第13編 キリハVSエルファリア『頭脳派頂上決戦!! 何故か孝太郎の危機!?』 シーン01

作者:健速

シーン01 スキー旅行



 同世代の若者達と比較した場合、孝太郎(こうたろう)達には距離に縛られないという素晴らしい利点がある。ティアの『青騎士』やクランの『(ろう)(げつ)』の力を使えば、行きたい時に行きたい場所へ遊びに行ける。真冬だって泳ぎたいと思ったら、南半球や赤道直下へ行けばいい。やろうと思えば午前中に登山をして午後に海で泳ぐなどという荒業(あらわざ)も可能だ。遊びたい盛りの若者としては、とても恵まれた環境にあると言えるだろう。
 この日はその利点を生かしてスキー場へやってきている。忙しい毎日の合間を()っての二泊三日のスキー旅行は、孝太郎達が待ちに待った一大イベントだった。

「コータロー、最上級コースへ参るぞ! ついて参れ!」
「こっちの森林超ロングコースじゃなくていいのか?」
「それは後で参る! 全部行くに決まっておろうが!」
「それもそうだな。他に誰か行かないか?」
「あ、私もそっちに行くわ。面白そう!」

 スキーを始めとするウィンタースポーツともなれば、体力自慢の三人―――孝太郎とティア、(しず)()は目の色が違う。これまで学校行事で何度かスキー旅行のようなものを経験しているので、三人は既にスキーやスノーボードの技術を体得している。別段何の準備もなく難関コースに挑むのがこの三人だった。

「森林コースに行く時には声をかけて下さい。私も行きたいです」
「あたし達が勘を取り戻すまでぐらい待ちなさいよね、もぉ………」
「孝太郎達が最上級コースに行っている間に、雪に慣れればよかろう」
「私は少しずつペースを上げて行こうと思います」

 ()()早苗(さなえ)は孝太郎にくっついていきたいのだが、残念ながら技術的な部分に問題がある。二人ともウィンタースポーツの経験が(とぼ)しいのだ。キリハの場合はそれとは少し違っていて、教師役として残った。キリハは孝太郎達と行こうと思えば行けるのだが、それではスキーやスノーボードを教えられる人間が居なくなってしまう。これは周囲を思い遣っての判断だった。晴海(はるみ)は純粋に体力が問題になっている。早い時期から全力で遊んでしまうと、体力が一日持たないのだ。

「わたくし達は今の内に雪上のデータを集めておきませんと」
「半自動スノーボードもデータなしでは張り子のトラでしてよ」

 多少毛色が違うのがルースとクランだ。二人は自分達の運動能力をきちんと把握しており、そのハンデを科学技術で乗り越える事にした。そこで二人はどんな素人が乗っても転ばないスノーボードを用意した訳なのだが、基礎的なデータが取れるまでは上級コースに行くのは危険すぎる。まずは真希達と一緒に、という判断だった。

「何が楽しくてこんな寒い所で遊ぶんでしょうねぇ………」
「あら、ユリカさんはこういうのは苦手なのですか?」
「温泉でぇ、じっとしてたいですぅ」

 全然駄目なのがゆりかとエルファリアだ。ゆりかが駄目な理由は言うまでもないが、エルファリアが駄目な理由は単純に地球式のウィンタースポーツが初体験である事に起因している。技術云々以前に、スキー場の何たるかを知るところから始まるのがエルファリアだった。



 孝太郎達が最上級者向けのコースに行ってしまうと、残された少女達とエルファリアは思い思いに練習を始めた。自分達で何とかしているのは真希と早苗、そしてクランとルースの四人だ。真希と早苗は勘を取り戻せば普通に滑れるし、クランとルースはデータが取れれば道具の方が勝手に滑るようになる。そして自分ではどうにもならないゆりかとエルファリアは、晴海とキリハがそれぞれ面倒を見る事になっていた。

「何で転ぶ練習が必要なんですかぁ?」
「ゲレンデでは誰も止めてくれる人が居ないからですよ」

 ゆりかの先生役は晴海が引き受けている。晴海は技術的な部分は全く問題がないので、ゆりかに教えるのには問題は無い。またゆりかは晴海を尊敬しているので、言っている事を素直に聞くというメリットもあった。

「痛いですかねぇ?」
「馬鹿にしていると、大怪我をします。場合によっては………」
「是非教えて下さい! がんばりますぅ!」

 またゆりかは孝太郎に、スキーをやらずに逃げたらお仕置きだと約束させられてしまったので、雪上で無事でいる技術の習得は急務だった。

「なるほど、この歩き難い靴は身体ごと板に固定してしまう為のものなのですね」
「はい。後は体重の移動だけで板の角度が調整できますから」
「この構造だと、基本は板の内と外の尖った部分を斜面に立てるイメージですね?」
「仰る通りです」

 エルファリアは文化としての地球式ウィンタースポーツを全く知らない為、全く身動きが取れない状態にある。だが彼女は体力はあるし、頭の回転も速い。おかげでキリハが教える事をあっという間に吸収していく。彼女がそれなりに滑れるようになるまでには、何十分もかからないだろう。

「おっと、とととっ」
「お上手です、陛下」
「キリハさん、そこからお世辞と敬意を抜くと?」
「板をコントロールしようという気が強過ぎます。ある程度斜面の形状に合わせて大丈夫です」
「そちらの方が上達は早そうですね。しばらくそれで頼みます」
「承知致しました」

 キリハはティアに対しては対等な物言いだが、エルファリアに対しては敬意を払っている。これはキリハ自身も一国の姫であるからなので、一国の主であるエルファリアに対しては自然と尊重する形になる。だがスキーのコーチをする上では尊重は邪魔なので、エルファリアはキリハに本音を言うように求めた。

『おーい』
『ははうえー!』

 そうしてエルファリアが雪の上をおっかなびっくり滑り始めた頃。お馴染(なじ)みの声が頭上から聞こえてきた。それはリフトに並んで乗っている孝太郎とティアの声だった。二人は大きな声を出しながら、楽しそうに手を振っていた。

「落ちないように気を付けるのですよ!」
『分かっておりまするー! 母上も気を付けてー!』
「こちらは任せよ、里見孝太郎!」
『任せたー!』

 孝太郎とティアは僅かな言葉を交わすと、エルファリア達の頭上を通り過ぎていく。すると今度は静香が一人でリフトに乗ってやってきた。

『キリハさ~ん、このリフト変に傾いてな~い~?』

 静香はリフトの傾きを心配していた。別に怖いという訳ではない。女の子一人が乗っているにもかかわらず、必要以上に傾いていると恥ずかしいという発想からだった。

「大丈夫だー! 普通はそんなものだー!」
『ありがと~!』

 キリハは女の子が一人でリフトに乗った場合の、正確な傾きについての知識がある訳ではない。しかしこの局面では、真実にはそれほど重大な価値はない。キリハはそれが分かっているから、あえて他のリフトの様子を確認したりせず、自分の主観だけで答えて静香を見送った。

「………キリハさん、本当は貴女もあちらへ行きたかったのでは?」

 なおもリフトの傾きを気にしている静香、その向こう側にいる孝太郎とティア。孝太郎とティアは二人で何事か喋りつつ、時には拳で互いを叩き合いながら並んでリフトに乗っている。その親密な様子は距離が離れた今でもしっかりと伝わってくる。エルファリアは他人の心の動きに敏感なので、本当はキリハも孝太郎の隣に座りたかったであろう事は想像がついていた。

「その気持ちがないと言えば嘘になりますが、この場面でそうしてしまうとティア殿が可哀想です」
「大人ですね、キリハさん」
「これはお互いに自然とやっている事です。ティア殿も、私が孝太郎と何かをしている時は割り込んで来ません」
「………ふふふ、貴女達には、貴女達なりの配慮があるのですね」

 エルファリアは穏やかに目を細めると、離れていく孝太郎達の背中に再び目を向ける。エルファリアは普段から自分の心を厳しく抑制しているから、今の表情からだけではその心を推し量るのは難しい。だがキリハにはエルファリアの気持ちが分かるような気がしていた。エルファリアは初恋の人と二十年以上の時を経て再会した。キリハは期間こそ半分なのだが、同じような経験をしている。だからキリハは思うのだ。本当はエルファリアこそが、孝太郎の隣に座りたかったのではないか、と。



 孝太郎とティア、静香の三人が向かった上級者向けのコースは、三基のリフトを乗り継いで到着する。リフトはそれぞれ十分ほど乗る事になるので、(ふもと)から上級者コースへ行くだけで四十分近くかかる。そしてそこから滑り降りてくる訳なので、孝太郎達がキリハ達の所まで戻って来たのは、別れてから一時間以上が過ぎてからの事だった。

「あっ、孝太郎が戻って来たよ!」

 最初にそれを感じ取ったのはやはり早苗だった。早苗は少し前から自分を中心とした半径数百メートルの霊波を見張っていたので、そこへ孝太郎が入った瞬間からその存在を感じ取っていた。早く孝太郎が帰って来ないかとずっと待っていたのだ。

「どこですか?」
「あっちあっち!」
「まだ見えませんね」
「あのでっぱりの向こう側にいるんだよ。もうすぐ見えると思う」

 ずっと待っていたのは真希も一緒だ。真希と早苗は他のスキーヤー達の邪魔にならないように端に止まると、ゲレンデの上の方に目をやる。するとそこへクランとルースもやってきた。

「メガネっ子、その滑り方何とかなんないの? 真っ直ぐ過ぎて変だよ」
「わたくしの技量が上がるまでは無理ですわ。そういう設計ですの」

 クランとルースはスノーボードで滑っているのだが、二人のボードには自動的にバランスを取る機能が備わっているので、極端に安定している。明らかに素人の引けた腰で、プロ並みの安定性で滑っているのだ。事情を知らない人が見ても多少疑問に感じるような状態なのだが、当のクランが気にした様子はない。この状態は補助機能が強めに働いた結果なので、クランとルースの技量の向上に応じて緩和されていく。だから遠からず不自然さは消える訳なので、クランは特に問題になるとは考えていなかった。

「ところでサナエ様、マキさん、どうかなさったのですか?」
「そうそう、それですわ」

 むしろクランとルースにとって問題だったのは、早苗と真希が急に止まった事の方だった。早苗と真希が急に止まってゲレンデの上の方を眺め始めたので、二人は気になってやってきたのだ。

「孝太郎達がそろそろ帰ってくるから。ホラ」

 早苗がゲレンデの上部を指さした、ちょうどその時。孝太郎とティア、静香の三人がゲレンデに姿を現した。上級者と中級者のゲレンデを制覇した三人は、初心者のゲレンデに戻って来たのだ。

「里見君! ………って、なんか様子が変ですね」

 姿を現した孝太郎達を見て顔を(ほころ)ばせた真希だったが、すぐに首を傾げる。初心者用のゲレンデであるのに、そのスピードが速過ぎるのだ。この場所でそんなスピードで滑ったら他のスキーヤーやボーダーの迷惑になる。だが幾ら楽しくても、真希にはあの三人がそういう迷惑な事をするとは思えなかった。

『たぁ~すけてくださぁぁぁぁぁぁいぃぃぃぃぃぃっ!』

 しかし真希の疑問はすぐに解けた。ところどころにピンク色の何かを覗かせた巨大な雪玉が、孝太郎達の背後に現れたのだ。雪玉はまるで誘導ミサイルのように美しい軌跡を描き、前方を滑る孝太郎達を追う。孝太郎達はこの雪玉から逃げる為に、スピードを出していたのだ。

『こっち来るなゆりかぁぁぁぁっ!!』
『そんなこといったってぇぇぇっ!!』
「………あっ」

 ぽぐっ

 いかにスキーと言えども、ブレーキもせずに全力で転がる雪玉よりは遅い。心配する真希達の目の前で、孝太郎はその雪玉に()かれた。



   ◆◆◆次回更新は2月10日(金)予定です◆◆◆

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