第9編 早苗VSティア『ご町内大食い選手権!』 シーン02

作者:健速

シーン02 強敵出現!



 春山(はるやま)祥之助(しょうのすけ)生誕五百周年記念大食い選手権大会は、予選、準決勝、決勝と、全部で三回の試合で優勝者を決める事になっている。
今日はそのうちの予選が行われる事になっており、会場には多くの参加者が詰めかけていた。やはり商品の豪華さが、多くの人々を惹き付けたようだった。

「大したものじゃのう。百人はおるじゃろうか?」
「あたし達はこれに勝つのだから、もっと大したものなのですよ」
「ふふん、よく分かっておるではないか、サナエ」
「えへへへへ~~」

 しかし多くの参加者を前にしても、ティアと早苗(さなえ)のコンビが気後れした様子はない。むしろさらに闘志を燃え上がらせていた。

「ところで予選は何が出るんだ?」

 孝太郎(こうたろう)の興味は参加者の数よりも予選のメニューの方にあった。全く同じ部分に注目していたのがゆりかで、彼女は既に予選のメニューを調べていた。

「お芋さんの料理が中心みたいですぅ。地元の吉祥(きっしょう)(いも)を、和食のお店やぁ、ハンバーガー屋さんなんかがぁ、料理するみたいですぅ」
「参加者が多いので、まずはじゃがいもを軸にする事でコストを抑えたのだろう。肉じゃがや芋煮、てんぷらやポテトフライ等、バリエーションも豊富だしな」

 ゆりかのリサーチ結果をキリハが補足する。高級な料理はもっと人数を絞ってから。予選の段階では安価な材料と高級店の確かな技術、もしくはファーストフードのお馴染みの味で、というのは正しい判断だろう。

「油ものは後半にして貰えると助かるんですが」
「ハルミ、序盤で脱落が多いとつまらないから、必然としてそうなると思いましてよ」
「なるほど………イベント運営も色々と工夫があるんですね」
「………流石に陰謀めいた事には頭が回るなぁ、クラン」
「やかましいですわっ!!」

 食が細い晴海(はるみ)とクランに関しては、別の意味でメニューに興味があった。だが大会の趣旨からして、二人が満腹になる前にこってり料理が出て来る心配はなさそうで、とりあえずは一安心だった。

「じゃがいもかぁ………確か意外とカロリー高いのよね」

 晴海やクランとは少し違った心配をしているのが(しず)()だった。

「百グラム当たり八十キロカロリーくらいのようです」

 料理でもデータを重視するルースは、じゃがいものカロリーを即答する。芋類はでんぷんが多く含まれ、野菜の中では意外と高カロリーな食材だった。

「しかも太る味付けがとことん合うのよ」
「バターで焼いたり、油で揚げたりですね」
「はぁ~~~」

 明らかに美味しいと分かっているものを食べずに我慢するのは辛い。しかし思う存分食べれば大変な事になる。体重を気にしている静香としては進むも地獄、退くも地獄といった状況だった。

「嫌なのでしたら参加をお止めになられますか?」
「嫌じゃないから困ってるのよ~~!」
「………難しい問題でございますね………」

 一方ルースは、体重に関しては周囲からもっと太れと言われている。だからルースは悩める静香に曖昧(あいまい)な笑顔を向けるので精一杯だった。

「あ、みんな、そろそろ始まるみたいですよ」

 ()()の視線の先では、スタッフが参加者を会場である市営体育館の中へ誘導し始めていた。料理を始めとする、各種の準備が済んだのだ。

「何だか楽しそうだね、(あい)()さん」

 その時の真希の横顔が楽しげだったので、孝太郎はその理由が知りたくなった。真希が色々な事に興味を持つのは良い事だと思うから。

「そうですか?」
「自覚がなかったのか」
「はい………」

 笑っていた自覚がない真希は、自分の頬を不思議そうにぺたぺたと触る。そんな真希の様子を見て、孝太郎は思わず微笑んだ。

「ふふ」
「なんですか、急に笑ったりして?」

 真希は両手を頬に当てたまま、軽く首を傾げる。そんな真希の姿からは、過酷な幼年期を過ごしてきた悪の魔法少女の印象は感じられなかった。

「何でもないよ。そんな事より、俺達も行こう」
「そうじゃそうじゃ! さっさと参るぞ! ライバルの視察もせねばならんでな!」
「真希、あんたも頑張んなさいよ! あたし達のすき焼きがかかってるんだから!」
「あ、は、はいっ、頑張ります」

 あえて言葉にする必要はないと思うから、孝太郎は真希に笑った理由を話さなかった。真希はそれが気になっていたが、興奮しているティアと早苗に連行されてしまったので尋ねる機会を逸した。
真希は気付いていないが、それこそが今の真希に必要な事。そして孝太郎が笑った理由だった。



 予選はクランの予想通り、あっさり目の味付けの料理からスタートした。最初に出てきたのは老舗の和食店が作った芋煮。量は多めだったのだが、これは(ほとん)どの参加者が完食した。元々食が細いクランや晴海、そしてあまり沢山食べたくない静香もそうだった。

「やりました! 一等賞!」
「うっ、まさか桜庭(さくらば)先輩に負けるとはっ!?」
「………最下位は予想しておりましたわ」

 ちなみにこの一皿だけで競われた、クラン達三人だけの早食い対決は、意外にも晴海の勝利で終わった。晴海は決して食べるのが早いという訳ではなかったが、クランは食事を急いだ経験が(とぼ)しく、静香は食べ過ぎを防ぐ為によく噛んで食べていた。結果として晴海が頭一つリードして食べ終えたのだった。

 そして芋煮に続いて出てきた料理はポテトサラダだった。味付けはこれもあっさり目でクラン達にも食べ易いものだったのだが、やはり大食い大会なので量が多い。クラン、静香、晴海の三人はこれを完食せずにギブアップした。

「こんなに沢山、同じ料理を食べたのは初めてですわ………うぷ」
「あんまり体重増えてないといいなあ………」
「みんなも無理しないで下さいね?」

 クラン達以外にも、この辺りから徐々に参加者の数が減り始めた。やはり最初は面白半分で参加した女性達が脱落していた。それが決定的になったのは、次に出て来たジャーマンポテトの時だった。

「………我はこれを完食するのは無理なようだ」
「同感です。味はとても美味しくて、料理の参考になるのですが………」
「もうちょっと頑張りたかったですけど………私もそろそろ………」

 キリハ、ルース、真希の三人が脱落したのがこの時だった。キリハとルースはじゃがいもの山が半分になったあたりでギブアップ。真希は全部食べ切ったものの、続く最後の料理を見ずにギブアップした。そして他の多くの参加者もこの辺りで脱落し、残りは本当に沢山食べる人間だけとなった。

「オーッホッホッホッ、勝つ為に作法を捨てたわらわに敵はないっ!!」

 ティアはまだ余裕があった。彼女は元々活動的でエネルギーの消費量が大きく、食べる量はいつも多めだった。しかし作法を守ってゆっくりと食べていたからそのようには見えなかった。そして今の彼女は身に着けた作法を無視して食べ進めている。満腹中枢が刺激される前に多くを食べ切ってしまおうという作戦だった。

「やるなぁ、ティアー! あたしもまけないぞぉっ!」

 その後に続くのが早苗だった。早苗の身体は常に大量の霊力が循環しているので、代謝が活発になってティアとは違う意味でエネルギーの消費が大きい。おかげで普段から食べる量が多く、ティアに匹敵した。若干遅れていたのは、ポテトサラダにグリーンピースとにんじんが入っていたせいだった。

「出来るだけ沢山食べてぇ、元を取って帰らないとぉ~♪」

 ゆりかも健闘していた。生まれついて燃費が悪い腹ペコ体質と、生活環境により体得した貧乏性が、彼女の食欲を支えていた。おかげでティアや早苗ほどではないものの、参加者全体としてみれば上位に位置していた。

「………参加費無料なんだから、元を取るも何もないだろう」

 孝太郎は男性で身体が大きく、昔から食べる量は他人よりもずっと多かった。加えてこの日の為に昨夜の夕食を少なめにし、今朝の朝食を抜いている。おかげで孝太郎は普段以上の勢いで料理を食べる事が出来た。その結果、順位は男性の中でもトップに近く、四品目の料理が出てきたのはティアよりも早かった。

「………ここでこれはきついぞ………」

 四品目の料理はフライドポテトだった。ただでさえ揚げ物でしつこく、しかもやたら量が多い。その上これが四品目の料理なのだ。口の中に広がる濃厚な油は、このタイミングではボディーブローのように効いてくる。良く食べる孝太郎でさえ、思わず唸ってしまう状況だった。そんな孝太郎に対し、ティアが不敵な笑みを浮かべた。

「なんならギブアップしても良いのじゃぞ?」

 ティアは丁度ジャーマンポテトを食べ終えたところだった。彼女の前にも素早くフライドポテトが置かれたが、それを前にしても余裕の表情は揺るがない。それがやせ我慢である事は孝太郎にも薄々分かっていたが、それでも大した精神力だった。

「負けました、後はよろしくお願いします皇女殿下―――と頭を下げるならなぁっ!! オーッホッホッホッホッ!!」
「そーそー、ここはあたし達に任せてくれていいんだよ、孝太郎! 絶対すき焼きを食べさしてあげるからっ!」

 ティアに遅れる事十数秒、早苗もジャーマンポテトを食べ終えた。素直な早苗は辛そうな雰囲気が顔に出てしまっているが、食べるスピードは決して衰えていない。商品欲しさでいつも以上にやる気になっている早苗だった。

「馬鹿野郎っ、男という生き物はなぁ、前のめりに倒れるものなんだよ! 自分から後ろに倒れるなどあり得んっ!」
「よう言うた! その根性、最後まで貫いてみせよ!」
「カッコイイぞ孝太郎! でも勝つのはこの早苗ちゃんだけどねっ!」
「………皆さん凄いですねぇ………やっぱりぃ、私の優勝は無理かなぁ………」

 ゆりかも彼女なりに頑張ってはいる。彼女はスタートの時から全く変わらないペースで淡々と食べ続けていた。表情にも苦しそうな様子はない。ゆりかは沢山食べるのは得意なのだが、根本的に急ぐ事が苦手だ。そのせいでゆりかは余裕を残しつつも孝太郎達についていけていない。そんな訳で孝太郎達の中でのトップ争いは、孝太郎とティア、早苗の三人に絞られつつあった。



 予選は四品の料理を全て食べれば通過となる。そしてもし全てを食べ切った参加者が多かった場合には、タイムで上位二十人までを通過とする―――というルールになっていたのだが、完食したのは十六人だったので、その全員が通過となった。そしてその十六人の中に、孝太郎とティア、早苗とゆりかの名前も含まれていた。

「ふっふっふ、予選通過十六人中、四人が我らというのは素晴らしい成績じゃ」
「どうやら女の子はあたし達だけみたいだね」
「お前らは特別だろ」
「私達特別ですかぁっ!?」
「………お前は単に意地汚いだけだ」
「なぁんでですかぁっ!!」

 ティア、ゆりか、早苗の三人を除くと、残りの顔触れは全て男性だ。しかも見るからに沢山食べますという、体格がいい顔触れが揃っていた。おかげで小柄な女の子であるティア達三人は異彩を放っている。観客の視線はこの三人がほぼ独占している状態だった。

「やー、きみたちー!」

 そんな時、一人の巨漢が孝太郎達に近寄ってきた。その百キロを優に超える巨体は、足を踏み出す度に体育館の床を小さく揺らした。

「孝太郎、知り合い?」
「いや………ティア、お前は?」
「知らぬ。コスプレ関係ではないか?」
「違いますよぅ、ああいう知り合いはいませぇん」

 巨漢に見覚えがなかったので、孝太郎達はきょろきょろと辺りを見回す。近くにいる他の誰かに声をかけているのかと思ったのだ。しかし巨漢は真っ直ぐに孝太郎達の元へやってきて、目の前で足を止めた。そして孝太郎達の様子を察し、にこやかに微笑んだ。

「この格好だと分からないかな。僕だよ僕」
「あっ」

 近くからその巨体を見て、その声を良く聞いた事で、孝太郎はある人物の名前を思い出した。そしてその直後、本人の口からその名前が語られた。

「ダイサクだよ。サンレンジャーのイエローシャイン」

 ダイサクは『サンレンジャーのイエローシャイン』の部分だけは、孝太郎達に聞こえるギリギリの小声で囁いた。ダイサクは政府の秘密組織に所属しているので、その名を大声では口に出来なかった。
「おおっ、言われてみれば確かに! 珍しい所で会うのう!」

「イエローのおじちゃんが来ているって事は………わるいやつ関係?」

 早苗も言葉を選ぶ。異星人や異世界人、地底人など、サンレンジャーは特殊な敵との戦いをする為の組織だ。ダイサクがいるという事は、そういう敵が来ているのかもしれないという事なのだ。

「言われてるぞ、悪い奴」
「そなたは喧嘩を売っておるのか!? わらわが悪い奴なら、そなたはその手先じゃろうがっ!!」
「そういえばそうだな」
「あはは、今日はプライベートだよ。僕も賞品が欲しくてさ。食べるのは得意だから」

 孝太郎とティアが睨み合いを始めたのをさりげなく遮りながら、ダイサクは自身の事情を語る。ダイサクは相変わらず気配りが出来る男だった。

「ということはぁ、強敵が登場したという事ですねぇ~」
「そーみたいだね。イエローのおじちゃんはいつも何か食べてた気がするし………」
「負けないからね! みんな、いい勝負をしよう!」

 イエローシャインからの力強くも清々しい宣戦布告。それは本来イエローではなくレッドの仕事のような気がしなくもないのだが、孝太郎達にとって強大な敵が登場した事は紛れもない事実だった。



   ◆◆◆次回更新は6月17日(金)予定です◆◆◆

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