第一編 幕間の2  シノブモノ

作者:緋月 薙

幕間2 (SIDE アナザーズ) シノブモノ
(※今回は『四章の1  兆候』と合わせて2話分の更新になります)



 俺の名は『エド』。家名もろとも本名を捨て、冒険者となった身。
金と名誉――そして何よりロマンを求めて訪れた、冒険者にとって憧れの街、遺跡都市イグニーズ。
俺はここで、とある組織に身を置く事となった。

幼き(ガーディ)女神(アン オブ)( リト)守護者(ル ゴッデス)
――それは、身分・年齢を問わず、我らが『地上に舞い降りし新たな女神』と(あが)める存在を、影ながらこっそり見守る、紳士たちの集い。

 この組織において、指導者として我々をまとめている存在がいる。
この街の自警団の副団長である、『レオナルド』。
(よわい)40手前の、いかにも『猛者(もさ)』といった雰囲気を(まと)偉丈夫(いじょうふ)
荒くれ者の多い冒険者上がりでありながら、街の有力者、一般住民、そしてもちろん冒険者にも信頼される、まさに治安維持機構の幹部に相応しい存在。

 ――深夜。今宵は女神の信者たち(イリスたんファンクラブ会員)の大半に緊急招集が掛けられ、街外れの廃墟の様な建物を訪れた。
所用があり、本来の集合時刻に遅れて参加した俺が見たものは――まず、中央に立てられた木柱に、ガラの悪い大男が縛り付けられ……その根本には、大量の(わら)

 そして、それを取り囲む面々。彼らは――何故か、腰ミノ姿だった。

「愚か者に裁きを!」
「「「「「 裁きを!! 」」」」」

 衣服と呼べそうなものは腰ミノのみ。
手足や首に動物の骨や鉱石を連ねた装飾品を身につけ、剥き出しの素肌には奇妙な紋様をペイントした、数十人の男たち。
ただ一人、動物の頭骨を兜の様に被ったレオナルドの言葉に、配下たちは一斉に応え、手に持った石器の槍を振りかざす。
狂ったテンションの男たちの中、中央で縛り付けられている男からは、なんか諦めちゃってる感がヒシヒシと感じられるのが、またなんとも――

 ――この地獄絵図はなんなのだろうか?

「……レオナルド殿。これはどういう状況なのだろうか?」
「む? おお、来たかエド。これは、南方の孤島に住まう原住民族のスタイルでな。ちなみに腰ミノの下は『オールフリー』だ」
「むしろ知りたくなかった情報、ありがとうございます。……訊きたいのは、コレはどういう状況なのだろうか、という事だ」

 むしろ最後の一線はガードしろと言いたい所を我慢して問うと、レオナルドは――怒りを思い出した様に縛られた大男を睨みつけ、さらには周囲の同志も同調する。

「……この男はな? 我らが女神イリスたんを(かどわ)かそうとし――それを(かば)おうとしたご尊父たるカリアス殿を負傷させた。――我らにとって許す事など出来ぬ神敵……!」
「「「「「 ギルティ! ギルティ! ギルティ!! 」」」」」
「さらに……! 我らが女神に触れられ、傷を癒して頂くという畏れ多い事を……!!」
「「「「「 羨ましいぞコンチクショォォォォォォォオオッ!! 」」」」」

 ……語るレオナルドも唱和する他の同志たちも、()る気マンマンである。
聞いた俺も当然、殺意を抱くが――周囲がコレだと、むしろ冷静になるものであり。

「気持ちは分かる上に、奴に同情する気も無いが――大丈夫なのか? 自警団で捕らえた者を、勝手に私刑にかけるなど――」

 女神様(イリスたん)を怖がらせた。それだけで、我々にとっては十二分に処刑理由になるが……一般的な規定に基づけば、精々が追放か強制労働刑。
それを、一部の自警団の者が感情的な理由で始末したとなれば、確実に問題になる。

「――ふむ。お前はまだ、我らが女神を甘く見ているな?」
「……は? ――ありえん。俺が女神様を甘く見ているなど――」

 俺の女神に対する認識。

 ――歴戦の猛者すら魅了する歌姫。
その人気は、もし彼女に何かが起きた場合、街の運営に支障が出るレベルの暴動・混乱が起こる。
――現時点で支持者は街の過半を占め、数か月もすれば大半を支配。その名声が国中に広まるのも時間の問題で、近い内に女教皇と対談を果たし、正式に『聖女』と認められ、歴史に名を残すに違いない……!

 ここまでの認識を持っている俺が、甘く見ているなど――
自らの正確な認識に自信を持つ俺をよそに、レオナルドは語り始める。

「――まず、仮に我らが女神が、可愛らしく『お願い♪』とした場合――」

 ……女神様(イリスたん)の、可愛らしい『お願い♪』、か――

 我々は、その光景を想像する。そして――レオナルド含む全員が鼻から血液を垂れ流し始めた事を確認した上で、言葉が続く。

「――この街の公的機関は、無条件で全て動く」

 ――我らが女神は、すでにこの街を掌握していた。
「……見た事が無いのだが、自警団の団長も、か?」

 話によると、確かこの街の自警団団長は、妙齢の女性だったはず。

「うむ。……団長は傭兵あがりでな。現役時代は高速の双剣技で敵を切り刻み――その姿から『八つ裂き姫』とまで呼ばれていた強者なのだが――」
「――待て。なんでそんな人物が、自警団の団長なんてやっているのだ……?」

「『30過ぎて【姫】とかナイわー』と言って引退した所を、スカウトされたらしいぞ?」

 ――それでいいのか『二つ名持ち』。それでいいのかイグニーズ自警団。
なんとなく同意できる理由ではあるが、そんなのでアッサリと名声を捨てていいのだろうか。別に腕が落ちたとかではない――

「――ッ!? つまり『八つ裂き姫』の実力はそのままに、自警団に……?」
「うむ。更に言えば、敵対した者は切り刻むという、苛烈な性格もそのままで――」

 そこまで言ってから、更に苦い表情になり――意を決した様子で話を続ける。

「……現在、『女神さま命!』にして、『カリアスさまLOVE!』であり、『フィアナさまに踏まれ隊!』に所属している」

「…………なんと難儀な」
「――ああ。女神様(イリスたん)に手を出し、ご尊父を負傷させたこの男の存在が耳に入れば――」

 どうやら被虐趣味も持つらしい『八つ裂き姫(年増)』。
しかし敵を切り刻む残虐性も持っていると思われ、その怒りをかったとすると……末路は予想できる。

「……命はない、と?」
「――むしろ、楽に死ねればいいな、と」

「ひっ――」

 その言葉を聞き、青くなる無法者の男。
……その姿に、怒り狂っていた同志からも、少なくない憐憫(れんびん)の視線が向けられる。
その様子を見て話す好機と思ったか、男が口を開く。

「――アンタらの怒りはわかった。……だがよ、一つ訊いていいか?」
「ふむ……いいだろう、言ってみろ」

 恐怖の対象を思い浮かべ、少し冷静になれたっぽいレオナルドが、発言を許可。

「――あの場には俺の仲間も居たんだが……なんで俺だけなんだ?」
 その発言、仲間を身代わりや道連れにするためかとも思ったが……どうやら純粋に疑問に思っていただけらしい。
「――ああ、その事か。あちらの小男の方は、お前を止めようとしたらしいではないか。……それなら許される可能性があるからな。団長の目をそちらに向けるため、自警団の牢に残してきた」

 この発言から察するに……この男をココに連れて来たのは、自警団団長の暴走を予防する意味もあったのかもしれない。腐っても治安維持組織の副長、といったところか。

「ああ、そういう事か――ん? 待て、なぜそこら辺の遣り取りを知っている? その会話を知っているのは――あの歌姫とヤツだけだが。俺がここに連れてこられたとき、ヤツはまだ気絶していたな?」
「……ふっ。我らの諜報能力を甘く見ないでもらおうか。――おい、居るな?」
「――はっ、ここに」

 不敵に笑ったレオナルドの声に応えたのは……部屋の隅、影から闇が染み出る様に現れた、黒装束の男。

「――コイツは遥か東方の島国から来たという、特殊な訓練を受けた密偵だ。『ニンジャ』というらしいが――女神の傍で護衛に就いていたコイツが聴いた」
「――なッ、待て待て! あの場であの歌姫を護衛できそうな位置に、隠れ場所なんか無かっただろうが!? ドコで聞いてやがった!?」
「――くっくっく、我ら『ニンジャ』を、常識で考えてもらっては困る……!」
 
 驚く大男に、嘲笑と共に語る『ニンジャ』は――

「我が追跡能力(ストーキング)は、地面さえあれば潜伏・盗聴なんでもゴザレ……!!」

「は? ――な! まさか地面に隠れていやがったのか!? ……く、汚いなさすがニンジャきたない……!」

 地中に隠れての諜報活動という常識外れの行動に、男は動揺のせいか、妙な口調で罵倒(ばとう)する――ん? 地中に隠れて……?

「……すまない、ニンジャと言ったな? 女神の足元近くの地中に隠れていたのか?」
「ああ。――我は女神さまの影。もしカリアス殿が間に合わなかったならば、我が――」

 俺の問いに、誇らしげに語る『ニンジャ』。……確かに地中に隠れての護衛は、隠密性、奇襲能力共にこれ以上無いほど高く、有効だろう。しかし、気になるのは――

「我らが女神は、ワンピースやスカートを普段着としているのだが、それは?」

「「「「「 あっ 」」」」」

 ……地中からの景色は、如何様(いかよう)なモノだったのだろうか。それに気付いた他の同志たちも、『ニンジャ』へ一斉に疑惑の視線を向ける。
「――見損なってもらっては困る。我は誇り高き『ニンジャ』! この誇りに賭けて、我が身は『白』だと主張す――」
「女神様の下着も白だったか?」

「いや、女神様(イリスたん)のぱんちゅはニャンコ柄――あ」

「「「「「 ニンジャあああああああああああああああああッ!!! 」」」」」
 口を滑らせたニンジャへ、全裸に腰ミノ姿の同志たちが一斉に襲い掛かり――
「――くっ、我を甘く見るな! 大地がある以上、我を捕らえる事は不可能!! 見よ、これぞ秘技、土遁(どとん)の術――」
 ニンジャは地中に逃れるため、瞬時に床板を破壊。下の地面に貫手(ぬきて)を――
「(グキッ)あ、痛い」
 ……どうやら真下に岩でもあったらしく、指が妙な方向に曲がり――
「「「「「 逃すかああああああああああああッ!!! 」」」」」
「ぎゃあああああああああああああああッ!?」

 ……断末魔の声と共に、ちょっと生々しい殴打の音が聞こえはじめた。


「――なぁ? なんか有耶無耶になりそうだから、お前は助かりそうだぞ? 次にやらかしたら、今度こそ命は無いだろうが」
「……もう、あの子には近づかねぇから、安心しろ」
「――ん? 妙に殊勝な態度だな?」
「……自分を襲った野郎のケガを治す様なお人好しなんざ――気が抜けて見る気にもなんねーよ」

 そう言い、気まずそうに顔を逸らす男。

 どうやら我らが女神は、こんな所でも信者を増やしたらしい――



   ◆◆◆次回更新は6月19日(金)予定です◆◆◆

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