第20編 『真希とクリムゾンの普通の1日』 シーン04

作者:健速

シーン04 真希の趣味



 真希(まき)の心理的な揺さぶりによって隙を見せてしまったクリムゾン。おかげで魔法による先制攻撃の機会を失い、戦いは早々に接近戦へ突入していた。

「真希っ、あんたやっぱり性格悪くなったわ!」

 ガキィンッ

 孝太郎(こうたろう)の剣とクリムゾンの斧が激突して火花を散らす。それぞれの武器が相手を傷付ける事はなかったが、攻撃はそれで終わりではない。どちらの武器にも魔法が込められているから、勝負はここからだった。

「うおっ!?」

 孝太郎の身体が後方に押される。クリムゾンが愛用の斧に込めていたのは風圧で相手を突き飛ばす魔法だった。この魔法は初歩のもので威力は弱いものの、ごく短時間で実行できるのが強みだ。おかげで攻撃に間に合ったし、相手の体勢を崩すには十分だった。

「どの辺が?」
「そうねっ、こうやってきっちり視界を奪ってくるところかしら!?」

 ブンッ

 クリムゾンは体勢が崩れた孝太郎に向かって斧を振るうが、その強力な一撃は空を切った。これは孝太郎の剣に込められていた真希の魔法の影響だ。相手の心理に働きかけて視界を奪う初歩の幻術だった。

「そうしないと里見(さとみ)君が負けてしまうもの」

 孝太郎が体勢を立て直した直後、その左右に一人ずつ新たな孝太郎が現れる。増えた二人の孝太郎は真希が作り出した幻影だった。

「得意の短期記憶消去はどうしたのよ?」

 クリムゾンの視界が戻った時、孝太郎は三人に増えていた。

 ―――視界を奪ったのはこれをする為か!

 クリムゾンは内心で舌打ちすると、手持ちの中で最速で発動できる攻撃魔法の詠唱を開始した。

「あれは私がやる分にはいいけれど、里見君は戦いにくいから」
「あんた、意外と尽くすタイプだったのねっ!」

 使い慣れた簡単な魔法なので、掌印や言葉による実際の詠唱は必要ない。クリムゾンが振り回した腕の軌跡に沿って三日月形の炎が形成され、そのまま直径を広げながら三人の孝太郎に向かって飛んで行った。

 ポポンッ

「自分でも驚いてるわ。それと………やっぱり弄りたくないわ、あなたの記憶」

 この炎の威力は低く、ちょっとした火傷を負わせる程度でしかない。実際、孝太郎には大きな影響はなかった。だが他の二人、幻術で作られた孝太郎を消す分には十分な威力があった。

「そんな甘い事言ってないで、殺す気でやりなさい、殺す気で!」
「無茶を言わないで、もぅ………」

 剣が閃き、斧が唸る。戦っているのは孝太郎とクリムゾンなのだが、不思議とクリムゾンは後方にいる真希と話をしている。孝太郎としては、戦いの構図がどことなくおかしいような気がしないでもなかった。

 ―――結局この二人は状況が許さなかっただけで、本物の友達だったんだな………。

 だが真希とクリムゾンの遊びに付き合ってやっていると考えると、孝太郎はそれでいいように思うのだ。戦わずに済んだ友達同士の遊びであるのならば。

「さあ、そろそろ本気を出すわよ!」
「クリムゾン、あなたずっと本気だったでしょう?」
「そういう気構えでって話よ。細かいわねぇ」
「じゃあ、私も本気を出してみるわ」
「そうそう、その調子」

 二人は本当に楽しそうだった。だから孝太郎はその笑顔を守る為に、余計な失敗をする事がないよう気を引き締めた。



 戦いの決着はそれから数分後の事だった。元々人間が全力で動ける時間は何分もない。魔法でその時間は引き延ばされていたが、それでも限界はある。先に限界を迎えたのはクリムゾンの方だった。

「………イ、インフェルノッ、ファイアァァァァッ!!」
「どわああぁあぁぁぁぶなっ!?」

 孝太郎の前髪がちりちりと燃える。正直なところ、孝太郎はやられたと思った。だがクリムゾンの魔法のタイミングが僅かに遅れた事でそうならなかった。その理由はクリムゾンが呪文を詠唱しながら戦っているから。剣を振るうだけの孝太郎よりも負担が大きく、クリムゾンは先に息が上がり始めていたのだ。

「里見君、十五秒シャドーお願い」
「………優しいな、藍華さんは」

 孝太郎は真希の指示に従って、誰も居ない空間に向けて全力で剣を振り始める。真希の意図は明らかで、クリムゾンに休む時間を与え、孝太郎の体力を落とす為だ。クリムゾンは一人、孝太郎達は二人。その差の分だけハンデを付けるのは公平な物の見方だろう。

「そういう、馬鹿みたいに真面目なところ、き、嫌いじゃないわ」
「せっかく会いに来てくれたんだから、多少おもてなしはするわよ」
「でも、手は抜かないでくれるのよね?」
「ええ。その為のシャドーだもの」

 真希はにっこりと微笑む。真希はシャドー中の孝太郎を攻撃しないクリムゾンがおかしくてならない。真面目さではクリムゾンは他人を笑えないだろう。そして真希の微笑みが消えるのとほぼ同時に、孝太郎は剣を振り終えた。

「お待たせ、二人とも」

 孝太郎の息はやや上がっており、クリムゾンは反対に少し落ち着いた。今の二人の状態はほぼ互角といったところ。真希の狙い通りだった。

「丁度いいわ、そろそろ決着を付けましょ、真希」
「ええ。里見君、精一杯本気でお願い」
「もう十分本気だよ」
「限界を超えろ里見孝太郎!」
「………そいつは敵が言う言葉じゃないぞ」

 孝太郎とクリムゾンは再び武器を構えて向かい合う。すると両者の身体に次々と魔法の光が重なっていく。最後の勝負へ向け、強化の魔法を幾重にもかけているのだ。

「クリムゾン、お前の事だから真っ向勝負なんだろ?」
「一番楽しいじゃない、真っ向勝負」
「同感だ」

 やがて双方の魔法による強化が終わる。それを待っていた二人は同時に前に出た。今回はタイミングに違いはないので、クリムゾンはやろうとすれば遠隔攻撃魔法による牽制も可能だった。しかし彼女はそれをせず斧による接近戦を選んだ。彼女は攻撃魔法に使う魔力さえも惜しんで、自身を強化した。最強の敵と最強の自分が激突する事が彼女の望み。突き進む彼女の顔には楽しそうな笑みが浮かんでいた。

 ―――本当に女の子にしておくには惜しい奴だ! こいつが男だったらもっと色々楽しかったろうにっ!!

 孝太郎も笑っていた。その笑顔は賢治とカブトムシを獲りに行っている時などの顔に極めて近い。実際、クリムゾンを連れてカブトムシを獲りに行きたいくらいだった。それは孝太郎もこの戦いを楽しんでいるという事なので、霊力の弾を撃ったりという小細工はしない。クリムゾン同様、全ての力は最後の勝負に突っ込むつもりだった。

「いけええぇええぇぇぇぇぇっ!!」
「だああぁあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 ドカァンッ

 武器同士が激突したというのに、響き渡ったのは金属音ではなく爆発音。互いの武器に込められた攻撃の為の魔法がぶつかり合ったのだ。その爆炎を抜けて煤だらけになった二人が接近する。二人はお互いに弾かれた武器をそのままにして脚を大きく振り回した。

 ゴンッ

 今度も攻撃は互いに相殺し合ったのだが、その反動を使って二人は距離を取り、武器を構え直す。だがここで孝太郎と真希が二人一組である利点が出た。

(あい)()さん―――」
「クイックキャスト・フォースフィールド!」
「―――そう、それ!」

 バンッ

 孝太郎は目の前に出現した黄色い光の円盤を蹴り付けて大きく跳躍する。タイミングは完璧で、孝太郎は一気にクリムゾンとの間合いを詰めた。そして孝太郎はそのまま身体ごと回転させてクリムゾンに斬りかかる。

「………」

 この時、クリムゾンは何故か、ほんの一瞬だけ出遅れた。そのせいで彼女は孝太郎の剣を防ぐ事が出来なかった。だが遅れなくても防ぎ切れたかどうかは怪しいところだ。孝太郎と真希の連携はそれだけ見事だったのだ。

「だあああぁああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 ぽかっ

 こうして孝太郎の一撃はクリムゾンを捉え、模擬戦は孝太郎と真希の勝利で幕を閉じたのだった。



 剣自体はクリムゾンを傷付けないものの、勢いまで完全に消える訳ではない。その勢いに押され、クリムゾンはその場に尻餅をついていた。

「あーー、負けたーー」

 負けはしたものの、クリムゾンは笑顔だった。元々二対一の変則マッチ。勝つ事よりも凄い戦いをする事が彼女の望みであり、それは十分に満たされた。彼女は満足だった。

「………お前は凄い奴だな。単独なら本当に誰よりも強いんじゃないか?」

 孝太郎が勝ったのは間違いなく真希が居たからだ。だから孝太郎は純粋に驚き、尊敬の念を抱いていた。

「あんたはナナと戦った事がないからそう思うのよ。誰よりも強いのはあいつよ」
「じゃあ言い方を変える。お前と戦うのは楽しい」

 孝太郎はそう言いながらクリムゾンに手を伸ばした。孝太郎も笑顔だった。

「………それは良い表現ね、悪くない気分よ。あと、あんたもね」

 クリムゾンは迷わずその手を握り、立ち上がった。すると長身のクリムゾンの顔が、孝太郎のすぐ目の前にやってくる。その機会を利用して、孝太郎は気になっていた事を訊いてみる事にした。

「………ところでクリムゾン、お前、最後に何に気を取られた?」

 孝太郎は真希に聞こえないよう、小声でそう囁く。孝太郎は霊視のおかげで、戦いの最後でクリムゾンの防御が遅れた事に気付いていたのだ。

「………あんたにはそういう事まで分かるのね。ふふ、あの最後の一瞬、あんたと真希の繋がりを感じて、ああ、真希は幸せなんだなって思ってしまったの」

 クリムゾンも小声で答える。真希に聞かれると多少居心地の悪い話だった。孝太郎に話すのも恥ずかしくない訳ではなく、クリムゾンの頬は僅かに赤くなっていた。

「そうか。クリムゾン、次はグリーン辺りを連れて来い。きっと藍華さんはそれで、あんたも幸せなんだって分かるだろう」
「孝太郎………」

 続いた孝太郎の言葉に、クリムゾンは目を丸くする。そして一瞬自分の胸元を押さえた後、目を細めて横目で孝太郎を見る。それは怪しいものを見る時の目だった。

「………ふーん、そうやって真希を口説いたのね」

 孝太郎の言葉でクリムゾンはほんの一瞬、心を動かされそうになった。だが恋愛とは縁がない彼女なので、何とか踏み止まった。危ないところだった、それがクリムゾンの実感だった。

「口説いてないだろ、別に」
「男は馬鹿ね、本当に。自分が何をしているのかさえ、分かってないんだから………」
「なんだそりゃ?」

 無自覚に女性を口説いている孝太郎に、クリムゾンは思わず呆れてしまっていた。当の孝太郎はクリムゾンの言い掛かり―――だと思っている―――に首を傾げている。孝太郎にとって、女性の言動はいつも謎だった。

「二人とも、何の話?」
「あんたの男が鈍いって話」
「一番大事なところは全然鈍くないから大丈夫」
「あんたがそうやって甘やかすからいけないのよ、まったく………」
「今の話がどう繋がるのか、よく分からないんだが」
「馬鹿! 本当に馬鹿!」
「失礼な奴だな」
「まあまあ、二人とも………」

 戦いが終わると、少しだけ距離が縮まっていた孝太郎とクリムゾン。二人を大切に思う真希にとって、それは歓迎すべき事だった。だから真希は二人の言い合いに割って入りつつも、言い合いをもう少しだけ眺めていたいと思った。



 孝太郎がアルバイトへ行ってしまうと、真希はクリムゾンを連れて街へ出た。せっかく会いに来てくれたお礼に、ファッションアイテムの一つもプレゼントしようというのだ。またもうすぐクリムゾンが帰る時間なので、街へ出た方がフォルサリアへのゲートが近いという事情もあった。

「ほら、良く似合ってる。あなた背が高いから、やっぱりこういうコーデにすると脚の長さが映えるわね」

 真希が見立てたのはロングパンツと丈の長めのアウターという組み合わせ。クリムゾンがスカートを嫌がったので、パンツとベルトで脚の長さを強調しつつ、アウターで女性らしいシルエットを作るという発想になった。実際にクリムゾンに着せると予想通り良く似合っていて、満足の出来栄えだった。

「こんな服、少し動いたら破れちゃうわよ」

 クリムゾン本人は多少困惑していた。彼女が好きな活動的なデザインではなかったからだ。クリムゾンの感覚では、このコーデは身体をきっちり覆い過ぎていて、いつもの調子で動いたら破れてしまいそうで怖かった。

「これを着ている時は出来れば派手に動かないで頂戴、クリムゾン」

 壊すのが大好きなクリムゾンが、壊す事を気にしている。真希はそれがおかしくてならない。だがそれがプレゼントしてくれようとしている真希の為なのも分かるので、実際には笑ったりはしなかった。

「それにガラじゃないだろ、こんなの」

 クリムゾンは鏡に映る自分の姿に懐疑的な視線を送っていた。真希は太鼓判を押してくれていたが、クリムゾン自身はあまり自信が持てない。自分ががさつだという事は、ちゃんと自覚していたからだ。

「町を行き交う人達はあなたの事を知らないから、ガラがどうとか思わないわ。綺麗な人だなって思うくらいよ」
「………そうかなー………」

 だが真希は自信たっぷりだった。そしてその事は、二人で街を歩く事によってすぐに証明された。クリムゾンにとっては多少災難ではあったのだが。



 ショップと美容室を経由した事で、クリムゾンの外見は大きく変貌を遂げていた。どこからどう見ても長身の美女に仕上がっており、普段の暴れん坊の印象はどこにも見当たらなくなっていた。

「………まったく、次から次へと湧いてきやがって………ナンパは相手をよく見てやれってんだ!」

 その結果、クリムゾンは不機嫌になっていた。この新しい姿は多くの男達の視線を惹き付けてしまった。そのせいで何十メートルかおきに声を掛けられる始末。だから腹を立てたクリムゾンが殴ってしまう前に、真希は彼女をカフェに連れ込んでいた。

「ふふふ、よく見たからあなたに声を掛けたのよ。今のあなたほど綺麗な女性はなかなかいないもの」
「外見に誤魔化されるような男は願い下げよ」
「そこは同感ね」
「それにあいつら弱いのばっかだし」

 一番腹立たしいのは、声を掛けてきた中に強そうな男が一人も居なかった事だ。やはりここでも力が全てのクリムゾン。彼女は苛立ち紛れにケーキを頬張る。このイチゴムースのケーキが、彼女の怒りを和らげてくれていた。だが怒りは大きいので、三個目のおかわりは時間の問題だった。

「ふふ、私は弱い人が良いわ」

 真希は目を細めて軽く肩を竦める。何でも最強が優先というクリムゾンの考え方は、流石に真希には共感出来ない。しかし批判せず、理解するように努めたい。真希にとって、クリムゾンはやはり大切な友達だった。

「あんたの言う弱い人って、あの男の事でしょう?」
「ええ、うん。まぁ………」

 真希は顔を赤らめ、恥ずかしそうに頬をぽりぽりと掻く。真希の人生には孝太郎が必要だが、逆に必要にされたいという想いもある。その為には強い男では困るというのが正直なところだった。

「ああいうのは弱いって言わないのよ」
「そうなの?」
「自分の弱さを認められるような奴は、今弱くてもそのうち強くなるのよ」
「強さを求めるあなたが言うと説得力があるわね」
「実際、あの男の弱さが誰かを遠ざけたなんて事はなかったでしょう?」
「………うん、なかったと思うわ。あの人を助けたい、一緒に乗り越えたい、みんなそう思ったんじゃないかな………」

 真希は恥ずかしさを隠す為にケーキを頬張る。そういう事情なので、残念ながら真希は口の中のチョコレートケーキの味がよく分からなかった。

「あんたはそう思ったから、日の光の下に出てきたのね」
「………そう、なるのかな………うん、そうだと思う」

 それが全てではないだろう。だが、それが全てのきっかけになっている。真希が世界に目を向けた事も、クラスメイト達を友達だと思うようになった事も、真希自身を赦した事も。そのきっかけを、クリムゾンは弱さだとは考えていない。それは弱い自分を受け入れる強さ。真希も今は、それが正しいと考えていた。

「真希、今日一日あんたと過ごして、良く分かったわ」
「うん? 何が?」
「やっぱりアンタは日の光があたる世界が似合うんだって」

 クリムゾンはケーキを食べる手を止め、真希を見つめる。話題のおかげか、苛立ちは収まっていた。そんなクリムゾンに真希は微笑みかけた。

「私にも分かったわ、クリムゾン」
「何が?」
「貴女も日の光があたる世界で生きられるわ」

 クリムゾンの結論は真希の結論でもあった。かつての真希がクリムゾンに望んでも得られなかったものは、今のクリムゾンの中にはきちんと存在している。だから真希は彼女にも出来ると考えたのだ。

「ガラじゃないわよ」
「そうね、私も最初は自分の事をそう思っていたわ。今のあなたみたいに、自分が着飾る事もよ?」
「うぐ」

 今クリムゾンが歩んでいる道は、真希が歩んできた道だ。だからその心は手に取るように分かる。出所不明の喜びと、そう感じてしまう自分への困惑。これまでの自分にしがみついて、変化を否定したい気持ち。だからクリムゾンが幾ら誤魔化そうとしても、真希には通じなかった。

「それに………暇だからって友達に会いに来たあなたが、そう出来ない筈はないわ」

 真希の微笑みはここで少し楽しそうな印象を強める。そして自身のバッグに手を入れると、そこから綺麗に折り畳まれたハンカチを取り出した。

「今のあなたならきっと、最強を求めつつ日の光の下で―――『可憐(かれん)』として生きられる筈よ」

 可憐、それはクリムゾンの本名。真希だけが知っている彼女の真実。そして真希はそっと手を伸ばし、クリムゾンの頬に付いているケーキのクリームを拭った。

「………」

 真希の言葉には説得力があった。しかしそれでもクリムゾンは、ガラではないと思っていた。やはり自分を変えるのは難しい。自分の変化に薄々気付いていながらも、受け入れていくのは簡単ではなかった。

「あたしを『可憐』と呼ぶなんて………あんたじゃなかったら、張り倒してるわよ」
「張り倒すなら、ケーキを食べ終わるまで待って頂戴」
「………あんた、やっぱり少し変わったわ」
「そう? ありがとう」

 真希は嬉しそうに笑う。その笑顔を見てクリムゾンは思う。確かにガラではないとは思う。思うのだが、この真希の笑顔も、身に着けた新しい服も、目の前にあるイチゴのムースも、窓から差し込む柔らかな夕日も………そして何より、特別な事が何も無かったこの一日が、嫌いではなかった。



   ◆◆◆次回更新は6月1日(金)予定です◆◆◆

作品応援ボタン(1日1回)応援コメントを書く