第1編 『虹野、魔法少女やめるってよ』 シーン01

作者:健速

シーン01 : 虹野、魔法少女やめるってよ


 文化祭が近付いてくると、どこの部や同好会も活動が活発になる。それはコスプレ研究会にとっても同じだ。
特に彼女達の場合、コスプレをする上でルールやマナーを守る事を信条としているので、
学内で大っぴらに活動できる機会は少なく、その分だけ文化祭への取り組みは熱心だった。
加えてコス研の会長は先日世代交代をしたばかり。
会長へ昇格したばかりの元・副会長は、初めての大きなイベントを立派にやり遂げようと張り切っていた。

「ゆりかちゃんの衣装、そろそろ新しくしたいわよね………。あの衣装でもう随分長い事引っ張ってる訳でしょ?」
「会長、そうは言っても―――」

「会長はもう貴女でしょう」
「そ、そうでした。ともかく先輩、(にじ)()さんの場合、魔法少女へのこだわりが非常に強い訳ですから、
 安易に新しい衣装って訳にも行きませんよ」
「確かに………あのこだわりは見習いたい部分だけど、こういう時には問題よね………」

 文化祭におけるコスプレ研究会の出し物は、写真の展示と実際のコスプレだ。
写真の展示については活動報告も兼ねているので、コスプレ写真だけでなく、準備の段階からの写真や資料が一緒に飾られている。
コスプレの方もコスプレそのものが目的ではなく、衣装を着て校内を歩いたり、ステージでイベントをこなしたりしながら、
新入部員の獲得を狙っている。
校内でアピールできる機会は少ないので、勝負どころだった。
 
 そうなってくると、写真展示と同じコスプレをしていると効果が弱まる。
同じ衣装を着回していると取られてしまうと、活動が活発ではないと思われてしまうからだ。
そんな訳で新しい衣装が必要なのだが、その場合一番の問題はゆりかだった。

ゆりかは魔法少女に対するこだわりが強く、なかなか他の衣装を着ようとしない。
何かがあると、ゆりかは大概魔法少女の格好をしているのだった。

「そうだ先輩、いっその事、あの衣装のバージョンアップを図るのはどうでしょう?
 虹野さんがあの格好に拘っても、その上から追加の衣装を被せれば問題ないんじゃ?」
「そうか、その手があったわ! 流石私が選んだ新会長、冴えてるわねっ!」
「………なんだか褒められてる感じがしないんですけど………」

「そんな事ないない! 褒めてるわよっ! さあ、早速デザイン画を起こすわ! ゆりかちゃんの写真を集めて!」
「既にここに」
「貴女のそういう所を見込んで新会長に推したのよ」
「先輩が何もしないからこうなっただけですけど」

「さぁ、忙しくなるわよっ!」
「………聞いてないし………」

 前会長と新会長の二人は協力してゆりかの新しい衣装のデザインを進めていく。
昨年から(つちか)われたコンビネーションは健在で、その作業はスムーズに進んでいった。
そんな二人の様子を見ているうちに、他の部員達も自分の衣装をどうするのかを決める。

「どうせだから魔法少女とか、その敵でデザイン統一する?」
「それがいいかもね。今後の活動はコスプレに熱心な虹野さんが軸になる訳でしょ?」

「んじゃ、アタシは悪の女幹部っ!」
「あぁんっ、ずるいっ! あんたいつも美味しいとこ取ってっちゃうわねっ!」
「へっへっへ、早いもん勝ちよ!」

 今年の文化祭のコスプレは、魔法少女アニメをモチーフにしたものにまとまりつつあった。
これは実質的なリーダーを別におき、思想的なリーダーと言うべきゆりかをコスプレに専念させようという、
長期戦略に(もとづ)いた考え方だ。
コス研の少女達は、なんだかんだでゆりかの事を認めていたのだった。



 だがこの直後、そうやって力を合わせて前向きに歩むコス研を激震させる、緊急事態が発生する。
その報は今年の春に入部した一人の新入部員によってもたらされた。
彼女は男の子に間違われる事さえある程に元気な少女なのだが、この時の表情には普段の覇気は少しも感じられなかった。
彼女は研究会の部室へ飛び込んでくるなり、まるで地獄の底を覗き込んだかのような表情と、
深い絶望に彩られた悲鳴のような声で、必死に訴えた。

「虹野、魔法少女やめるってよ!」

 その一言が部室に響き渡った瞬間、コス研は全員がパニック状態に陥った。



   ◆◆◆次回更新は2月13日(金)予定です◆◆◆

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