第22編 『皇家のボードゲーム会』 シーン03

作者:健速

シーン03



 セイレーシュは人生大逆転ゲームをプレーしたおかげで、アナログゲームの感覚を掴み始めていた。そういう状況を察したティアが選んだ二つ目のゲームは『天誅仕事人』というカードゲームだった。このゲームのルールはシンプルだが、ランダム性が強かった人生大逆転ゲームに比べると、プレーヤー間の駆け引きの要素が幾らか強まる。慣れて来たセイレーシュには丁度良い内容だった。

「ティアちゃん、この殿方の奇抜な髪形は何なのですか!?」
「それはちょんまげと言ってのう」
「ちょん、ま、げ………?」
「元々は兜を被る時の為に頭のてっぺんを剃ったのが始まりでの。髪をまとめた時にこのようにするのが武士―――われらでいうところの騎士の作法になったのじゃ」

 そしてやはり、カードに記されている絵柄はセイレーシュの興味を惹いた。このゲームの登場人物は江戸時代の人々なので、セイレーシュにとっては未知の世界。そして武士という存在は、今も騎士がいるフォルトーゼ出身者には気になる存在だった。

「日本も武家社会なのですか?」
「かつてはそうじゃった。今は違うが、それでも魂は脈々と受け継がれておる」
「レイオス様のように?」
「その通りじゃ。このゲームはあの馬鹿のようになって、悪党共を倒していくのじゃ」
「あ、分かり易くなりました」

 そしてその武家社会という繋がりが、このゲームの内容を分かり易くしてくれた。武家社会の闇に蔓延(はびこ)る悪党を、陰ながら倒していく正義の士。実は騎士と武士の違いは有れど似たモチーフの物語はフォルトーゼにも存在している。おかげでセイレーシュはこの時点で内容を正しく理解する事が出来ていた。

「それでティアちゃん、どうやって遊ぶのですか?」
「それはのう―――」

 だんだん楽しくなってきたセイレーシュは、目を輝かせてティアに先を促す。ティアはこれまでそういう子供の様なセイレーシュの姿を見た事がなかった。いつもは年上の落ち着いた女性に見えていたのだ。

 ―――青騎士を生んだ文化を知りたいという気持ちはよう分かる。わらわもきっと昔はこうだったのじゃろうな………。

 かつてのティアは青騎士マニアだった。今は実在の青騎士と仲良しなのでセイレーシュの様な反応にはならないのだが、かつてのティアがこういう感じだったのは間違いない。でなければ演劇など書かないのだ。だからティアはセイレーシュの姿を見て、少しだけ懐かしい気持ちになっていた。



 このゲームはまず、各プレイヤーにキャラクターカードを配る。そのカードの人間になったつもりでプレーするのだ。ちなみにティアは砲術使いの新八というキャラクターカードを引いた。ルースは仕込み杖の達磨、エルファリアは毒花の綾女、セイレーシュは剣客の門戸だ。そしてゲーム中に武器や罠、助っ人などを集め、いち早くターゲットとなる悪党を倒した者が勝利する。
 だがそれぞれのキャラクターには武器や道具、状況などに得意不得意があるので、いつも同じ事をしていては勝てない。得意なものが被ると、カードの獲り合いが起こったりもする。加えて確実に勝てるようになるまで準備をするか、それとも見切り発車で運に任せるか、その辺りの駆け引きも重要で、慣れてくると繰り返し遊びたくなる名作カードゲームだった。

「あっ、助っ人カードです! ふうまにんじゃ………ふうまにんじゃって何ですか?」
「忍者というのは、我らで言うところのスパイじゃな。しかも非合法要員の方じゃ。風魔はなんじゃったかのう、ルース?」
「風魔というのは流派の事で、この流派は隠密行動からの不意打ちで力を発揮します」
「では私の『門戸』の暗殺剣とは相性のいいカードという事ですか?」
「ご明察です、殿下。不意打ち時に攻撃力+3ですね」
「やりました!」

 セイレーシュはカードを引く度に目を輝かせていた。芸者や刀剣、(うぐいす)()りの廊下など、カードは彼女の気になるものが次々と現れる。セイレーシュはカードに見入ったり、効果に一喜一憂したりと忙しそうだった。

「それでは次は私の番ですね………おっと、良いカードを引きましたね」
「何を引いたのですか、母上?」
「門左衛門が打った名刀です」
「母上の綾女は毒使いじゃから、あまりいいカードとは思えませぬが………」
「ルース、このカードとあなたの毒の秘伝書を交換しませんか?」
「交換ですか………悪い話ではないようですが」
「待てルース、早まるでない!」
「良いじゃありませんか。この刀の方がプラスが多いですよ?」
「それなら―――」
「罠じゃ! 母上の狙いは他にある! そなたの手元には刀では無効になるカードがあろう!」
「あっ」

 エルファリアはゲームシステムを把握し、淡々と決戦に向けた準備を整えていた。各人の手札と考え方を利用して、自分に有利になるように状況を操っている。気付いた時には完全武装、そういう展開が先程から繰り返されていた。そんな訳でエルファリアの甘い言葉で不均衡取引攻撃に横槍を入れたティアだった。

「少し手加減しなさい、ティア」
「母上に手加減など必要ありません。それでこれまでどれだけ痛い目を見たか」
「これは手厳しい」
「全く油断も隙も無い。おっと、次はわらわじゃったな」
「ティアちゃん、何のカードでしたか?」
賄賂(わいろ)じゃ。奉行所の出動が遅れるようじゃの」
「ぶぎょーしょ?」
「殿下、奉行所はこの時代の警察機構です」
「そこに賄賂………という事は、悪徳警官というやつですね。嘆かわしい」
「ははは、昔の事じゃから、許してやって欲しい」

 そんなティアの方はというと、このゲームが得意だった。攻撃的な性格と相性が良く、しかも内容的にも好みなのだ。だが一応初体験のセイレーシュに気を遣って、最初の何度かは手を抜いていた。その分呑み込みの早いエルファリアが勝ったりしていたのだが、手抜きはそろそろおしまいにして勝ちに行く予定だった。

「わたくしの番ですね………ええとこのカードはイベントで、疫病でした。敵味方全ての防御力がマイナス5だそうです」
「うぬぬ、恐ろしいカードを引きよったな」
「ルースさん、エド時代は衛生環境が悪かったのですか?」
「そうではなかったと記録に残っています。同時期の他国に比べると、むしろ清潔であったようです。しかし医療の知識は不足していて、全体としては他国と同じレベルで病気が流行してしまったようです」
「そうでしたか………エルファリア陛下、地球と国交を持つ場合、医療技術などの開放はいかがなさいますか?」
「難しい所ですね。人の命を守る為には一気に開放したい。しかしそれで今の医療現場を混乱させるようではまずいのです。やはり技術の急な持ち込みは避けて徐々に開放、重篤な患者に関しては特例を設けてフォルトーゼ側で行う、というぐらいが落としどころでしょう」
「二人とも、ゲーム中ですぞ」
「あらあら、いけない」
「ごめんなさい、ティアちゃん」
「ホレ、ルース先へ進めぬか」
「はい。わたくしはこちらの物資横流しで防御力を高めます」

 ルースのプレーは終始防御的だった。自らの弱点を潰していき、十分に準備を整えてから確実に勝つ方式だ。おかげで他の三人に後れを取りがちだが、勝負に出た時には絶対に勝つので、成績としてはさほど悪くない。また彼女は他の三人のプレーを観察して、その傾向を分析し続けている。終盤はそれに合わせて攻め手を変える予定だった。

 ―――それにしても、エルファリア陛下は………意外とわたくし達の事を思ってプレーしておられるのですね………。

 そしてその分析の過程で気付いたのだが、エルファリアが勝つのは他の三人が連勝しそうな時だった。それはルースには一人が独走しないようにゲームをコントロールしているように見えていた。ルースはその理由を、娘とその友達の為だと考えている。なかなか本音を明かさないし面白がりだが、やはりエルファリアは心優しい人物だったから。

「どうかしましたか、ルース?」
「いえ、今日も陛下はお美しいなと」
「お世辞ばかり上手くなって」
「お世辞だなんて滅相もない。ふふふ………」

 ルースは結局、その分析を胸の奥にしまい込んだ。指摘してもエルファリアは認めないだろうし、それを明かしても誰も得をしない。だからルースはただ笑ってゲームをしている事にしたのだった。



 この『天誅仕事人』は一回のゲームに必要な時間が短い。そんな訳でプレー回数は二十回に及んだ。その結果は驚いた事に、セイレーシュが六勝で一位だった。

「おめでとうございます、セイレーシュ殿下」
「大したものじゃ。このゲームはそなたに合っているのかもしれんぞ」
「皆さんが手加減してくれたからですよ」
「そんな事はありませんよ、胸を張りなさい、セイレーシュさん」
「ありがとうございます、陛下」

 セイレーシュはビギナーズラックに恵まれた事と、他のメンバーがルールやヒントを教えてあげた事で初動の混乱を上手く切り抜けた。その時のプラス分で逃げ切った格好になるだろう。そして続く二位の五勝は二人いて、ティアとルースだった。

「今一歩じゃったなぁ………」
「ティア、あなたは攻撃ばかり考え過ぎるのがいけないのでは?」
「そうは言っても母上、攻撃は最大の防御。何もさせずに勝つのが上策!」
「ルースはルースで、少しばかり慎重過ぎたのではありませんか?」
「仰る通りです。どうも確実な手ばかりを選んでしまって………性分ですかね?」
「あはは、ティアちゃんとルースさんはいつも一緒だから、二人一緒ならバランスが取れているのかもしれませんね」

 ティアは序盤に加減した分と攻撃偏重の考えが災いして、いま一歩セイレーシュに及ばなかった。ルースの方はやはり守備的な性格が序盤で勝ちを逃す原因となり、終盤の追い上げでは足りなかった。そして最下位は意外にもエルファリアだった。

「それにしても………母上にしては珍しい順位ですな?」
「皆で()って(たか)って虐めるからです」
「陛下はお強いですから、どうしても警戒してしまいます」
「虐めないのはルースだけです」
「わたくしは単に確実なのが良かっただけで、警戒はしておりました」
「味方は居ないのですね。皇帝は孤独です」

 エルファリア得意のあくどい交渉でカードを集めて強くはなるのだが、他の三人に常に警戒されていたのが悪かった。エルファリアの準備が整う前にティアやセイレーシュがダイス目に頼った勝負に出るケースが多かったのだ。

「しかし陛下は―――」
「なんです、ルース?」
「あー、いえ、陛下は先程のゲームでは大勝したので、全体としては好成績ではありませんか」
「そこで満足する訳には参りません。何事にも圧倒的に勝つのがマスティル家の流儀。ねぇ、ティア」
「はい!」

 ルースはエルファリアが他の三人の為にゲームをコントロールしていた事に気付いていたが、ここでもやはり黙ったままでいた。何事にも圧倒的に勝つのがマスティル家の家訓ではあるが、エルファリアにとっての勝利は娘とその友達を楽しませる事だ。わざわざその勝利を、無用な失言で汚す必要はどこにも無かった。



   ◆◆◆次回更新は8月24日(金)予定です◆◆◆

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