第21編 『その後の魔法少女と協力者』 シーン01

作者:健速

シーン01 魔法少女の今



 それはナナにとって奇妙な状況だった。不思議な運命の導きは、フォルサリア魔法王国に秘められた謎を解き明かした。そしてその延長線上で起こった神聖フォルトーゼ銀河皇国での戦いは、ダークネスレインボゥの残存勢力との協力が不可欠だった。

 それを可能としたのは、レインボゥハートに敗れた事で、ダークネスレインボゥが本来の目的に立ち返っていたからかもしれない。ダークネスレインボゥの本来の目的は、早急に真なる故郷へ帰る事。レインボゥハートはゴタゴタが片付くまでは帰還すべきではないというスタンスだったので、両者の間には対立が生まれた。

 しかしフォルサリアでの戦いが終わり統治が一本化、秘められた謎が解かれた事で、両者には歩み寄れる土壌が醸成された。結果としてダークネスレインボゥの幹部達は、魔法とフォルサリア、フォルトーゼに通じている事を買われ、フォルトーゼにおいてフォルサリアや魔法に関する問題を解決する為に働く事になった。しかもそれは、ナナと共にだった。

「複雑な感情はあるのよ、正直な所」

 ナナはそう言って軽く眉を寄せ、パープルに笑いかけた。ダークネスレインボゥはしばらく前までは敵であった相手だ。許せない事も沢山やって来ている。
 しかしフォルサリアでの決戦以降、彼女達が少しずつ変化していた事も知っている。ナナとはやり方が違っても、彼女らが仲間の為に、よりよい世界の為に、戦ってきたのは事実なのだ。それに最後は破滅を避ける為に力を貸してくれたりもした。だから憎めない。憎めないが、拭いきれない感情のもつれは残っている。だが未来の為には、手を取り合う必要がある。ナナの笑顔は言葉通り複雑だった。

「それはお互い様よ。ナナ、あなたとこうして向かい合って紅茶を飲んでいるだなんて。少し前の私達に教えたら、気でもふれたかと大騒ぎになったんじゃないかしら」

 パープルも笑う。ナナの気持ちは彼女にもよく分かる。パープルを始めとするダークネスレインボゥの魔法少女達は、フォルサリアでの最終決戦によって個人としての目的を失った。パープル自身も最愛の人を生き返らせるという目的を失っている。
 しかしそのおかげで彼女達は、見失っていた物を見付け出す事が出来た。それはいつも傍にいてくれる仲間の存在と、真なる故郷へ帰るという本来の目標だ。

 新たな仲間のエゥレクシスを得て、彼女達はフォルサリアを堂々とフォルトーゼへ帰還させる為に動き出した。その結果は少しばかり想定とは違ってしまったが、それでもやるべき事は変わらない。フォルサリアを堂々と帰還させ、より良き世界を作る。彼女達とエゥレクシスが目指したものを、引き続き目指し続ける。その為に必要であるなら、ナナとだって、レインボゥハートとだって手を組んでみせる。感情のもつれを飲み込んで、目的を果たす。彼女達の気持ちは、ナナと同じなのだった。

真希(まき)ならきっと………一番大事な本当の気持ちに正直になって、それ以外の余計な事は忘れろって言うわよ」

 クリムゾンはそう言うとクッキーを頭上に投げ上げて口で受け取り、紅茶でそれを流し込む。彼女の言葉は百点満点だったが、その後にやった事が全てを台無しにしていた。

「クリムゾン!? あなた何か悪いものでも食べたの!?」

 隣で上品に紅茶を飲んでいたグリーンは目を剥く。彼女の感覚としてはクッキーと紅茶の件はむしろ正しく、言葉の方が間違っている。クリムゾンとは思えない言葉だった。

「失礼ねえ! あたしだって多少は物を考えるわ!」
「例えば?」
「戦いにもいろいろあって、戦うと楽しい相手がいる、とか」
「じゃあ、その相手を逃さない為に、他の事を我慢するって事?」
「そー。レインボゥハートとも手を組むわ」
「あはははっ」

 グリーンは笑う。最初はらしくないと思ったが、蓋を開けてみれば実にクリムゾンらしい考えだった。楽しい戦いの為なら、他は我慢する。グリーンも納得の答えだった。

「失礼な奴だ、まったく………」

 クリムゾンは不機嫌そうに紅茶を飲む。正しい事を言った筈なのに笑われるのは心外だった。そのせいだろう、紅茶の味は普段以上に苦く感じられた。

「一番大事な………うん、そうする事にするわ」
「ナナ?」
「ごめんなさい、みんな。ちょっと昔の馴染みに会いに行ってくるわ」

 ナナはそう言ってお茶を飲むのに使っていたスツールから飛び降りる―――実はこのスツールに座っていると彼女は床に足が届かない―――と、ダークネスレインボゥの三人組に笑いかけた。

「ああ、佳苗(かなえ)に会いに行くのね?」

 昔の馴染みという単語から、パープルはすぐに相手に気付いた。フォルサリアにいる人間ならわざわざ時間を取って会いに行く必要はない。だからナナがそうする以上、会いに行きそうな相手は限られるのだった。

「パープルさんは佳苗さんを御存知だったんですか?」
「あら、そんなに年寄りに見えるかしら?」
「見えないから不思議だなと」
「先代のパープルから聞かされていたのよ。何度も酷い目に遭わされた、とね」
「しかもパープルさんは、佳苗さんの娘の早苗(さなえ)ちゃんに?」
「二代に(わた)って悩まされた訳ね………妙な因縁だわ………」

 パープルはそういって肩を竦める。ダークパープルは代々、死霊術を得意とする。この系統の魔法は、魔力を霊力に変換して攻撃したり、霊や死者を操る技が主となる。そうなると高い霊力の持ち主は自然とライバルとなる。早苗の両親は双方が高い霊力の持ち主だったので、親子二代でダークパープル二代の敵となった訳だった。

「そいつ強いのか!?」
「クリムゾン、ネイビーと遊んできたばっかりじゃないの………まったく………」
「昔は強かったけど、引退して時間が経ってるし、今はそれほどでもないと思うわ」
「なんだー、じゃあいいわ。一人で行って」
「そうさせて貰うわ。今を逃すと、また忙しくなってしまうでしょうし」

 ナナにとって一番大事なのは、やはり佳苗やゆりかだろう。ゆりかには好きな時に会えるので、ここは佳苗に会っておきたい。その気持ちを大事にする事は、今後の役目を果たす上で重要な意味を持つ。佳苗やその娘である早苗の為だと思えば、ダークネスレインボゥと手を組む感情のもつれは忘れられそうだった。



 ナナとダークネスレインボゥが持ち帰った親書と情報は、フォルサリア魔法王国の上層部を大混乱に陥れた。真の祖国―――神聖フォルトーゼ銀河皇国が、希望者を移民として受け入れる用意があると言ってきた為だった。
 当初はナナやパープルも会議に呼ばれていたのだが、一定の議論がなされた段階でまずは長老会で方向性を定める事となり、今日と明日は突然暇になってしまった。その暇を利用して、ナナは佳苗に会ってこようと考えたのだった。

「ふふふ………この辺はあまり変わっていないのね………懐かしいわ………」

 魔法のゲートを通って吉祥春風市(きっしょうはるかぜし)に降り立ったナナは、かつての記憶を頼りに東本願(ひがしほんがん)家へ向かっていた。この町は元々彼女の担当区域で、しかも協力者であった佳苗の住居へ向かっているので、何年も経った今でも道に迷うような事は無かった。

『夕飯ぐらい食べて行けばいいのに』
『でもそういう訳には………』
『良いから良いから! 協力者は捜査や戦いに限るって訳でもないんだから!』

 ナナはかつての事に思いを馳せながら道を歩いていく。佳苗との想い出は、ナナにとってとても大切なものだ。だからもうすぐ会えると思うと、自然と心が弾む。ナナの足取りはいつになく軽やかだった。

「いきますよぉ、早苗ちゃぁん!」
「本気でかかってきなさぁい!」
「あれ、この声は………」

 東本願家が目前に迫った時、ナナの耳に元気な声が届いた。声は東本願家の庭の方から聞こえてきていて、しかもナナが良く知っている声だった。笑顔になったナナは、聞こえて来た声に負けないぐらい元気に走っていった。

「あなたも来ていたのね、ゆりかちゃん!!」

 東本願家の庭に足を踏み入れると、そこにはナナが期待した通りの人物がいた。それはナナにとって佳苗と同じぐらい大切な人物、虹野ゆりか。おかげでこの時のナナの声は、いつになく明るく元気だった。ゆりかはその声に気付き、反射的にそちらを見た―――のがいけなかった。

「ナナさ―――ぐふぉっ」

 ゆりかの頬にバドミントンのシャトルがめり込む。シャトルが命中した事そのものは大したダメージではなかったのだが、ゆりかはこれに驚いて大きくバランスを崩した。

 ずしーーん

 そしてゆりかはシャトルが頬に命中した時の顔のまま、地面に倒れ込んだ。

「ゆりかちゃん!?」
「………ナナさん………来ていたんですねぇ………」
「ご、ごめんなさいゆりかちゃん! 変な時に声を掛けてしまって!」

 ナナは慌てて駆け寄ると、両手でゆりかを引き起こす。幸いゆりかには目立ったダメージはなく、頬にシャトルが激突した赤い跡が出来た以外には傷らしいものは見当たらなかった。

「良いんですよぅ、このぐらいぃ。仕方ないですぅ」

 普段なら猛抗議しそうな状況だが、ゆりかにとってもナナは特別だった。ゆりかは別段文句を言ったりはせず、ナナに笑顔を向ける。ナナがその顔を見て大丈夫そうだと安堵していると、そこへ早苗がやってきた。

「やっほー、ナナ!」
「こんにちは、早苗ちゃん」
「それとダイジョブ、ゆりか?」
「大丈夫ですぅ」

 ゆりかもここで立ち上がる。彼女は最初、少し痛そうにお尻をさすっていたが、幾らもしないうちに笑顔になった。他の二人も笑顔だったので、三人は元気で明るい笑顔で向かい合った。

「ナナ、ママに会いに来たの?」

 早苗は目を輝かせ、興味津々という様子でナナに尋ねる。早苗にとってナナは元祖本物の魔法少女であり、尊敬の対象だった。今のナナは魔法の力の大半を失っているものの、それが友達―――ゆりかの為であった事から、むしろその事が早苗の尊敬の念を強めている。また早苗の母親である佳苗とコンビを組んでいたという事も、早苗がナナを尊敬する気持ちを強めていた。

「ええ、いらっしゃるかしら?」

 ナナの方も佳苗の娘という事で、早苗にはただの友達以上の視線を向けている。またかつての任務で守った相手であったり、ゆりかの友達であるという事も、ナナの視線を優しいものにしていた。

「うん。そろそろ出てくると思う」

 実は佳苗も二人のバドミントンに加わる予定となっていた。佳苗は先程二人がバドミントンをやっているところに通りかかり、運動好きの血が騒いだのだ。しかし着ている服が和服だったので、今は動き易い服装に着替えに行っているところだった。そして早苗がナナにその辺りの事情を伝えた直後、その佳苗が庭に姿を現した。

「早苗、ゆりかちゃん! お待た―――って、あらやだ奈々(なな)ちゃんじゃないの!?」
「ご無沙汰しています、佳苗さん」

 佳苗は近所の主婦達と一緒に習いに行っているテニスのウェアに身を包み、やる気満々の完全な臨戦態勢。ナナはそんな彼女をただ嬉しそうに見つめていた。それは久しぶりの相棒との再会であったが、佳苗にとってバツの悪い再会だった。



   ◆◆◆次回更新は6月8日(金)予定です◆◆◆

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