第19編 『激走兄弟ハニ&ホー! 火竜帝襲来!』 シーン02

作者:健速

シーン02 ライバル登場!!



 駅前の模型店にやってきた孝太郎(こうたろう)達は、それぞれに自分のマシンを選び始めた。完成品を選ぶというお手軽な方法もあるのだが、全員が組み立てキットのコーナーにいる。これはアニメの主人公達がそうしているからだった。

『自分のマシンは自分で組み立てないと魂が入らないホー!』
『ただのおもちゃには興味はないホー! 必要なのは苦楽を共にする相棒だホー!』
『仕組みを知らんうちは、真の上達はない。帝王には帝王の歩むべき道がある!』
「みんなちゃんと分かってるじゃないか。そこだよそこ!」
『大きいブラザー、このセットを買うといいホ?』
『サンダートルネードがないホー!』
『さんだーとるねーどはこっちにボディだけ売っているぞ。これを一緒に買って行けばよいのではないか?』
「そうそう、そういう風に買うんだ」

 流石に最初なので無茶はしないのだが、完成品では味気ない。そこで組み立てキットの入門用セットを買う。このセットにはラジコンで遊ぶ為に必要なものが一通り入っているので、予備のバッテリーを買い足すぐらいでいい。仮に気に入った車種のセットがなくても、ボディだけを買い足せばいい。ボディは比較的安い改造パーツなので、そうしてもセットの分割安になる。今まさに最初の一歩を踏み出そうという埴輪(はにわ)達やアルゥナイアにはうってつけの商品だった。

『大きいブラザーはジープかホ?』
『アニメではウィリーが出来る反面、扱いにくい局面があると言っていたホ!』
「扱い易かろうが悪かろうが、ロマンは捨てられん!」

 孝太郎が選んだ車は、昔から変わらぬ人気の、大型ホイールのジープだった。この車は重心が後方寄りになっているので、フルスロットルで加速すると前輪が持ち上がって後輪だけで走る、いわゆるウィリー走行が出来る。楽しいギミックだが、これは前輪の接地圧が弱いという事をも意味している。その分だけコーナーリングには気を付ける必要があった。だが他の三人が完全な初心者なので、孝太郎はこれでいいと思っている。もちろん昔から憧れていたマシンだから、という理由も大きかったのだが。

『正しい判断だ、青騎士よ』
『ティアちゃんもロマンは大事だといっていたホ』
『怪獣のおじさんはトラクターかホー。意外なところを攻めてきたホー』
(わし)はこれを赤で塗る。………ここにある、ええと、ぷろみねんすれっど? この塗料も買って欲しい』
『流石帝王、演出はバッチリだホー!』

 アルゥナイアが選んだのは人気のご当地キャラクターとコラボした車だった。車種としてはトラクターになるのだが、それは見た目だけだ。マシン部分は他の四輪駆動車と共通のものが使われているので、トラクターの見た目に反して軽快に走る事が出来る。そしてその運転席には熊が座っている。だからボディを赤く塗れば、見栄えのする一台に仕上がる事だろう。

「カラマ、お前はファルコン用のブレイブウィングも買った方が良いんじゃないか?」
『そんなものもあるホ!?』
「人気があるからな。パーツだけでも売ってるんだ」
『おいらはサンダーのラージホイールを買っていくホー!』

 カラマとコラマはアニメの主人公を務める兄弟が使っているマシンを選んだ。現実にはこんな車はいないだろうというダイナミックなデザインだが、そういうデザインでも楽しめるところもラジコンの良いところ。遠からず、アニメ同様に二台のマシンが並走する事になるだろう。

「ふむ………」

 そんな孝太郎達の様子を眺めていたクランは、これまでの考えを改めつつあった。彼女はこれまでラジコンを子供の遊びだと捉えていたのだが、そうではないような気がし始めていた。

「………どうやら意外と奥が深いようですわね………」

 改めて周囲に並んでいるキットやパーツ類を眺めてみると、思ったよりもやりがいのある趣味である事が分かってきた。多くのパーツを組み合わせて、自分だけのマシンを作り上げてレースに臨む。価格と規模こそ実物の自動車レースよりも小さくなるが、その分だけ競技人口は大きい。頂点へ登り詰めるのは実物の自動車レースよりも難しいかもしれなかった。

「それに………」

 クランはこの時、一人蚊帳(かや)の外だった。孝太郎達は先程からずっと楽しそうにああでもない、こうでもないと話を続けている。だがクランは別に参加する訳ではないので会話には加われていない。彼女はその事に多少の疎外感を覚えていたのだ。

 ―――もしわたくしが参加すれば………マシンを作って、レースに出れば………。

 確かにクランの視点では、ラジコンは技術的には初歩的なものの集まりなのかもしれない。しかしそれが彼女の得意分野であるのは間違いなく、その分野での楽しみの共有が可能になるだろう。それは単に研究を手伝って貰うのとは違う何かを、彼女にもたらしてくれるかもしれない。そんな思いが彼女の背中を押した。

「ベルトリオン」
「どうした?」
「わたくしもラジコンをやってみる事にしますわ」

 そんな訳で、クランもラジコンをやってみる事に決めた。初歩的であろうと、孝太郎達と技術的な話が出来る趣味というのは魅力的だった。

「珍しい事もあるもんだ―――って、あー、違うな。考えてみたら、むしろ凄くお前らしい題材なんだな」
「そうですわ。要は狭いところに技術を押し込める戦いなのでしょう?」
「んー、まあ、そうだな。でも気を付けろよ、やり過ぎると逆効果なんてのはよくある話なんだ」
「誰に仰っておりますの? 日常的にそんな事をやってきたわたくしですのよ?」
「釈迦に説法ってやつか。へっ、面白くなってきた」
『歓迎するホー!』
『アニメ通りだ。思わぬ所から敵が現れたぞ。ふっふっふっふっ』
『そうだホー、クランちゃんは強敵だホー!』

 クランの参加は一同に歓迎された。クランも女の子なので操縦テクニック等では多少劣るのかもしれないが、彼女にはそれを補って余りある技術力がある。彼女が強力なライバルになるのは明らか。後に控える対決がより面白くなる事は疑いなかった。



 クランの参加が決まったのは遅かったので、最後は全員でクランの買い物に付き合う形になった。高い科学技術は持っていてもラジコンそのものの情報を持っていないクランなので、孝太郎達の助言はありがたいものだった。

「それでクラン、お前はどういう車種が好みなんだ? 実際の車を再現したものとか、ラジコンだからこその変わったデザインとか、色々あるぞ」
「基本的な性能には差はありませんの?」
「ああ、この辺に並んでいるのならどれでもレースには出られる。バッテリーとモーターが規格を満たしている事が主な条件なんだ」

 孝太郎達は公式レースに出る訳ではないが、ルールはそれに準ずるようにするつもりでいる。それが埴輪達とアルゥナイアのたっての願い。彼らはアニメの登場人物と同じやり方を望んでいるのだった。

「わたくしが得意な分野を生かすには、改造パーツが一番多いモデルが理想ですわね」
「そう来たか。それならこっちのバギーのシリーズだな。ロングセラーで色んな車種が出た分だけ、パーツの共通化が早くてな。改造パーツも豊富なんだ」

 少しばかり経験がある孝太郎の説明は分かり易かったのだが、その分だけクランの心にはある疑問が浮かび上がっていた。

「………」
「どうした、変な顔して」
「いえ………いつもと違って、あなたがずっと意地悪を言わないものだから、不思議な事もあるものだと………」

 クランには想定外の事だったのだが、普段ならしばしば意地悪を言う孝太郎が長時間にわたって真面目な顔をしているのが不思議だった。かといって戦いの直前という訳でもない。滅多にない出来事に、クランは驚いていた。

「この状況で意地悪を言うと俺達のレースに悪影響が出るんだよ。それに初心者に嘘を教えて足を引っ張るのは趣味が悪いだろう? 俺だってちゃんとTPOは考えるんだ」
「そ、それもそうでしたわねっ。申し訳ありませんでしたわ」

 クランが孝太郎と趣味を共有した事の良い影響が出始めていた。

 ―――確かに、一緒に遊ぼうとしている相手には、意地悪をしても意味がありませんわね。考えてみると、わたくしはこれまでベルトリオンと一緒に何かをしようという意識が薄かったのかもしれませんわ………。

 そしてこの事がクランに孝太郎の意地悪が多かった理由の一端を教えてくれた。何かを一緒にやっていれば意地悪は出来ない。晴海(はるみ)には編み物を教わっているので失礼は出来ないし、ティアとは一緒にスポーツやゲームをやるので対等でいたい。クランと孝太郎の関係には一緒に目的を目指すという事が少なかったのだ。

 ―――実際ベルトリオンは、研究を手伝って貰った時や、戦いの時なんかには意地悪は言わなかった………格闘技の練習の時も………そうか、そういう事でしたのね!

 やはり自分は内向きに縮こまっていたようだ―――それに気付いたクランは、思い切ってラジコンを始めて良かったと改めて感じていた。

「んで、得意の改造はするのか?」
「いえ、最初は普通に組んでデータを取りますわ。改造はそれからですの」
『流石クランちゃんだホー!』
『ピットクルーのヤマさんみたいだホー!』
「………やばいなあ、お前本格的じゃないか」
「当然ですわ。これはレースですのよ?」
「やっぱり初心者だと侮ったりは出来ないようだな」
『油断は大敵という事だ。これでもフォルトーゼを救った伝説の片棒を担いだ者なのだからな。はっはっは、それでこそ、それでこそだ!』

 孝太郎だけでなく、埴輪達やアルゥナイアもクランをライバルだと認めていた。そしてだからこそ、インチキなしの正々堂々とした勝負がしたい。マシンの整備とドライビングテクニックだけで相手を打ち負かしたいのだ。結果的にクランは対等なライバルを沢山手に入れた事になる。それは彼女に、何時になく張りのある毎日を提供してくれるに違いなかった。



   ◆◆◆次回更新は2月16日(金)予定です◆◆◆

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