第21編 『その後の魔法少女と協力者』 シーン02

作者:健速

シーン02 協力者の今



 ナナと佳苗(かなえ)の出会いは十数年前に(さかのぼ)る。佳苗は夫の早太郎(そうたろう)とは違って一般家庭の出身だったが、強い霊力を持って生まれた。もちろん彼女には霊力を操る技術が無かったので、勘が良いという形でしか霊力を発揮していなかった。しかしそのおかげで高校や大学でやっていた弓道では好成績を残しているし、佳苗とナナが出会う原因ともなった。良くも悪くも勘の良さで、ナナとダークネスレインボゥの戦いに遭遇してしまったのだった。

 魔法少女が一般市民に正体を知られた場合、通常なら記憶を消して出会いそのものを無かった事にするのだが、幾つかの条件を満たせば魔法少女の活動に対して協力を求める場合があった。佳苗の場合はそのケースで、心身ともに健康、持って生まれた強い正義感、そして強い霊力が評価されたのだ。
 
 それからナナと佳苗はコンビを組んで、共に戦う事となった。佳苗の弓とナナの魔法を組み合わせた独自の戦闘スタイルは、幾度となくダークネスレインボゥの野望を阻んで来た。二人は当時のダークネスレインボゥの目の上のたんこぶであり、結果的に早苗の霊力が奪われるという事件が起こったりもした。早苗の莫大な霊力が欲しかったというだけでなく、佳苗に対する圧力の意味も多分に含まれていたのだ。
 
 佳苗が協力者を止めたのは、娘の早苗が長期入院した時だった。しかしこれは佳苗がどうこうというのではなく、ナナの方が申し出た事だった。早苗の長期入院はしばらく前の霊力を奪われた事件がきっかけとなっており、佳苗にこれ以上の負担を強いる訳にはいかないと考えての事だった。ナナはコンビ解消を告げる手紙を残して姿を消し、以降は音信不通となった。そんな二人が再会するまでには、多くの時間が必要だった。



 二人が再会したのは、ナナが戦いで不自由になった身体を治療する時の事だった。多くの勢力が孝太郎の元に集っていたおかげで、技術を結集して精巧な義肢を作る事が可能となったのだ。それから既に数ヶ月が経っていたのだが、回復したナナには多くの仕事が舞い込むようになり、二人がまともに会えた時間は少ない。そんな状況であったから、佳苗の歓迎ぶりは熱烈なものだった。

「元気そうじゃないっ、奈々(なな)ちゃ~~~ん!!」

 佳苗が自身のテニスウェア姿を恥ずかしがっていたのは一瞬だった。佳苗は有無を言わさぬスピードと力でナナを捕まえると、両腕で思い切り抱き締めた。佳苗にとって、ナナはもう一人の娘も同然。両腕にはその強い気持ちがこれでもかと込められていた。

「か、佳苗さん、痛い」

 実の所、ナナはこうなるんじゃないかと予測―――いや、期待していた。だからかわそうとすればかわせたのだが、かわさずになすがままにされていた。ナナの方も佳苗の事を母親同然に慕っていたのだ。

「あらごめんなさい。嬉しくってつい力が」

 ナナの苦しそうな様子に、佳苗は慌てて両腕の力を緩めた。だが緩めただけで、抱きかかえたままなのは変わらない。佳苗は嬉しくて仕方がないのだ。ナナがかつてのように元気にしている事が。

「佳苗さんもお元気そうですね」
「ええ。もっとも、昔ほどの体力はないけれど………」
「大丈夫、昔と同じくらい苦しかったですよ」
「もう、ナナちゃんったら………」

 ナナの方も同じ気持ちだった。佳苗が以前と同じように接してくれるのは、身体が元に戻ったからだ。それが嬉しくてならない。だから自分に健康をくれた仲間達に、改めて感謝の気持ちを向けていた。

「やっぱりナナさんとぉ、佳苗さんはぁ、仲良しなんですねぇ」

 以前から双方と親交があったゆりかは、そんな二人の様子をにこにこと見守っていた。かつてはお互いに気遣いがあって距離があったものの、今はもうその心配もない。ダークネスレインボゥとの戦いは終わり、二人は何の気兼ねもなく会える。ゆりかはとても素晴らしい事だと思っていた。

「仲良しなのは素晴らしき事。良きかな良きかな」

 早苗(さなえ)も訳知り顔で繰り返し頷く。早苗にとって、尊敬する元祖本物の魔法少女が、大好きな母親と友達だというのは誇らしい事だった。それがまるで自分の功績であるかのように自慢げだった。

「ママ、昔ナナと二人で一緒にそこらを荒らし回ってたんでしょ!?」

 そして早苗は目をキラキラと輝かせ、かつての二人の事を聞きたがった。これまでは断片的な情報から想像するだけだったので、やはりそこは興味の的だった。

「違うわよ。私は奈々ちゃんのお手伝いをしてたの。フォルサリアの人は、こっちじゃ身元がないでしょう?」
「でもナナが、ママは気に入らない奴を容赦なくボコボコにしてたって」
「奈々ちゃん!?」
「言ってないです! そういう表現はしてないです!」

 だが現実は早苗の想像とはやや違っており、佳苗にしろナナにしろ、それぞれに情報の訂正が必要だった。

「荒らし回ったりしてないわ! 二人で協力して町の平和を守ってたの!」
「町の平和の名の元に、気に入らない奴らをボコボコに?」
「違う違う! 早苗ちゃん、佳苗さんは気に入らない奴をボコボコにしたんじゃなくて、悪事を働いた魔物や魔法少女を颯爽とやっつけてくれたの!」
「ふーん、あたしとゆりかみたいな感じだったのかー」
「考えてみたらぁ、そりゃそうだなーというかぁ。残念ですぅ」

 早苗は母親の夜露死苦時代の武勇伝が聞けると思っていたので、少しばかり残念に感じていた。これはゆりかも似たような気持ちだった。とはいえゆりかの場合、想像の方向が少女漫画や某歌劇団の方へ行っていたのだが。

「でも強かったは強かったんでしょ? ママもナナも」
「それは………そうなるかしら」
「佳苗さんには『神速の剛弓』っていう二つ名があったのよ」
「カッコイイ!! 特攻服の背中に刺繍したりしたの!?」
「してない! だからその方向の発想から離れなさい!」
「えー」
「えーじゃないの!」

 正統派魔法少女とコンビを組む、夜露死苦時代の母親―――そんな早苗の思い込みは強固であったが、しばらく話すうちにどうやら母親には夜露死苦時代は無かったらしいという事を理解し始めていた。その分だけちょっとがっかりの早苗だった。

「ママは普通に協力だったのね。がっかり」
「がっかりって、ちょっと早苗………もぉ………」
「でもでもぉ、実際のところぉ、佳苗さんってぇ、どれぐらい強かったんですかぁ?」

 早苗に代わって、ゆりかが素朴な疑問を口にする。ゆりかにしろ早苗にしろ、ナナの強さはよく知っているが、佳苗の真の実力についてはよく分からない。一度一緒に戦った事はあるが、それだけでは分からない事の方が多い。ゆりかとしても、その辺は知りたいと思っていた。

「それはとっても―――そうだ、いい方法を思い付いたわ」

 ナナは不思議そうにしているゆりかに笑いかけた。そしてゆりかが手にしたままになっているバドミントンのラケットを指し示す。

「折角だからやってみましょうか。新旧コンビ対決というやつを」
「奈々ちゃん、本気なの!?」
「ええ。今の佳苗さんがどこまでやれるのか、その辺も興味がありますし」
「奈々ちゃんはまだ若いけど、私はもうそろそろ色々とアレよ?」
「それでも………ちょっとシャクじゃないですか? 若い二人に舐められっぱなしというのは」
「ん………そうね、乗った!」

 かつて天才魔法少女と神速の剛弓と呼ばれた無敵のコンビが居た。諸事情からコンビは解消され、しばらく個別に活動していたが、この日遂に再結成の運びとなった。戦いの舞台はバドミントンという限定的なものだが、それでも再び手を取り合って戦う事には格別の想いがある。二人は楽しそうに笑うと、勢いよく互いの手を打ち合わせた。

「ぬっふっふ~ん、やる気だな、ママとナナ♪」
「大丈夫でしょうかぁ………」
「気合よ気合! 絶対やっつけるわよ、現役最強コンビの名に懸けて!」
「………いつからコンビになったんですかぁ?」
「細かい事はいいの! とにかく気合!」
「はいぃっ!」

 対するは現役の自称魔法少女と自称霊能力美少女。どちらも自称ではあるが、多くの戦いを潜り抜けた事で二人は十分に鍛えられている。敵の強さは計り知れないものの、やられるつもりはない。力の限り戦って、打ち倒すつもりだった。



   ◆◆◆次回更新は6月15日(金)予定です◆◆◆

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