第25編 『緊急取材!! 青騎士伝説の真実に迫る!?』 シーン04

作者:健速

シーン04 一番のスクープ



 埴輪(はにわ)達の話が半分も終わらないうちに、クランは机に倒れ伏した。そしてその格好のまま声を押し殺して泣き始めた。

「………うっううっ、うっうっ、も、もう駄目ですわ………わたくしのイメージはどん底に堕ちる………」

 皇帝のエルファリアや、同じ皇女であるセイレーシュに知られるぐらいならまだ良かった。しかしナルファに知られるという事は、そのまま全国民が知るという事でもある。ナルファの撮影した動画は本国で大人気なのだ。自分の皇女としてのイメージは完全に崩壊し、ダメ女の烙印が押される―――それはもはや時間の問題であると、クランはここで観念した。そんなクランの姿を遠巻きに眺めていたのが、ナルファとアルゥナイア、そして埴輪達だった。

「………クラン殿下とコータロー様の事を公表しても、ティア殿下の場合と同じく、むしろ国民からは歓迎される気がするんだけどなぁ………」

 ナルファはそう言って小さく苦笑する。クランは絶望している様子だったが、ナルファは逆の考えを持っていた。孝太郎(こうたろう)と過激な関係を築いているティアは、フォルトーゼでの人気がうなぎ登りだった。青騎士と大喧嘩もするけれど、普段はとても仲良しという構図が国民に受け入れられたのだ。そこに照らすと、クランと青騎士は下着を洗って貰う事がある程の付き合いだ、という事実は決してマイナスではないと思うのだ。

『やはりフォルトーゼの国民は、青騎士の獲得が総意なのか?』
「はい、どんな汚い手を使ってでもお迎えせよという方向でまとまっています」

 アルゥナイアの言葉にナルファは大きく頷く。孝太郎に嫌われてしまうような手段は除外するとして、それ以外なら地位でも名誉でも食べ物でも土地でも結婚でも、手段を選ばずに獲得せよという方向でフォルトーゼの民意はまとまっていた。これまで孝太郎がやってきた事、そして平和になったら無言で去った事への、絶大な信頼の裏返しだった。

『流石大きいブラザー、どこでも大人気だホ』
『クランちゃんとの関係を知れば、国民は喜ぶホ!』

 これはフォルトーゼだけに限った話ではない。これまでの経緯のおかげで地底でもフォルサリアでも、孝太郎の言動は尊重される。孝太郎を獲得したいという考えも少なからずあるだろう。クランとの関係の強さはそれらに一歩先んじるという事でもあるので、国民としては大きなプラスだと言えるだろう。

「引き換えに駄目人間だとバレては意味がないですわぁっ!! あぁ~~~」

 クランはそれと引き換えに自身の皇族としてのイメージが多大なダメージを受けると考えている。女の子や皇族としてはどうかと思うが、青騎士とは仲良しなので、このまま頑張って貰おう―――国民がそう考えると思っているのだ。クランの滝のような涙は作業用の机に零れ落ち、そこに小さな水溜まりを作った。

「………何をやっとるんだ、あいつは」

 孝太郎が工作室にやって来たのは、そんな時だった。



 孝太郎もクラン達と共にラジコンをやっているので、もともとこの日のパーツ作りに参加する予定だった。ただ孝太郎には私用があったので遅れていたのだ。

「机に突っ伏したまま、なにやら踊っているようだが」

 事情が分からない孝太郎は不思議そうにクランの姿を見つめる。クランは机に倒れ込んだまま、頭を抱えたり机を叩いたりしていた。それが孝太郎には、ちょうど盆踊りの振り付けのように感じられていた。

「あ、あのぉ、コータロー様………実は私の取材中に、クラン殿下の不都合な真実が幾つも暴露されまして………」

 ナルファは自分に責任があると思っているので、申し訳なさそうにそう言った。

「あ~~~」

 この時のナルファの言葉で、孝太郎にも事情が呑み込めてきた。ナルファの背後で神妙にしているラジコン三兄弟がクランの秘密を暴露したのだろう―――それを察した孝太郎は憐みの視線をクランに向ける。クランは相変わらず机に突っ伏したまま踊っていた。

「………ところで不都合な真実というのは、どれの事なんだい?」

 実は孝太郎にはクランの不都合な真実に相当数の心当たりがある。そのどれが問題になっているのかによって、孝太郎の対応が変わってくるのだった。

「えっと、それはー………」
『あらかた全部だホ』
「という事は、料理中にあいつが鍋に鼻水を垂らした件もか?」
「そっ、それは初耳ですっ!」
「………聞かなかった事にしてくれ」
「はいっ」
『ちょっと感情面の行き違いがあってな、思わず全部話してしまったのだ』
「………加減して下さいよ、アルゥナイア殿………それにお前らも………」
『ちょっとやり過ぎたホー』
『反省してるホー』
「………もー………」

 孝太郎はカリカリと頭を掻くと、しばらく考え込んだ。

「お前ら一つ貸しだからな」

 考え始めてから一分ほどで何らかの結論に至った孝太郎は、四人にそう言い残すとクランに近付いていった。



 クランに近付いた孝太郎は、何も言わずに彼女の頭を撫で始めた。するとクランの顔が上がり、不機嫌そうに孝太郎に何かを言った。

『………いきなりなんですの?』
『何も。ただ撫でやすそうな頭があったもんで』

 孝太郎は言葉少なに何かを答えると、そのままクランの頭を撫で続けていた。

「何を話しているんでしょうかねぇ………」

 ナルファは誰にともなくそう呟いた。ナルファとアルゥナイア、そして埴輪達の位置からでは孝太郎とクランの声は聞き取れない。口が動いているのと表情や身振りが分かるだけだった。埴輪達は頑張れば聞き取れるのだが、今日の事を反省しているので聞かない事にしていた。

『分からないけど、一発でクランちゃんの顔が上がったホ』
『やっぱり大きいブラザーはクランちゃんの相棒なんだホ』
『助かった、このままでは多少気分が悪いからな………』

 ナルファの言葉に同意しながら、アルゥナイアと埴輪達は胸を撫で下ろす。こうなれば孝太郎だけが頼り。三人は真剣な眼差しで成り行きを見守っていた。

『あなたの事ですから、またわたくしの事を笑いに来たのでしょう?』
『あはははははは!』
『ベルトリオンっ!』
『ちょっとした冗談だって』
『あなた、時々冗談に悪意がありますわよ?』
『時々な。今は違うぞ』
『どうだか』
『それはともかく、元気ないな』
『………今度ばかりはあなたの冗談ぐらいでは………はうぅぅ………』
『よしよし』
『………なんで撫でますの?』
『言葉を使うと、上手く伝わらない気がするんだ』
『………なにを伝えるつもりですの?』
『それを言ったら上手く伝わらないからやってるんだ』
『………いつまでするんですの?』
『さあな、お前が元気になるまでかな』
『………お優しいんですのね?』
『そんな顔するなよ。最近は俺も多少は考えるようになってな、お前が一番大事だと思っている事ではからかったりしない事にしたんだ』
『一番大事な事?』
『なりたいんだろう? 立派な皇帝に………アライア陛下に負けないような』
『………この分ではなれそうにありませんわ』
『俺からナルファさんにお願いしてやる。というか、そもそもあの子は最初からお前の暴露話を公開するつもりなんか無いんじゃないか?』
『えっ………』
『優しい子だからな、今のお前と同じくらいに』

 孝太郎とクランはしばらく何事かを話し続けた。そしてその間中、孝太郎の手はクランの頭を撫で続けていた。だが、その最後で孝太郎の手はクランの頭を離れた。

『………』
『どうした?』
『言葉を使うと、上手く伝わらない気がしますの』
『………バーカ』
『ふふふ………』

 クランは自身の頭の上にあった孝太郎の手を取ると、そこへそっと頬を寄せた。そんなクランの行動に一瞬だけ目を丸くして驚いた後、孝太郎は小さく苦笑しながらクランの頬を撫で始めた。するとクランはくすぐったそうに目を細め、いつになく柔らかい表情で微笑んだのだった。



 クランが笑った事に気付いた埴輪は、その小さな背中を丸めるようにして大きく安堵した。二人にとってクランは大事な友達なので、落ち込んだままでは困るのだ。

『………大きいブラザーはクランちゃんの事が良く分かっているホ』
『クランちゃんは大きいブラザーとかなり仲良しなんだホ。姐さんと同じくらいだホ』

 二人は手を取り合い、無邪気に喜び合う。これなら心置きなくラジコンの作業に戻れる。もう安心だった。同じような事はアルゥナイアも感じていた。だが、彼の場合はもう一つ思う所があった。

『娘よ、ちゃんと撮ったか?』

 アルゥナイアは近くにいたナルファを見上げるとそう言った。この時アルゥナイアは口の端に牙を覗かせて笑っていた。

「はい、完璧です。これ以上に重要な映像はありませんから」

 そんなアルゥナイアに、ナルファも笑顔で応える。ナルファは孝太郎が現れてからクランが笑顔を見せるまで、その一部始終の撮影に成功した。これこそがナルファが撮りたかったもの。ナルファは最初から暴露話など必要としていなかったし、公開するつもりもなかった。必要だったのはあくまで、一人の人間としての青騎士像。そしてクランが青騎士をどう見ているかという事。これならきっとメノンワースやフォルトーゼ国民も満足してくれるだろう。納得の映像を撮影する事が出来たナルファは、笑顔のまま孝太郎とクランの方へ目を向けた。

 ―――いいなぁ、クラン殿下………。

 ナルファはこの時、クランが羨ましくて仕方がなかった。ナルファもフォルトーゼの女の子なので、伝説の青騎士に対する思い入れは深い。だから自分も孝太郎に撫でて貰いたかった。ナルファは取材の成功が嬉しかったものの、その事だけが心残りだった。そしていつか、自分の目から見た青騎士を、撮影したいと願うのだった。



   ◆◆◆次回更新は4月5日(金)予定です◆◆◆

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