第11編 晴海VS真希『暇つぶしゲーム四番勝負?』 シーン01

作者:健速

シーン01 ゲーム開始



 ある秋の土曜日。この日の晴海(はるみ)は両親と共に遊びに行く予定となっていた。
しかし父親の会社の同僚が事故で入院。見舞いや引継ぎなどが必要になり、遊びに行くのは延期となった。
こうして晴海は突然スケジュールに穴が開いてしまった。また延期が決まったのは今まさに出掛けようとしていた時だったので、改めて誰かを誘うにもタイミングが悪い。
そこで晴海は一〇六号室へ向かう事にした。誰かが居るかもしれないし、居なくても自宅で待つよりは良いからだった。

「お帰りなさい、桜庭(さくらば)さん」

 晴海が一〇六号室に入ると、たった一人だが住人が彼女を迎えてくれた。それはちゃぶ台で宿題をやっている()()だった。晴海は真希の姿を確認すると、上機嫌で彼女の向かい側に座った。

「ただいま。うふふ」
「どうしたんですか?」
「ここへ来れば誰かが居るんじゃないかと思って。それで、やっぱり居たなあって」
「そうでしたか」

 晴海が笑った事を不思議に思った真希だが、理由を聞かされるとそういう事かと納得する。だがそれと同時に真希は、晴海が今日は家族と出掛ける予定だと言っていた事を思い出した。

「ところで桜庭さん、今日は家族で出掛ける(はず)だったんじゃ?」
「そうだったんですけれど………父の同僚の方が怪我をなさったとかで、()()めになったんです」
「それは残念でしたね。ふふ、実は私も似たような状況です」

 晴海の事情を聞いた真希は笑い出した。すると今度は晴海が首を傾げる。

「真希さんも?」
「はい。今日はゆりかと買い物に行く予定だったんですけれど、あの子ったら今日が委員会の会合の日だった事を忘れていたみたいで」
「それでここで宿題を?」
「ここに居れば誰か来るんじゃないかと思って」
「あははっ」
「ふふふっ」

 誰かが居ればいいなと思った晴海。誰かが来るのを待っていた真希。両者の願いが上手く重なり合い、二人はこの場所で顔を合わせる事になったのだった。



 二人が合流してからしばらくの間は、真希は宿題を続けた。
もちろん晴海はその手伝いを買って出た。二人とも特にやる事はなかったので、宿題を進めるというのは前向きな選択だった。だが不幸にして真希は比較的優秀であり、しかも非常に優秀な晴海が指導を担当していたので、宿題はあっという間に終わってしまった。
そんな訳で今は二人でお茶を飲みながらのんびりとお(しゃべ)りをしていた。

「………教えて下さって助かりました、桜庭さん」
「あんまり教える所がなかったような気がしますけど」
「だからこそ引っ掛かっているところが重要なんじゃありませんか。どうもありがとうございます」
「あは、力になれたのなら嬉しいです」

 宿題が呆気(あっけ)なく片付いてしまったという事は、やる事がなくなったという事でもある。二人がお茶を飲んでいる事には休憩だけでなく、暇つぶしという意味合いも強い。そしてこの先どうしようかという相談も目的の一つだった。

「桜庭さんは苦手な事ってないんですか?」

 真希はお茶を一口飲んでから晴海に(たず)ねる。晴海は何でもそつなくこなすから、真希には彼女の苦手な事に興味があった。

「運動は苦手ですよ」
「それは単に体力の問題であって、身体を動かす事自体は上手じゃないですか」

 晴海はどんな事でも人並み以上にこなす。だが体力的な問題で、その持続時間が極端に短い傾向がある。そのせいで運動全般が苦手なように見える。しかし動きそのものには全く問題がない。むしろ得意と言った方がいいので、これは真希が知りたいと思う晴海の弱点ではなかった。

「だったら………」

 晴海は食べかけのせんべいを手に持ったまま考え込む。運動以外で自分の苦手な事。一応彼女にも幾つか心当たりがあった。

 ―――ええと………悪女は苦手だけど、これは質問の趣旨(しゅし)とは違うよね。里見(さとみ)君と激しい関係を作れずにいる………これもちょっと違う。だったら………あっ!!

 晴海は幾つかの心当たりの中から、真希の質問の趣旨に沿った答えを見付け出した。彼女はせんべいを持つ右手を左手で包み込むようにして胸の前で合わせると、真希に笑いかけた。

「ゲームが苦手です! ゲーム!」
「ゲーム、ですか?」

 真希は首を傾げながら近くに置かれたテレビを指さす。それには年代物のゲーム機が繋げられたままになっていた。

「そっちじゃなくて、みんなでやる方の。いつも負けてる気がします」

 晴海はボードゲームやカードゲームが苦手だった。ゲームそれ自体は楽しくて好きなのだが、あまり勝つ事が出来ない傾向にあった。これは主にゲームに不慣れである事が原因だった。孝太郎達に出会うまで、あまりゲームをする友人がいなかったのだ。

「………なんだか分かる気がします」

 真希はそう言って小さく苦笑する。実は真希もゲームが苦手だった。真希の場合も事情は同じで、ゲームというもの自体に馴染(なじ)みがなかった。ただし彼女の場合は生まれがフォルサリアである事が主な原因だった。

「それで、桜庭さんは勝ちたいんですか?」
「勝ちたいというよりは………私が負けてばかりでは、一緒に遊ぶ人達がつまらないんじゃないかなあと」
「勝ったり負けたりがあった方が、か………そうですね、言われてみれば私もそれはそう思います」

 晴海と真希には勝利に対する執着(しゅうちゃく)はない。孝太郎(こうたろう)やみんなと楽しく遊んでいられればそれで満足なのだ。だが負け続けでは同じ結末が繰り返される事になるから、他の人達が楽しくないのではないかという危惧(きぐ)がある。やはり人間同士で遊ぶゲームの場合は、一方的ではつまらないのだ。

「真希さん、ここは練習をしてみましょう」
「練習?」
「問題を発見したら解決する方が前向きだと思うんです!」
「そうですね、やってみましょう!」

 問題は二人がゲームに不慣れである事。ならば練習あるのみ―――発想は安易(あんい)だが、確かに効果的な解決法と言えるだろう。



 二人が最初に手に取ったのはカードゲームだった。これを選んだのはパッケージの側面に初心者向けと書かれていたからだ。最初から複雑なルールに手を出すほど、二人は冒険家ではなかった。

「アイテムカードの山と、イベントカードの山をそれぞれ作ります」
「作り………ました!」

 真希が説明書を読み、晴海がカードの山を作っていく。二人はそうやって協力しながらゲームの準備を進めていた。

「アイテムカードの山から各プレーヤーに五枚ずつ配り、それを最初の手札とします」
「五枚ずつですね………さん、よん、ご………はい、できました!」
「じゃんけんに勝った人から順にイベントカードを一枚引き、手持ちのアイテムカードを使ってそのイベントを解決して下さい。解決出来たらイベントカードは得点になります。その後で使用したアイテムカードを補充して下さい」
「そんなに難しくなさそうですね。やってみましょう」
「じゃーんけーん」
「ぽいっ」

 二人が始めようとしているカードゲームはオカルトホラーの作品だ。プレーヤー達は幽霊屋敷に閉じ込められてしまい、次々と起こる事件を解決しながら、脱出を(こころ)みるという内容だった。

「じゃあ私からですね」
「頑張って下さい!」
「はい! それじゃあ………」

 じゃんけんに勝ったのは真希だった。彼女はイベントカードの山札から一枚カードを取ると、それを表にしてちゃぶ台の上に置いた。そのカードには木製の家具が沢山書き込まれていた。

「ええと………『家具が宙に浮き、君に襲い掛かってくる!』だそうです」
「それを手札のアイテムで解決する訳ですね。使えそうなのはありますか?」
「この大型のレンチが良いんじゃないでしょうか。身を守れそうな感じが」
「そうですね、それなら大丈夫だと思います」

 イベントカードを解決するアイテムカードは明確には決められていない。手持ちのアイテムカードで解決できそうならOKという、かなり自由度が高いルールとなっている。要は他のプレーヤーが納得できればいいという事だ。今回は椅子が襲ってきたのを大型のレンチで防ぐという自然な流れだったので、晴海は問題なしと判断した。これによってイベントカードは真希の得点になった。

「次は桜庭さんの番ですね」
「分かりました。えいっ」

 晴海は自分に気合を入れる意味もあって、少々元気に掛け声を上げながらイベントカードを引いた。

「地震みたいです。『建物全体が大きく揺れている! このままでは階段から滑り落ちてしまう!』」
「これは難しいお題ですね」
「いいカードがありません」
「出すだけ出してみるのはどうでしょう?」
「そうですねえ、じゃあ………これを」

 残念ながら晴海の手札には直接身を守れそうなものがなかった。そこで比較的マシなものを出してみる事にした。

「鍋ですか」
「鍋です。これでせめて頭を守ろうかと。あはははは」

 晴海が出したアイテムカードは金属製の鍋だった。それもレストランやなんかで見かける大鍋だ。お陰で確かに頭は守れそうだった。しかしちょっと強引かなとも思うので、晴海は照れ臭そうに笑っていた。

「んー………言うほど悪くないんじゃないですかねぇ?」

 真希はそれほど強引だとは思わなかった。戦士出身の真希なので、戦場では鉄製の兜が煮炊(にた)きに使われたという事例を知っている。だから大鍋で頭を守ったと言われても、あるかもしれないなという反応になるのだ。

「そうでしょうかね?」
「はい。これは危険をやり過ごしたでいいんじゃないでしょうか」
「なるほど………こういうゲームなんですね」
「段々分かってきましたね」

 完全な解決策を模索するのではなく、自然な対応に見えればいい。要はアドリブの力を試されているのだ。その辺りを理解した二人は、たどたどしいながらも少しずつゲームを進めていった。



 最初こそたどたどしかったものの、何度か手番が回ってくるうちに、二人はスムーズにゲームを進める事が出来るようになっていた。その結果、パッケージに書かれていた想定プレー時間の十五分を少しオーバーしたぐらいで二人は館の脱出に成功していた。

「そうか………この出口のカードが出た時の為に、開けられそうな道具を最後まで持っておかないといけないんですね」

 脱出に成功したのは真希だった。出口の扉には幽霊が()りついているので、簡単には開けられない。そこで魔法書やお守りなど、それらしい道具が必要になる。真希はたまたま水晶玉を持っていたので、無事に館からの脱出に成功したのだった。

「じゃあ、得点の計算をしてみましょう」

 晴海が説明書を覗き込み、得点の計算方法を確認する。基本ルールでは無事に危険を回避できたイベントカード一枚につき一点。出口のカードだけは例外で三点。それを合計したものを比較して、ゲームの勝敗を決める。要するにイベントで受けた被害が少ない方が勝ちというルールだった。

「私の得点はカードの枚数そのままみたいですね。えと………十九点です」
「出口は三点だから………枚数に二点足せばいいのか。()しい、十八点です」

 脱出に成功したのは真希だったが、ゲーム全体としては晴海の勝利だった。比較的カードの引きが良かったのだ。

「おめでとうございます、桜庭さん」
「ありがとう。………んー………」
「どうしたんですか?」
「出口のカードの得点が少な過ぎる気がして。二点多いだけじゃ、逆転が起こらないような気が」
「言われてみればそうかもしれませんねえ」

 十九点と十八点なので、出口のボーナスが二点では確かに影響は小さい。だが実はこの結末、ゲームのデザイナーが二人プレーの場合に想定していた得点よりもかなり高い。二人が相手のアイテムカードを厳しく判定せず、ゆるゆるの判定だった為に、想定の倍以上の得点が入っていたのだ。

「真希さん、このくらいの点数だと、出口は五点ぐらいの方がいいですよね?」
「ルールも分かってきた事ですし、次はそれでやってみましょう」

 晴海と真希はルールの欠点を修正すると、次のプレーの準備を始める。どうやら彼女達は自分達に欠点があるとは思っていないようだった。



   ◆◆◆次回更新は10月14日(金)予定です◆◆◆

作品応援ボタン(1日1回)応援コメントを書く