第23編 『リーダーは辛いよ!?』 シーン02

作者:健速

シーン02 サンレンジャーも昇進



 サンレンジャーが魔法戦の教官を求めていたのは、大きな意味においては彼らが昇進したからだった。当初は給料泥棒とまで言われていたサンレンジャーだが、実際に侵略者と遭遇して多くの戦闘を経験し、現在ではエリート部隊となっている。
 その結果ただの兵士ではいられなくなり、自ら前線に立ちながら作戦を指揮する立場へ昇進、多くの人間の命を預かる事となった。そして神聖フォルトーゼ銀河皇国が日本に国交を求めた事でその存在意義が高まり、今では宇宙外交の要とまで言われている。
 そんな彼らが現在の情勢と、自らや部下達の能力を見比べた時、ある一つの大きな欠陥を発見した。それが魔法に対する対処能力の欠如だった。

「―――魔法や霊子力をフォルトーゼに流出させたくない訳ですから、当然それらを扱う者達を敵に回して戦う状況が想定される訳です。しかし霊子力はともかく、魔法についてはサンレンジャーには情報がありません」
「そういえば確かに、魔法に関しては地底の騒動の時にチラッと見ただけの筈よね」
「その状態で取り締まりをするのは自殺行為です。そこに気付くあたり、流石ですねサンレンジャーの皆さん」

 孝太郎(こうたろう)の説明に静香(しずか)晴海(はるみ)は大きく頷いた。サンレンジャー達とは共に戦った事があるので、彼らが持っている情報に関しても想像がつく。
 サンレンジャーが利用している装備は、過去に大地の民から抜け出した者達がもたらした、霊子力技術を下敷きにしている。だから多少遅れているとはいえ、霊子力技術の何たるかは分かっている。だが魔法に関しては(ほとん)ど情報を持っていない。孝太郎達が魔法を使うところを何度か見たのと、強いて言えばタユマが渦に呑まれた怪物とその力を見ただけだ。それがどういう力であるのかという点に関しては、全く分かっていないレベルだった。
 その状態で魔法の密売を阻止するとなれば、魔法による反撃で壊滅しかねない。自分達と部下達の命を守る為には、早急に魔法に関する情報が必要なのだった。

「だからその危険な状況を避けるべく、俺達に魔法の事を教えてくれと言ってきた、という訳なんです」
「なるほどねぇ………言われてみれば、そりゃあそうだわ。私だって空手の試合の時は相手の研究するもん。コーチがどこの流派かとか、どの技で有名な人かとか」
「敵を知り、己を知れば百戦危うからず。正しい知識さえあれば、霊子力技術を持つサンレンジャーの皆さんなら魔法相手でも後れを取る事はないでしょうね」
「そんな訳ですから、桜庭(さくらば)先輩と大家さんにお願いできればと思うんですが、二人ともどうでしょうか?」

 二人とも話は良く分かったし、この状況なら当然だろうとも思う。しかし孝太郎が自分達を選んだ事には少しばかり疑問があった。より適任者がいるように思えたのだ。

「でもその辺の話になってくると藍華(あいか)さんが適役なんじゃない?」
「それに真希(まき)さんは軍事組織出身ですから、向こうの人達にも上手く教えられるのではありませんか?」

 二人が考える適任者とは、真希の事だった。真希は魔法戦のエキスパート。使える魔法の数だけなら晴海やゆりかに幾らか劣るものの、複数の魔法を組み合わせて戦う事に関しては他の追随を許さない。サンレンジャーが知りたい技術は正しく真希が持っている。加えて真希はダークネスレインボゥ―――軍事組織の出身なので、戦闘訓練に必要な事もきちんと理解している。だからサンレンジャーに派遣するなら、真希なのではないか。これは正しい判断だろう。

「藍華さんは今、フォルトーゼの使節団の護衛についているんですよ」

 孝太郎もそこは分かっていた。だが真希には重要な仕事があり、身動きが取れない。地球へ交渉にやって来ているフォルトーゼの使節団の護衛についているのだ。幻術や精神操作系を得意とする魔法使いの護衛は、移動して刻々と状況が変わる使節団の護衛にはぴったりなのだ。しかしサンレンジャーの話も急ぐ必要があり、真希が自由になるのを待つ訳にはいかない。真希が自由になる、イコール交渉がある程度まとまるという事なので、その時点でサンレンジャーは魔法の対策が出来ていないと困る訳なのだった。

「それは代われそうにないですね、私達では」
「護衛なんて本当に知識と経験がモノを言いそうですもんねぇ………」

 要人の護衛は晴海と静香には出来ない仕事だった。魔法の教官以上に、真希の知識と経験が必要になる分野だった。だから二人はここで覚悟を決めた。

「そういう事なら仕方ないわね。私と桜庭先輩で何とかしましょうか」
「はい、頑張りましょう」

 静香と晴海は孝太郎の頼み―――正確にはサンレンジャーの頼みだが―――を聞き入れる事にした。

「えっ、良いんですか?」

 孝太郎はもう少し説得に時間がかかるだろうと思っていたので、この時は少しばかり驚いていた。拍子抜けという表現が一番近いだろう。

「本当は良くないけど、そうも言っていられないでしょ」
「ふふ、会長さんらしくなってきましたね、笠置さん」

 二人とも状況は理解していた。そしてその危険性も。だからこそ二人は自分達がやる事にした。そうしない事には、多くの命が危険に晒される。町の人々の命はもちろん、かつて共に戦ったサンレンジャーの命も大切だった。それが無策に失われた時、二人は笑顔でいられる自信がなかったから。

「助かります。早速向こうに伝えます」

 孝太郎は小さく安堵の息を吐き出すと、笑顔を作った。

 ―――俺が言うまでも無かったか。冷静に考えてみれば、桜庭先輩と大家さんなんだもんなぁ………そりゃあそうか………。

 晴海と静香は仲間内でトップを争う人格者で思慮深い。孝太郎はそんな二人を説得しようとアレコレ考えていた訳なので、釈迦に説法以外の何物でもない。思わず苦笑が出てしまうのも仕方のない事だろう。

「ところで里見君、私と桜庭先輩って、里見君からご褒美が出るのよね?」
「ウッ………ぜ、善処します」
「んふふ、期待してるから」
「そういう交渉手腕は私にはありませんでした。参考になります」
「あ、あまりスゴイのは勘弁して頂けると助かると言いますか………」
「どぉしよっかなぁ~~?」

 だが幾ら人格者で思慮深くとも、二人はあくまで年頃の女の子。説得では苦労しなかったものの、別の苦労が確定した孝太郎だった。



 二人がサンレンジャーの施設を訪ねたのは、孝太郎から話を聞かされた次の土曜日の事だった。
 先日卒業した晴海には曜日は関係なかったものの、静香はまだ春休み前だ。サンレンジャー達には僅かながら時間の余裕があったので、学業に配慮して一応平日を避けた格好だった。
 サンレンジャーの施設は吉祥春風高校の校舎にも密かに新設されていたが、この日二人が向かったのは町の方にある以前から使われている施設だった。近隣で戦闘訓練が可能な施設はこの場所だけなのだった。

「お久しぶりね、晴海さん、静香さん。元気そうで良かった」
「メグミさんもお変わりなく」
「皆さんもお元気ですか?」
「ええ、元気が余っているくらいよ。それと、よく来てくれたわね、二人とも」
「みんなの為ですから」
「でも杞憂(きゆう)で終わって欲しいです」
「私もよ。平和が一番だわ」

 二人を出迎えたのはピンクシャインこと、メグミだった。静香と晴海は年頃の女の子。ここは唯一の女性隊員に任せた方が良いだろうという判断からだった。ちなみに普段の来客対応は最年少のコタローが担当している。今日は特別だった。

「二人とも、そこにあるソファーにかけて待っていてくれるかしら? すぐにみんなを呼んでくるから」
「はい、分かりました」

 晴海は指示に従って事務所の端に置かれたソファーに腰を下ろす。そして晴海が事務所を出ていくメグミを何気なく目で追っていると、ソファーの隣に座った静香が晴海の耳元に囁きかけた。

「………桜庭先輩」
「………どうしたんですか?」
「………どうもしないんですけれど、メグミさんって以前もあんな感じでしたっけ? もうちょっとこう………」
「………トゲトゲしていた?」
「………やっぱりそう思います? なんだかこう、トゲトゲしさが取れて、優しい感じになったというか………」
「………うーん、何があったんでしょうねぇ………」

 さっき会った時から、二人はメグミに軽い違和感を覚えていた。かつての彼女に比べると、今の彼女は全体の印象が何処となく優しくなっているように感じる。女性として一回り成長したというべきだろうか。二人はそれを不思議に思っていたのだが、その理由は彼女が戻ってきた時に分かった。

「メグちゃん、僕はお茶を淹れて来るよ」
「ありがとうダイサク君。ダイサク君のお茶は評判が良いから助かるわ」

 仲間を呼びに行ったメグミは、ダイサクと一緒に戻ってきた。彼はたまたま近くに居たのだ。そのダイサクは晴海達の方へは来ず、事務所のソファーとは反対側にある給湯機の方へ向かう。ダイサクは晴海達の為にお茶を淹れに行ったのだ。実は食通のダイサクはお茶を淹れるのがサンレンジャーで一番上手かった。

「評判はともかく、お客さんの事をメグちゃんだけに任せてはおけないよ」
「………信用無いんだぁ、わたしぃ」
「そっ、そういう意味じゃなくってさ」
「知ってる。ちょっと困らせたかっただけ♪」
「メグちゃん、お客さんの前だよ」
「しまった、ごめんなさい二人とも。それとダイサク君も」

 そしてこの時のメグミとダイサクのやり取りで、晴海と静香は何故メグミの印象が優しくなっているのかを理解した。メグミとダイサクは交際しており、その新たな関係性が彼女の精神を安定させ、印象を優しくしている。恋は女の子を変えるというが、その好例と言えるだろう。

「いいなぁ、ああいうの………」

 静香はメグミとダイサクの姿に羨望の溜め息をつく。やはり女の子としては憧れるシチュエーションだった。すると晴海は口元に手を当ててくすりと笑った。

「笠置さんは意外とやってますよ、あの感じ」
「そ、そうですか?」

 晴海に指摘されると、静香は顔を赤らめた。自分ではやっている自覚がなかったので、驚きと恥ずかしさは大きい。静香は大慌てで記憶を探り始めた。

「この間、里見君にご褒美のおねだりをした時とか」
「あぁぁぁ………」
「お弁当を里見君に褒めて貰った時とか」
「ふわあぁぁぁぁぁっ、もうやめて下さい桜庭先輩っ!」
「ふふふ、私もやってみようかなぁ………里見君驚くだろうなぁ………」

 そうやって二人がお喋りをしていると、再び事務所のドアが開いて数人の男達が入って来る。ケンイチ、ハヤト、コタロー、そして司令官を務める六本木博士。これで太陽部隊サンレンジャーは全員集合だった。



   ◆◆◆次回更新は10月19日(金)予定です◆◆◆

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