◇7 仲間/家族

作者:子子子子 子子子

◇7 仲間/家族



 それからシナトラはマリーに連絡を取り、紆余曲折の末に魔女学園の入学試験を受ける。
 結果的に試験には合格して金銭的な問題も解決したシナトラは、晴れて魔女学園の生徒となった。

「シナトラ、忘れ物はない?」

「うん……多分、大丈夫」

 そして、シナトラは今日、旅立ちの日を迎える。
 故郷であるホボーケンを離れダンバースへと向かう列車に乗るため、駅のホームにはシナトラと見送りに来たナンシーの姿があった。

「なんというか、私もビックリしちゃった……シナトラが学校に行くのは
嬉しいけど、それが魔術師の学校ってのも驚いたけど、女子校だから女装してでも通いたいっていうのも驚いたというか……」

「あー……その件に関して、本当にゴメン」

 セイレム魔女学園への進学を決めた際、シナトラはナンシーに全てを打ち明けた。
 ナンシーも当然最初は反対したが、シナトラの夢が本気であることを理解すると、最終的には全面的に協力することにした。
 かつてはシナトラの方から距離を取っていたが、こうしたきっかけもあり二人の親交は復活していた。

「だけど生まれて初めて、夢ができたんだ。そのためだったら、ボクはなんだってやってみせる」

「うん、分かってる。一緒の学校に通えないのは残念だけど……私はシナトラのこと、応援してるから」

 自身の特異な体質のせいで周囲から孤立していたシナトラが、己と真剣に向き合った末に見出した夢なのだから。
 彼をずっと近くで見ていた幼馴染みは、その背中を押すことを選んだのだ。

「ありがとう、ナンシー。きっと夢を叶えて帰ってくるから、その時は今までのお礼もさせてよ」

「うん、分かった。私、楽しみにしているから」

 いつも助けてくれる幼馴染みに対して、シナトラは深く感謝する。
 そして、この恩をいつか返せるように。
 密かに胸の内で、強く誓うのだった。

「あ……もうすぐ時間だ」

「それじゃ……シナトラ、向こうでも元気でね」

「うん。ナンシーも……元気で」

 駅のホームには間もなく出発を告げるベルが鳴ると、二人は名残惜しそうに見つめ合う。
 そして、最後に言葉を交わすと、手を振って列車の中へと入っていく。

「シナトラー! 元気でねー!!」

 やがて、発車を告げるベルがホームに鳴り響く。
 ナンシーは大きく手を振って、必死に声を張り上げる。
 シナトラも窓越しに手を振って、幼馴染みに別れを告げた。
 シナトラとナンシーは互いの姿が見えなくなるまで手を振り合い、やがて完全に彼女の姿が見えなくなってしまった。

「……やっぱり、ルチアーノたちは来なかったな」

 座席に腰かけながら、シナトラはぽつりと呟きを漏らす。
 最後に倉庫で別れて以来、ルチアーノたちとは顔を合わせていない。
 今日のことも伝えようと思って尋ねたが、どうやら避けられているようで結局会うことはできなかった。

「まあ、仕方ないか。見送りに来るような柄じゃないし」

 自身の中でそう結論づけると、シナトラはどこか寂しそうに笑う。
 気を取り直して、車窓からの景色を見ようとするが――

「――シナトラァ!」

 そこには列車と併走する車があり、助手席の窓から身を乗り出している男の姿が目に入る。
 シナトラが窓を上に押し上げると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
 
「えっ――う、そ……?」

 信じられない、とシナトラの顔が驚愕に染まる。
 その人物こそ、ラッキー・ルチアーノ――即ち、ルチアーノとその部下たちだった。

「お前、気づくのが遅ぇよ! 車じゃ列車に追いつくのも限界があンだよ!?」

「いや、ボスが素直に見送りに顔を出せば良かったんじゃ……」

「うるせぇ! ンなこたぁ分かってンだよ!」

「それよりもルチアーノさん、もうエンジンが限界だ! 流石にこの人数を乗せて、スピードを上げるのは無理ってもんです」

「チッ、仕方ねぇ……いいか、シナトラ。一度しか言わねぇから、よく聞きやがれ!」

 ルチアーノと部下たちは車内で言い合いになるが、車のボンネットからは煙が立ち上り、これ以上の走行はもう限界であることが分かる。
 ルチアーノは小さく舌打ちをすると、列車の窓からこちらを見るシナトラへと叫ぶように言う。

「向こうに行っても負けるンじゃねぇぞ! かましてこい、シナトラ! お前だったら、絶対にやれるぜ!!」

 声を張り上げて、ルチアーノは拳を振り上げる。
 それは旅立つシナトラへのエールであり、彼らなりの送別の辞だった。
 
「なんたって――お前は俺たちの家族(ファミリー)なんだからなァ!!」

 最後に笑みを浮かべて言い放つと、ルチアーノはシナトラを見てあの時は言えなかった本当の気持ちを告げる。
 そして、ついに車のボンネットから出火してしまい、ルチアーノたちを乗せた車を置いて列車は瞬く間に進んでいった。
 しかし、車から立ち上る煙は別れを惜しむ狼煙となって、しばらくの間シナトラはそれを眺めていた。

「は、ははは……なんだよ、クビって言ったじゃないか」

 やがてその煙も見えなくなると、シナトラは窓を閉めて思わず笑みを零す。
 最後まで彼ららしい別れに、自然と笑いがこみ上げてくる。
 そして、シナトラの頬には、いつの間にか涙が伝って流れていた。

 彼らとの関係は、確かにシナトラの力を貸すだけの関係だけだったのかもしれない。
 しかし、ルチアーノたちはシナトラの力を恐れず、あまつさえ賞賛すらしていた。
 シナトラにとってはそれは初めてのことであり、いつしかそんな彼らと一緒にいることが当たり前になっていた。

 シナトラに自覚はなかったが、彼らは仲間(ファミリー)であり、家族(ファミリー)であったのだと今では分かる。
 そんな彼らがこうして、二の足を踏んでいる自分の背中を押してくれたのだ。
 もう死に物狂いで頑張るしかないと、流れる涙を拭う。

「ありがとう。ナンシー、ルチアーノ、みんな。ボク、頑張るから――」

 幼馴染みと仲間たちのエールを胸に、シナトラは決意を新たにする。
 もう遠ざかってしまった故郷を眺め、いつの日か夢を叶えて凱旋を果たすと密かに誓うのだった。

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