第11編 晴海VS真希『暇つぶしゲーム四番勝負?』 シーン04

作者:健速

シーン04 ゲームの勝者



 二人が四番目に選んだのは、ファンタジー世界を題材にしたボードゲームだった。プレイヤーは戦士や魔法使いになり、薄暗い洞窟の中を探検する。洞窟の中には怪物達が住んでおり、罠も沢山(たくさん)仕掛けられている。そうした数々の障害を乗り越え、洞窟から宝物を持ち帰るというのがこのゲームの目的だ。そして宝物には得点が定められており、その得点が一番高かった人物の勝利となるルールだった。

「………これにしようかな? 強そうだし………」

 ()()は箱に入っていた沢山の小さなフィギュアの中から、露出度が高い女性のキャラクターを選び出した。ゲームではこのフィギュアをコマとして使う事になっていた。

「ふふふ、真希さんっぽいですね?」
「私こんなに露出度高くないですよ」
「そういう意味じゃなくて………もしこのフィギュアに色が塗ってあったら、真希さんの色になるんじゃないかと思って」
「ああ、確かにそうかもしれませんね」

 真希が選んだフィギュアは女忍者だった。それは金属製の小さなフィギュアなので色は塗られておらず、金属そのままの色をしている。しかしもしこれに色を塗るとしたら、青や黒といった忍者らしい色になるだろう。もちろん真希のパーソナルカラー、藍色も有力な候補だった。

「私はどうしようかな………これなんか可愛いな」

 晴海(はるみ)も真希と同じ様にフィギュアを一つ選んだ。晴海はそのフィギュアに何が出来るのかという事よりも、その見た目で選んだ。それはワンピースを着て手に(しゃく)(じょう)を持った女性のフィギュアで、真希の女忍者に比べると比較的しっかりした服装をしいる。だがそれでいて上手い具合に女性らしさは失っていない。そのフィギュアは晴海の感覚にぴったりとはまるデザインに作られていた。

「それは女僧侶らしいですよ」
「なるほど、それでこういうきっちりとした服装なんですね」
「あはは、桜庭(さくらば)さんらしいです」
「なんとなくそういう気はしています。うふふふっ」

 真希が選んだキャラクターは女忍者で、戦闘と忍術が得意な武闘派だ。そして晴海が選んだ女僧侶は、回復と防御に長け、さらには幽霊やゾンビを追い払う力を持つ。どちらも自分らしいキャラクターを選んだと言えるだろう。これで本来はゲームを始められる(はず)なのだが、彼女達は引き続きもう一つフィギュアを選び始めた。

「真希さん、もう一人選ぶとしたら、どんなのがいいと思いますか?」
「そうですねえ………もう偵察兵と衛生兵が居る訳ですから、ここは戦いの専門家が良いと思います」
「じゃあ、この辺のごっつい人達ですね」

 このボードゲームは最大で六人まで同時に遊ぶ事が出来る。二人でも遊ぶ事は出来るのだが、説明書によると二人だと難易度が高くなるという。そこで三人目のキャラクターを用意し、この三人目に関しては二人で相談しながら進める事に決めたのだった。



 晴海と真希が選んだ三人目のキャラクターは、大きな剣と重厚な鎧で身を固めた男性の戦士だった。それを選んだ理由は、二人のキャラクターが比較的軽装であった事と、パッケージに書いてあるキャラは強いだろうという裏読みからだった。

「やっつけましたよ、真希さん!!」
「やっぱりパッケージの真ん中にいる人を選んだのは正解でしたね」
「うふふふっ、そうですねっ!」

 この戦士が先陣を切って道を切り開いてくれるので、二人はその支援をしながら後に続くという手法でゲームは進められていた。本来はそれぞれ独自に行動しつつ、強過ぎる敵が現れた時にだけ一時的に協力して進むというのがこのゲームの醍醐味(だいごみ)だ。しかし二人は三人目の行動を相談して決めているので、意図せず全ての行動が完全な協力体制で進められている。おかげで拾った宝物は平等に分配され、二人の得点には全く差がない。このままでは冒険に成功しても引き分けに終わりそうなのだが、二人はその辺にはあまり頓着(とんちゃく)していない。とことん正義と愛に溢れる冒険者達は、洞窟に潜む邪悪を成敗すれば良いぐらいにしか考えていないのだった。

「わっ、凄いですよ桜庭さん。今のドラゴン、宝物カードを五枚持ってました!」
「という事は、三人で五枚を分ける感じですね」
「向き不向きがあるかもしれないので、まずは順番に見てみましょうか」
「そうしましょう」

 たった今戦士が退治したドラゴンは、五つの宝物を隠し持っていた。それは宝物カードという形で表現され、三人のキャラクターに五枚のカードを分配していく事になる。宝物は単なる宝石や金貨だけでなく、キャラクターを強化する魔法の道具や武器などが含まれている。キャラクターによっては不要なものが出てくる事もあるので、協力して敵を倒した時には誰がどれを貰うのかは相談して決めていい事になっていた。そしてこの五つの宝物が、晴海と真希の得点に大きな変動をもたらす事となった。

「回復薬………これは真希さんが持っていけばいいんじゃありませんか?」
「いいんですか?」
「私は回復魔法がありますし、戦士さんは打たれ強いから私の魔法で援護すれば大丈夫だと思うんです」
「分かりました、これは貰っておきます」
「じゃあ次は………」

 ぺらっ

 二枚目の宝物カード。それを表に返した瞬間、晴海の動きがぴたりと止まった。不審に思った真希が心配そうに晴海の顔を覗き込む。

「桜庭さん?」
「………」

 返事はない。そこで真希は晴海の視線を追ってみる。すると晴海の視線はちゃぶ台の上に置かれている宝物カードに釘付けになっている事が分かった。

「あっ………」

 その瞬間、真希も動きが止まる。晴海が何故動きを止めたのか、何を思っているのか、真希にもよく分かった。

「よろい………ですね………」

 真希が心ここにあらずという調子で小声で呟く。すると晴海も同じような調子で返答した。

「はい………あおくてとってもきれいな、よろいです………」

 二人が見詰めているカードには、美しい装飾が(ほどこ)された青い鎧が描かれていた。だが二人の視線はそのカードを突き抜けて、別の何かを見ている。そしてその何かへのこだわりが、二人のプレーの方向性を決定付ける事になった。

「この鎧は………私達の騎士様に着て頂きましょう」
「そうですよね、鎧は騎士が着てこそですよね」

 いつの間にか、戦士の呼称が騎士に変わっていた。そして二人は迷わずそのカードを戦士―――騎士のものにする事に決めた。普通に考えると軽装の真希や晴海のキャラクターに持たせた方が全体の生存率が上がるだろう。だが二人にとってはそんな事はどうでもいいようだった。

「桜庭さん、このパワーアップの宝珠はどうしましょうか」
「騎士様の剣をパワーアップさせる方向で」
「じゃあ、この身代わりのお守りは?」
「私はいらないです」
「私も使いませんから、騎士様にお渡ししておきますね」
「この際、私達が要らないものは全部騎士様に渡してしまいましょう」
「そうですね、それが良いですね」

 ここが晴海と真希の冒険の転機だった。青い鎧の入手を境にして、戦士の呼び名は騎士へと変わり、そして彼の装備は優先的に強化されるようになった。結果として三人分の装備を独り占めする事になったこの騎士は、ゲーム終盤には圧倒的な強さになっていた。だがその分だけ、二人が自分で担当するキャラクターは苦戦していたのだが、二人ともそんな事はどうでも良いようだった。



 充実した装備のおかげでかなりの強さになった騎士は、晴海と真希の支援を受けながら洞窟の最深部に到達。しかし二人とも初めてやったゲームだったせいで効率的な探索が出来ず、時間切れとなった。残念ながら洞窟のボスとは戦えず終いだった。

「………納得がいきません、もう一回やりましょう、桜庭さん」
「もちろんです。すぐに始めましょう!」

 二人はこの結果に納得していなかった。ゲームが終わるとすぐに、もう一度同じゲームをやる事に決めた。この二人にしては珍しい事に、勝利にこだわっていた。

「私達の騎士様が負けるなんてありえないです」

 真希はそう言いながらゲーム盤上の洞窟の最深部にあたる部分をじっと見つめる。その頭の中ではどうやったら騎士を勝たせられるのか、そのシミュレーションが何度となく繰り返されていた。

「どんな手を使ってでも、絶対に悪の大魔導士を倒しましょう!」

 それは晴海も同じだった。ただ彼女の場合は自分が多少不甲斐なかったという思いがあるので、反省点の洗い直しの方に余念がなかった。

「前回よりも私達二人が無茶をして、リスクを背負った方が良いかもしれません」
「そうやって私と真希さんで効率よく里見君を守ればきっと!」

 二人は性格も考え方も違うが、目標は完全に共有されている。二人は自分達のゲームの勝敗よりも、ひたすらに騎士が悪の大魔導士に勝つかどうかにこだわっていた。今の二人にとって、重要なのはそれだけだった。

「桜庭さん、職業はどうしましょうか?」
「さっきと同じでいいんじゃないでしょうか。すごく惜しかったですし」
「でも僧侶二人の方が、里見君を守りやすいんじゃありませんか?」
「では、今回はさっきと同じにして、駄目だったら僧侶二人を試しましょう」
「勝つまでやるんですね?」
「違うんですか?」
「いえ、その通りです、桜庭さん。是非そうしましょう」

 こうして四番目のゲームは、時間がかかるにもかかわらず、何度か繰り返される事となった。ゲームに不慣れな二人なので、彼女達が目的を遂げるまでには三回のゲームが必要だった。そしてそれだけの回数を繰り返したおかげで、ここまで晴海と真希がやってきたゲーム対決の成績は大きく変動。何故か、ゲームには参加していない孝太郎(こうたろう)が三勝で一位となり、二人とも大満足で対決を終えたのだった。



   ◆◆◆次回更新は12月2日(金)予定です◆◆◆

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