第19編 『激走兄弟ハニ&ホー! 火竜帝襲来!』 シーン03

作者:健速

シーン03 自分達の力を生かせ!



 孝太郎(こうたろう)の頭の上でぬいぐるみのような姿をしたアルゥナイアが踊っていた。また胸のあたりでは二体の埴輪(はにわ)が横になり、ペットボトルのように転がって行ったり来たりを繰り返している。一度眠るとなかなか起きない孝太郎だが、この状態がしばらく続くと流石に目を覚ます。孝太郎は眠そうに瞬きを繰り返しながら目を開いた。

『起きるホ、ブラザー!』
『もう朝だホー!』
「………どうしたんだお前ら、こんな朝っぱらから」

 起きたばかりの孝太郎には状況がよく理解できない。そんな孝太郎に答えをくれたのは頭から飛び降りて回りこんできたアルゥナイアだった。

『起きろ青騎士、ラジコンを作る約束だぞ』
「そうか、そういう約束でしたね。ふああぁあぁぁぁぁっ」

 状況を理解した孝太郎は大欠伸(おおあくび)をしながら身体を起こす。実は孝太郎は埴輪達やアルゥナイアと次の休みにラジコンを作ると約束していた。彼らはそれが楽しみ過ぎて早朝に目を覚まし、連れ立って孝太郎を起こしに来たのだった。

「ん? お前もいたのか、クラン」

 孝太郎が身体を起こすと、ちょうど真正面にクランの姿があった

「お、おはよう、ベルトリオン」
「おはよう。お前もこいつらに叩き起こされたのか?」
「いえ………そういう訳ではなく………」

 孝太郎はクランも自分と似たような経緯なのだろうと思っていたのだが、彼女の様子はどこかおかしかった。歯切れが悪く、照れ臭そうだった。

『おいら達が来た時にはクランちゃんはもういたホー』
『どうやって起こそうかそわそわしていたホー』
「………お前もこいつらの同類だったか」
「そっ、そうですわっ、いけませんのっ!?」

 実は一番早起きだったのはクランだった。彼女もこの日が待ち切れず、起きた途端に孝太郎のところへやってきていたのだ。やはりクランにとって、仲間と同じ趣味を楽しめるという事には大きな意味があった。

「いや、来てたならさっさと起こせ。やる事は多いんだから」

 もちろん孝太郎には文句などない。孝太郎も楽しみだったし、ラジコンの制作には時間がかかるから早起きは大事だ。単に起きられなかったというだけで、気持ちはクラン達と同じなのだった。

「でもどうやって起こしたらいいやら」
「こういう時は殴っていい。許す」
「そ、そうでしたの? 分かりましたわ、次はそう致しますわね!」

 そういった訳で、クランは無事に笑顔を取り戻した。無論、笑顔は一つではない。笑顔は全部で五つあった。



 ラジコンを作る上で一番時間がかかるのは、ボディの加工だった。だが実は作業そのものはそれほど時間はかからない。問題は副次的なものなのだった。

『大きいブラザー、何故ボディからやるホ?』
『中身を作るのが先じゃないかホ?』
「実は塗装の乾燥に結構時間がかかるんだ」
「研究室の乾燥装置に入れても、二時間強は待つ事になりますわ」
『では先に塗ってから、それからマシン部分を作る訳だな?』
「ええ。マシン部分が完成する頃には、乾燥しているんじゃないかと」

 先にボディを作るのは、時間の有効活用の為だった。機械部分を先に作ってからボディを作ると、塗装の乾燥待ちで時間が無駄になるのだ。ボディの種類によっては取り付け位置を決める為に機械部分の完成が必要であったりもするのだが、幸い孝太郎達が選んだ車種ではそういう事はなかった。

「今回はみんなプラスチック製のボディだから、最初はプライマーで下地処理かな。おっと、その前にやすりをかけた方が良いかな?」
「やすりは要りませんわ。昨日のうちに軽くブラストしておきましたの」
「気が利いてるな、クラン。ありがとう」
「いいえ。ふふふ………」

 今日の作業はクランの『揺り籠』で行われる。その中にある作業室が、ラジコンの組み立て作業にはうってつけなのだ。作業室には十分な広さがあり、工具や塗装の道具が揃っていた。

『山ちゃんの工房よりすごいホー!』
『いろんなものがあるホー!』
『楽しみだ、以前から色を塗るあの道具には興味があった!』

 事前にクランが色々と準備をしてくれていたので、一同はすぐに塗装作業に入る事が出来た。塗装はスプレーによって行うが、缶のスプレーではなく、エアブラシという本格的なものを使う。その方が仕上がりが良いのはもちろんなのだが、実は埴輪やアルゥナイアの為でもあった。

「塗装は名札が付いているブースでやって下さいまし」
『おいらここだホー!』
『クランちゃんありがとうだホー!』
『者共、早速始めるぞ! エプロンを着けるのだ!』
『ホー!』
『ホホー!』

 頭の中がラジコンでいっぱいの埴輪やアルゥナイア達は気付いていなかったが、クランは身体と手が小さい埴輪やアルゥナイアの為に、専用のエアブラシを作っていた。おかげで彼らの小さな手でも不自由なく塗装が出来る。それは明らかにラジコンを一台作る以上の手間がかかっている―――孝太郎にも一目でそうだと分かる素晴らしい出来の道具だった。

「お前、良いところあるじゃないか」
「これくらい………別に………」
「気付かなかったよ。あいつら向けの工具って、確かに必要だよな。ありがとう」

 ぽんぽん

 埴輪達やアルゥナイアには通常よりずっと小さな工具が要る―――孝太郎はクランがそこに気付いてくれていた事に素直に感心して礼を言うと、軽く彼女の頭を二度叩いてから自分用の塗装ブースへ向かって行った。

「………ベルトリオン………これ………いつもとちがう………なんですの………?」

 クランとしてはいつも通り普通にやっていただけなのだが、不思議と得られた結果はいつもとは違っていた。そして彼女はその事に大きく戸惑う。だがそうなった事はとても嬉しかったから、彼女は自分の頭に軽く触れると、軽い足取りで自身の塗装ブースへ向かって行った。



 初体験なので多少のトラブルはあったのだが、一時間余りが経過した頃には塗装が終了した。色が違うところは別のパーツになるように作られていたので、初心者でも作業に迷う事はなかった。五人のボディはもう乾燥装置に入っているので、三時間後には完成している筈だった。

「よし、じゃあいよいよマシン部分を作るぞ」
『いよいよ本番だな!』
『でも初めてだから多少不安だホ』
『アニメだと作ってるところを全部は見せてくれなかったホー』
「それもそうか………うーむ………そうだ。クラン、お前が組み立ての手本を見せてやってくれないか?」
「わたくしが?」
「ああ。お前は綺麗だからな」

 クランの胸がどきりと高鳴る。お前は綺麗だから―――それが組み立て手順の事なのは分かるのだが、自然と別の意味も想像してしまうのが女の子というものだった。

「………わかりましたわ。皆さんこちらへおいでになって下さいまし」
『ホー』
『ホホー』
『お手並み拝見というやつだな』
「クランの技術は確かですよ」

 初心者ばかりなので、一度クランが組み立ての手本を見せる事になった。他の四人はクランの作業机を囲む。その視線がクランに集中した。

 ―――おかしいですわ………わたくし、どうしてこんなにうかれて………。

 たかだか機械を一つ組み立てるだけ。しかし今のクランはいつになく高揚していた。彼女がそうなる理由はきっと一つではないだろう。そして一つではないから、がらではないと思いながらも、笑顔がこぼれてしまうのを止められなかった。

「一番最初は、まずパーツが揃っているかどうかの確認ですわね。省略する方も多いのですけれど、とても大事な事ですの。リストと照らし合わせて、一つずつ確認してくださいまし」
『リストの読み込み開始だホー。データ転送だホー』
『画像診断開始だホー。受信データと比較、全パーツが揃っているホー!』
「………お前らそれ便利だな」
『兄弟の力だホ』
『合体攻撃だホ』
「基本はプラモデルなんかと同じですわ。丁寧な説明書が付いていますから、書いてある通りに組み立てていきますの」

 クランが最初に手に取ったのは全てのパーツを固定する土台となるシャーシ部分。そこへ説明書に従って順番にパーツを組み込んでいった。その手つきに迷いはなく、ねじを回す動きは優美でさえあった。

「注意すべき点は、ステアリング系や駆動系のパーツを組み込む時ですわね。電子制御のパーツがありますから、一度電源を入れて初期位置に戻してからシャーシに取り付けて下さいまし」
『なるほど、ここまで運ばれてくる間に向きが変わっているといけないからだな』
「ご名答ですわ、アルゥナイア殿。良いエンジニアになれますわ」

 クランは説明を交えて作業を見せてやりながら、時折飛び出してくる質問に丁寧に答えてやっていた。クランの表情は終始明るく、声もいつになく朗らかだった。

 ―――こいつ………こんなに可愛かったっけ………?

 クランが手本を見せる間、孝太郎は何度か彼女の姿に見惚れている瞬間があった。明るく楽しげ、それでいてどこか無防備な。それはこれまで孝太郎が見た事がない、あるいは見ようとしなかった、クランの隠された部分だった。

「どうしましたの、ベルトリオン?」
「………お前が可愛いから見惚れてた」
「んもうっ、ベルトリオンッ、真面目にやって下さいまし! あなたが手本を見せろと仰ったからやっていますのにっ!」

 タイミングが悪かったので、クランは冗談だと思ったのだが、それは孝太郎の紛れもない本音だった。クランはラジコンの仲間に加わった事で、少しばかり成長したのかもしれない―――孝太郎はそんな風に感じていた。



   ◆◆◆次回更新は2月23日(金)予定です◆◆◆

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