第21編 『その後の魔法少女と協力者』 シーン03

作者:健速

シーン03 魔法少女と協力者の今



 四人は本格的にバドミントンをやっている訳ではないので、ルールはかなり曖昧に運用されている。サーブを打つ時の立ち位置がまさにそうで、各自が打ち易いサイドからサーブを行っていた。そうしないとサーブでのつまずきが多かったのだ。特にゆりかが。

「いきますよぉ~~~」

 ストンッ

 ゆりかはコートの右側に立ち、ネットの向こう、コートの左側に立っているナナに向かってサーブを打った。早苗(さなえ)とはこの位置関係で遊んでいたので、ゆりかでもサーブの成功率は高い。打ち出されたシャトルは軽く弧を描きながらナナに向かっていった。

「だんだん分かって来たわ!」

 スパンッ

 ナナは小さな身体を大きく使ってシャトルを打ち返す。バドミントン初体験のナナだったが、その動きは初めての人間のそれとは思えない水準にある。ナナは既にゆりかよりも美しいフォームを見せていた。かつて天才の名を欲しいままにしただけの事はあった。

「じゃーそろそろ本気で行くぞー!」

 パスッ

 早苗もナナに負けないぐらい美しいフォームで打ち返す。元気な早苗はバドミントンで遊ぶことが少なくないので、バドミントン部員程ではないにせよ、器用に身体とラケットを扱っていた。

「ちょっと待ちなさい、私はまだ勘が戻ってないんだから!」

 パシッ

 反対に多少苦戦していたのが佳苗(かなえ)だ。彼女は元々勘がよく、しかも若い頃は早苗以上に活発だった。だがその頃のように動こうとしても、なかなか上手くいかない。若干の体力の衰えがあり、また一線を引いた事で勘が鈍っている事が、その原因だった。ここまでに何度かラリーを繰り返した事で多少改善しているが、まだまだ納得出来る水準には至っていなかった。

「気にせず打ち込め、ゆりか!」
「はぁい!」

 パスンッ

 しかし堪え性のなさには定評がある早苗とゆりか。待ち切れなくなった二人は唐突に牙を剥いた。

「あっ、こらっ!?」

 佳苗はこの時、握りがしっくりこなかったのでラケットを握り直していた。そこへゆりかがシャトルが打ち込んできたので、佳苗は対応が一瞬遅れてしまった。

「大丈夫大丈夫!」

 ヒュッ、パシンッ

 だがナナが素早くジャンプしてシャトルの軌道に割り込み、上手に打ち返した。おかげで佳苗は難を逃れた。

「ありがと、奈々(なな)ちゃん!」
「敵は待っていてはくれませんよ!」
「そうだったそうだった!」

 ここで佳苗の目つきが変わった。かつての勘が完全に戻ったとは言えないが、それならそれでそういう攻撃を受けたと考えればいい。悪の魔法少女達との戦いでは、感覚を狂わされるなど日常茶飯事。戸惑っているぐらいなら、その状態で戦う事を考えた方が良い。佳苗の中で、戦士であった時の彼女が少しずつ目を覚まし始めていた。

「………ゆりか、ママがやばい感じ出してきたよ」
「分かります。真耶(まや)さんが来た時の顔と同じですぅ」
「あれが夜露死苦モードのママか………」
「ボコボコにされないように頑張りましょうねぇ」

 ゆりかはこういう佳苗を一度だけ見た事があったし、早苗は霊力の質の変化を感じ取っている。やはり油断ならない相手だと、二人ともしっかり理解していた。いよいよ本格的な戦いの始まりだった。



 そこからの佳苗は数秒前までの彼女とは全くの別人だった。動きからは迷いやためらいが消え、しかもプレーからどんどん学習して動きが変化してく。また現在の自分の力を把握してきた事で、体力の使いどころがはっきりとしてくる。佳苗のプレーには静と動、それらが同居し始めていた。

「だああぁぁぁぁぁっ、らあぁぁっ!!」

 スパンッ

 ほぼ静止状態だった佳苗は、シャトルが間合いに入った瞬間に動き出し、女性としては比較的高い身長と優れた腕力を生かして勢いのあるスマッシュを放つ。

「早苗ちゃん!」
「ダイジョブ! えいやっ!」

 ぱすっ

 だが佳苗が打ったシャトルの飛んだ先が元気一番早苗のところだったので、惜しい所で拾われてしまった。

「ぬぅ、流石は我が娘と言ったところか」

 佳苗としては嬉しさ半分、悔しさ半分といったところ。そんな佳苗の様子を見て、ナナは嬉しそうに笑った。

「ふふふ、でも『神速の剛弓』らしさが出てきましたよ、佳苗さん」

 元々和弓で戦っていた佳苗なので、その戦闘技法は静と動が同居するものだ。今の佳苗はその時の雰囲気を取り戻しつつあった。

「その二つ名は返上の時期が来たようよ」
「まだまだその時ではないです!」

 スパンッ

 佳苗の動きの変化を感じて、ナナは自身の動き方をかつてのそれに切り替えた。かつては常に動き続けるスタイルのナナが、狙いが正確で攻撃力が高い佳苗の間合いに敵を追い込んでいく形で戦ってきた。今の状況で言えば、佳苗の間合いに緩いシャトルを返さざるを得ないように、相手チームを揺さぶるのだ。ナナはその効果を狙い、ゆりかが立っているサイドのライン際を狙ってシャトルを打ち返した。

「わわわっ!?」

 ゆりかも成長しているので、慌てながらもなんとかシャトルに食らい付く。普段は何事も投げやりになりがちなゆりかも、今は師匠のナナに成長した自分を見て貰いたいという思いがあって高い集中力を保っている。動きはいつものそれとは違っていた。

 パンッ

 おかげで何とかシャトルをナナ達の方へ打ち返す事が出来た。だが、そこで待ち構えていたのが佳苗だった。

「流石ね奈々ちゃん!! ………ふんっ!!」

 ズバッ

 ここまで追い込んで貰えれば、後は佳苗の剛腕が唸るだけだ。小回りを無視していい状態なら、単純な腕力と最大スピードでは佳苗はナナを遥かに上回る。空気を激しく切り裂く音と共に、佳苗は思い切りラケットを振り下ろした。

「来たなぁっ!!」

 チッ

 早苗はちゃんと佳苗の動きについていっていた。だがそれでも佳苗の全力の一撃は止められなかった。早苗のラケットに僅かに触れて軌道を変えたものの、シャトルはそのままコートに落ちた。

「くうぅぅぅぅっ、届いていたのにぃぃっ!」

 早苗は本当に惜しかった。惜しかっただけに、悔しさが(つの)る。そしてその悔しさが、早苗の小さな胸の中で闘志をめらめらと燃え上がらせた。

「次こそは絶対に止める! 覚悟しててママ!」
「そうよ早苗、最後は根性が物を言うの! でもママも根性には自信があるからね!」

 親子そろって負けず嫌い。ネットを挟んで全く同じような表情をした二人が闘志をぶつけあっている。ナナはそれを見て微笑ましい気分になる。佳苗が二人に増えたように見えて、不思議と嬉しくなってしまうのだ。同じ気持ちなのだろう、ゆりかも同じような顔をして笑っていた。そして最後にナナとゆりかは自分達も同じ顔をしているという事に気付き、笑い合った。



 試合は一進一退の様相を呈していた。当初は早苗とゆりかの若さが勝っていたのだが、かつての調子を取り戻し始めた事で佳苗とナナの技術と勝負度胸が有利に働き始めた。結果として第一セットを早苗とゆりかが、第二セットを佳苗とナナが取った。戦いの決着は第三セットへともつれこんでいた。

「やるじゃないの、早苗もゆりかちゃんも!」
「へへへ、あたし達は現役の魔法少女だもん!」
「いつまでもナナさんにおんぶにだっこではまずいですから!」
「そう、その意気よゆりかちゃん!」

 しかし第三セットになる頃には、ナナはともかく佳苗の息が上がり始めていた。戦いから退いて長い時間が経っているし、トレーニングもしていないのだから、他の三人のペースについていけないのは当然だ。強い霊力を持って生まれていなければ、第三セットにさえ辿り着けなかっただろう。その為、両者の戦力バランスは再び変化し、ほぼ互角と言ってよかった。

「でもさ、ここまで来たら本気でやろうよ」

 ここで早苗がにやりと笑う。それは彼女が悪戯をする前に、よくやる顔だった。

「あら、本気でやってるわよ? あなたは違うの、早苗?」
「ちゃんと本気だったよ、ママの娘としては。でも、折角だからお互いの魔法少女としての本気でやってみない?」

 ここまで早苗は確かに本気だった。ゆりかもそうだ。だが二人とも霊力や魔法は使っていない。つまり普通の女の子としての本気だったのだ。早苗はそれを魔法少女の本気にしてみたらどうかと提案している。霊力や魔法も有りにして、とことん勝負してみようというのだった。

「面白いじゃない。乗った! いいわね、奈々ちゃん!」
「厳密には駄目なんですけど、ここには関係者しかいませんし………ま、訓練という事にしましょうか」

 佳苗は乗り気だった。ナナは多少思うところはあったのだが、スポーツと言えど弟子のゆりかの成長を見る絶好のチャンスだったので、結局はやる気になった。反対にちょっと弱気になっていたのがゆりかだった。

「………大丈夫でしょうかねぇ?」

 ゆりかは弟子であるだけに、かつて天才魔法少女の名を冠していたナナの強さを誰よりも良く知っていた。だから何でもありの条件ではとてもではないが勝てるとは思えず、不安しかなかった。そんなゆりかに対して、早苗は力強い瞳で迫った。

「どっちの本気でも同じよ。ナナもママも強いんだから」

 早苗としてはどうせなら最強の状態を見ておきたかった。自分の母親がブイブイ言わせていた頃を知りたかったのだ。それに魔法やら何やらを使おうが使うまいが、結果が変わるとは思えない。強い方が勝つ。だとしたら、母親の最強状態を見ておきたい。早苗にしては色々と考えていたのだ。

「わ、分かりましたぁ。私もお二人の戦いぶりを見ておきたいですぅ」
「よく言ったゆりか! それでこそ大和撫子!」

 こうして両者は何でもありで戦う事になった。とはいえ、実はこの提案は早苗が母親を思い遣っての事でもあった。息が上がり始めている佳苗の負担を軽減するには、魔法を有りにするのは良い手なのだ。母親ともっと遊びたい、そんな気持ちも早苗の後押しをしていたのだった。

「それじゃあ奈々ちゃん、いつものをお願い」
「ライトニングリフレックス、マイティパワー」
「こっちも行くぞぉ、ゆりかぁ!! おとめちっくぱわーぜんかーい!!」
「ミラーイメージ、ショートテレポート・モディファー・ディレイ」

 やがて東本願家の庭に魔法と霊力の光が飛び交い始める。見た目は普通の少女達とその母親でしかなくても、四人は幾多の戦いを潜り抜けて来た歴戦のつわもの。四人の本気の遊びは、いよいよ現実離れし始めていた。



   ◆◆◆次回更新は6月22日(金)予定です◆◆◆

作品応援ボタン(1日1回)応援コメントを書く