第11編 晴海VS真希『暇つぶしゲーム四番勝負?』 シーン02

作者:健速

シーン02 向き不向き



 カードゲームは全部で三回行われた。十分程度で終わるゲームなので、ワンゲームだけでは物足りなかったし、ルールの把握にも不十分だったのだ。そして三回のゲームの結果は、晴海(はるみ)の勝利だった。最初の一回は晴海が勝ったが、続く二回は一勝一敗のイーブン。全体としては二勝一敗で晴海の勝利となったのだった。

「このゲームはやった事がある人が有利ですね」

 晴海はカードを片付けながら()()に笑い掛けた。その真希は押し入れのところにいて、中に詰め込まれているゲームを物色している。負けた真希が次のゲームを決める事になっていたのだ。

「なんとなくでも、どういうアイテムがあるのかが分かっている方が強いですもんね」
「私達、ちょっとだけ有利になりましたよ」
「ふふふ、この調子でいきましょう」

 真希は押し入れの中を物色しながら晴海との会話を続けた。そして会話が終わった丁度その時に、真希は晴海の方へ振り返った。

「これにします」

 振り返った真希はやはり笑顔だった。その笑顔はいつもより明るい。カードゲームが楽しかったのと、晴海に対していつも以上に親近感を持ち始めた影響だった。またその手には少し大きな箱が抱えられている。それが真希が選んだ次のゲームだった。

「どんなゲームなんですか?」
「怪盗と探偵に分かれて遊ぶ、対戦ゲームみたいです」
「じゃあ逃げたり追いかけたりするんですね?」
「そうですね、鬼ごっこのようなルールみたいです」

 真希が選んだのは怪盗と探偵に分かれて戦うボードゲームだった。姿の見えない怪盗が東京各地の宝物を盗んでいくのを、探偵達がルートを予測して先回りして逮捕しようとする。一定数以上宝物を盗んだら怪盗の勝ち、その前に捕まえれば探偵の勝ち。探偵が警察の協力で非常線を張ったり、怪盗がヘリコプターで逃げたりと、豊富な戦術が存在しており白熱の捜査が楽しめる。古い作品ながらも根強い人気を誇るゲームだった。

「真希さん、怪盗と探偵、どっちがいいですか?」
「うーん………その二つだと怪盗でしょうか」

 元・悪の魔法少女だった事もあり、暗躍する怪盗は真希にもイメージし易かった。逆に探偵は馴染(なじ)みのない職業なので良く分からない。この二つの比較なら、真希がやり(やす)いのは怪盗の方だった。

「じゃあ私は探偵という事で」

 そうなると自然と探偵は晴海という事になる。晴海の感覚からすると悪事は上手くやれそうになかったので、探偵の方が気は楽だった。

「スタート地点はそれぞれカードを引いて決めます、だそうです」
「私は一枚………えと、桜庭(さくらば)さんは自分と部下三人分、四枚引いて下さい」
「私は四人で真希さんを追いかけるのか。ちょっと多くありませんか?」
「移動は怪盗の方が速いようですから、四人くらいいないと」
「なるほど………それっぽくなってるんですね」

 晴海と真希はルールを確認しながら準備を進めていく。ゲーム盤を広げ、駒を配置し、カードを並べる。先程のカードゲームに比べると複雑そうな雰囲気だが、丁寧な説明書が付いているおかげで迷う事はない。二人ともちゃんと説明書を読むタイプだった。

「これでいいかな?」

 一通り駒とカードを並べ終わると、晴海は説明書の図と実際のものを見比べる。幸い両者は一致しており、準備は完了しているようだった。

「私がこれを(かぶ)ると準備完了です」

 真希はゲームに付属していたサンバイザーらしきものを頭に被った。すると二人はほぼ同時に笑い出した。

「あはは、何ですかソレ」
「ふふふ、視線を隠す為のものらしいです」
「ああ、怪盗が何処を見ているかバレたら、すぐに終わっちゃいますもんね」

 このサンバイザーのような付属品は、怪盗役の視線を隠す為のものだった。怪盗の駒はなく、居場所はメモ帳に記録していく方式になっている。しかし自分の居場所を確認して移動先を決める時に、視線を追われてしまうと居場所がバレてしまう。それを隠す為に必要なのだった。

「私が見ないようにするのでも構いませんけど」
「いえ、面白いからこのまま被ってます。せっかくのルールですし」

 真希は晴海が盗み見るとは思っていなかったが、ルールに従ってサンバイザーを被ってプレーする事に決めた。他の人達と遊ぶ時に備えての練習でもあるし、またその方が見た目が面白いと思っていたのだ。

「似合ってますか? うふふふふっ」
「ノ、ノーコメントで。あははははっ」

 サンバイザーの影響もあって、二人の間に探偵と怪盗にあるまじき穏やかな空気が流れる。二人にとってゲームはあくまで遊び。勝敗を競うという意識は薄く、一緒に楽しむという意識が強い。この辺りはティアや早苗とは違う部分だろう。

「じゃあ、早速やってみましょうか」
「逃げ切るように頑張ります」
「何とか捕まえられるといいんですけど」

 二人はひとしきり笑った後、ゲーム盤に視線を落とした。二人とも勝つ気はともかくやる気は十分で、カードを握る手に思わず力が入る。晴海と真希による第二の戦いはこうして始まったのだった。



 序盤は双方がルールを理解していなかったので、マップ上をよちよち歩きという状態が続いた。事態が大きく動いたのは、何番目かの手番で真希がイベントカードを引いた時の事だった。

「ええと『怪盗の仲間が裏切った! 宝物を一つ失い、居場所が通報されてしまう。探偵に位置を教える事』………って、えええっ!?」

 真希が操る怪盗は、晴海からは見えないものの、ゲーム盤上を移動している。駒は使わないけれど、位置をメモしてきちんと管理するルールなのだ。晴海に分かっているのは、怪盗が使った移動手段だけ。それとマップの形から真希の位置を大まかに推測して、晴海は指揮下の探偵達を各地に配置していた。
 そんな状況で真希は味方の裏切りに合い、宝物の一つを失い、居場所を晴海に教えなければならないというトラブルに見舞われた。これは非常にまずい展開だった。

「真希さんはどこにいるんですか?」
「ここです」

 真希は嘘が大嫌い。また、一度従うと決めたルールに反するのも大嫌い。彼女は非常に残念そうにしながらも、素直に居場所を告白した。

「あら、思っていた場所と全然違う場所にいますね」
「最初に色々相談した時の考え方は避けたんです」
「あはははっ、それはそうですよね」

 真希の現在位置は晴海が想像していた場所から少し離れていた。だから囲まれたりしていないし、短期的には危機的状況にはならないだろう。真希としては不幸中の幸いと言えるだろう。しかしそれでも真希は残念そうに肩を落とした。

「ついてませんねぇ………」
「残念でしたね、真希さん」

 対する晴海は同情的だ。本来真希を捕まえる立場なのだが、残念そうな彼女を可哀想だと思っていたのだ。晴海は心配そうな顔で彼女を見つめている。宝を取られたのが残念なのか、それとも長期的には危険だと考えているからか。真希を見つめながら、晴海はそんな事を考えていた。

「位置がバレたり宝を失うのは良いんですけど………裏切りで仲間を売る奴がどうしても許せなくて」
「分かります。自分だけ良ければいいっていう考えは、受け入れにくくて。泥棒でも泥棒なりに、友達は大切にすべきです」

 真希が悔しがっている理由は、晴海の想像とは違っていた。だがその気持ちは十分に理解できる。もし真希や孝太郎が、個人の欲の為に自分を裏切ったなら―――それを思うと晴海の胸は張り裂けそうだった。

「そうだ真希さん、私は何回か動かずに待ちますので、先に裏切者を捕まえて下さい」

 そこで晴海は先に問題を排除する事に決めた。明らかな間違いを放置しておくのは、彼女には許せなかった。

「え、そういう事で良いんですか?」

 真希は晴海の申し出に目を丸くする。これはゲームのプレーヤーとしては有り得ない選択だった。

「仮にゲームであっても、許してはいけない事があります。その代り、終わったら今の場所に戻って下さいね?」
「桜庭さん………」
「私達は楽しいゲームをやる筈だったじゃありませんか。私達が楽しいように進めればいいんです。それに、決着はあくまで私達でつけるべきです! 裏切者などに横槍を入れさせてはなりません!」
「ありがとうございます! それじゃあ、お言葉に甘えて!」

 晴海の一本筋が通った健やかな捜査方針は、真希の心に深い感銘(かんめい)を与えた。やはりこの人は只者(ただもの)ではない、真希はそう強く感じていた。ある意味、この時点で晴海の勝ちと言えるかもしれない。だがまだゲームは続く。人を疑わないお人好しの探偵、晴海。嘘がつけない義理堅(ぎりがた)い怪盗、真希。二人のゲームはここから大きく脱線を始めたのだった。



 ボードゲームそれ自体は真希の勝利で終わった。やはりイベントカードの内容を(いく)つか無視してしまっては、晴海は不利だった。真希の方も約束通りきちんと元の位置に戻ったりしたのだが、それでも不利を(くつがえ)す事は出来なかった。しかし心情的には晴海が勝ったような状況にある。(すこ)やかな正義をこれでもかと見せつけた晴海に、真希は尊敬のまなざしを送っていた。

「………里見(さとみ)君とはまたちょっと違うタイプだけど、素敵な人だわ………」
「はい? どうしました?」
「い、いえ、ややこしいけれど、楽しいゲームだったなと」
「そうですね、これもややこしい分だけ、練習しておいてよかったかもしれませんね」
「はい」

 二人はゲーム盤の片付けを終え、再び休憩のお茶を楽しんでいた。二人とも沢山頭を使ったので、お茶とお菓子がとてもありがたかった。お茶を飲みながらのんびりとお喋りをしていると、頭の中に溜まった疲れがゆっくりと溶け出していくようだった。

「この調子でもうちょっと練習してみましょうか」
「里見君達も帰ってきませんし、是非そうさせて下さい」

 真希は是非(ぜひ)もなしと言わんばかりに首を縦に振る。真希はここまでの経緯(けいい)から、晴海をお手本となる女性だと思うようになっていた。嘘をつかず真っすぐに生きるその姿は、真希の理想にとても近い。もともと真希は晴海が好きではあったのだが、ここまでのゲームを通じてその感覚が強まった格好だった。

「それじゃあ、今度は私がゲームを決めますね」
「はい、お願いします」

 そんな真希の気持ちを知ってか知らずか、晴海は楽しそうに押し入れへ向かう。晴海も晴海で、自分の下手なゲームの練習に文句ひとつ言わずに付き合ってくれる真希を、優しい人間だと思っていた。晴海にはそれだけで十分。可能な限りこういう時間が長続きすればいいと思っていた。

「決めました! これにします!」
「見せて下さい、どんな内容ですか?」
「それはですね―――」

 これで二人の勝負は一勝一敗のイーブン。勝敗の結果こそ分からないものの、もうしばらく二人の楽しい時間が続くようだった。



   ◆◆◆次回更新は10月21日(金)予定です◆◆◆

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