コラボ記念SS『異なる世界からの来訪者 ~バーチャルのじゃロリ狐娘YouTuberおじさん、リベンジ・マギアとコラボするってよ~』

作者:子子子子 子子子

『魔術破りのリベンジ・マギア』×『けもみみおーこく国営放送』コラボSS
【異なる世界からの来訪者 ~バーチャルのじゃロリ狐娘YouTuberおじさん、リベンジ・マギアとコラボするってよ~】





 まるで宙を漂うような浮遊感の中で、土御門晴栄(つちみかどはるな)は目を覚ました。

「――――」

 深い水底へと沈んでいたような意識が、徐々に浮かび上がっていく。
 寝起き特有の朦朧とした思考を必死に振り払い、晴栄は口を動かした。

「こ、こは……?」

 意識が覚醒していくと、まぶたの隙間から光が差し込んでくる。
 眩しさを感じながらも、ゆっくりと薄目を開くと――

「はいどうもー!」

 不意に声が聞こえてきた。
 やがて、視界に飛び込んできたのは――

「バーチャル、のじゃロリ、狐娘YouTuberおじさんのねこますでーす」

 ――狐娘である。
 しかし、声は男性のそれだった。

「…………」

 巫女服をアレンジしたような奇妙な衣装に身を包んだ少女の頭には、獣を連想させるふさふさの体毛が生えそろった耳があった。
 可憐な容姿には不似合いな青年の声が違和感を覚えさせ、この状況が理解できていない晴栄は怪訝そうな顔で沈黙するしかなかった。

「バーチャル、のじゃロリ、狐娘YouTuberおじさんの――」
「いや、聞こえているから繰り返さなくていい」

 自己紹介が聞こえていないと思ったのか、ねこますと名乗った狐娘は律儀に名乗り直そうとする。
 晴栄は渋面を作ると、それを手で制した。

「なのじゃー……」

 冷ややかな対応に、肩を落としてしょんぼりとするねこます。
 胸に僅かばかりの罪悪感めいたものが生じるが、このままでは埒が明かないので言葉を続けることにした。

「それで、ここはいったいどこなんだ? 僕は自分の部屋で寝ていたはずなのだが……」

 まずは状況を理解することが先決と、晴栄は問いかける。
 周囲を見渡すと辺り一面は白い光のみで満たされていて、果てのない景色は遠近感を狂わせ、だまし絵でも見ているかのような錯覚を覚えた。

「ここは【けもみみおーこく国営放送】の放送局なのじゃー」
「けも、みみ……?」

 聞き慣れない言葉に、思わず顔をしかめ復唱してしまう。

「細かいことは気にしないで欲しいのじゃー!」
「まあ、場所に関してはもういい。どうせ夢の中だろうからな」

 状況を鑑みて、ここは夢の中と判断するのが妥当である
 これ以上は考えても無駄だ、と自分に言い聞かせた。

「……で、どうして僕はここに呼ばれたんだ?」
「それは狐狼丸(ころうまる)ちゃんに頼まれたからなのじゃー」
「狐狼丸が?」

 聞き覚えのある名前が出てくると、晴栄は思わず怪訝そうに片眉をひそめた。
 
「はいどうもー! バーチャル、のじゃロリ、狐娘YouTuberおじさん――じゃない、狐狼丸なのじゃー!」

 すると突然――
 一切の前兆もなく、一人の童女が晴栄の眼前に現れた。
 それは奇妙な出で立ちをした童女だった。

 煌びやかに輝く黄金色の瞳に、ふんわりとした髪は狐の毛色のような赤みがかった茶髪。
 所々にはねているウルフカットは、獣のたてがみを連想させる。
 髪をかき分けるようにぴょこんと飛び出ているのは獣の耳であり、尾てい骨の辺りから生えているふさふさの尻尾。

「……狐狼丸、どうしてお前がそこにいるんだ」

 晴栄は盛大にため息を吐くと、抗議するようにジト目で童女を見据える。
 この童女こそ晴栄の式神であり、懐刀とも呼べる護法童子の狐狼丸だった。
 魔力の揺らぎや術式の反応などもまったくなく、文字通り瞬時に現れた狐狼丸に内心で驚くが、すべては夢の中であるというだけで説明できるのだから深く考えるのが馬鹿らしく思えた。

「くはははは! どうですかのぅ、主殿? バーチャルのじゃロリ……面倒くさいから〝のじゃおじ〟で構わないかのうぅ?」
「大丈夫なのじゃー」
「うむうむ、のじゃおじは話の分かる御仁よ」

 狐狼丸は高らかに笑うと、小首を傾げたあとに問いかける。
 ねこますは両手を掲げて鷹揚に答えると、狐狼丸はうんうんとしたり顔と頷いた。

「というわけで主殿。紆余曲折を経て夢の中で出会ったのじゃおじに主殿との関係が倦怠期に入っていることを相談したところ、力を貸してくれると申し出てくれましてのぅ。こののじゃおじ、なかなかに奇っ怪な神通力を有しておるのです。〝ゆーちゅーばー〟や〝ぶいあーるちゃっと〟なる術技が由来だそうで」

「では! ワキでおにぎりを作りたいと思うのじゃー!」
「いったい何を言っているんだ……?」

 倦怠期云々は事実無根だがツッコミどころが多すぎて、抗議する気力が湧いてこない。
 しかし、どうしても看過できない単語がねこますの口から飛び出ると、条件反射の如くツッコミを入れてしまった。

「ワキワキ~!」
「主殿、考えるのではありません。感じてくだされ」
「ダメだこいつら、早くなんとかしないと」

 両手を掲げてワキワキと両手を蠢かせるねこますに、目を見開いておののく。
 狐狼丸はその横でドヤ顔をして言い放つと、晴栄はこれ以上考えるのを止めた。
 
「そう、ここに酢飯、すめし……?」
「あれー、でも。特に意識してなかったけど、よく考えてみるとおにぎりは酢飯じゃないような……」
「まあ、いいや……」
「早速、何か見失っているようなのだが……」
「主殿、考えるのではなく感じるのです。のじゃおじを信じてくだされ!」
「僕はもう最初から何を信じていいのか分からないのだが」

 何もない空間からいきなり米びつが出てきたり、一人で自問自答し始めたり、ツッコミどころ満載の光景にボソッとツッコミを入れるが、狐狼丸はやはりドヤ顔で言い放つ。

 この不思議時空に放り込まれ、晴栄はもう何を信じればいいのか分からなかった。

「じゃ、まず最初にコメをよそいます」
「しゃもじを使わず素手でいったぞ!?」
「で、これをワキで……これをワキで……」
「ああ、何てことを……」
「にぎるんっ……ちょっちょっちょっ、ちょっと! むずかしいっ」
「いや、それはそうだろう……」

 米びつから白米をよそい、自らの脇に持っていこうとするねこます。
 苦戦する様子を見て、晴栄はもはや惰性に近い義務感でツッコミを入れた。
 
「こうっ……にぎにぎ……にぎにぎ……こっこうっ……これっ」
「にぎ……にぎにぎ……にぎにぎ……」
「完成ー!!! ♪」

 しかし、よそった白米を脇を押し当てると、いつのまにかおにぎりが出てくる。

「待て、海苔はどこから出てきた?」
「完成なのじゃー!」
「無理やり押し通したな」

 少なくとも海苔を巻いているような仕草は見えなかったが、できあがったおむすびにはしっかりと海苔が巻かれている。
 晴栄は即座にツッコミを入れるが、ワキ握りには物理法則は通じなかった。

「では早速、狐狼丸も――」

「待て待て待て待て」

 意気込んで米びつに手を伸ばそうとする狐狼丸に、晴栄は真顔で制止を呼びかける。

「……? 主殿、どうしたのですか?」
「いや、おかしいだろう! どうしてお前までそんなワキにぎっ……いや、脇でおにぎりを作ろうとするんだ!?」

 狐狼丸はきょとんとした表情で首を傾げるが、晴栄は畳みかけるようにツッコミを入れた。

「それは主殿に、狐狼丸の愛情を感じて欲しくて……(ぽっ)」
「全力で遠慮する」

 狐狼丸は頬を赤らめてもじもじと身体をよじらせるが、晴栄はピシャリと即答する。

「残念ですのぅ……」

 晴栄に拒否されると、狐狼丸はしょんぼりと肩を落とす。

「なのじゃー……」
「なのじゃー」
「お前たち、仲良いな……」

 その隣でねこますも同じように肩を落とし顔を見合わせてため息を吐く二人を見て、晴栄は苦虫を噛み潰したような表情で呟きを漏らした。

「それじゃあ最後に、せっかくなのでバーチャルYouTuberっぽいことをしようと思いまーす」

 しばらく狐狼丸と一緒に落ち込んでいたねこますだったが、気を取り直すように声を上げる。

「最後?」
「夢にも動画と同じで尺が存在するのじゃー。世の中世知辛いのじゃー」
「意味は理解できないが……ようやく解放されるのか」

 予想外の言葉に思わず尋ねるが、返って来た答えの意味はよく分からなかった。
 しかし、この夢から解放されるという事実に、深く考えることはやめた。

「でぇ! 狐狼丸ちゃんを分身させてみるのじゃー」
「分身……?」
「どーん!」
「――――!?」

 ねこますがそう言った次の瞬間、晴栄の周囲――
 文字通り〝四方八方〟に狐狼丸の姿が増えていた。
 まさしく、分身である。 

「これぞコピー(Ctrl+D)するだけで、大量の狐狼丸ちゃんを召喚できるJuJu、じゅつ……術★式、なのじゃー!」
「コピー(Ctrl+D)ってなんだ!? 新手の魔術か!?」

 晴栄は叫ぶようにツッコミを入れるが、果たしてコピー(Ctrl+D)とはなんなのか。
 答えが返ってくる前に、周囲から幾重にも声が聞こえてくる。

「くははははは――!」
「どうですかな、主殿?」
「狐狼丸がいっぱいですぞ!?」
「文字通り四方八方を埋めつくさんばかりの狐狼丸!」
「さあ、主殿」
「存分に狐狼丸〝たち〟を愛でてくだされ!」
「撫でたり、モフったり、も・ち・ろ・ん――」
「〝それ以上〟のことも狐狼丸は大歓迎ですぞ?」

 声は全て狐狼丸のものであり、輪唱のように次々と笑い声と声が四方八方から降ってきた。
 やがて分身した狐狼丸たちは、一斉に晴栄へと向かって大挙し始め――

「や、やめろ……来るなァァァ――ッ!?」
「というわけで今回の動画は終わります。『けもみみおーこく国営放送』よろしくなのじゃー! ばいばーい」

 迫り来る狐狼丸の大軍に飲まれながら、晴栄は抵抗するように悲鳴を上げる。
 その抵抗もむなしく四方から押しつけられる体毛の海に沈んでいき、晴栄の意識は徐々に途切れていった。
 最後、ポップなイントロと共に聞こえてくるのは、ねこますの声で――





「――ッ、……夢、か?」

 夢での意識が途切れた瞬間、晴栄は飛び起きるようにベットから上半身を起こす。

「ハルナ様、大丈夫ですか!?」

 すると傍らから驚いたような声が聞こえ、視線を向けるとそこにはティチュの姿があった。

「ティチュ……? どうして僕の部屋に――」
「は、はい。朝ご飯の用意ができたのでハルナ様をお呼びに来たのですが、なかなか返事がなくって……」

 ティチュは戸惑いながらも状況を説明する。
 その姿を見ると現実に戻ってきたことを自覚し、晴栄は大きく安堵の息を漏らす。

「ハルナ様はいつもならこの時間には起きてらっしゃるので、何かあったのではないかと思って……それで部屋の中に入ったら苦しそうな顔でうなされていたので、こうしてお側に控えてました」
「……そうか。少し、悪夢を見ていてな。心配をかけた」

 説明を聞き終えると、晴栄は苦笑交じりに謝る。
 気づけばパジャマは寝汗でぐっしょり濡れていて、悪夢にうなされていたことが事実なのだと理解する。

「い、いえ! 大事がないようで安心しましたっ」
「……ちなみにうなされていたと言っていたが、僕は何か変なことを口走っていなかったか?」

 ティチュは「とんでもない!」と大げさな仕草で手を振って答える。
 あの悪夢が事実だと分かると、晴栄は苦虫を噛み潰したような表情で問いかけた。

「えーっと……〝けもみみおーこく国営放送をよろしくね〟とか〝リベンジ・マギア×バーチャルのじゃロリ狐娘YouTuberおじさんコラボ動画公開中〟みたいなことは言ってましたけど」
「我ながら何を言ってるのかさっぱりだな。まあいい、所詮は寝言の類いだ」

 ティチュは不思議そうな顔で聞いていた寝言を復唱すると、晴栄も苦笑しか漏らせない。
 自分の寝言だが、その意味はまったく理解できなかった。
 
「では――そんなハルナ様にお知らせです。今日の朝ご飯はいつもと違った趣向を凝らしてみましたっ」

 朝から疲れた様子の晴栄を元気づけるように、ティチュはにっこりと笑いかける。

「ライスボール――大和ではおにぎり、というんでしたっけ? というわけで、今日の朝食はおにぎりですっ」
「ほぅ、それは珍しいな」

 魔女学園の生活でティチュがおにぎりを作ったことはなかったので、そういった意味では新鮮である。
 久しく食べていない故郷の料理に思いを馳せると、晴栄の口元は僅かにだが緩んでいた。

「はいっ! 実はコロちゃんが作り方を教えてくれて――」
「そのおにぎり、まさか脇で握ったりしていないだろうな!?」

 しかし、聞き捨てならない言葉が聞こえてきた瞬間、晴栄は必死の形相で尋ねる。

「えぇ! おにぎりって、脇で握るものなんですか……!?」
「そんなわけないだろう! い、いや、さっきのは僕が悪かった……どうやらまだ、寝ぼけているのかもしれない」

 驚愕するティチュに対し、晴栄はばつが悪そうな顔で謝罪する。
 先程の悪夢が衝撃的だったせいか、どうやら自分はとんでもないことを口走っていたのだと反省した。

「あ、そういえば――」

 どう見ても様子がおかしい晴栄を不思議に思いつつも、ティチュは寝ぼけているという主張を素直に信じることにした。
 そして、ふと思い出したように口を開いた。

「昨日、マリーさんから頂いた蜂蜜酒はどうしましょうか?」
「蜂蜜酒……?」

 先日はマリーを招いて食事をしたが、ティチュのいう蜂蜜酒とやらは晴栄の記憶になかった。
 そもそも、昨日の記憶はどこか曖昧で――

「実は『知り合いにもらったのだけれど、生憎と甘いお酒は苦手なのよね。よかったらもらってくれない? 紅茶の隠し味に入れると美味しいのよ』と渡されたんですけど、ハルナ様はどうやら身体に合わなかったみたいのなので使いどころに困っていて……」

「ん、ちょっと待て――昨日の記憶が曖昧なのだが、僕はその蜂蜜酒が入った紅茶を飲んだのか?」
「あれ、覚えていないんですか? 半ば騙し討ちに近い形でマリーさんに飲まされたあと、お部屋にすぐ戻ってしまわれたのですが……」

 言われてみればそんなこともあったような気がする、晴栄は靄がかかったような記憶を必死に手繰り寄せる。

 ちらりと脳裏を過ぎるのは――
 古びたボトルに入った――
 〝黄金〟色に輝く蜂蜜酒―― 

「ちなみにコロちゃんは蜂蜜酒入りの紅茶がかなり気に入っていたようなので、もしハルナ様が必要ないのならコロちゃんにあげようと思ってるんですけど――」
「――その蜂蜜酒は僕が預かろう」

 ティチュが補足するように言葉を続けるが、晴栄はそれを遮る。
 ここまでの経緯が腑に落ち、真剣な顔でティチュへと告げた。

「そうですか? 分かりました。では、朝ご飯の時にお渡ししますねっ」

 晴栄がそう言うと、ティチュも納得したように頷く。
 ティチュは「じゃあ、支度ができたら来てくださいね」と言葉を残した部屋から立ち去って行く。

「……原因はこれか。あの学園長め、またとんでもないものを――」

 去って行くティチュを見送ると、晴栄が苦々しく呟きを漏らす。
 昨晩は気づいたすぐあとに意識を失ってしまったが、あの蜂蜜酒を飲んでも無事だったのは不幸中の幸いかもしれない。

「軽率にとんでもないものを飲ませるなという……まったく、あとで学園長殿には灸を据えてやらねばな」

 『Space Mead(黄金の蜂蜜酒)』〟 が原因ならば、あの奇妙な夢も納得である。
 もしかしたらあの狐娘は、この世ならざる場所から来たのかもしれない――

 あの場所で出会った愉快で奇天烈な〝バーチャルのじゃロリ狐娘YouTuberおじさん〟姿を思い浮かべ、数奇な邂逅に思いを馳せると自然と笑みが零れるのだった。


〈了〉

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