第三話 雷の魔法少女(2)

作者:宮元戦車

「ボクは別に好きじゃないけどね」

 ようやく、俺は我に返る。

「何をするポニ! そんなことをして――」
「許されると思っているさガオ。なにせ、子供のしたことガオ」
「――ぐっ」

 悔しさから歯噛みする。

「いや、本音を言うと助かったガオ。(らい)()は才能があり、尚且つ、テレビ映えもするガオ。でも、この好戦的な性格のせいで戦えないと機嫌が悪くなって他の出演者に避けられているガオ。もう暇つぶし用のゴーレムじゃ満足してくれなくて困っていたガオ」

 こいつ――!
 そのために俺達を連れてきたのか!?

「やろう! 戦おう! 早く! 早く!」
「……出来れば、おままごとや鬼ごっこなどで我慢してもらいたいのだが」
「えー。だって、折角、魔法の力があるのに、つまらないじゃない」
「ま、待つポニ!」

 俺は雷花の前に立ちふさがる。こんな無駄な戦いをしている場合じゃないのに!

「俺達は事件の解決のために――」
「うるさい」
「――っ!」

 雷花が俺の腹部を蹴り飛ばす。なんの警戒もしていなかったため、俺はゴム鞠のように弾みながら、壁へと激突する。

「げ、ふっ」

 胃液が逆流する感覚。

「ワトソン!」

 大丈夫と言おうとしたが――。

「ごふごふっ!」

 出てきたのは咳のみだった。伊丹(いたみ)が優しく、俺の背中をさする。

「無理はしないほうがいいね」
「もう暇で暇でしょうがないの! だから、魔法バトルやろう! ね! ね!」
「ワトソンを傷つけてそれだけしか言うことがないのかい?」

 小さな言葉。しかし、強い意志を伴った言葉。

「んっ? どういうこと?」

 心底、意味がわからないといったようだ。

「ボクはね。探偵さ。真実を追究することがボクの目的であって、別に戦いが好きなわけじゃない」

 伊丹が手帳を取り出す。

「でもね。ワトソン君を傷つけられたら、黙っていられるホームズはいないよ。くりみなる☆じゃっじ」

 あふれんばかり、目を開けていられないほどの光。次いで、伊丹の手帳が輝き変身する。続けて伊丹が呪文を唱えると手帳の代わりにステッキが握られていた。

「全ての事件を解決! Q.E.D! ピュア・ホームズ!」

 切っ先を相手に向ける。

「魔法の国からやってきた! 人々の幸せを願うため! 悪いやつを一撃必殺!」

 拳を前に突き出して、足を広げる。

「魔法少女! ライトニング・ピュア! 参上!」

 ライトニング・ピュアが軽くウィンクする。

 ああ、生で見れるなんて感激だ。
 うう、写真を撮りたかった。ついでに、サインとか貰いたい。

「……なんでこの緊迫した場面でワトソンは笑顔になるんだい?」

 そ、それどころじゃなかった。

「伊丹! 無駄な戦いはやめるポニ!」
「無駄じゃないさ。ただちょっと力づくで事情聴取させてもらうだけさ」

 ……今さらだけど伊丹は人の話を聞かない。アドバイスくらいは受け取るが、自身が決めたことは絶対にやり遂げる性質だ。
 素直だった萌子とは正反対だ!

「はぁ!」

 伊丹が先手を取って踏み込み、ステッキを振り上げる。狙うは雷花の右肩。

「えっへへ~」

 それに対して雷花は笑顔。
 迫り来るステッキを雷花は足ひとつ分、後退してかわす。ステッキは雷花の髪を一房だけ切り落とす。

「エンチャント・ライトニング」

 雷花の手に雷が宿る。放電した拳を引き――。

「てぃ!」

 一気に前へと突き出す。雷花の狙いは伊丹の腹部。
 しかし、伊丹は慌てず、ステッキを引き戻して受け止める。
 小回りが利くステッキならではの速度だ。普通の長物であればこうはいかない。
 がぎぃんと、ステッキと拳が弾ける音が聞こえた。
 その衝撃を利用して二人が距離を取る。

「あははは! すごいすごーい!」

 ピュアが両足を広げて、前傾姿勢となり、拳で地面を支えた奇妙な構えを取る。
それは例えるなら、短距離アスリートが走り出す直前に似ている。
 嫌な予感が止まらない。そうだ。この態勢は――テレビでも何度か見たことがある。
 少女が顔を上げる。そこには楽しくてたまらないといった笑顔。

「でもね」
「伊丹! ライトニング・ピュアは魔法少女の中でも――」

 慌てて、俺は伊丹へ忠告をする。

「最速の魔法少女ポニ!」
「わたしほどじゃないね!」

 しかし、遅かった。
 刹那、ライトニング・ピュアは雷のような恐ろしい速度で迫ってきた。

「くっ!」

 咄嗟に伊丹が後退するが――。

「あははは! 遅い! 遅い! まるで亀さんみたい!」

 間合いを詰めた少女の手には雷が握られていた。

「必殺――ピュア・ライトニング・ボルトォォ!」

 少女の手が伊丹に向かう。伊丹は反応する暇もなく――。

「ぐ、がぁぁ!」

 その手は伊丹の肩口に突き刺さる。同時に放電。
 伊丹の体中を電撃が駆け巡る。ここからでもわかるくらいに伊丹がびくんびくんと何度も陸に打ち上げられた魚のように跳ねる。

「伊丹!」

 痛む体を無視して、駆け寄る。

「ぐ、ぅ!」

 伊丹が苦痛に膝をつきながら、必死に耐える。体からは肉が焼ける臭いがする。
 どれほどの電撃を食らえば、こうなるのだろうか。

「すまないポニ。アドバイスが遅れたポニ」

 失態だった。
 俺は何度も魔法少女ライトニング・ピュアのテレビを見ていて、その戦い方も熟知しているのに、何も伝えることができなかった。
 今の攻撃にしても食らう必要はなかったはずだ。

「本当にすまないポニ」

 マスコット失格だ。
 頭を垂れて、俯く俺に伊丹はいつも通りに冷静な視線を向ける。

「それで? 対抗策は?」

 変わらない言い方。
 それは過ぎた失敗よりも次の対抗策を講じているようだった。

「まず、ライトニング・ピュアの正確な能力は電子を操ることポニ。ライトニング・ピュアは雷を使って地面と足の間に斥力を発生させて弾丸のようなスピードで飛び出してくるポニ」
「……なるほど」

 伊丹が雷花に目を向ける。追い討ちをかけるわけでもなく、雷花はにこにこして笑っている。

「無敵だな。相手が避けられないくらいに高速で移動し、雷撃による高い攻撃力を誇る」

 そう、無敵。しかし、ライトニング・ピュアという魔法少女はまだ完成されていない。

「でも、弱点もあるポニ。ライトニング・ピュアはその高速度で移動できるけど。そのせいで急な方向転換ができないポニ」

 番組が進み、更にパワーアップと経験を積めばどうしようもなくなる。
 しかし、今ならば勝てる。

「なるほど。相手の攻撃は防ぐことはできない。ならば、高速で直線を移動する相手にカウンターを取ればいいのだな」
「終わったガオ? ロートルさん」

 隆が余裕を持って聞く。あくまでも蔑み、先人に対しての敬意を全く感じさせない言い方に怒りを通り越して、呆れすら浮かぶ。

「お前は俺達のことを分析しなくていいポニ? サポートであるぬいぐるみは時に分析を。時にヒントを魔法少女に与えるものポニ」

 それこそが魔法少女のサポート。
 ゴーレムとの戦闘を経て、万に一つも魔法少女がやられないための保険。
 同時に成長を促すための促進剤。
 それなのに、こいつはテレビで見ていたときから、ロクに雷花に対してサポートを行っていなかった。
 俺の答えに返ってきたのは――。

「く、くははは!」

 嘲笑だった。

「見たことがない魔法には驚いたガオ。でも、それだけガオ! 所詮は一線を退いたロートルだガオ。お前らやゴーレム相手にアドバイス? ぷははは! 笑わせるなガオ!」

 悪意を隠そうともせず、隆が言い放つ。

「なんとも悪役側に近い笑いだね」
「彼女は天才だガオ。初代魔法少女であるプリティ・マキーナの娘ガオ。その才は経験不足という問題すらも一蹴するガオ! 雷花! そうだろガオ!?」
「……んー。難しくて、意味わかんない」

 当の本人は首を傾げている。

「時代は変わったガオ。魔法少女とは既に単体で魔法少女たりえるガオ。せいぜい、サポート役のマスコットは視聴者に対して愛嬌を振りまけばいいガオ」

 ……俺の一年間の経験、俺とプリティ・モエコとの思い出、ぬいぐるみとしての矜持。その全ては無駄ではない。
 それを証明するためにも勝とう。

「伊丹。勝つポニ」
「簡単なことさ。ボクと君ならば、勝てる」

 改めて、ステッキを構える。傷は浅くはない。それでも、しっかりと大地に立ち、ステッキを構える姿は正義の味方という冠にふさわしい。

「もういいの?」

 対して、魔法少女ライトニング・ピュアは先ほどと同じ構えを取る。
 注意して見れば、既にライトニング・ピュアの足元には電気が撒き散らされている。

「構わない」

 ステッキを上段に構える。
 伊丹の魔法。それはどんな魔法も掻き消す必殺の魔法。
 ――両者とも戦闘準備に入っている。

「じゃあ、行くよ――!」

 直後、彼女は大地を蹴る。
 同時に伊丹はステッキを振り下ろす。
 どちらの攻撃が先に届くか――。
 魔法を断ち切るステッキか。はたまた、弾丸の如く、速度を上げた最短距離から放たれる拳か。

 このタイミングなら――伊丹の勝ちだ!

 若干だが、伊丹のステッキのほうが速く先に届く。
 勝利を確信した一撃は――。
 ライトニング・ピュアが突然、姿を消したことで無意味となった。

「――っ!」

 伊丹が息を呑む。
 ありえない事態。しかし、眼前にある現実。
 伊丹の思考が鈍る。

「伊丹! 上だポニ!」

 俺は二人から離れていたため、状況を把握できた。
 ライトニング・ピュアは飛んだのだ。
 ステッキのほうが先に届くと知るな否や、電子の反発力を最大まで生かして、上空へと逃げたのだ。
 こんな技はテレビを見ていてもなかった。

 戦いながら進化している!?

 伊丹は動揺を隠しきれないまま手元にステッキを引き寄せる。
 しかし、相手は既に上空にて拳を振り上げている。ライトニング・ピュアの視線は伊丹の喉元。

「いっくよー! ピュア・ライトニング・エボルトォォォ!」

 ライトニング・ピュアが拳を突き落とす。拳は雷撃をまとい、真っ直ぐにがら空きの伊丹の顔面へと突き出す。
 伊丹は――まだステッキを引き寄せた体勢のまま。
 ――間に合わない。

「伊丹!」

 俺の言葉に伊丹はほんのわずかに笑みを作る。

「りりかる」

 このタイミングで必殺魔法!?
 剣を放つにはいくらなんでも遅すぎる。
 駄目だ! 絶対に間に合わない!

「Q.E.D!」

 しかし、伊丹の魔法はステッキではなく、伊丹の額へと集まる。
 そして、ライトニング・ピュアの拳は伊丹の額へと打ち込まれようとする。
 同時に伊丹も仰け反った体勢から一直線で体を起こし、自らライトニング・ピュアの拳へと立ち向かう。
 ライトニング・ピュアの拳と伊丹の額がぶつかり合う。

「ふにゃ! いたーい!」

 ライトニング・ピュアの拳からは電撃――いや、それのみならず、魔法で作られた全ての力が余波で削げ落ちる。
 つまり――。

「ほえ」

 全裸。まごうことなき、全裸。
 描写にすれば、一瞬で国から発行禁止命令が出るのではないかと思うくらいの全裸。
 無論、湯気や葉っぱ等はない。

「あわわわわポニ!」

《つづく》

◆◆◆次回更新は4月10日(金)予定です◆◆◆

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