第9編 早苗VSティア『ご町内大食い選手権!』 シーン01

作者:健速

シーン01 はるやましょうのすけ



 早苗(さなえ)とティアは精神年齢が近い事もあって、似たような物事に興味を示す事が多い。食べ物や遊びなどがそうした物の例だ。
この日もそうで、買い物帰りに通りかかったゲームセンターの店先で、二人の興味を()()けるものを発見した。

「これなんか取れそうじゃない?」
「そのようじゃな。サナエ、左側から見ていておくれ」
「あいあい」

 早苗とティアは今、二人で一緒にあるゲームに張り付いていた。それはボタンでアームを操作してぬいぐるみを(つか)()る景品ゲームだった。ガラス張りのゲーム筐体(きょうたい)には、地元吉祥(きっしょう)春風市(はるかぜし)のPRキャラクターである『はるやましょうのすけ』のぬいぐるみが沢山(たくさん)詰め込まれている。そのぬいぐるみは鎧武者をデフォルメした愛らしいデザインで、早苗とティアの心をがっちりとキャッチ。二人は何とかして『はるやましょうのすけ』をキャッチして帰ろうと躍起になっていた。

「がんばれ、ティア!」
「任せておけ!」

 今ボタンを操作しているのはティアだった。早苗も今時の少女なのでゲームが苦手という訳ではないが、やはりゲームとなるとティアに一日の長がある。まずはティアに任せ、早苗はサポートと応援に回っていた。

「もうちょいもうちょい、すとーっぷ!」
「少しずれたかの?」
「そうかも。でもちょっとだけだからいけるんじゃないかな」
「ええいっ、勝負じゃっ!!」

 カチッ

 アームは一度動かしたら調整は効かない。ティアは自分の技術と幸運を信じて、アームにぬいぐるみを掴む動作をさせるボタンを押し込んだ。

 チー

「いけいけ!」
「掴むのじゃっ!!」

 二人が固唾(かたず)を飲んで見守る中、組み込まれたモーターが回転し、アームが下へ向かって伸びていく。アームはティアの操作で一応ぬいぐるみの上に来ているが、ぴったり真上ではない。そこが二人にとって(わず)かな懸念(けねん)となっていた。

「掴んだっ、掴んだよっ!?」
「おおおっ、やったか!?」

 二人の期待に応え、アームは見事に『はるやましょうのすけ』の身体を掴んだ。掴んだのは丁度お腹の辺り。そしてアームはモーターを逆回転させ『はるやましょうのすけ』を持ち上げていった。

「ああっ!?」
「この根性なしめぇっ!!」

 だが『はるやましょうのすけ』の身体が持ち上がった、その少し後。アームが掴んでいる部分を中心にして『はるやましょうのすけ』が回転。その動きに耐え切れず、アームはぬいぐるみを離してしまった。

「ふむ………思ったよりもアームの力が弱いようじゃの」
「今みたいに動いちゃう掴み方は駄目そうだね」
「ガッチリ掴める場所に、寸分違わずアームを下ろす必要があるようじゃな」

 チャンスを逃して落胆する二人に、逆向きに転がった『はるやましょうのすけ』が笑いかけている。そして二人はその能天気な笑顔が諦められない。二人共負けず嫌いなので、連れて帰りたくて仕方がなかった。

「今度はあたしがやってみる!」
「アームはストップボタンを押してもすぐには止まらん。一瞬だけ遅れる分を計算に入れるがよい」
「ちょっとだけか………うん、分かった!」

 ティアが場所を空けると、そこへ早苗がやってくる。反対にティアは先程まで早苗が居た場所へ移った。今度は早苗がボタンの操作、ティアがサポートを担当する。本当はティア一人が集中的に挑戦した方が確実だろう。しかしそれではつまらない。確かに『はるやましょうのすけ』は連れて帰りたいが、今の二人にとっては一緒に楽しく遊ぶ事にも大きな意味があるのだった。



 結局、二人の挑戦は五回目で成功した。それは二人合わせての五回目で、ティアだけで言うと三回目のトライで成功した事になる。一回百円なので、使ったのは五百円。慣れないゲームで一応景品が取れた訳なので、まずまずの成果と言えるだろう。こうして『はるやましょうのすけ』のぬいぐるみは二人の所へやってきたのだった。

「あーあ、あたしも取りたかったなぁ………」

 早苗は幾らか(ふく)れっ(つら)で小さな溜め息をつく。『はるやましょうのすけ』のぬいぐるみは早苗の手の中にあり、にこやかな笑顔を彼女へ向けている。だが早苗はこの結末に少々不満があった。確かに取れたのは嬉しいが、本当は自分で取りたかったのだ。

「わらわが取れたのは、そなたがそれをいい位置に動かしてくれたからじゃぞ」
「そうかもしれないけどさぁ………」

 目的は確かに二人で『はるやましょうのすけ』を取る事だったが、早苗単独では明確な結果を出せていない。本当はぬいぐるみをみんなに見せて、自分が取ったんだぞと自慢したかった。そこまで含めた総合的なものが、早苗の考える景品ゲームの楽しみ方だ。これでは不完全燃焼だった。

「………ん?」

 そんな時だった。早苗は景品ゲームの筐体に、張り紙が張られている事に気付いた。そしてその張り紙にも、何故か『はるやましょうのすけ』のイラストが描かれている。気になった早苗は張り紙に顔を近付けた。

「ええと………」
「どうしたのじゃ?」
「なんかお祭りがあるみたい」
「お祭り?」
春山(はるやま)祥之(しょうの)(すけ)、生誕五百周年記念祭………だって!」

 張り紙は商店街で執り行われるお祭りの案内だった。今年は地元で有名な武将の春山祥之助が生まれて丁度五百年目にあたる。それを祝って、商店街を挙げての大々的なお祭りが執り行われる事になっていたのだ。

「なるほどのう、このぬいぐるみが景品になっていたのもその一環か」
「そうみたい。普通のお祭りってだけじゃなく、色々イベントがあるみたいだよ」
「ほぉ………どれどれ………」

 早苗とティアはほっぺたをくっつけるようにして一緒に張り紙を眺める。お祭りと並行して開催されるイベントは、その(ほとん)どが式典や地元タレントのライブ、マラソン大会やフリーマーケットといったお馴染みのものばかり。だがその中に一つだけ、二人の興味を惹くイベントが存在していた。

「ティア、これこれ!」
「うむ! わらわ達の出番が来たようじゃっ!」

 二人は顔を見合わせて(うなず)き合うと、瞳をキラキラと輝かせながらゲームセンターを飛び出していく。商店街の案内所に、イベントのチラシを貰いに行く為だった。



 チラシを貰った二人は脇目も振らずに一〇六号室へ帰った。その理由はもちろん、案内所で貰ったチラシを孝太郎(こうたろう)達に見せる為だった。

「………春山祥之助生誕五百周年記念、大食い選手権大会………?」

 孝太郎は不思議そうな様子でチラシのタイトルを読み上げる。早苗とティアが注目したイベントは、大食い大会だったのだ。

「孝太郎、みんなでこれに出ようよっ! 賞品が凄いんだよっ! 見てよここ!」
「商店街の商品券、三十万円分だってぇ!?」

 早苗が注目したのは大会の商品だった。大会で優勝すれば、商店街で使える商品券が三十万円分貰える。そしてその副賞として『はるやましょうのすけ』の等身大ぬいぐるみが貰える。案内所のおじさんの話では、商店街の商工会の会長が百年に一度ぐらい派手にいこうと奮発したとの事だった。

「ふっふっふっふ、商店街の者共に、わらわに挑戦した事を後悔させてくれる!」
「何もお前を狙ったイベントでもないだろ」
「やかましいっ! 常勝で名高いフォルトーゼ皇家は、それが何であれ負けは許されんのじゃっ!」

 ティアが参加する気満々でいるのは、それが勝負事だからだ。ティアは基本的に競技やゲームは何でも大好きだった。だが実のところ皇家が云々は言い訳に過ぎない。照れ臭いので直接は言えないが、これはみんなでゲームに参加して勝敗を競いましょうという、彼女なりのお誘いなのだった。

「そういう訳だからみんなで出よ~! 三十万円あったらさっ、上等なお肉のすき焼きが何回も食べられるよ!」
「そうじゃともっ! わらわの名誉の為に、みんなで出場して勝利するのじゃ! 主にわらわが!」
「………みんな、どうする?」

 孝太郎自身は既に参加してもいいかなという気になっていた。ティアが競技やゲームが好きなのは誰もが知る所だし、早苗も妙に興奮気味だ。だからやらせてやりたいという気持ちがあった。それにルールでは大食い選手権で出て来る料理は全て商店街の店が提供する事になっている。それらを思う存分食べたいという個人的な欲求もそれを後押ししていた。とはいえ全員に参加を強制するのもおかしな話だろう。そこで孝太郎は六畳間を見回して、他の少女達の意見を求めたのだった。

「わたくしは賛成でございます」
「私も出ますぅ。沢山料理を食べたいですぅ」

 真っ先に参加の意思を示したのはルースとゆりかだった。ルースの場合はティアの願いを叶えたいというシンプルな理由からだ。ゆりかは大会で出て来る食べ物が目的で、まかり間違って優勝した場合には商品券も貰える訳なので、参加しない理由はなかった。

里見君(さとみくん)はどうするつもりなの?」
「出ようかと思ってる」
「じゃあ私も出ます」

 ()()は孝太郎と一緒が良かった。かつての真希は孝太郎との繋がりが欲しくてその後を追っていたような雰囲気だったのだが、最近は必ずしもそうではない。今の彼女は六畳間の少女達や、高校の友人達が参加するものに、自分もなるべく加わりたいと思っている。しかし慣れない環境の事なので、孝太郎が一緒なら心強い。今の彼女は周囲を愛する為にこそ、孝太郎の助力を必要としているのだった。

「我も参加しようと思う」

 キリハも大食い大会への参加は前向きだった。普段はキリハの中に隠れている少女の部分が、是非参加しろと騒いでいたのだ。時には羽目を外すのもいいだろう、というのが彼女の結論だった。しかし、彼女にはある懸念事項があった。

「………問題はこっちの三人だろうな」
「わたくしは沢山食べるのが苦手ですわ」
「私は参加したいんですけれど、先生に怒られてしまうかもしれません」
「折角体重が減ってきたところだから、大食いは避けたいんだけど………」

 クランは元々あまり沢山食べる方ではない。晴海(はるみ)もクランと同じだが、こちらは自分の意思というよりも健康上の問題からだ。(しず)()の場合は温泉地での自棄(やけ)()いで増えた体重がようやく戻ったところなので、リバウンドを警戒していた。この三人だけは、参加を強要するのは可哀想だった。

「ギブアップは出来るみたいだから、一応はみんなで参加して、自分の都合で止めればいいんじゃない?」
「そうじゃ、それがよい! 参加すればタダで昼食が食べられると考えればよいではないか」
「それでいいならわたくしも参加致しますわ」
「クランさん、一皿だけで私と勝負しませんか?」
「面白そうですわね、いいですわよ」
「あ、桜庭(さくらば)先輩、私もそれ混じりたいです!」

 しかし早苗とティアの言葉が決定打となった。元々は三人共、大食い大会を楽しそうだと思っていた。ただ、積極的に参加できない理由があっただけなのだ。だから自分なりのタイミングで止めていいなら、参加を躊躇(ためら)う必要はなかった。

「孝太郎も出るんだよね?」
「出ないとは言わせぬぞ!」
「出るよ。さっきそう言ったろ」

 さっき真希に言った通り、孝太郎も参加するつもりだった。出場すれば商店街の名店の料理が食べ放題。その好機を逃すつもりはなかった。

「よーし、それじゃあみんなで大食い大会ダー!」
「みんなで勝つぞ、わらわの為に!」
「今度こそあたしが勝つ!」
「ふふふふふ、それはどうかなっ! わらわは勝ちを譲る気はないぞ!」

 こうして孝太郎と六畳間の少女達は商店街で開催される大食い選手権に参加する事になった。その中で、特にやる気を出しているのが早苗とティアだ。今の時点から激しく火花を散らす二人の姿を見て、孝太郎は意外と激戦になるんじゃないだろうかと予感せずにはいられなかった。



   ◆◆◆次回更新は6月10日(金)予定です◆◆◆

作品応援ボタン(1日1回)応援コメントを書く