第19編 『激走兄弟ハニ&ホー! 火竜帝襲来!』 シーン01

作者:健速

シーン01 結成! 激走兄弟ハニ&ホー!



 六つの瞳がテレビを見つめていた。テレビは若干古いモデルなので、いまひとつ映像はよろしくない。しかし内容が観ている者の心をがっちりとキャッチ。今や彼らの心は放送中のアニメと一つになっていた。

『行くホ! マッハファルコン!』
『焦り過ぎだホ、サンダートルネード、少しブレーキを遅らせるホ!』
『どうしたキングキャッスル! お前の力はそんなものかっ!?』

 六つの瞳の持ち主は二体の埴輪(はにわ)と、ぬいぐるみのような姿になったアルゥナイア。テレビではラジコンのレースを題材にした子供向けのアニメが放送中で、各自がお気に入りのキャラクターないしそのラジコンに声援を送っていた。

「………それにしても長いよな、この番組も」

 三人の声に誘われ、孝太郎(こうたろう)は宿題をする手を休めてテレビに目を向ける。このアニメのタイトルは『激走兄弟ラフ&ロード MAX』という。孝太郎が物心つく前から放送されている長寿アニメで、時折サブタイトルを変更しながら現在までシリーズが続いている。現在のシリーズは全国大会編で、謎の秘密結社が開発した違反モーターを巡る陰謀劇と並行して主人公達の激闘が描かれている。今も昔も変わらない、人気のアニメだった。

『ホー! ファルコーン!!』
『今だホ! サンダートルネード!』
『そのままサンダーも踏み潰せ、キャッスル!』

 そしてこのアニメは一〇六号室に出入りしている数少ない男子のハートをがっちりキャッチ。三人は何があろうとも、毎週金曜の夕方五時半には必ずテレビの前に集合するようになっていた。

「まあ、気持ちは分からんではないな」

 多少宿題をやるにはやかましくはあったのだが、興奮している三人に対する孝太郎の感情は肯定的だった。地底暮らしが長かった埴輪達と、まるっきり環境が違う世界へ遊びに来た巨竜なので、子供のようなリアクションになる事は理解出来る。それに番組はたかだか三十分なので、いちいち目くじらを立てる事もないだろう。また孝太郎自身がかつてこの番組のファンであった事も大きかった。

「おっ、最近はこんな話なのか………意外と大掛かりになってるな………」

 やがて孝太郎も一緒になって問題のアニメを見始める。既にアニメは後半のレースシーンに移っているので、宿題の合間の休憩にはちょうど良かった。



 エンディングテーマと次回予告が終わったところで、孝太郎は宿題に戻った。少し前には難解に感じていた数式が相手だったが、てこずりながらも何とか答えを導いていく。休憩が上手くプラスに働いたようだった。

『大きいブラザー、大きいブラザー!』

 そうやって孝太郎が二つ目の数式を解いた時の事だった。カラマの声と同時に、服の袖が引っ張られた。

「ん?」

 孝太郎が声の方へ目を向けると、そこには埴輪二体を左右に引き連れたアルゥナイアの姿があった。三人とも何故かその瞳をキラキラと輝かせていた。

『青騎士よ、忙しいだろうが(わし)らの話を聞いて欲しい』
『大きいブラザー、おいら達お願いがあるホ!』
『一生のお願いだホ!』

 三人は瞳をキラキラと輝かせながら、じりじりと距離を詰めてくる。その様子から、孝太郎は三人にはよっぽどのお願いであるらしい事を感じ取った。そして彼らの背後で()けっぱなしになっているテレビ。孝太郎はそこでピンときた。

「みなまで言うな。行くぞ!」

 だから孝太郎は(ほとん)ど何も聞かないうちからすっくと立ち上がり、玄関へ向かう。

『青騎士?』
『どこへ行くホ?』

 逆に困惑してしまったのがアルゥナイアと埴輪達だった。反射的に孝太郎を追いつつも、不思議そうに首を傾げる。孝太郎は六畳間と玄関の境界にあるのれんをくぐりかけたところで足を止め、振り返った。

「駅前の模型店に決まってるだろ!」

 孝太郎は今から、駅前の模型店にラジコンを買いに行くつもりだった。埴輪達とアルゥナイアの様子から、ラジコンが欲しいのだろうと察したのだ。また孝太郎自身もアニメを見た事でもう一度ラジコンをやってみたいという気持ちになっていた。時刻は六時を回ったばかりなので、今ならまだ店は開いている。行動するなら今だった。

『流石大きいブラザー、話せるホー!』
『やっぱり姐さんの選んだ男に間違いはなかったホー!』
『いざ行かんラジコンの聖地へ!』
『ホー!』
『ホホー!』

 事情を理解したアルゥナイアと埴輪達は、慌てて孝太郎の後を追う。置いていかれたくないという思いと、一刻も早く自分のラジコンが欲しいという願望が重なり、三人の足は非常に軽快だった。



 孝太郎は普段、ティアから俸給を貰っている。これはティアが孝太郎と、姫と騎士ごっこをしたがるからだ。だがティアとの関係を思うと、孝太郎はそのお金を自分の為だけに使うのは何かが間違っているような気がしていた。だから孝太郎は、そのお金を使うのは多くの人間が楽しめる事をする時だけに決めていた。例えば夕食をすき焼きにグレードアップしたい時とか、みんなで旅行に行ったりとか、そういう具合だ。そのルールに照らし合わせると、今回のラジコンはお金を使ってもいい事例に()()まる。孝太郎とアルゥナイア、二体の埴輪が友情を深めるには良い機会だった。



 駅前にある模型店は近隣では最大規模を誇る。日本の中心から離れた地方都市であるおかげで土地が安く、吉祥春風市内には多くのラジコンコースがある。おかげでラジコン愛好家の人口も多く、駅前の模型店はこの地方の聖地となっていた。その為、時刻が六時半を回っているにもかかわらず店内は多くの客で賑わっている。仕事帰りのサラリーマンや学校帰りの学生などがこの時間にやって来るのだった。

『ホー、ラジコンがいっぱいだホー!』
『お客さんもいっぱいいるホー!』
『やはり人気は不動という事か。それでこそ儂らが挑む価値があるというもの!』

 店内に入る前から三人は興奮状態だった。遠くに輝く店の看板が見えた時などは、孝太郎を置き去りにして走って行ってしまった程だった。まるで子供のような振る舞いだが、孝太郎にも覚えがある。だから孝太郎はつべこべ言わずに好きなようにさせていた。姿は周囲の人間には見えないようにしていたし、声も聞こえないようになっている。何も問題はなかった。

「へぇ、最近は完成品が増えてるのか………まあ、箱を開けてすぐ遊べるだけで、敷居はグッと下がるよな」

 店内に入ると、孝太郎も気分が高揚し始めた。かつてもラジコンのショップには大量の商品があったのだが、今はそれが更に先進的に進化していた。操縦装置―――プロポだけでも複数の棚を占拠。もちろんマシンの方はそれどころではなく、車体の縮尺ごとに一区画を占拠という有り様だった。

「………ボディさえ残っていれば、この辺で懐かしのマシンを組む手もあるか………選択肢が豊富で迷うな………」

 また改造用のパーツはそれに匹敵するエリアを占拠しており、改造用のパーツだけを使ってマシンを一台組み上げる事さえ可能なくらい豊富な品揃えがある。そうしたものを見て回っている内に、孝太郎の胸の中にかつてのラジコンへの情熱が戻り始めていた。

「あれっ?」

 そして孝太郎が改造パーツのエリアを抜け、ボディに塗る為の塗料を陳列している一角へやって来た時の事だった。孝太郎はそこで見知った顔を見付けた。

「クラン、お前こんなところで何してるんだ?」
「あら………珍しいところで会いましたわね」

 そこにいたのはクランだった。彼女は孝太郎に気付くと、手に持っていた溶剤の瓶を棚に戻して軽く微笑んだ。

「実は以前から塗料や溶剤、小物なんかをしばしばここへ買いに来ているんですの」
「ああそうか、お前にとっては便利な場所だよな」

 クランは先進的な技術の持ち主なので、日頃から頻繁(ひんぱん)に発明品を作る。もちろんそうしたものを作る為には資材が必要だが、地球はフォルトーゼから離れた場所にあるので、全ての発明品をフォルトーゼ製の資材で作る事にこだわると、あっという間に資材を使い果たしてしまう。地球で手に入る物は地球の物を使った方が良い。塗料やなんかは特にそうで、特別なもの以外は地球とフォルトーゼでも品質には違いがない。そんな訳でクランはこの場所に日常的に足を運んでいるのだった。

「それであなたの方はどういう理由ですの………って、当然ここの本来の利用目的に決まっていますわね」
「まあな。俺達はラジコンをやる事にしたんだ」
「ん………『達』?」

 クランは不思議そうに訊き返す。一〇六号室の関係者には、ラジコンに入れ込みそうなメンバーは思い付かなかった。

「あの辺」
『ホー! もうブレイブウィング装備型のファルコンが出ているホー!』
『サンダートルネードのラージホイールもあるホー!』
『なんだこのラジコンは!? 熊が乗っているぞ!!』
「なるほど、あっちに()()られましたのね」

 埴輪と火竜帝がメンバーだと知ると、クランは納得して大きく頷いた。確かにあの三人ならありそうな話だった。人の良い孝太郎はそれに付き合ったのだろう。

「そうでもない。以前は俺も入れ込んでた口だからな。懐かしくなって俺も参加だ」
「そうでしたの」
「そういう訳だからまた後でな」
「えっ? あ、ああ、そうですわね………また後で………」

 孝太郎は早々にクランに背を向け、三人組の方へ戻って行ってしまう。そして以降、孝太郎はクランの方を振り向かない。それはクランが思わず拍子抜けしてしまうほどのあっさりとした去り方だった。

 ―――わたくしと話すよりも大事な事ですの、それは………?

 クランはラジコンには興味がなかった。そもそも男の子の遊びという思いと、自身の技術を限界までは使えないジャンルである事が問題となっていた。わざわざやるほどの事はないだろうと考えていたのだ。知ってはいるが、注意を向けていなかった、という事になるだろうか。

「もー、ちょっとお待ちなさい、ベルトリオンッ!」
「んー?」

 しかし孝太郎が入れ込んでいるという一点で、彼女はラジコンに興味を持った。クランをほったらかしにするほどの趣味とは果たしてどんなものなのか。だから興味半分、嫉妬半分の微妙な気持ちを抱えて、クランは孝太郎を追いかけていった。



   ◆◆◆次回更新は2月9日(金)予定です◆◆◆

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