◇4 真紅の闖入者

作者:子子子子 子子子

◇4 真紅の闖入者



 閉店時間が過ぎたロードハウスを叩き出されたルチアーノたちは、近場にある倉庫へと戻ってきていた。
 完全に酔いが回っていたからか、倉庫に着くなり床に倒れ込んで雑魚寝をしていた。

「いやー、結局朝まで飲み明かしちゃいましたね」

「あはは、いいじゃねーの。祝杯なんだし?」

「今何時よ? おっと、もう昼か……」

 それから昼過ぎになったところで、雑魚寝をしていた部下たちも徐々に起き始める。
 若干、酔いが残っている者もいるようで、二日酔いまでいかずとも気怠そうな顔をしていた。

「おう、お前らも起きたか」

 彼らよりも一足先に起きていたルチアーノは、寝起きの一服と葉巻を燻らせていた。
 ルチアーノの姿を見ると、部下たちは口々に言葉を発する。

「早いっすね、ルチアーノさん」

「ボス、昨日はごちでした!」

「俺らの中で一番呑んでたくせに、相変わらずケロッとしてらぁ」

「バカ野郎。お前らがだらしねぇンだよ」 

 ルチアーノは笑みを零して、紫煙を吐き出す。
 彼らは昨日の余韻に浸りながら、気怠い目覚めを迎えていたが――


「こんにちは、マフィアのみなさん。少し、いいかしら」


 男たちの声が響く倉庫の中に、突如として女性の声が響き渡る。
 彼らが視線を向けると入り口にはいつの間にか、一人の女性が立っていた。
 真紅のタイトスーツに身を包み、透き通るような銀髪をなびかせるその人物は、艶やかな笑みを湛えて彼らを見ていた。

「おっと、随分と別嬪さんみてぇだが……オレらになにか用かい?」

 見覚えのない闖入者に、部下たちは一瞬で酔いが醒めたように身構える。
 今にも銃を抜こうとしたところで、ルチアーノはそれで手を制してまずは自分が声をかけた。

「あら、こんな伊達男に褒められるなんて、マリー感激。実はアナタたちに。聞きたいことがあるの」

 マリーと名乗った女性は、笑みを浮かべながらにこやかに答える。

「実はこの街に〝人間に音を感じて、あらゆる嘘を見抜く人物〟がいるらしいんだけど……心当たりはないかしら?」

「……それを聞いて、どうするつもりだい?」

 鎌をかけるようなマリーの質問を聞くと、ルチアーノは彼女がシナトラと自分たちの関係まで辿り着いていることを確信する。

「そうねぇ……捕まえて持ち帰る、って言ったらどうする?」

 マリーは艶やかな笑みを浮かべて答えると、「キャッ、言っちゃった☆」と身体をくねらせながらつけ加える。

「悪いが――もしそうならアンタには、お帰り願うしかねぇな」

 ルチアーノは視線を鋭くして、警告するように言い放つ。
 おちゃらけてはいるが、マリーのただならぬ雰囲気を本能で感じ取っていた。
 ルチアーノが銃を引き抜くと、彼らの部下も同じく銃口をマリーへと向ける。

「うーん……残念だけど、アタシもこのまま帰るわけにもいかないのよねぇ」

「それはつまり、このまま蜂の巣になっていいってことかい?」

「いや、それに関しては心配ないわ。どちらかといえば、アナタたちに怪我をさせずにこの場をどう収めようか迷ってるの」

 マリーは困り顔でため息を吐くと、ルチアーノは真剣な面持ちのまま尋ねる。
 しかし、彼女の心配は予想外の方向であり、それを聞いた部下の一人が激昂して声を上げた。

「テメェ! このアマ、テキトー抜かしてんじゃねぇぞ!!」

「おい、馬鹿! 止め――!?」

 激昂した部下はマリーを黙らせようと、威嚇射撃として引き金を引く。
 ルチアーノは脅しとはいえ、軽率に銃を撃った部下を叱責しようとする。
 しかし――

「キャー! 怖~い☆」

 マリーの足元に向かって放たれた弾丸は、突如として勢いを失って床へと落ちる。
 まるで見えない壁に当たったような光景に、ルチアーノたちは表情を強張らせた。

「な……なんだ、あのアマ!? テメェ、舐めんじゃねえぞ!!」

 理解の範疇を超える光景に、先ほど銃を撃った部下は呆然とする。
 一瞬感じてしまった恐怖を振り払うように、今度はマリー本人へ目がけて何度も引き金を引く。
 しかし、やはり全ての銃弾はマリーの寸前で、見えない壁に阻まれたように勢いを失って床へと落ちてしまった。

「クソッ! いったい、なんなんだよ!?」

「撃て! 一気に撃てば、どうにかなるかもしれねぇぞ!」

「うおぉぉぉ――死にさらせ!」

 またもや繰り返される超常的な光景を目の当たりにして、恐怖に呑まれた部下たちは罵声を上げながら一斉に銃を撃つ。
 数多の銃弾がマリーへと向かって放たれるが、やはり彼女に到達する前に床へと落ちていった。

「うーん……ちょっと試そうと思って思わせぶりなことを言ってみたけど、やっぱり失敗だったかしら?」

 自身に向かって放たれる銃弾の嵐を前にしても、マリーは微動だにすらしない。
 それどころかこの場をどうやって収束させるかを悩んでいる始末だった。

「お前ら――いい加減にしやがれ!」

 ルチアーノが恐慌状態に陥った部下たちを一喝すると、部下たちは我に返ったように銃を下ろす。
 その様子を見ていたマリーは、驚いたように目を丸くしていた。

「少しは冷静になれ。この女が本気になったら、オレたちはすぐにでも殺されてる。それなのに向こうから仕掛けてこねぇのは、こっちに危害を加えるつもりがない……違うか?」

「ええ、その通りよ。いやー、アナタみたいな人がいて助かったわ」

 ルチアーノは冷静に状況を分析すると、導き出した結論をマリーに投げかける。
 マリーは頷くと、軽い調子で笑みを浮かべていた。

「……アンタ、もしかして魔術師か?」

「え、魔術師って……ボス、本当ですかい?」

「いや、でも……確かにそれならあれも納得できるっていうか」

「すげぇ……本物の魔術師なんて、初めて見たよ」

 ルチアーノが続けて問いかけると、部下たちは色めき立って声を上げる。
 魔術という超常なる事象を展開する技術を修める魔術師は、歴史の裏側で暗躍してきた存在とされる。
 そんな都市伝説のような存在ならば、先ほどのような芸当も可能だと妙な説得力があった。

「ええ、その通りよ。申し遅れたけど――」

 それなら話が早いとマリーは頷き、ルチアーノたちに向かって自らの名を告げることにした。

「アタシはマーガレット・マリー。セイレム魔女学園の学園長をやってる、通りすがりの魔術師よ」

 殺伐とした場の雰囲気にそぐわない軽い調子で自己紹介をすると、マリーは最後にウィンクをするのだった。

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