第17編 ティア&ルース 『ティアとルースの旅路』 シーン01

作者:健速

シーン01 二人の出会い



 暴走したヴァンダリオンが倒されてから数日が経過した頃。フォルトーゼは徐々にだが落ち着きを取り戻し始めていた。ヴァンダリオンに与していたクーデター軍を始めとする各勢力は武装解除して投降、粛々と処分を待っている。やはり国中へ中継された最後の戦いの影響が大きかった。ヴァンダリオンの人を人とも思わぬ言動や巨大過ぎる力を見て、それまで同調していた人々も目を覚ましたのだ。だがそうやって社会が落ち着きを取り戻し始めたおかげで始まった騒ぎもある。それは青騎士の情報を開示して欲しいという、国民達の大合唱だった。

「………後にせい、と言うのは簡単じゃがのぅ………」
「わたくしにも人々の気持ちはよく分かります。わたくしがおやかたさまの正体に気付き始めた時が、まさしくそのような気持ちでしたから」
「わらわもじゃ」

 ヴァンダリオンの歪んだ心と力を、青騎士は人々の意思を束ねた剣で両断した。それゆえ青騎士はこの時代においても、人々の意思の先頭に立つ、真の意味での英雄になった。そしてその英雄は何処(どこ)からやって来た、どんな人物なのか、国民はそれらを知りたいと熱望した。自分達を救ってくれた人物の事を知りたいと思うのは、無理もない事だろう。

「………うむ、やはりこれは無視する訳にはいかん。あやつの情報は開示してやらねばならんのう」
「ですが、全部開示する訳には………」
「何故じゃ?」
「殿下を始めとする、あれやこれやの恥ずかしい姿が衆目に(さら)される事となります」
「そっ、そっそっ、それはまずいっ! だっ、大丈夫そうなものだけに絞ろう!」
「そうなりますと、情報の選別はわたくし達でやらざるを得ませんが」
「仕方がない、手が空いている隙にパパッとやってしまおう」
「すぐに手配致します」

 国民の感情に配慮したティアは、青騎士に関する情報の開示を決めた。ティアやルースがいつも身に着けている腕輪―――通信機やコンピューターを内蔵している―――は周囲の情報を常に集め続けている。その情報を参考にする事で、戦闘や翻訳のような各種機能が正確になるのだ。だから青騎士に関する情報も十分に(たくわ)えられている。だがもちろん開示してはまずい情報もあるので、開示する情報の取捨選択が必要になる。アイスを食べながら下着姿でうろつくティアの姿などは、開示しない情報の筆頭と言えるだろう。

「第一弾は大まかな流れを追う形でよいじゃろうか? 細かい部分は第二弾以降で伝えていく感じで」
「それがよろしいかと。こちらにも時間の制約がありますし」
「ふむ………さしあたって、わらわとそなたの話から始める事になるじゃろうか」
「既におやかたさまに会っているエルファリア陛下の意図や、殿下が成長して変化する前の姿を伝える意味では適当かと」
「うむ、ではまずそこから始めるとしよう」

 青騎士の話をしようとすると、どうしてもティアの話から始める必要があった。何故ならティアが地球へ行く事で青騎士の伝説が始まるからだ。そんな訳で、どうしてティアが地球へ行く事になったのか、まずはそこからのスタートだった。



 ティアとルースの出会いは二人が物心つく前に(さかのぼ)る。それだけに、この頃の二人を知るには記録に頼るしかない。本人達は幼過ぎて、出会った頃の記憶は曖昧(あいまい)なのだ。両親達の言葉によれば、たまたま同じ時期に子供が生まれたので一緒に遊ばせようというくらいの経緯だったらしい。

「………わらわはこの頃から既に態度が悪いのう。目つきも良くない。これでよく友達になろうと思ったものじゃな、ルースよ」
「何故でしょうか………今のわたくしには、そこは分かりません。でも、この殿下はどことなく寂しそうに見えますから、それで当時のわたくしは放っておけなかったのかもしれません」
「ふふ、そなたならありそうな話じゃの」

 当時の二人を撮影した映像には、(ふく)れっ(つら)で機嫌が悪いティアと、今よりは若干無邪気な雰囲気で微笑んでいるルースの姿が映っていた。その姿は対照的だが、ティアの態度が悪い事には幾つか厄介な原因があった。
 ティアの母親は皇帝のエルファリア。エルファリアは公務が忙し過ぎて、娘のティアと過ごす時間をなかなか取れなかった。ティアは家族の愛情に飢えていたのだ。これに加えてエルファリアが皇帝である事や、ティアが皇族である事そのものも大きく影響していた。敵対的な家に生まれた子供は常に攻撃的な言動だったし、大人達も陰口を叩いたり、ティアを利用しようとしたりした。周囲には信頼できる人間は居ない、ティアはこの頃には既にそう考え始めていた。実際はそうでない者も少なくなかったのだろうが、信頼するリスクがあまりにも高過ぎたのだ。

「殿下はわたくしの事をどのようにお感じになられていたのですか?」
「真面目なヤツじゃと思っておった気がする。当時のパルドムシーハ―――そなたの父が馬鹿真面目じゃったから、その影響もあるやもしれぬの」
「ではある程度信用して下さっていたのですね」
「うむ。それにわらわもまだ子供じゃった。本格的に(ひね)くれるのはこの先の事じゃ」

 父親に対する評価と、彼女自身の真面目さ、そして代々続く忠臣の家系であったおかげで、ルースはゆっくりとだがティアの信頼を得ていった。また世の中の悪い部分が目に付くと、真面目なルースの評価が相対的に高くなる。おかげで幼い頃のティアは、ルースと二人でいる時は辛うじて笑顔を見せる事が出来ていた。

「やはり二年前………地球へ来る直前のわらわは、(ほとん)ど笑っておらぬの」
「わたくしはそれがずっと気がかりでした。しかし言葉で伝えるとおかしな事になってしまいますし………」
「仮に言ったとしても、当時のわらわは聞く耳を持たんかったじゃろう。………苦労をかけたな、ルース」
「いいえ、滅相もない」

 成長するにつれて、ティアは笑わない少女になっていった。相手を威圧したり挑発したりする為に笑う事はあるのだが、それ以外の本当に楽しいから笑う事は少なくなってしまった。これは歳を()る事で前述の要因がより強く表出した為で、簡単に言うとルース以外の他人を信用していなかったのだ。もちろんルースはそれに気付いており、常々何とかしたいと考えていた。だがティアが背負った皇女という十字架は重く、それを意識しない他人などなかなか現れない。また仮に現れたとしても、ティアがそれに気付いて受け入れるかどうかは別問題だ。これを解決するのはルースといえど困難だった。

「それにしても………そうか、この頃のわらわはこんな目をしておったのか………コータローに怒られてしまう筈じゃな」
「あの頃の状況では、仕方がなかったでしょう。エルファリア陛下は不在がちで、周りが信用できないとなれば………」
「ふふふ、そなたがおったおかげでギリギリで道を誤らずに済んだようじゃの」
「殿下………ありがとうございます」

 ティアにとって家族以外の味方はルース一人。ルースも一人っ子であったから、幼馴染みのティアを守ろうと必死になっていた。それが二人の原点だった。

「そんなわらわにも試練の旅に出る時が来た………じゃが正直な所、試練の達成は難しいと思っておったのではないか?」
「いいえ、当初は普通に成功すると思っていました」
「ほう? 何故じゃ?」
「殿下の試練はランダムに定められた地点の侵略ですから、普通に考えると高確率で何もない、誰も居ない場所が目標地点となります。要するにわたくしは形式的な試練だろうと思っていたのです」
「どっこいそうはならなかった」
「あれは驚きでした。目的地が惑星であった事も去る事ながら、まるっきり同じ姿の人間が住んでいる事にも大きなショックを受けました」
「母上が目的地を決めるシステムに細工をしてわらわが地球へ―――コータローの元へ行くように仕向けたのじゃが、当時はそんな事は思いもよらぬでのう」
「正直に申しますと………当時のわたくしは、指定座標に人が住んでいると分かった時、試練の達成は難しいかもしれないと考えました」
「ふふふっ、やはりそうか。今はわらわも同じ意見じゃ。じゃが当時のわらわは簡単だと思っておったし、簡単だと思ってしまうところにも大きな問題があった。もしそなたがおらんかったら、初日で試練は失敗していたであろうな」

 ティアに与えられた試練は、ランダムに指定された座標を支配する事だった。加えてそこに住む者があれば、忠誠を誓わせる必要がある。当時のティアは他人を軽視する傾向があり、特に文明が遅れた地球人が相手だと更にその傾向が強くなってしまっていた。そんな人間に誰が忠誠を誓うのか―――今のティアにしてみれば馬鹿げた話だが、当時の彼女は力を誇示すれば簡単だと信じていた。だから当時のルースには、ティアの試練が簡単に成功するとは思えなかったのだ。

「こうして人と世界の事を何も知らぬわらわと、幾らか知っているせいで心配で仕方がないそなたが、共に地球へ降り立った」
「そうは言っても、最終的にこういう事になるとは思ってもみませんでしたが」
「わははははっ、あたりまえじゃろうっ!? 誰がこんな事を予想するっ!? キリハでも無理じゃ!!」

 ティアとルースが二人で辿(たど)った長い長い旅は、こんな風に始まった。その行く手には多くの試練が待ち構えている。だが当時の二人は全くそれに気付いていない。二人はただ運命が導くままに、ころな荘一〇六号室へやってきたのだった。



   ◆◆◆次回更新は10月13日(金)予定です◆◆◆

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