ◆

『――大変な事になりました』

 ……安堵は、まだ早かった。
 翌日。子供たちには休んでいてもらって――大人たちで、厄介事のお話し合い。
 この場でレミリアが語った事によると。
 竜が転生した時の光柱は、他国からでも観測されたらしい。
 幸いな事に『またトリティス教国か』との憐れみ交じりでの質問が多かったらしいのだけど……それでも、何があったかを誤魔化しきる事など出来ず。
 結果――『ドラゴンゾンビを転生させた』などという信じがたい出来事と、それを為した面々……僕たちの大まかな素性、戦力などが知られてしまったそうで。

『……今回の件での関係国、そして現場にまでいた某巫女長さまがあの場に居れば、もう少し粘れそうだったのですけど、ねぇ?』
「ふんっ。お主が何も出来ない時点で――妾が居ても早いか遅いかだけの差しか無かろう。そのくらい今回の件は派手すぎるのじゃ」
『『『「「 ………… 」」』』』
 巫女長さまの言葉に――僕、フィアナ、ハールート、ルイーズ、エルファリアが、揃って顔を逸らした。
『し、しかし――周囲がうるさくなるのは仕方が無いとしても、我々に直接的な害が出る事でないのであろう?』
 ハールートが『少し困った』程度の表情で言うけれど……レミリアは首を横に振り。
『ところが――そうでもないのです』
 深刻そうな顔で言ったレミリア。それを継いで――養父さんが言う。
『滅びた主神の半神たる聖女。当人たちを欲しがる者が多いのは言うまでも無いとして……その縁者でもいいから欲しいと望む者も、決して少なくない』
「――養父さん待った。つまり……?」
 思い至り、軽い怒りを覚えて養父(とう)さんを見ると――どうやら養父さんも、怒りを外に出さない様に耐えている状態らしく。だから――『それ』を口にしたのは、レミリア。

『――つまり、イリスさん、リーゼさん、そしてアリアさんに、縁談の申し込みが殺到しております……』

『「「 ………… 」」』
 僕、フィアナ、ハールートが怒気を立ち昇らせる中。もう一人も怒りを見せ。
「……幼女趣味の醜聞を気にし、合法な妾にも誘いを掛けて来ぬ者共が――本物の幼女を口説くとは、なんたる事じゃ……!!」
「……叔母上、そういう問題ではありません」
『――申し込まれているほとんどが、権力者の息子か孫との縁談です。――誰が好き好んで自分の子や孫に、外見だけ若い千年モノの妖怪を憑けたがるものですか』
「言い方が酷いのじゃ、この女狐!」
 ……妖怪と女狐の戦いは、ちょっと置いておくとして。
「それで――養父さん? ……断れるんだよね?」
 とりあえず『断れないなんて言ったら……分かってるよね?』という、僕の純粋な気持ちも乗せて訊いてみた。フィアナとハールートからも、同種の圧力を感じるけど。
『――ああ、断れる。今のお前たちに強引に手を出すのは、国の内外問わず自殺行為だからな。……むしろそうしてくれた方が、手っ取り早く処理できるんだが』
『ですが問題が……お兄さまたちは現状、我々の配下に過ぎない、という点です』
「……なるほどの。国の命令なら断れないだろう、そう思う者が出るのは時間の問題じゃな。――国自体にイヤガラセで圧力かける手段など、いくらでもあるのじゃ」
『……まさに、その通りです。当然、簡単に屈するつもりなどありませんけど』
 とはいえ……相手がどの程度の事までしてくるかが分からない。
「それで――レミリア。何か手があるの?」
『……一応、あります。十年規模の大事業、その宣言をしようかな、と』
「なんでしょう……何故か、少し嫌な予感がしてきたのですが……?」
 フィアナに問われ、口を開いたレミリアは……なぜかリリーさんと僕を見て話し。
 僕たちが頬を引きつらせた所で――その発言が出た。

『この街を、国の副都にしようと思います。そしてその初代総督を、お兄様に、と』

「「「 ちょっと待って!? 」」」
 僕、フィアナ、リリーさんが声を揃える中――事情に思い至ったらしい一人は。
「はっはっはっは! なるほど、そういう手段で来おったか。愉快愉快、なのじゃ♪」
『では――リーシアとしては、認めていただけると?』
「うむ、もちろんじゃ。その方が、我が国としても都合が良いのじゃ」
 なんだかもの凄く面倒そうな事が、目の前で本決まりになりつつあった。
「ちょ、ちょっと待ちなさい、そこの困った国家主席二名! 理由を話しなさい!!」
『「 だ、誰が困った国家主席ですか(なのじゃ)!? 」』
 フィアナの言葉に、揃って反論する巫女長とレミリア。
 ――君たち、実はそこそこ気が合うよね?
『……こほん。まず、どうしてイグニーズを副都に出来るか、という話ですが――女神の分霊に二体の聖竜。国難ともなり得るドラゴンゾンビを退けられる戦力。国防の要となり得る守護竜ハールートさん。そして今後、遺跡から大量に発掘されるであろう魔宝石による資金力。――ここまで条件が揃っている街は、他にありませんよ?』
 ……全部僕たち絡みな事が、もの凄く頭が痛い。
「うむっ。さらに言えば、イリスたちは大地母神の分霊で、大地母神教の我がリーシアに比較的近い場所にあり――この街の守護竜殿が我が国の守護竜と番。そんな街が副都として発展する事は、我が国にとっても何かと美味しいのじゃ♪」
『ぐごっ!?』『あらあら♪』
 流れ弾をもらったハールートが地に伏せ、一方のエルファリアは嬉しそう。
 ……きっとこれが、今後の二体の力関係を表していると思う。
『さらに言ってしまえば……ルイーズさんもですよ? 魔王の力を宿した精霊となれば……【神霊】扱いですし』
『あ、あははは……私、元は普通の女の子。だけど彼氏居ない歴、三千年超え……』
「……大丈夫なのじゃルイーズ。五百年超えれば、あとは大差無いのじゃ」
『そんな経験談は要らないんだけどっ!?』
 ……そこら辺の話に関わると危険そうな気がする。
 同じくそう思ったらしい養父さんが、話を続けた。
『――で。それをする意味なんだが……カリアス。お前の地位を上げる事が、イリスたちを守る事に繋がるが――お前たちがこっちに戻ってくると、余計に【配下】という事実が強調されるため、呼び戻す事は出来ない』
「……うん。まぁ、それは分かるよ。だからむしろ任地の格を上げるって事だよね? だけど気になるのが――なんで僕が『総督』なんかになれるの?」
 功績も実力も、かなり積めたという自負はある。だけど僕はまだ若造で――いきなり『総督』とか言われても、納得しない者は少なくないだろう。
 補佐官を付けてくれれば業務は何とかなるし、この街ではむしろ、歓迎してくれるかもしれない。だけど必要なのは――対外的に納得させ得るだけの理由。
「――む、なんじゃ? お主ら、まだ言っておらんかったのか?」
『言いにくいのは分かるけど――早く言わないといけないよ、レミリアちゃん?』
 ――恋人居ない歴の関係で言い争っていた巫女長とルイーズが、揃って口論をやめてニヤニヤと……?
「……まさかレミリア。あんたとおじさま――本当に?」
「――へ? え? ……どういう事?」
 フィアナが、唖然としながらそう言って。
 僕はわけが分からず……いや、まさかと思う事はあるけど、それこそまさか――

『……実は。私とおじさまは……三年前に、婚約しております……』

「「 はあああああああああああああああああああああッ!? 」」
 この街に来てからイロイロ諸々あったけど。多分、ここ数年で一番の衝撃。
 ある意味において、ハールートとの初遭遇より驚きが大きい。
「な、さ、三年前!? 早く言いなさいよ! なんで黙っていたのよ!?」
『お、お姉様のせいもあるんですからね!? 正式に婚約が発表されてしまうと、おじさまの養子のお兄様も親族になります! そうなると立場的に、ご婚礼などで色々面倒になるんです!! お姉様の身分が上の方がまだ楽なので、お姉様を教皇家に復帰させてからにするか、ベストなのは先にご結婚していただく事だったのに中々くっつかないこのヘタレ!!』
「なっ、で、でも先に教えてくれたって良かったじゃないっていうか、おじさまイヂメてたのはその気安さが理由かこのドメスティック・バイオレンス嫁!!」
 ……二人がここまで大暴れしてくれると、僕たちはむしろ冷静になれるわけで。
 妙に凪いだ心で、僕は養父さんに話しかける。
「えっと……当然反対はしないけど――事情は何かあるの?」
『――む、まぁ……実は教皇の婿候補、最初はお前だったんだ。だから俺が、お前を養子にして教育していたわけだが……いつの間にか、教皇に懐かれてた』
「……そういえばレミリア、よく養父さんと一緒に居たよね。――いつから?」
『「あれ、これヤバくね?」って思い始めたのは、教皇の10歳の誕生日から、か。そこからアプローチ掛けられてる事に気付いて……その二年後、先代教皇から『実はレミリアがこう言って――』という内々の話をもらって更にアプローチが直球になって、更に二年逃げたけど、いつの間にか堕とされてました。……俺、年上趣味だったのにな……』
 そんな攻防に、多分フィアナも――全く気付いていなかった。
 僕たちに一切気付かせず、養父さんを落としきったレミリア……恐るべし。
「えっと……うん、ご愁傷様。そしておめでとう、養父さん。――で、今この話をしたっていう事は……それを公表すると同時に、フィアナの身分も解放、ってことだね?」
 ――僕が教皇家の親戚になるなら、表立って文句を言う者は少なくなる。
 さらに僕とフィアナが結婚すれば、教皇家の直系という看板も加わり、副都としての箔は申し分ない。更にイリスとアリアも教皇家の親戚となるので手を出しにくくなる。
 そして女神の分霊のイリスと、旧王家の僕が教皇家に加わる事は、教皇家側にも利益があるため、国内では表立って反対出来る者も少なくなる。
 あとはリーゼが少し心配だけど、エリルが居るから大丈夫だろう。
「あとは、発表のタイミングだよね。確実に大事になるから――」

『――ああ、それは決まってる。諸々の発表全て、お前の結婚式で』

 ……大事になる前に、身内だけで、慎ましやかだけど幸せな結婚式にしたい、なんて思っていたんだけど……?
「……本気で?」
『――ええ、まぁ。というかそもそも……その街において英雄扱いでしょうに、【慎ましやかな結婚式】なんて出来るとお思いでしたか?』
 ――無理かなぁ? ……無理かぁ。
「ところで、あんたも結婚するなら――良いドレス買える所、知ってるわよ?」
『――あら。……とても興味があります。ですが「良いドレスが買える所」?
「良いお店」という表現ではいけないのですか?』
「……とある理由により、『良いお店』ではないわね。――行く?」
『若干危険な匂いはしますが……行きたいです。おじさまも一緒で大丈夫ですか?』
「それだけは絶対にやめなさい!」
『は、はい!? ……わ、わかりました』

 そんな事を――何だかんだで楽しそうに話す姉妹を見ながら。
 いろいろ覚悟を決めなきゃなと、改めて思った――


SIDE:イリス

 とっても大騒ぎになりましたっ!


 おとうさんとおかあさんの結婚式は、イグニーズのそと――湖の近くでひらかれました。街の中だと、ハールートさんとエルファリアさんが入れないから、らしいです。

 結婚の儀式を執り行ったのは――なんとレミリアさんでした!
 教皇様が直々にすすめる結婚式っていうことで、集まってくれた人たちが、とってもびっくりしていました。
 さらに、ハールートさんとエルファリアさん、巫女長のランカちゃんと、その護衛の戦巫女の人たち。聖殿騎士団長のおじいちゃんと、おとうさんのお仲間? お友達? の、聖殿騎士の人も何人か。
 事情を知らないたくさんの人には『何事!?』って感じらしいです。
 だけどおとうさんは、ちょっと緊張しているわたしに『大丈夫。たしかに豪華な面々だけど、まともな人格なのって、エルファリアくらいだから』って言ってました!
 ……それって、別の意味ではとっても大丈夫じゃない気がします。

 えっと――まともな人たちかどうかはともかく。
 そんなすごい人たちは、なんだかみんな、とってもキラキラでキレイで。
 おとうさんとおかあさんが目立たないんじゃないかって、心配している人もいました。

 だけど――もちろん、そんな心配はいりませんでしたっ♪
 聖殿騎士として、儀礼用のとってもキレイな鎧を着たおとうさんは――他のどんな男の人より、かっこよくて。
 まっしろなドレスを着たおかあさんは、他のどんな女の人よりキレイで。
 そんな二人が並んで立っているだけで……まるで物語の勇者さまとお姫さまみたいで、みんなが見惚れてしまっていました。
 おとうさんとおかあさんが、ちょっぴり照れながら……嬉しそうに、幸せそうに微笑みあって、キスをする姿は。
 ただ見ているだけで――『この二人は、絶対に幸せになるんだ』って思えて。
 嬉しくて――『よかったね』って、いつの間にか涙が出ていました。

 そうして――儀式は終わって、お客さんたちが『あとは披露宴』って思ったとき。
 大騒ぎになったのは、ここからでした。
 レミリアさんから『教皇として』、とっても大事な発表がいくつも。
 レミリアさんとおじいちゃんが以前から婚約してて、近い内に結婚する事。
 それに、おかあさんがレミリアさんと姉妹だっていう事の公表。
 さらに――イグニーズの街を、将来的に『副都』にする事。
 その初代『総督』が、おとうさんになる予定、っていう事。

 どれも、とっても大変な事で、初めて聞いた人たちは大騒ぎになりました。
 ……ですが。実は前から教えてもらっていたわたしたちは驚かないで。
 この後に――別の事で大騒ぎする事になります。

「――ほ、本当なの、リーゼちゃんっ!?」「みぎゃっ!?」
「い、イリスちゃん、ウィル君! しーっ! その事で相談しにきたんだから……」
 今は『披露宴』です!
 わたしたちはこの後、お祝いの出し物をするので、ちょっと準備をしていたのですが。

 今、会場では――おとうさんの仲間の騎士の人が、お祝いの言葉を贈っています。
『――カリアス君、おめでとう。こんな綺麗な奥さんを貰えて、君は幸せだね。……思い返せば――一昨年。僕が君を、聖都の最高級な大人のお店に誘ったとき――君は、なんの躊躇も無く断ったね。僕はあの時から「こいつホモじゃね?」って思い、所々で話したり、少々尻の心配もしたりしたけれど、違った様で安心を――』
『『 あの時の噂の発生源は貴様かあああああああああッ!! 』』
 ……えっと。お祝いの言葉――だったんですよね?

 と、とにかく――準備していたところでリーゼちゃんが『このお話』をし始めて、みんなびっくりしたところです!
「その……それは確かなのですか?」
「――はい、間違いありません。席を外したフィアナさんを捜そうと能力を使ったときに『あれ?』って思ったので……リースの力を借りて、確認しました」
「みゅっ! みゅうっ!!」
 リリーさんに応えたリーゼちゃんが、はっきりと言って。
 リースも『うんっ! 間違いないのっ!!』って言っています。

「わあ……! じゃあ近いうちに、ほんとうに弟か妹ができるんだねっ!?」

 リーゼちゃんが教えてくれたのは――おかあさんのおなかに、赤ちゃんが居る、っていう事でした。
 わたしは今すぐ『おめでとう』って、『ありがとう』って言いたいです!
 だけど……リーゼちゃんが、『ちょっと待って』って言うんです。
「なんでリーゼは、言わない方がいいかもって思うんだ?」
「えっと……結婚式の後って、色々あるって聞くし……その、初夜、とか……?」
「「「 ……あ、ああー…… 」」」
 リリーさんとエリルくん、それにアリアちゃんが、ちょっぴりお顔をあかくして、とっても『納得』って顔をしました。
「だけど……リーゼおねえちゃん。いわないのも、なにか違うっておもう、よ……?」
「それに、その……下世話な観点から言わせていただきますと――もう『初夜』も何もないわけですし。それから――」
 ちょっぴり頬をあかくして言ったリリーさんが、今度はちょっと気まずそうに……?

「――仮に明日教えた場合。またも『即日で分かる専門家』扱いされません……?」

「っ!? き、今日言いますッ! ……言い訳みたいに聞こえるかもですが――話してお祝いしたいとは思っていたんですよ? ただ、迷惑にならないかな、って思って……」
 そう言うリーゼちゃんに、アリアちゃんは頭を撫でながら。
「……ん、わかってる。リーゼおねえちゃんは、ちょっと、むっつりさんなだけ」
「アリアちゃんが酷い!? ……そ、それより。今日言うって事だけど――それなら言うのは、イリスちゃんかアリアちゃんがいいと思うの」
「「 ……わたしたち? 」」「……みっ?」
 ……抱っこしているウィルも、わたしとアリアちゃんと一緒に、首をかしげました。
「ああ、うん。それがいいかもな。やっぱり『娘』のイリスかアリアに言われた方が、より嬉しいんじゃないか?」
 わたしとアリアちゃんは、顔を見合わせて……あ。アリアちゃんが『……うんっ』って頷いて……?
「それなら……おねえちゃんが、いってあげて? たぶん、それがいちばん」
「えっと……そう、かな?」
 みんなの顔をみまわすと――笑顔で『うんっ』って頷いてくれていて。
「ありがとっ! じゃあ……わたしが、出し物のあとに言うね?」
 ――そう言ったところで――ちょうど前の人が終わったみたいで。
 わたし『以外』の、番がきました。

 この『出し物』に出るのは――エリルくん、アリアちゃん、リーゼちゃん。演奏でリリーさんに――お手伝いで、ウィルとリースも。
 それなのに――みんな直ぐには前に出ないで。そこに、リーゼちゃんが声をかけます。
「じゃあ――いくよ、リース、ウィルくん?」
「みゅっ!」「みっ!」
 その声と一緒に、あたりが暗くなって。あちこちから、驚いた声があがりました。
 リーゼちゃんとリースが作った暗闇。
 そこに、まるで月光のような光が射すと――剣を持ったアリアちゃんがいて。
 そしてリリーさんの演奏が始まると、アリアちゃんが踊り始めます。
 くるくるって回ったり、風の術も使って高く飛んだりしながら剣を振って。
 武器を持っての踊りなのに――とってもかっこいいのに、アリアちゃんの姿は、まるで夜の原っぱで遊ぶ、妖精さんみたいで。
 ですが――
「「「「「 ――――ッ!? 」」」」」
 リリーさんの曲の雰囲気が変わったとたん、闇の中からエリルくんが出てきて、アリアちゃんに斬りかかりましたっ!
 お客さんからもビックリした息遣いが聞こえてきましたが、まだ出し物は続きます!
 エリルくんの剣をよけたアリアちゃんが、くるって回って攻撃して。だけどそれを、エリルくんは飛んでかわして。
 よけて、まわって、攻撃して、よけて、飛んで。
 息ぴったりで戦う二人のまわりには、いつの間にか小さな光がいっぱい飛んでいて。
 暗闇の中、光と一緒に動きまわり、剣を振りあうアリアちゃんとエリルくん。
 それは『戦い』なのに――ただ、とってもキレイで……!
 そして最後――一度だけ剣と剣をぶつけて、高い音を出したあと――
「「 ――っ! 」」
 演奏が止まるのと一緒に、相手のギリギリで剣を止めたところで、動きがとまり。
 暗闇も解けて明るさがもどって――出し物がおわりました。

「「「「「 おおおおおおッ!! 」」」」」

 拍手と歓声がいっぱいです!
 それを浴びているアリアちゃんとエリルくんは、照れたみたいで恥ずかしそうにしていて。そこにウィルとリースが飛んでいって、ウィルはアリアちゃんに、リースはエリルくんに飛びついて――今度は優しい感じの声と拍手が浴びせられました。
「凄かったよアリア、エリル! 何か練習してたのは知ってたけど……ここまでのものとは思ってなかったよ!」
「演出も良かったわね……リリーさんの演奏も相変わらず凄いけど――ウィルとリースの光と闇で舞台を作るなんて、驚いたわ」
 おとうさんとおかあさんが言うと、リリーさんがとっても楽しそうに話します。
「ありがとうございます♪ ですが、私はほとんどお手伝いだけで――主な発案はリーゼちゃんなんですよ? 明るい所でやるなら、暗くした方が目立つんじゃないか、って」
「え、えっと……私だけじゃ大した事は出来なくて。リースとウィルくんが手伝ってくれたので、なんとか出来たんです」
「それでも凄かったわよ? ありがとうリーゼ。――もちろん、ウィルとリースもね?」
「みゅうっ♪」 「みっ!」
 おかあさんに褒められて、ちょっぴり照れているリーゼちゃんと、嬉しそうなウィルとリースです。
「エリルとアリアも――見事な剣舞だったよ。本当に、腕を上げたね」
 おとうさんが言うと、エリルくんとアリアちゃんは顔をみあわせてから――深く頭をさげました。
「――カリアス様。あなたが師になってくれなければ、俺は調子に乗っていたか――とっくに心が折れて、別の道を歩んでいたはずです。俺がここまで来れたのは――全てあなたのお蔭です。――本当に、ありがとうございました」
「おかあさん――フィアナさま。……あなたが、わたしをうけいれてくれていなければ、かぞくになってくれなければ……わたしはここにいません。――わたしのかぞくになってくれたこと、わたしにかぞくをくれたこと。……かんしゃしても、しきれません」
 エリルくんとアリアちゃんは、そこまで言ってから、今度は声をそろえて――

「「 これからも、よろしくお願いします。そして――おめでとうございます。どうか、しあわせになってください」」

 おとうさんは、ちょっと眼に涙を浮かべて――とってもやさしい笑顔で。
 おかあさんは……こらえきれなくて、涙をながしながら。
「――うん。エリル、君にはまだまだ教えたい事があるし――君はまだまだ伸びるから。だから……まだ師でいさせてほしい。――こちらこそ、よろしくお願いします」
「――うん。ありがとう、アリア。あなたはずっと――私たちの自慢の娘だから。私こそ――至らない『おかあさん』かもしれないけど……これからも、よろしく……ね?」
 そんな四人を、みんなが優しい眼でみていて。あちこちで涙を流している人がいて――わたしも、ちょっと泣きそうになってしまいました。
 ――みんな、すごいね……? だから――わたしも負けていられない、よね?
「カリアス様、フィアナ様? 泣きじゃくるのは少し早いですよ? ……あなた方の自慢の子供は、もう一人残っているのですから♪」
 リリーさんがそう言ってくれて、わたしをみると――みんなが、わたしに注目して。
 ちょっと恥ずかしいけれど――楽しみにしてくれているのがわかるから。
 それに……おとうさんとおかあさんに、伝えたいこともあるから。
「――えっと……じゃあ歌いますっ! おとうさん、おかあさん、どうか聞いてください。それと――お腹の中のもう一人にも、届きますように……!」
「「 …………え? 」」
 びっくりして『きょとん』とする、おとうさんとおかあさん。
 その反応が楽しくて。そんな事が言えた事が、嬉しくて。
 だから――頑張ってうたいます……!

  光り輝く この世界で
  今を生きる 命全て
  過去と今、そしてこの先
  ここに生まれてきたすべてに
  心からの祝福を今
  あなたが居る この世界に
  どうか未来輝くよう
  祈り歌おう、この全てで

 『ありがとう』と 伝えるよ今
  今の私、その全てで
  あなたが居た だから私が
  ここに居ることができるんだ
  あなたがみんな、つくってくれた
  命、心、その全てを
  だから今、わたしは祈る
  あなたの幸せと未来を

  過去と今、そして未来に
  生まれてくるその全てに――

 歌い終わって……リリーさんの演奏も終わって。
 誰も、声も音も出さない。そんな時間が少し、流れたあと――
「……ありがとう、イリス。それと……歌う前に、言っていた事は……?」
 おかあさんが、『信じられない』っていう表情で、訊いてきました。
 だからわたしは――笑顔で『本当だよっ』って言います!
「――あのね? リーゼちゃんが見つけたんだよ? おかあさんのお腹の中に、もう一つイノチがあるって!」
「っ!? ――――ッ!!」
 おかあさんは、声に出せず――ただ息を呑んで、泣き出してしまって。
 だけど……まだ、伝えたい事があるから――言います。

「おとうさん、おかあさん。結婚おめでとう! それと、家族になってくれて……家族を増やしてくれて、本当にありがとう……!!」

「「「「「 っ!? うおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」」」」」
 幸せな涙を流し続けるおかあさんと、そのおかあさんを抱きしめる、おとうさん。
 そんなおとうさんを揉みくちゃにする、いっぱいの人。
 楽しくて――嬉しくて。これからも、こんな日が続いて欲しくて。
 そして……これから生まれてくる弟か妹が、とっても良い子である事を祈って。

 わたしは――女神の半神、らしいけれど。
 それでも人として、心からお祈りします。

 ――このキレイなセカイが、ずっと続きますように――

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