2巻発売記念SS 『××しないと出られない部屋に閉じ込められたんだが、どうすればいいと思う?』

作者:子子子子 子子子

『××しないと出られない部屋に閉じ込められたんだが、どうすればいいと思う?~××は絶対に避ける方向で~』



\前回までのリベンジ・マギア/

アタシ、セイレム魔女学園の学園長、マーガレット・マリー!
極東・大和皇国の陰陽寮からやって来た激推しの転入生、ハルナが急に「何でもお願いを叶えてくれる」なんてたいへ~ん!!
これはついにアタシの猛アプローチに根負……もとい、想いが届いたってことかしら!?
「据え膳食わねば~」という極東のコトワザもあることだし、本能の(おもむ)くままに早速エッチなお願いをしようと思ったけど、残念ながら「いかがわしいのは却下」……って、マリーもしょんぼり~。
残念だけど健全な方向へということで、ちょうど開発中の術式の実験に協力してもらうことに。
だけど、その実験中にアタシたちを待ち受けていたのは、××しないと出られない展開で――!?
いったいアタシたち、どうなっちゃうの~!?





「……おい、さっきからどこに向かって喋ってる?」

 先ほどから壁に向かって流暢(りゅうちょう)に弁舌をふるうマリーを見て、晴栄はさも(いぶか)しげに眉をひそめた。

「やあねぇ、ハルナ。こういうのは冒頭でキチンと説明しておくのが筋ってものよ」

 マリーは瞬時にテンションを戻すと、優雅な笑みを(たた)えながら答えた。

「誰に説明するんだ、誰に……」

 晴栄はそんなマリーを見て、盛大にため息を吐いてしまう。

「それはもちろん、このSSを読んでくれる読者のみなさまに決まってるじゃない。SSということで、ただでさえ文量が限られるんだから多少は説明口調でも仕方ないと思うけれど」
「いつにも増してメタメタしい発言はやめろ。お前がそんなんだから『作中の登場人物が時代にそぐわない言葉を使う』とか言われるんだぞ?」
「あら、いいじゃない。ここは本編とは異なる番外編の空間。なら、多少ハメを外しても問題はないはずよ? あとこの物語は現代口語訳だから、その時代にとって最適化された言語で訳されているはずよ。つまりは仕様、ってヤツね。うんうん、この言葉はとても便利ね。もっと積極的に使っていこうかしら?」
「その発言がメタメタしいと言っているんだ! 番外編とはいっても、少しは自重しろ!」

 あっけらかんと言い放つマリーに、晴栄は条件反射の如くツッコミを入れた。

「そんなことよりもだな――」

 不承不承といった様子で、晴栄は表情を引き締めて本題を切り出す。

「今、僕たちが考えなければいけないのは、どうやってこの〝部屋〟から脱出するのかということだ」

 周囲を見渡すと、晴栄は真剣な声色で言葉を続ける。
 脳裏を()ぎるのは、ここまでに至る経緯だった。

 常日頃大和からの食材や物資の便宜を図ってくれるマリーに感謝して、晴栄は『僕にできることならば、何か一つ願いを聞いてやろう』と提案した。
 突拍子もない提案の数々をはね除けた後、妥協案として『術式の開発に付き合って欲しい』という依頼に落ち着くと、晴栄はマリーの研究室にて術式の開発に協力することになった。

 ここまでは冒頭でマリーが口にした通りだが、問題はここからだった。
 マリーが術式をテスト起動させると同時に、晴栄とマリーは結界の中へと捕らわれてしまったのだった。

「ご丁寧に術式の起動も阻害されていて、魔術を用いて脱出することもできないとはな。物理的にも試してみたが、結界を敗れる気配もなし……まったく、なんだこの性悪(しょうわる)な術式は! 作成者の顔が見てみたいものだな」
「やだ、ハルナってば……そんなに褒められると、マリー照れちゃう!」
「褒 め て な い !」

 皮肉交じりに嫌味を言うがマリーは身体をよじらせて喜ぶのみで、まったく(こた)えていない様子だった。

「まあ、作成者のアタシがいうのも何だけど、無理やり突破するのは難しそうね。ただ、万が一の時に備えて時間制限を組み込んでいるから、小一時間程度で自動解除されるはずよ」
「それまで気長に待て……というわけか」

 マリーも当然、不測の事態には備えていたのか、現状での打開策を口にする。
 晴栄はそれを聞くと、再び盛大に嘆息してしまった。

「というわけで――時間まで二人きりなことだし、これを機にキャッキャウフフでしっぽりムフフなことでもしましょうか」
「……あ、僕の半径三メートル以内に近づかないでくれるか?」
「まさかの拒絶!? マリーちゃん、ショックぅ……」

 マリーはにこやかに微笑みながらハグしようとするが、晴栄はさっと後ずさりジト目で警告する。
 袖にされたマリーはしょんぼりと頭を垂らした。

「まあ、いい……時間を無為に浪費するのは尺だが、それしか手立てがないなら甘んじて――」

 晴栄はマリーから距離を取りつつ、現状での方針を口にしようとする。
 しかし、その表情は急に強張っていった。

「……一つ尋ねるが、この部屋にトイレは完備されているか?」
「いいえ、残念ながらないけど――」

 晴栄が震える声で尋ねると、マリーは小首を傾げながら答える。
 しかし、その途中で質問の意図を察したのか、思わず言葉を途切れさせてしまう。

「ごめなさい、ハルナ……実はさっき出したジャスミンティー、利尿作用があったのよね。アタシは飲み慣れてるから耐性がついてるけど、慣れてないハルナには効きが出てしまったようね」
「なっ……お前のせいか――ッ!」
「いや、これに関しては本当に意図してなかったのよ!? 流石のアタシも、そっちの方向で(はずかし)めるのは趣味じゃないし……あ、でも、相手が美少女ならイケるかも。むしろ、(おもむき)さえあるわ。よしよし、何だか新たな扉を開けそう。ありがとう、ハルナ。アナタの犠牲は無駄にしないわ」
「何を勝手に終わらせてるんだ!? ふざけるなよ! お前、本当にふざけるなよ!!」

 マリーに出されたお茶が元凶だと知ると、晴栄は抗議の声を上げる。
 しかし、マリーは一人で勝手に納得した様子で、最後には朗らかな笑みを浮かべて礼すら述べる。
 晴栄はどうしても納得がいかずに、思わず叫びを上げてしまった。

「でも――ハルナ、安心して頂戴。実は今すぐにでも、結界を解除する方法があるわ」
「……おい、どうしてそれを最初から言わなかったんだ?」
「残念だけど、それには〝とある条件〟が必要なの。多分、言ったらハルナは怒ると思ったから黙ってたけど、こうなったら仕方ないわね」

 晴栄が(いぶか)しげに問うと、マリーは苦笑交じりに答えた。

「じゃあ、率直に言うと――アタシとキスをすれば、この結界は解除されるわ」
「…………………………………………………………は?」

 真剣な表情でマリーが告げると、晴栄は鳩が豆鉄砲を食ったような顔で呆けた声を上げてしまう。

「お前、緊急事態なのに、ふざけたことは――」
「いいえ、残念ながら事実よ。そもそも、この術式の基盤になっているのは、魔女術における儀式(サバト)の技法。その中でも魔女の結婚式(ハンドファスティング)は男性と男神と女神の同一化による精神エネルギーの調和、統合、均衡を果たすことで魔力の浄化を行い、限定的ながらも魔術の行使を制限することができるの」

 晴栄が即座に抗議しようとするが、マリーはそのまま説明を始める。

「話を聞く限り、それは男女を対象にしたものじゃないのか? だったら――」

 表向きには晴栄は女性ということになってる。
 ならばこの理論は当てはまらない、とこの場を切り抜けようと反論した。

「まあ、そこら辺はアタシ流にアレンジしてあるから安心して。男女関係なく、術式が起動するようになっているから☆」
「…………」

 テヘ☆と舌を出してウィンクするマリーを見て、晴栄は辟易したように顔をしかめる。

「……本当にそれをすれば脱出できるんだな?」
「ええ、それはマーガレット・マリーの名にかけて保証するわ」

 しばらくの逡巡の後、晴栄は半ば観念するように尋ねる。
 このままでは人としての尊厳を失うだけでなく、正体が露顕(ろけん)してしまう危険性すらある。
 晴栄の立場上それはもっとも避けるべき事態であり、そのためならばもはやなりふりは構っていられなかった。

「それじゃあ、ハルナ……目、瞑って?」
「……本当にキスだけだからな? それ以外に変なことはするなよ?」
「フフフ、ハルナってば緊張してるの? いいのよ、お姉さんに身を任せてくれれば」
「ああ、本当に――今日はなんて厄日だ……」

 もはや抵抗する気も失せ、晴栄は諦めるように目を閉じる。

「それじゃあ――いただきます」

 マリーはうっとりとした表情で自らの唇を湿らせると、晴栄の顎に手を添えて顔を近づける。
 しかし、その瞬間――

「ハルナ! 学園長先生! 無事ですの!?」

 落雷のような音が響くと、結界が外部から破壊された。
 次いで聞こえてくるのは、聞き覚えのある声だった。

「あら――残念、いいところで邪魔が入っちゃったわね☆」
「な、ななな、ななななな――」

 声の主であるフランが部屋に入ってくると、マリーはにっこりと微笑む。
 晴栄の顎に手を添えて顔を近づけている現状はまさにキスの一歩手前であり、衝撃的な光景を見たフランの顔は一気に紅潮していく。 

「わ、わたくしは、その、ティチュさんからハルナがここにいると聞いてやってきたのですが……外から呼んでも返事がなく、どうやら術式が暴走していたようだったので助けようと……で、でもでも、こんなことになっているなんて、知らなくて――」

 フランは赤面しながらしどろもどろになって言葉を続けるが、視線は晴栄とマリーに釘付けだった。

「その……お、お邪魔しましたわ! どうぞごゆっくり!!」
「ま、待てフラン! これには理由があってだな――」

 フランは叫ぶように言い放つと、真っ赤になった顔を手で覆いながら走り去っていく。 晴栄は弁明するように声を上げるが時既に遅く、遠ざかっていく背中を追って駆けていった。

「うーん……役得と思ったけど、残念残念。でも、初々しい二人が見られたからよしとしましょうか」

 走り去ってく二人を見て、マリーは最後に微笑むのだった。


〈了〉

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